Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

私とあなたをつなぐもの

2010/07/25 00:00:21
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 金銀銅、色とりどりの円銭が宙を舞う。整然とした円隊形が幾重にも重なって山の裾野のように広がりながら、空中を疾走する少女めがけて飛んでいくが一つとして掠めることすらなく過ぎ去った。空隙を縫っては幻想郷最速とうたわれる機動力を活かして少女は漆黒の羽を散らし輪の中心へと加速した。
 それを迎え撃つ形となったもう一人の少女は、藍染めの着物の懐をまさぐり丸い金属が尽きかけているのを確認した。

「このままじゃあラチがあかない。文、悪いが次で決めさせてもらうよ!」
 
 提げるだけだった鎌を両手で握り締め、背を大きくそらして振りかぶる。反動を殺さずに一刀両断の唸りへと変えた。

「死神! ヒガンルトゥー、るっと、きゃん!?」

 全体重を乗せて踏み込んだ勢いもそのまま、地すべりしたかのように足の裏を前に投げ出して崩れた体勢で地に背中をつけた。その拍子に放り出された刃は行き場を失って回転しながら前方のやや上空を裂いた。
 文はちょうどその地点に猛然と間合いをつめて来るはずだった。それでも持ち前の敏捷性でとっさに回避したが、足元に少し触れた。鎌は農具のように深々と地面に刺さった。

「っ! ……まったくあぶないですね。死神の鎌はたんなる象徴とはいえ、おそらく殺傷力はずば抜けているんですから」

「おっとごめんよ。そんなつもりは全然なかったんだけど、あたいにもなにがなんだか」

「まったく、弾幕ごっこは中断ですね。鼻緒が切れて転んでしまったお間抜けさんに追い討ちをかけるのも大人気ないものです」

「鼻緒が切れただって? これは弱ったなあ、一張羅の足袋で土を踏んで帰るのも気が引ける」
 困った困った、と言って緩慢な動作で起き上がり土や雑草を払った。その正面に文は着地し、履物を拾い上げた。切れて毛羽立っている赤い緒が持ち主の髪を思わせた。

「どうする気だい?」

「見ていればわかります、ここは年長者に任せてください」

「あたいは年を数えるのを忘れてただけで、年下とは限らないよ」

「そうですかそうですか、小町さんはすごいですねー」

 馬鹿にしたような口調に思わず渋い顔をしたが、どうにかしてくれるようなので悪態をつくのはやめておいた。文はおもむろに胸元のリボンをほどくと緒の端に結びつけて、右後方の眼に通して何回か玉結びをして抜けないようにした。余りを鎌の刃に押し付けて切ると小町に投げてよこした。

「幸い切れたのは右側だけでしたからすぐに直りましたが今度ちゃんと直しに行ってください。色がちぐはぐですがそれまでの辛抱です」

「こんなの頼んじゃいないよ」

 拗ねたような声をだしたら、文は呆れるでもなく喉を震わせて笑った。気に入らなくて軽く睨みつけると珍しく眼が合った。

「いつもならもう少し威圧感もあるのですが今は身長、そんなに変わりませんよ?」
 下駄の歯がついた靴を履いた文は素足に近い小町と差はなかった。いつもよりも頻繁に絡む視線にむず痒くなって下に外すと、交互に通されていた靴紐が分断されていた。

「もしかして、あれで切っちまったのかい?」

 一種の彫刻のように刃を下に向けてそびえている元凶を指さす。

「避け切れなかったのが悔やまれるところです。とはいえ、そう心配せずとも脱げてしまうようなことはないでしょう」

「うーむ、そうはいってもこっちの責任だ、弁償するよ。そんなに懐が狭いと思われちゃたまらない」

「その言葉に嘘偽りはありませんね? そろそろ新調しようと思っていたので丁度良かったです。特注なので値が張るんですよ!」

「いい笑顔でふっかけようったってそうはいかないよ。どう見たって靴紐だけで充分じゃないか」

「あら、意外とうまくいきませんでした。今日これからにでも買ってくれるというのならそれでも構いませんが、どうしますか?」

「む、仕方ないなあ、ついでにその服にお似合いのリボンでも探してあげるよ。うん、我ながら名案だねえ」

「さすが江戸っ子。気前の良さは幻想郷一ですね!」

「てやんでい、宵越しの銭なんか持たないんでえ! ……なんて言わないわよ! あたいは江戸っ子気質って言われるだけで、生粋の彼岸っ子なんだから」

「あら、そうだったんですか。それは初耳です。今度の特集は江戸っ子と彼岸っ子で決まりですね」

「それ読んで誰が楽しいんだい」

「私が楽しいので今回はそれでいいのです。作る側も読む側も結局は娯楽ですから」

 文が手を引いて急かすので足袋の裏をはたいてから慌てて直してもらったものを履く。見下ろす形になった黒髪や地面との慣れた距離に言い知れぬ安堵を感じた。そっと前を窺えばそこにはただ純粋に次の行動を心待ちにするごく普通の少女がいた。
 しかし、気づかれないようにしたつもりでも彼女もこちらを窺っていた。黒に映える赤い瞳が上目遣いになる程度の差は取り戻していることに気づく。そのはずなのに目が合った。やはりむず痒くなって、足早に人里のほうへ歩き出す。

 ぎゅっと、赤と黒のつなぎ目が鳴った。
おまけ
あのあと小町が文にリボンと靴紐を買って結んであげたところ。
小町「これでよし! なかなか似合うよ」
文「こんなに結ぶのが上手だとは思わなかったわ。どう? これから毎日結びに来ない?」
小町「そうだねえ、逢瀬の翌日の暁には結んであげても良いさね」
文「こんな衆人環視の場で何を言うのよ!」
小町「いつもそうしてるじゃないか。今朝だって……」
文「だ、駄目です、みなまで言わないでください。私の天狗としての面子に関ります。わかりましたよ、好きなものをおごって差しあげるのでもう言わないでください」
小町「そうかい、そりゃ悪いね。じゃあ、さっそくあんたの家へ行こうじゃないか」
文「……おごるという言葉の意味は知っていますか?」
小町「細かいことを気にしてちゃ楽しくない。敬語に戻して距離をとろうってのも通用しない」
文「わかったわよ。……泊まっていくの?」
小町「そうじゃなきゃその紐飾りをくくれないだろう?」
文「仕方ない死神さんですね。では、私は明日の暁にあなたの着物の紐を結びましょう」
小町「実に貴族っぽい洒落て感傷的な別れになりそうだ。着物もそれも縁結び。二人の縁もつなげるかい?」
文「さあ? 私とあなた次第ですよ。紐ではなくて、ね」
 
この後小町は文を美味しくいただきましたが、多分文も小町を美味しくいただきました。



読了ありがとうございます! 菊花さつきです。これが記念すべき(?)創想話初投稿です。こんなやっつけでいいのか……?下駄の日(7/22)には間に合わなかったし、もう下駄関係ないし小町のが下駄かどうかも微妙なところです。しかも視点がふらふら~、口調もふらふら~。しかも蛇足までつけて!!
アドバイス・誤字脱字報告等あればお願いします!読んでいただき、本当にありがとうございました! 
菊花さつき
http://silencexs.blog106.fc2.com/
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
あやこまもいいものだ。

地の文がもう少し欲しいと思いました。
2.けやっきー削除
いいですねぇ、こういう会話。
何か読んだ後にすっきりきました。
3.奇声を発する程度の能力削除
あやこま!最近は色々あるなぁ…
4.あかす削除
うっひゃーあやこまキタワー!
会話の調子がこう、なんかね、たまりませんな~
あとおまけがwwこれ最初の4行で終わってたら爽やかな読了感だったのに…!