朝、何気なく窓を開け、何気なく井戸に向かい、何気なく顔を洗っていた時の事だ。
「魚が食べたい」
不意にそう思った。朝の少し冷ややかな空気を肌で感じたからなのか、それとも木の葉が風で揺れる音が川の音にでも聞こえたからなのか、はたまた水を直に感じたからなのかは分からない。だが、何故か急に魚が食べたくなった。最近は余り食事を取っていなかったのも一つの原因か。
まぁいい。献立が早いうちに決まるというのは、料理をする際には非常に助かるのだ。霊夢や魔理沙には分からないだろうが、人里の主婦辺りなら同意してくれるだろう。主婦ではないが、慧音も同意しそうだな。
ともかく、魚なら何でもいい。鮒なら寿司に、鯉なら刺身やあらいにしてもいいだろう。
いや、取らぬ狸の皮算用という言葉もある。今のうちから何を作るか決めていては目当ての魚が釣れなかった時にどうするというのだ。釣った魚で決めよう。
……さっきと考えてる事が真逆のような気がしたが、そのうち僕は考えるのを止めた。
「ともかく、思い立ったが吉日だ」
常識外れの胃袋を持つ青髪の男が漫画の中でそう言っていた。その意見には賛同したい。
「さて……と」
言って、釣りの道具を引っ張り出し、扉に『本日休業』の張り紙を張り、目的地に向かって歩き始めた。
***
「……何度来ても、此処は広く感じるな」
言って、辺りを見渡す。
辺り一面の、霧。
此処は霧の湖。全体を霧で覆われたこの湖に僕は来ていた。当然、釣りをする為だ。
小一時間もすればぐるりと一周できる程の広さだが、霧の所為で対岸が見えないのと、目印が無い場合何処に居るのか分からなくなる為、実際の広さより広く感じる。
「さて、もう少し歩くか」
言って、少し歩くと何かにぶつかった。
「きゃっ!」
「……ん?」
修正。何か、ではなく誰か、だった。
そしてこの声は聞き覚えがある。というより、顔が見えている。
「アリス……か。何をしているんだい?」
「……いっ」
「ん?」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
「のわっ……」
いきなり耳の近くで大声を上げられ突き飛ばされた。そして、僕の進行方向には、湖。
気付いた時には、遅かった。
「あっ……!」
「あ……」
こういう状況でこうなるのは『お約束』らしい。早苗が言っていた。
湖に落ちる直前、最後に僕が見たのは、顔を赤くした全裸のアリスだった。
***
「……ごめんなさい」
「……いや、こちらにも責がある。おあいこだ」
あの後、アリスに魔力の糸で引き上げられ、アリスは今僕の後ろで謝っている。恐らく着替えているのだろう。
「……もう、こっち向いていいわよ。霖之助さん」
「あ、あぁ」
言われて、振り返る。
「水着……?」
そう、水着。確か以前アリスが僕の店で買っていった『ビキニ』という水着だ。
「最近研究ばっかりだったから。それに暑いしね。……霖之助さんは?」
まぁ、持ってる道具で推察できるけど――とアリスは言う。それもそうだろう。竿と魚篭(びく)を持って畑仕事に行く人間なんて見た事が無い。
「お察しの通り、釣りだよ。急に魚が食べたくなったんでね」
「ふーん、そう。……あ、そういえば私もこっちに来てから殆ど魚食べてないわ」
「というと?」
「魔界には海があるから、魔界に居た頃は海の魚食べてたし、川魚はちょっとクセがあるのが多いじゃない?」
「ふむ、それが美味しいんだがね……」
「まぁ霖之助さんが釣りするなら、私は向こうで泳いでくるわ。針が引っかかったら危ないし……」
「あぁ、分かった。……と、アリス」
「何?」
「似合ってるよ。その水着」
「――――――ッ!?」
「……ん、どうした?」
「な、何でも無いわよ!霖之助さんの馬鹿!」
そう言い放ち、アリスは霧の中に消えてしまった。
「何故、馬鹿なんだ……?何か気に障る事を言ってしまったか?」
釣り糸を垂らしながら考える。
実際、水着は似合っていたし彼女の体は子供の様な貧相なものでもない。そのことも含め褒めたのだが……何がいけなかったのだ?
どれだけ考えても答えは出ず、気が付けば餌を取られていた。
***
「……さて、こんなものか」
日も傾き、僕の服も乾いてきた頃、魚篭の中にはそこそこ多めに魚が入っていた。
鮒や鯉の他には泥鰌や鰻も居る。特に鰻は数こそ一番少ないものの最も大きく、数匹が狭い魚篭の中でぬめぬめと蠢く様子は見ていて余り気分が良いものじゃない。
「どう、釣れた?」
後ろから声を掛けられた。振り返るとそこいたのは僕の服が未だ少し濡れている原因を作った人物だ。
「あぁ、アリスか。まぁ、大漁……とまではいかないが、中々多く釣れたよ」
「どれ……って、うわぁ」
「気味が悪いかい?」
「だって……こんなに、ぬめぬめ……気持ち悪くないの?」
「気持ち悪くない……と言えば嘘になるね」
「結局気持ち悪いんじゃない」
「まぁね……と、そうだ」
「?」
「朝に君は川魚が苦手だと言っていたね」
「えぇ。クセがあるもの」
「なら、僕が美味しい川魚料理を振舞ってあげよう」
「え?」
そうは言ったが、実際はこれだけの魚を今日一日で一人で消費するのは難しいと考えたからなのだが……二人ならそこそこは消費できるだろうし、余ったら干物にでもすればいい。簡易式の生簀ならあるし、一日ぐらいなら持つ筈だ。冷蔵庫が使えれば一番なんだがなぁ……。
「……そうね。じゃあ、ご馳走させて貰おうかしら」
「あぁ。存分に腕を振るわせてもらうよ」
言って、何となく二人とも笑いあった。
***
「……さて、始めようか」
「私は見させてもらうわね」
勝手場に立ち、魚篭から取り出したのはぬめぬめと動く鰻。それを二匹。
「アリス、悪いがこれをそこの生簀に入れておいてくれないか。そのままひっくり反すだけでいいから」
言って、アリスに魚篭を渡す。
「分かったわ。……うぅ、ぬめぬめ……」
アリスが生簀に魚を入れている間に鰻を捌きにかかる。
頭を固定し、腹から包丁を入れて尾まで一気に裂く。内臓を取り除き、水で血を流す。もう一匹も同じ手順で捌いていく。
「入れてきたわよー」
「あぁ、有難う」
「え?……えぇっ!?」
「……ん、どうした?」
「も、もう捌いたの?あの短時間で!?」
「普通じゃないのかい?」
言いながらも作業の手は休めない。開いた鰻をある程度の大きさに切り分ける。
「早すぎよ!里の料亭一の腕前の職人でももうちょっとかかるわよ!?」
「細かい事は気にしちゃいけないよ」
「全然細かくないんだけど……まぁこの際どうでもいいわ」
「そうか」
聞きながらも手は止めない。皮を焼いた後、醤油を土台とした特製のタレを塗りながらじっくりと焼いていく。
「だから早いわよ!もう焼いてるの!?」
「ん……一言言った方がよかったかい?」
「ハァ……もういいわ。黙って見てる」
「ん、そうかい」
「えぇ」
言って、アリスの言葉通り無言になる。独り言も寂しいので僕も黙る。勝手場をジュウジュウと鰻を焼く音が支配する。
……気まずい。
何となく、アリスの方を見る。
「あっ」
目が、合った。
「……なんだい?」
「べ、別に」
「……そうか」
「そ、そうよ」
そう言ってそっぽを向くアリスの顔は、耳まで真っ赤だった。
「……さて、あとは……」
言いながら、すり鉢と山芋を取り出す。山芋の皮を剥き、すり鉢で擂っていく。程よい量になった所で、再びタレを塗った鰻と一緒にご飯に盛り付ける。最後に少しだけタレを回しがけし、少量の山椒を乗せて完成だ。
「ほら、出来たよ」
「え?あ、あぁ、ありがとう……」
「……どうした?顔、真っ赤だが」
「な、何でも無いわ!は、早く食べましょ!」
「?あぁ……」
食卓に丼を二つ持って行き、既に座っているアリスに差し出す。
「ほら、うなとろ丼(命名・魔理沙)だよ」
「鰻ととろろで、うなとろ?ネーミングセンスの欠片も無いわね」
「君の友人に言ってくれ。……頂きます」
「頂きます」
………………
「あ、美味しい」
「そうかい?それは良かった」
「料理出来るのね。意外だったわ」
「まぁこんな場所に住んでいればね。それなりに覚えるよ」
それに、半妖の僕にとって食事とは嗜好の一つでしかない。嗜好品である以上、凝れる所まで凝る。まぁ今回はアリスに食べさせるというのが目的に近かったので、然程凝ってはいない。だがそれでも、美味しいと言う言葉は作り手にとっては嬉しい一言なのだ。
「残念だわ。料理が下手なら作りに来てあげようと思ってたのに……」
「生憎だね。あと何で残念なんだい?」
「え?……!な、何でもないわ!」
「顔、真っ赤……」
「う、五月蝿い!」
「……?」
「……う~……」
顔を赤くしたアリスが気になったが、直ぐにどうでもいいかと思い食事を再開した。
***
「ご馳走様」
「ご馳走様。……美味しかったわ」
「それは重畳。……と、アリス」
「ん?」
「……お弁当下げて、どちらへ?」
この言葉は主に、『ほっぺや髪等にご飯粒が付いてますよ』という言葉の意味を持つ(自作辞書、Rinpedia『霖ペディア』より抜粋)。
「え?え?」
だがアリスには伝わらなかった様で、おろおろしている。
「あぁ動かないでくれ。今取るから」
「???」
言って、アリスの頬に付いていたご飯粒を取る。アリスは意味に気付いたようで、羞恥に顔を染めている。
「ん……」
そしてそれを自分の口へ運ぶ。豊穣の神が授けてくれた大地の恵み、粗末にするのは勿体無い。
「ッ!?」
「……ん?」
見ると、アリスの顔は先ほどよりも赤く染まっており、口をパクパクさせながらあうあう言っている。
「い、今……何して……」
「……何か、まずかったかい?」
「そ、そういう意味じゃなくて……あぅ、ぅうぅ……」
「……アリス?」
言いながら、顔を近づけ額を合わせる。
「ふぇっ!?」
「フム……少し熱が……アリス?」
「……に」
「に?」
「にゃーーーーーっ!」
いきなり大声を上げ、アリスは走り去ってしまった。
「……何だったんだ?」
どれだけ考えても、問いの段階から分からなかった。
***
後日、紫に一部始終を話した所、『あらあら、アリスもお子様ね』と言っていた。何故かは分からない。が、その日うなとろ丼を振舞った後、やたらと体を密着させて寝床にまでついてきた。何がしたいんだ?
「魚が食べたい」
不意にそう思った。朝の少し冷ややかな空気を肌で感じたからなのか、それとも木の葉が風で揺れる音が川の音にでも聞こえたからなのか、はたまた水を直に感じたからなのかは分からない。だが、何故か急に魚が食べたくなった。最近は余り食事を取っていなかったのも一つの原因か。
まぁいい。献立が早いうちに決まるというのは、料理をする際には非常に助かるのだ。霊夢や魔理沙には分からないだろうが、人里の主婦辺りなら同意してくれるだろう。主婦ではないが、慧音も同意しそうだな。
ともかく、魚なら何でもいい。鮒なら寿司に、鯉なら刺身やあらいにしてもいいだろう。
いや、取らぬ狸の皮算用という言葉もある。今のうちから何を作るか決めていては目当ての魚が釣れなかった時にどうするというのだ。釣った魚で決めよう。
……さっきと考えてる事が真逆のような気がしたが、そのうち僕は考えるのを止めた。
「ともかく、思い立ったが吉日だ」
常識外れの胃袋を持つ青髪の男が漫画の中でそう言っていた。その意見には賛同したい。
「さて……と」
言って、釣りの道具を引っ張り出し、扉に『本日休業』の張り紙を張り、目的地に向かって歩き始めた。
***
「……何度来ても、此処は広く感じるな」
言って、辺りを見渡す。
辺り一面の、霧。
此処は霧の湖。全体を霧で覆われたこの湖に僕は来ていた。当然、釣りをする為だ。
小一時間もすればぐるりと一周できる程の広さだが、霧の所為で対岸が見えないのと、目印が無い場合何処に居るのか分からなくなる為、実際の広さより広く感じる。
「さて、もう少し歩くか」
言って、少し歩くと何かにぶつかった。
「きゃっ!」
「……ん?」
修正。何か、ではなく誰か、だった。
そしてこの声は聞き覚えがある。というより、顔が見えている。
「アリス……か。何をしているんだい?」
「……いっ」
「ん?」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
「のわっ……」
いきなり耳の近くで大声を上げられ突き飛ばされた。そして、僕の進行方向には、湖。
気付いた時には、遅かった。
「あっ……!」
「あ……」
こういう状況でこうなるのは『お約束』らしい。早苗が言っていた。
湖に落ちる直前、最後に僕が見たのは、顔を赤くした全裸のアリスだった。
***
「……ごめんなさい」
「……いや、こちらにも責がある。おあいこだ」
あの後、アリスに魔力の糸で引き上げられ、アリスは今僕の後ろで謝っている。恐らく着替えているのだろう。
「……もう、こっち向いていいわよ。霖之助さん」
「あ、あぁ」
言われて、振り返る。
「水着……?」
そう、水着。確か以前アリスが僕の店で買っていった『ビキニ』という水着だ。
「最近研究ばっかりだったから。それに暑いしね。……霖之助さんは?」
まぁ、持ってる道具で推察できるけど――とアリスは言う。それもそうだろう。竿と魚篭(びく)を持って畑仕事に行く人間なんて見た事が無い。
「お察しの通り、釣りだよ。急に魚が食べたくなったんでね」
「ふーん、そう。……あ、そういえば私もこっちに来てから殆ど魚食べてないわ」
「というと?」
「魔界には海があるから、魔界に居た頃は海の魚食べてたし、川魚はちょっとクセがあるのが多いじゃない?」
「ふむ、それが美味しいんだがね……」
「まぁ霖之助さんが釣りするなら、私は向こうで泳いでくるわ。針が引っかかったら危ないし……」
「あぁ、分かった。……と、アリス」
「何?」
「似合ってるよ。その水着」
「――――――ッ!?」
「……ん、どうした?」
「な、何でも無いわよ!霖之助さんの馬鹿!」
そう言い放ち、アリスは霧の中に消えてしまった。
「何故、馬鹿なんだ……?何か気に障る事を言ってしまったか?」
釣り糸を垂らしながら考える。
実際、水着は似合っていたし彼女の体は子供の様な貧相なものでもない。そのことも含め褒めたのだが……何がいけなかったのだ?
どれだけ考えても答えは出ず、気が付けば餌を取られていた。
***
「……さて、こんなものか」
日も傾き、僕の服も乾いてきた頃、魚篭の中にはそこそこ多めに魚が入っていた。
鮒や鯉の他には泥鰌や鰻も居る。特に鰻は数こそ一番少ないものの最も大きく、数匹が狭い魚篭の中でぬめぬめと蠢く様子は見ていて余り気分が良いものじゃない。
「どう、釣れた?」
後ろから声を掛けられた。振り返るとそこいたのは僕の服が未だ少し濡れている原因を作った人物だ。
「あぁ、アリスか。まぁ、大漁……とまではいかないが、中々多く釣れたよ」
「どれ……って、うわぁ」
「気味が悪いかい?」
「だって……こんなに、ぬめぬめ……気持ち悪くないの?」
「気持ち悪くない……と言えば嘘になるね」
「結局気持ち悪いんじゃない」
「まぁね……と、そうだ」
「?」
「朝に君は川魚が苦手だと言っていたね」
「えぇ。クセがあるもの」
「なら、僕が美味しい川魚料理を振舞ってあげよう」
「え?」
そうは言ったが、実際はこれだけの魚を今日一日で一人で消費するのは難しいと考えたからなのだが……二人ならそこそこは消費できるだろうし、余ったら干物にでもすればいい。簡易式の生簀ならあるし、一日ぐらいなら持つ筈だ。冷蔵庫が使えれば一番なんだがなぁ……。
「……そうね。じゃあ、ご馳走させて貰おうかしら」
「あぁ。存分に腕を振るわせてもらうよ」
言って、何となく二人とも笑いあった。
***
「……さて、始めようか」
「私は見させてもらうわね」
勝手場に立ち、魚篭から取り出したのはぬめぬめと動く鰻。それを二匹。
「アリス、悪いがこれをそこの生簀に入れておいてくれないか。そのままひっくり反すだけでいいから」
言って、アリスに魚篭を渡す。
「分かったわ。……うぅ、ぬめぬめ……」
アリスが生簀に魚を入れている間に鰻を捌きにかかる。
頭を固定し、腹から包丁を入れて尾まで一気に裂く。内臓を取り除き、水で血を流す。もう一匹も同じ手順で捌いていく。
「入れてきたわよー」
「あぁ、有難う」
「え?……えぇっ!?」
「……ん、どうした?」
「も、もう捌いたの?あの短時間で!?」
「普通じゃないのかい?」
言いながらも作業の手は休めない。開いた鰻をある程度の大きさに切り分ける。
「早すぎよ!里の料亭一の腕前の職人でももうちょっとかかるわよ!?」
「細かい事は気にしちゃいけないよ」
「全然細かくないんだけど……まぁこの際どうでもいいわ」
「そうか」
聞きながらも手は止めない。皮を焼いた後、醤油を土台とした特製のタレを塗りながらじっくりと焼いていく。
「だから早いわよ!もう焼いてるの!?」
「ん……一言言った方がよかったかい?」
「ハァ……もういいわ。黙って見てる」
「ん、そうかい」
「えぇ」
言って、アリスの言葉通り無言になる。独り言も寂しいので僕も黙る。勝手場をジュウジュウと鰻を焼く音が支配する。
……気まずい。
何となく、アリスの方を見る。
「あっ」
目が、合った。
「……なんだい?」
「べ、別に」
「……そうか」
「そ、そうよ」
そう言ってそっぽを向くアリスの顔は、耳まで真っ赤だった。
「……さて、あとは……」
言いながら、すり鉢と山芋を取り出す。山芋の皮を剥き、すり鉢で擂っていく。程よい量になった所で、再びタレを塗った鰻と一緒にご飯に盛り付ける。最後に少しだけタレを回しがけし、少量の山椒を乗せて完成だ。
「ほら、出来たよ」
「え?あ、あぁ、ありがとう……」
「……どうした?顔、真っ赤だが」
「な、何でも無いわ!は、早く食べましょ!」
「?あぁ……」
食卓に丼を二つ持って行き、既に座っているアリスに差し出す。
「ほら、うなとろ丼(命名・魔理沙)だよ」
「鰻ととろろで、うなとろ?ネーミングセンスの欠片も無いわね」
「君の友人に言ってくれ。……頂きます」
「頂きます」
………………
「あ、美味しい」
「そうかい?それは良かった」
「料理出来るのね。意外だったわ」
「まぁこんな場所に住んでいればね。それなりに覚えるよ」
それに、半妖の僕にとって食事とは嗜好の一つでしかない。嗜好品である以上、凝れる所まで凝る。まぁ今回はアリスに食べさせるというのが目的に近かったので、然程凝ってはいない。だがそれでも、美味しいと言う言葉は作り手にとっては嬉しい一言なのだ。
「残念だわ。料理が下手なら作りに来てあげようと思ってたのに……」
「生憎だね。あと何で残念なんだい?」
「え?……!な、何でもないわ!」
「顔、真っ赤……」
「う、五月蝿い!」
「……?」
「……う~……」
顔を赤くしたアリスが気になったが、直ぐにどうでもいいかと思い食事を再開した。
***
「ご馳走様」
「ご馳走様。……美味しかったわ」
「それは重畳。……と、アリス」
「ん?」
「……お弁当下げて、どちらへ?」
この言葉は主に、『ほっぺや髪等にご飯粒が付いてますよ』という言葉の意味を持つ(自作辞書、Rinpedia『霖ペディア』より抜粋)。
「え?え?」
だがアリスには伝わらなかった様で、おろおろしている。
「あぁ動かないでくれ。今取るから」
「???」
言って、アリスの頬に付いていたご飯粒を取る。アリスは意味に気付いたようで、羞恥に顔を染めている。
「ん……」
そしてそれを自分の口へ運ぶ。豊穣の神が授けてくれた大地の恵み、粗末にするのは勿体無い。
「ッ!?」
「……ん?」
見ると、アリスの顔は先ほどよりも赤く染まっており、口をパクパクさせながらあうあう言っている。
「い、今……何して……」
「……何か、まずかったかい?」
「そ、そういう意味じゃなくて……あぅ、ぅうぅ……」
「……アリス?」
言いながら、顔を近づけ額を合わせる。
「ふぇっ!?」
「フム……少し熱が……アリス?」
「……に」
「に?」
「にゃーーーーーっ!」
いきなり大声を上げ、アリスは走り去ってしまった。
「……何だったんだ?」
どれだけ考えても、問いの段階から分からなかった。
***
後日、紫に一部始終を話した所、『あらあら、アリスもお子様ね』と言っていた。何故かは分からない。が、その日うなとろ丼を振舞った後、やたらと体を密着させて寝床にまでついてきた。何がしたいんだ?
大丈夫、この暑さなら俺の頭が暴走していいカオスが書けるかもしれない…。
元からなんて言わせないぜ!!?
いいですよね、大好きです!
あくまでも無関心な霖之助が、それらしかったです。
にゃー!
後書きのゆかりんが可愛くて、危うくもってかれそうになりました。
「にゃーーーーーっ!」がなければ即死だった。
アリ霖がこんなに良いものだったとは、口元が緩んだまま元に戻りません。
リンペディアに性的な要素があれば!
やっぱりアリ霖ですか!
え、元からでしょうw?
>>けやっきー 様
大好きですか!それらしかったですか!にゃー!
>>高純 透 様
ゆかりん可愛かったですか!良かったです。
>>4 様
朴念仁って素晴らしいと思うんです。えぇ。
>>奇声を発する程度の能力 様
ひゃっはー!!!そんなにですか!
>>brownkan 様
アリ霖は良いものです。ありすううううう!!
>>7 様
鰻と山芋ってどっちも精つくんです。
霖ペディアには霖之助の超絶飛躍論理(と、ほんの僅かな常識)が書き綴られていますwww
紫様、あんたは考え過ぎだww
ゆかりんは策を練りすぎて現実が追いつかないタイプですw
ニヤニヤしましたか!良かった……
空回りっていいですよね。見てる分には。