「あつい・・・・」本日何度目になるか分からないセリフを呟いて、紅魔館の主レミリアは机に突っ伏した。
「冒頭が被ってる気がする、そんな気がする」と呟いてレミリアは息も絶え絶えに窓の外の空に浮かぶ火の玉を睨みつけた。
「お嬢様、あまり日の光を見てはいけません、特にお嬢様は光には強くないのですから・・・」と咲夜が自室のドアを開けつつ言う。
「分かっているわよそんなことっ」若干八つ当たり気味に言うが、咲夜は気にした様子は無く、ただヒンヤリと冷えた濡れ手ぬぐいをレミリアに手渡した。それを首に巻きつけてレミリアはひと時の安らぎを得る。
「ふぁー・・・」となんとも間の抜けた声でレミリアは鳴いて着々と茶の用意をする咲夜に問う。
「まさかとは思うけれど紅茶は冷たいわよね?」
「えぇ、キンッキンに冷やしてありますわ」と柔らかく微笑んだ咲夜が大きめの良く冷えたグラスに褐色の液体を注いでいく。
「それに、今日は少し趣向を変えてみまして・・・」とレミリアの前にグラスを置いて咲夜が言う。
「今日は麦茶です」
「ムギチャ?」レミリアには余りなじみの無い言葉なので、彼女は聞き返す。
「えぇ、これは麦という穀類を炒って作られるお茶です。なんでも夏はこのお茶がポピュラーだとかで、一度、博麗神社で飲ましてもらったことがあったのですが、非常に美味しかったので・・・。それにミネラルを含んでいますから暑い夏にはもってこいです」と咲夜が丁寧に説明する中、レミリアは恐る恐るグラスに唇を近づける。
良く冷えたグラスの中に注がれたその茶はそれはもう良く冷えており、香ばしい香りを楽しみながらゴクゴクとそれを飲み干していくと、体の内側からまるで涼気が漂ってくるようで心地がいい。なるほどコレは暑い夏の日には丁度いい飲み物だ。
「どうですか?」と咲夜が麦茶を一気飲みしたレミリアに問う。
「うまいっ!」
「それは良かった」
「もう一杯!」
「かしこまりました」満面の笑顔で、グラスを差し出すレミリアに、咲夜が美味しい麦茶を差し上げようとピッチャーを手にした瞬間であった。
「大変です!!!」部屋のドアが弾けるように開いた・・・・のとほぼ同時に咲夜の手から銀製のナイフが飛び出していった。
「うひゃん!?」とそれを間一髪で避けた美鈴が叫ぶ。
「なにするんですか!?咲夜さん!あたったら痛いじゃないですか!」涙ながらの抗議に咲夜は冷笑を浮かべる。
「あなたこそドアをノックもせずにブチ開いて何用?職務放棄かしらぁ?」とさらに追加でナイフを片手に幽鬼のように揺らめく咲夜をレミリアが留める。
「それで、何が大変なの?」レミリアの問いに、ナイフの襲撃にあった戦慄から美鈴が立ち直って叫ぶ。
「とても、とても大変なんです!パチュリー様が、パチュリー様が・・・・!」
「・・・・・?」とレミリアが小首をかしげる。
「・・・・・?」と咲夜が反対側に首をかしげる。
「どうしましょう・・・・・」と美鈴が図書館の机の向こう側にチョコンと座り込む゛小さい゛パチュリーを指差した。
「ぁうー・・・・うぁ?」と宇宙語を喋った小さいパチュリーが衣類の中からコチラを注意深くうかがっている。どうやらあの衣類、パチュリーのものらしい。どうやら、あの衣類の中に居るアレ、パチュリーらしい。
「えー・・・・っと、ゴメンナサイ。私、どうかしちゃったようだわ」とレミリアが言えば。
「暑さね、全て暑さの所為なのね。クッソー・・・夏め・・・」と咲夜が現実から逃避する。
「いやいや、二人とも目の前の現実を受け止めてくださいよ」と美鈴が二人に言うが、彼女達とてこんな奇怪な現象にいまだかつてめぐり合ったことが無い。
「だって・・・・あんな小さくなってしまって・・・」とイスの上からどうにかこうにか降りた小さいパチュリーを示してレミリアが咲夜を見上げる。当のパチュリーはというと、普段パチュリーが着ている薄紫の服をズルズルと引きずりながら這ってどこかへと去って行くところである。
「咲夜、あれどう思う?」とレミリアが本棚の影に消えた小さいパチュリーを示して言う。
「どうって言われましても・・・・・どうなんでしょうね・・・?」と咲夜も戸惑いを隠せない様子だ。
「大体、どうしてああなったの?」とレミリアが美鈴に問う。
「いえ・・・それが私には・・・・」
「私がお答えします」と本棚から姿を現した小悪魔が美鈴の言葉を継いで言う。小悪魔の両手には先ほどの小さいパチュリーが抱かれており、彼女の豊満な肉体と相まって、小悪魔はさながら母親のような慈愛に満ちた存在に見えた。
「それで、どういうわけなのかしら?」とレミリアが問うと、小悪魔はイスに小さいパチュリーを座らせて神妙な面持ちで答える。
「私にも話が込み入りすぎていて詳しくは説明できないのですが・・・・」
「あの子・・・ついに子供を・・・・」
「違います」レミリアの発言を小悪魔がピシャリと否定する。
「話を続けますね・・・。どうやら、パチュリー様はこの暑さを緩和する」
「もしかして・・・・・腹違いの妹!?」
「違います、話を聞いてください」と今度は咲夜を黙らせて小悪魔は続ける。
「パチュリー様はどうやらこの暑さを緩和するための魔法を新たに作っていたようなのです」と小悪魔が言って、机の上に大量に積み重ねられた魔道書を示す。
「その程度の魔法ならいくらでもありそうだけれど・・・」とレミリアが言うが、小悪魔は首を振る。
「いえ、涼しくする魔法ならいくらでもありますが、体感温度を下げる魔法をパチュリー様は作っていたようですね」
「なんでそう言うメンドクサイ事をやりたがるのかしら・・・・?」とレミリアは疑問符を浮かべるが、小悪魔は一つ頷いて答える。
「パチュリー様は体があまりお強くないので、直接的に気温を下げてもお体に差し障りがあります。ですから、気温を下げることなく体感温度を下げる・・・という手段を講じたのかと・・・」
「なるほどね・・・・」とレミリアが納得した様子で言う。
「その過程で、何かしらの手違いがあって・・・・こうなったわけですか」と咲夜がイスの上で眠そうにしている小さいパチュリーの頭を撫でる。
「これって直るんですか?」と美鈴が小悪魔に問う。
「さぁ・・・・魔法の効果が続く限りは恐らくこのままかと思います」
「魔法ってどのくらい続くものなんですかね?」美鈴が重ねて小悪魔に質問すると、小悪魔はフムと暫く考える。
「事例がある魔法では無いので、断言はできませんが・・・身体変化系の魔法は基本的には使用する魔力はさほど多くはありませんから・・・・パチュリー様の魔力を考えるとですね・・・」と一旦区切る。
「およそ、400年くらいでしょうか?」
「・・・・・うわぁ」と美鈴が言って咲夜に撫でられて気持ちがよさそうにしている小さいパチュリーを見つめる。
「ですが、パチュリー様は術式を組み立てるときに、いくつかのグリモワールを媒体にすることがあるので、そのグリモワールの魔法を解除すれば・・・・」と小悪魔が自分の周りに広がる一体何万冊に及ぶか分からない本を見渡す。
「まぁ・・・・・その媒体も他人に勝手に解除されないようにパチュリー様が魔法で隠してしまうので・・・・・」
「・・・・・・さらに、うわぁ・・・」とレミリアも言う。
「・・・・媒体としている本は一体どれくらいあるの?」と咲夜。
「この程度の魔法なら恐らくは3っか4っ・・・ですね。同時に起動させるために恐らくルーンを刻んだ栞か何かを挟んで、パチュリー様の詠唱で起動する仕組みになっているはずです・・・。ですから一つだけ見つければ、あとは芋づる式に魔力の痕跡をたどればいいんですけど・・・」と小悪魔。
「今、それをたどるのは無理なの?」とレミリアが問うが、小悪魔は苦笑するばかり。
「この図書館の本、ほとんど魔道書ですから・・・。どれがどれだか私には分かりません」
「ふむぅ・・・・」咲夜とレミリアが二人して唸る。
「まぁ、これはこれで癒されるから良いんですけどね・・・・」と楽観的に美鈴が言って、小さいパチュリーの頬っぺたをムニムニと弄る。柔らかくて弾力があって。いい気持ちだ。
「あ、確かにコレはいい気持ちかも・・・」と咲夜までもパチュリーの頬を摘む。が、当のパチュリーはと言えば泣きも騒ぎもせず、ただ自分の頬を弄ぶ二人を見上げるばかりである。
「あぁあぁ・・・・あんまりパチュリー様で遊ばないでください、遊ばないでください」と咲夜と美鈴をどうにかどかして小悪魔がパチュリーを抱きかかえる。
「あらあら、小悪魔はすっかりお母さんね」と咲夜が茶化すが、小悪魔はまんざら悪い気分じゃないらしく否定もせずに、ただ少し苦笑しただけであった。
「パチュリー様、私お母さんみたいって言われちゃいました」と小悪魔は少し頬を赤らめて自分の腕の中で眠るパチュリーに小声で話しかける。小さいパチュリー様のために急いで繕った小さな御召し物。パチュリー様が好きな色をキチンと使って、パチュリー様が着やすい
ように工夫して・・・。
小悪魔にとって、パチュリーへの奉仕とは仕事以上の意味があった。小悪魔にとって開くことさえできないプロテクトの架かった魔道書でさえ、この細い指一つでいとも簡単に開いてしまうパチュリー様、多彩な術式を使いこなし、夜の王とまで呼ばれたレミリア様さえ一目置く彼女の自慢の主。彼女にとって尊敬の対象であり、畏怖の対象であり、そして何よりも、誰よりも大切な存在であった。
だから、彼女は、今は自分の腕の中でモゾモゾと動くことしかできないパチュリーにどうしようもないときめきを覚えていた。
「パチュリー様・・・・」腕の中からあどけない表情で自分のことを見上げるパチュリーの額に、小悪魔は優しくキスをする。小さなパチュリーにはそれが分かるのか、それともただキスの感触が心地良かったのか、小さな腕をパタパタと振って喜んだ。
「えへへ・・・・パチュリー様・・・」小悪魔はパチュリーの頬を優しく摘む。柔らかくて弾力があって・・・・暖かい。
―これは病み付きになっちゃうかもしれませんね―
「第一回、パチェを縮めたグリモワールを見つけてぶっ壊せ大会ー」
「わー」
「わー」とやる気も士気も大いに乏しい三人組が図書館の中央で、自分たちが今から戦う相手を見渡した。部屋の高さは50メートル弱。その全ての壁は50メートル分に積み上げられた本棚で埋まっており、それだけでは飽き足らず、部屋全体にも所狭しと本棚が並んでいる。落下物とか色々と注意が必要そうな図書館であるが、この全ての本にはパチュリーが魔法をかけてあり、何者かが意図して本を引き抜かない限り、本は落ちることも移動することも無い。
「死にたくなりますね」と美鈴が広大な図書館を眺めて言う。
「もういっそ全部焼くってのも手ね」レミリアが言いながら片手にミニチュアサイズのグングニルを出現させる。
「でも、元に戻ったときにパチュリー様は怒り狂うでしょうね」咲夜の言葉に、レミリアは渋々とグングニルを消滅させる。
「えぇと、破壊対象はなんでしたっけ?」と美鈴がレミリアに問う。
「栞が挟んである本全部」
「お嬢様・・・・」と遠慮がちに小悪魔が呼びかける。
「何かしら?止めても無駄よ、私はパチェを元に戻すわ」
「いえ、戻していただけるのなら願ったり適ったりなのですが・・・」と腕の中でしきりに小悪魔の頬を触るパチュリーをあやしながら、小悪魔が続ける。
「その、お嬢様の「運命を操る程度の能力」で、お嬢様が「自分が手に取る本がパチュリー様の姿を幼くしている本」とかやりますとですね・・・」
「・・・・それは思いつかなかったわ!」とレミリア。
「いえ、聞いてください・・・・・。そのように運命操作でお嬢様が特定の本を自分の下に引き寄せたときにはですね・・・。その・・・・」
「その・・・・?」
「自動的に、引き寄せた本が『磔の呪文』の本になりましてですね・・・・お嬢様がもれなく磔になってしまいます・・・・・」
「ということは?」
「運命操作で、目当ての本を探し当てることは不可能です」
「だ、大丈夫よ・・・・・最初から運命操作なんてするつもりは無かったから!」とレミリアが強がるが、咲夜や美鈴はあからさまにがっかりした様子で、ノロノロと本棚を漁っている。
「あ、ぅ・・・・うぇ・・・あうー」と小悪魔の腕の中でパチュリーがパタパタと暴れるので、小悪魔はパチュリーの額にキスをする。最近、分かったことだがパチュリー様の機嫌が悪いときにはこうしてあげるとすぐに機嫌が直るのだ。機嫌が直るどころか上機嫌になる。ふと、視線を元に戻してみると、本棚を鬱々と漁っていた面々が物凄く嬉しそうな表情でコチラを見つめていた。
「咲夜さん咲夜さん、いまチューって・・・」キャッキャと美鈴がはしゃいで傍らでうっとりとした表情でこちらを見ていた咲夜さんの肩を叩く。
「分かってるわよ見たわよ・・・良いわね、良いわね・・・羨ましいわね・・・」と咲夜さん。
「んっんー!人前でそう言うことをするものじゃないと思うわよ!」とレミリアがもっともらしく言うが、視線は泳ぎっぱなしだ。
「ふえ?えええええ?えと、その、深い意味は無いというか・・・・・えとえと・・・・!」
小悪魔の腕の中で手をばたつかせて、パチュリー様も上機嫌なようだ。
私にとってこの状況の解決手段はいとも簡単だった。私が一言、解除のスペルを唱えれば良い。そうすれば、この現象を引き起こしているグリモワールはその活動を止め、私は元の姿に戻れる。でも・・・・・それをやらないのには理由があった。いや、理由ができてしまった。彼女が、あまりにも私の傍に在りすぎるから。私は、この姿から元に戻ることができなくなってしまった。
これは私の意志が弱いせい。長いときを、本を愛して来た私の、友人に対する思い以外の、羨望にも似た、想い。
これは、私の思い過ごしかもしれない。でも、きっと違う。長い年月を生きると、妙な勘も働くようになってしまう。
きっと・・・彼女は私を好いてくれている。
それが恋愛感情なのか、友人に抱くそれなのか、はたまた主従関係の成れの果てなのかは定かではないけれども、確かに彼女は私を好いてくれていた。
私はどうなのだろうと、この姿になってからたった一度だけ自問自答してみた。
結果はすぐに出た。頭の回転が速すぎるのも考え物だと、少し嫌味がましく思ってもみたけれども、それでも自問自答の答えはすぐに出た。
答えは、私も彼女が好きだった。
彼女に名前を呼ばれると、彼女が私を抱いてくれると、彼女の唇が額に触れるたびに、私の鼓動は早くなり、身近で感じた彼女の体温がいつまでも私の肌を温め続ける。
涼しさを求めたのに、いつの間にか、彼女の温もりに依存してしまっていた。すっかり、元に戻るタイミングを見失った。
どうすれば良いのかな・・・・。
パチュリーはそんな風に思う。小悪魔の部屋に彼女が自分で拵えた乳母車の上で。フカフカと柔らかい、彼女の香りがする小さな布団の中から・・・。
「ワトソン君」とレミリアが死んだ魚のような目でただ果てしないとしか形容しようが無い図書館を見渡して言う。作業を始めて8時間半。パチュリーを子供へと変えているグリモワールの姿かたちはおろか、その気配の一片すらも感じ取ることはできない。
「なんですか、ホームズ先生」と咲夜が答えるが、彼女もまた、水揚げされたマグロの如く乾いた諦めを瞳に讃えていた。
「私は思ったのだよ。こんな膨大な書物の中から特定の本を見つけるのって無理じゃない?」とレミリアが自分の周りに積み上げられた何十冊にも及ぶ本を忌々しそうに睨みつけて言う。
「えぇ・・・・まぁ、その・・・・作業する前から薄々感ずいていましたけどね・・・・」咲夜が額に浮かんだ汗を拭う。
「うわっ!うそ!?あきゃぁあぁあぁぁッ!」という奇声にも似た声が図書館のどこかから響き渡り、それとほぼ同時にドサドサと何かが・・・というか恐らく積み上げられた本が崩れる音がする。
「・・・・美鈴ー・・」と咲夜が呼びかける。
「・・・・ふぁい」とくぐもった返事がどこからか聞こえ、恐らく本の中に生き埋めになっているのであろうことを伺わせる。
「・・・・・片付けるのが大変だからあまり本の山を崩さないで頂戴」
「面目ないのです・・・・」相変わらずのくぐもった声は疲れたように一つため息をついた。
「皆さんお疲れ様です」と小悪魔が図書館の置くからひょっこりと姿を現す。両手で大き目の銀盆を持ち、ニコニコと温かい笑顔でお茶を運んでくる様は使用人というよりもウェイトレスのそれに近い。
「あら・・・?パチェは?」とレミリアが問うと、小悪魔はふふっと小さく微笑む。
「お昼寝です」
「・・・・・そう」すっかり母性あふれるお母さんキャラが板についてしまった小悪魔とかちょっと可愛いかもなぁ。とレミリアが思いつつ、彼女が持ってきたお茶を手に取る。グラスはひんやりと冷えている。「・・・・ハーブティー・・・かしら」と咲夜が呟くと、小悪魔がパッと顔を輝かせる。
「分かっていただけましたか!?えへへ、実はコレ、私が中庭でひっそりと育ててるハーブで作ったお茶なんですよー」と小悪魔が誇らしげに言う。なるほど、とレミリアが頷いて一口、それを口に含んでみる。パッと広がるのは僅かな渋みと深い香り。鼻からスーッと抜けて行くそれは疲労を残らず回復してくれるような気さえする程に清々しいものだった。
「うわぁ・・・これは美味しいですねぇ」といつの間に本の山から抜け出したのか美鈴もハーブティーを飲んで癒されている。
「確かに、コレは疲れたときにはもってこいね・・・」と咲夜も感心したように言う。
「実は、この薬草は内臓の働きを活発にする効果があって、パチュリー様のために良く作るんです。ほら、パチュリー様は夜遅いことが多いから・・・・」と小悪魔が言って少し寂しそうな顔をする。
「しばらくは作ることも無いでしょうけれど・・・・」小悪魔がしゅんとしてしまったので、慌ててレミリアは胸を張る。
「大丈夫よ!すぐに見つけてグリモワールを壊すから!」
「そ、そうよ!だから小悪魔は心配しなくても大丈夫!」と咲夜も小悪魔の肩を叩く。
「・・・・・ありがとうございます・・・でも・・」言いかけて小悪魔はやめた、やっぱりコレは言うべきじゃない。だって、お嬢様たちの努力が実は無駄だって知ったら、きっと彼女達は凄く怒るだろうから。
「パチュリー様・・・・」『うおおおお!小悪魔のためにいいい!』と雄たけびをあげて本の山に突っ込んでいった三人組を見送って、小悪魔は呟く。
「・・・・・馬鹿みたいね」とパチュリーは呟いた。乳母車の中で、布団に包まれて。何をやっているんだろう・・・。なんだかひっこみつかなくなっちゃったなぁ・・・。とパチュリーは天井を見上げて思う。
図書館の方ではズドンだのドカンだのと破壊的な音が響き続けており、パチュリーに一抹の不安を抱かせる。これというのも自分の所為なんだけれど・・・。
「本当に・・・・なにやってるのかしらね」
「全くその通りですね」パチュリーの呟きに、聞きなれた声が返答した。
「・・・・・・あ、あぅぁー・・・」
「今更、子供ぶってもダメですよ」とその声の主は語調を強めて言う。
「・・・タイミングが悪いとはまさにこの事ね」とパチュリーはため息をついて乳母車の中から扉の前に立つ小悪魔を見る。
「全く、お遊びが過ぎますよ。パチュリー様」
「たまたま気がついた・・・・・ってわけじゃ無さそうね、その様子だと」とパチュリーが言うと、小悪魔が頷く。
「正直、パチュリー様がその姿になった時から疑っていましたから。パチュリー様に限って、何の策も無くミスするなんてこと・・・・ありえないです」そこまで信頼してくれているのかと言う思いと、実は疑われていたという事実を本人の口から聞いたパチュリーは複雑な表情をする。
「全く、パチュリー様。レミリア様とかにどうやって弁解するおつもりですか?実は喋れるし呪文解除も自分でできちゃいます、だなんて知ったら物凄い怒りますよ・・多分」
「大丈夫よ、あれだけ暴れてれば多分、無差別に破壊してることでしょうから、その過程で壊れたことにするわ」パチュリーが言って、乳母車の中で上半身を起こす。
「ねぇ、小悪魔」とパチュリーがふと、小悪魔に呼びかける。
私は、彼女のそんな表情を見たことは無かった。まるで、迷子の子供のような、寂しげで今にも泣き出しそうな表情。それは、幼くなってしまった彼女の顔の所為もあって余計に際立って見える。
「あなたは・・・・どうして私の事を疑っていたのに、あんなに世話をしてくれたの?」彼女は問う。
「・・・・・そうですねぇ」と小悪魔は小首をかしげる。なんだかこうして、弱いパチュリー様にこんな表情で見上げられるのも悪い気分ではない。なんだか、彼女を独占した気分。
「答えは余り難しくないかもです」と小悪魔が笑ってパチュリーの頭を撫でた。
「だって、私はパチュリー様の従者ですから」小悪魔の掌の下のパチュリーが小さく微笑んだ。安心したような、そんな微笑だった。
「ねぇ、小悪魔・・・」とパチュリーが呟くように言う。
「なんですか?」
「もっかい・・・・・おでこに・・・ちゅー・・・して欲しい・・・」小さく途切れ途切れに言うパチュリーの頭を優しく撫でて、小悪魔は腰を屈めた。
「パチュリー様、元の大きさに戻っても、いつだってしてあげますから・・・」
キュッと引き結んだ唇と、少し潤んだ瞳を見つめて小悪魔はささやいた。
「パチェ、最近、機嫌が良いようだけど何かあった?」例の事件から数日。パチュリーはすっかり元の姿に戻り、図書館と紅魔館にはまたいつも通りの平和な日常が戻ってきていた。
「そうね・・・・確かに、良いことはあったかしら・・・」とパチュリーが言って首を振る。
「ううん、違うわね。良いことがあるのよ。毎日ね」少し照れたように微笑むパチュリーは、よく冷えたハーブティーを一口、口に含むのであった。
あきゃぁあぁあぁぁッ!!!
ちっちゃいパチュリー様可愛すぎるでしょ!!!
暑いし可愛いし…もう何がなんだかw
次の作品も期待してます!
ちゅっちゅ、最高っ!!!