此処は妖怪の山にある大きな滝。その上の崖に生える木の上で、私は夕日を眺めていた。
「……さて、今日も一日平和でしたね」
誰に言うわけでもなく呟き、私は自分の家に戻ろう……としたところで、ある事を思い出した。
「そういえば、今日は『あの日』でしたね」
言って、一人その場所に向かった。
***
此処は人里にあるお寺、命蓮寺。私はそこの一室で、ご主人がまた無くした宝塔を探し出してご主人に渡していた。
「ほら、ご主人。もう無くさないでくれ」
「うぅ、すみません……」
「謝るなら次から気をつけてくれないか。全く……」
「そ、そろそろ夕飯です、行きましょう!」
「話題の逸らし方が不自然すぎるよご主人。……でもまぁ確かにもうすぐ夕飯だ。私も疲れたし、早く……と」
「ん、どうかしたのですか?」
「いや、今日はちょっと用があってね。悪いが一緒に食卓を囲む事は出来ないな。」
「そうでしたか。して、その用とは何なのですか?」
「ご主人には関係無い事だよ。自分の落し物の心配をしたらどうだい?」
「う……悪かったですってばぁ」
「ハハッ、まぁそういう事だよ。聖にもそう伝えてくれるかい?ご主人」
「分かりました。気をつけて下さいね」
「あぁ、わかったよ。明日の朝までには帰れると思うから、それまで何も無くさないでくれよ?」
「そんなにドジじゃありません!」
「ハハハ……」
羞恥に震えるご主人の声を背中に、私はその場所に向かった。
***
此処は魔法の森。化け物茸の瘴気が漂うこの場所には、私の知る限り三人の方が住んでいる。
白黒魔法使い、霧雨魔理沙。
七色の人形遣い、アリス・マーガトロイド。
動かない古道具屋、森近霖之助。
だが私が今向かっている場所は、その三人も知らない、魔法の森の端にある小さな小屋。
毎年この時期、私達は此処に集まるのだ。
ドアを開けると、約三ヶ月ぶりの懐かしい景色が広がり、その中に見知った顔があった。
「あ、早いですね。ナズーリンさん」
「いや、私も今来た所だよ。椛君」
「そうですか」
「あぁ」
そう言って、ナズーリンさんは机に顎を乗せてむにーっとした顔と姿勢になりました。何でも彼女曰く『一番落ち着く』んだそうです。
「会長はまだですか?」
「会長?あぁ、少し用事があって遅れるらしい。さっきそれだけ知らせに此処に来た」
「そうですか」
「あぁ」
そう言って、互いに無言の時間が訪れ静寂が小屋を支配する。
何も話す事が無くなり(あるけど会長が来てからです)、私もナズーリンさんと同じ様に机に顔をむにーっとさせてみる。あ、ヤバイ。これいい。山でやってたら何処からともなく白い粉を棒状に固めた物が飛んできそうですけど、此処ならそんな心配もありませんし。
結局そのままナズーリンさんも私も一時間ぐらいむにーってしてた。
***
「会長遅いですね」
「ん?あぁ、確かに遅いな。少し遅れるという限度ははるかに超えている」
あれからむにーってしてて約一時間半。未だ会長の姿は無い。少し遅れるとは一体何の用事なのだろうか。
「何処で何をしているのだろうね、会長は」
「全くです……。会長ー、何処にいるんですかー?」
何も無い空間に呼びかけてみる。
と、その時だった。
私の後ろから聞き覚えのある声で、とんでもない台詞が発せられた。
「ここにいるぞ!」
「むっ!?」
思わずそんな声が出てしまった。言いながら振り返ると、そこに居たのは……
「やれやれ、遅いじゃないか八雲会長」
「やー御免ねー、ちょっと思いの他手間取っちゃって」
「遅いですよ会長!」
「だから御免って言ってるじゃない」
そこに居たのは……、スキマから上半身を覗かせた、会長こと八雲紫さんだった。というかさっきの台詞だと私殺されるんですが……?
「本当に遅れちゃって御免なさいねー二人とも」
「一時間半待たされました」
「椛、私達妖怪は寿命が長いのよ?たかが一時間半ぐらい気にしちゃいけないわ」
「時間というものはとても大事だよ。全体で見れば確かに一時間半という時間は我々妖怪には些細な時間だ。だがこの時は三ヶ月に一度、時間も限られている。限られた時間を有効に使おうじゃないか、会長?」
「ふふ、それもそうねナズーリン。じゃあ……」
言って、会長は自分の席に着く。そして、
「それじゃあ……
第十二回、『Phantasmの会』を始めるわね」
Phantasmボスが集うPhantasmの会が、紫会長の合図で始まった。
***
会長はまずスキマから白い黒板の様な物を取り出した。何でも外の世界では会議の時は絶対と言われる程に使われている物なのだそうだ。
「……さて、今回の議題はこれよ!」
言って、会長は白い黒板の様な物(面倒だから『白板』と呼ぼう)の上の部分を持ち、一気に下に降ろした。すると白板が回転し、白板の反対側が見えた。そこには可愛らしい丸文字で、こう書いてあった。
『Phantasmの普及』
「……まぁ知っての通り、私はこの中で唯一公式のPhantasmボスな訳よ」
「はい」
「あぁ」
「でも貴方達は違うわ。有志によって作られたPhantasmボス」
「はい」
「あぁ」
「だから私は言う!今こそExtraモードとPhantasmモードが再び並び立つ時なのよ!」
「おぉ……!」
「ほぅ……!」
「だからその為にはどうすれば良いか、皆で考えましょう!」
さて、会長はそう言うが……具体的な考えは何も思いつかない。対面に座る椛君も同じ様だ。
「ちょっとナズナズ、貴女賢将でしょう?何か無いの?」
「ナズナズとは何だね、ナズナズとは。……すまないが、具体的な事は何も無い」
「そう……。もみちゃんは?」
「もっ、ももももももももももみちゃん!?」
「あらあら、顔真っ赤にしちゃって……可愛いわぁ」
「わっ、わたっ、私は可愛くなんか……」
「あら、十分可愛いわよ。 も み ち ゃ ん ?」
「ふ、ふえぇ……」
「くすくす……」
「御両人、脱線しすぎだよ」
「あらあら、御免なさい。 ナ ズ ち ゃ ん 」
「………………」
「あら、顔真っ赤」
「う、五月蝿い!この馬鹿者!」
「くすくす……」
「全く……と、そういえば」
私達二人で遊ぶ会長を見ていると、ある事を思い出した。
「ん?」
「会長は今日何で遅れたんだい?」
「あーそれは私も気になります」
「フフフ……そう、もうそこに行くのね……?」
「「……?」」
そう言う会長は、大妖怪に相応しい胡散臭い笑みを浮かべた口元を扇子で隠し、くすくす笑っていた。
「本当は最後のお楽しみにとっておきたかったんだけど……仕方ないわね」
そう言って、会長は衝撃の言葉を口にした。
「何と!地底にもPhantasmボスは居たのよ!」
飛び上がった。何時も持っているダウジングロッドを思わず手放してしまう程に。尻尾がピーンとなって、吊るしている籠がお尻に滑り落ちる程に。
それは椛君も同様で、頭の耳はピンと立ち、尻尾は千切れるんじゃないかと思う程ぶんぶんと振られていた。残像が見える……だと?
「フフ、二人とも随分興奮してるわね」
当たり前だ!Phantasmボスが一人増えると言う事は、有志がまた一人増えると言う事と同義!こんなに嬉しいのは聖が復活した時以来だ!
「でもその子、地上が怖いみたいでね。捕まえるのに時間掛かったのよ」
あぁ。遅れたのはそういう訳か。そういう事なら全て許そう!
「さぁ、ご対面~」
言って、会長は何も無い空間を扇子で薙ぎスキマを作る。そしてそこから一人の少女が落ちてきた。
「にゃっ!?うぅ、痛た……」
「紹介するわ、河城みとりちゃんよ!」
「河城?にとりと同じ名字……河童ですか?」
「惜しいわね。正確には人間と河童のハーフ、半人半河童よ」
「えぇ!?でもにとりは普通の河童ですよ?」
「え……にとりを知ってるのかい?アイツと私は異母姉妹だからね……」
「あ、そうなんですか」
「うん、そう……って、そんな事はどうでもいい!こらスキマ!さっさと帰せ!」
「まぁまぁ、久しぶりの地上よ?少しは楽しみなさいな」
「ふざけるな!私は地底で誰にもかかわらず静かに暮らしていたかったんだ!それを……」
「閉じこもってちゃ駄目よ?諦めたらそこで試合終了って外の世界の偉い人は言ってたわ」
「ぐぎぎ、これだから地上の人妖は嫌いなんだ……」
「赤胡瓜食べる?」
「食べるー……って、はっ!?」
「フフ、嫌がってても体は正直ね……」
「うぅ、こ、これは河童なら仕方ない事なんだ。だから……」
「かっぱっぱーかっぱっぱー」
「キュウリのキュウちゃんまるかじりー……って、何をさせる!?」
「え?口では嫌がってても体は正直って、会長言いましたし……え?」
「駄目だよ椛君。会長の言う事を一々鵜呑みにしていたら疲れるぞ。……さて、みとりさん……でいいかな?」
「え、な、何よ?(ボリボリ)」
「取り敢えずちゃんと咀嚼してその赤胡瓜を飲み込んでくれ。話はそれからだ」
「ボリボリ、ボリボリ、ボリボリ、ごくん。……で、何?」
「……先ず、会長が勝手に君を連れて来た事に関しては私から謝ろう。済まなかった」
「え、あ、うん。(ボリボリ)」
「(二本目……?)……で、此処に居る我々は君と同じPhantasmボスなんだ。それは分かるかい?」
「うん、それはまぁ。そこのスキマに聞かされてたし。(ボリッボリッ)」
「(に、二本食いだと……?)……で、今我々が居る此処はPhantasmの会のいわば本拠地だ。ここまで言えば、分かるかい?」
「赤胡瓜美味しいよぉ(サラサラ)」
「聞け。そして何処から塩を出した?」
「あーん、私の赤胡瓜と塩ー……って、わ、私になんて事をさせたんだ!?」
「君が勝手にやったんだろう!この馬鹿者!!」
なんだこの半人半河童。こっちが吃驚(びっくり)する程天然じゃないか!
***
「……さて、今回もいい案は出なかったわねー」
「なんかみとりさんで遊んでた記憶しかないんですが?会長」
「気のせいよ椛。ねぇみとり?」
「赤胡瓜ぃ、えへへ……」
「聞け。まだ持ってたのか塩」
ナズーリンさんがみとりさんの持ってた赤胡瓜と塩を取り上げた。
「あーん、私の赤胡瓜と塩ー……って、な、何!?私何してた!?」
「……何もしてませんでしたよ」
「ほ、本当?」
「はい」
言えない。塩振って水が出てきた赤胡瓜見つめてえへえへ言ってたなんて言えない。言える訳がない。
「……まぁいいわ。じゃあ、これで解散しましょうか」
「はい」
「ん」
こうして、私達の三ヶ月に一度のPhantasmの会は、会長はスキマで帰り、ナズーリンさんは少し残るらしい。……ので、今回も(具体的な内容で)特に進展の無いまま解散となった。
でも――
こうやって皆で集まるのが、最近楽しみになりつつある。
そんな夏の夜だった。
***
「じゃあ私も帰りますねー」
「さようなら、お帰りはあちらです」
「何だいそれは?」
「別にー」
「そうか」
「そー」
「……さて、君はどうやって帰るんだい?」
「え……あ!あのスキマ!ぐぎぎ……」
~終わり~
いっしょにむにーってしたいです!
(ちょっと無理がありすぎる...
可愛さ素敵です!
種族:人間と河童のハーフ
二つ名:地に潜む紅い怨念
河城にとりの異母姉で、河童と人間との間に出来た半妖である。
河童の盟友であるはずの人間との間に誕生したみとりであったが
人間からは疎まれ、山の河童は彼女を見ると逃げ出していった。
自分が必要のない存在であり、本当の孤独は人と人との間にあると悟ったみとりは
「自分などいなくなってしまえばいい」と考え、地獄へ向かった。
しかし旧地獄は自分が想像している場所とは違い
妖怪や鬼たちがやたら親しげに暮らしている場所だった。
それでもみとりの心が他者に開かれることはなく
心に立ち入る者全てを制限していた。
地上で嫌われた妖怪を率先して受け入れていた鬼の中でも
特に勇儀が心配していたが、上手く接することが出来なかった。
勇儀は覚(さとり)妖怪である古明地さとりに相談した。
みとりの心を覗いてみると、話に聞いた通り彼女の心は荒れに荒れていた。
しかしそんな荒れた心の中にも、河童の友好的な心を垣間見た。
だがこちらの侵入を拒むみとりの心は、無理矢理こじ開けるものではない。
一方通行ならば、反対側に回り込むべきだ。
ここでさとりは少し面白いことを考え付いた。自分が動くのではなく
たまたま地底に来ていた人間に向かわせることにしよう、と……
能力、あらゆるものを禁止する程度の能力
という設定のオリキャラ(2次設定)です。
出典、ニコニコ大百科。
みとりいいよ、みとり。
著作権は今回、何処から貰ってきたかを明記すれば大丈夫かと。
むにーっていいですよね!
>>2 様
旧作はあんまり知らないんですよね……ハハハ…^^;
>>奇声を発する程度の能力 様
ウチの椛はもみちゃんって言ってあげるともっと可愛いですよ!w
>>4 様
みとり……有名になったと思ってたのになぁ……
>>けやっきー 様
素敵ですかそうですか!良かった!
>>華彩神護 様
私もみとりはそこから貰ってきました。
みとりいいよみとり。
>>7 様
みとりんきゃわいいよ!
読んでくれた全ての方に感謝!