「第七回、魔法使い会議ー」
「わー、ぱちぱちぱち」
魔理沙の宣言に、能天気な声が続く。
パチュリーとアリスは、お互いに顔を見合わせた後、魔理沙に、そして先ほどの声の主に、視線を送って疑問を投げかける。
誰? と。
「はじめまして、私は聖白蓮と申す者です。噂の魔法使いの密会に参加させていただけたこと、深く感謝いたします」
「なんか、こういうのやってるって話したら是非来てみたいと結構強引に迫られたから連れてきた」
「よろしくお願いいたします」
ぺこり。白蓮が頭を下げる。
「あ……はい、よろしくね」
「……」
アリスが戸惑いながら挨拶を返して、パチュリーは無言でため息をついた。
「部外者の立ち入りは厳禁って言ったでしょ。魔法使い会議なんだから――」
「私は、魔法使いです。今でもやはり貴重なのですね」
「ぅ?」
「ああ、私が説明する。こいつはずっと昔の魔法使いらしい。魔界にいたから結構面白い話も聞けるんじゃないか」
「魔界!」
アリスが目を丸くして、叫ぶ。
そして、改めて白蓮の顔を眺めて、表情は少しずつ困惑に変わっていく。
そんなアリスの様子を眺めて、白蓮は薄く微笑む。
「もしかして、あなたが噂の魔界出身の魔法使い――アリスさん?」
「あ、はい……あの」
「私のことは知らなくても当然でしょう。そもそも出身はこちらで、魔界には単身赴任で行っていただけですから。ちょっと、長くなってしまいましたけれど」
「魔界……どのあたり?」
「法界です」
「ほっかい。ほっかい……? あー」
少し考え込んでから、アリスは頷く。
「あの、端っこのほうの」
「ええ、端のほうの」
「そうなのね。あっちのほうは行ったことないわ」
「アリスさんは中央部ですものね。わざわざ行く用事もなかったことでしょう」
「そうね……って、どうしてそんなことまで知ってるの?」
「新聞で読みました。魔界から外の世界に魔法留学だなんて、それはもう注目のニュースでしたから」
「そんなこと載せてたの……新聞って、マシン? マホウ?」
「マホウのほうです」
「なるほど、細かいところまで載せそうだわ」
彼女らが言うマシン、マホウがそれぞれ魔界新聞、魔界新報の略であることは、彼女ら以外にとっても割とどうでもいい事実である。
「こちらに帰ってきて、そこの魔理沙さんに話を聞いたときは驚きました。まさか、そのアリスさんにすぐに出会うことになるなんて」
「世界は狭いものよね」
「あ、アリスさんもまだこちらに来てから日は浅いんですよね。どうです、やはり苦労はあるのではないでしょうか。……食生活とか」
「あー。最初はね。もう慣れたけど。確かに全然違うわね。なんといっても、魚がない」
「そう! 魚ですよね。あちらでは毎日魚介類ばかりだったので急に変わってしまって少し戸惑っています」
「わかるわ。こっちでも手に入らないわけじゃないけど、すごく高級品になってしまってるのよね」
「当たり前に食べていたあの海老が、魔界だけの特産品だと聞いて驚きました」
「あれね。たまに恋しくなる故郷の味ね」
「もし里帰りされた際には、是非持ってきていただけませんか? 新鮮なままで」
「すぐに傷むでしょあれ。無理だわ……」
「マホウによく載っているあの通販広告の会社って、幻想郷も配達地域に含まれているでしょうか?」
「え、それ、知らないわ。どこの会社?」
「本社はエソテリアだったと思います」
「ああ……それならたぶん、法界限定じゃないかしら。広告欄は結構地域限定で変えてるみたいだから」
「そうだったのですね」
……
と。
二人が盛り上がる裏で、もう二人の魔法使いは所在無さげに静かに座っていた。
「ローカルトークで盛り上がってるときって割り込みにくいよな」
「出身地が同じって、強みよね。魔理沙なら気にせず割り込んで質問攻めにでもしそうなものだけど」
「ああいう話は説明を聞いても『へー』くらいしか反応できないから結構難しいんだ」
「是非今度連れて行ってくれ、くらい言えばいいじゃない」
「まあ……なんだ」
魔理沙は少し笑みを浮かべながら、呟く。
「二人とも楽しそうだし、邪魔したくないんだ」
「最初からそう言えばいいのに」
「というかパチュリーもそれだけ次の言葉が浮かんでくるならもっと話せばいいのに」
「今は好感度上がるイベントじゃなさそうだから」
「なんだそら」
しばらくして、アリスは、あ、という顔をして二人のほうに振り向く。……みるみる、顔を赤くする。
「ご、ごめんなさい。つい盛り上がってしまって」
「あら。そうでした。せっかくの会議の時間を潰してしまいました。申し訳ございません」
「ああ、いや」
魔理沙は頭を下げる白蓮に、気にするな、と軽く手を振る。
「少し順番が変わっただけだ。いつもこんな感じだからな」
「そうなのですか」
「そうね」
パチュリーも同調する。
「ま、少しお腹はすいてきたけど」
「あっ、そうね。お待たせしちゃったわ。さっそく出しましょ」
アリスが手持ちの大きな籠の包みを解く。
「何が始まるのでしょう?」
「いつもの手順だ。アリスが持ってきたお菓子と咲夜が持ってきたお茶を味わいながら、色々喋ったりゲームしたり、そんな感じだな」
「まあ」
白蓮は、少し目を丸くしてから、にこりと微笑んだ。
「素敵なお茶会ですね」
「おい瞬時にこの会議の本質を言い当てられたんだが。この新人、只者じゃないぜ……」
「ごく当然の反応だと思うけど……」
アリスは籠の蓋を開けながら、言った。
「でも、一人多いとなると、お菓子ちょっと足りないかもね。いつもどおりの量だから……あ、聖……さん? の口にあうかどうかはわからないけど」
ぴく。
ぴく。
アリスの言葉に、魔理沙とパチュリーが、同時に反応した。
一瞬にして、空気の温度が下がる。
二人が視線を交わしあい、そして、すす……と白蓮のほうに動く。
「まあ、私も頂いてよろしいのですか?」
「もちろん。気に入っていただけたらいいんだけど」
「ありがとうございます」
すす……
白蓮が遠慮または辞退する気がないということを悟り、二人の視線は再びお互いをけん制しあう。
ばちばち。小さな火花が散る。
「今日はフランスのお菓子、タルト・タタンを持ってきたの。これはね、りんごを焼いてから上に生地を被せてまた焼くっていうとても珍しい作り方で」
「りんご! さすがアリスだぜ! ちょうどりんごを猛烈に食べたい気分だったんだ。私の気持ちをよくわかっていると言わざるをえない。ああいっぱい食べたいなあ」
「アリスのお菓子は私にとってはいつだって珍しいわ。アリスが作ったそのケーキは、世界にただ一つ、今ここにしかないんだから――だからありがたくたくさんいただきたい気分なの」
「素敵ですね! 私、ケーキは大好きなのですよ。せっかくですから、遠慮無くいただいていきたいですね」
「……」
「……」
「(おいこの新人大物だぜ)」
「(なんで連れてきたのよ……)」
「(わかったって言うまで引かないんだ……こいつ……)」
「(責任とってあなた今日は控えめにしなさい)」
「(断る)」
そんな相談をよそに、アリスはきっちり4等分してから手際よく差し出された皿に分配するのであった。
まぁそれはともかく
聖
可
愛
い
よ
聖
3魔女のお茶会SSはよくありますけど、白蓮さんも加わるとまた一味違いそうですねー。
続きで読んでみたい!
個人的に「マシン、マホウがそれぞれ魔界新聞、魔界新報の略」という小ネタが
すごいあるあるな感じで面白かったです。
四人そろって魔法使い隊結成!皆が皆個性的だから楽しくなりそうですw
出来れば続きを期待したいです!
なごみました
平和が何より。大好きです。いいものをありがとうございました!
いやはや、これは新しいですね!
次回も期待してます。
流石最年長。
こぁが東北弁っぽい魔界弁喋るSSを思い出した。
やっぱり、白蓮さんはオバサンなんだなあ・・・
ローカルな話題はたしかに盛り上がるんだよなあ…。
故郷が一緒だと話が盛り上がって楽しいのでしょうね。いいなぁ。
押しが強いというか図々しいというか……だがそれが可愛い。
魔女のほのぼの家族可愛いです。
……相当有名なんだな、魔界の魚介類。ゴンベッサとか居そう