魂魄妖夢は人里へ来ていた、今日は何と幽々子から休暇を出された記念すべき日なのである
妖夢はただただ驚くばかりであった、なにせ、人里へ降りたのはかれこれ数年ぶり、あの春雪異変の時以来である、しかしながら、師匠でありたった一人の肉親である妖忌に連れられてきた時の幼い記憶が蘇っていた
「あ、ここはお師匠様と一緒に来たときに入った映画館だ」
もちろん演目は変わっていた、今やっているのは『ハクレー5/怒りの紅魔館』だ、たしかあの時に見せて貰ったのは『ハクレー/怒りの幻想郷』だった筈だ
年端もいかぬ少女に見せる物としては些か物騒な映画だったが、幼かった妖夢は映画の中の博麗の巫女に憧れていた気がする、そう、確かに私はあの映画の中の巫女に憧れていたのだ
「…見ようかな、ハクレー」
しみじみとした目で看板を見つめたが何かに弾かれたように
「イカンイカン、危うく無駄な出費をするところだった」
私は自分で喝を入れ歩き出した。
しかし、人里は活気にあふれているというか、五月蝿いというか、まぁ白玉楼が静かすぎるだけなんだろうが、しかし、耳あたりの良い、どこか心地よい喧噪であるのは間違いない。
「お腹空いたな」
幽々子様ほどではないが私だってお腹ぐらいはすく、どこかで蕎麦でも食べようかと歩いていると前方に人の群れが出来ていた
「…さぁさぁ寄ってらっしゃい見てらっしゃい、兎の薬の行商だよー」
なるほど、薬売りか、こういう物は目でも楽しめる、買うか買わないかは後で決めれば良いことだ、そう思って私は群衆へと斬り込んでいった。
そこで、私は想定の範囲外の人物と出会った、その人物は高台に立って、刀を振りかざしていた
「竹林でとれた薬草で出来たこの薬、酒と一緒にグイィと飲めば、打ち身擦り傷骨接ぎ歯痛に何でもござれ、その証拠にこれなる銘刀もただのなまくら、エイィ」
その男はギラリと光った刀身を自らの腕に押しつけた
「フンッ、エイッ、どうだぁ」
キレテナーイとでも言いたげに傷一つ無い腕を高々と掲げ、観衆からは拍手と賞賛が上がっていた、何を隠そう、生き別れた肉親、師匠、そう、魂魄妖忌が薬売りをしていたのである
「さぁ、この効果抜群、竹林丸、一袋たったの五文だ、さぁ買った買った!」
その声と共に薬を求める群衆、兎が料金徴収、上手くやってる物だ
群衆が去り、騒ぎが一段落した後、私は意を決して声を掛けた
「…師匠」
「…妖夢か、久しいな」
「はい、十五年と九ヶ月、十八時間ぶりです」
「えっ?計ってたの?」
「え?あ、はい」
「あ、そうか、もうそんなになるか」
「なぜ、薬売りを…」
「んー、難しい質問じゃな」
師匠は口に手を当て、黙り込んだ後、満面の笑みで答えた
「ふふ、小遣い稼ぎじゃ」
「はぁ?」
私が呆気にとられていると兎が師匠に話しかけていた
「妖忌さん、これ今日の日当ウサ」
「ん?少し多くないか?」
「いつも頑張って貰ってるからね、『ボーナス』ウサ」
「ふふふ、ではありがたく貰っておこう」
「じゃぁ明日もお願いウサ」
「うむ、しかと聞き届けた」
私は兎が去ったのを見て口を開いた
「…師匠、今度是非白玉楼にお寄り下さい、幽々子様も会いたがっております」
「そうじゃな、このアルバイトは今週いっぱいで終わりじゃ、立ち寄ってみようかの」
「ありがとうございます、師しょ…」
「妖夢!」
「は、はい」
「儂は魂魄の名を捨てた、もうお前の師匠は儂ではない」
「申し訳ありません」
「ふふ、まぁ良い、これからはお前の好きなように呼べ、な」
いつの間にか私たちはあの映画館の前に居た
「なぁ妖夢、映画見たくないか?今日はボーナスが出たから、いくらか余裕はある」
「はい、お祖父様」
そう言って私は師匠と共に映画館へと入り、懐かしのハクレーを、鑑賞したのであった
ここ、はが無いと少し不自然な感じが…
映画見てみたいなww