「ねぇアリスちゃん~、お人形さんの作り方教えて?」
「いいわよ」
ある日の昼下がり。
魔法の森の中にあるアリス邸で、魔界の親子が今日も仲良くしていた。
仲良くといっても一緒にご飯食べたり、一緒にお風呂入ったり、一緒のベッドで寝てたり……
ちょっとばかり仲が良すぎるのは、アリスの母親、神綺があんまり"こちら"に来れないせいだろう。
神綺曰く、「アリスちゃん分を補給しないと干からびちゃう!」だそうだ。
尤も、アリスも満更ではなさそうだけど。
だから神綺のお願いを、ついつい叶えてしまうのだ。
晩御飯をハンバーグにしたり、背中だけでなく全身を洗いあったり、神綺に抱かれながら眠ったり……
そして、今は人形の作り方を教えている。
でもどうも上手くいって無いようだ。
*
「魔力回路の組み方は、頭だけでも幾千通りの方法があってね、髪の毛が勝手に伸びるようにするには……さらにシナプスを……」
「ア、アリスちゃん。魔力回路はまた今度でいいかな?」
「回路の無い人形はただの人形さ(キリッ」
「紅い豚さんみたいに言われても困るよ!?」
*
「ぬいぐるみ風にするなら、頭の部分の綿はもっときつめに入れて。そうしないと形が安定しないから」
「きつく、ぎゅっぎゅっと……きゃあ弾けた!? 詰め込みすぎたのかな?」
「綿に混ぜた私の髪の毛に、綿と一緒に圧縮されたお母さんの魔力が反応したのかも」
「なんで髪の毛混ぜてるの!?」
「え?」
「そこで不思議そうな顔されても……」
*
「服の作り方は……」
「あ、それなら得意! だっていつもアリスちゃん達の服を繕ってるしね」
「……お願いだから猫のアップリケを付けるのはやめてね?」
「え!?」
「そこで不思議そうな顔されても……」
*
で、紆余曲折あってついに。
「できたー! アリスちゃんほらほら!」
「おつかれさま、お母さん」
神綺の喜ぶ姿に、アリスも穏やかな笑顔で返した。
跳ねまわる神綺の手の中に、金髪の少女であろう人形があった。
高さ45cmほどのデフォルメ人形。
全体的に少し歪んでいて、髪の毛も整っていない。
服は解れているところがあるし、目も左右対称になっていない。
アリスの人形に比べたら失敗作であろう。
それはお店に並んでいても、最後まで売れ残るほどに。
でも神綺にとって、それは最高の出来栄えだった。
その人形はまるで光り輝く幻想のように、神綺には思えた。
「アリスちゃん、このお人形さん何点くらいかな?」
「その子に点数なんて点けられないわ」
「がーん……」
アリスの冷たい言葉に、両手を地面について落ち込む。
喜び勇んでいた分、反動がおおきい。
いくら神綺の目には輝いてみえても、やっぱり出来栄えはガタガタ。
とても人に見せることができるものではなかった。
「そうよね。そうだよね……綿、はみ出してるもんね……」
神綺の作った人形が地面へと転がる。
その衝撃だけで首が取れそうな人形。
それでも顔はにっこりと楽しそうに笑っている。
「お母さん……私ね、お母さんに創ってもらって幸せなの」
アリスが人形を拾いあげながら言った。
弱った子犬を抱えるように優しく、そっと胸に抱く。
そして、言葉を続ける。
「それこそ、点数なんて付けられないくらいに」
「アリスちゃん……」
アリスの言葉に、神綺は顔をあげた。
優しい言葉に涙が出そうになる。
同時に勝手に勘違いした自分が恥ずかしくなる。
心なしか、アリスも顔を桃色に染めていた。
「この子も、同じだと思うの。むしろ点数なんて付けられたら泣いてしまうわ」
「ごめんアリスちゃん。ごめんね、お人形さん……」
謝ってから、そうかと、神綺は気がついた。
どうして自分がアリスの家へ頻繁に訪れていたのか。
どうして、人形を作りたいと言い出したのか。
……不安だったのだ。
ずっと母親らしいことなんてずっとしていなかった。
仕事に追われて、神であることをずっと意識して。
料理だって裁縫だって、ちょっとしかできない。
子供たちが何を考えているだなんて、ずっと分からなかった。
子供たちの好きなものも知らない。
不安、だった。
特にアリスは家を飛び出して、しばらく音信不通だったし、
魔界の子達も神綺の事を「お母さん」とは呼んでくれない。
呼んでくれるのはアリスだけ。
嬉しかった。
だから知りたいと思ったのだ。
娘の事を。
もっと、もっと……
無言で人形が差し出される。
その子を、神綺はそっと抱きしめて、つぶやいた。
「生まれてきてくれて、私と出会ってくれて、ありがとう」
それはアリスへの感謝か。
それは人形への涙か。
それは、娘たちへの想いか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アリスの部屋。
その窓辺に、人形が飾ってある。
木々からこぼれる太陽に照らされて。
金髪のぼろぼろの人形と、奇麗なサイドポニーテイルの人形が、仲良く笑っていた。
心が。
ほっこりしました。
とても素晴らしかったです!!!
○「それこそ、点数なんて付けられないくらいに」
×誤ってから、そうかと、神綺は気がついた。
どうして自分がアリスの家へ頻繁におとづれていたのか。
○謝ってから、そうかと、神綺は気がついた。
どうして自分がアリスの家へ頻繁におとずれ(訪れ)ていたのか。
貴方にしては誤字が…。
お話自体はとてもよかったです!
ほんわかほこほこ。
「紅い豚さんみたいに言われても困るよ!?」
里帰りとかする気はないんですねアリスさん
自分に子供ができたら、これくらい仲のいい親子になりたいですね~
>唯様
神綺様をぎゅっと抱きしめ隊一名参上!!
>再開発様
ほわわんとしたあったかい雰囲気が、神綺様には似合ってますよね。
>4様
SHI☆N☆KI!
神綺様をぎゅっと抱きしめ(ry
>奇声様
これは……ほんわカオス作家を目指すチャンス!?
もしくはあまりない組み合わせでほんわかもいいかも。
>6様
暖かな気持ちになってもらえたならうれしいです♪
>7様
誤字情報感謝!!
あまりの多さにやっちゃった感……以後気をつけますね。
ほこほこと言えば焼き芋ですよね~……秋姉妹か!
>8様
ありすちゃんは紅の豚を見たかったのかな?
すいません誤字です本当に申し訳ない。
里帰りしたらきっとアリスちゃんが姉妹の愛で窒息死しちゃう!