「暑い……」
いつも通りのとんがり帽子を頭に乗せて、黒白エプロンドレスに身を包んだ魔理沙は、入ってくるなり呻く。相当外が暑かったのか、額にはうっすらと汗が浮かび、きらきらとした金髪は、肌に張りついている。
このところの暑さには流石の魔理沙も参っているらしく、声にいつもの元気はない。
「大変ね」
「本、汚さないでよ?」
そんな魔理沙を迎えたのは、アリスとパチュリー。いつものように大図書館の読書スペースでそれぞれ自分の場所と決めた場所に陣取っている。
うへぁ、と珍しくもばてている様子。アリスは立ち上がり、来ることを見越して小悪魔が用意していった魔理沙のカップへと紅茶を注いでやる。用意されてから魔理沙が来るまでに大分間があったため、すっかり冷めきったそれは湯気を立てることもない。
けれど、今の魔理沙が求めているのは水分。あまり熱いものよりもその方がよっぽど好都合だ。アリスにカップを受け取ると、香りを楽しむとか、そういうことをする余裕もなく、ごくごくごく、と喉を鳴らして一気に飲み干してしまう。
「ぬるい」
「まあ、仕方ないわよ、一時間前のだもの」
ぷはあ、と飲み終えた魔理沙は、今度は唇を尖らせる。不満そうなその様子を取り成すように苦笑するアリス。再び席についてから、向かい側に座る魔理沙に手を伸ばし、乱暴に帽子を脱いだためにくしゃくしゃと乱れた髪を、手櫛で直していく。汗をかいているのか、ほんのりとしっとりしている。
「なんなら、小悪魔に熱いの、淹れなおさせるけど?」
「嫌がらせかよ」
「まさか」
ちょうど読み終えたばかりの本の表紙をぱたん、と閉じて、目を向けるパチュリー。にやり、と意地悪な笑みを浮かべている口元を見れば、魔理沙が本当に求めているものを分かって言っていることが分かる。
「暑い時に冷たいものを飲みすぎると、胃が弱るからよくない」
「それはそうかもしれないけどさぁ」
「まあ、嫌がらせでもあるんだけど」
「やっぱそうなんじゃないか」
魔理沙が欲しいのは、きーんと冷えたアイスティー。氷の入ったレモネード。そういう類の飲み物だ。身体の中から冷やしたいのだ。中途半端にぬるいのはあまり嬉しくない。
そんなパチュリーの言葉にますます頬を膨らませた魔理沙はせめてドロワーズの中に風を送って涼をとろうと、スカートをばさばさと両手で動かす。
見えてもいい下着とはいえ、年頃の娘がするにははしたないその行動に、アリスは眉を顰める。自他共に認める都会派だ。そのあたりのマナーについては厳しい。
「ちょっと、魔理沙、みっともないわよ」
「だって、暑いんだって。ほんと暑いんだ」
「暑くてもだめよ、女の子でしょう?」
「私は女の子である前に、魔法使いでありたいと思ってるんだぜ?」
「意味が分からない、っていうか、魔法使いだってそういうことしないし」
むー、と唸る魔理沙。外よりはずっとひんやりとした空気の地下図書館であっても、来るまでに服や身体に溜めこんできた熱さはそうそう簡単には抜けていってくれない。
背中や額をつたう汗がひくにはまだまだ時間がかかりそうだった。
だだをこねるような理屈をこねまわして、スカートをばさばさやり続ける魔理沙に、アリスは気が気ではない。
「もう。パチュリーもなんか言ってよ。こんなのはしたないって」
「別にいいんじゃない? どうせ私たちしかいないんだし」
「あのねえ」
「本をうちわ代わりにされるよりよっぽどいいわ」
「結局そこなのね。……もういいわ」
この手のことでパチュリーの同意を得ようとするのが間違ってたわ、と深いため息。
仮に本云々がなくても、パチュリーがそのあたりのことを気にしないことなど、考えるまでもなく分かっていた。
同意を得て嬉しそうな魔理沙がパチュリーに親指を立てれば、パチュリーは涼しげなまなざしでそれを一瞥する。
ひとり置いてけぼりにされた感のあるアリスは面白くない。大体いつでもこの手の話題では、恥じらいだの常識だのが邪魔をして、乗り切れないのが最近ちょっと気になっていたりする。
もっとも、そういう恥じらいをなくしたいとも思わないけれど。
「そもそも、その服装が良くないと思うのよ」
こほん、とひとつ咳ばらいをして、アリスは魔理沙を上から下まで眺めまわす。
白いブラウスに黒いベスト。真っ黒なスカートと白いエプロン。当然下着はドロワーズで、スカートを膨らませるために、何枚もパニエを重ねている。
つまり、厚着だ。とても厚着をしている。その上、黒い服は熱を集めやすい。魔理沙の服装はおおよそ、夏を快適に過ごすには向いていない。
たとえば、パニエをペチコートに替えるとか、ドロワーズではなく、スパッツにするとか、髪をポニーテールにするとか、いくらでも改善の余地はあるはずだ、とアリスは言う。
「言われてみればそうかもしれないわ。魔理沙、そうすれば?」
「なっ、いいじゃんか、別にっ」
「でも、暑いんでしょ?」
アリスの言葉を聞いて、ふむ、と呟きながら、パチュリーも顔をあげて、魔理沙を眺めまわす。いつも通りのじと目なのだけれど、言われた言葉を考え合わせると落ちつかない。
服装だけならいざ知らず、下着まで指摘されたのだ、恥ずかしくてたまらない。
アリスは魔理沙のことをはしたないというけれど、魔理沙からしてみれば、人の下着の話を持ち出してくるアリスのほうがよっぽどはしたない、と思う。
どうもこう、恥じらいのポイントがお互いにずれている。
「うー……」
ただでさえ暑いのに、恥ずかしさのせいで顔も体も熱くなる。赤くなった頬を隠すように押さえた両手も汗ばんでいる。
そんな魔理沙の様子を眺めたアリスとパチュリーは顔を見合せて、喉を鳴らして笑っている。まだまだね、なんていうように。
一応、対等な関係の友人同士ではあるのだけれど、こんな時、二人はお姉さんの顔をしている、と魔理沙は思っている。時にはそれが寂しく、時には心地よい。しかし、ほとんどの場合には腹立たしく、今もその例に漏れない。
「黒っていうのもよくないわね。パチュリーもそう思わない?」
「そうね。もっと、白いワンピースとか、どうかしら」
「ふむ……。意外と……」
明らかに面白がっているパチュリーはさておくとして、アリスは洋裁を趣味にしている節がある。魔理沙を眺める瞳に宿る光は獲物を狩る獣のそれだ。
こうなったら、着せ替え人形にされる可能性が高い。白いワンピースはきっと可愛らしいけど、魔法使いらしくない。絶対に御免だ。
けれど、こういう時の二人には敵わないことも経験上よくよく知っているので。
下手に言い返すことはせず、話題をそらすことだけを考える。
「ねえ、パチュリー、ほら、帽子もこの黒いのより、麦わら帽子なんていいと思わない?」
「白いワンピースに麦わら帽子……、避暑地のお嬢様みたい」
「魔理沙はきれいな巻き毛だし、黙って微笑んでたら、お嬢様っぽいし、似合うと思うのよ」
「むしろ誰だか分からなくなりそうね」
「それは確かに言えてるかも」
魔理沙の思いをよそに、アリスとパチュリーは好き勝手なことを言いながら、笑いあっている。
失礼な、と思う反面、そういうのは人形のようにきれいなアリスや、色白で儚げなパチュリーにこそ似合うとも、思う。少なくとも、魔理沙のように日焼けをして、泥だらけで汗をかいている子どもよりもずっと。
そこで、ふと思う。
「……っていうか、アリスもパチュリーも、そんな厚着してて、暑くないか?」
魔理沙のことを厚着だのなんだのと言うけれど、そもそもアリスもパチュリーもずいぶん多く着こんでいるように見える。
アリスはいつも通りの魔理沙にはよく分からない構造をしている青いワンピース。かろうじて、下に来ているブラウスは半袖だけれど、その上から、やはりいつものように白いケープを羽織っている。
当然、スカートの下にはパニエを着こんでいるし、足元なんてブーツだ。よく蒸れないものだ、と思う。
パチュリーなんか、さらに理解を超えている。少なくとも中に着こんでいるネグリジェのようなワンピースとその上から羽織っている薄桃色のガウン。両方とも長袖だ。この季節には腕に布が触れるだけで鬱陶しいというのに。もちろんケープもしっかり羽織っている。
流したままの長い髪も暑そうだ。肩甲骨を覆う程度の長さの魔理沙でも、邪魔だ、とか切ってしまいたいと思う。パチュリーの長さなら尚更なのではないだろうか。
「え?」
「人間とは違うもの」
意気込んでそれを指摘すると、アリスは思いがけない事を言われたかのようにきょとんとする。また、最初からそれを自覚しているのか、あっさりと何でもないことのように答えるのはパチュリー。
ピンとこない様子の魔理沙は、首をかしげて問いかける。
「どういうことなんだ?」
「どういうこともなにも。妖怪は人間ほど、気温に影響を受けないってことよ」
たとえば、レミリアは年がら年中半袖を着ているとか、冬に水遊びをしても平気とか。妖怪という生き物は特定の条件以外には、やたらめったら頑丈なのだ。
肉体の煩わしさから逃れるために捨虫の術を使った魔法使いも例外ではない。逃れたかったのは眠りや食事だけではない。
もちろん、暑さ寒さをまったく感じないというわけではない。ただ、肉体がそれに左右されないというだけで。そうなれば、自然と服装を気にするとかいう発想は出てきづらくなり、結果として、一年中同じような格好をしている羽目になる。
(そういえば、なりたての頃はいちいち変えてたっけ)
魔理沙の指摘に、アリスは自分がここのところ季節に応じて服装を変えていないことに気がつく。
未だに人であった頃の生活習慣を抜けきれず、食事も睡眠もとっているアリスだけれど、こうして、時が経つにつれて、少しずつ少しずつ、魔法使いらしくなっていくのかもしれない。
自分でも気付かないうちに、人間の習慣を失って、魔法使いになっていく。
悪いことであるはずもないけれど、少しばかり寂しい。
「アリス?」
「どうしたんだよ?」
不意に、声をかけられて我にかえる。どうやらぼんやりしてしまっていたらしい。
訝しげなパチュリーの声と、気遣わしげな魔理沙の声。
表情に乏しいところのあるパチュリーはかろうじて分かる程度に、表情豊かな魔理沙ははっきりそれと分かるほどに心配そうな顔をしている。
「え?」
そんなに様子がおかしかっただろうか。
外ではクールで余裕ぶっているせいか、表情が分かりにくいと言われるアリスであるけれど、家族の前では意外とそんなこともなく、くるくると表情を変えるほうだ。それを姉たちにからかわれたのも一度や二度ではない。
いわゆる内弁慶。当然、魔理沙やパチュリーに対しても、クールぶっているのだけれど、三人でいることに慣れ過ぎたのか、それともそれが心地よいせいか、気がつけば家族といる時のように表情を見せてしまうこともある。
隙を増やすのはいただけない、と理性では思うけれど。
こういう変化は悪くない、とも思う自分がいる。
「最近、季節を感じることが少なくなったな、と思って」
今、思っていたことを素直に口にする。別に隠すようなことでもない。
ふむふむと何か考え込んでいる魔理沙と、相変わらず本のページをめくり続けているパチュリーの様子を窺うようにしながら、アリスは語る。
「未熟者ね」
アリスが話を終えて、最初に口を開いたのはパチュリーだった。ふ、と鼻を鳴らして皮肉っぽく微笑む。
確かにこんなことは、魔法使いとしては喜ぶべきことなのだろう。季節を感じられなくて寂しい、なんて、新米だからこそ思うことであって。
それはアリスが魔法使いとして、まだまだ未熟であることの証左であるから。
人間としての生き方を捨てられないことの証明でしかないのだ。
「言うと思った」
「だって事実でしょう?」
「そうだけど……。パチュリーはそういうこと思ったことないの?」
アリスがそう問いかければ、パチュリーは不意に口ごもる。珍しく言葉を選ぶように視線を宙に彷徨わせている。
黙って何かを考えている様子の魔理沙も、魔女歴の長いパチュリーがどんな答えを返すのか興味があるらしく、じっと視線を向けている。
その二つの視線に気圧されたかのように、再び本に目を落とすパチュリーは、意外なほどあっさりと答える。
「ないわよ」
「ないの?」
「本が読めればそれでいいのよ。どうせ、図書館からでないし」
パチュリーは季節に煩わしさこそ感じても、情緒は感じない。
だからこそ、こうして、わざわざ常に魔法で図書館の空調を整えて、年中同じ環境で過ごせるように尽力しているのだ。
「ま、そうよね」
「パチュリーだもんなぁ」
妙に納得した様子の二人を横目に、パチュリーはうまく誤魔化せたことに胸をなでおろす。
捨虫をした魔法使いといえど、気温にまったく影響を受けないわけではない。けれど、パチュリーの身体はいささか過敏に過ぎる
まるで人間のように、冬の寒さも、秋の涼しさも、夏の暑さも、春の温さも、苦痛とは感じないのに、身にしみる。
たとえば、つい先週。梅雨と夏との季節の変わり目。湿気と気温の落差にやられたのか、いとも簡単に熱を出したことを、パチュリーは苦々しく思い返す。
そうそう高い熱だったわけではないけれど、咲夜にベッドに押し込まれるわ、小悪魔に本を奪い取られるわで、散々だった。
アリスのように、寂しさを感じるほど、季節の影響を受けないわけではないのだ。
しかし、それを口に出してしまえば、自身の魔法使いとしての不完全さ、歪さを認めてしまうことになる。認めたくはないけれど、悔しい。だから、パチュリーは口をつぐむ。
そのかわり。ふと思い立ったパチュリーはゆっくりと安楽椅子から浮かびあがる。
にやりと口元に笑みを浮かべて、アリスのもとへと近寄っていく。
「ま、何にせよ、夏を快適に過ごせるってことよ、人間と違ってね」
「パチュリー?」
「たとえば、こういうこともできる」
図書館の中では、比較的背もたれの低い椅子に腰かけたアリスの後ろから、すっと手を回して、ぎゅっと抱きしめる。すこし腰をかがめて、その細い肩に顎を乗せて、身体を密着させる。小さな女の子が甘えるようなしぐさ。
頬を擦りよせるような動作に、前の方でひと房ずつ結った髪やリボンが、アリスの頬や首筋に触れる。
くすぐったさと、パチュリーの香りを感じ、うろたえたアリスはしかし、すぐにそれを受け入れる。胸元に回されたパチュリーの小さな手をそっと撫でる。乗せられたパチュリーの方へ頭を傾ける。
その拍子に、ふわふわと柔らかい金髪がパチュリーの頬に触れる。
「ちょっとパチュリー? くすぐったいじゃない」
「そう?」
「そうよ」
くすくす、と二人は笑う。お互いの笑う震動が、吐息がお互いに伝わって、それが余計にくすぐったい。
ゆっくりと着地したパチュリーは目を細め、アリスは手を撫でられていたのとは違う手で、パチュリーの髪を撫でる。
確かに空調が調整された図書館といえど、夏にここまで身体を触れ合わせるのは、暑いだろう。先ほどまで、暑さを忘れたことに寂しさを感じていたアリスは、伝わるパチュリーのぬくもりに、現金にも、魔法使いになってよかったなあ、なんて思ったりして。
「パチュリー、シャンプー変えた? いつもと違う匂いがする」
「よく分かるわね」
「この匂い、好きかも。何のハーブ?」
「小悪魔が調合してるのよ。あの子、こういうのは妙に器用なのよね」
「へえ。じゃあ、帰りにでもなに使ったか聞いてみようかしら」
別にそうする必要はないけれど、顔が近い分、自然とひそひそ話になる。
それを見ている魔理沙は頬杖をついて呆れ顔。この暑いのに、いや、本人たちは暑くないとしても、見ているこっちが暑い。
暑ささえなければ、迷わず魔理沙も飛びこんでいくのだろうが。生憎今日はそういう気分にはならない。
それは、暑さのせいだけではなく。
アリスが今感じている気持ちは、いずれ魔理沙が魔法使いになった時に、同じように感じるであろう悩みだ。寿命の差だとか、人間でなくなることについて、最近漠然と考えるようになったけれど、こうして、実際に自分よりも少し先の場所で悩んでいるアリスを見ていれば、色々考えさせられる。
けれど、実際に今、季節を感じられる魔理沙には、分かることがある。
難しいことではなく、ただただシンプルに。
「なあ、アリス」
「魔理沙?」
「それなら、今年は夏を満喫しようぜ!」
にかっ、と白い歯を見せて笑う魔理沙に、パチュリーとアリスは抱き合ったような状態のまま、それぞれに首を傾げる。
きらきらと笑う魔理沙はそれを楽しげに見やると、自信満々に語り出す。
「夏らしいことをいっぱいすればいいんだよ」
たとえば、三人揃って夏らしい軽装をしてみるだとか。
おやつはアイスにかき氷、ラムネなんかを買ってきてもいい。湖で水遊びをして、夜には花火をして遊ぶ。流しそうめんなんかも望ましい。
当然、夏祭りには浴衣を着て遊びに行けばいいし、蚊取り線香を焚いてみたり、お泊り会の時には蚊帳を張ればいい。
図書館には風鈴を備え付けてちりんちりんならせばいい。
「夏っぽいことを片っ端からやろうぜ」
どうだ、と言わんばかりの魔理沙に、アリスもパチュリーもきょとんとした顔になる。
アリスが言っているのは決して、そういうことではない。自然と夏を感じることができないことを寂しく思っている。それと夏を楽しむこととどういう関係があるのだろうか。
「馬鹿ね。そうしたって夏を感じられるわけじゃないのよ?」
「それでもいいじゃないか」
「魔理沙?」
「そうやって変わるのは寂しいかもしれないけどさ。全部忘れちゃわないように、夏を楽しめば、それでいいじゃないか」
暑さ寒さを忘れたところで、夏の眩しさはいつだってそこにあるのだから。
感じられないのなら、別の方法で感じていけばそれでいい。
「私がお前らに夏を届けてやるよ」
そう言ってかっこつけて笑う。白い歯を見せて、人差し指を立てて、やたらめったら自信満々に。
そんな魔理沙を、呆気にとられたような表情でアリスは見つめる。本当にしかたないんだから、というように肩を竦めるパチュリーも、それ以上何かを言及することはない。
突如訪れた沈黙に、魔理沙は、おかしなことを言ってしまったのかと恥ずかしくなってくる。
僅かに赤く染まっていく頬には気付かないふりをする。腰に手を当てて、必要以上に明るい声で、明後日の方を眺める。
「ま、まあ。あれだよ。私がお前たちと夏をこう、エンジョイしたいだけ、というか」
ほら、折角の夏だし。こもりっきりなのもあれだと思うし。
言えば言うほど、恥ずかしさが増していくのか、もごもごとだんだんと言葉は不明瞭になっていき、やがて、アリス達には何を言っているのか分からなくなる。
その必要もないのに、魔理沙が帽子をかぶって顔を隠し始めた頃。
不意に、アリスが噴き出した。
「ふっ、ふふふ、魔理沙っ」
「もう……」
口元を押さえて笑うアリス。その目には涙さえ浮かんでいる。
それをそばで見ているパチュリーも、アリスのように笑いだすことはしないものの、僅かに口元がほころんでいる。
「なっ、なんで笑うんだよ!」
「だ、だって、ふふっ」
驚いてアリスの方を見つめて、眉をハの字にしている魔理沙が声をあげても、アリスの笑いは止まらない。
どうしていいか分からずに、立ちつくす魔理沙にアリスは笑いの中から、返事をする。
「そうね、魔理沙。魔理沙の言う通りね」
「へ?」
「ありがとう」
「う? あ、おうっ」
ああ、そんな単純なことでよかったんだ。アリスは思う。
魔法使いだって、夏を楽しむことができる。現に魔理沙のいう計画はとても輝いて見えるのだ。
きっと、魔理沙やパチュリーと過ごす夏は、とても楽しいものになるはずだ。
寂しさなんて感じる暇もないぐらいに。
夏が終わってしまっても、新しく来る季節全部、一緒に感じていけるに違いない。
実際に春も冬も、楽しく一緒に過ごしてこれたのだから。
それはなんと素晴らしいことだろう。
「楽しい夏になりそうだな」
「……私は別にどうでもいいけど、そうかもね」
「ふふっ」
でも感じようと思えば色んな手段がある。いい話でした。
三魔女もっと増えてほしいな
なんと言うか、身に染みるというか……
幸せな一時をありがとうって感じです。
それも全部ひっくるめてまぁいいじゃんと前向きな魔理沙、この3人の立場は全然違うけど、3人揃ってバランス良いなぁと思いました。
少女少女したやりとりや会話にとってもニヤニヤしてしまい、かと思えば最後はちょっとしんみりしました。
良いお話をありがとうございました。
しかし三魔女強化月間ですと……?wktk