「神様がいるか、ですって? レミィ」
「なによパチェ。その呆れた目は」
憮然とした声と共にレミリアは鏡台に向かって身支度をしているパチュリーを睨み付けた。
「レミィの見た通り呆れているのよ。この間呼んだ小悪魔以外にも無知蒙昧の徒がこの館にいるとは思わなかったわ」
「何気ない一言に、ここまであしざまに言われるとは思わなかったわ」
「何気ない一言にこそ、その知性が反映されるのよ、レミィ」
パチュリーはそう言って、髪を梳いていた櫛をサイドテーブルへと置くと、鏡越しにベッドを見つめた。それだけで、けして鏡には映ることのない戦友は意図を理解するだろうと信じて。
「それじゃあ、パチェは神様がどんなものかを知ってるのか? てっきり、それを知るために本を漁ってると思ってたんだけど?」
ばさり、とブランケットが床に落ちる音が響く。パチュリーは溜息を吐くと、ゆっくりとベッドへと向き直る。
そこにはパチュリーの予想通り、ふくれっ面のレミリアが胡座をかいてパチュリーのことを睨み付けていた。
「さすがにそろそろ服を着ない? レミィ」
「もう一仕事するかもしれないからなあ」
そうなれば汚すために服を着るようなものだろう、と言外に感情を滲ませるレミリアを見て、パチュリーはさらに溜息を吐いた。
「随分と突っかかるけど、これからの一件かしら?」
「そりゃ、ね」
「祈れば報われる、なんてのは人間の言うことだわ」
「悪魔が言うことじゃないって?」
「無知を幸せ、怠惰を平穏という人間のセリフだ、って言っているのよ」
そこで言葉を句切ると、
「神様ってのは、ああ正しくは、私達を毛嫌いしている連中が言っている神教の正体というのは」
狭くない寝室を光で満たした。
「これよ」
そう言って、パチュリーは右の手の平に魔力の塊を萃めて見せた。
「ただの魔力の塊。祈るだけで何もしない人間が、使い道も考えずに『神様』という型に押し込めた魔力。だから、何も救わない、何も助けない、何も愛さない。ただ、そこにあるだけ」
「そうは言うが」
萃められた魔力は、揺らめきもせず暖も感じさせず、白磁のようなレミリアの表情を、パチュリーの気怠げな表情を照らし出し、
「奇跡は起こるものだろう?」
「奇跡、ね。奇跡なんてのはね」
パチュリーはレミリアの言葉を、思いを断ち切るように告げる
「偶然の別名よ。なにかのはずみで『神様』という膨大な魔力が、外に零れ出て、それが因果を歪めた結果を好意的に呼んだだけよ。現に、貴女の眼で見えた未来が覆ったっていう話だって、因果が狂っただけの話じゃない」
こんなのは魔女の初歩よ、とパチュリーは締めくくると、ゆっくりと椅子から立ち上がり、レミリアが未だ陣取るベッドへと歩み寄る。
「誰も救ってくれないから、自分で救うしかないのよ、レミィ」
そう言って、レミリアへと手を伸ばす。レミリアはその手を取りベッドから降りると、分かったわ、とだけ告げる。その言葉の意味にパチュリーは頷きを一つ返す。
「水に落ちたからって叩いてくれるなよ、魔女」
「時と場合によるわ、吸血鬼」
そう言い合うと互いに笑って顔を見合わせ、そして寝室の扉へと歩を進める。
「それじゃあ、行きましょうか、レミィ」
「そうね、パチェ。東の果て、幻想が集まる世界とやらへ」
「なによパチェ。その呆れた目は」
憮然とした声と共にレミリアは鏡台に向かって身支度をしているパチュリーを睨み付けた。
「レミィの見た通り呆れているのよ。この間呼んだ小悪魔以外にも無知蒙昧の徒がこの館にいるとは思わなかったわ」
「何気ない一言に、ここまであしざまに言われるとは思わなかったわ」
「何気ない一言にこそ、その知性が反映されるのよ、レミィ」
パチュリーはそう言って、髪を梳いていた櫛をサイドテーブルへと置くと、鏡越しにベッドを見つめた。それだけで、けして鏡には映ることのない戦友は意図を理解するだろうと信じて。
「それじゃあ、パチェは神様がどんなものかを知ってるのか? てっきり、それを知るために本を漁ってると思ってたんだけど?」
ばさり、とブランケットが床に落ちる音が響く。パチュリーは溜息を吐くと、ゆっくりとベッドへと向き直る。
そこにはパチュリーの予想通り、ふくれっ面のレミリアが胡座をかいてパチュリーのことを睨み付けていた。
「さすがにそろそろ服を着ない? レミィ」
「もう一仕事するかもしれないからなあ」
そうなれば汚すために服を着るようなものだろう、と言外に感情を滲ませるレミリアを見て、パチュリーはさらに溜息を吐いた。
「随分と突っかかるけど、これからの一件かしら?」
「そりゃ、ね」
「祈れば報われる、なんてのは人間の言うことだわ」
「悪魔が言うことじゃないって?」
「無知を幸せ、怠惰を平穏という人間のセリフだ、って言っているのよ」
そこで言葉を句切ると、
「神様ってのは、ああ正しくは、私達を毛嫌いしている連中が言っている神教の正体というのは」
狭くない寝室を光で満たした。
「これよ」
そう言って、パチュリーは右の手の平に魔力の塊を萃めて見せた。
「ただの魔力の塊。祈るだけで何もしない人間が、使い道も考えずに『神様』という型に押し込めた魔力。だから、何も救わない、何も助けない、何も愛さない。ただ、そこにあるだけ」
「そうは言うが」
萃められた魔力は、揺らめきもせず暖も感じさせず、白磁のようなレミリアの表情を、パチュリーの気怠げな表情を照らし出し、
「奇跡は起こるものだろう?」
「奇跡、ね。奇跡なんてのはね」
パチュリーはレミリアの言葉を、思いを断ち切るように告げる
「偶然の別名よ。なにかのはずみで『神様』という膨大な魔力が、外に零れ出て、それが因果を歪めた結果を好意的に呼んだだけよ。現に、貴女の眼で見えた未来が覆ったっていう話だって、因果が狂っただけの話じゃない」
こんなのは魔女の初歩よ、とパチュリーは締めくくると、ゆっくりと椅子から立ち上がり、レミリアが未だ陣取るベッドへと歩み寄る。
「誰も救ってくれないから、自分で救うしかないのよ、レミィ」
そう言って、レミリアへと手を伸ばす。レミリアはその手を取りベッドから降りると、分かったわ、とだけ告げる。その言葉の意味にパチュリーは頷きを一つ返す。
「水に落ちたからって叩いてくれるなよ、魔女」
「時と場合によるわ、吸血鬼」
そう言い合うと互いに笑って顔を見合わせ、そして寝室の扉へと歩を進める。
「それじゃあ、行きましょうか、レミィ」
「そうね、パチェ。東の果て、幻想が集まる世界とやらへ」
二人のやりとりが面白かったです!
面白かったです
この一文に反応したのは自分だけか?!
二人のやり取りが原作っぽく、いい掌編だったのにそこが気になるよ!!