守矢神社には1人、妖怪が居た。
ただ、特別害もなく、さしたる問題も起こさないので、守矢神社の2柱はこれを見逃している。
「ふーんふふふーん♪」
しかし、見逃しているという表現はこの場合は違う。正しくは『見逃さざるを得なかった』のだ。
実は以前、守矢の2柱はその妖怪を追い出そうとした事がある。
神社に妖怪が居れば、やはり体裁が悪い。引いては人々の信仰が下がる事に繋がるかも知れぬ。
守矢の2柱にとってこの考えは当たり前だったし、周りから見ても筋が通っているだろう。
この事より、守矢の2柱は妖怪を追い出すことに踏み切ったのだ。
「ふーんふふふふふふーん♪」
その結果がこれだ。
その妖怪は能天気に鼻歌を歌っている。彼女には、かの守矢の2柱を上回る力があるのだろうか。頭が悪そうで、ぼやーっとしているこの妖怪が。
髪も服も水色に統一され、目の色を除けば、ただの可憐な少女にしか見えない。この妖怪が乾坤を自在に操り、強大な力を持つ守矢の2柱を凌ぐ力を有しているのか。
そんな彼女は今部屋の中に傘を持ち込み、台所で料理の支度をしている。慣れた手つきから、長い間ここに住んでいることが伺える。
「神奈子、今しかないよ」
「わかってるわ。諏訪子」
台所の後ろから、ひそひそと喋り声がする。
守矢の2柱だ。
「いい?早苗が帰って来るまでに追い出そう」
「了解」
ああ、これがかつて、人々の信仰を一身に浴びていた2柱の姿とは思えない。
水色の妖怪の背後を突くように、こそこそと移動する背中は、ただの臆病者ではないか。
しかし、それだけ水色の妖怪が恐るべき存在だという事なのか。
「いくよ。3」
「2」
「1」
「「GO!!」」
完璧な呼吸。完璧な連携プレー。これが長く連れ添った2柱の真の骨頂だ。
右から諏訪子、左から神奈子が同時にとびかかる。
―――しかし。
なんという事だろう。水色の妖怪は振り向きもせずに星形の弾幕を放ち、一瞬にして2柱をねじ伏せてしまった。
可憐な外見から一転して凶悪かつ、強大な弾幕だ。
「お2柱方~。何度言ったらわかってくれるんでしょうかね~?」
水色の妖怪、ではなく横から現れた緑色の化け物・・・・・・もとい、現人神の早苗が言った。
どうやら今の星形弾幕は早苗のものであったらしい。
早苗の姿を認めて、震え上がる2柱。
「いや、違うんだよ!早苗!これは・・・その・・・」
「小傘ちゃんの手伝いをしようと思って。ね!諏訪子!」
「そう!神奈子の言うとおり!いつもお手伝いしてくれる小傘ちゃんを労おうって神奈子と決めたんだよ。ねー?」
「ねー?」
完璧な呼吸。完璧な連携プレー。これが長く連れ添った2柱の真の骨頂だ。
打ち合わせなしに、矢継ぎ早の言い訳の応酬。磨き抜かれた2柱の技が今輝く。
「言い訳は無用です」
だが、早苗には通じない。あっという間に見抜かれてしまった。
「以前も言ったように、私の小傘さんに触れる事は誰であろうと断じて許しません」
強い意志できっぱりと言い放つ早苗に諏訪子は涙を流し、神奈子は神を呪った。
果たして今の早苗に信仰心はあるのか?2柱は疑問を持たざるを得ない。
「わかってくれましたか?」
「うんうん」「うんうん」
とにかく、早苗と『小傘さんから半径10m区間には10分以上存在してはならない』という取り決めがあるため、ここは退かなくてはならない。
早苗をこれ以上、怒らせたくはないので、そそくさと部屋を後にする2柱。・・・背中がいつもより小さく見える。
敬愛するべき2柱を見送り、早苗は笑顔で小傘の方へ向かう。
「ふふふ~ん♪」
今の騒ぎにまったく気付いていないのは流石小傘、と言うべきか。
早苗直伝の料理がテーブルに4人分並んでいる。
ここに住むようになってから、長い期間をかけて少しずつ料理が上達していった小傘。今ではキッチンを任される時が、あるほどになっていたのだ。
小傘自身も押しつけられているとは考えてなく、早苗の役に立てるならいいかな程度に考え、楽しみながらやっている。
なぜそこまで早苗に尽くすのは不明だが、本人いわく、『早苗はいじわるだけど行く当てのない私に居場所をくれたの』だ、そうだ。
他意はないのか、と問えば、『な!ない!別に私・・・早苗なんて・・・す、好きでもなんでもないっ!』と顔を赤らめながら、否定していたので、実際、他意はないのだろう。
その質問を答えた場に早苗も居て、何故か早苗は目の前で好きでもないと言われたにもかかわらず、終始笑顔だったという。
「ふふ~んふふふ~ん♪」
話を戻そう。現在早苗は小傘の背後にぴったりとくっついている。小傘はまだ鼻歌を歌い、洗い物に夢中で、早苗には気づいていない。
早苗は含み笑いをすると、小傘のスカートの裾を掴み、一気に捲り上げた。
「ひゃぁあああああ!!」
驚いた声を聞いた人のほうが驚きそうな、素っ頓狂な声をあげる小傘。
「さな、早苗!なにするのっ!?」
「いえ別に」
早苗さんはご満悦のようです。
早苗は小傘に考える暇を与えないよう、間髪入れずに話しかける。
「食事の用意、ご苦労様です。ところで、その傘を貸していただけませんか?」
「え、これ?」
小傘の濃紫色の傘を示して早苗は尋ねた。
小傘は逡巡した後、快諾する。
「ん~大事な物だから大切に扱ってね」
「ありがとうございます」
室内で傘なんてどうするのだろう、と思って早苗を見つめる小傘。
すると、早苗はニコッと笑う。
つられて小傘もニコッと笑う。
バッサァー!!
「あああぁぁぁあぁあ!!」
早苗は傘を開き、躊躇いもなく全力で振り下ろす。はい、見事な蝙蝠傘の出来上がり。
小傘は早苗からわざわざ手渡しされた傘を見て嘆く。
「な、なんでこんな事するの!?」
「いえ別に」
早苗さんはご満悦のようです。
再び早苗は間髪入れずに話しかける。
「おや、小傘さん。今虫歯ができていませんか?歯が黒くなっている部分が見えましたよ」
「えっ、嘘」
「どれ、私に診せてください。小傘さん、あ~してください」
「あ~~~」
小傘は言われた通り大きく口を開き、早苗に見せる。
毎日、早苗に歯を磨いてもらっている小傘に虫歯などない。しかし、早苗は堂々と嘘をつく。
「あ~これは酷いですね。全ての歯が虫歯です」
「ぜ、全部!?こわいよ・・・私・・・死んじゃうの・・・?」
「でもご安心ください。私が秘薬を持っています」
「ホント!?早苗凄い!!」
それを聞いて目を輝かせる小傘。
早苗は虫歯は死の病、と嘘を吹き込み、虫歯になるはずもない妖怪である小傘の歯磨きを自らが行っているのだった。愛ですね。
そんな事も知らず、小傘は早苗に薬をちょーだい、ちょーだいと、おねだりを始めた。
「そんな事しなくてもちゃんと渡しますよ。ふふふ・・・それでは今から薬を取ってくるので、小傘さんはここで逆立ちをして待っていてくれませんか?」
「えっ!どうして?」
「残念ながらその秘薬は逆立ちをしてからではないと、効果が出ないのですよ」
「う~ん・・・じゃあ仕方ないねっ!」
「小傘さんはいい子です。では私が戻ってくるまで、逆立ち頑張ってください。途中で止めてはいけませんよ。止めたら最初からやり直しなので」
「う、うん!頑張る!」
なんの疑いもなく、言われた通り壁に向かって逆立ちをする小傘。
それを見届け、早苗はゆっくりと緩慢に部屋を後にする。
30秒経過。
「ううう・・・死にたくないよぅ。死ぬのこわいよぅ・・・」
1分経過。
「早苗まだかなぁ。どれくらい、こうしてればいいのかなぁ」
1分30秒経過
「あ!スカートが捲れ・・・・・・。ううう・・・早苗ぇ・・・はやく来てぇ~」
2分経過
「あ!早苗!もういいの!?・・・・・・え?まだなの?あ、・・・・・・そう・・・」
2分30秒経過
「早苗ぇ・・・腕が痛いよぅ・・・。あと、スカート直してくれると嬉しいんだけど・・・・・・。えっ!それも駄目なの!?ど、どうしてなのさ・・・・・・」
3分経過。
「早苗ぇ・・・頭に血が・・・・・・。あと、あんまり見ないで・・・恥ずかしいよ・・・」
5分経過。
「はい、いいですよ」
「あううう・・・」
ようやく早苗からのお許しが出た。小傘は倒れ込むように床に寝転ぶ。
長い間逆立ちをした小傘の頭は、血が登り、朦朧としていた。
「く、薬、頂戴・・・」
「はい、これです。一気に飲んでください」
そう言って早苗が取り出したのは赤い液体の入った小さな小瓶。
「こ、これで・・・虫歯が・・・治る」
小傘は何の躊躇いもなく、早苗に言われた通り、一気に飲み干す。
しかし、飲みきる前に小傘は赤い液体を吹き出してしまった。
その様子を見て早苗はニッコニコしていた。
「げ、げほぉっ!ごほぉっ!なにこれぇっ!?からい!かりゃい!かりゃいとおりこして、いたぁい!うああああぁぁぁあぁあ!!」
「当然です。唐辛子を煮詰めただけの液体ですから」
辛さに喘ぎながら小傘は声を絞り出す。
「な、にゃんでっ、こんな!こんにゃものっ!のませるの!?」
「いえ別に」
早苗さんはご満悦のようです。
「それより、小傘さん。これをどうぞ。水ですよ」
「あ、ありあとう」
早苗が渡した水は明らかに濁っている。だが、小傘は何の疑いもなく、一気に飲み干す。
しかし、飲みきる前に小傘はその濁った水を吹き出してしまった。
「ああああぁぁぁあぁあ!!うああああぁぁぁあぁあ!!んんんんんんんんん!?」
「え?なんて言ってるかわかりませんよ。まぁ、今渡したのは私特製のわさびジュースです。美味しいでしょう?私は飲んだ事ありませんが」
早苗さんはご満悦のようです。
「み、水う!さ早苗ぇ!水!!」
「はいはい」
3杯目にしてようやく水を貰えた小傘。音を立て、一気に飲み干した。
口の中の刺激物が流されていく。
小傘は涙目になりながら早苗に抗議する。
「ごほっ。ごほっ。う~酷いじゃない、早苗!」
「では、食事も出来ているようなので、私は神奈子様と諏訪子様を呼んできますね」
「え?あ、うん。わかった」
そう言って、早苗は襖を開き、すたすたと出て行ってしまった。
ポツンと部屋に残された小傘と蝙蝠傘。
「・・・・・・あれ?早苗?」
早苗にガツンと言ってやろうと思っていた小傘。
しかし、早苗はすでに居ない。
「・・・あれぇ?」
□ □ □
次の日夕刻。
陽はすでに沈み始め、今はもう夕方を過ぎている。
今日の守矢神社には、早苗の悲声がこだましていた。
「こここ小傘さんが、帰ってきません!!小傘さーん!!小傘さーん!!こ・が・ささーん!!返事してくださーい!!」
普段の不敵な顔つきとは違い、涙目で慌てた表情をしている。
おろおろと狼狽し、なんとも情けない顔だ。
「ああ、心配です!小傘さんは可愛らしいので誰かに連れ去られていたら、どうしましょう!こんな事になるなら小傘さんにお使いを頼まなければ良かったです!」
早苗は落ち着きなく守矢神社の境内を右往左往する。お使いに行く小傘を見送っているというのに、神社内のあちこちを見て回る。
ところで『早苗は小傘にお使いを頼んでいた』。これは実を言うとかなり珍しい事である。それというのも、早苗が小傘を可愛がり、1人では外出させないからだ。
しかし、この日は違った。早苗は小傘1人で買い物に行かせたのだ。何故であろうか?
答えは、・・・早苗が小傘に頼んだ物が官能小説だったからである。
無論、早苗はそんなものに興味などない。
早苗が興味あるのは、小傘がそれを買う時に発生する小傘の羞恥心だった。帰ってきたら、さらに、朗読させようとも考えていた。
しかし、買いに行かせた小傘が帰ってこない。早苗の中で最悪なパターンがいくつも浮かぶ。
「うう・・・・・・もし、誰かに誘拐されていたらどうしましょう・・・・・・。ぐすっ。誘拐犯を解体する位では気が済みません・・・。鉋(かんな)で足の指の先から削って止血して削って止血して削って止血して削って止血して削って止血して削って止血して削って止血して削って止血して削って止血して削って止血して削って止血して削って止血して削って止血して削って止血して削って止血して削って止血して削って止血して・・・・・・・・・・・・ああ、こんなんじゃまだまだ気が済みません!!小傘さーん!!」
常人の発想を軽く飛び越え、恐ろしい拷問を声高にして叫ぶ早苗。
声を聞きつけた守矢の2柱が呆れた顔をしてやってきた。
「早苗・・・・・・せ、せめてもうちょっと小さな声で・・・」
「諏訪子様!神奈子様!小傘さんはどこにいるのですか!」
「え・・・さ、さぁ?神奈子知ってる?」
「いや、知っているはずないわ」
「だよねぇ・・・」
「だったら、探しに行きましょう!」
諏訪子と神奈子は呆れた。早苗は自身に原因があるとは思っていないのか?
神奈子は早苗に言う。
「早苗、単純に小傘ちゃんは家出したのではないのか?」
その言葉を聞き、早苗は目を剥き否定する。
「何故ですか!?小傘さんは家出するような子ではありません。それにここが気に入っているとも言ってくださいました!」
ここが気に入っている、というのは初耳だ。しかし、実際、家出したと考える2柱は、確信をもって早苗に告げる。
「だからぁ、小傘ちゃんは早苗のイジメに耐えかねて出て行っちゃったんだよ。
ね~神奈子」
「ね~」
それを聞いてさらに早苗の否定に熱が入った。
「そんな事ありません!今まで、スカート捲りは毎日、蝙蝠傘は38回、言葉責めは104回、その他『早苗式さでずむ大全』の各項目を50回程度してきました!たった、これだけの事で逃げ出すなんて、ありえま・・・せ・・・・・・ん?」
語尾が小さくなっていく。一応自覚はあったようだ。
その言葉を聞いて、2柱はさらに呆れ果て、小傘はよく今まで家出しなかったな・・・と思った。
「いや、そんな・・・まさか・・・。私は小傘さんも受け入れてくれているとばかり・・・」
「まぁ、実際、家を出て行っちゃったんだから、小傘ちゃんは早苗が嫌いだったんだろうねぇ~」
「あっ!諏訪子馬鹿っ!」
諏訪子の空気読めないその一言が早苗の心を砕いてしまったようだ。
早苗は一気に大人しくなり、声に抑揚がなくなった。壊れたラジオのように『小傘さんは私が嫌い小傘さんは私が嫌い』という言葉をリピートする。
「ああ・・・そうなんですか。小傘さんは私が嫌いですか。そうですよね。そうでしたね。ははっ私は小傘さんが居なければ、どうやって生きればいいんでしょう?・・・あはっ・・・これでは夜も寝られませんね・・・あはは・・・小傘さん・・・次のご主人は私と正反対の方だと良いですね・・・あはははははははは・・・」
かなり悲劇的なセリフだが、普段、早苗が小傘にしている事を思うと、あまり同情できない2柱だった。
「・・・今日は飲み明かそうね、神奈子」
「・・・ええそうね、諏訪子」
しかし、2柱は目配せすると、互いにほろりと涙を流し、小傘を捜しに出て行く。
ようやく神社から妖怪が居なくなったというのに、何だかんだで彼女たちは早苗には甘いのだった。
□ □ □
守矢神社入り口に緑髪の少女がむせび泣いている。早苗だ。既に神奈子と諏訪子は、捜索を断念し、明日に備えていた。
早苗は鳥居にもたれかかり遠い目をする。
・・・私は何をしているのだろうか。
小傘はもう帰ってこない。そう決めたのに、早苗はまだこうして小傘の帰りを待っていた。
退屈で地面を蹴っていたため、早苗の足下には大きな穴があいている。
陽はとうに暮れた。
早苗は夜の妖怪でもないため夜目がきかない。そのため長い長い守矢神社の階段の全景は見渡せなかった。
それでも、それでも。早苗は濃闇に水色を見出そうと目を凝らす。
・・・もう少し、優しくしていればこんな事にはならなかったのでしょうか?
早苗なりに、小傘を可愛がっていたつもりだ。多少のイジワルはあれど、嫌いになったつもりはない。
そのうち、早苗は目を凝らすのも疲れた。瞼を閉じ、冷たい空気を吸う。
・・・もう戻りましょう。神奈子様も諏訪子様も、もう戻られたようですし。
だが、早苗の足は地面に縫い付けられたように動かない。未練が早苗の足に絡み付いているようだ。
さらに、早苗はその場に座り込んでしまった。
・・・ああ、疲れた。今日はここで寝てしまいましょうか?お2柱方に叱られますかね?
早苗は膝を抱える。
瞼を閉じていたせいか、風が木々を揺らす音がよく聞こえる。小さな虫の声も、騒音に聞こえる。
その中に異質な音があった。
カラン、コロン
宵闇に中に、奇妙な音が響く。
カラン、コロン
一定のリズムを保ち、音は次第に大きくなっている。
カラン、コロン
どうやらこれは足音のようだ。階段を1つずつ上っているらしい。
姿は見えないが、陽気な足音が近づいてきた。
・・・この音は!
早苗は再び立ち上がり、目を凝らす。
ずっと瞼を閉じていたせいか、少々、闇に慣れたようだ。
カラン、コロン
カラン、コロン
「あれ?早苗?」
暗闇の中には不釣合いな子供っぽい声が響く。早苗にはよく聞きなれた声だ。
手にはいつもの不恰好な傘と買い物袋を持っている。
「小傘さん・・・」
「ただいまー。どうしたの早苗?こんなところで何してるのっ?あっ、私の事心配してくれたの?」
「なっ、そんな訳ないじゃないですか!」
「ちぇっー」
小傘に聞きたい事、言いたい事が早苗にはたくさんあった。
もちろん、早苗は小傘を心配していたし、ずっと帰りを待っていた。だけど早苗の口から滑り出たのは否定の言葉だった。
早苗は無言で小傘を見つめる。
「・・・・・・」
「どうしたの早苗?」
「いえ別に」
そういって、早苗は小傘を抱きしめる。
「わわっ!?ほ、ほんとにどうしたの早苗?」
「いえ・・・別に」
突然の出来事に小傘は頭がついていかないようだ。早苗に大人しく抱きしめられながら、いつもの早苗らしくないなぁ、と考えた。
早苗は小傘の頭の上にあごを乗せ、呟く。
「1つ、質問があります」
「えっあっ、・・・うん」
帰りが遅くなったため怒られると考えた小傘は身を強張らせる。
「あの・・・その・・・・・・わたしが・・・あ、いえ・・・私の事をイジワルだと思いますか?」
「え?」
小傘は予期せぬ質問に、頭を捻る。
「で、ですから、私のイジワルをどうお考えですか?」
「早苗は私の事嫌いなの?」
今度は早苗が頭を捻る番だ。
「は、はぁ?」
「違うよね?私の事好きだから、イジワルするんだよね?」
「・・・えっ。・・・・・・ま・・・ま、まぁ・・・」
「だったら別にいいよ」
すると、小傘はニコッと笑う。
つられて早苗もニコッと笑う。
「こら。いつのまに、こーんな生意気な口を利くようになったんですかねぇ?」
早苗は小傘の頭を小突く。
「うっ。ごめんなさ・・・」
ふと、小傘が早苗の顔を見上げると、頬に雫が流れていた。
「!どうしたの早苗っ。泣いてるの?」
「いえ、雨でも降ってきたのでしょう。まぁ、大丈夫です。『小傘さんが居ますし』。」
「?・・・うん」
小傘は疑問に思いながらも、傘を開く。
・・・雨降ってるのかなぁ?
疑問を打ち払うように早苗が口を開いた。
「小傘さん、もう1つ、質問がありました」
「えっあっ、・・・うん」
「何故、こんなに帰りが遅いのですか・・・?」
「ひぃっ・・・」
早苗の目は決して笑ってはいない。
蛇に睨まれた蛙状態の小傘。
小傘は身を震わせながら、必死に言い訳を始める。
「だだだって、は、恥ずかしかったんだもんっ!!こんな本を他の人に見られたくなかったんだもんっ!!」
小傘は慌てて、早苗に買い物袋を渡す。中に入っていたのは早苗の言いつけ通りの官能小説。
タイトルは『SM地霊殿~ミドルミドル~』。
・・・小傘なりに早苗の趣味を考えた結果だった。
どうやら、小傘はお店の人になかなか本を渡せなくて、立ち往生していたらしい。しかし、かなりの長い時間、SM地霊殿を持ち歩いていた小傘はかなり目立っていたに違いない。
「まぁ、いいでしょう。ただ、遅くなった罰としてこれを朗読してもらいます。感情をこめてやらないと、やり直しさせますからね」
「ええーっ!!無理だよぉ!」
「拒否権はありません。遅くなった小傘さんが悪いのですから」
「うう・・・・・・」
うなだれる小傘を見て、早苗はクスクス笑う。
ふと、早苗が小声で小傘の耳元でささやいた。
「そうだ、小傘さん・・・目を・・・閉じてくれませんか?」
「え!」
小傘は突然の早苗の真剣な眼差しにドキッとする。
「お願いします」
「う、うん」
今日の早苗はいつもより真摯だ、と思いながら言われたとおり、ある期待をして目を閉じる小傘。
「いきますよ」
「は、はい・・・」
小傘は更に緊張で身を固くする。
早苗の吐息が近づいているような気がした
早苗と小傘が少しずつ、少しずつ、距離を詰める。
そして、ついに・・・
「こがにゃーん」
小傘が慌てて目を開き、手を上げ頭部を確認すると、ネコミミのカチューシャがつけられていた。
「な、な・・・」
「ふふふ・・・なにを期待しましたか?」
「ち、違っ」
「ああもう、顔真っ赤にして。可愛いですね。可愛いですね、小傘さん。ネコミミもよくお似合いですよ。でも、まだ小傘さんにキスは100年早いです」
「キ!・・・・・・ば、馬鹿にしないでよっ!」
小傘は勝ち誇ったように笑う早苗を見てずるい、と思った。
同時に期待していた、自分を少し恥ずかしく思う。
さっさと神社に戻ろうと上機嫌に歩いている早苗の後ろ姿を恨めしげに見つめる。
「早苗ぇ!」
このままでは、あまりにも悔しい。何か仕返しをしたい。
「はいはい」
「うらめしやっ」
振り向いた早苗に全力で驚かしてみた。しかし、早苗は溜め息をつく。
「はぁ、あなたはそれしか驚かし方を知らないのですか?」
「むむむ・・・」
全く驚きの様子を見せない早苗に小傘は苛立ちを覚える。
ここで早苗は1つ、アドバイスをする。
「小傘さん。良いことを教えてあげましょう。人が驚くのは何も、恐怖を感じた時だけではないのですよ?」
「え?」
早苗はそう言ってまた背中を向け、歩いて行く。
それは知らなかった。
恐怖以外で驚かす事ができるのか?それならば早苗さえも驚かせるのか?
では、どうすればいいのか?
「!」
いい案が浮かんだ。
「早苗ぇ!」
先を歩いている、早苗を追いかける。
「はいはい。って、え?」
体当たりをするように、小傘は一生懸命背伸びをして、早苗に口付けを交わす。
早苗は驚いた表情を見せ、それでも、慈しむように小傘を抱く。
しばらくして、早苗の柔らかな唇の感触に舞い上がりながら、小傘は唇を離す。
「お、驚いた!?」
「はい、驚きました」
「ふ、ふん。恐れ入ったか!」
「はい、恐れ入りました」
「よ、よし」
その言葉を聞くと、小傘は早苗の手を振り解き、満足して神社へ走って行った。
「・・・やれば出来るじゃないですか」
まだ、唇に残る感触。
早苗は高鳴る鼓動と共に、明日はいつもよりもっと、いじめてあげようと心に決めた。
小傘
素晴らしいこがさなでした!!そして小説も気になる!
早く・・・続きを・・・
小傘ちゃんへのいたづらっぷりに『いいえ、妖怪退治です』が思い起こされた。
神様達……(涙)
小傘ちゃんから半径10m以内ってそれ遠まわしに出て行けって言ってるんじゃないのかww
あと、一つ重要なことがある。結局小傘ちゃんのスカートの中はどうだったんだ?
>退屈で地面を蹴っていたため、早苗の足下には大きな穴g
なん…だと…
こがさなはいっそもう結婚しちゃえよ!!