「ん~……ん」
ぐっと、伸びをして、未だ眠りのふちに引っかかっている身体をムリヤリ起こし、わたしは起き上がった。まだ、眠りたりないのが明白だ。半開きの目を擦りながら、顔を洗いに行こう、といつものようにぴょんと飛んでベッドから降りる。
そのときだ、わたしは途方もない違和感を感じのよ。そう、まるでプリンに醤油をぶっかけたような、奇妙な違和感を。
「ふぎゅ!」
一歩、ひょい、と飛び出した瞬間、わたしは顔面から地面に着地したのだった。
毛足の長い赤い絨毯が衝撃を殺してくれたような気がしたけど、痛いものは痛かった。
眠気も一気に覚めてしまって、思わずとも涙が出た。
起き上がって、赤くなっているであろう鼻を撫でる。
あ、痛い……鼻血とかでてないよね?
垂れている感じはしないので、きっと何も出ていないはずだ、と自分に言い聞かせた。
痛かったけど。
「なんなのよ、いったい!」
そう振り向いて、わたしは違和感の原因を目撃したのだ!
「え?」
わたしの羽の、ひし形の宝石っぽいアレ、または石のような物体が、二、三個消えていたのだ。左のほうから。きっとそのせいでバランスが取れなかったのだ。きっと。わたしのせいじゃない。
わたしは、ベッドに近寄って、アレを探そうとしてみたが、その前に小さな膨らみを発見。胸じゃないよ。
ベッドのシーツに包まっている、小さな何か。
ごくん、と唾を飲み込み、わたしは恐る恐る、シーツを剥いだ。
「あ……」
そこに、寝巻き姿の姉が寝ていたのでした。
寝ていただけならよかったよ、正直。
丸くなって、気持ち良さそうに寝ている姉の口がもごもごと動いていた。そう、動いていたのよ。
わたしは、姉の口を引っ掴んで、ムリヤリこじ開けた。
ピンク色の口の中に、小さな、どこかで見た欠片がいくつかあった。手を突っ込んで取ってみる。よだれがついて、生暖かかった。やだなぁ。赤い欠片。うん、感触もぴったり同じ。
と、言うことは、
「お姉様?」
「んー? フラン? おあよう」
ごしごしと目を擦りながら起き上がるお姉様。さっきとは別の意味で鼻血が出そうになったけど我慢。震えるこぶしを握り締めて、のんきに欠伸なんぞをしている姉に突きつける。
「食べたよね?」
「ふぇ?」
「お姉様、食べたよね?」
「な、なにを?」
混乱しているのか、焦ったような表情。ああ、だめ。いぢめたくなる。
我慢。
わたしはちょいちょいと羽を指差し、お姉様の口を指差し、片手に持っていた欠片を突きつける。
もう一度、問う。
「食べたよね?」
「えーっと」
目を逸らすな。
「食べたよね?」
「う……あぅ」
「食べたよね、わたしの羽」
「…………はい」
「どうだった」
お姉様はそれでも涙目で答える。
「とっても美味しかったわ」
「さいですか」
その日、わたしの部屋が吹き飛んだのは言うまでもないこと。
▼
なぜか生きていたお姉様から、パチュリーが呼んでいた、と言うことを聞き、わたしは図書館に向かって、ふらふらと移動していた。羽が片方なくて重い。右側にゆらゆらふらふら。いくら廊下が広くたって限界はあるわけで、
「あいた!」
壁に頭ぶつけた。
頭を撫でながら、コブとかできないよね、と思ったりした。
「もぅ、いったいなんなのよ」
はぁ、とため息、図書館の扉は目の前だ。
わたしはゆっくりと図書館の扉を開けた。
さて、パチュリーはどこかなっと?
「おーい、来たよー」
「私は、あなたの後ろにいるわ」
ぼそ、と首筋の辺りから声。
「うひゃあ!」
わたしは飛び上がって、つんのめって、またこけた。床に転がったまま、パチュリーに抗議する。
「今度から、もうちょっとまともな登場して」
「ごめん、無理」
「……そう」
うん。
「ところで、今日は何の用なの?」
「ああ!」
ぽん、と手を打つパチュリー。
忘れてた?
「そうそう、ちょっとね、妹様?」
「うん?」
「ちょっと食べさせて」
「は?」
いったいなにを言い出すのか。しかし、パチュリーの顔は至って真剣。わたしは頬が熱くなるのを感じた。
うあ、これ、赤くなってないよね?
だっていきなり食べさせて、だよ? 性的な意味じゃないよね? そうじゃないで下さい。
「いきなりなにを言っているのよ?」
平静平静。
「いや、それ」
ひょい、と指差すはわたしの背中。
羽についている例のアレ。
「え、これ?」
ため息。
ひとまず安心……じゃない!?
「……食べれるの?」
「ええ、レミィから聞いたわ」
「まじで?」
「うん」
と、目にも留まらない速さでわたしの背後を取ると、パチュリーはわたしの羽から、ひし形のそれを、取っていった。ぷつん、って、簡単に取れたの、それ!?
そして、それを口に入れたパチュリーはもの凄い勢いで吹っ飛んだ。そして何故か喘息が治った。身体中から光を発しながら、パチュリーはただ一言、
「うまぁいぞぉおお!」
と叫んでぶっ倒れた。
わたしはどうすることもできずに部屋に戻った。
▼
道中、多数のメイドや咲夜までもが、わたしの背中のアレを取っていった。
皆が皆、一つの例外もなく、ぶっ飛んでぶっ倒れた。
それくらい美味しかったらしい。
しかし、わたしの背中にはもう、茶色い棒しかついてなかった。
未だに破壊の後の残る部屋の中央で、わたしは座り込んで考えた。いったいこれはなんだったのだろうか、と。なにか、覚えがある。いつか、どこかで聞いたような、見たような。
部屋の端っこでベッドに埋もれたお姉様が、おそらくきっと全裸でしくしく泣いていた。
けれど気にしない。
考えて、考えた末に、わたしは次の行動に出た。
「よ、いしょ」
ぷちん、と茶色い棒が抜けた。
臭いを嗅いでみたら、甘い臭いがした。
ぱくっと一口、
「――――!」
衝撃が頭を貫く。
そう、それはまるで大宇宙の偉大さに飲み込まれ、クトゥルフの信者が踊り狂っているかのような奇怪さを持って、わたしの脳内にカオスちっくな魔法少女の味をダイレクトに伝えた。雄大な草原の向こうに雄雄しくそそり立つ、三本足の扇風機のような清々しさ。それでいてしつこくなくて、まったりとしていて、どこか優しさを感じさせる。貌のないスフィンクスに抱き締められるかのような――――もう止めよう。意味不明になってきた。
そうして、わたしは思い出した。
ぱくり、と最後の一口を口の中に押し込んで、手を打ち鳴らした。
「――そうだ、冷蔵庫にスペアがあったっけ」
そうして、わたしは台所に向かうのだった。
[了]
ぐっと、伸びをして、未だ眠りのふちに引っかかっている身体をムリヤリ起こし、わたしは起き上がった。まだ、眠りたりないのが明白だ。半開きの目を擦りながら、顔を洗いに行こう、といつものようにぴょんと飛んでベッドから降りる。
そのときだ、わたしは途方もない違和感を感じのよ。そう、まるでプリンに醤油をぶっかけたような、奇妙な違和感を。
「ふぎゅ!」
一歩、ひょい、と飛び出した瞬間、わたしは顔面から地面に着地したのだった。
毛足の長い赤い絨毯が衝撃を殺してくれたような気がしたけど、痛いものは痛かった。
眠気も一気に覚めてしまって、思わずとも涙が出た。
起き上がって、赤くなっているであろう鼻を撫でる。
あ、痛い……鼻血とかでてないよね?
垂れている感じはしないので、きっと何も出ていないはずだ、と自分に言い聞かせた。
痛かったけど。
「なんなのよ、いったい!」
そう振り向いて、わたしは違和感の原因を目撃したのだ!
「え?」
わたしの羽の、ひし形の宝石っぽいアレ、または石のような物体が、二、三個消えていたのだ。左のほうから。きっとそのせいでバランスが取れなかったのだ。きっと。わたしのせいじゃない。
わたしは、ベッドに近寄って、アレを探そうとしてみたが、その前に小さな膨らみを発見。胸じゃないよ。
ベッドのシーツに包まっている、小さな何か。
ごくん、と唾を飲み込み、わたしは恐る恐る、シーツを剥いだ。
「あ……」
そこに、寝巻き姿の姉が寝ていたのでした。
寝ていただけならよかったよ、正直。
丸くなって、気持ち良さそうに寝ている姉の口がもごもごと動いていた。そう、動いていたのよ。
わたしは、姉の口を引っ掴んで、ムリヤリこじ開けた。
ピンク色の口の中に、小さな、どこかで見た欠片がいくつかあった。手を突っ込んで取ってみる。よだれがついて、生暖かかった。やだなぁ。赤い欠片。うん、感触もぴったり同じ。
と、言うことは、
「お姉様?」
「んー? フラン? おあよう」
ごしごしと目を擦りながら起き上がるお姉様。さっきとは別の意味で鼻血が出そうになったけど我慢。震えるこぶしを握り締めて、のんきに欠伸なんぞをしている姉に突きつける。
「食べたよね?」
「ふぇ?」
「お姉様、食べたよね?」
「な、なにを?」
混乱しているのか、焦ったような表情。ああ、だめ。いぢめたくなる。
我慢。
わたしはちょいちょいと羽を指差し、お姉様の口を指差し、片手に持っていた欠片を突きつける。
もう一度、問う。
「食べたよね?」
「えーっと」
目を逸らすな。
「食べたよね?」
「う……あぅ」
「食べたよね、わたしの羽」
「…………はい」
「どうだった」
お姉様はそれでも涙目で答える。
「とっても美味しかったわ」
「さいですか」
その日、わたしの部屋が吹き飛んだのは言うまでもないこと。
▼
なぜか生きていたお姉様から、パチュリーが呼んでいた、と言うことを聞き、わたしは図書館に向かって、ふらふらと移動していた。羽が片方なくて重い。右側にゆらゆらふらふら。いくら廊下が広くたって限界はあるわけで、
「あいた!」
壁に頭ぶつけた。
頭を撫でながら、コブとかできないよね、と思ったりした。
「もぅ、いったいなんなのよ」
はぁ、とため息、図書館の扉は目の前だ。
わたしはゆっくりと図書館の扉を開けた。
さて、パチュリーはどこかなっと?
「おーい、来たよー」
「私は、あなたの後ろにいるわ」
ぼそ、と首筋の辺りから声。
「うひゃあ!」
わたしは飛び上がって、つんのめって、またこけた。床に転がったまま、パチュリーに抗議する。
「今度から、もうちょっとまともな登場して」
「ごめん、無理」
「……そう」
うん。
「ところで、今日は何の用なの?」
「ああ!」
ぽん、と手を打つパチュリー。
忘れてた?
「そうそう、ちょっとね、妹様?」
「うん?」
「ちょっと食べさせて」
「は?」
いったいなにを言い出すのか。しかし、パチュリーの顔は至って真剣。わたしは頬が熱くなるのを感じた。
うあ、これ、赤くなってないよね?
だっていきなり食べさせて、だよ? 性的な意味じゃないよね? そうじゃないで下さい。
「いきなりなにを言っているのよ?」
平静平静。
「いや、それ」
ひょい、と指差すはわたしの背中。
羽についている例のアレ。
「え、これ?」
ため息。
ひとまず安心……じゃない!?
「……食べれるの?」
「ええ、レミィから聞いたわ」
「まじで?」
「うん」
と、目にも留まらない速さでわたしの背後を取ると、パチュリーはわたしの羽から、ひし形のそれを、取っていった。ぷつん、って、簡単に取れたの、それ!?
そして、それを口に入れたパチュリーはもの凄い勢いで吹っ飛んだ。そして何故か喘息が治った。身体中から光を発しながら、パチュリーはただ一言、
「うまぁいぞぉおお!」
と叫んでぶっ倒れた。
わたしはどうすることもできずに部屋に戻った。
▼
道中、多数のメイドや咲夜までもが、わたしの背中のアレを取っていった。
皆が皆、一つの例外もなく、ぶっ飛んでぶっ倒れた。
それくらい美味しかったらしい。
しかし、わたしの背中にはもう、茶色い棒しかついてなかった。
未だに破壊の後の残る部屋の中央で、わたしは座り込んで考えた。いったいこれはなんだったのだろうか、と。なにか、覚えがある。いつか、どこかで聞いたような、見たような。
部屋の端っこでベッドに埋もれたお姉様が、おそらくきっと全裸でしくしく泣いていた。
けれど気にしない。
考えて、考えた末に、わたしは次の行動に出た。
「よ、いしょ」
ぷちん、と茶色い棒が抜けた。
臭いを嗅いでみたら、甘い臭いがした。
ぱくっと一口、
「――――!」
衝撃が頭を貫く。
そう、それはまるで大宇宙の偉大さに飲み込まれ、クトゥルフの信者が踊り狂っているかのような奇怪さを持って、わたしの脳内にカオスちっくな魔法少女の味をダイレクトに伝えた。雄大な草原の向こうに雄雄しくそそり立つ、三本足の扇風機のような清々しさ。それでいてしつこくなくて、まったりとしていて、どこか優しさを感じさせる。貌のないスフィンクスに抱き締められるかのような――――もう止めよう。意味不明になってきた。
そうして、わたしは思い出した。
ぱくり、と最後の一口を口の中に押し込んで、手を打ち鳴らした。
「――そうだ、冷蔵庫にスペアがあったっけ」
そうして、わたしは台所に向かうのだった。
[了]
食べてみたい!きっとプリンに醤油をかけたような味なんだろうな(何
もにゅもにゅする姉妹見てーーーーーーーーー!!!
羽でバランスを取っていたって事は一粒で0.7kg位なのでしょうか?
宝石みたいなアレをが食えるってのはよくあったけど、あの棒も食えるのかww
昔あったジュエルリングとか飴の棒がガムになってるやつとか思い出した。
面白かったです
耐えられなかった
フランちゃんの羽は正に禁忌の味わい?
まさかの羽食べられます説で吹いた。
次は何が食べれる説になるんだろうか。
宝塔?←
あるのかよwwwwwwwwww