朝の博麗神社――。
「かき氷!」
「シャーベット!」
「ひやし飴!」
「ジェラート!」
「西瓜!」
「むぅ……アイスクリーム!」
博麗霊夢とその友人、東風谷早苗が、相当な気迫をもって叫びあっている。
「えっと、えっと、あっ、寒天!」
「ふふ――ラクトアイス!」
「うぎぎ……っ」
笑む早苗に唸る霊夢。どうやら返す言葉が見つからないようだ。
「……なにやってんだ、あいつら」
二人の友人、霧雨魔理沙が呆れたように呟いた。
魔理沙の手には白いタオルが握られている。
友人たちの喧騒を眺めながら、髪に着いた水滴を拭う。
起床後、顔を洗い、二人がいるであろう縁側へとやってきた。
彼女も早苗も、前日の夜に泊っていたのだ――恒例のパジャマパーティである。
無論、参加したのは二人だけではない。
「『夏に食べたいデザート古今東西』じゃないかしら」
「見事に分かれてんな。と言うか、早苗、ずるくないか?」
「アイスクリームとラクトアイスは別の物よ。……厳密に言えばだけどね」
魔理沙の問いに応えたのは、遅れてやってきたアリス・マーガトロイドとパチュリー・ノーレッジ。
前者の言葉は柔らかく、後者の響きは穏やかだった。
暑苦しいので遠巻きに眺めているとも言える。
尤も、熱く冷たく甘い戦いに、他の者が乱入する隙はありそうになかったのだが。
「二人とも、朝から無駄にテンション高いなぁ」
「……早苗は合わせているんでしょうけどね」
「色気がないのがご愛嬌ってところかしら」
それはお前もだろう?
振り返り、魔理沙は肩を竦めて揶揄しようとした。
しかし、動作は中途半端に止まる。
開いた口から言葉が出ない。
何故なら、アリスの服装が殊更に涼しそうだったのだ。
「……何?」
「アリス、貴女はやっぱり、もう少し生地を多くした方が」
「暑いんですもの。部屋着なんだから、これくらいで十分じゃない?」
「腋はともかく、腹部までちらちら見えてるし……」
「お臍って言わない? それに、パチェに感化されたんだから、言われたくはないわね」
切って返すアリスだったが、口元は笑んでいる――そう、パチュリーもまた、普段の服装ではなかった。
「『暑さで倒れないように』って」
「ふぅむ……やるわね、貴女の使い魔」
「……誰とは言ってないんだけど」
「普段着を軽くアレンジして、清涼感を演出しているわ」
「え、そこ?」
そこ。
さて、具体的なフタリの服装はと言うと。
アリスは、白いタンクトップに黒のハーフパンツである。
一方のパチュリーは半袖のワンピースだ。普段着のように、基調は薄紫だった。
「ところで、ポケットに入っているその黒いのは?」
「日焼け対策に、UVカット手袋」
「さ、流石だわ」
因みに、上腕のレース部分にはパチュリー愛用のリボンが使われていた。
褒め言葉に、珍しくもパチュリーは微かに誇らしげだった。
スカート部分を両手で摘み、優雅にくるりと一回転。
匠の技を発揮した従者が見れば、濡れて喜ぶだろう。
勿論、そう簡単に従者の前で甘さを出す主ではないのだが。
閑話休題。
「っんて、恰好してんだお前ら!」
フタリが与太話をしていると、魔理沙がかえってきた。
顔は赤く、声も随分と大きい。
魔理沙の態度に、アリスとパチュリーは首を傾げた。
指を向けられ叫ばれるほど、破廉恥な格好をしている訳ではないはずだ。
そんな疑問に応えるように、魔理沙は口を大きく開き、吠える――。
「私がこんな恰好しているのが馬鹿みたいじゃないか!」
『こんな恰好』とは、つまるところ普段着だ。
‘魔法使い‘のフォーマルフォーム。
見ているだけで暑苦しい。
「大体、アリス! 白黒は私の代名詞だぞ! それに、パチュリーも」
更に言い募ろうとする魔理沙。
しかし、両腕を絡め取られる。
左腕はアリス、右腕はパチュリー。
「……んだよっ」
「着替えればいいだけじゃない」
「替えなんて持ってきてない」
「同じの、何着も持ってるわよね?」
「霊夢ほどじゃないぜ」
応えに満足したパチュリーが、アリスに視線を向ける。
頷き、‘人形遣い‘は鋏を取りだした。
アイコンタクトはばっちりだ。
目を瞬かせる魔理沙に、フタリが笑む。
「よくて、魔理沙?」
「あー……ミスるなよ」
「ふふ、誰に言っているの?」
――じょっきん。
「私はアリス・マーガトロイド。
幻想郷でも随一の器用さを誇る存在。
服装のアレンジなんて、お茶の子さいさいよ」
だからと言って、いきなりノースリーブにするのはどうなんだろう。
思う魔理沙とパチュリーだったが、突っ込みは入れなかった。
と言うよりも、室内に響き渡る叫びに流された。
それはもう、絶叫。
「あーもう! 出て来ない! 私の負け!!」
出所は、思案している時にかきまくったのだろう、髪がぼさぼさになっている霊夢だった。
むくれる霊夢。
そんな彼女の髪を、早苗が片手で整える。
もう一方の手は、膨れる霊夢の頬を突いていた。
ぷく、つん。
ぷく、つん。
ぷく、つん。
「……ベタベタしてんなお前ら」
「失敬な。んぅ、早苗、もういいわ」
「はいな。あ、でも、さらさらしていましたよ」
髪の話じゃねぇ。
半眼になる魔理沙。
合わせるように、アリスとパチュリーも肩を竦める。
当の霊夢は首を傾げ、早苗だけがくすぐったそうな笑みを浮かべていた。
輪になる五名。
「で、結局、古今東西をしてたのか?」
「ええ、今日のお昼をかけて」
「じゃあ霊夢は抜き?」
「違うわよ。何を食べるか」
「あぁ、これから里に行くんだっけ。早苗、何にするの?」
パチュリーの問いに、早苗と霊夢は首を傾げる。
「ですから、シャーベットやジェラートなどを」
ちょっと待て――魔法使い組が手をあげ、話を止めた。
「それはデザートであって、昼食じゃないでしょう?」
「うんうん、やっぱりかき氷の方がいいわよね」
「黙れ同じ穴の巫女」
「だって、今日からの限定メニューなんですよぅ」
「『だって』じゃない。駄目よ早苗、ちゃんと栄養のあるものを食べないと」
小競り合いを始める霊夢と魔理沙。
前者を早苗が、後者をアリスとパチュリーが抑え、会話は続く。
「えっと……。アリスお姉ちゃん、駄目?」
早苗が甘えた声を出す。
「何味が良いの? 違うものを頼んで分けましょうね、うふ」
速攻でピチュるアリス。
「……もしドライアイスがあるのなら、持って帰ってあげましょうか」
パチュリーも日和った。
「二名様寝返りましたー。……あんたはどうすんの?」
後頭部を覆う柔らかさに多少いらつきつつ、霊夢が問う。
「仲間外れはヤ――じゃなくて、最初から、私は行かないなんて言ってないぜ」
同じく、両腕に当てられるぽよんとほよんにコメカミを引きつらせながら、魔理沙は応えた。
どだい、少女が首を横に振れる話ではなかったのだ。
「楽しみですね、霊夢さん」
きつい拘束からゆるい抱擁に態勢を変え、早苗が笑む。
「でも、かき氷とかも食べたかったなぁ……」
「ふふふ、では、そちらは三時のおやつに」
「っきゃー、早苗素敵ーっ!」
くるりと振り向き黄色い声をあげ、霊夢は早苗に抱きついた。
ベタつく二人。
魔理沙は思った――大丈夫か早苗のお腹。
アリスとパチュリーは思った――大丈夫なのかしら霊夢の財布。
懸念の眼差しを向けられた早苗は、しかし別の意味で捉えた。
「あ、皆さんにそこまで付き合えとは……」
先ほどと同様に、魔法使い組の手があがる。
「何を言うの、早苗。お姉ちゃんがついていかないとでも?」
「ウチは洋食が多いから、和食のデザートに興味があるわ」
「アリス、服のアレンジは腹が冷えないようにしてくれ」
一拍後、くすりと零される微笑に、魔理沙が代表して、応えた。
「毒皿」
どだい、以下略。
兎にも角にも、こうして、少女たちの一夏は、始まるのであった――。
<幕>
「かき氷!」
「シャーベット!」
「ひやし飴!」
「ジェラート!」
「西瓜!」
「むぅ……アイスクリーム!」
博麗霊夢とその友人、東風谷早苗が、相当な気迫をもって叫びあっている。
「えっと、えっと、あっ、寒天!」
「ふふ――ラクトアイス!」
「うぎぎ……っ」
笑む早苗に唸る霊夢。どうやら返す言葉が見つからないようだ。
「……なにやってんだ、あいつら」
二人の友人、霧雨魔理沙が呆れたように呟いた。
魔理沙の手には白いタオルが握られている。
友人たちの喧騒を眺めながら、髪に着いた水滴を拭う。
起床後、顔を洗い、二人がいるであろう縁側へとやってきた。
彼女も早苗も、前日の夜に泊っていたのだ――恒例のパジャマパーティである。
無論、参加したのは二人だけではない。
「『夏に食べたいデザート古今東西』じゃないかしら」
「見事に分かれてんな。と言うか、早苗、ずるくないか?」
「アイスクリームとラクトアイスは別の物よ。……厳密に言えばだけどね」
魔理沙の問いに応えたのは、遅れてやってきたアリス・マーガトロイドとパチュリー・ノーレッジ。
前者の言葉は柔らかく、後者の響きは穏やかだった。
暑苦しいので遠巻きに眺めているとも言える。
尤も、熱く冷たく甘い戦いに、他の者が乱入する隙はありそうになかったのだが。
「二人とも、朝から無駄にテンション高いなぁ」
「……早苗は合わせているんでしょうけどね」
「色気がないのがご愛嬌ってところかしら」
それはお前もだろう?
振り返り、魔理沙は肩を竦めて揶揄しようとした。
しかし、動作は中途半端に止まる。
開いた口から言葉が出ない。
何故なら、アリスの服装が殊更に涼しそうだったのだ。
「……何?」
「アリス、貴女はやっぱり、もう少し生地を多くした方が」
「暑いんですもの。部屋着なんだから、これくらいで十分じゃない?」
「腋はともかく、腹部までちらちら見えてるし……」
「お臍って言わない? それに、パチェに感化されたんだから、言われたくはないわね」
切って返すアリスだったが、口元は笑んでいる――そう、パチュリーもまた、普段の服装ではなかった。
「『暑さで倒れないように』って」
「ふぅむ……やるわね、貴女の使い魔」
「……誰とは言ってないんだけど」
「普段着を軽くアレンジして、清涼感を演出しているわ」
「え、そこ?」
そこ。
さて、具体的なフタリの服装はと言うと。
アリスは、白いタンクトップに黒のハーフパンツである。
一方のパチュリーは半袖のワンピースだ。普段着のように、基調は薄紫だった。
「ところで、ポケットに入っているその黒いのは?」
「日焼け対策に、UVカット手袋」
「さ、流石だわ」
因みに、上腕のレース部分にはパチュリー愛用のリボンが使われていた。
褒め言葉に、珍しくもパチュリーは微かに誇らしげだった。
スカート部分を両手で摘み、優雅にくるりと一回転。
匠の技を発揮した従者が見れば、濡れて喜ぶだろう。
勿論、そう簡単に従者の前で甘さを出す主ではないのだが。
閑話休題。
「っんて、恰好してんだお前ら!」
フタリが与太話をしていると、魔理沙がかえってきた。
顔は赤く、声も随分と大きい。
魔理沙の態度に、アリスとパチュリーは首を傾げた。
指を向けられ叫ばれるほど、破廉恥な格好をしている訳ではないはずだ。
そんな疑問に応えるように、魔理沙は口を大きく開き、吠える――。
「私がこんな恰好しているのが馬鹿みたいじゃないか!」
『こんな恰好』とは、つまるところ普段着だ。
‘魔法使い‘のフォーマルフォーム。
見ているだけで暑苦しい。
「大体、アリス! 白黒は私の代名詞だぞ! それに、パチュリーも」
更に言い募ろうとする魔理沙。
しかし、両腕を絡め取られる。
左腕はアリス、右腕はパチュリー。
「……んだよっ」
「着替えればいいだけじゃない」
「替えなんて持ってきてない」
「同じの、何着も持ってるわよね?」
「霊夢ほどじゃないぜ」
応えに満足したパチュリーが、アリスに視線を向ける。
頷き、‘人形遣い‘は鋏を取りだした。
アイコンタクトはばっちりだ。
目を瞬かせる魔理沙に、フタリが笑む。
「よくて、魔理沙?」
「あー……ミスるなよ」
「ふふ、誰に言っているの?」
――じょっきん。
「私はアリス・マーガトロイド。
幻想郷でも随一の器用さを誇る存在。
服装のアレンジなんて、お茶の子さいさいよ」
だからと言って、いきなりノースリーブにするのはどうなんだろう。
思う魔理沙とパチュリーだったが、突っ込みは入れなかった。
と言うよりも、室内に響き渡る叫びに流された。
それはもう、絶叫。
「あーもう! 出て来ない! 私の負け!!」
出所は、思案している時にかきまくったのだろう、髪がぼさぼさになっている霊夢だった。
むくれる霊夢。
そんな彼女の髪を、早苗が片手で整える。
もう一方の手は、膨れる霊夢の頬を突いていた。
ぷく、つん。
ぷく、つん。
ぷく、つん。
「……ベタベタしてんなお前ら」
「失敬な。んぅ、早苗、もういいわ」
「はいな。あ、でも、さらさらしていましたよ」
髪の話じゃねぇ。
半眼になる魔理沙。
合わせるように、アリスとパチュリーも肩を竦める。
当の霊夢は首を傾げ、早苗だけがくすぐったそうな笑みを浮かべていた。
輪になる五名。
「で、結局、古今東西をしてたのか?」
「ええ、今日のお昼をかけて」
「じゃあ霊夢は抜き?」
「違うわよ。何を食べるか」
「あぁ、これから里に行くんだっけ。早苗、何にするの?」
パチュリーの問いに、早苗と霊夢は首を傾げる。
「ですから、シャーベットやジェラートなどを」
ちょっと待て――魔法使い組が手をあげ、話を止めた。
「それはデザートであって、昼食じゃないでしょう?」
「うんうん、やっぱりかき氷の方がいいわよね」
「黙れ同じ穴の巫女」
「だって、今日からの限定メニューなんですよぅ」
「『だって』じゃない。駄目よ早苗、ちゃんと栄養のあるものを食べないと」
小競り合いを始める霊夢と魔理沙。
前者を早苗が、後者をアリスとパチュリーが抑え、会話は続く。
「えっと……。アリスお姉ちゃん、駄目?」
早苗が甘えた声を出す。
「何味が良いの? 違うものを頼んで分けましょうね、うふ」
速攻でピチュるアリス。
「……もしドライアイスがあるのなら、持って帰ってあげましょうか」
パチュリーも日和った。
「二名様寝返りましたー。……あんたはどうすんの?」
後頭部を覆う柔らかさに多少いらつきつつ、霊夢が問う。
「仲間外れはヤ――じゃなくて、最初から、私は行かないなんて言ってないぜ」
同じく、両腕に当てられるぽよんとほよんにコメカミを引きつらせながら、魔理沙は応えた。
どだい、少女が首を横に振れる話ではなかったのだ。
「楽しみですね、霊夢さん」
きつい拘束からゆるい抱擁に態勢を変え、早苗が笑む。
「でも、かき氷とかも食べたかったなぁ……」
「ふふふ、では、そちらは三時のおやつに」
「っきゃー、早苗素敵ーっ!」
くるりと振り向き黄色い声をあげ、霊夢は早苗に抱きついた。
ベタつく二人。
魔理沙は思った――大丈夫か早苗のお腹。
アリスとパチュリーは思った――大丈夫なのかしら霊夢の財布。
懸念の眼差しを向けられた早苗は、しかし別の意味で捉えた。
「あ、皆さんにそこまで付き合えとは……」
先ほどと同様に、魔法使い組の手があがる。
「何を言うの、早苗。お姉ちゃんがついていかないとでも?」
「ウチは洋食が多いから、和食のデザートに興味があるわ」
「アリス、服のアレンジは腹が冷えないようにしてくれ」
一拍後、くすりと零される微笑に、魔理沙が代表して、応えた。
「毒皿」
どだい、以下略。
兎にも角にも、こうして、少女たちの一夏は、始まるのであった――。
<幕>
一足早い夏休みのひとときって感じで、すごくよかったです!
良い響きですな!
こういう感じは大好きです!
この後のデザート巡りも是非読みたい