Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

ベタベタサマー

2010/06/20 23:58:49
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 朝の博麗神社――。



「かき氷!」
「シャーベット!」
「ひやし飴!」
「ジェラート!」
「西瓜!」
「むぅ……アイスクリーム!」

 博麗霊夢とその友人、東風谷早苗が、相当な気迫をもって叫びあっている。

「えっと、えっと、あっ、寒天!」
「ふふ――ラクトアイス!」
「うぎぎ……っ」

 笑む早苗に唸る霊夢。どうやら返す言葉が見つからないようだ。



「……なにやってんだ、あいつら」

 二人の友人、霧雨魔理沙が呆れたように呟いた。

 魔理沙の手には白いタオルが握られている。
 友人たちの喧騒を眺めながら、髪に着いた水滴を拭う。
 起床後、顔を洗い、二人がいるであろう縁側へとやってきた。

 彼女も早苗も、前日の夜に泊っていたのだ――恒例のパジャマパーティである。

 無論、参加したのは二人だけではない。

「『夏に食べたいデザート古今東西』じゃないかしら」
「見事に分かれてんな。と言うか、早苗、ずるくないか?」
「アイスクリームとラクトアイスは別の物よ。……厳密に言えばだけどね」

 魔理沙の問いに応えたのは、遅れてやってきたアリス・マーガトロイドとパチュリー・ノーレッジ。
 前者の言葉は柔らかく、後者の響きは穏やかだった。
 暑苦しいので遠巻きに眺めているとも言える。

 尤も、熱く冷たく甘い戦いに、他の者が乱入する隙はありそうになかったのだが。

「二人とも、朝から無駄にテンション高いなぁ」
「……早苗は合わせているんでしょうけどね」
「色気がないのがご愛嬌ってところかしら」

 それはお前もだろう?

 振り返り、魔理沙は肩を竦めて揶揄しようとした。
 しかし、動作は中途半端に止まる。
 開いた口から言葉が出ない。

 何故なら、アリスの服装が殊更に涼しそうだったのだ。

「……何?」
「アリス、貴女はやっぱり、もう少し生地を多くした方が」
「暑いんですもの。部屋着なんだから、これくらいで十分じゃない?」
「腋はともかく、腹部までちらちら見えてるし……」
「お臍って言わない? それに、パチェに感化されたんだから、言われたくはないわね」

 切って返すアリスだったが、口元は笑んでいる――そう、パチュリーもまた、普段の服装ではなかった。

「『暑さで倒れないように』って」
「ふぅむ……やるわね、貴女の使い魔」
「……誰とは言ってないんだけど」
「普段着を軽くアレンジして、清涼感を演出しているわ」
「え、そこ?」

 そこ。

 さて、具体的なフタリの服装はと言うと。
 アリスは、白いタンクトップに黒のハーフパンツである。
 一方のパチュリーは半袖のワンピースだ。普段着のように、基調は薄紫だった。

「ところで、ポケットに入っているその黒いのは?」
「日焼け対策に、UVカット手袋」
「さ、流石だわ」

 因みに、上腕のレース部分にはパチュリー愛用のリボンが使われていた。

 褒め言葉に、珍しくもパチュリーは微かに誇らしげだった。
 スカート部分を両手で摘み、優雅にくるりと一回転。
 匠の技を発揮した従者が見れば、濡れて喜ぶだろう。

 勿論、そう簡単に従者の前で甘さを出す主ではないのだが。

 閑話休題。

「っんて、恰好してんだお前ら!」

 フタリが与太話をしていると、魔理沙がかえってきた。

 顔は赤く、声も随分と大きい。
 魔理沙の態度に、アリスとパチュリーは首を傾げた。
 指を向けられ叫ばれるほど、破廉恥な格好をしている訳ではないはずだ。

 そんな疑問に応えるように、魔理沙は口を大きく開き、吠える――。

「私がこんな恰好しているのが馬鹿みたいじゃないか!」

 『こんな恰好』とは、つまるところ普段着だ。
 ‘魔法使い‘のフォーマルフォーム。
 見ているだけで暑苦しい。

「大体、アリス! 白黒は私の代名詞だぞ! それに、パチュリーも」

 更に言い募ろうとする魔理沙。
 しかし、両腕を絡め取られる。
 左腕はアリス、右腕はパチュリー。

「……んだよっ」
「着替えればいいだけじゃない」
「替えなんて持ってきてない」
「同じの、何着も持ってるわよね?」
「霊夢ほどじゃないぜ」

 応えに満足したパチュリーが、アリスに視線を向ける。
 頷き、‘人形遣い‘は鋏を取りだした。
 アイコンタクトはばっちりだ。

 目を瞬かせる魔理沙に、フタリが笑む。

「よくて、魔理沙?」
「あー……ミスるなよ」
「ふふ、誰に言っているの?」

 ――じょっきん。

「私はアリス・マーガトロイド。
 幻想郷でも随一の器用さを誇る存在。
 服装のアレンジなんて、お茶の子さいさいよ」

 だからと言って、いきなりノースリーブにするのはどうなんだろう。

 思う魔理沙とパチュリーだったが、突っ込みは入れなかった。
 と言うよりも、室内に響き渡る叫びに流された。
 それはもう、絶叫。



「あーもう! 出て来ない! 私の負け!!」

 出所は、思案している時にかきまくったのだろう、髪がぼさぼさになっている霊夢だった。



 むくれる霊夢。
 そんな彼女の髪を、早苗が片手で整える。
 もう一方の手は、膨れる霊夢の頬を突いていた。

 ぷく、つん。
 ぷく、つん。
 ぷく、つん。

「……ベタベタしてんなお前ら」
「失敬な。んぅ、早苗、もういいわ」
「はいな。あ、でも、さらさらしていましたよ」

 髪の話じゃねぇ。

 半眼になる魔理沙。
 合わせるように、アリスとパチュリーも肩を竦める。
 当の霊夢は首を傾げ、早苗だけがくすぐったそうな笑みを浮かべていた。



 輪になる五名。

「で、結局、古今東西をしてたのか?」
「ええ、今日のお昼をかけて」
「じゃあ霊夢は抜き?」
「違うわよ。何を食べるか」
「あぁ、これから里に行くんだっけ。早苗、何にするの?」

 パチュリーの問いに、早苗と霊夢は首を傾げる。

「ですから、シャーベットやジェラートなどを」

 ちょっと待て――魔法使い組が手をあげ、話を止めた。

「それはデザートであって、昼食じゃないでしょう?」
「うんうん、やっぱりかき氷の方がいいわよね」
「黙れ同じ穴の巫女」
「だって、今日からの限定メニューなんですよぅ」
「『だって』じゃない。駄目よ早苗、ちゃんと栄養のあるものを食べないと」

 小競り合いを始める霊夢と魔理沙。

 前者を早苗が、後者をアリスとパチュリーが抑え、会話は続く。



「えっと……。アリスお姉ちゃん、駄目?」

 早苗が甘えた声を出す。

「何味が良いの? 違うものを頼んで分けましょうね、うふ」

 速攻でピチュるアリス。

「……もしドライアイスがあるのなら、持って帰ってあげましょうか」

 パチュリーも日和った。

「二名様寝返りましたー。……あんたはどうすんの?」

 後頭部を覆う柔らかさに多少いらつきつつ、霊夢が問う。

「仲間外れはヤ――じゃなくて、最初から、私は行かないなんて言ってないぜ」

 同じく、両腕に当てられるぽよんとほよんにコメカミを引きつらせながら、魔理沙は応えた。



 どだい、少女が首を横に振れる話ではなかったのだ。



「楽しみですね、霊夢さん」

 きつい拘束からゆるい抱擁に態勢を変え、早苗が笑む。

「でも、かき氷とかも食べたかったなぁ……」
「ふふふ、では、そちらは三時のおやつに」
「っきゃー、早苗素敵ーっ!」

 くるりと振り向き黄色い声をあげ、霊夢は早苗に抱きついた。

 ベタつく二人。
 魔理沙は思った――大丈夫か早苗のお腹。
 アリスとパチュリーは思った――大丈夫なのかしら霊夢の財布。

 懸念の眼差しを向けられた早苗は、しかし別の意味で捉えた。

「あ、皆さんにそこまで付き合えとは……」



 先ほどと同様に、魔法使い組の手があがる。

「何を言うの、早苗。お姉ちゃんがついていかないとでも?」
「ウチは洋食が多いから、和食のデザートに興味があるわ」
「アリス、服のアレンジは腹が冷えないようにしてくれ」

 一拍後、くすりと零される微笑に、魔理沙が代表して、応えた。

「毒皿」



 どだい、以下略。





 兎にも角にも、こうして、少女たちの一夏は、始まるのであった――。






                      <幕>
・色気よりも食い気が勝ってしまいました。割と何時も通りですね。お読み頂きありがとうございます。

・昨年の夏の終わりにさらさらした(ものを目指した)お話を書いたので、その反対です。
・べたべたしているのは変わりませんね。うん、趣味(二回目)。
・食べ物のお話なので、霊夢は幸せ。早苗さんも、幸せ。

・早苗さんがアリスをお姉ちゃん云々は、拙作『早苗専用ゴリアテ』よりの抜粋です。

いじょ
道標
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
道標さんの女の子は本当に可愛くて仲良しで、読んでいて幸せになります。
一足早い夏休みのひとときって感じで、すごくよかったです!
2.奇声を発する程度の能力削除
>アリスお姉ちゃん
良い響きですな!

こういう感じは大好きです!
3.名前が無い程度の能力削除
姦くってニコニコできる話でした。
4.名前が無い程度の能力削除
和やかでいい雰囲気の話だなあ
この後のデザート巡りも是非読みたい
5.名前が無い程度の能力削除
れいむかわいい!
6.名前が無い程度の能力削除
こんな夏なら大歓迎です!羨ましい