「ではこれで発表を終わります。ご清聴ありがとうございました」
パチパチパチパチ
ぺこりと頭を下げてパチュリーが発表を終える。
それと同時に魔理沙は机に突っ伏した。
「さすがパチュリーね。なかなか面白かったわ」
「私はそれどころじゃなかったぜ」
今日は、魔理沙とアリスは、パチュリーの練習会に招かれていた。
先日パチュリーが発表した論文に新データを加えて発表するということで、アドバイザーとして呼ばれたのだ。
しかし
「全部魔界語だとは思わなかったぜ……」
今回パチュリーが発表するのは魔界で開かれる、精霊魔術学会の年会。
当然、魔界語で発表が行われる。
読み書きはともかく、まだまだ魔界語会話の経験に乏しい魔理沙にとって、かなりの集中力を必要としたようだ。
だがそれでもスライドのある発表はまだましである。
図と単語がわかれば言いたいことはわからないでもない。
しかし、これから行われる質疑応答は何を言ってるか、きちんと聞き取らなければならない。
魔理沙がげんなりしていると、アリスが助け舟を出してくれた。
「仕方ないわね。じゃあ私の翻訳人形貸してあげるから、これで同時通訳しときなさい。
ちゃんと魔理沙も質問しなさいよ」
「助かるんだぜ」
アリスの手渡す人形を受け取る。
魔理沙も何度か使ったことのあるある、秘書姿に眼鏡のきりっとした人形だ。
「19分50秒、ほぼぴったりですね。じゃあどなたか質問はございませんでしょうか」
司会を務める小悪魔が会場(といっても二人しかいないが)に振る。
アリスが手を上げると、すぐにマイクが回ってきた。
魔理沙はそれを非常にくつろいだ気分で見ていた。
もう魔界語の複雑なイントネーションに気を配る必要がないとなると、ずいぶん楽だ。
手元の紅茶を引き寄せて口に含む。
さてさて、どんな質問をしてやろうかな、と気を散らしているうちに、んんっと咳払いをしてアリスが質問を始めた。
「大変興味深い発表でした」
(っしゃあすぞこらああああああ)
バフッ。
魔理沙の紅茶が赤い霧を作る。
「パチュリーさんの新しいアイデアに敬意を表します」
(ゎかってんのかオラ、おんしゃいちびっとったらしばくぞコラ)
怜悧な翻訳人形が、まるでヤクザ映画のごとく、野太い声で翻訳する。
「ですが、3つ、疑問があります。
魔体によって気体を制御するとのことですが、その場合位相遅れの影響が無視できないと思うのですが、
その点はどうお考えでしょうか」
(オラ、おんしゃわかっとんだろうの。当然位相遅れ補償しとんだろうの)
「お答えします」
(んだケンカ売ってんのなら買うぞコラ)
「ご指摘の通り、負帰還では一般に位相遅れを無視できません。
なぜなら負帰還が90°以上遅れると、発振が起こるからです。
ですが、格子分割再現法ではその問題を回避することができます。なぜなら、格子分割を行うことで
”言い聞かせる”格子と隣接する格子の間に原理的に負帰還が発生するので、もともと均一な増幅度を得られるためです」
(んなことは当然考慮してんだっつの。ネガティブフィードバックは原理的にかかんだよ。
そんくらい伝達関数見たら分かれコラ)
「ありがとうございます。2つ目は~」
「え、いやちょっと待ってもらっていいか?」
魔理沙がおずおずを手を上げて、議論をさえぎった。
アリスもパチュリーもこれからが勝負なのに、という顔で振り向く。
「なんか、この人形調子悪くないか?
今までとちょっと違うみたいなんだけど」
「ああ、ちょっと"学会モード"を作って見たのよ。
専門用語をわかりやすく説明できるように、砕けた言葉で翻訳してくれるの」
「え、あの、うん」
「話者のこころにできるだけ近い言葉遣いを使うようになってるから、わかりやすいでしょ?」
「う、うん」
「じゃあ続きね」
その後、魔理沙が学会に行くときには、入念な準備を忘れないようになったという。
パチパチパチパチ
ぺこりと頭を下げてパチュリーが発表を終える。
それと同時に魔理沙は机に突っ伏した。
「さすがパチュリーね。なかなか面白かったわ」
「私はそれどころじゃなかったぜ」
今日は、魔理沙とアリスは、パチュリーの練習会に招かれていた。
先日パチュリーが発表した論文に新データを加えて発表するということで、アドバイザーとして呼ばれたのだ。
しかし
「全部魔界語だとは思わなかったぜ……」
今回パチュリーが発表するのは魔界で開かれる、精霊魔術学会の年会。
当然、魔界語で発表が行われる。
読み書きはともかく、まだまだ魔界語会話の経験に乏しい魔理沙にとって、かなりの集中力を必要としたようだ。
だがそれでもスライドのある発表はまだましである。
図と単語がわかれば言いたいことはわからないでもない。
しかし、これから行われる質疑応答は何を言ってるか、きちんと聞き取らなければならない。
魔理沙がげんなりしていると、アリスが助け舟を出してくれた。
「仕方ないわね。じゃあ私の翻訳人形貸してあげるから、これで同時通訳しときなさい。
ちゃんと魔理沙も質問しなさいよ」
「助かるんだぜ」
アリスの手渡す人形を受け取る。
魔理沙も何度か使ったことのあるある、秘書姿に眼鏡のきりっとした人形だ。
「19分50秒、ほぼぴったりですね。じゃあどなたか質問はございませんでしょうか」
司会を務める小悪魔が会場(といっても二人しかいないが)に振る。
アリスが手を上げると、すぐにマイクが回ってきた。
魔理沙はそれを非常にくつろいだ気分で見ていた。
もう魔界語の複雑なイントネーションに気を配る必要がないとなると、ずいぶん楽だ。
手元の紅茶を引き寄せて口に含む。
さてさて、どんな質問をしてやろうかな、と気を散らしているうちに、んんっと咳払いをしてアリスが質問を始めた。
「大変興味深い発表でした」
(っしゃあすぞこらああああああ)
バフッ。
魔理沙の紅茶が赤い霧を作る。
「パチュリーさんの新しいアイデアに敬意を表します」
(ゎかってんのかオラ、おんしゃいちびっとったらしばくぞコラ)
怜悧な翻訳人形が、まるでヤクザ映画のごとく、野太い声で翻訳する。
「ですが、3つ、疑問があります。
魔体によって気体を制御するとのことですが、その場合位相遅れの影響が無視できないと思うのですが、
その点はどうお考えでしょうか」
(オラ、おんしゃわかっとんだろうの。当然位相遅れ補償しとんだろうの)
「お答えします」
(んだケンカ売ってんのなら買うぞコラ)
「ご指摘の通り、負帰還では一般に位相遅れを無視できません。
なぜなら負帰還が90°以上遅れると、発振が起こるからです。
ですが、格子分割再現法ではその問題を回避することができます。なぜなら、格子分割を行うことで
”言い聞かせる”格子と隣接する格子の間に原理的に負帰還が発生するので、もともと均一な増幅度を得られるためです」
(んなことは当然考慮してんだっつの。ネガティブフィードバックは原理的にかかんだよ。
そんくらい伝達関数見たら分かれコラ)
「ありがとうございます。2つ目は~」
「え、いやちょっと待ってもらっていいか?」
魔理沙がおずおずを手を上げて、議論をさえぎった。
アリスもパチュリーもこれからが勝負なのに、という顔で振り向く。
「なんか、この人形調子悪くないか?
今までとちょっと違うみたいなんだけど」
「ああ、ちょっと"学会モード"を作って見たのよ。
専門用語をわかりやすく説明できるように、砕けた言葉で翻訳してくれるの」
「え、あの、うん」
「話者のこころにできるだけ近い言葉遣いを使うようになってるから、わかりやすいでしょ?」
「う、うん」
「じゃあ続きね」
その後、魔理沙が学会に行くときには、入念な準備を忘れないようになったという。
さすが都会派魔法使いの故郷だけあるぜ