Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

手のかかる子ほど可愛いとは言うけれど

2010/05/21 21:41:09
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 大妖や神々、その他実力者が集う定例会。
 何時も通りに魂を震わせ気を迸らせた、少し後。
 各々手作りの菓子が並べられ、程よく香る紅茶が配られた。



 広げられたティータイムセットに、‘魔界神‘神綺は目を輝かせる。



「あら、美味しそう。だけど、ごめんなさい。今日はもう帰るわね」

 そんな折、神綺の耳に控えめに辞退を申し出る声が飛び込んだ。

「……正気?」

 辞退者は、幽々子だった。

「飲食物が出た時点で、なんて……は、まさか偽物!?」
「さり気どころかかなり酷いわね、紫」
「だって、その。ねぇ?」

 幽々子から目を逸らし、助けを求める紫。

「天が落ち」
「地も割れた」
「――南無三!」

 応えたのは神奈子と諏訪子、白蓮だ。

「……と言うのは大袈裟だけれど、珍しいのは確かね」
「私らが酒を前に退くようなもんかね」
「そこまでなのかい」

 永琳が続き、萃香の比喩に勇儀が驚く。



「そこまでなのさ。なぁ、神綺?」
「もぁー」

 魅魔から話を振られ、口の端にケーキのクリームをつけながら、神綺は頷いた。



 面々の反応に、幽々子が口を尖らせる。
 しかし、その表情はすぐさま変じた。
 浮かんでいるのは、笑み。

「まぁ、認めるけども」

 にへらと顔を綻ばせ、辞退の理由を語りだす。

「出てくる前に、『今日はいい食材が手に入りました』って妖夢がね。
 ええ、それはもうみどりみどりして美味しそうなお野菜だったわ。
 だけどほら、あの子って本当に頼りないでしょう?
 普段はそうでもないけど、ここぞと言う時にボロが出ちゃうのよね。
 だから、折角の食材を駄目にしないためにも、今日は早く帰ろうって」

 なるほど、と頷く一同。

 幽々子の表情は食材のみに向けられるものではない。
 炊事場に立ち、共に腕をふるうつもりだろう。
 それゆえの微笑み。

 解らぬ彼女たちではなかった。
 引きとめることもなく、或いは囃し、見送る。
 手を振り応える幽々子は、そのままの表情で、隙間を後にした。





 一妖が去った後、菓子を食い茶を飲みつつ、再び一同は話し出す。

「しかし、妖夢が頼りないとは。若いながらほどほどに腕は立つ、いい剣士じゃないか」
「あんたはあんまり知らないからねぇ。鬼相手に物怖じしないのは大したもんだけど」
「そうそう、そう言うところ、ウチの子にもちょいとは見習わせたいね」

 ふむと顎に手を当て考えて、萃香も勇儀に同意した。

「だからって、突然、キスメが『紹介したいヒトがいるの』なんて言い出したら?」

 意地の悪い紫の質問に、鬼はぴきりと固まった。
 一瞬後、共に動き出す。
 拳をフルスイング。

 どうにか防ぎ、紫が続ける。

「冗談よぅ。もー、新調したばっかりの傘なのに、折れちゃったじゃないの」

 象徴的だ。



 ともかく、話題が決まった。
 紫を筆頭に次々と口を開いていく。
 そんな中、神綺は、ただお菓子をぱくつくだけだった。



「藍もねぇ。
 式馬鹿なのはともかく、最近は随分と奔放になっちゃって。
 私に隠れて、ふ、風俗とか、不健全な本とか、うぅ、う、早まっちゃ駄目よらぁぁぁん!」

「私の子ども、と言う訳ではないですが。
 精神的に少し脆い、打たれ弱いのが目立ちますわね。
 特に星とムラサ、ナズ。もっと強くなってくれてもいいのに。うふふ」

「鈴仙もそう。
 臆病で、なんでもかんでも溜めこんでしまう。
 あの子が気兼ねなく怒れるのって、てゐだけなのよね。問題だわ」

「ウチはその逆だな」
「強すぎると言うか真に受け過ぎると言うか」
「いやしかし諏訪子、『おフタリの仰る通りに!』ってあの言葉だけで、後千二百年は余裕で生きられるじゃないか」

「随分と中途半端な。……文字数? 解るとは、流石に坤の神さんだねぇ。
 魔理沙は……一人立ちして長いからね。
 今は然程手もかからん」



 僅かに寂しげな余韻を含ませる魅魔の言葉が終ったと同時、神綺は紅茶を飲み干した。
 薄らとついた紅を指で拭い、カップをソーサーに戻す。
 硬質な音が隙間に響いた。

 ――勿論、響かせた。

 視線を集め、神綺は微笑を浮かべる。

「誰かも言っていたことだけど。
 子どもは何時の間にか、大きくなるわ。
 だから、手を出すのはほどほどに……無理な話かしら。

 ――『手のかかる子ほど可愛い』って言うものね?」

 悪戯気に問う神綺に、誰も応えを返さない。
 否、声を出す必要がなかった。
 一同の表情が一様に変わっている。

 退出する間際の幽々子と同様、つまり、にへらと顔を綻ばせていた。



「それでは……そろそろ私もお暇しますわね」

 言って、神綺は立ち上がる。

「おや、早くないかい。菓子ならまだ、幽々子の分が残って――ない!?」
「ん、見えてなかったのか。タッパーに入れて持って帰ってたぞ」
「鬼二名は頷いているけど……私も見えなかったわ」

 愕然とする諏訪子に神奈子が注釈を入れ、永琳がつないだ。

「じゃあ私と勇儀の分、回すよ」
「甘いのは一口二口で十分だからねぇ」

 珍しく紅茶を嗜む萃香と勇儀だったが、やはり菓子では物足りなかったようだ。

 普段ならば喜んで貰い受けただろう。
 しかし、神綺は頬を掻き、首を横に振った。
 食べ終えたから退出しようと思った訳ではない。

「ありがとう。でも、いいの。それじゃあ、また今度」

 首を捻る五名。
 申し訳ないと感じつつ、神綺は、隙間を後にする。
 ことは一刻を争い、彼女には、一分一秒でさえ惜しかった。



「やれやれ。急に行ったってまたドヤされるだろうに」
「あら、貴女は何処に向かったかわかるの?」
「お前さんもだろう?」

 開いた隙間の先には鬱蒼とした木々がちらりと見えて、故に、魅魔と紫は肩を竦め、笑い合うのだった――。





 さて。
 神綺の向かった先とは?
 賢明なる諸兄のこと、既に解答を見出しているだろう。

 オチまで読めると思われたかもしれないが、あの、もうちょっとだけだから読んで。





「アリスちゃんアリスちゃん、可愛い可愛い私のアリスちゃん!」
「その挨拶止めてくださいママ様。ハウス」
「帰ってきたのに帰れって言われた!」

 なんの捻りもなく‘娘‘アリスの家にやってきた神綺は、玄関に両拳を打ちつける。
 どんどんどん、びったんびったん。
 髪も加えられていた。

 しかし、扉は開かない。

 手を止める神綺。
 腕が力なく、だらりと下がる。
 特徴的な一房も、叱られた子犬の尻尾のように、揺れた。

「あぁアリスちゃん、怒っているのね」

 けれど、神綺は挫けない。

 最早、扉は開かれなくてもよい。
 ただ、誤解されたままで終わりたくない。
 胸の内を曝け出し、真実を知ってもらおう。

 ――思い、目を閉じ、息を吸う。

 瞳を開く。
 両手を組む。
 一房がくるくると回りだす。
 
 大きく吐き出し、神綺は叫んだ――。

「貴女の怒りも尤もよ。
 だけどお願い、話を聞いて。
 確かに私はあんなことを言ったわ。
 あれはあれで本心なのよ?
 でも、でもね、誤解しないで。

 ――手のかからない貴女だって、も、ほんっっっとに可愛いんだから!!」





 咆哮は扉をつきぬけた。
 部屋の中、アリスは片手で顔を覆う。
 言葉は彼女のみならず、他二名にも届いてしまっている。

「肝心の所が指示語ばかりだけど……ねぇ」
「簡単に推測がつくぜ。なぁ」
「――アリス?」

 お茶会にやってきていた、パチュリーと魔理沙だ。

 問う二名に、頭を抱えるアリス。

 パチュリーは微苦笑する。
 魔理沙は肩を竦めた。
 同時、続ける。



「手のかかる子ほど可愛いと言うけれど、手のかかる‘親‘はどうかしら?」
「五割弱、鬱陶しいわ」
「即答!?」



 突っ込みつつ、二名の態度は変わらない。
 残りの五割強がわかっているからだ。
 隠された顔に、答えはある。

 ――ほんと、本当よぅ!
 ――目に入れても痛くないわ!?
 ――って、これは萃香の十八番ね……んーと、うーんと!

「ふふ、扉の向こう、まだまだ続くみたいよ?」
「早く開けてやらんと被害は広まる一方だぜ」
「フタリとも、煩い」

 辛辣な言葉。
 釣り上がる瞳。
 赤く朱く染まる頬。

「……わかってるわよ。神綺様、今、開けますから」



 ――それら全てをひっくり返すのは、どうしようもなくにやついてしまう口元だった。





「そうだわ!
 私、貴女をお腹の中に入れても痛くない!
 なんなら今ここでやってあげるわ、母体回帰よアリスちゃん!!」

 アリスが扉を開くと、ローブを捲りあげる神綺が其処にいた。



「あ、可愛い……」
「お前、小悪魔に毒されてないか」
「……はっ!? そ、そこまでよ!」



 視線を逸らす魔理沙の突っ込みに、ガン見するパチュリーが動くよりも早く――



「弱が強に変わったわ……創んだ元へと、還りなさぁぁぁい!!」



 ――万国博覧会もかくやと言う人形たちが、神綺を吹き飛ばすのだった。





                      <了>
・どちらも可愛いと思いますが、身体的には神綺様の方が可(ry、お読み頂きありがとうございます。

・補足。
・アリスが「手のかからない子」かどうか。
・議論の余地はあります。しかし、可愛いと言う結論に変わりはないと思います。

・今日の「お前が言うな」:ゆかりんとパッチェさん。

いじょ
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コメント



1.名前が無い程度の能力削除
アリスちゃんアリスちゃん、可愛い可愛い私のアリスちゃん!
うけましたw
2.名前が無い程度の能力削除
母体回帰ww
愛もほどほどにw
3.奇声を発する程度の能力削除
アリスも神綺様も可愛いよ!!
私は身体的にはアリスの方が可(ry
4.名前が無い程度の能力削除
神綺さまw
5.名前が無い程度の能力削除
神綺さまは平常運転ですな。
しかし、この場に幽香がいないのが悔やまれる。
6.名前が無い程度の能力削除
手がかからな過ぎて逆に心配になるパターンもあると思います。
7.名前が無い程度の能力削除
これはいい保護者会と思ったら神綺様ww
仲がよくて微笑ましい。
よかったです。
8.名前が無い程度の能力削除
ママさん最高です!