Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

子あくま!

2010/05/21 18:43:25
最終更新
サイズ
10.28KB
ページ数
1

分類タグ

 紅魔館にある大図書館。そこではいつものように魔女であるパチュリー・ノーレッジが本を読んでいた。
 ただ今日は珍しく親友であり、紅魔館の主でもあるレミリア・スカーレットもこの場に参じている。
 とはいっても大人しく本を読むような相手ではない。暇だからパチュリーと遊ぶ為に来ているだけだ。
 そんなレミリアが興味深そうに尋ねる。

「ねえ、パチェさん。お聞きしたいことがあるのですけど」
「なにかしら? 私は本を読むのに忙しいので出来るだけ簡潔にお願いしますわ、レミィさん」
「貴方、確か小悪魔を飼ってましたよね?」
「いえいえ、飼ってなどおりません。少し契約しているだけですの」

 胡散臭い敬語を使ってくるので、こちらもとパチュリーが胡散臭い敬語で応える。

「小さい悪魔というくせに無駄に身体の一部が大きい女性でしたよね」
「ええそうです。小さい悪魔というくせに無駄に胸が大きい女性が小悪魔ですわ」
「妬まし……コホン。それらを踏まえてお聞きしたいのですが」
「はい、なんでしょう?」
「なんでちっこくなってんのっ?」

 勢いよく指をさした先には、レミリアよりも小さい小悪魔が熱心に絵本を読んでいた。
 姿はまさに幼女。いやまだ赤ん坊と言っても差し支えがないほど小さい。
 頭の羽をパタパタ動かし、本を読みながら楽しそうに、「こあ、こあ」と鳴いて(?)いた。

 小悪魔と言えば紅魔館が誇る図書館司書で、その物腰の柔らかさと地味に見えながらも脱いだら凄いナイスバデーの持ち主である。
 悪魔という割にその笑顔は天使の笑顔(エンジェル・スマイル)と呼ばれ、本よりも小悪魔を見に図書館まで足を運ぶ者が後を絶たないくらいだ。
 その小悪魔の激変にレミリアは目を丸くして尋ねてきたのだった。
 だが、全てを知っているパチュリーは何でもないように答えを口にする。

「ああ、あの子は、子悪魔よ」
「子悪魔? なんかおかしくない?」
「子悪魔であってるわ。だって小悪魔の子供ですもの」

 胡散臭い喋りは終わったと普段通りの口調に直す。答えてやったと言わんばかりに読書に戻った。
 レミリアもあ~成程と頷いて席に着こうとし、

「子供!? なにあいつ結婚してたの!!」

 大声で飛び上がった。見事なフェイントである。
 面倒臭そうにパチュリーが顔を上げる。説明しなければ友人が静かにならないと悟り溜息を吐いた。

「結婚はしてないわ。一人で子育てしてるみたいよ」
「そんなっ、でも父親はいるんでしょ? そいつは今何してるの!」

 レミリアが腹を立てる。小さい子供を押しつけて認知しない男が許せない。
 そいつをブン殴りたい衝動に駆られながらパチュリーを続きを促す。

「父親ね…いるというより、いたというべきかしら」
「えっ、まさか亡くなったの?」

 予想外の答えに少し戸惑ってしまう。
 言い辛そうに「それがね…」と返すパチュリーの様子に、聞いてはいけないことだったかと後悔する。

「食べちゃったみたい」
「食ったっ!! 旦那を食った!!!」
「契約上ね。願いを叶えたら魂を貰う約束だったみたいね。ほらあのコ、悪魔だから」

 こんなところで忘れかけていた世界の黒い部分を思い出される事になり、レミリアは震えた。
 可愛い顔してなんとやら。魔界は怖いとこである。良い子のみんなは決して軽い気持ちで黒魔術とか使っちゃダメだぞ☆

「それにね。実は相手は男じゃなくて女だったらしいの。同性もいける口みたいね」
「聞きたくなかったなぁぁぁ、その情報は!」

 百合色の世界に頭を抱えながらも、一つの疑問が頭に浮かぶ。

「うん、小悪魔の性癖は分かったけど、その当人はどこ行ったのよ? 子供ほっぽってさ」
「急に法事が入ったみたいなの。知り合いが亡くなったらしいわ。いつもは魔界の神綺保育園に預けているんだけど、今日はお休みだから暫らくここで面倒見てて欲しいって頼まれたのよ。雇い主を使うなんて舐めたマネしてくれるじゃない」
「魔界から出勤してるんだ……」

 パチュリーから語られる小悪魔の秘密に驚愕するレミリア。これからはもう少し待遇を良くしてあげようと決心するのだった。
 ちなみに、悪魔の法事については突っ込みは不要である。そういうこともあるのだろう。

「亡くなった悪魔。故悪魔ね!」
「……………」
「笑えよ、ベジータ」
  
 一人でむきゅむきゅと笑う親友を無視して、紅魔館もそろそろ子供手当てを出すべきか考える。
 門番を仕分けして予算を作る計画をしたところでどこからか視線が向けられているのに気付いた。
 振り向くと、絵本に夢中だったはずの子悪魔がこっちをじぃ~と見ている。その瞳は透き通って、曇りを知らない宝石のよう。
 無垢な瞳に見詰められながらレミリアはそっと優しく、微笑みながら声を掛け―――

「な、なに見てんのよ!」

 られなかった。
 顔は引きつり、相手を恫喝するかの如く低音で喋る。それは敵に対峙したときの姿に似ていた。
 レミリアは子供が苦手だったのだ。嫌いということではなく、むしろ可愛いと思うのだがどう接していいか分からない。
 それは長い間、妹を閉じ込めていたことが原因でもある。愛する妹を救うことが出来ず、地下へと力ずくで押し込める方法しか取れなかった自分がトラウマになっていた。か弱い存在を自分が触れることで傷つけてしまうのではないかと恐れている。
 視線を振り切るようにレミリアが高速で反復横飛びを行う。
 子悪魔がその速さに着いていけずに「こ、ここ、こぁ」とキョロキョロと顔を動かす。

 グシャッ

 振り切ったと心の中でガッツポーズをするレミリアの頭に激痛が走った。
 パチュリーが怖い顔をしながら本の角で殴りつけてきたのだ。

「埃立つから暴れるなっていつも言ってるでしょう! 本が傷んでしまうわ」
「ぐおお、グシャッていった! 本で、ヒトを殴るのはいいの……?」

 油断していたからか想像以上に痛い。頭を摩りながら涙目で訴える。
 どこ吹く風で目を逸らすパチュリーに怒りを撒き散らそうとしたその時、「こぁっこぁっこぁっ」と笑い声がした。
 子悪魔が二人を楽しそうに見詰め笑っている。

「まったく、レミィのせいで笑われちゃたじゃない」
「パチェのせいだろがっ! せっかく見失わせたとこだったのに」
「フフフ、なにビビってるの、吸血鬼さん」
「…フンッ、あんたが分からないわけあるまい」
「ええ知ってるわ。子供のあやし方も知らないのよね」

 友人の意地悪に舌打ちで返し、席に座る。頬杖をついて完全に拗ねモード。
 そんな親友の姿にパチュリーは苦笑いしてどうしたもんかと思案する。
 レミリアの気持ちも勿論理解している。長く友人をやっているのだ。過去の出来事が原因で恐れを抱いていること、そしてそれを何とかして克服したいと思っていることも。
 そんなおバカな吸血鬼を放っておけない。直したいというなら手伝ってあげるのは親友なら当然なのだ。

「昔は昔よ…フランだって貴方を恨んだりしていないわ。あの子は今を楽しんでいる。自分の狂気を克服するために頑張っているの。地底の子、お寺の子とも仲良くなれたし、これからももっと楽しい事を知っていく。運命を変えようとしているのよ」
「……………」
「過去を忘れろとは言わない。でも、貴方も変わっていいと思う。いいえ、変わるべきだわ」
「パチェ……うん、私も成長しないとフランに怒られちゃうわね」

 レミリアの顔つきが変わる。さっきまでの恐れが綺麗に消えていた。
 それを確認してパチュリーが親友の肩に手を掛け立ち上がらせる。

「じゃあさっそく抱っこからいってみましょうか」
「えっ、いきなりそんな難易度高いのから? 無理無理無理無理!!」
「ええいやかましい! 面倒臭いからさっさと手を出せ。私はゆっくり読書がしたいの」
「本音ね! それが本音なのね!! そうやって子供を私に押し付ける気ね!!!」

 足に力を入れて抵抗するレミリアを無理やり押す。普通なら力で勝てるわけないが今日は違った。
 とある大魔法使いから教わった身体能力を向上させる魔法を使い、ズリズリと前へ突き出す。
 「鬼、悪魔、オシャレ魔女」などの罵声を浴びせたがレミリアがとうとう子悪魔の前まで引きずり出される。
 目の前ではポカンと口を開けながら見上げる子供の姿。

「ハァハァ、大丈夫。子悪魔は人見知りはしない方だから。怖がらせない限り泣いたりしないわ」

 一生分の体力を使ったかのようにやつれたパチュリーがアドバイスをくれる。喘息持ちが無理をするからだと心の中で思うが、それもパチュリーが変わろうとした証なのかもしれないと理解した。
 身体を鍛えようともしなかった本の虫が自分を変えようと努力していることにレミリアもやる気が湧いてくる。

 子供相手に何をビビっているんだレミリア・スカーレット。私は誇り高き吸血鬼。抱っこくらい余裕かつカリスマ的に出来ないでどうする! と自分に言い聞かせ、目の前にいる挑戦者へと手を伸ばす。
 慎重にゆっくりと傷つけないように震えながらだったが。

 もう少しで手が届きそうになったその時、見詰めるだけだった子悪魔が一言、「こあっ」と鳴いた。
 ただそれだけ、深い意味は無い。しかし、その声だけでレミリアの思考がストップしてしまった。
 全身が硬直して動かない。体は震え、変な汗が流れる。過去の嫌な思い出がフラッシュバックして不安を駆り立てる。
 自分がここまで弱い存在だったことに気付き、泣きたくなった。事実、紅い瞳には涙が浮かんでいる。
 このまま不夜城レッドで逃げ出したい衝動に駆られるくらい余裕は無くなっていた。

 ふにゅ

 ふと指に柔らかい感触を感じた。
 恐る恐る指先に視線を送ると、

「あっ」

 子悪魔がレミリアの指に手を伸ばし握り締めていた。面白そうにふにふにと触っている。
 それはマシュマロのように柔らかく、すべすべで、暖かい。
 これが子供の手だと理解するのに暫く時間が掛かった。

「何よ…」
「こあ」
「私はこの館の主なのよ」
「こあ、こあ」
「それを気安く触ってるんじゃない、子供のくせに」
「こあ~こあ~」

 きゅっとその手を握り返す。震えは止まり、恐れも消えている。
 レミリアは、優しく笑っていた。





 ◇





「ただ今戻りましたー。パチュリー様、ちびちゃんの面倒見て下さってありがとうございます」
「あらおかえり。雇い主に迷惑掛けるなんてとんだ使い魔ね。とは言っても私は何もしていないけどね。礼はレミィに言いなさい」

 夕方頃、小悪魔が帰ってきた。
 パチュリーの言葉に振り向くと、レミリアが一生懸命自分の武勇伝を子悪魔に聞かせている姿が目に映る。

「やって来た巫女に向かって私はこう言ってやったわ。『こんなにも月が赤いから本気で殺すわよ』ってね」
「こあこあ~♪」
「レミリア様!」
「ん? ああ帰ったのね。それにしてもこの子素質あるわ。私の凄さがこの年で分かるなんて」

 レミリアが娘の相手をしていることに小悪魔は驚いた。
 紅魔館の主が子育てに興味があるとはと思ってもみなかったから。
 
「まさかレミリア様が面倒見て下さったんですか? なんとお礼を言っていいのか…本当にありがとうございます」
「礼なんていらん。それよりも小悪魔。なんで娘がいることを私に教えてくれなかったの?」

 契約者であるパチュリーは仕方ないとして、その館の主にまで迷惑を掛けるのは悪いと思っていたと正直に伝える。
 怒られて契約自体を解除させられるんじゃないかと内心焦る小悪魔だったが、意外にもレミリアは優しかった。

「まあ済んだことはいいわ。事情はパチェに大体聞いてるし大目に見ましょう。ただし」

 条件を付けるように威厳を持ってビシッと言い放つ。

「今度から連れてくるなら私にちゃんと報告しなさい。このレミリア・スカーレットが直々に遊んであげるわ」
「レミリア様! はいっ、これからもどうか、ちびちゃんの相手をお願いします」
「何カッコつけてんの。結局抱っこ出来なかったくせに」
「うっさいパチェ!! つ、次こそ抱っこしてやるんだから。小悪魔も絶対に連れて来なさいよ!」
「良かったわねぇ、ちびちゃん。レミリア様がまた遊んでくれるみたい」
「こあこあこあ~~~!!!」

 小悪魔に抱き上げられて嬉しそうに笑う子悪魔。
 余りにもそっくりな母子を眺め、一息ついてレミリアが呟く。

「まあ、子供も案外悪くないわね」



 それからというもの、紅魔館の主がよく図書館で目撃されるようになったらしい。
 従者曰く、子供と戯れる時のお顔は、まさしく天使のような悪魔の笑顔とのこと。
子悪魔で検索したら116件も引っかかっただと……それならば117件目になるしかないだろう!!
 
あと、未亡人小悪魔って最高じゃないか!!!

そう思うだろ、あんたも。
もるすあ
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
なにこれ皆可愛い…

未亡人こあいいよ、いいけどさぁ…

未亡人になった経緯が最悪だwwww
2.名前が無い程度の能力削除
黒魔術グッジョブ
3.こじろー削除
未亡人? 我は一向に構わん! むしろご褒美でこあくま結婚して!
4.奇声を発する程度の能力削除
ええ、そうですね!!(誰に言ってる

>笑えよ、べジータ
盛大に吹いたwwwwww
5.万年初心者削除
>実は相手は男じゃなくて女だったらしいの
俺は女だったのか。
やった! 俺はこぁとフュージョンしてたぞ! むっきゅっきゅっきゅ
6.名前が無い程度の能力削除
そうだぜ俺も
7.ぺ・四潤削除
ほら、ちびっこぁちゃん一人じゃ寂しそうですから。
もう一人姉妹とか作ってあげたくないですか?
8.乙樽削除
まあ、アリじゃないか、貴様。
9.名前が無い程度の能力削除
たぶん相手の願いはこんなんですね。
恋人になって、生やして、子作りさせて。
10.名前が無い程度の能力削除
未亡人小悪魔か……。
アリだね!
11.No.2削除
未亡人小悪魔?新しい・・・惹かれるな
12.名前が無い程度の能力削除
良し!
13.名前が無い程度の能力削除
「こぁっこぁっこぁ」って笑うちびちゃんが実は腹黒いんだとか、子持ちであるという話はパチュリーがからかっただけとか、邪推してごめんなさい。
14.名前が無い程度の能力削除
お嬢様可愛いな。

もちろん小悪魔と子悪魔、パチュリー様もね!