Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

リトル・リトル

2010/05/17 02:52:57
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 紅い悪魔が束ねる館、その地下にある大図書館で、今日も今日とて魔女は囁き、悪魔は笑う――。





「パチュリー様、パチュリー様ぁ!」

 朝、目を覚ましてすぐに、私こと小悪魔は主人である‘動かない大図書館‘パチュリー・ノーレッジ様の元へと走りました。

「おられますか、おられますよね、返事をしてください!」

 図書館内にある主の研究室の扉を力任せに叩きます。

「パチュリー様! パッチェ様! こんのぉぉぉぉぉ!」

 呼べども叩けども反応を返さない主人と扉に業を煮やし、私は、背を限界までそり、渾身の力で叫び、拳をぶつけました。



「紫もやしぃぃぃぃぃっきゃぅ!?」



 べっちん。

 何時ものような‘愛のお仕置き‘があった訳ではありません。
 私は勢いあまって倒れこんでしまったのです。
 つまり、扉は向こう側から開かれました。

 鼻を両手で摩る私を影が覆います。
 大きくはありません。ない筈なのです。
 だって、私の体格はどこをとっても主より大きいのですから。

 だと言うのに、あぁ! 見上げた私は、パチュリー様を大きいと感じてしまいました――。

「ふぁ……なによ、煩いわね」

 小悪魔、パチュリー様がこの様な態度を取るに至った事情を知っております。

 と言うか、帰ってくるなり呪詛のように「グーが、グーが……!」と繰り返されるのですから、聞かない訳にもいきません。

 七色人形使いことアリス・マーガトロイドさんが、‘親‘の神綺さんの魔法により小さくなってしまった事。
 流石は魔界神たる神綺さんのお力、アリスさんの魔力は変わらず、過度のスキンシップは図れなかった事。
 だがしかし、むしろ色々解き放たれたアリスさんの方からスキンシップを図ってこられた事。
 常日頃セーブ役のパチュリー様と言えど、ちょっともう辛抱たまらなかった事。

 ――そして、結局、同席した魔理沙さんと拳で語らい敗北し、当日当夜の保護者権を得られなかった事。

 ……あぁはい、勿論その場で突っ込みましたよ。
 何してはるんですか貴女は、と。
 スルーされました。

 昨夜、アリスさん宅から桃のような血色と魚の腐ったような目で帰ってこられたパチュリー様。
 今も変わらず死んだ目をされていますが、充血が追加されています。
 かの魔法を解く為の調べ物で寝ておられないのでしょう。

 知った事か。

 ‘煩い‘。
 パチュリー様はそう仰られました。
 私の姿をどどめ色の瞳に入れられているでしょう、その上で、です。

 本当に、もう、知った事か。

 怒り心頭の私はしかし、使い魔としての礼儀を完全には忘れてはいません。
 転んだままの無様な姿勢で話しかけるなど言語道断。
 立ち上がり、埃を払います。

 てちてち、てちてち。

「……あぁ!? 擬音まで可愛らしく!」
「んぅ……用がないなら寝させて頂戴」
「言う事はそれだけですかっ!?」

 涙ながらに叫びつつ詰め寄る私。
 両肩に手が下ろされました。
 そして、仰られます。

 その瞬間、少しだけ、パチュリー様の双眸が生き返られました。



「小悪魔、ちっちゃくなっちゃった!」



 近頃お気に召したフレーズの逆バージョンです。勘弁して頂きたい――じゃねぇ!?

「‘なっちゃった‘じゃないですよ! これ、この姿は!」
「私の呪法よ。上手くいったようね」
「そんなあっさり!?」

 それよりも、ねぇ、面白くなかった?――おほざきになる主を、持てる眼力の限り睨みつけました。
 パチュリー様のお言葉通り、私は縮んでしまっています。
 現に見上げているのがいい証拠。

 更に具体的に申しますと、小悪魔、今、妹様よりペドいのです。

 未だ期待の籠った瞳を向けられる我が主。
 己の所業の意味をわかっておられません。
 私を小さくする、その罪を。

 喉が張り裂けんばかりに、叫びます。

「何て事を、何て事をなされたのですか!?
 パチュリー様はご自身がなさった悪行を理解されておりません!
 他の何方でもなく私をミルキィボディになど……この館を揺るがす大事件なのですよ!?」

 腕を広げての啖呵。
 けれどもファニーな響き。
 ぅわ、結構凹みますね、これ。

 だと言うのに、パチュリー様は面倒臭そうに応えます。

「別に、ママの味が必要な程小さくした訳じゃないでしょう?」
「我が家庭ではママンのミルク、パパン専用です」
「そこまでよ!?」

 あ、なんか暫くぶりに綺麗な突っ込みを入れられました。

 ……や、喜んでいる場合じゃない。

「こほん」

 空咳を打つ私に、気を持ち直したパチュリー様の指が向けられます。
 視線はやはり変わらず面倒そう。
 がっでむ。

「そもそも。
 貴女は私の使い魔よ?
 どうしようが何を言われる筋合いもないわ」

 反省の色も見えません。ふぁきん。

「パチュリー様の所有物だと言う事に異論はございません」
「え、いや、あの、物とまでは言ってな」
「ですが!」

 そんな些細な事などどうでもいいのです。
 あ、でも、所有物っていい響きですね。
 貴女色に染め上げて。

 ――ともかく。



「パチュリー様! この館の住人様を思い描いてください! ……いいですね!?

 グラムグラマーマーヴェラス、幻想郷の母なるおっぱいのおヒトリ、美鈴さん!
 ヅカ顔負けのスレンダーバディそしてクールビューティ、咲夜さん!
 ロリとペドの権化、お嬢様と妹様、加えて妖精の皆さん!

 皆さんとても魅力的であり大変な部位が変態な事になります!
 ですけれども何事も基本を押さえてこそでしょうに!
 館で唯一メインヒロイン体型、それがこの私!

 その私を幼女化など……! 

 ‘多い日も安心♪‘がウリのこの館、この桃魔館の看板をうきゃ、うきゃぅ!?」



 でこぴんされました。
 しかも二連撃です。
 畜生、魔女め。

 あ、いやいや。

「本当は三発の所を減らしてあげたんだから、感謝してほしいくらい」
「‘桃魔館‘と‘多い日も‘と、あ、‘変態な部位が大変な事に‘?」
「間違えてる――って、繰り返すな、言い直そうとするな!」

 ぴっぴんぴぴん。

「あうぅぅぅ……」

 額を押えて蹲るワタクシ。
 ぱっと見、しゃがみガードです。
 うーん、お嬢様ならともかく、自分でやっても嬉しくないですね。

 なんて思っていると、頭上で空咳を打たれました。
 顔をあげると、片手をご自身の頭に添えているパチュリー様。
 何かを問いたげに口を開きかけ、思い直されたのか、閉じます。

 一瞬後、再び開きました。

「然程痛くないでしょうに」
「パチュリー様、非力ですからねぇ」
「その減らず口に、今度は拳を突っ込んであげようかしら」

 どんと来い。

「この小悪魔、フィスト、あ、これです、これもですよ、パチュリー様!」

 呼びかけに、腕と口を大きく開きかけたパチュリー様の動きが止まります。
 なんと言いますか、大概に耳年増ですよね、この方も。
 意外かもしれませんが私の所為ではないと思います。

 ――兎にも角にも。



「パチュリー様、この際、小悪魔、幼女化は受け入れます。
 久方ぶりのつるっつるを楽しみます。
 はいそこ指を折り畳まない!

 ――そう、これですよ、この言葉、この思考!
 マイマスタ、貴女は基本をわかっておられない!
 万人が認め求める幼女化の基本!!

 それは、ギャップです!

 なのに、あぁ、なのに!
 私の内面はこれっぽっちも変わっていません!
 留まる事を知らない欲望と劣情が今なお胸を焦がしています!

 それでも私以外なら、或いは楽しめたでしょう!

 いぐざんぽぉ!
 咲夜さんが幼女化したとしましょう!
 平素クールなだけにだっだ甘の展開が容易に想像できるじゃないですか! 濡れるじゃないですか!?

 あーもぉ、あぁもぉぉ!
 こう言う魔法こそ、そう言う方にかけるべきでしょう!?
 毎日お気楽快楽あんあぁんと過ごしている私を小さくしたって誰得っきゃぅ!」



 拳骨が落ちてきました。
 今度は痛かったです。
 ほんとに痛かった。

「って、あれ、パチュリー様?」

 悶えていた私の両脇を掴み持ち上げ、パチュリー様は歩かれます。
 わー、ほんっとにちっちゃくなっちゃたんだなぁ、などと。
 だって、足は空を切るのに目線は馴染んだものなんです。

 それでも何時もよりはちょいと下ですが。

「そろそろ開館時間でしょう、司書さん?」

 微妙な感想を抱いていると、心を読みとったのでしょうか、パチュリー様が揶揄するように言ってきます。

「って、この姿で働かせる気ですか!? この悪魔!」
「魔女よ。……それに、悪魔は貴女でしょう?」
「小悪魔です。しかも今は、リトル・リトル」

 ちちちと指を振り、胸を張ってお答えします。
 とてもなだらかでした。
 初めて悲しい。

「余裕あるんじゃないの……」
「言いたい事言いましたので」
「あっそ」

 何時も通りに冷たく返され、パチュリー様はそっと私を下ろします。

 ……ん?

「あぁそれと、今日は司書の仕事に専念する事。いいわね?」
「手慰みに自分をなぐうきゃ!?」
「さっさと行きなさい」

 何かが浮かんだのですが消えてしまいました。
 パチュリー様に背を押された所為です。
 いえまぁ自業自得なのですが。

 あ、そう言えば、今日はまだ‘愛のお仕置き‘――スペルカードを受けてない……?

「……ところで、小悪魔」

 主の声を無視する訳にはいきません。
 まとまりかけた思考を放り出し、振り向きます。
 見上げたパチュリー様は、ほんの少し、頬に朱をひかれていました。

 碌でもない予感がします。

「さっきの。ヒロイン体型がどうとか。あの、私は?」
「‘もやし‘と評される貴女様が、何を」
「あっそ!」

 ヒロイン体型に求められる数字、それは意外と難しいのです。
 バストは平均値より少し上、ウェストはかなり細く、ヒップはまぁほどほど。
 そんなアニマなものですので、パチュリー様にはもう少しお肉を付けて頂かないと。

 今のままでは、治るものも治りませんし。

「じゃあ――行ってらっしゃい!」
「その前に、も一つだけ」
「……何よ?」

 送りだされる言葉を胸に刻み、私はパチュリー様を見上げました。

「先ほどの」
「ちっちゃくなっちゃった!」
「面白くありません。ではなくて」

 主の愚行を止めるのは、僕の務めです。



 壁にのの字を描くパチュリー様の注意を、空咳で引いて、続けます。



「余裕があるのは、言いたいことを言ったのと、もう一つ」

 私の体は確かに幼くなりました。
 しかし、心が変わった訳ではありません。
 パチュリー様に対する想いも、同じくです。

「貴女様は、アリスさんにかけられた魔法を会得されました。
 であるのならば、私が変わったのは姿だけです。
 ‘力‘は変わっていません」

 それに――言葉にはせず、心で思いました。

 先の通り、アリスさんに魔法をかけたのは、神綺さんです。
 親馬鹿な所ばかり目立ちますが、彼女は魔界神。
 世界を創造し、統治する力をもった神です。

 そんな神の魔法を分析し、我がものとされたパチュリー様。
 ‘魔女‘として、更に知恵も力も付けられたのでしょう。
 私は、嬉しく思います

「――なんて、まぁ、元々そんなに使いはしないんですけどね」

 頬を掻き、色々な感情が混ざった笑みを浮かべ、言い切りました。





 視界に映るパチュリー様は、首を傾げて目を瞬かせています。
 『むきゅ?』って感じですね。
 やだ濡れちゃう。

 ……え?





「……私、神綺の魔法を会得した、なんて言ったっけ?」
「え、あの、いや、言ってませんけど、でもですね」
「言うはずがないわ。解らなかったんですもの」



 なん……だと?



「一切の副作用を伴わず、‘力‘はそのままに、身体だけを幼くする――。
 一晩かけて図書館を漁ったのだけれど、皆目見当もつかなかったわ。
 流石は神綺、‘魔界神‘の二つ名は伊達じゃないってところね」

 言葉は悔しさを訴えますが、若干、敬う響きが込められていました。

 どうでもいい。

「で、ですが! 現に私は幼くなっていますよ!?」
「何を聞いていたの。呪法だって言ったじゃない」
「言ってたー!」

 と言うことは?

「副作用ありありですか!?」
「大したものじゃないわよ。‘力‘が使えなくなる程度」
「だから、通称愛のお仕置き、スペルカードを使わなかったと!?」

 私の‘力‘は、主に、パチュリー様からの折檻を受けきるために使われます。

 よくできました。
 頷くパチュリー様。
 ……そんな伏線回収はいらねぇ!?

「じゃ、じゃあ!」

 多大なる精神的打撃に仰け反った私は、しかし、強い子なのです。
 小さな足に力を入れ、腰を落とし、態勢を戻しました。
 そして、パチュリー様に詰めよります。



「いったい、私を幼くしたのに、どういう意図が!?」
「意図なんてないわ。単なる八つ当たり」
「言い切りやがったぁぁぁ!」



 もろ手をあげて嘆く私に、パチュリー様は背を屈め、囁きます。

「ほら、与太話をしていたから、もう開館の時間よ。
 私は寝るんだから、静かに仕事をこなすこと。
 じゃあ、おやすみなさい、リトル・リトル」



 もう笑うしかねぇと涙を流しながら、返しました。

「あっはっは、貴女様の小悪魔、このリトル・リトル、今日も一日頑張りますよ!
 顔を洗って歯磨きをして、お風呂に入って寝間着に着替えてくださいね!
 では、おやすみなさい、パチュリー様!!」



 捨て台詞を吐き終えて、くるりと振り向き、私は入口に向かいます。



 この後。
 咲夜さんを悩殺したり。
 妹様とこいしさんをピチュらせたりするのですが。



 それはともかく。紅い悪魔が束ねる館、その地下にある大図書館で、今日も今日とて魔女は囁き、悪魔は笑うのでした――。





                      <了>
・半年ほど前から構成はありました。拙作『たまり場』参照。お読み頂きありがとうございます。

・文中で示している通り、『アリス・マーガトロイド・イン・アリス』から派生したお話でした。
・リトル・リトルのお話と言うか、幼女化のキモをぶちまけただけのお話になってしまっているような。
・思ってはいたんです。ウチの小悪魔を小さくしても、なんら普段と変わらないんじゃないかなって。ほんとに変わらないとは。

・にしても、私の書くパッチェさん、小悪魔にだけはド外道だなぁ……。

いじょ
道標
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
何やってんだ二人ともって突っ込もうとしたらペドい小悪魔さんが先に突っ込んでたwwwww
面白かったです!
2.名前が無い程度の能力削除
記憶退行の呪法もかければよかったのに
……子供のころなら純粋無垢だよね?
アレ??
3.名前が無い程度の能力削除
出てくるキャラがどいつもこいつもw
4.名前が無い程度の能力削除
せっかくペドくなったのに「こあー」って鳴かないなんて
ああ、MOTTAINAI。
5.名前が無い程度の能力削除
何故だれもママンのミルクがパパン専用なことにツッコまない!?