紅い悪魔が束ねる館、その地下にある大図書館で、今日も今日とて魔女は囁き、悪魔は笑う――。
「ごきげんよう、今日のドロワは何色かしら、フラン」
「きゅっとしてドカーンっ!」
「うー!?」
眼前で行われる仲睦まじいスカーレット姉妹の交流に、‘図書館の司書‘小悪魔は、眉を寄せ微苦笑を浮かべた。
「あぁお嬢様、何時の間にあのようにエレガントな挨拶を……」
「エレガント? 少し前、さとりに教えてもらったらしいわ」
「や、パチュリー様、聞いていたんなら止めてくださいよ」
「止めたわよ。可能性に賭けるって、レミィが聞かなかったの」
「そも、さとり様が来られてたのって四月馬鹿の日ですよね?」
「だから、可能性。――それはどうでもいいとして、小悪魔」
「こいしさんなら答えそうですしねぇ。――はいな?」
一方、親友レミリアの惨状にも動じず、従者の名を呼ぶ、‘図書館の主‘パチュリー・ノーレッジ。
傍らで椅子に座る主に、小悪魔も視線を合わせた。
瞳が交錯する。
疑問の表情を小悪魔が読み取ったと同時、パチュリーが口を開いた。
「レミィは『うー』」
「……は?」
「私は『むきゅー』」
「はぁ……」
「あの霊夢でさえ、『うぎぎ』」
「えーと」
「だと言うのに、何故、貴女は『こあー』と鳴かないの?」
それはもう、大真面目に聞いているようだった。
「だって、おかしいじゃない。貴女は小悪魔なのよ?」
なのよと言われても。
「えー、あー、返答に困ります、パチュリー様」
「だったらほら、『こあー?』って。ね」
「ね、じゃないです」
素敵に絶好調なパチュリーに、小悪魔はただ困惑した表情を見せた。
ふむ、と顎に手を当てるパチュリー。
頬を指で掻く小悪魔。
一拍の間。
再び、パチュリーが発言する。
「歯が浮くような台詞」
「手と手の皺を合わせれば幸せと言いますが、貴女に指先が触れるだけで、私は十二分に生まれてきたことを感謝します」
「次に、どうかと思う台詞」
「おまたとおまたの皺を合わせて幸せー、なぁむぅ……ぁん」
「じゃあ、はいっ」
両手を打った響きだけが、空しく館内に響き渡った。
「いえ、あの、パチュリー様……?」
突っ込みが入らない。
それだけ言わせたいのだろう。
その事実に、小悪魔は戦慄する。
「これまで言ってなかったから今更……、なんて恥ずかしがる必要はないのよ?」
「なんの配慮ですか。ではなくて、普通、仰るような悲鳴はあげません」
「そんな態度に言葉遣いだから言わせた……ぁ」
両手で自身の口を塞ぐパチュリー。
あー、と呟きつつ、小悪魔はうろんげな視線を投げる。
ろくでもない理由なんだろうな、と思っていた。
「な、なによ、私はただ、ただ……」
従者の瞳に含まれる感情を読めない主ではない。
故に、くるくると指を意味なく回す。
結局、観念して胸の内を語った。
「アリスが言っていたの。『小悪魔ってお姉さんみたいよね』って。
魔理沙が続けたわ。『我儘な妹を持った寛容な姉ちゃんだな』と。
確かに私は貴女より背が低いわね、我を張るところもあるかもしれない。
でも、おかしいじゃない! 普通、主従と言えば逆でしょう!?
冥界組然り、永遠亭然り、レミィだって咲夜の前じゃお姉さんしているわ!
私は考えた。どうすればこの状況を覆せるか。いえ、そも、何故こうなったのか。
わかる? わかるかしら、小悪魔? 貴女には幼さが足りない! そう、だから、『こあー』と鳴く必要があるの!! けふっ」
久しぶりの長台詞は咳を伴った。
片手で背を擦り、もう一方の手で水筒を取りだす小悪魔。
器用に蓋兼コップを外し、中の水を注ぎ、淀みなくパチュリーの口にあてる。
――この間、数秒。
「いえ、その理屈はおかしいと思います」
職務を果たした後、小悪魔はきっぱりと言った。
「っぷあ、まだあるわ! 貴女、口調と行動が美鈴と被ってるのよ! 一緒に出れないじゃない!」
「んなメタな……。常にパチュリー様のことを考えているのが私です」
「わかんない! それに、よそ様を見てみなさいよ! 『こあー』『こあ?』って、ほら可愛い!」
「よそはよそ、うちはうちです」
「むきゅー! こあーこあーこあー!」
力技に出てきやがった。
――思いつつ、小悪魔は言う。
背を擦っていた手は残したままだ。
「パチュリー様。
私は、貴女の従者です。
お護りしたいと思いつつ、様々な面で護られているのが現状です。
他の方にどう思われようと私がそう考えている――と言うだけでは、不満でしょうか」
言葉以上の想いを、瞳に込めた。
真っ直ぐに見つめる。
見つめ返された。
視線が絡まり、パチュリーは応える。
「別に、護ってなんかいないわよ」
ぶっきらぼうな言葉は、何時ものパチュリーの調子だった。
だから、小悪魔は手を離し、水筒を腰のポーチに戻した。
納得してもらえた、と思っている。
「ふふ……では、司書室に戻っていますね」
机の上に本を広げるパチュリーに、小悪魔も平素の仕事を再開しようとする。
振り向く間際、ペンが手に握られているのが見えた。
珍しく、鉛筆だ。
パチュリーが普通の本に書き込みを加えるとは考えづらい。
となれば、普通でない、書き込むための本。
パズルやクロスワードの類のものだろう。
「あ、ちょっと、その前に」
――推測し、小悪魔は額に手を当てた。
「二文字でね、マントルの内側の層ってなんて言ったっけ?」
納得などさらさらしていないようだ。
「どんだけ言わせたいんですか……」
「何の話? ほら、いいから」
「核です」
確かに二文字だ。
暫しの間。
「ビル・クリントン政権の副大統領! 濁点は抜きで!」
「アルハート・アーノルト。ミスター・ブッシュJrに敗れた方ですね」
「ロボットを操作するアクションゲーム! アーマード!?」
「『貴様は、あの列車の……。好都合だ、決着をつけようか』」
「カラサワは偉大だったわ。――劇中の台詞なんて聞いてないわよぅ!」
むっきゅー!
なんだかどんどんパチュリーの等身が小さくなっているような。
振りあげられる両腕。
小悪魔はそっと肩を掴み、閉じさせる。
激しい動作は喘息の発作を誘発しかねない。
今更ですかね――心の内で苦笑し、小悪魔はパチュリーに向き合った。
「言えばいいんですね?」
「言ってくれるの?」
「命じて頂ければ」
瞳を覗き込みながら、続ける。
「私は、貴女の小悪魔ですから」
「じゃあ言いなさい」
「決めたのに!?」
自身の悲鳴などどこ吹く風のパチュリーに、一つ咳払いをして、小悪魔は言った。
「とは言え、これきりですからね」
「うんうん、わかったから。早く早く」
「私に幼さが足りないと言うか……いいですけど」
息を小さく吸い込み、吐くと同時、呟く。
「こ、こあー」
小悪魔にしては珍しく、頬に朱が混じっていた。
そんな彼女に、魔女は囁く。
「うーん……思っていたより可愛くないわね」
「酷い! どないせーっちゅーんですか!?」
「あ、もういいわ。戻りなさい」
そして、悪魔は泣き笑うのであった。
ある季ある月ある日のお話。紅魔館は、今日も今日とて平和だったとさ。
「ちょ、貴女たち、紅い悪魔ことこの私、レミリア・スカーレットへのフォローはなし!?」
「きゅ「きゅ「きゅ「きゅっとしてぇ――ドッカーン!」」」」
「うー!?」
平和だったとさ。
<了>
「ごきげんよう、今日のドロワは何色かしら、フラン」
「きゅっとしてドカーンっ!」
「うー!?」
眼前で行われる仲睦まじいスカーレット姉妹の交流に、‘図書館の司書‘小悪魔は、眉を寄せ微苦笑を浮かべた。
「あぁお嬢様、何時の間にあのようにエレガントな挨拶を……」
「エレガント? 少し前、さとりに教えてもらったらしいわ」
「や、パチュリー様、聞いていたんなら止めてくださいよ」
「止めたわよ。可能性に賭けるって、レミィが聞かなかったの」
「そも、さとり様が来られてたのって四月馬鹿の日ですよね?」
「だから、可能性。――それはどうでもいいとして、小悪魔」
「こいしさんなら答えそうですしねぇ。――はいな?」
一方、親友レミリアの惨状にも動じず、従者の名を呼ぶ、‘図書館の主‘パチュリー・ノーレッジ。
傍らで椅子に座る主に、小悪魔も視線を合わせた。
瞳が交錯する。
疑問の表情を小悪魔が読み取ったと同時、パチュリーが口を開いた。
「レミィは『うー』」
「……は?」
「私は『むきゅー』」
「はぁ……」
「あの霊夢でさえ、『うぎぎ』」
「えーと」
「だと言うのに、何故、貴女は『こあー』と鳴かないの?」
それはもう、大真面目に聞いているようだった。
「だって、おかしいじゃない。貴女は小悪魔なのよ?」
なのよと言われても。
「えー、あー、返答に困ります、パチュリー様」
「だったらほら、『こあー?』って。ね」
「ね、じゃないです」
素敵に絶好調なパチュリーに、小悪魔はただ困惑した表情を見せた。
ふむ、と顎に手を当てるパチュリー。
頬を指で掻く小悪魔。
一拍の間。
再び、パチュリーが発言する。
「歯が浮くような台詞」
「手と手の皺を合わせれば幸せと言いますが、貴女に指先が触れるだけで、私は十二分に生まれてきたことを感謝します」
「次に、どうかと思う台詞」
「おまたとおまたの皺を合わせて幸せー、なぁむぅ……ぁん」
「じゃあ、はいっ」
両手を打った響きだけが、空しく館内に響き渡った。
「いえ、あの、パチュリー様……?」
突っ込みが入らない。
それだけ言わせたいのだろう。
その事実に、小悪魔は戦慄する。
「これまで言ってなかったから今更……、なんて恥ずかしがる必要はないのよ?」
「なんの配慮ですか。ではなくて、普通、仰るような悲鳴はあげません」
「そんな態度に言葉遣いだから言わせた……ぁ」
両手で自身の口を塞ぐパチュリー。
あー、と呟きつつ、小悪魔はうろんげな視線を投げる。
ろくでもない理由なんだろうな、と思っていた。
「な、なによ、私はただ、ただ……」
従者の瞳に含まれる感情を読めない主ではない。
故に、くるくると指を意味なく回す。
結局、観念して胸の内を語った。
「アリスが言っていたの。『小悪魔ってお姉さんみたいよね』って。
魔理沙が続けたわ。『我儘な妹を持った寛容な姉ちゃんだな』と。
確かに私は貴女より背が低いわね、我を張るところもあるかもしれない。
でも、おかしいじゃない! 普通、主従と言えば逆でしょう!?
冥界組然り、永遠亭然り、レミィだって咲夜の前じゃお姉さんしているわ!
私は考えた。どうすればこの状況を覆せるか。いえ、そも、何故こうなったのか。
わかる? わかるかしら、小悪魔? 貴女には幼さが足りない! そう、だから、『こあー』と鳴く必要があるの!! けふっ」
久しぶりの長台詞は咳を伴った。
片手で背を擦り、もう一方の手で水筒を取りだす小悪魔。
器用に蓋兼コップを外し、中の水を注ぎ、淀みなくパチュリーの口にあてる。
――この間、数秒。
「いえ、その理屈はおかしいと思います」
職務を果たした後、小悪魔はきっぱりと言った。
「っぷあ、まだあるわ! 貴女、口調と行動が美鈴と被ってるのよ! 一緒に出れないじゃない!」
「んなメタな……。常にパチュリー様のことを考えているのが私です」
「わかんない! それに、よそ様を見てみなさいよ! 『こあー』『こあ?』って、ほら可愛い!」
「よそはよそ、うちはうちです」
「むきゅー! こあーこあーこあー!」
力技に出てきやがった。
――思いつつ、小悪魔は言う。
背を擦っていた手は残したままだ。
「パチュリー様。
私は、貴女の従者です。
お護りしたいと思いつつ、様々な面で護られているのが現状です。
他の方にどう思われようと私がそう考えている――と言うだけでは、不満でしょうか」
言葉以上の想いを、瞳に込めた。
真っ直ぐに見つめる。
見つめ返された。
視線が絡まり、パチュリーは応える。
「別に、護ってなんかいないわよ」
ぶっきらぼうな言葉は、何時ものパチュリーの調子だった。
だから、小悪魔は手を離し、水筒を腰のポーチに戻した。
納得してもらえた、と思っている。
「ふふ……では、司書室に戻っていますね」
机の上に本を広げるパチュリーに、小悪魔も平素の仕事を再開しようとする。
振り向く間際、ペンが手に握られているのが見えた。
珍しく、鉛筆だ。
パチュリーが普通の本に書き込みを加えるとは考えづらい。
となれば、普通でない、書き込むための本。
パズルやクロスワードの類のものだろう。
「あ、ちょっと、その前に」
――推測し、小悪魔は額に手を当てた。
「二文字でね、マントルの内側の層ってなんて言ったっけ?」
納得などさらさらしていないようだ。
「どんだけ言わせたいんですか……」
「何の話? ほら、いいから」
「核です」
確かに二文字だ。
暫しの間。
「ビル・クリントン政権の副大統領! 濁点は抜きで!」
「アルハート・アーノルト。ミスター・ブッシュJrに敗れた方ですね」
「ロボットを操作するアクションゲーム! アーマード!?」
「『貴様は、あの列車の……。好都合だ、決着をつけようか』」
「カラサワは偉大だったわ。――劇中の台詞なんて聞いてないわよぅ!」
むっきゅー!
なんだかどんどんパチュリーの等身が小さくなっているような。
振りあげられる両腕。
小悪魔はそっと肩を掴み、閉じさせる。
激しい動作は喘息の発作を誘発しかねない。
今更ですかね――心の内で苦笑し、小悪魔はパチュリーに向き合った。
「言えばいいんですね?」
「言ってくれるの?」
「命じて頂ければ」
瞳を覗き込みながら、続ける。
「私は、貴女の小悪魔ですから」
「じゃあ言いなさい」
「決めたのに!?」
自身の悲鳴などどこ吹く風のパチュリーに、一つ咳払いをして、小悪魔は言った。
「とは言え、これきりですからね」
「うんうん、わかったから。早く早く」
「私に幼さが足りないと言うか……いいですけど」
息を小さく吸い込み、吐くと同時、呟く。
「こ、こあー」
小悪魔にしては珍しく、頬に朱が混じっていた。
そんな彼女に、魔女は囁く。
「うーん……思っていたより可愛くないわね」
「酷い! どないせーっちゅーんですか!?」
「あ、もういいわ。戻りなさい」
そして、悪魔は泣き笑うのであった。
ある季ある月ある日のお話。紅魔館は、今日も今日とて平和だったとさ。
「ちょ、貴女たち、紅い悪魔ことこの私、レミリア・スカーレットへのフォローはなし!?」
「きゅ「きゅ「きゅ「きゅっとしてぇ――ドッカーン!」」」」
「うー!?」
平和だったとさ。
<了>
パッチェさんも可愛いです。
ごちそうさまでした!
「こあっこあっこあっ」と高笑いさせてみてはいかがでしょう?
絶望リスナーですか!?
こぁ可愛いよこぁwww
「核です」その発想はなかったwww
>>11
貴様俺を殺す気か!!
>>3様
「こあっこあっこあっ」
羞恥心他色々ぶっちぎって腰に手を当て笑う小悪魔に、パチュリーが言った。
「……小悪魔将軍?」
「私、小さい子どもをばらばらになんてできません」
「物理的云々じゃなくて精神的に、ね。……いや、できなさいよ、悪魔」
>>4様
「じゃあ、小悪魔、『こぁ』って、短く切るのはどうかしら?」
「パチュリー様。切り札は最後まで取っておくものなのです」
「今ばらしたじゃないの」
勿論、もうひとつ奥の手を持っていないはずがない、小悪魔だった。
>>9様
昔よく見かけた(今もあるんですかね)CMのパロディだったのですが……件の放送は未聞です。
>>11様
「どう思います、ナズ?」
小首を傾げ問う星に、ナズーリンは半眼を向けつつ、応える。
「やぶかさではないですが。けれどご主人、まず手本をみせてはくれないか」
「ぐるるぅ、がおー! と、ではないですね。とらーとらーとらー!」
「まさか本当に鳴くとは……」
――この後、ナズーリンが鳴いたか否かは、諸兄の判断にお任せしよう。
ちなみに、読んでてなぜかこんな妄想(?)が・・・
咲夜「・・・やはり、私も何か語尾をつけるべきかしら?・・・「さきゅっ」とか?あ、でもこれだとパチュリー様と被っちゃうわね。・・・・・・!そうよ、これなら!!」
咲夜「・・・というわけで、私なりにオリジナルの語尾を考えてみたの」
美鈴「はぁ、さよですか・・・」
咲夜「ふっ・・・、その反応は想定内よ美鈴。・・・けれど、そのような態度も今の内よ。・・・・・・さあ、とくと聞きなさい!!」
咲夜「・・・・・・いざよっ!!」
・・・なんか、いろんな意味ですんません・・・orz
超越かわいいじゃないですか
確かに幼い小悪魔も見て観たい気がする
でも時折見せる恥じらいとかの破壊力がヤバいです