研究が捗らない。
やりたい研究は沢山あるし、目的も全て明確化してある。やることは沢山あるはずなのに。
時間が沢山ある魔法使いになったからか?いや、そんなはずは無い。それなら、もっと前から感じていてもいいはずだ。
無意識に出る溜め息。
研究が進まないことに対してなのか、自分のこのよくわからない感情に対してなのかさえ分からない。
気分が悪いというわけでもない。ただ、なんとなく手が動かない。自分で紅茶を入れる気にもならないほど。
仕方なく、上海人形に紅茶を注いで来てもらう。いつもなら、研究に没頭している時くらいにしか上海に注いで来てもらうことはないのだけれど。
机に伏したまま、寝てしまおうか。とも考えたけれど、流石にそれは意味も無い上に今紅茶を入れて来ている上海にも悪い。
(寝ないことにも何か理由をつけないといけないなんて)
改めて、自分の違和感に気付かされた心持ちがした。
コト、と机の上にソーサーとカップが置かれる。運んで来てくれた人形達にお礼を言って紅茶の入ったカップを手に取る。
自分が思った通りの注ぎ方をした時の紅茶の香。まあ自分の作った人形にそう指令したのだから当たり前だが。
吸血鬼の犬には負けるけれど、私の紅茶もそれなりの完成度の高い紅茶だと自負している。
そのはずなのに、今はその紅茶が味気無く感じる。まるで、ただの温かい色水を飲んでいるかのように。
3度も口には運べず、私はカップをソーサーの上に置いた。少しは気が晴れるかと思ったのに、そんなことはなかった。
どうして私はこんなに何をする気にもなれないのだろう。
原因さえ分かれば、解決出来るかもしれない。
けれど、どうやって調べようか。家の中・・・別段これといって変わったものは無い。しいて言うなら人形を修理する為の材料をまだ買っていないことくらいか。
では外は・・・何か変わった前兆や事件があれば私や文屋が気付くはずだし、なにより巫女が動くはず。
異変……と考えて私は気付いた。
原因の正体に。けれど、実はその答えは少し前にも考えたことのある答えだった。
だから、私は諦める事にした。そして、その原因に対して少し腹立たしい気持ちを感じながら、進まない研究の筆をまた取り始めようとした。
その時、ふと、ブン屋が置いていった新聞の内容が目に入った。
私は散らばったレポートをまとめあげ、外に出る準備を始めた。どうやら今日は夜まで家に帰らなそうだ。
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本を読む手が止まった。
自分の本を読むペースが遅くなっていることには少し前から気が付いていた。なぜなら、いつもならば楽に読み進められるはずの所を、内容が頭に入らず、2度、3度見返しながら読んでいるからだ。
原因は解っている。
リズムが狂ったからだ。
図書館を騒がしくさせる白黒の姿を、ここ最近見ない。それが、リズムを狂わした原因だと私は考えている。
白黒は、異変の解決に向かっていたと聞いている。
異変の話は、噂やブン屋の新聞でおおよそ把握しているつもりだ。確か若返りの術を使っている魔法使いやら法界やら魔界がどうのこうのというような話だったと記憶している。
魔界といえばあの人形使いが詳しかったような気がしたけれど、どうなのかしら。
そして、異変を解決した者の名の欄にある一人の普通の魔法使いの名前。
私はその名前を見て少し微笑んだ。というか、もはや確信に近いものを感じていた。
私や妹様を打ち倒し、春や満月を取り戻し、そして今でも地下や空に面白そうな物があると箒にまたがり飛んでゆく。
その彼女にここしばらく会っていない。今回の異変なら全て解決し終えたはずなのに。
少し、心配になる。
彼女が、ではなく、自分に対して。
それなりに長い年月を生きてきたというのに、こうも簡単に一人の人間によって生活が脅かされるとは。
いつの間にか、彼女の存在が私にとって大きくなっていたのだと、改めて実感した。
「パチュリー様!」
突然の大きな声に驚き、思わず座っている椅子をガタ、と動かしてしまった。そして、直ぐに私は横からの声の主の方を見た。
「……居たの、小悪魔。図書館では静かにするものよ」
「居たのじゃありませんよ。それに先程から何度もお呼びしていました」
そうだったのか。全く声に気付かなかった。
少し考え過ぎなのかもしれない。私は座り直して
「それは悪かったわね。……それで?」
「はい。メイド長からの伝言で、本日の神社での宴会に出席する予定とのこと。それで、パチュリー様のご予定はいかがかと」
「私は別に構わないわ。最近は忙しくも騒がしくもないもの」
宴会か……。ふと、頭に期待がよぎる。そしてその期待は確信に変わる。
(来るわね、確実に)
私は読んでいた本に紐で栞をかけると、本を閉じた。
自分の生活に支障をきたす普通の魔法使いに会えたら何を言おうか、うん、そうだ、こう言おう。いつものように。少し膨れ面をしながら。
「盗んだ物をいい加減に返して」
と。
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もうかれこれ30分は商品と睨めっこをしている。
「まだ決まらないのかい?」
店のカウンターからこちらを見ずに催促をする声が聞こえる。別に店が忙しいという訳ではないので心の底から催促しているということではないということは私も百も承知だ。
適当に「まだだぜ」と答えると、私は再び並べてある商品と睨めっこを始めた。
酒、菓子、外の世界の珍しい食べ物。私は神社の宴会に何を持っていくべきか決めかねていた。
いつもと同じような宴会であったならば、特に何も考えずにその辺に置いてあるものを持っていくのだが、今回はそうもいかない。
異変の解決で宴会の面々が増えること、そして、異変の解決やらでここしばらく会っていなかった奴らに何かを渡したいという気持ちが私の中にあった。
特別深い意味があるわけではないが、「これからもよろしく」的な物とでもいうのだろうか。そういった物を選ぶ為に、顔が利いて色々なものが揃っている香霖堂に来たのだが、一向に買うものが決まらない。
「随分悩んでいるようだけど、誰かへの贈りものかい?」
迷っている私を見て香霖が尋ねてきた。何故分かるのか不思議だぜ。
「ああ、そうだな」
私は、送るつもりのやつらの顔を思い浮かべた。
戦い、時に協力し、一緒にいたいと思える連中。
「大切な……やつらさ」
ふっと、言葉に出た。
すると、香霖は店の奥へと入っていき、何かを探す様子を見せた。
そして、奥から出て来ると、カウンターの上に一本の酒を置いた。
「それは……」
「外の世界でも貴重な酒だ。持って行くといい。」
香霖は、それからまたカウンターの内側にある椅子に座って読みかけの本を開いた。
「いいのか?お気に入りは売らないんじゃなかったのか」
「構わないさ。それに、売るのではなくて、魔理沙にあげるんだよ」
突拍子もないことをあっさりと言われた気がした。何か聞き返そうとしたが、既に香霖は本の世界へと入っており、話しかけにくくなっていた。
私は、酒の一升瓶を片手に持つと、店の中に立てかけた箒を手に取り、店を出た。
「ありがとよ!」
香霖が私の言葉に片手を振って応えたのを見てから、私は神社へと向かって箒に乗って飛び出していった。
神社に着けばいるだろう、弾幕で語り合える友人達が。私は、躍る気持ちを抑えながら、神社へと急いだ。
(あいつらに、どんな話をしてやろうか)
神社の鳥居は、もうすぐだ。
そして、凄く良かったです!
ジェネシックや!
…いや、まあ俺も同じこと思ったけれどもw
短さについては、あまり気になりませんでした。
>文屋
>ブン屋
表記ゆれ
>本に紐で詩織
もしかして: 栞
>誰かへの送りもの
もしかして: 贈りもの