ある日ふと、幽々子は思いついてしまった。
何をかと言うと、他でもない従者の妖夢の事だ。
妖夢の外見は非常に幼い。
おおよそ人間年齢に換算して十代の前半。
実際の年は確か……六十を越えたあたりであったろうか。
妖夢は半人半霊で、成長が非常に遅い事を、かつて妖忌に説明を受け知っている。
だがしかしそれでも疑問に思うのだ、あまりにも遅すぎないかと。
少なくとも幽々子が妖夢と共に過ごした五十年間、ほとんど成長が見られない。
初めて妖夢と会った時。
妖忌に連れられて来た彼女は本当に幼い子供で、十にも満たぬ外見であった。
だが、その時は五年ほどで今の外見まで成長した。
問題はその後だ。そこから一切の成長が見られなくなってしまったのだ。
人間でいえば食べ盛りの伸び盛りであるにもかかわらずだ。
食事はちゃんと三食適量を取っているし、稽古の様子を観察する限り程良い運動も行っている。
いかに種族的に遅いとはいえ、これで成長しない方がおかしいのではないかと。
いや、幽々子がそう勝手に危惧しているだけで半人半霊としては普通なのかもしれないがしかし。
回りに同種族がおらずに、妖夢自身も気が付かない成長障害を負っている可能性も捨てきれないのだ。
もしこのまま妖夢が一切成長しなかったら不憫ではないかと常日頃から思っていたのだが……
それに対する事を……毎日とりとめもなく考えていたらふと、何故妖夢が成長しないのかと言う理由を思いついてしまった。
それは仮定にすぎず、間違っているかもしれない。
だが、それでも幽々子はそれを確かめずにはいられないのだ。
「妖夢~ちょっと良いかしら~」
「はい、お呼びでしょうか」
呼びかけると妖夢はすぐにやってきた。
相変わらず幼くて小さくて、傍に漂う彼女の半身である幽霊の方が大きい。
「あ、何か所望するものでもありましたか?」
妖夢が、何かに気が付いたかのようにそんな事を言った。
買い物かごを手にしているところを見ると買い物に出掛けるところだったらしい。
「いいえ、違うのよ。
ねえ、妖夢……常日頃から思っていたのだけれど、貴方、成長が遅すぎないかしら?」
幽々子の疑問に妖夢は困った様に笑んだ。
「いえいえ、これが普通なのですよ。
半人半霊で六十歳と言ったらまだまだ子供なのですから」
「そうかしら~でも、その外見で固定される前は普通に成長していたじゃないの」
幽々子は何気なく妖夢の半霊に視線を送る。
「妖夢の半霊はあれからも変わらず健やかに育っているようだけど……」
子供のころは本当に掌に収まるほどの大きさでしかなかったはずだが今は違う。
「私が思うのはね妖夢。
その半身が貴方への栄養を吸い取って余計に成長してしまっているのじゃないのかと言う事なのよ。」
妖夢は少し驚いた様に己の半霊に視線を移して、それから苦笑する。
「そんなことありません。
……大丈夫ですよ、ご心配なさらずともあと百年もすれば外見的には幽々子様と同じくらいにはなるはずですから」
「それなら良いのだけれど」
幽々子が不満げな息を吐く。
「では、買い物に行ってまいります」
「気をつけていきなさい~」
「はい!」
返事をして去っていく妖夢を幽々子はただ見つめる。
相変わらず幼くて小さい。
傍に漂う半霊は随分と大きく成長していると言うのに。
「考えすぎなのかしらね~」
思いつきは妖夢自身に否定されてしまった。
ならばもうどうしようもない。
だけどどこか釈然としない様子で幽々子は溜息を漏らした。
-終-
ていうかそれ別人ーーーー!!
ゆったりとした感じで面白かったです