Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

爪かき

2010/04/13 02:01:05
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 麗らかな昼下がり。

 庭の花壇にて、十六夜咲夜と紅美鈴は少しばかりの休憩を取ろうとしていた。
 咲夜の腕には厨房から持ってきたバスケットが下げられている。
 一方の美鈴は、一つの茶碗と急須を乗せたお盆を片手に掲げていた。

 ベンチに座り、各々持ちよったティータイムセットを真ん中に置く。

 急須から香る緑茶の爽やかな匂いに、咲夜は一瞬、動きを止めた。

「……犬じゃあるまいし」
「あー、咲夜さん」
「な、なに!?」

 唐突に手を握られ、驚きの声を上げる咲夜。
 美鈴の口ぶりは、さも咎めるようだった。
 そのまま、互いの目線にまであげられる。

 手は段々とすぼめられ、人差し指の先端のみを掴んだ。

 とん、と爪に軽く触れる指。

「……何?」
「欠けています」
「あー……そう言えば」

 そうだった、と咲夜が続ける。

「さっきね」
「お掃除中に?」
「ええ」
「駄目じゃないですか」
「茶飯事よ」

 指が強く握られた。

「駄目じゃないですか」

 念を押す美鈴に、咲夜は渋面を返す。

「爪切り、持っていますよね?」
「貴女が持てと言ったんでしょう」
「こういう時のためです」
「……時間、かかるじゃない」
「それでもです」

 爪切り。
 普通にすれば一分とかからない作業だ。
 しかし、入念に行えば、それこそ休憩時間を全て使っても終わらない。

 因みに、咲夜は衝撃に強いラウンド、美鈴は最も一般的なオーバルと呼ばれる‘型‘だった。

「別に、痛くないわ」

 唇を尖らせる咲夜に、美鈴が微苦笑して、言う。

「痛い痛くないという問題じゃないですよ。
 下手をするとひびになってしまいますし、割れてしまうかも、です。
 それに、咲夜さんの手はお嬢様に触れる手――傷をおつけする訳にはいかないでしょう?」

 んぐ、と出かかっていた反論を飲み込む咲夜。
 お嬢様――レミリア・スカーレットの名を出されては、仕方がない。
 ぶっきらぼうにポケットから爪切りを取り出した。

 最後の抵抗か、むくれながら、返す。



「ずるい言い方」
「じゃあ、私も困りますし?」
「……そーゆーこと、言わない!」



 含み笑いを浮かべる美鈴に、咲夜は片腕を振り上げた――。






 ぱち、
 ぱち、
 ぱち。





「――なんてことを、秘密でもなんでもない花園でされていました。ひ・わ・い」
「……卑猥かどうかはともかく、貴女はどうして知っているのよ」
「ともかくだなんてそんな! 爪を気にするイコール!」

 拳を強く握る小悪魔を、パチュリー・ノーレッジは半眼で睨みつけた。

「……いえ、あの、単に私も休憩をとっていただけなんですけどね」
「それは許可したから知っているんだけど、よくあのフタリに気づかれなかったなって」
「木の下でうたた寝していると、何時の間にか鳥さんが巣を作る勢いで群がっていました」

 暫く動けなかったらしい。



 ――場所を移して、大図書館。

 睦まじいフタリの様子を、それはもう大変嬉しそうに語る小悪魔。
 卑猥云々抜きにしても、彼女はそう言った話を好んでいた。
 例えば、喧嘩は嫌いだが痴話喧嘩なら大好物だ。

 閑話休題。



(身振り手振りまで加えそうね……)――朗らかに語り続ける小悪魔に嘆息し、ふと、パチュリーは首を捻る。

「ねぇ、小悪魔」

 話の内容――紡がれるフタリの様子に、不可思議な点を見出した。

「わ、動かないでください、パチュリー様」
「あ……ごめんなさい」
「いえ。えーと?」

 促す小悪魔に、再度口を開く。

「爪切りなんだけど」
「致しましょうか?」
「自分でする」

 そう、と続けた。

「爪切りって、普通、自分でするものじゃないの?」

 つまり、咲夜は美鈴に任せていたようだ。

 一拍の後、小悪魔が、先ほどのパチュリーのように首を捻り、応える。

「んー、それぞれなんじゃないでしょうか」
「貴女は?」
「一人ですよこんちくしょう!」

 なにがどう‘ちくしょう‘なのか――思うパチュリーに、小悪魔が続けた。

 強い子だ。

「お嬢様だってされているじゃないですか」
「えぇと、妹様のを?」
「ええ」
「珍しく妹様も素直に従うのね」
「ふふ、‘フォーオブアカインド‘までお使いになられるんですよ」

 想像してみた。

 足を差し出すフランドール。
 手に取るレミリア。
 控えるサンニン。

 ――前後左右、逃げ場なし。

「……軽く苛め入ってない?」
「私にはご褒美です」
「レミィは貴女じゃないでしょう」
「嬉しそうでしたよ」
「世話を焼けたから、かしら」

 小悪魔の返答は聞き取れなかったが、頷く動作で、パチュリーは肯定の意と取った。

 そして、嘆息をつく。

「誰も彼も過保護よね」
「それぞれですよ」
「そういうもの?」

 見上げると、小悪魔はただ、柔らかい微笑を浮かべていた。

「それぞれ、ねぇ……」

 言葉を繰り返し、それでも、パチュリーは呆れたように呟くのだった――。





「――と、パチュリー様、右耳、終わりました。反対になってください」
「ん」






                      <了>
・こんちくしょう! お読み頂きありがとうございます。

・パッチェさん曰く「え、だって、爪は自分で見れるけど、耳は見れないじゃない」。
・咲夜さんと美鈴は百合ですが、パッチェさんと小悪魔はほのぼのです。
・なにそのこだわり。

いじょ
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コメント



1.名前が無い程度の能力削除
これはいいのほほんですね
2.名前が無い程度の能力削除
なにこれらう゛ぃ。
3.たぁ削除
個人的にはパチュこあがツボだなw
4.名前が無い程度の能力削除
魔法使えば見れ・・・ふぅ、危ない危ない
馬に蹴られるところだった
5.名前が無い程度の能力削除
爪がよく伸びる年 絶好調
誰も小悪魔を止めることは出来ない
6.名前が無い程度の能力削除
無印とプチ合わせて100作品目おめでとうございます。

耳かきって時々色っぽい声が聴こえるよね
そんな声を出させないほど、小悪魔は耳かきが上手なのかw
諭す時の小悪魔は従者というよりお姉さんにしか見えないこの頃
7.ぺ・四潤削除
うむ。後書きのパッチュさんの言ってることは至極真っ当だ。
爪が痛んでてお嬢様を傷つけてしまう……ごめんちょっと深読みしすぎた。
8.名前が無い程度の能力削除
可愛いなぁ小悪魔!
9.名前が無い程度の能力削除
紅魔館は今日も平常運行ですな
10.奇声を発する程度の能力削除
いつも通りの紅魔館!
11.名前が無い程度の能力削除
小悪魔の進化ぶりが……
かつては小鳥が数羽寄ってくる程度だったのにw