「パチェ、たまには外に出てみたらどう?」
親友の発した言葉の真意を読み取れずに、数回瞬きをして彼女を見つめると、苦笑した表情で首を横に振られた。自分で考えろと言う事だろうが、私は身体が丈夫な方ではない。その事は私と僅かでも係わりを持った者なら、十分知っている筈。ましてや、親友である彼女ならば尚更だ。
私の考えを察したのか、一つ溜息を吐いてから「ずっと家に居ては、体調に良いわけも無い。少しは運動して体力を付けろ」と言い放った。
成る程、確かに正論だ。返す言葉も無いし、私の体調を考えてくれての言葉なので、素直に頭が下がる。しかし……しかしだ、何事にも得て不得手が存在する。
そもそも魔女と言う生命は魔力こそが力の源であり、魔法によって生活する生き物だ。更に使い魔にその身を世話させる者も少なくない。よって自らが進んで行動しなくなるのは自明の理だ。
戦うのも魔力、使い魔を維持するのも魔力……体力など使う機会が無いのだ。そう、つまり私は無用の物でこの身を埋めぬ様に効率的な生活をしているのだ。
どれだけ優れていたとしても、無用の長物では何の意味も無い。それよりならば、足りない物は完全に廃棄し長じている物を伸ばした方が良いに決まっている。
これは理論的な考えであり、決して私が動きたくないとかそういう理由で言っているわけではない。しかし、目の前の彼女には私の理論は通じないらしく、一睨みされた後に盛大な溜息を吐かれた。
「あのさ……効率的だろうが何だろうが、使いこなせなかったら意味無いと思うけど?」
「……どういう意味よ?」
「どれだけ強力な魔法知っててもさ、詠唱唱え切れないんじゃ使えないでしょ?それこそ無用の長物だと思うけど?」
呆れた様な口調でそう告げた彼女に、私は反論できずにいた。いつもならば常識を540度くらい曲げた意見しか言わないくせに、どうしてこういう時だけ正論なのだ。捉え切れない思考を持ってるのが、レミリア・スカーレットではないのか……などと理不尽な意見を述べれるわけも無く、視線を合わせない程度の小さな抵抗を試みる。
そんな私の態度を理解したのか、彼女はもう一度溜息を吐いてからスタスタと扉に向う。どうやら、帰るらしい……彼女にしては珍しくあっさり引いたものだ。
そんな事を考えていると、不意に振り返った顔に小馬鹿にした笑みを浮かべていた。
「パチェってさ、反論できなくなると子供っぽくなるわよね。ああそうか、まだ百年しか生きてないもんね。まだまだ子供だったわね、パチュリーちゃん?」
その瞬間、私は肉体改造を行う決意をした。
◇
「パチュリー、遊びに……何やってるの?」
いつもの様に、ご本を読みながらパチュリーとお話しようと思っていた私は、図書館に入った瞬間に自分の目を疑った。小悪魔が十字架のネックレスを握り締めながら、鬼気迫る表情で宙に祈りを捧げているのだ。小さくな声で「主よ、どうか我を救いたまえ」とか言ってるけど、悪魔としてどうなのかな?
そしてその小悪魔の後ろで何故かパチュリーが腕立て伏せをしていた。身体を持ち上げる時に両腕がプルプル震えており、今にも崩れそうで危ない。
だが危ないと思う反面、どこか頼り気無くて可愛く思ってしまう。すると、遂に限界が来たのか、ベタっとパチュリーが地面に倒れこんだ。そして、そのまま視線だけを僅かに上に向け、ぎこちない笑みを浮かべた。
「いらっしゃい……フラン……ごめんなさい……ちょっと待って……」
「いや、気にしなくて良いよ。それよりも大丈夫?」
喋れてはいる事から、発作が起きそうな気配は無いが安心は出来ない。何しろ相手はパチュリーだ。何事も無い様に過ごしながら、ふと気がつくと眩暈を起こして倒れていた、なんて事日常茶飯事だ。
私が来た事に気がついて、笑顔で迎えてくれた事に関しては凄く嬉しいけど、そんな事に体力を使わないで欲しい。
それから数分後、ようやく息が整いつつあったパチュリーに、筋トレをしていた理由を聞いた私は内心呆れた。そう言えば、パチュリーは結構負けず嫌いだったなぁ。因みに小悪魔が祈っていた理由は、図書室に来たらパチュリーが筋トレしていたために、世界の終りが近づいていると思ったかららしい。
主に対してそんな風に考える小悪魔も小悪魔だけど、そんな風に思われるパチュリーもパチュリーだよね。この主にしてこの従者ありって言った所かな?
「けど、パチュリーらしくも無いね。お姉様に乗せられてる事に気がつかなかったの?」
「まさか。けど、レミィの言う事は正論だし、私の事を思っての事だしね。それに……」
「それに?」
「私に体力があれば、もっとフランと色んな遊びが出来るじゃない……」
そう言って穏やかに微笑むと、パチュリーは私の頭を撫でた。
私と一緒に遊べる?確かに、ずっと前にお話やご本だけだと退屈だって言った記憶はある……あるけど、それはふとした気紛れで言った事だし、そこまで気にはしてなかった事のはず。パチュリーだって、苦笑しながら「はいはい、我が儘言わない」って、軽く流してたのに。もしかして、ずっと気にしてたの?
「私はパチュリーが一緒に居てくれるだけで十分だよ?」
「ああ、違うわよ。私がフランと一緒に色んな遊びがしたいの、だから貴女は気にしなくて良いわ」
パチュリーはそう言うと、撫でていた手を止めて、小指を私の目の前に伸ばしてきた。これって、確か指切りって言う人間の約束の仕方だよね?
パチュリーの真似をして出した小指に、自分の小指を絡めるとパチュリーは笑顔のまま口を開いた。
「いつかこの屋敷の外で一緒に一杯遊びましょう」
その言葉に、嬉しい様な悲しい様なおかしな気持ちになりながらも、笑顔を浮かべて力いっぱい頷くと、二人で声を揃える。
「「指きりげんまん、嘘吐いたら針千本、飲ーます。指切った!」」
親友の発した言葉の真意を読み取れずに、数回瞬きをして彼女を見つめると、苦笑した表情で首を横に振られた。自分で考えろと言う事だろうが、私は身体が丈夫な方ではない。その事は私と僅かでも係わりを持った者なら、十分知っている筈。ましてや、親友である彼女ならば尚更だ。
私の考えを察したのか、一つ溜息を吐いてから「ずっと家に居ては、体調に良いわけも無い。少しは運動して体力を付けろ」と言い放った。
成る程、確かに正論だ。返す言葉も無いし、私の体調を考えてくれての言葉なので、素直に頭が下がる。しかし……しかしだ、何事にも得て不得手が存在する。
そもそも魔女と言う生命は魔力こそが力の源であり、魔法によって生活する生き物だ。更に使い魔にその身を世話させる者も少なくない。よって自らが進んで行動しなくなるのは自明の理だ。
戦うのも魔力、使い魔を維持するのも魔力……体力など使う機会が無いのだ。そう、つまり私は無用の物でこの身を埋めぬ様に効率的な生活をしているのだ。
どれだけ優れていたとしても、無用の長物では何の意味も無い。それよりならば、足りない物は完全に廃棄し長じている物を伸ばした方が良いに決まっている。
これは理論的な考えであり、決して私が動きたくないとかそういう理由で言っているわけではない。しかし、目の前の彼女には私の理論は通じないらしく、一睨みされた後に盛大な溜息を吐かれた。
「あのさ……効率的だろうが何だろうが、使いこなせなかったら意味無いと思うけど?」
「……どういう意味よ?」
「どれだけ強力な魔法知っててもさ、詠唱唱え切れないんじゃ使えないでしょ?それこそ無用の長物だと思うけど?」
呆れた様な口調でそう告げた彼女に、私は反論できずにいた。いつもならば常識を540度くらい曲げた意見しか言わないくせに、どうしてこういう時だけ正論なのだ。捉え切れない思考を持ってるのが、レミリア・スカーレットではないのか……などと理不尽な意見を述べれるわけも無く、視線を合わせない程度の小さな抵抗を試みる。
そんな私の態度を理解したのか、彼女はもう一度溜息を吐いてからスタスタと扉に向う。どうやら、帰るらしい……彼女にしては珍しくあっさり引いたものだ。
そんな事を考えていると、不意に振り返った顔に小馬鹿にした笑みを浮かべていた。
「パチェってさ、反論できなくなると子供っぽくなるわよね。ああそうか、まだ百年しか生きてないもんね。まだまだ子供だったわね、パチュリーちゃん?」
その瞬間、私は肉体改造を行う決意をした。
◇
「パチュリー、遊びに……何やってるの?」
いつもの様に、ご本を読みながらパチュリーとお話しようと思っていた私は、図書館に入った瞬間に自分の目を疑った。小悪魔が十字架のネックレスを握り締めながら、鬼気迫る表情で宙に祈りを捧げているのだ。小さくな声で「主よ、どうか我を救いたまえ」とか言ってるけど、悪魔としてどうなのかな?
そしてその小悪魔の後ろで何故かパチュリーが腕立て伏せをしていた。身体を持ち上げる時に両腕がプルプル震えており、今にも崩れそうで危ない。
だが危ないと思う反面、どこか頼り気無くて可愛く思ってしまう。すると、遂に限界が来たのか、ベタっとパチュリーが地面に倒れこんだ。そして、そのまま視線だけを僅かに上に向け、ぎこちない笑みを浮かべた。
「いらっしゃい……フラン……ごめんなさい……ちょっと待って……」
「いや、気にしなくて良いよ。それよりも大丈夫?」
喋れてはいる事から、発作が起きそうな気配は無いが安心は出来ない。何しろ相手はパチュリーだ。何事も無い様に過ごしながら、ふと気がつくと眩暈を起こして倒れていた、なんて事日常茶飯事だ。
私が来た事に気がついて、笑顔で迎えてくれた事に関しては凄く嬉しいけど、そんな事に体力を使わないで欲しい。
それから数分後、ようやく息が整いつつあったパチュリーに、筋トレをしていた理由を聞いた私は内心呆れた。そう言えば、パチュリーは結構負けず嫌いだったなぁ。因みに小悪魔が祈っていた理由は、図書室に来たらパチュリーが筋トレしていたために、世界の終りが近づいていると思ったかららしい。
主に対してそんな風に考える小悪魔も小悪魔だけど、そんな風に思われるパチュリーもパチュリーだよね。この主にしてこの従者ありって言った所かな?
「けど、パチュリーらしくも無いね。お姉様に乗せられてる事に気がつかなかったの?」
「まさか。けど、レミィの言う事は正論だし、私の事を思っての事だしね。それに……」
「それに?」
「私に体力があれば、もっとフランと色んな遊びが出来るじゃない……」
そう言って穏やかに微笑むと、パチュリーは私の頭を撫でた。
私と一緒に遊べる?確かに、ずっと前にお話やご本だけだと退屈だって言った記憶はある……あるけど、それはふとした気紛れで言った事だし、そこまで気にはしてなかった事のはず。パチュリーだって、苦笑しながら「はいはい、我が儘言わない」って、軽く流してたのに。もしかして、ずっと気にしてたの?
「私はパチュリーが一緒に居てくれるだけで十分だよ?」
「ああ、違うわよ。私がフランと一緒に色んな遊びがしたいの、だから貴女は気にしなくて良いわ」
パチュリーはそう言うと、撫でていた手を止めて、小指を私の目の前に伸ばしてきた。これって、確か指切りって言う人間の約束の仕方だよね?
パチュリーの真似をして出した小指に、自分の小指を絡めるとパチュリーは笑顔のまま口を開いた。
「いつかこの屋敷の外で一緒に一杯遊びましょう」
その言葉に、嬉しい様な悲しい様なおかしな気持ちになりながらも、笑顔を浮かべて力いっぱい頷くと、二人で声を揃える。
「「指きりげんまん、嘘吐いたら針千本、飲ーます。指切った!」」
やっぱり、この二人は良い!凄い和みました。
紅魔地下組流行れ。