□
射命丸文取材日記
□
○月○日
地霊殿の取材に入って三日目になる。
今日は『心符「没我の愛」』を撮影する旨を主人古明地さとりに伝えると、
「あら、私の通常弾幕は諦めたんですね」
などと言われたが無視する。今日の被写体はこいしちゃんなのでわざわざ相手にする必要もない。この程度の嫌がらせにめげてはいけないのだ。
地霊殿のペット達がこいしちゃんを探しに行っている間二人きりにされるという嫌がらせにも負けてはならないのだ。
その時ふと、さとりの第三の目に包帯が巻かれていることに気付いた。
何かのネタになるかと尋ねるタイミングを探っていると彼女は立ち上がり、突然第三の目を押さえて、
「っぐわ……くそっ! また暴れだしやがった……!」
と息を荒らげて言った。
一体何をしているのか尋ねると、
「っふ……妹を持たぬものにはわからんだろう……」
と抜かして人気のないところに消えていった。
きっとこいしちゃんの興味を惹くためのネタだろう。私もその類を見るのは初めてではない。一応は写真に収めたが、姉妹ネタは既に食傷気味なので記事にはならないだろう。
結局今日はこいしちゃんは現れなかった。
□
○月△日
今日も地霊殿だ。
あれからこいしちゃんは見つかったのか主人に問うと、首を横に振った。地霊殿全体がどことなく慌ただしかったのはその傍証にも思えた。
今日も彼女の登場を待つことになる。
待機中、静まり返った部屋の中、
「うっ、こんな時まで……しつこい奴だ」
と言って主人は部屋を飛び出していった。その台詞セレクトは嫌味か。
今日もこいしちゃんは現れなかった。
□
○月□日
また地霊殿だ。
今日は主人の第六感に何か感ずるものがあったらしい。こいしちゃんが近くにいるかもしれないらしかった。
けれどもなかなか見つからなかった。
主人はそれを私の責任だと言ってきた。私がいないからこいしが現れないのだと。
「が……あ……離れろ……こいしを見つけたかったら早く私から離れろ!」
調子に付いていけなかったのでそのまま帰った。
しばらくは別の被写体に集中しようと思った。
□ □ □
×月▽日
数日ぶりの地霊殿だ。
驚いたことにまだこいしちゃんは見つかっていないらしい。主人はまだ第三の目に包帯を巻いていた。
ペット達は主人の妹探しに飽きてきたようで、件の太陽鴉にはその傾向が如実に現れていた。
度々さとりの元へ行き、
「ねえ、遊びましょう! ねえ!」
と駄々をこねたら、主人。
「ふん……小うるさい奴だ……失せな」
と逆上してスリーパーホールドを食らわせていた。
失せなと言いつつ絡んでくるのだからペットもいい迷惑だと思ったが口には出さなかった。
この状態になるとさすがに他のペット達が止めに入る。主人は睨み返し、
「貴様ら……許さん……!」
と一瞬叫ぶが、すぐに周りの状況に気付き、
「はっ!? ……し、静まれ……私の瞳よ……怒りを静めろ!!」
言って第三の目を思いっきり押さえていた。それで誤魔化したつもりか。
私はすぐにでも帰りたかったが、接待をしているペット達にしつこく世話を焼かれた。いよいよ主人が発狂したときのためにストッパーとして足止めされていたのだ。
あの鴉もすぐに忘れて同じことを繰り返す。最悪だ。
これがさとりが疲れて眠るまで続くのだから、まるで悪夢のような時間だった。
□
×月▲日
さとりはもう末期だった。
なんでも、火を見ると妹が現れるそうで、真っ暗な部屋の中で唐突にマッチを擦っては、
「……へへ、久しぶりに妹が見られた。こいしは意志が強くて困るわ」
などと乱暴な口調で叫んだりしていた。
それからぼんやりとマッチの火を見つめる。そして、思い出したように指で消す。それを繰り返していた。
写真を撮っても記事にしようがない状況だった。
その日は何も言わず帰った。
□
×月♪日
今日は時間が時間だったため夕食に誘われた。
さとりはあまりにも荒んでいたが、気が少しでも紛れたらと思って誘いを受けた。
すると、夕食中にこいしちゃんが現れた。
突然おかずの春巻きを手掴みでムシャムシャと食べ始め、
「久しぶりのご飯だわ」
と言った。
礼儀がなってないと思ったがそんなことは関係なく、さとりはこいしちゃんの頭を撫ぜ、涙目になって大人しくなった。
それから、さとりが暴れ出すことはなかった。
すぐにこいしちゃんのスペルの撮影に入った。決定的な写真は撮れなかったもののさとりは満足そうに私たちの様子を眺めていた。
それからこいしちゃんにこれまでのさとりの荒れ具合を撮影した写真を見せた。
第三の目に包帯を巻いている姿。
私に悪態を付いた姿。
ペットにキレて暴れる姿。
マッチを擦って呆然と眺めている姿。
さとりはクッションに顔を埋めて、手足をバタバタさせてのた打ち回っていた。
ざまあみろ、これまでのお返しだ。
最後にその恥ずかしがる姿を写真に収めた。
さとりはもう第三の目に包帯を巻いていない。第三の目が見えていなければ、サトリを写す価値というものがないだろう。
これでまた、古明地姉妹の撮影に専念出来る。
そう考えるだけで、私は気分が晴れやかになった。
明日は何のスペルカードを撮ろうか……私はそんなことを考えながら帰路についた。
□
×月♭日
さとりがまた包帯を巻いていた。
射命丸文取材日記
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○月○日
地霊殿の取材に入って三日目になる。
今日は『心符「没我の愛」』を撮影する旨を主人古明地さとりに伝えると、
「あら、私の通常弾幕は諦めたんですね」
などと言われたが無視する。今日の被写体はこいしちゃんなのでわざわざ相手にする必要もない。この程度の嫌がらせにめげてはいけないのだ。
地霊殿のペット達がこいしちゃんを探しに行っている間二人きりにされるという嫌がらせにも負けてはならないのだ。
その時ふと、さとりの第三の目に包帯が巻かれていることに気付いた。
何かのネタになるかと尋ねるタイミングを探っていると彼女は立ち上がり、突然第三の目を押さえて、
「っぐわ……くそっ! また暴れだしやがった……!」
と息を荒らげて言った。
一体何をしているのか尋ねると、
「っふ……妹を持たぬものにはわからんだろう……」
と抜かして人気のないところに消えていった。
きっとこいしちゃんの興味を惹くためのネタだろう。私もその類を見るのは初めてではない。一応は写真に収めたが、姉妹ネタは既に食傷気味なので記事にはならないだろう。
結局今日はこいしちゃんは現れなかった。
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○月△日
今日も地霊殿だ。
あれからこいしちゃんは見つかったのか主人に問うと、首を横に振った。地霊殿全体がどことなく慌ただしかったのはその傍証にも思えた。
今日も彼女の登場を待つことになる。
待機中、静まり返った部屋の中、
「うっ、こんな時まで……しつこい奴だ」
と言って主人は部屋を飛び出していった。その台詞セレクトは嫌味か。
今日もこいしちゃんは現れなかった。
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○月□日
また地霊殿だ。
今日は主人の第六感に何か感ずるものがあったらしい。こいしちゃんが近くにいるかもしれないらしかった。
けれどもなかなか見つからなかった。
主人はそれを私の責任だと言ってきた。私がいないからこいしが現れないのだと。
「が……あ……離れろ……こいしを見つけたかったら早く私から離れろ!」
調子に付いていけなかったのでそのまま帰った。
しばらくは別の被写体に集中しようと思った。
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×月▽日
数日ぶりの地霊殿だ。
驚いたことにまだこいしちゃんは見つかっていないらしい。主人はまだ第三の目に包帯を巻いていた。
ペット達は主人の妹探しに飽きてきたようで、件の太陽鴉にはその傾向が如実に現れていた。
度々さとりの元へ行き、
「ねえ、遊びましょう! ねえ!」
と駄々をこねたら、主人。
「ふん……小うるさい奴だ……失せな」
と逆上してスリーパーホールドを食らわせていた。
失せなと言いつつ絡んでくるのだからペットもいい迷惑だと思ったが口には出さなかった。
この状態になるとさすがに他のペット達が止めに入る。主人は睨み返し、
「貴様ら……許さん……!」
と一瞬叫ぶが、すぐに周りの状況に気付き、
「はっ!? ……し、静まれ……私の瞳よ……怒りを静めろ!!」
言って第三の目を思いっきり押さえていた。それで誤魔化したつもりか。
私はすぐにでも帰りたかったが、接待をしているペット達にしつこく世話を焼かれた。いよいよ主人が発狂したときのためにストッパーとして足止めされていたのだ。
あの鴉もすぐに忘れて同じことを繰り返す。最悪だ。
これがさとりが疲れて眠るまで続くのだから、まるで悪夢のような時間だった。
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×月▲日
さとりはもう末期だった。
なんでも、火を見ると妹が現れるそうで、真っ暗な部屋の中で唐突にマッチを擦っては、
「……へへ、久しぶりに妹が見られた。こいしは意志が強くて困るわ」
などと乱暴な口調で叫んだりしていた。
それからぼんやりとマッチの火を見つめる。そして、思い出したように指で消す。それを繰り返していた。
写真を撮っても記事にしようがない状況だった。
その日は何も言わず帰った。
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×月♪日
今日は時間が時間だったため夕食に誘われた。
さとりはあまりにも荒んでいたが、気が少しでも紛れたらと思って誘いを受けた。
すると、夕食中にこいしちゃんが現れた。
突然おかずの春巻きを手掴みでムシャムシャと食べ始め、
「久しぶりのご飯だわ」
と言った。
礼儀がなってないと思ったがそんなことは関係なく、さとりはこいしちゃんの頭を撫ぜ、涙目になって大人しくなった。
それから、さとりが暴れ出すことはなかった。
すぐにこいしちゃんのスペルの撮影に入った。決定的な写真は撮れなかったもののさとりは満足そうに私たちの様子を眺めていた。
それからこいしちゃんにこれまでのさとりの荒れ具合を撮影した写真を見せた。
第三の目に包帯を巻いている姿。
私に悪態を付いた姿。
ペットにキレて暴れる姿。
マッチを擦って呆然と眺めている姿。
さとりはクッションに顔を埋めて、手足をバタバタさせてのた打ち回っていた。
ざまあみろ、これまでのお返しだ。
最後にその恥ずかしがる姿を写真に収めた。
さとりはもう第三の目に包帯を巻いていない。第三の目が見えていなければ、サトリを写す価値というものがないだろう。
これでまた、古明地姉妹の撮影に専念出来る。
そう考えるだけで、私は気分が晴れやかになった。
明日は何のスペルカードを撮ろうか……私はそんなことを考えながら帰路についた。
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×月♭日
さとりがまた包帯を巻いていた。