「咲夜、これがレミィの灰よ」
「はい?」
図書館にて。
なにかの本を持つパチュリーが座るテーブルには、大きく山状に盛られた灰が置いてあった。
真っ白で穢れを知らない綺麗な灰。
咲夜が灰を一掴みする。
手の中でまじまじと鑑賞し、そしてまた離すとさらさらと砂のように落ちていった。
「この灰がお嬢様なんですか?」
「はい」
パチュリーが頷く。
あの依姫のエナータルフォース天照大神ビックバン相手は死ぬ、でも「><」な顔になっただけのレミリアがなぜ?
咲夜は不思議そうに首を傾げた。
「不思議でもなんでもないわよ。これは冬眠してるだけなんだから」
「はい? 今なんていいましたパチュリー様?」
「だから、冬眠だって。吸血鬼はこうやって冬を過ごすのよ」
そんなの初耳だ。
咲夜は疑問そうに腕を組む。
今まで冬は「吸血鬼に寒さなど利かない!」って鼻を垂らしながら言ってたじゃないのお嬢様は。
「ってことはフラン様も灰になったんですか?」
「フランなら守矢神社へミントンしに行ったわよ」
「はい? ミントン?」
「いや、バドミントンね。友達連れて行ったわよ」
さすがフラン様は格が違った。
咲夜は思わず唸った。
木枯らしが吹き溢れる中、半袖で生活する子供は違う。
早苗が叫んでる様子も手に取るようにわかる。
「しかし、なんでお嬢様は灰になっちゃったんですか? 今までこんな事無かったのに」
「心にね、冬が訪れたからよ」
「はい?」
神妙な眼差しで意味不明な事をのたまうパチュリーに、咲夜は怪訝な顔をした。
心に冬……?
詩人ですか貴方は。
あの白黒ネズミに影響されたんですか。
「可愛そうなレミィはね、いろいろな重圧に耐えられなかったのよ」
「昨日は幸せそうな顔をして、フラン様とお蕎麦食べてたのですが」
「馬鹿咲夜。あんな能天気なレミィでも、中ではいろいろ溜まってたのよ」
思いつめるような顔付きで遠くを見つめるパチュリー。
そうだったのか。
レミリアは、灰になるまで思いつめていたのか。
それを気がつけなかった私はメイド長失格だわ。
咲夜は、ちらりとパチュリーのテーブルを見直した。
「ところで、この大量にあるプリンの食べ後はなんですか?」
「はい?」
「お嬢様の灰の隣に、山積みになってるぷっちんプリンのカップですよ。これお嬢様のデザートなんですけど」
「咲夜、何を言っているのかわからないわ」
真っ白な灰の富士山、その隣にエベレストのごとく山積みになってるプリンのカップを咲夜は指した。
どれも綺麗に食べてある。
しかも、机に置いてあるスプーンは一つだけ。
「パチュリー様、全部これ一人で食べましたね」
「咲夜、何を言っているのかわからないわ」
「……口元にプリンが付いてますよ」
「うそっ!? ちゃんと拭いたはずよ!」
「嘘ですよ」
咲夜はにんまりと笑う。
二人の間に微妙な沈黙が訪れた。
魔女裁判の時代にパチュリーが生きてたら速攻で火炙りの刑だ。
と、簡単に騙され焦りながら自分の服で口元を拭く魔女を見て咲夜は想う。
「なにが重圧ですか。全部パチュリーさまの所為じゃないですか」
「灰を木に撒きましょう」
「はい……はい?」
「レミィの灰を木に撒くのです。春になったらレミリアの花が咲く事でしょう。生命の神秘です」
図書館に引き篭もりすぎて、頭がおかしくなったのだろうかこの人は。
咲夜は梅干を食べすぎたようなすっぱい顔になった。
しかし、ボケたと言ってもパチュリーは一応咲夜の上司。
「パチュリー様、貴方は狂っているんだ!」なんて口が裂けても言えない。
「パチュリー様、貴方の頭は使い古したスポンジになったんです。すっかすかのボロボロです。今すぐ新しいスポンジに取り替えて貰いましょう」
「充分失礼よ咲夜。それに私はまとも、嘘だと思うなら灰を庭に撒いて見なさい。きっと春には『ぎゃおー』という産声を上げるに違いないわ」
真剣な眼差しでパチュリーは咲夜を見つめる。
はなさかじいさんじゃあるまいし、そんな事あるわけないじゃない。
咲夜は溜息を付いた。
「咲夜、まだ常識に囚われているようね。そんなんだから早苗に自機を降格させられたのよ」
「わかりました、すぐに庭に撒いてきます」
咲夜はテーブルにあった灰を急いで掃除用のチリトリに詰め込み、駆け足で図書館を後にしていった。
それと入れ替わりのように、一人の吸血鬼が部屋の中に入ってきた。
「ねえパチェ、咲夜は何しに行ったの? すれ違った私にも気が付かなかったようだけど」
「レミィの灰を庭に撒きに行ったよ、レミィ」
「はい?」
レミリアが混乱したように首を傾げると、パチュリーはくすりと笑い、持っている『魔女にも出来る、ハイレベルなドッキリの仕掛け方』をテーブルへと置いた。
「ところでパチェ? この大量にあるプリンの亡骸について説明してくれない?」
「……全部咲夜が食べたわ」
「……パチェの口元にプリンが付いてるわよ」
「ふっ、騙されないわよレミィ。私はそんな馬鹿な女じゃないわ」
「じゃあこれは知ってる? プリンを食べ過ぎると鼻の頭の血管が浮き出るんだけど?」
「えっ、嘘でしょ?」
とっさにパチュリーは自分の鼻の頭を触る。
それを見て、レミリアは半笑気味に眉をひそめた。
「マヌケねパチェ。レミリアのハイレベルな嘘よ」
「……それまったく上手くないわレミィ」
「うるさいっ! 私のプリンを返せ!」
この後パチュリーが「ハイハイ残念でした。もう私の胃が消化しちゃったわ」となんの悪びれも無く笑い、レミリアも最高にハイになって弾幕勝負を始めるが、それはまた別の話。
パチェ、引っかかりすぎだぜ知識人。
誤字報告ありがとうございます
修正させていただきました
すいません敬称入れ忘れました……
しかもなぜかパス間違えたかコメが消せない……。
蕎麦は魔除けの効果があるって言い伝えなかったっけ
>可愛そうなレミィわね
レミィ『は』ね
「はい?」
ここですでに俺の負けだった
あと突っ込め所が多すぎるwwww
>バトミントン
バドミントン
確かありましたね。
なぜか、年越しそばも頬張ってましたけどあの吸血鬼はw
誤字報告ありがとうございます。
修正させていただきました。
>>ぺ・四潤さん
はい、狙ってみましたそこはw
>>6さん
三人娘スレの早苗さんもいいですよね
いつかこの組み合わせでss描きたいです
>>奇声を発する程度の能力 in 携帯さん
あそこに泡を吹いて倒れている奇声を発する程度の能力さんが!
無茶しやがって……
>>8さん
上司と言うよりは上の立場の人ですね。
文章だと「咲夜の上の立場の人」だと「の」が連続してあれだったのであえて上司としました。
誤字報告ありがとうございます、修正させて頂きました
そんな下らないギャグで笑えるわけが……すいません、誰かが「はい?」っていう度に笑ってました。
お許しください!