Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

紅き鞭と紫の飴

2010/03/05 17:10:03
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この話は『とある吸血鬼と魔女の物語』と関連していますが、時間系列的に前話よりも前の話なので、そっちを読んでいなくても大丈夫だと思います。













「なぁ、パチェ。一つ頼みがあるんだが、聞いてくれるか?」

何時からか忘れたが、夜になると必ず私の元を尋ねて来るようになった吸血鬼――レミリア・スカーレットの言葉に視線を本から彼女に移す。元来の吸血鬼である彼女は、他の妖怪とは比べ物にならないくらいプライドが高い。出会った頃を忘れている事から、それなりに長い付き合いなのだろうが、彼女がこんな事を言うのは初めての事だった。

「内容によるわね。私に出来る範囲で私の興味を惹く事なら、構わないけど」

そう答えると、目の前の彼女は手を顎に当て、眼を閉じて何かを考え始めた。本当に珍しいわね。何時もなら私の答えなど気にも留めずに、強引に決定するのに。それだけ重要な事なのでしょうけど、少し様子がおかしい。考えながら嬉しそうな表情になったかと思うと、直ぐに寂しい様な悲しい様な表情になり、首を小さく横に振っている。暫くその行動を繰り返したかと思うと、意を決したように小さく頷き、私に視線を向け頭を下げた。

「紅魔館に来てくれ」

……今彼女は何と言った?紅魔館に来てくれ?確かその名前は、彼女が住んでいる館の名前の筈だ。私にそこに来いとはどういう事だろう?まさか、ただ友人を自分の家に呼ぶのが初めてで緊張した、なんて事は無いだろう。そんな事で頭を下げるほど、目の前の彼女は自分を安く見ていない。
すると、考えられるのはただ一つ……私に紅魔館で暮らせ、と言う事だろう。そう結論付けると、私は周りを見渡す。小さく揺ら揺らと不規則に揺れるランプの火に、すっかり埃を被った本棚に敷き詰められた本。それだけが私の家であり、私の世界だ。もっと言えば、本のある場所がそのまま私の家と言っても良い。だから、この場所に未練など無いし彼女の頼みを拒否する要因など、何も無かった。
何故彼女がこんな事を言い出したのか……私の興味は彼女の頼みではなく、理由の方に向いていた。悪い癖なのは分かっている……彼女の様子から言っても理由を聞かずに、受けるのが得策だと理解はしているのだ。だが、身体が疼くのだ……知りたい。ここまでしたのだ、きっと彼女にとって苦しい事なのだろう。聞いてはいけない事なのだろう。だが、私は自分の欲望を捻じ伏せられるほど強く無く、また優しくも無かった。

「……何故かしら?理由も分からないのに居住を移動できるほど、私は行動的じゃないわよ?」

「……っ、そうか、そうだったな。魔女は知る者、故に魔女の知識的欲求は抑えられなかったな」

レミィは苦虫を噛み潰した様な表情で、「妹の飴になって欲しい」と呟いた。
妹の飴?私はその言葉を何度も頭の中で繰り返す。彼女に妹がいるのは知っている。確か優しく純粋な子だが……いや、だからこそ、自分の持っている力の意味も、その使い方も何一つ知らない子だと言っていた。だから、屋敷の中でさえも自由に動かさず、傷付けない様に大切に育てて来た自慢の妹だと……
そんな私の考えを悟ったのか、レミィはポツリポツリ呟いていく。妹に心にも無い酷い事を言った事、保護と言うよりも軟禁と言った方が相応しい生活を強いている事、ここ数十年顔を合わせる事無く、ただ自由を奪っている事……それはまるで妹に対する態度と言うよりも、人形で遊んでいる様な状況だと思えた。

「あの子は優し過ぎる。最近はどんどん各地で、力のある妖怪も増えて行っている。その全てから護り切れるほど、私は強くない。それに、私が傍にいない時に何かあった時、今のままじゃ自分で自分を滅ぼしかねない」

「……だから、自分を憎ませる事によって、倒すべき目標を与えて能力制御をさせようとしている、と?」

「それだと50点くらいかな。確かにそういう効果もあるだろうけど、あの子が自分で自分を壊さないようにだよ……あの子は無意識の内に、私に復讐しようとしている。だからこそ、本気で自殺しようとはしないんだよ」

「……それで、私に飴になれ、とは?」

「私の代わりに、あの子を支えて上げて欲しい。これから辛い事や苦しい事があった時、私は隣にいてあげられないから……こんな事が頼めるのはパチェ、お前しかいないんだ」

「レミィ……貴女はそれで良いの?」

「何、嫌われ役には慣れてるさ。あの子が他の誰かを憎んでその力を使わないように、あの子の憎しみは私が全部受け止めよう。だからパチェ……喜びや温もりは任せたよ。あの子には何時でも笑っていて欲しいからね。あの子の幸せは私の幸せだ……妹の幸せを願わん姉はいないからね」

それだけ言うと、夜の女王は窓から飛び出し、姿を消した。
私はその後姿を見つつ、大きな溜息を吐いた。訊くんじゃなかった、思ってた以上に責任重大だ。受けると返事はしていなかったのだから、断れば良い……そんな考えもあったが、直ぐに首を振り否定する。
妹の幸せを願わない姉はいない……確かに彼女はそう言っていたし、方法は兎も角これが彼女なりのやり方なのだろう。ならば……

「友人の幸せを願い、その妹の幸せも願い、それを叶えようとする欲張りがいても……悪くは無いわよね?レミィ?」
どうも、天川 紅です。これで二作目となります。
前作にコメントして下さった方々、本当に有り難う御座います。
今回の作品は書こうと思っていたのと、前作のコメントでリクエストして下さった方がいらしたので、書いて見ました。

正直、内心怒られないかハラハラものです。(汗)
二作続けてシリアスよりになってしまったので、次はほのぼのを書きたいなぁと思っています。



それでは、ここまで読んで下さって有り難う御座いました。
天川 紅
[email protected]
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
まさに私の思い描くお嬢様でした。素晴らしい。
2.リクエストした者削除
おおぉっ、リクエスト来たー!!
ありがとうございます!
フランのためにパチュリーを紅魔館に呼ぶ、という設定が新鮮でした。
良かったです!ほのぼのにも期待します~
3.名前が無い程度の能力削除
いいなぁ、このお嬢様。

こういう憎まれ役を自ら買って出るお嬢様には幸せになってほしいなぁ、と思います。
4.奇声を発する程度の能力削除
キター!!!!パチュリーさんかっこいい!
皆幸せになってもらいたいです。
5.名前が無い程度の能力削除
いいなぁこの二人