Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

とある吸血鬼と魔女の物語

2010/03/05 09:42:33
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――暗い、狭い、寒い、退屈、寂しい、寂しい寂しい寂しいさみしいさみしいさみしいサミシイサミシイサミシイ――
目覚めてから再び眠るまで、何百年と繰り返した思考が今日も巡って来る。どうして私だけ、こんな所にいなきゃならないんだろう?八つ当たりに壁を殴っても、鈍い音を立てて私の手に痛みが走るだけで、壁は何とも無い。
……お姉様の言ってた事、本当だったんだ。これも何百年前からも繰り返されて来た事。暗い湿った地下室に連れられて、不恰好な鉄格子の中を指差されて「ここが貴女の部屋よ。貴女に相応しいでしょう?」って言われた時は、もっと暴れたっけ。それでも壊れなかったんだから、確かに私との相性は悪くなかったのかもね。
小さく溜息を吐いて、自分の首に手を添え力任せにへし折る。壁を殴った時の何十倍もの痛みが体を支配し意識が遠のくが、それだけだ。数秒の後ぼやけていた視界は鮮明になり、首の痛みも殆んど感じなくなっていた。やっぱり死ねないか……体が丈夫なのは喜ぶ事らしいけど、私にとってはただの苦痛を増幅させる鎖でしかない。自由に動く事も出来ず、誰かと会話する事も出来ず、自ら命を絶つ事さえ出来ない。私の全てはお姉様によって奪われた……どうして私を生かしてるの?私には生きてる意味なんか無い。私が生きてるのは、お姉様が『フランドール・スカーレット』と言う人形を作り出したから。自分が愛でる為に、大切に保管している人形だから。――でもね、お姉様?お人形の気持ち、考えた事無いでしょう?お人形はね、本当は死にたがってるんだよ?だって、人形の生に意味なんて無いから。意味の無い生は死ぬよりも辛いから……


不意に鉄格子を越えた鉄の扉が開く音が耳に届き、私は顔を上げる。もしかしたら、お姉様が私に飽きて壊しに来てくれたのかも知れないから。そんな私の期待は、見事に裏切られる事になった。
扉を開け入って来たのは、紫の何とも形容しがたい服に身を包み、眠そうな目をした一人の少女だった。見た事無い娘だな……お姉様が新しく雇ったのかな?そんな事を考えていると、少女は私を見つめ溜息を漏らした。

「無様ね。私はこんなゴミの所に来たかったわけではないのだけれど……いくら友人の頼みとは言え、この貸しは大きいわね」

無様?ゴミ?私が?自覚していた事とは言え他人から言われると、酷く胸に響く。見た所、人間じゃないみたい。それなりの力もありそうだし……だけど、私よりはきっと弱いし、その差がわからないわけでもないだろう。多分、私がこの中に閉じ込められてるから、何も出来ないと思ってるんだろうけど、そんな事は無い。現に今までに妖精メイドを何体も壊して来た。尤も、あいつ等は暫くすると直ぐに戻るんだけど。だから目の前のこの物体を壊すのも簡単……きゅっとすれば良いだけなんだから。

「……ああ、私を壊したいのね。好きにすると良いわ。出来るのならね、『レミィの玩具』さん?」

「……っ!ち、がうっ……私は私。お姉様の玩具なんかじゃないっ……」

「私は私?成る程、それなら問いましょう。動く事も話す事も死ぬ事も全ての自由が無い貴方は、一体どこの誰かしら?ああ、答えられなくて私を鬱陶しく思ったら、存分に壊すと良いわ」

私は胸を抉り取られる様な思いがした。彼女が言った事は、寸分違わず私自身が思っていた事。
私は誰だろう?私に与えられてる名は、お姉様の人形の名。私の名前じゃない……私と言う存在を表す言葉なんて、この世に存在していない。何だ、簡単な事じゃないか。ただ私が間違ってるだけだ、正しいのは目の前にいる彼女じゃないか。『私』と言う存在はとっくの昔に死んでいたんだ、私はただの人形なんだ……

「あ、あはは……ゴメン、貴女の言う通りだね。私は……」

ぽたりと、小さな水滴が床に落ちる。雨漏り?地下なのに?
ぽたりぽたりと水滴はどんどん落ちて行き、私はその発生源が私自身である事を知った。ぽたりぽたりと私の目から零れていく雫……私はこれの名前も知らないし、どうすれば止められるのかも分からない。ただただ零れる雫を見つめる事しか出来ない私の耳に、再び小さな溜息が聞こえた。

「ふぅ……何だ、泣けるんじゃない。間違ってたのは私の方だわ、貴女は玩具じゃない。自分でそれを認めているんなら、悔しくて涙を流す事なんて無いもの」

表情は変らないが、僅かに口調は柔らかくなった彼女は鉄格子の向こう側から、手招きをする。私はどうすれば良いかよく分からなかったが、とりあえず彼女の指示に従い、鉄格子へと近づく。すると彼女は鉄格子の間から手を通し、私の頭を撫で始めた。
くすぐったいその感覚は、不快なものではなく私がずっと求めて来たそれを感じさせてくれる。
ああ、何時以来だろう。こうやって誰かに頭を撫でて貰った記憶なんて、すっかり忘れていた。だってもう二度とこんな事して貰えると思ってなかったから。
暫くの間私の頭を撫でていた彼女だが、不意に手を止めるとクルリと背を向けた。それと同時に、胸が何か刺さった様にチクリと痛んだ。それはとても小さな痛みの筈なのに、何故か消えずに残っている。
そんな私を不審に思ったのか、こちらを振りなおした彼女は少々罰が悪そうに、眉尻を下げて口を開く。

「また近い内に遊びに来るわ。だからそんな残念そうな顔しないで頂戴」

「う、うん!あ、あの……一つ聞いて良い?私って誰なのかな?」

「貴女は貴女、『レミリア・スカーレットの妹』のフランドール・スカーレットじゃなくて、『自立した個』としてのフランドール・スカーレットよ。私はパチュリー・ノーレッジ、また会いましょう?フランドール」

その言葉を最後に、閉まる扉の音を聞きながら私は目を閉じる。もう朝になっていたのだ。今までは寂しく悲しく辛い事でしかなかった睡眠も、今の私は喜んで出来る。だって、眠れば明日になるから。明日になれば、明後日になれば、何時かパチュリーが遊びに来てくれるから!
初めまして、天川 紅と申します。
今回初投稿とさせて頂きました。CPはフラパチェ前提フラ→パチュリーです。
僕は好きな組み合わせなのですが、マイナーなのかな?

拙い文章ですが、読んで頂ければ幸いです。
天川 紅
[email protected]
コメント



1.奇声を発する程度の能力 in 携帯削除
全然マイナーじゃないですよ!
ですから、この調子でどんどんいっちゃいましょう!!!
2.名前が無い程度の能力削除
ありだと思います!
3.名前が無い程度の能力削除
本読み仲間として二人の仲が良いっていうのは考えたことありますが、
こういうのは初めて見るかも。

全然いい組み合わせだと思いますよ。
4.名前が無い程度の能力削除
いいですね!勿論ありですよ。

パチュリーが「友人の頼み」でフランのもとに来た、ということは、レミリアの考えはフランの思っている通りではないのでしょうね。
そこらへんも描いた続編とかあると俺が非常に喜びますw
5.名前が無い程度の能力削除
続編希望します