Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

泥棒とお茶とお茶菓子

2010/02/10 21:52:07
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 ビー!ビー!ビー!

 紅魔館の大図書館に無機質な警報音が鳴り響く。
 図書館の主は深い溜め息をついて、読んでいた本をぱたりと閉じた。


 幾ばくかの時間。

 白黒の魔法使いが現れる。


「……また盗人の御来場ね」

「盗人とは人聞きの悪い。一生借りていくだけだぜ?」

「それを普通は泥棒というのよ」

「残念な見解の相違だな。悲しいぜ」


 あっけらかんとした顔で、侵入者の魔法使いが語る。

 あまつさえ、パチュリーが読書中のテーブルに同席し、
 まだ湯気の立つ淹れたての紅茶を我が物顔で飲み出す。


「あちちちち……。思ったより熱かったぜ」

「それにしても、魔理沙。毎日毎日盗みに来て、何をしようとしてるの?」

 もはやその厚顔っぷりには、半ば諦め顔のパチュリーだった。
 ひとくち、自分の紅茶をすすると質問を投げかける。
 

「んー、今は研究が行き詰まっててな。
 気晴らしと実益を兼ねて遊びに来てるわけだが」

「実益は兼ねないで欲しいのだけど……」

「しかし、パチュリーは毎日本を読んでばかりだよな……。
 私を見習って少しは動かないと、喘息も良くならないぜ?」

 パチュリーの話をさらりとスルーしつつ、魔理沙は尋ねる。


「私は、本を読んで新しい魔法を作ることが一番の楽しみだもの。
 喘息とも100年も付き合えば慣れるわ」

「気の長い話だぜ、まったく」



 それにしても……。

 パチュリーは思う。

 来るまでいまだかつて、こんなに他者にペースを乱されたことはなかった。
 たまにレミィとお茶をしたりすることはあるけれど、
 他の時間は全て自分の時間だった。


 余事は全て小悪魔に任せていれば済んだし、
 紅魔館に挑もうとする侵入者も、この図書館まで来ることはない。

 変わりのない日々に、多少の退屈を覚えたこともあれ。
 魔法研究に没頭し続けることができる、この環境に全く不満はなかった。


 紅霧異変……

 白黒の魔法使いが図書館へとやってきてから、
 パチュリーの世界はガラリと変わった。

 年中無休で図書館へ訪れる、魔法使いという肩書きの侵入者。
 泥棒対策に魔法で警報ベルを仕掛けたが、それも全くの無駄だった。

 魔理沙にとっては、煩く鳴り響く警告音も、ただの訪問ベルのようなものなのだろう。
 豪快に現れて、パチュリーの時間を掻き乱しては、
 たくさんの本を「借りて」いってしまう。


「本当に、変わった人間よね……」

「私は普通だぜ」

 たわいもない会話。いつも似たような話だが、何故だか飽きる事はない。

 その後も、ぽつぽつ、ぽつぽつと、代わり映えの無い話を続けた。
 時間としては、さして過ぎてはいないだろうか。


「さ、あまり長居をしても悪いしな。
 この本だけ借りて、今日は引き揚げるとするぜ」

「盗人猛々しいったらないわ……」

「ああ、そうそう。今日の紅茶は美味しかったぜ。
 いつもの小悪魔じゃなくて、パチュリーが淹れたんだろ?」

「なっ……!」


 魔理沙の一言で、ポンっとパチュリーの顔が赤くなる。

 ……そこまで気がついていたのは、完全に予想外だった。
 ガサツなようでいて、細かいところに気がつく。


「それじゃ、またな!」


 呆然としたパチュリーを置いて、魔理沙は飛び去ってしまった。

 まったく、油断ならない。
 本当に、驚いてしまった。


「あら、魔理沙さんはもう帰ってしまったんですか?
 お茶菓子を用意してきたのですが」

 小悪魔がひょっこり現れて、聞き捨てならないセリフを言った。

 パチュリーはまた一つ、大きな溜め息をつく。


「あなたは、泥棒にお茶菓子を出すつもりなのかしら?」

「主自ら茶を振る舞う上客には、それなりの待遇をしないといけないのでは?」

「……そのつもりは全くないのだけれど?」

「警報ベルが鳴ると同時に、お相手の紅茶を淹れに行くのは
 ”振る舞う”とは言わないのでしょうか?」

「……」


 さらりと言われてしまっては、パチュリーとしても返す言葉がない。


「……仕方ないわ、そのお茶菓子はあなたと食べるとしましょう。
 紅茶も、冷めてしまったわ。私の分とあなたの分、淹れてきてちょうだい」

「はいっ! 少々お待ちくださいね!」


 嬉々とした顔で、小悪魔は下がっていく。


「彼女がああまで言うなんて……。私も相当重症のようね」

 一人きりになった図書館にまたひとつ、深い溜め息の音が残るのだった。
昔にさらっと書いて放置していた文章の、リサイクルです。
なぜかパチュマリ風味。幻想郷にはコーヒーよりも紅茶が似合うような気がします。

古いのを修正しながら仕上げるのは、新しく書くの以上に大変ですね……。

>ぺ・四潤様
ご指摘ありがとうございます。各種修正しました。
nasugin
http://sobani.blog.shinobi.jp/
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
パチュリーさんも素直じゃないなぁ(ニヤニヤニヤニヤ…
2.ぺ・四潤削除
王道的なパチュマリですね。色んな形で書かれていてもやっぱりこの関係は色あせない。
もうベルの音は「カランカラン」にしちゃいなよ(ニヤニヤニヤニヤ…
3.名前が無い程度の能力削除
この感じがパチェマリの真髄よ!
素晴らしい。実に素晴らしい。
4.nasugin削除
コメントありがとうございましー。
大変遅くなりましたが、お返事です。

>奇声を発する程度の能力さん
わりと王道なツンデレが好きなんですw

>ぺ・四潤さん
ご指摘ありがとうございましたー。

>ベルの音は「カランカラン」
そのうちそうなりそうですねw

>3さん
ベタな感じでいってみました。
アリスのツンデレより、パチュリーのツンデレの方が好きなのです!