ビー!ビー!ビー!
紅魔館の大図書館に無機質な警報音が鳴り響く。
図書館の主は深い溜め息をついて、読んでいた本をぱたりと閉じた。
幾ばくかの時間。
白黒の魔法使いが現れる。
「……また盗人の御来場ね」
「盗人とは人聞きの悪い。一生借りていくだけだぜ?」
「それを普通は泥棒というのよ」
「残念な見解の相違だな。悲しいぜ」
あっけらかんとした顔で、侵入者の魔法使いが語る。
あまつさえ、パチュリーが読書中のテーブルに同席し、
まだ湯気の立つ淹れたての紅茶を我が物顔で飲み出す。
「あちちちち……。思ったより熱かったぜ」
「それにしても、魔理沙。毎日毎日盗みに来て、何をしようとしてるの?」
もはやその厚顔っぷりには、半ば諦め顔のパチュリーだった。
ひとくち、自分の紅茶をすすると質問を投げかける。
「んー、今は研究が行き詰まっててな。
気晴らしと実益を兼ねて遊びに来てるわけだが」
「実益は兼ねないで欲しいのだけど……」
「しかし、パチュリーは毎日本を読んでばかりだよな……。
私を見習って少しは動かないと、喘息も良くならないぜ?」
パチュリーの話をさらりとスルーしつつ、魔理沙は尋ねる。
「私は、本を読んで新しい魔法を作ることが一番の楽しみだもの。
喘息とも100年も付き合えば慣れるわ」
「気の長い話だぜ、まったく」
それにしても……。
パチュリーは思う。
来るまでいまだかつて、こんなに他者にペースを乱されたことはなかった。
たまにレミィとお茶をしたりすることはあるけれど、
他の時間は全て自分の時間だった。
余事は全て小悪魔に任せていれば済んだし、
紅魔館に挑もうとする侵入者も、この図書館まで来ることはない。
変わりのない日々に、多少の退屈を覚えたこともあれ。
魔法研究に没頭し続けることができる、この環境に全く不満はなかった。
紅霧異変……
白黒の魔法使いが図書館へとやってきてから、
パチュリーの世界はガラリと変わった。
年中無休で図書館へ訪れる、魔法使いという肩書きの侵入者。
泥棒対策に魔法で警報ベルを仕掛けたが、それも全くの無駄だった。
魔理沙にとっては、煩く鳴り響く警告音も、ただの訪問ベルのようなものなのだろう。
豪快に現れて、パチュリーの時間を掻き乱しては、
たくさんの本を「借りて」いってしまう。
「本当に、変わった人間よね……」
「私は普通だぜ」
たわいもない会話。いつも似たような話だが、何故だか飽きる事はない。
その後も、ぽつぽつ、ぽつぽつと、代わり映えの無い話を続けた。
時間としては、さして過ぎてはいないだろうか。
「さ、あまり長居をしても悪いしな。
この本だけ借りて、今日は引き揚げるとするぜ」
「盗人猛々しいったらないわ……」
「ああ、そうそう。今日の紅茶は美味しかったぜ。
いつもの小悪魔じゃなくて、パチュリーが淹れたんだろ?」
「なっ……!」
魔理沙の一言で、ポンっとパチュリーの顔が赤くなる。
……そこまで気がついていたのは、完全に予想外だった。
ガサツなようでいて、細かいところに気がつく。
「それじゃ、またな!」
呆然としたパチュリーを置いて、魔理沙は飛び去ってしまった。
まったく、油断ならない。
本当に、驚いてしまった。
「あら、魔理沙さんはもう帰ってしまったんですか?
お茶菓子を用意してきたのですが」
小悪魔がひょっこり現れて、聞き捨てならないセリフを言った。
パチュリーはまた一つ、大きな溜め息をつく。
「あなたは、泥棒にお茶菓子を出すつもりなのかしら?」
「主自ら茶を振る舞う上客には、それなりの待遇をしないといけないのでは?」
「……そのつもりは全くないのだけれど?」
「警報ベルが鳴ると同時に、お相手の紅茶を淹れに行くのは
”振る舞う”とは言わないのでしょうか?」
「……」
さらりと言われてしまっては、パチュリーとしても返す言葉がない。
「……仕方ないわ、そのお茶菓子はあなたと食べるとしましょう。
紅茶も、冷めてしまったわ。私の分とあなたの分、淹れてきてちょうだい」
「はいっ! 少々お待ちくださいね!」
嬉々とした顔で、小悪魔は下がっていく。
「彼女がああまで言うなんて……。私も相当重症のようね」
一人きりになった図書館にまたひとつ、深い溜め息の音が残るのだった。
もうベルの音は「カランカラン」にしちゃいなよ(ニヤニヤニヤニヤ…
素晴らしい。実に素晴らしい。
大変遅くなりましたが、お返事です。
>奇声を発する程度の能力さん
わりと王道なツンデレが好きなんですw
>ぺ・四潤さん
ご指摘ありがとうございましたー。
>ベルの音は「カランカラン」
そのうちそうなりそうですねw
>3さん
ベタな感じでいってみました。
アリスのツンデレより、パチュリーのツンデレの方が好きなのです!