「やぁ、妖夢」
「あ……いらっしゃいませ」
「いい、横になっていろ」
まだ外は明るいけど、私は横になっている。
昨日、突然頭がフラついてそのまま転倒した。原因はよくわかっていないが、疲労だと思う。
それを知ってか知らずか、珍しくルナサさんが白玉楼を訪れた。
私はルナサさんの来訪を喜ぶ反面、二人っきりになる緊張感に襲われた。
「どうだ?体調は」
「もう心配には及びません、ちょっと疲れただけですから」
「そうか……一人か?」
幽々子様は、昨日夜出たっきり戻っていない。
別に珍しいことでもないので気にしていなかった。
「関心しないな、従者を置き去りか」
「いえ、私が言ったんです…私のことは気にしなくていいと」
「………関心しないな」
ルナサさんは、どちらにしても納得がいかない様子だった。
お見舞いにもって来てくれたのかわからないけど、袋を畳に置いて、私の隣に座った。
「私だったら、無理矢理にでもベッドに叩き伏せてる」
「…妹さん達、元気ですもんね」
「そもそも体調を崩さないからな」
妹さん達のことを話すルナサさんは、普段より明るい表情を浮かべる。
いつもメルランは落ち着きがないだとか、リリカは真面目にやっていないだとか文句を言っているけど、やっぱりそれは大事に思っている証拠なんだろう。
「飯は食べてるのか?」
「はい、簡単に」
「そうか………ああ、そうだ、これリンゴな」
「はい、ありがとうございます」
腕を組んで、背中のタンスにもたれかかる。そしてんーと少し唸ってつぶやいた。
「あれだな」
「はい」
「来てみたはいいが、意外と暇だな」
「……」
「それに間が持たない」
「………あはは」
思わず、声に出して笑ってしまった。
ルナサさんは普通言わないようなことをよく口にする。誰もが遠慮して言わないことを。
「おかしいか?」
「……相変わらずですね」
そういわれて少し照れたように笑い、ルナサさんは帽子を外した。
「………せっかく来たんですから、ゆっくりしていってください」
「…ああ」
ルナサさんは、腰を上げて庭に向かって歩き出した。
私が首の角度を変えると、縁側に腰掛けてバイオリンを構えている背中が見えた。
バイオリンを弾いてくれるんだろうか。
「………なぁ妖夢」
「はい?」
「幽々子に聞かれたよ」
「……はい」
「貴女の音は病人には害かって」
「正直に答えないといけないと思ってな……私は害だと言った」
「……どうしてですか?」
私は気がついたら布団から半身を起こしていた。
私はルナサさんの奏でる音が好きだ、最も冷静で、静かで、綺麗でとても澄んだ見事な音だ。
「落ち込んでいたら、治るものも治らないさ……落ち着くことも大事だが、元気でいないと」
「でも、私は貴女の音が好きです」
「…好きとか嫌いとかじゃないんだ」
振り返ったルナサさんは、切なそうだった。
でも笑顔を浮かべている。それがどういう意味なのかは私にはわからない。
「………知ってるよ、妖夢が私の音が好きでいてくれることくらい、だからお前の為に弾いてやりたいんだが、そうすると結果的にはお前の為じゃなくなってしまう」
「……」
「皮肉だな」
「そこでだ、妖夢」
くるりと回って、ルナサさんがこちらを振り返った。
私はその動作に驚いて、つい身構えてしまった。
「妖夢、私のことは好きか?」
「……え!?」
「私の音が好きなのはわかった、だが私のことはどうだ?」
「………わ、わかりません!なんですか急に!」
「音は聴かせてやれない、でも、音を奏でている私のことを見せてやることはできる」
ルナサさんはいたって真面目だった。
自分が一番自慢している音を封印して、それでも私の為に何かできるならと一生懸命になってくれている。
そんなことをしてくれる方を、嫌いなわけがない。
「わかりません!でも、嫌いじゃないことだけは……確かです」
赤面する顔を隠したかったが、堂々としたルナサさんの前ではできなかった。
こんな煮え切らない中途半端な答えでも、喜んでくれた。
「ありがとう、妖夢……じゃあ、耳を塞いでくれ」
「……はい」
「…私はお前が好きだ」
私が耳を塞ぐ瞬間に、ルナサさんの呟きが聞こえた。
でもその後すぐにバイオリンを構えた姿を見て、すぐに耳を塞いでしまった。
弾き始めこそその言葉に平静を乱されていたが、演奏が始まって幽霊が集まってくると、その美しい姿に私は魅入っていた。
いつも宴会や演奏会で、私達の前に現れて美しい音を奏でるプリズムリバー三姉妹。
今、その長女が私の前で、私の為だけにバイオリンを弾いてくれている。
音を伝えるためじゃない、私の為に弾いているということを伝えるために。
その長女は、演奏会で私がいつも視線を送っていたことに気がついていた。
貴女のファンであると言った時、長女は自分のような脇役にどうしてと疑問に思ったらしい。
それは意地悪な質問だった、理由が思いつかなかった。ただ単にルナサさんのことが気になって仕方がなかったんだ。
ルナサさんの凛とした表情に見ほれて、目を少し逸らすと黒い清楚な衣装が目に入る。
私の視界には、強烈にルナサさんが焼きついていた。
もちろん聴いてて落ち着く音は好きだった、でもそれ以上にルナサさんのことが好きだった。
でもそれはファンとしては失礼なことなんじゃないかと思って、私はそのとき「貴女の音が好きだ」と言った。
「妖夢」
「……あ」
「ごめんな、泣かせる気なんてなかったんだ」
「………違う」
いつのまにか演奏は終わっていた。
私は涙を流していたらしい、そのことを気遣ってルナサさんは私の近くに歩み寄ってきてくれた。
俯く私の頭を撫でながら、心配そうに大丈夫かと声をかけ続けてくれた。
「ごめんなさい、ルナサさん、私……貴女のことが大好きです」
「…!」
呆気にとられた表情。私がこんなことを言うのがそんなに珍しいんだろう。
でも今伝えないといけない、紛れもなく本当のことを。
「本当は最初にあった時からルナサさんに夢中でした、でも、音じゃなくて貴女の姿に惚れてしまったなんて失礼なんじゃないかって思って、その時は言えませんでした」
「……わかってないな」
「……」
「私はルナサだ、ルナサっていう女なんだよ」
私の両頬を押さえて自分のほうに向ける。
好きだと言った、そして相手にも好きだと言われた。だからもうすることは一つだろう。
そう思っていたんだけど、やっぱりルナサさんは私に言った。
「していいか?キス」
「……こういうときは、聞かないで」
「ごめんな」
「あの、ルナサさん」
「ん?」
「ルナサさんは、どうして私のことを…?」
「……お前が、妹みたいで可愛いからさ」
「……」
「それに、真面目で、一本気で、小さいのに忙しそうに動いて可愛い」
「小さいは余計です」
「怒るな」
私は妹じゃないのに、不機嫌そうにしている私の頭を撫でる。
ずるい、妹さん達はずっとこんな愛情を受けているんだ。
「じゃあ二人っきりの時は……私だけのお姉ちゃんになってくれますか?」
「ああ、いいよ」
私のワガママなんて、誰も聞いてくれないもんだと思っていた。
そもそも私はワガママなんて言わないからだ。
でも今はルナサさんに対してワガママを言いたくて仕方がなかった。
これが恋をしたってことなんでしょうか。幽々子様。
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「あ……いらっしゃいませ」
「いい、横になっていろ」
まだ外は明るいけど、私は横になっている。
昨日、突然頭がフラついてそのまま転倒した。原因はよくわかっていないが、疲労だと思う。
それを知ってか知らずか、珍しくルナサさんが白玉楼を訪れた。
私はルナサさんの来訪を喜ぶ反面、二人っきりになる緊張感に襲われた。
「どうだ?体調は」
「もう心配には及びません、ちょっと疲れただけですから」
「そうか……一人か?」
幽々子様は、昨日夜出たっきり戻っていない。
別に珍しいことでもないので気にしていなかった。
「関心しないな、従者を置き去りか」
「いえ、私が言ったんです…私のことは気にしなくていいと」
「………関心しないな」
ルナサさんは、どちらにしても納得がいかない様子だった。
お見舞いにもって来てくれたのかわからないけど、袋を畳に置いて、私の隣に座った。
「私だったら、無理矢理にでもベッドに叩き伏せてる」
「…妹さん達、元気ですもんね」
「そもそも体調を崩さないからな」
妹さん達のことを話すルナサさんは、普段より明るい表情を浮かべる。
いつもメルランは落ち着きがないだとか、リリカは真面目にやっていないだとか文句を言っているけど、やっぱりそれは大事に思っている証拠なんだろう。
「飯は食べてるのか?」
「はい、簡単に」
「そうか………ああ、そうだ、これリンゴな」
「はい、ありがとうございます」
腕を組んで、背中のタンスにもたれかかる。そしてんーと少し唸ってつぶやいた。
「あれだな」
「はい」
「来てみたはいいが、意外と暇だな」
「……」
「それに間が持たない」
「………あはは」
思わず、声に出して笑ってしまった。
ルナサさんは普通言わないようなことをよく口にする。誰もが遠慮して言わないことを。
「おかしいか?」
「……相変わらずですね」
そういわれて少し照れたように笑い、ルナサさんは帽子を外した。
「………せっかく来たんですから、ゆっくりしていってください」
「…ああ」
ルナサさんは、腰を上げて庭に向かって歩き出した。
私が首の角度を変えると、縁側に腰掛けてバイオリンを構えている背中が見えた。
バイオリンを弾いてくれるんだろうか。
「………なぁ妖夢」
「はい?」
「幽々子に聞かれたよ」
「……はい」
「貴女の音は病人には害かって」
「正直に答えないといけないと思ってな……私は害だと言った」
「……どうしてですか?」
私は気がついたら布団から半身を起こしていた。
私はルナサさんの奏でる音が好きだ、最も冷静で、静かで、綺麗でとても澄んだ見事な音だ。
「落ち込んでいたら、治るものも治らないさ……落ち着くことも大事だが、元気でいないと」
「でも、私は貴女の音が好きです」
「…好きとか嫌いとかじゃないんだ」
振り返ったルナサさんは、切なそうだった。
でも笑顔を浮かべている。それがどういう意味なのかは私にはわからない。
「………知ってるよ、妖夢が私の音が好きでいてくれることくらい、だからお前の為に弾いてやりたいんだが、そうすると結果的にはお前の為じゃなくなってしまう」
「……」
「皮肉だな」
「そこでだ、妖夢」
くるりと回って、ルナサさんがこちらを振り返った。
私はその動作に驚いて、つい身構えてしまった。
「妖夢、私のことは好きか?」
「……え!?」
「私の音が好きなのはわかった、だが私のことはどうだ?」
「………わ、わかりません!なんですか急に!」
「音は聴かせてやれない、でも、音を奏でている私のことを見せてやることはできる」
ルナサさんはいたって真面目だった。
自分が一番自慢している音を封印して、それでも私の為に何かできるならと一生懸命になってくれている。
そんなことをしてくれる方を、嫌いなわけがない。
「わかりません!でも、嫌いじゃないことだけは……確かです」
赤面する顔を隠したかったが、堂々としたルナサさんの前ではできなかった。
こんな煮え切らない中途半端な答えでも、喜んでくれた。
「ありがとう、妖夢……じゃあ、耳を塞いでくれ」
「……はい」
「…私はお前が好きだ」
私が耳を塞ぐ瞬間に、ルナサさんの呟きが聞こえた。
でもその後すぐにバイオリンを構えた姿を見て、すぐに耳を塞いでしまった。
弾き始めこそその言葉に平静を乱されていたが、演奏が始まって幽霊が集まってくると、その美しい姿に私は魅入っていた。
いつも宴会や演奏会で、私達の前に現れて美しい音を奏でるプリズムリバー三姉妹。
今、その長女が私の前で、私の為だけにバイオリンを弾いてくれている。
音を伝えるためじゃない、私の為に弾いているということを伝えるために。
その長女は、演奏会で私がいつも視線を送っていたことに気がついていた。
貴女のファンであると言った時、長女は自分のような脇役にどうしてと疑問に思ったらしい。
それは意地悪な質問だった、理由が思いつかなかった。ただ単にルナサさんのことが気になって仕方がなかったんだ。
ルナサさんの凛とした表情に見ほれて、目を少し逸らすと黒い清楚な衣装が目に入る。
私の視界には、強烈にルナサさんが焼きついていた。
もちろん聴いてて落ち着く音は好きだった、でもそれ以上にルナサさんのことが好きだった。
でもそれはファンとしては失礼なことなんじゃないかと思って、私はそのとき「貴女の音が好きだ」と言った。
「妖夢」
「……あ」
「ごめんな、泣かせる気なんてなかったんだ」
「………違う」
いつのまにか演奏は終わっていた。
私は涙を流していたらしい、そのことを気遣ってルナサさんは私の近くに歩み寄ってきてくれた。
俯く私の頭を撫でながら、心配そうに大丈夫かと声をかけ続けてくれた。
「ごめんなさい、ルナサさん、私……貴女のことが大好きです」
「…!」
呆気にとられた表情。私がこんなことを言うのがそんなに珍しいんだろう。
でも今伝えないといけない、紛れもなく本当のことを。
「本当は最初にあった時からルナサさんに夢中でした、でも、音じゃなくて貴女の姿に惚れてしまったなんて失礼なんじゃないかって思って、その時は言えませんでした」
「……わかってないな」
「……」
「私はルナサだ、ルナサっていう女なんだよ」
私の両頬を押さえて自分のほうに向ける。
好きだと言った、そして相手にも好きだと言われた。だからもうすることは一つだろう。
そう思っていたんだけど、やっぱりルナサさんは私に言った。
「していいか?キス」
「……こういうときは、聞かないで」
「ごめんな」
「あの、ルナサさん」
「ん?」
「ルナサさんは、どうして私のことを…?」
「……お前が、妹みたいで可愛いからさ」
「……」
「それに、真面目で、一本気で、小さいのに忙しそうに動いて可愛い」
「小さいは余計です」
「怒るな」
私は妹じゃないのに、不機嫌そうにしている私の頭を撫でる。
ずるい、妹さん達はずっとこんな愛情を受けているんだ。
「じゃあ二人っきりの時は……私だけのお姉ちゃんになってくれますか?」
「ああ、いいよ」
私のワガママなんて、誰も聞いてくれないもんだと思っていた。
そもそも私はワガママなんて言わないからだ。
でも今はルナサさんに対してワガママを言いたくて仕方がなかった。
これが恋をしたってことなんでしょうか。幽々子様。
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弄られ役の多いルナ姉だけど、すげえ「オンナ」を感じた。
ルナ姉みたいな姉が自分にも居たらいいのに…
ちょとずれてるクールなお姉さん、最高です
たまんねぇっほぁっ
ヒュウ!!ルナ姉大好きだー!!