Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

守矢の神話

2010/01/23 22:58:50
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 ある日の守矢神社。
 神奈子が手ずから神事の開催を提案し、東風谷早苗は朝早くから準備に追われていた。

 山で萱(かや)を刈り集め、神社で干すこと数時間。
 日が傾き始めた頃、乾いた萱を寄り合わせ、巨大な蛇を形作っていく。

 俗に言う、「蛇寄り神事」である。

 夜になれば完成した萱蛇の前にて火を焚き、青龍の方角より訪れる蛇達を迎え入れる。
 それらはただの蛇ではなく、神格を持った小さき神々の顕現であった。当然、無碍には扱えない。
 早苗は蛇達一匹一匹に頭を下げ、彼らの為に舞を踊るのだった。

 また、宴の中心では神奈子が、御柱を地面に突き立てて謳っていた。中央神話の勝利と、その後の繁栄を約束する詩だった。
 蛇達は詩に合わせて身体をくねらせる。神事は最高潮に達しようとしていた。

 奇跡が起こる。
 雲一つ無い空から、雨が降って来た。
 よく見るとそれは水ではない。米粒の雨だ。
 五穀豊穣を司る八坂神奈子の起こした奇跡は、妖怪の山に実りをもたらした。

 ──そんな時にふと、早苗は気づいた。
 先程から、諏訪子の姿が見えないことに。


 ◇◆◇◆◇


「諏訪子様」

 早苗が声をかけると、洩矢諏訪子は湖面より顔を上げた。
 守矢神社の裏手にある湖には蛇達の姿は無く、神社の喧騒が嘘のように静寂に包まれていた。

「ああ何だ早苗。馬鹿騒ぎはもう終わったの?」
「いえ、諏訪子様のお姿が見えなかったので、私だけ抜けて来ました。風祝として、神事は全うしなければなりませんが……神奈子様と諏訪子様、お二人が揃ってこそのお祭だと思うのです」
「ああ、それは済まなかったね。どうもあの神事は苦手でね」

 そう応えてから、「あ、蛇が嫌いな訳じゃないよ?」と諏訪子は付け加えた。

「昔のことを思い出すんだ。洩矢の王国は現在は影も形も残ってはいないけど、私や神奈子の記憶の中では今も存在し続けているからね。
 それでまあその、懐かしいというか侘しいというかね。神奈子は違うだろうけど、私はしみったれた気分になってどうも、ね」

 どこか寂しげな口調で、諏訪子はそんなことを言った。
 早苗がこっそり社から持ち出して来た萱饅頭を差し出すと、笑って更に付け加える。

「何だか悔しいから、今度は『蛙寄り神事』でも執り行おうかねぇ? ……余計に蛇が集まりそうだけど」
「あはは。案外、神奈子様も賛同なさるかも知れませんね」
「ふん。神奈子も蛇に似て貪欲だからね。己の利得になりそうなものはどんどん取り入れようとする」
「あ、いえ、それもあるかも知れませんが。
 神奈子様、きっと諏訪子様と仲良く遊びたいはずですよ」

 何気なく早苗がそう言うと。
 諏訪子は一瞬顔を強張らせた後、饅頭を一口齧った。

「どうだかね。神奈子は私のことを友人だと言うけど、それだって私の力を利用する為の方便かも知れない。
 ……それに私だって、神奈子の行動力に頼りきっている部分がある。あいつが居なきゃ、今頃私は消滅していたかも知れない」
「それも一つの友情の形、だと思いますよ?」
「友情ねぇ。まあ、腐れ縁があるのは間違い無い。思えば長い付き合いだ。それこそ、神話を形作るに十分なだけの時間が流れた」

 そう言って、帽子を目深に被る諏訪子。
 照れているのかも知れないと早苗は思い、微笑みを浮かべた。
 彼女は神様達の、こういう人間臭い部分が好きだった。
 親近感を──或いは、畏れ多くも肉親の情に近い感情を覚えるからだろうか。

「ねえ、早苗」
「はい」
「私達は最早、幻想郷の外の世界では存在できない。
 あまりにも、信仰を失い過ぎた」
「……はい」
「私達には後が無い。だからこそ私達は、幻想郷で信仰を確立しなければならないんだ。
 私が坤、神奈子が乾を創造し──けど、それだけじゃ駄目。
 早苗。あんたが神話を創造するんだ」
「…………」

 神話。
 神様の物語は、それを語る人間の存在があって初めて成り立つ。
 守矢神社の未来は、風祝である早苗の手に委ねられていた。

「──って、結局辛気臭い話になっちまった。
 そろそろ馬鹿騒ぎも終わる頃合いだろう。神社に戻ろうか」
「……あの。諏訪子様」
「ん? 何だい?」
「私、頑張りますから。きっと幻想郷を信仰で満たしてみせますから。だから」

 だから、いつまでも私をお傍に居させて下さい。
 言いかけた言葉を呑み込み、早苗は神社に向かって歩き始めた諏訪子の後に続いた。

「大丈夫」

 背中を向けたまま、諏訪子はそれだけを告げて来る。
 夜風が身に染みたのか。
 早苗の身体が、僅かに震えた。


 いつか、宴は終わる。
 お祭の後には静寂が残り、切ない気持ちに囚われそうになる。
 そんな時に頭に浮かぶのは、決まって楽しかった頃の思い出だった。

 ……大丈夫。
 思い出がある限り、きっと自分はやっていける。

 新しい時代に、新しい神話を築くんだ。
 初めての投稿です。
 紅魔組で書こうかとも考えましたが、大好きな守矢一家の話にしました。

 一応、風神録~地霊殿の間のお話です。

 拙い文章で巧く伝えられるか心配ですが、どうかご一読願えればと思います。
すだチ
http://kansuda.blog11.fc2.com/
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
すっきりしてて良い文章だと思います。もう少し長いと僕が喜びます。ライスシャワー!
2.名前が無い程度の能力削除
とても丁寧で綺麗な文章で読み易いです。
早苗さん、諏訪子様、神奈子様には何時までも幸せにいて欲しい。
3.名前が無い程度の能力削除
将来への不安と希望の入り交じった、何ともこそばゆい雰囲気
ごちそうさまでした。おこめおこめ
4.奇声を発する程度の能力削除
大丈夫!!早苗さんならやれるはず!!!!
5.ずわいがに削除
出来るよ。だって守矢は愛で結ばれてるんだから。
守矢の信仰は宇宙一ィー!!
6.名前が無い程度の能力削除
守矢一家の良さが凝縮されたようなSSでした。
早苗健気だよ早苗