――貴女の夢の中に参上ですわ
いきなり人の夢の中に出てくるとか非常識です
――あら、常識ってなにかしら?
挨拶とかじゃないですか
――じゃぁ挨拶ってなに?
おはよう、こんにちは、こんばんわ、おやすみなさい
――他には?
他には……キ、キキキキ
――お猿さん?
キ、キス……とか
――随分と外界はフランクになったのね
手とかおでこですよ!? まうすとぅまいすは愛し合う間がらだけです!
――ふふ、噂どおり面白い子ね。いいわ、特別に教えてあげる
何をですか?
――此処、幻想郷での挨拶の仕方はね……
「この幻想郷では常識に囚われてはいけないのですね!」」
<乙女沢山よれば姦しい>
「神奈子です」
「諏訪子です」
「早苗です」
「「「三人そろってモリヤレンジャー!」」」
ここは妖怪の山に立つ、守矢の神社。
ついこの間、外界から幻想郷へと引越ししてきた新参者である。
その大掛かりな引越しは妖怪の山に住む者達だけでなく、
幻想郷全土に衝撃を与えた。
衝撃その1。神社の巫女がかわいい。
衝撃その2。「巫女じゃなくて風祝です!」と主張する姿が異常にかわいい。
衝撃その3。神様の風祝で、神社の巫女じゃないの? と突っ込まれたときの驚きの顔が天変地異を起こすほどにかわいい。
等々、幻想郷の美少女ランキングのバランスを崩し、危く幻想郷が消滅してしまうほどだった。
これを「新入生異変」と呼ぶ。
「新入生にすっげぇ美人がいるらしいぜ?」
「え、まじで?」
「なんでも2年連続ミス東方学園の霊夢先輩よりも美人らしい。あと巨乳って噂だ」
「なんと! それは是非一度お会いしておかなければ」
「く……東風谷 早苗。私と同じ腋巫女のくせに。絶対に許さない。許さない、許さない、許さない、許早苗ーーー!!」
ということが起こりかけたが、幻想郷のババァもとい母が一考を案じ、どうにか事を収めることに成功した。
それが冒頭での出来事である。
常識に囚われなくなった早苗は、挨拶で米をばら撒くようになり農家の年配の方々からの人気はがた落ち。
若い衆等の人気は未だに健在だが、なんとかミス東方学園に選ばれたのは霊夢だったので、幻想郷が消滅してしまうことはなかった。
「その話本当なんですか文様?」
「まさか。本当ならばとっくに記事にしてますよ」
守矢の神社の縁側で、烏天狗の射命丸 文 と、白狼天狗である犬走 椛がお茶を啜っていた。
「今のポーズどうでしたか射命丸さん!」
早苗がタッタッタと文に駆け寄り、胸に手を当てて瞳を輝かせている。
先ほどの掛け声とポーズによほどの自信があるらしい。
「10点」
「じゅっ!?」
「あ、文様。さすがにそれは低すぎでは……」
早苗は両手を口に当てたまま、真っ白に固まってしまった。
先ほどの掛け声とポーズによほどの自信があったようだ。
「あややや、そこまでショックを受けられると私としても困るのですが」
「文様、さきほどのポーズがどうして10点なのですか? 私には80点くらいに思えたのですが」
石となってしまった早苗のかわりにとでもいう感じで、椛は文に質問をした。
文は椛の質問に首を横にふり、わからないのですか? と言った後に手帳を見ながら言葉を続けた。
「まず先ほどのポーズに関してですが、たしかに椛の言うとおり素晴らしいものでした。
三人とも御そろいの服での統一感。しかし色がピンク、ブルー、イエローと分かれているので個々人がちゃんと映えています。
中央の早苗さんの手でつくったハートポーズを差し出す感じは、女である私でさえもときめいたほどです。
さらには神奈子さんと諏訪子さんの、オリエンタルラ○オのあんちゃんのようなポーズも決まってました。
もっとも諏訪子さんは冬眠中。早苗さんが声色を変えてましたが、まぁそれは置いておいても、
さきほどの椛の20点足りないところは諏訪子さんの背の低さでバランスばもったいなかった。そんなところでしょうか」
椛はウンウンと頷きながらもまだ続きそうな文の言葉を待った。
文はというと、お茶を一口すすってから手帳の左の頁を一枚めくり、唇を開いた。
「早苗さんわざわざ私の家に来てこう言いました。信仰を増やすためのポスター作りに協力してほしいと。
もちろんネタになりそ、こほん。友人である早苗さんの頼みを断るほど私は冷たい女ではありませんから、お手伝いはしましたよ。
ポーズに切れがなければ指摘し、愛が足りなければ指摘しました。それはもう熱血教官並に。
その結果が先ほどのポーズです。椛なにか気付きませんでしたか?」
いつもよりもゆったりとした話し方をする文の言葉を真剣に聞いていたが、椛はさっぱり文の意図することが分からないのか、首を子犬のように傾げている。
しょうがないですねぇ、と呟いた文は椛に質問を投げた。
「早苗さんの目的ななんでしたか?」
「わふ? え~っと……信仰を増やすことでしょうか」
「その通りです」
文は人差し指をピッっとたててさらに質問を重ねた。
「では早苗さんの職業はなんでしょう?」
「それは巫女さんで……あっ!」
椛の何かひらめいたような表情に、文は首を深く立てに振る。
(記者に大切なのは全てを見渡す観察力と洞察力なのですよ。椛も大分成長してきましたね)
そう思いながら、満足げにお茶の口に含む。
「早苗さん今日巫女服じゃないです! これセーラー服ですよ。しかも千里眼でみると穿いてないじゃないですか!」
「ブーーーーッ!!」
文は先ほど口に含んだばかりのお茶を盛大に前にあるヒトガタの石に噴出した。
そして椛の言葉と文のお茶攻撃に、驚きの速さで石状態から戻った早苗はスカートをたくし上げ、自分の驚きの白さを確認すると椛に突っ込んだ。
「ちゃんと穿いてますよ!?」
カシャカシャカシャカシャカシャッ
「わふわふ。すいません、私の勘違いでした♪」
「椛、私はあなたを助手にもてて本当によかったと思ってます。しかも私まで騙すだなんて。本当に成長したものです」
一瞬のできごとに何をされたのか分かっていない早苗はスカートを摘んだまま、頭に?を浮かべしばらく固まっていた。
そして後ろから歩いてきた神奈子が何も言わず、後ろから抱きしめるように早苗のスカートをそっと下ろす。
その様子もしっかりと写真に収めた文は、新しいフィルムに取り替える作業をすでに完了していた。さすが幻想郷最速と言わざるを得ない。
「しゃ、射命丸さん! 盗撮は犯罪ですよ!?」
「大丈夫です。個人で楽しむだけですから」
「ぜんぜん大丈夫じゃないです! 楽しむってそんな……だめです、ぜーーーったいにだめです!」
フィルムを取り返そうと空へと逃げた文に必死に迫る早苗。
もう少しで手が届くという瞬間、フィルムは地上にいる椛に投げ渡された。所謂キラーパスというやつである。
すぐさま椛に視線を移すが、その視線の横をまたフィルムが通り過ぎていった。
セーラー服でのはじめての弾幕バトル開始かと、早苗が覚悟を決めたその時、
文は再度手に渡ったフィルムを持って、地面へと降り立った。
あくまで、そういう戦いはしたくないという意思表示である。
文は知っている。そのセーラー服が早苗にとってどれだけ大切なものかを。
弾幕バトルをすると否応無しにその服を傷つけてしまうだろう。
服を傷つけるということは、彼女の大切な思い出を傷つけることに他ならない。
それだけは避けたかった。
しかし直後、文は戦慄した。
気付かないうちに神奈子に後ろへと回り込まれていたのだ。
「神奈子様!」
全てを語る必要は無い。そう思い早苗は神奈子へと呼びかける。そのフィルムを取り返してくれと。
しかし神奈子は首を左右へと振った。
「神奈子様……どうして」
まさかの主神の裏切りに戸惑いを隠せない早苗。
その瞳には、戸惑いでも怒りでもなく、悲しみがあった。
そんな早苗の瞳とは相反し、神奈子の瞳は優しさで満ちていた。
それはまるで母親が公園で遊ぶ子供をみつめる瞳であった。
そして神奈子は文の肩に手を置き、恥ずかしそうに答えた。
「いやね、私は嬉しくて仕方が無いんだよ。早苗がそんなに表情豊かに、笑ったり泣いたり怒ったりするのがさ。
此処に来るまでは、なんでも私の役目ですからって言ってほとんど笑ってなかったしね」
「神奈子様……」
早苗は一瞬でも神奈子を疑ったことを恥じた。
この方は本当に私のことを考えてくださっている。
あぁ馬鹿馬鹿、私の馬鹿。
ほんのりと暖かくなる空気の中、早苗は穏やかな笑顔で言葉を紡いだ。
「今日の晩御飯抜きです」
「射命丸殿、申し訳ない」
「あややや、先ほどまでいい雰囲気だったのに!?」
「晩御飯抜きは勘弁してもらいたいのでね。さぁフィルムを渡してもらおうか」
「うぬぬ、そうはいきません。私は清く正しい射命丸。美しいモノは自分の巣へ持ち帰らないといけないのです」
「それただの烏じゃない」
急に神社に聞こえた第三者の声。
早苗と文と神奈子の三名は声のした方向である、縁側へと振り向いた。
ちなみに諏訪子は冬眠中である。ガッキーンポーズのままピクリとも動いていない。
振り向いた先には、元祖腋巫女でありミス東方学園3連覇の博麗 霊夢が正座でお茶を飲んでいた。
「霊夢さん!?」
「この私に気付かれずに来るとはさすがだね」
「あやや、それ私のお茶です……よ?」
早苗は今日何度目か分からない驚きの表情を作り、
神奈子は関心と呆れの半々といったところか。
文は自分のお茶を諦め、やけに静かな椛の姿を見て言葉を失った。
椛はおでこに御札を貼られ身動きが取れなくなっていた。
かなり涙目になっていて、耳がしゅんと垂れている。
しかも体育すわりの為、何がとは言わないが丸見えである。わふわふ。
「お邪魔してるわよ。それにしてもこのお茶美味しいわね。後で少し頂戴」
霊夢は珍しく片手で湯のみをつかんでぐびぐびと飲んでいる。というより飲み干した。
もう片方の手は良く見ると、椛の尻尾を撫でているではないか。
もふもふが気持ちいいのか、これも一本貰おうかしらと呟いた。
本気(マジ)で泣き出す5秒前な椛に、冗談よといいつつ頭を撫でる。
そこまでの動作まったく隙はなし、完璧である。まさにパーフェクツ。
「霊夢さんどうして此処に?」
「早苗に逢いたかったから」
「はいっ!?」
霊夢の突然の告白に戸惑う早苗。
現人神といえど華も恥らう多分17歳である。
正面むいた告白なんて初めてで、どうしたらいいのか分からないのだ。
どうしましょうどうしましょう、と朱に染めた頬を両手で隠し頭を振る早苗。
気が付いたら椛に抱きついている文。
ケロちゃん帽子の片方の目が一瞬だけ開いてすぐに閉じた。
霊夢がなにこれ? と早苗を指差して神奈子を見るが、早苗は思春期なんだ、と苦笑いするだけだった。
「早苗!」
「ひゃい! 何でしょうか大佐!」
霊夢の強い呼びかけに、早苗はとっさに海軍式敬礼のポーズをビシッっと決める。
陸軍より腋が湿る、もとい腋を締めるらしい。が幻想郷では関係のない話である。トン
「早苗、あなた誰彼かまわず弾幕勝負を挑んでいるって本当?」
「弾幕勝負ですか? えーっと……あぁ挨拶の事ですね!」
「やっぱりあの挨拶はまだ続けていたのね」
「はい、紫さんに言われた通りにやってます」
早苗は常識を捨てるに至った経緯を霊夢に話した。
「やっぱりあいつが犯人か。いいこと、あんな胡散臭いおばさんの言った事は忘れなさい」
「でも紫さんはこの幻想郷の母ですよ? それなのに胡散臭いだなんて……少ーーーしだけ失礼じゃないですか?」
「加齢臭を漂わせてる歳なのに、少女臭を漂わせているところが胡散臭いわ」
「胡散臭いのは話し方じゃないんですね……」
「とにかく、里の人たちが流れ弾で迷惑してるから今後普通に挨拶をすること。いいわね?」
「はい……申し訳ありませんでした」
しゅんとする早苗の頭をぽんぽんと掌で優しく叩く霊夢の姿は、まるで実のお姉さんのようだった。
「さてっと。私はやることが出来たから今日は帰るわね」
「え、もうですか? せっかくですからもっとゆっくりしていって下さい」
「いや、でもあんた達何か忙しそうにしてたじゃない?」
・・・・・・・・・
「忘れてました!!」
早苗は文を探したが時既に遅し。
いつの間にか文は封印されたままの椛を抱き上げ、お持ち帰りしようと空へと飛び上がっていた。
あとは幻想郷最速の翼で、あっという間に見えなくなってしまった。
「一体なんだったのよ。まぁあの烏天狗がせわしないのはいつものことだけど」
「実は、射命丸さんに写真を撮られまして」
「それこそ何時もの事じゃない」
「あぅ、今回は、その……」
「パンチラ写真を取られたのさ」
「か、神奈子様!?」
神奈子は、よいしょっと言いながら霊夢の隣に腰掛けた。
ミニスカートで胡坐をかこうと仕掛け、あわてて地に向かって足をおろした。
「ふーん。おふぁんつねぇ」
「お、おふぁんつ?」
「私が認める下着は、サラシとドロワーズとおふぁんつだけよ。ブラとかパンツは認めないわ」
良く分からないがそういうことらしい。
パンツとおふぁんつの違いが分からないがきっと純白はおふぁんつなのだろう。縞々も許されるかもしれない。
「それで、そのふぁんチラがこのフィルムに入っているのかしら?」
「あ、それは!!」
霊夢の手には先ほどまで文が持っていたはずのフィルムが握られていた。
文はフィルムに番号(日付+連番)をつけている。
その番号を確認してみると、それは先のフィルムであることで間違いなかった。
「霊夢さんいつのまにこれを?」
「椛が大切そうにおふぁんつの中に隠そうとしていたから、おふぁんつごと奪っておいた」
「おふぁんつ大人気だねぇ」
甘い匂いのする毛糸のおふぁんつを広げてみせる霊夢に、カンラカンラと神奈子は笑った。
そのとき早苗はやはり常識は捨て去るべきですね、と思ったがそれはまた別の話。
「さて、霊夢殿」
「あによ。いつもみたいに呼び捨てでいいわよ」
「ぬ、最近の私の流行だったんだけどな、殿呼び。しゅん……」
「神奈子様だめですよーもっと神々しくして頂かないと信仰が……」
「早苗、たしかに私も信仰はほしいよ。でもね、無理に意地張らなくてもいいんじゃないかね」
「でもそれでは信仰が無くなってしまいます」
「なにもどこぞの貧乏巫女みたいにぐーだら生活をしようってんじゃないよ。今より少し肩の力を抜いてもいいと思うのよ」
「聞こえてるわよ」
ジト目で神奈子をにらめ付ける貧乏巫女さん。おーっとそいつは失礼と言いつつも悪びれない山の神様。
そして土煙を巻き上げて着地する新聞記者。さすがパパラッチ、話の途中だろうがお構い無しである。
「あれ。射命丸さん?」
「私のパンツ返して下さい」
「わふ……文様違います。返してほしいのは私のパンツです」
「私の物は私の物。椛の物も私の物です」
ひどいジャ○アニズムである。
しかし当の椛はなぜか頬を染めて、わふわふ言っている。
どうやら椛は文の物と言われて喜んでいるようだ。尻尾がずっとふりふりしている。
「あーこれ? はい、返すわ」
「ありがとうございます。ってこれ褌じゃないですか!」
「え、うわ私の褌が何時の間に脱がされてる!?」
「おっと間違えたわ。こっちね」
そういって霊夢が差し出したのは紅葉マークのついたおふぁんつ。
「あや、椛も紅葉パンツ穿いていたのですね。今日の私とおそろいです」
「わふ……文様、あまり言いたくは無いのですが多分それは」
「あややや! ドロワーズの下に穿いていたパンツがなぜか無いですよ!?」
「油断大敵よあんた達」
霊夢の手には4人分の下着が握られている。
まるで「お前たちの子は俺が預かった」という感じに。
「あれ、私の下着まで盗られてます!? でもスースーしないですし、むしろ暖かいような……」
「早苗には代わりに私がさっきまで穿いてたドロワーズオリジナルを穿かせたわ。私の手作りよ」
早苗は今ミニスカートにドロワーズという男の夢を即玉砕してしまう格好になっていた。
それは外界では絶対に許されざる格好なのだ。スカートから見えるジャージは悲しい。
しかし脱ぐに脱げないので仕方なくそのままでいることにした。こうして早苗はまた常識を一つ捨てた。
「それじゃ私は帰るわね」
「あややや、そのまえにパンツ返してくださいよ」
「わふぅ……そのパンツは文様からのプレゼントなんです。他のならあげますのでそれだけは返してくださいっ」
「さすがの私もミニスカノーパンの趣味は無いからね。返してもらうわ」
「霊夢さんひどいです。まさかこんな事をする人だったなんて」
4人に詰め寄られ、どんどん後ろに下がっていく霊夢。
壁まで追い詰められ、さすがにまずいと思ったのか、霊夢は黙って下着を前へ突き出した。
突き出した手が震えているのは悲しみか恐怖かそれとも怒りか。
「うがぁぁぁなによ! 大体あんたたちが悪いんじゃない!」
どうやら怒りのようだった。少女憤怒中。
「幻想弾幕少女はドロワーズ着用! これはスペルカードルールにも規則として書いてあるのよ!」
しかも意味が分からない。少女激怒中。
霊夢の言葉で何かに気が付いたのか、突然文が手帳を確認し始めた。
そして毎秒100ページの勢いでめくっていた手が10秒程でぴたりと止まる。
そこには、スペルカードルールについて明細に記されていた。
「ありました。これですね。えーっと……」
1つ 弾幕少女は何時いかなるときも少女の心を忘れないこと。ドロワーズだから見られても恥ずかしくないもん。
1つ 弾幕少女は何時でも弾幕勝負ができるようドロワーズを着用すること。なおドロワーズの下におふぁんつの着用は認めない。
1つ ドロワーズの着用がなされていない場合、監督不届きとして、博麗の巫女に罰則を与える。
「「「「なにそれ」」」」
4人が4人とも同じ言葉を口走った。
まさかスペルカードルールにこんなことが明記されているだなんて夢にも思っていなかったのだ。
手帳に書いていた文でさえ記憶の奥底へと封じていたのが分かるくらいにひどい。さん はい これは ひどい。
わっと泣き崩れる生下着泥棒の犯人。仕方が無かったのだ、こんなことするつもりじゃなかった等々泣き叫んでいる。
犯人はみんな同じことを言うんだよ霊夢さん。
「まさか霊夢さんにこんな重大な責任があっただなんて知りませんでした」
早苗は霊夢をそっと抱きしめて決意を胸に霊夢へと語りかけた。
「私、これからはドロワーズで過ごしますね。もうパンツ「おふぁんつ」…おふぁんつは穿きません。そしてもし霊夢さんに罰則が与えられるなら、その半分を受け持ちます」
「早苗……」
「霊夢さん……」
急にゆりりーんな空気をかもし出す赤い霊夢と緑の早苗。
むしろたぬきは霊夢じゃないかといった奴、表へ出ろ。
「あやー。それほど大変な罰則ならば今日からドロワーズだけにしますか」
「文様がそうなされるのでしたら私も。あ、それって文様とおそろい……わふ!」
「ところで罰則って一体、なにをされるのよ」
神奈子の質問に霊夢は何故か顔を赤らめてそっぽを向いた。
一体なんだろうと、4人は思い思いに想像をしてみる。
文は、絶食一週間かと思ってみたり
椛は、全身くすぐりの刑一時間とか思っみいたり
神奈子は、その腋見せが実は罰則なのではないか、と思ったが早苗も腋巫女なのでちょっと凹んでたり
早苗は、嫌がる霊夢を(ランランルー!)が(ヒヒーン)でその中に無理やり(\しゃめいまる/)な状況がずっと(以下略
「……じよ」
ぼそっと呟かれた霊夢の声は、記者である文ですら聞き取れなかった。
しかし唯一霊夢を抱きしめている早苗にだけは聞こえていた。
そしてつい声に出して聞き返してしまったのだ。
「マッサージですか?」
早苗の言葉に耳まで真っ赤になった霊夢はなにか吹っ切れたのか、大声で叫んだ。
「罰則として、上位クラスの妖怪のマッサージをしないといけないのよ!」
「・・・・・・・・・」
神奈子以外の3人は霊夢の手から下着を奪うと、何も言わずに自分の下着を穿き出した。
早苗に至ってはミニスカの中を見られたくないからか、ドロワーズオリジナルを霊夢の頭に被せる徹底振りだ。
そんな中、唯一神奈子だけが同情の眼差しで霊夢を見ていた。
「神奈子だけは分かってくれるのね」
「いや、この場で褌を巻いたら見えてはいけないものが見えてしまうだけよ」
「信じた私が馬鹿だった!」
単純にドン引きしていただけらしい。
神奈子信者が一瞬だけ一人増えて、一瞬で一人減った。
霊夢は涙を流しつつ、頭にかぶされたドロワーズオリジナルを穿き直した。が前後間違えたらしい。慌てて穿き直している。
なにやら今度の罰則は、紫のA面もマッサージしないといけないとかぶつぶつ呟いているが気にしてはいけないのだろう。
無事に霊夢を含む全員が元にもどったところで、文は今日の本来の目的を思い出した。
すっかりきっかり忘れていたが、早苗のお手伝いをしていたはずだったのだ。
どうしてこうなったかは記憶の奥底へとしまっておいて、文は忘れないうちにと話を切りだす。
「そうだ、早苗さん。さきほどいい忘れてました」
「はい?」
「10点の理由です」
「あぅ、そうでした。10点なんですよね。自信あったのに」
軽く涙目になった早苗に、文はこほんと一度咳払いをしてから、たった一言の理由を伝えた。
「信仰を集めるのも大切ですが……家族の気持ちをもう一度よく考えてみてくださいね」
沈黙。
神奈子も黙って早苗を見つめている。
霊夢に関しては珍しく何かを考えているようだった。
もしかしたら霊夢にも思うところがあるのかもしれない。
「これが私が10点をつけた理由です」
早苗はびっくりした時の表情を浮かべていた。
早苗としてはずっと神奈子と諏訪子の事を考え行動をしてきたつもりだったのだから。
そう、巫女として。風祝として。
もしこの理由が当初の説明のときに言われていたら、早苗は理解できなかったかもしれない。
しかし、先の神奈子の言葉がリフレインする。
『いやね、私は嬉しくて仕方が無いんだよ。早苗がそんなに表情豊かに、笑ったり泣いたり怒ったりするのがさ。
此処に来るまでは、なんでも私の役目ですからって言ってほとんど笑ってなかったしね』
この言葉にこめられた深い深い想いを、今本当の意味で理解した。
頭ではなく、早苗自信の心で。
気付かぬうちに泣いていた。
愛が目から溢れ出て止まらなかった。
流れる涙を拭くことせず、ただ流れるがままに。
暖かい。暖かい。こんなにも暖かい……
早苗はその場でくるりと回り、自信作のモリヤレンジャーのポーズを、文に向けて完璧な動作で決めた。
「うん、それなら30点はつけれますね」
「ではのこりの70点は、諏訪子様が起きる春先にでも頂きますね」
「分かりました。ではそれまでポスターはお預けですね」
「はい。そのときはまたお願いします!」
早苗は笑った。
涙でくちゃくちゃになりながら笑った。
その涙は夕日の色に染まり、どんな宝石よりも綺麗に輝いていた。
あぁ、騒がしかった一日が終わる。
明日もまた騒がしい一日だろうか。
それとも静かな一日だろうか。
いずれにしてもそれは、きっと素敵な一日であるだろう。
おや、今日はまだ続くようですよ?
もう少しだけ続く物語。お付き合い下さい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あややや。今日は大変な日でした」
「よく言うわ。わざと道化を演じてたくせに」
「あや、ばれてましたか」
てへ♪ と自分の頭をコツンとたたき、舌を出して一本取られたのポーズをとる文。本人は可愛いつもりらしい。いや可愛いけど。
霊夢はすでに帰り、早苗は諏訪子を布団にもどし今は椛と一緒に晩御飯の用意をしている。匂いからして今日はカレーだろうか。
残された二人はご飯が出来るまでの間、世間話に花を咲かせていた。
「夕暮れの太陽を眺める神。そよそよと流るる風に身を任せながら遠くを見つめる表情は、どこか悲しみを帯びていた」
「文々。新聞を購読して頂き、まことにありがとうございます」
「まさか撮られていたとは思わなかったよ。まぁおかげで信仰が増えたから感謝はするけどね」
「いやいや、こちらこそ今までの最多部数を記録できましたからね。ありがたいことです」
それは少し前の文々。新聞のことだった。
文は撮った神奈子の写真を記事にし、それが見る人の心を掴んだのだ。
内容は神奈子の言ったとおり。
夕方にもかかわらず、信仰を集めに行く早苗を見送った直後に撮られた写真である。
「できればもう一度撮らせてもらえませんか? ほらちょうど夕方ですし」
「早苗が『挨拶』で減らしてしまった信仰の分かい? 私は今くらいでも十分足りているんだけどね」
神奈子は、「それに……」と言葉を続ける。
「残念ながら私は多分しばらくはあの顔はできないよ」
苦笑いしながら文の顔をみると、カメラを持ち上げた文が首を横に振っていた。
「それは本当に残念です。でもですね、今私が撮りたいのは……」
かーなーこーさーまー、あやさまー、ご飯できましたよー!!
「お、早苗の声だ。ついこの前までわざわざ私を探して告げに来てたのに。随分とずぼらになったねぇ早苗も」
カシャッ
「……こっちの表情なんですよ♪」
「おいおい、それもコレクション用かい?」
「まさか。早苗さんにお願いされてましたからね。信仰を増やすためのポスター作りに協力してほしいと」
「で、本音は?」
「文々。新聞の購読部数増加にご協力感謝致します♪」
「ふぅ、しょうがない。今回だけだよ」
「おや、案外まんざらでもないのですね。実は撮られるの好きとか?」
よぉしこれは絶対に前回の記録を更新しますよー、と飛び跳ねて喜ぶ文。
そんな文を見た神奈子は呆れ顔でため息を吐き出した。
「まったく面白いやつだよあんたは……よし、そろそろ行こう。早苗が心配する」
「その表情もいただき!」
「およ、それも宣伝用かい?」
「いやぁこれはコレクション用ですってうわカメラ返してくださいまだフィルムがあぁぁぁぁぁっ!」
夕日がカメラのレンズに反射してキラリと光る。
カメラを必死に取り返そうとする文を、奪ったカメラでパシャパシャと撮り続ける神奈子。
やがてフィルムが尽きた頃、二人の様子を見に来た早苗に「晩御飯抜きです!」と告げられ、
土下座して謝る神と烏天狗の姿がそこにあったが、二人とも舌をちろっと出していた事に早苗は気付かなかったようである。
カメラの中に収められた写真
そこには
夕日をバックに
溢れんばかりの愛を持ち、優しく微笑む
一人の女性の写真が2枚と
最高の笑顔で楽しそうに騒いでいる少女が数枚写っている。
明日の文々。新聞はきっと増版必死だろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
<おまけ>
霊夢が帰るちょっと前~
「文」
「はい、なんでしょう?」
「後でこれの現像の仕方を教えて」
「購読一ヶ月でどうでしょう?」
「よし乗った!」
「ちょ、ちょっと霊夢さん、だめです! その写真をどうするつもりですか!?」
「好きな人の写真、一枚くらいは持っておきたいじゃない」
「え?」
今日も幻想郷は平和です。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
<さらにおまけ(ボツネタ1)>
霊「さなさな、なんで神奈子の下着はふんどしなの?」
早「うーんなんででしょう。ちょっと引っ張ってみましょうか」
霊「ひっぱったらなにか起こるの?」
早「垂れ下がる紐は引っ張るためにあると思いませんか?」
霊「揺らすこともあるわ。神社の鈴とか」
早「なるほど。では引っ張ったり揺らしたりしてみましょう」
神「おい、お前達なにを物騒なことを言って……」
早「えいっ☆」
神「!!」
ことーばにーできーなーいー♪(衣玖さんの能力的な意味で)
今日も幻想郷は平和です?
神奈子様……胡坐、かいてもいいのよ?
文と神奈子の鉄壁の防御を超えるほどの愛が必要です
我は信じている。必ず椛とちゅっちゅできると! 応援してますね
>ケロちゃん帽子こえー
み て い た
>神奈子様……胡坐、かいてもいいのよ?
その日、文々。新聞購読者に衝撃が走った。
まさかの赤ふんどs(ry
>文々。新聞購入したい!!今すぐに!!
文「まいどー、一部1580円(コミケ価格)となっておりまぁす♪」
>椛かわゆす
椛もふもふし隊メンバーは常時募集しているんやな
もちろん我は会員No.00001番だぜ
>何か洩矢様が気になるなあ
冬眠していても家族を見守る家族愛ですね
ただ視線の存在感が圧倒的すぎる