「なによ、その青い薔薇話って?」
「なんだ、博識で名高い七曜の魔女様にも分からないものがあるのか? って、おいおい、そんなしかめっ面をしちゃ、可愛い顔が台無しだぜ」
「最近、調べようにも本を持って行く鼠がいてね。思い通りに調べ物が出来ないのよ」
「それは大変だな。お急ぎとあらば、家にある本を提供するし、そうだな、サーヴィスとして、今度星のヤツに鼠の手綱位捌けっていっておいてやるよ」
「あら、霊夢と二人掛かりで未だに会えず終いっていう話じゃなかったかしら?」
「ふふん。アリスは分かってないなぁ。そのために手伝ってもらうんじゃないか」
「いくら咲夜が悪魔の犬でも鼻に期待するのは酷だと思うけど。ま、この白黒はほっとくとして、一体なんなのよ早苗」
そこでようやく霊夢と一緒になって蜜柑の皮剥きに勤しんでいた早苗が口を開く。
「青い薔薇の花言葉はご存じですか?」
「不可能、あり得ない、だったかしら? その割には最近庭によく咲くようになっていますけど」
「さすが洋館住まいのメイドは違うな」
「青い薔薇話とは、そんなあり得ないことをたわいもなく話す時間潰しというか」
「小咄みたいね。それだと」
「ええ、そんな感じですよ。パチュリーさん。例えば、文々。新聞の第二版を刷る文さんとか、割烹着姿の諏訪子様とか、人を驚かせる小傘さんとか」
「顔を近づけても赤面しないにとりとか、顔を近づけても目をつぶらないフランとか、な」
事前に打ち合わせでもしていたかのような、早苗と魔理沙。なんとなく、魔理沙が言っている内容に関しては釘を刺しておいたほうがいいかしら、まぁ、物理的に針を刺した方がいいか、などと物騒なことを霊夢が考えていると
「ふうん。あり得ない、不可能な話、ね。例えば、魔理沙が可愛らしく笑う、とか?」
「んー、魔理沙なら昔はよく、うふ」
パチュリーの言葉に対して、無意識に否定の言を述べようとした霊夢の後頭部に、ゴリッとしたものが押しつけられる。
「いやね、魔理沙。当たってるわよ? 胸のように硬いものが」
「あぁ、当ててるからな」
「もう少し育ってからの方が好みなんだけど?」
「挟むにはちと頭の中身が詰まり過ぎてるからな。ちょいとばっかし減らしたいんだが?」
「そう、どうせなら吸い出してくれないかしら?」
「吸うよりは出す方が好みなんだ、これで勘弁してくれ」
「で、早苗。要はパチュリーみたいなことを言えば良い、ってことで良いのかしら? 乳繰り合っている好色二人は放っておくとして」
「ええ。そうですアリスさん。どうせ待つだけなんですし、気ままに待ちませんか?」
「まぁ、私はそれでも構わないけど。世話する身としては、落ち着かないんじゃないの?」
「待つのは慣れてますわ。ということで、朝早起きをするレミリアお嬢様、というのはどうかしら?」
「んー、ちょっと弱いんじゃないかしら。レミィったら霊夢のところに行く日は決まって早起きじゃない」
「そうなの? だったら今度からは、もうちょっと遅くに来なさいよ。朝昼晩と三食要求される身にもなりなさいよ」
「それは心外ですわ。三食分以上の食材を運んできてるのは誰かしら?」
「えー、えー、えー。紅魔館一優秀なメイド様ですよー、だ」
「何もそこまで拗ねなくってもいいと思うんだけど」
「分かってないなぁ、アリスは」
「そうね、これだから未熟者は困るわ。これは言わば言葉の暴力。気を抜いていると手酷い目にあう、ということを理解できていないなんてね」
「へぇ。なら、熟しすぎた魔女様のお話とやらを聞かせて貰いましょうか」
「博麗神社にある箱が何のためにあるのか知っている人間」
パチュリーの言葉に一座何とも言いようのない表情で顔を見合わせる。
「あのね、パチュリー。ウチの神社がいくら寂しくても、それは無いわ。というか、知らない人はいないわ。ねえ、魔理沙。って、どうして顔をそらすのよ!」
「なぁ、アリス。これが大人になるってことなのか。霊夢はこんなところで、霊夢のために守ってきたものはこんなところでっ」
「大人になるのはある日突然だし痛みが伴うものなのよ。霊夢これからだと間に合わないから、明日はお赤飯ね」
「アリスさんが微笑みながら言うと冗談に聞こえませんね」
「いやね、早苗。私は何時でも本気よ。そう、私ははっきりとモノが言える都会派。どこぞのあっちに粉をかけ、こっちで粉をかける割には、白黒はっきりしない野良とは違うのよ」
「アリスさんの対応にしても、十分七色というか玉虫色だと思っていましたが、本当にそうなんですかね? じゃぁ、魔理沙さんが近づいたときにどもらないアリスさん、っていうのはボツでしょうか?」
「は? 何よそれは。もう一度だけ言っておくけど私ははっき」
「んー?」
「ちょ、ちょ、ちょっと魔理沙。ち、近い、近いってば」
「やっぱり」
「べ、別にま、魔理沙が近づいたからってどもった訳じゃないんだから」
「はいはいはいはい。じゃぁ、今度は私かしら?」
「霊夢さんはどういった路線で攻められますか?」
「何よ、その攻めるって」
「じゃぁ、言い方を変えると、誰を傷物にするか、なんてどうかしら?」
「あんたの身に纏うものは大概良く切れるわね。従順と言ってる割に、レミリアには手綱が握れてるとは思えないのよね」
「たまに自分の膀胱の手綱も握れないようなお子様だもの、レミィは」
「で、霊夢は?」
「紫の白無垢」
――紫、慟哭中――
みんなで会話してるのを読んでると自然とほこほこできた。
素晴らしい!