Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

和と洋の違い

2009/11/10 01:57:57
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しゃかしゃかしゃかしゃか


狂いなく規則正しい音が部屋に響く。


しゃかしゃかしゃかしゃか


茶筅(ちゃせん)と茶碗という楽器で博麗霊夢は旋律を奏でる。
凛とした。まさかこの表現を彼女の為に使う日がこようとは思っていなかったが、今の霊夢の横顔を見たらその言葉に違わないことくらいは誰もが納得してくれるだろう。

「本来ならいろいろ作法とかもあるけどね。ま、雰囲気味わうだけだし楽にしてていいわよ」

茶道における作法を逐一こなしていったら気の短いレミリアは気がふれること間違いなし。レミリアとしてはおいしいお菓子が食べられればそれでよいし、場所を提供した永遠亭の面々としても空気を味わってもらえるだけでうれしいので気にしないのであった。
言いながらも霊夢は目線をはずすこともなければ手も一切休めない。彼女は楽にしていいよと言うが、一心に茶を練る霊夢の姿を見てはそんな気など起こらず自然とこちらの背筋も伸びると言うもの。
無論私ことパチュリー・ノーレッジも例に漏れないが、普段霊夢が放つ空気とのギャップに驚きつつもこの彼女の凛々しさはやばい・・・・・・惚れそう。
そんな私の横にはその横顔を目を細めて見つめる魔理沙、瞳を閉じて音を楽しむ輝夜、菓子の入った盆と霊夢の顔を交互に見やるレミィ。



私たちは永遠亭に来ていた。といっても今入っているこの部屋は通常彼女たちが使う邸宅のほうではなく、やや離れに建てられている畳張りの茶室。
どうしてこんなことになったのかと言うとレミィがどこからか抹茶の話を仕入れてきたことに始まる。どこからかというか霊夢の神社だけど、そこで霊夢の出した茶団子が発端。
この緑色、よもぎ?いいえ抹茶を使ってるのよ。茶と言うくらいなら当然飲めるものよね?まぁ飲むものもあるけどね。そっちも気になるわね、飲んでみたいわ。咲夜から聞いた分の話だがそんな感じだったらしい。
で、いつも通りの我侭を振るって今すぐ飲みたいと言い出すレミィ。蔵から物品出さないと無理というかぶっちゃけどこにしまってるかわからないと返す霊夢に、

「そんなものどっかから借りてくればいいじゃない」
「人里に茶道教室とかあったかなぁ?ん~、まぁ永遠亭とかならあるかも知れないけどね。道具」
「咲夜。永遠亭まで行って道具を借りてきなさい」

そうして従者として付いてきたのに使いに走らされたメイドは永琳らに事情を説明。するとあっさり承諾してくれた上に別に構わないしそれならばいっそのこと場所も提供するわよということで永遠亭にて開催する運びとなり、加えてパチェも呼んできなさいと無理やり引っ張り出された私と話を聞きつけた魔理沙が乱入。今に至るというわけ。



「ん?あぁ、食べてていいわよそれ」

レミリアのそわそわした動きに霊夢が気づいたらしい。

「遠慮なくいただくぜ」

言うが早いか魔理沙は盆に手を伸ばして取り上げると、席を立って中の主菓子と干菓子を順繰りに配っていく。もちろん今回は普段の席で出されるよりも菓子の量は多目で用意してある。それにしてもレミィの視線には気づいて私のそれには無反応とは。気づかれたら気づかれたで対応に困るからいいけどね、見惚れていたなんて言えないし。

「しかしこの部屋の戸はむやみに小さいな。小人専用じゃあるまいし」

「あれは『にじり口』と言って、こういうときに使う特別な出入り口よ」

自分たちの入ってきた戸口、と呼ぶにはあまりに小さい空間を睨むレミィにこの茶会を最終的に許可・参加した輝夜が説明している。永琳、優曇華院らは私たちをここに案内した後すぐに部屋の奥に引っ込んでしまい、いまだ帰ってきていない。

「身分の上下を無くす、帯刀した状態で入室できないようにする、茶室を広く見せ別空間に仕立てるため。いろいろと理由はついているけどただ一つ、茶を飲む空間を作るためと言う目的に変わりはないわ。ティータイムを楽しむための演出なのよ」

「なるほど」

大仰に頷いてみせるレミリア。その次には館の扉を全部にじり口にしてしまおうと咲夜に向かって言い出すものだから、横で輝夜がくすくすと笑いだしてしまった。
ようやく淹れ終わったのか、霊夢が茶筅を置いた。日本のお茶は1杯用意するだけでこんなにも時間がかかるものなのか。
茶碗を一番端の魔理沙に。魔理沙も多少の知識はあるのか正面に置かれた茶碗を前に一礼してから手に取り、茶碗を時計回りに二度回してから碗を傾けた。

「飲むの久しぶりだな。うまいぜ」

ニカリと笑顔を霊夢に向ける魔理沙。やはり経験があるらしい、多少なりにも作法を覚えているわけだ。
次の輝夜へ。こちらは碗を回すことなく茶をいただいていた。
そして碗から唇を離した輝夜が「やるじゃない」と感嘆の声を上げる。濃茶は練り(混ぜ方)が足りなければダマができてしまうし、やりすぎれば風味が無くなる。加減が難しいそうだが霊夢のそれは輝夜の舌を満足させる出来だったらしい。
おかしいわ、輝夜の動作は本で読んだのと違う。

「飲む前に碗を回すのではなかったの?」

「茶道には流派があってね、回さない流派もあるのよ」

でもまぁお茶会ごっこだしと輝夜は付け加える。つまりはそういうことらしい。
しかしもう一つの疑問。本では一人ずつ別の茶碗で出たとあったが、それも輝夜に聞いて見る。

「霊夢が作ったのは濃茶、あなたが言うのは薄茶(うすちゃ)のことね。どちらも正しいけど濃茶のほうが良質の物を使うし、より上級のもてなしとしているわ」

もっとも、霊夢に人数分の薄茶を作らせようものならそれだけで日が暮れるので濃茶にしたという理由もあるのだが。
その間にも碗は咲夜を回ってレミリアへ。それにしても魔道師装束、着物(?)、メイド、洋服と統一性のない客たちだ。しかも亭主役は巫女服だし。
さすがに自分流で飲むのははばかったのか、見よう見真似のぎこちない動きながらも碗を取りゆっくりと煽る。そして、

「苦い」

ただ一言わかりやすい反応を返したレミリアはすぐに菓子を口に含んでお口直し。最後に回ってきた私も一口いただいたが、確かに苦めかもしれない。

「さすがに濃茶はお口に合わなかったようね。でもそのための甘いお菓子よ」

渋い顔を見られたのだろうか、くすくすと笑いながら部屋の奥から永琳が盆を手に姿を現した。その後に続いて優曇華院も入室してきたがどうやら薄茶のほうを点出し(淹れ)てきたらしい。

「こちらなら飲めるんじゃないかしら?はいどうぞ」

「えぇありがとう」

差し出された茶碗を受け取るため座布団に下ろしていた腰を上げようとして、
はたと気づく。
ダメだ、今動くことは敗北を意味する。
横目にレミィを見やると彼女も私の視線に気づいたのか目が合った。
レミィが小さく頷いた。どうやら彼女も今自身が置かれている状況を理解しているようで彼女はその場から動かずじっと茶碗が届くのを待つ。しかし所詮は微々たる抵抗、いずれ破綻することは明白で時が経つに合わせて状況が悪化していくのだがしかし、動いてはダメなのだ。
現状の把握。この面子なら黒白の出方次第で私たちの運命は決まると考えて間違いないだろうが、ここでデコイ役を黒白に向けて射出すればデコイ役がやられているその時間を利用して・・・・・・
そんな私の胸中は誰も知りえない。
優曇華院が濃茶の入れられた碗を下げて薄茶を私の前に出した。名前に違わず薄味に仕上がっているようで、見た限りでも濃茶より水気が多い。
私はその碗を手に取りゆっくりと口に。口に広がる抹茶の味。
確かにこれならば飲める。しかしこれを一気に飲み干さずゆっくりと飲まなければいけない、なぜなら時間稼ぎになるからだ。一方レミィはと言えば気を紛らわすために一息に飲み干してしまっていた。これで私よりも先にレミィが動かなければならない状況になった、つまりレミィが盾になってくれる。ならばその間に私は体勢を立て直させてもらおう。

「薄茶の味はいかがでしたでしょうか、お嬢様?」

永琳の問いにレミィはことのほか上機嫌に、

「うん悪くない。お礼に今度はこちら流のもてなしをさせてもらうわ。美鈴には伝えておくから、暇があったらいつでもうちを訪ねに来てもらって結構よ」

「吉日を選んでお邪魔させてもらおうかしら?どう、永琳?」

「いいと思いますよ」

中々に色よい反応。交流と言う点から見ても今回の茶会は成功だったようだ。しかしレミィとしては心中はそれどころじゃないだろうに、こういうときに見栄を張ろうとするのは彼女の悪いところ。
今回美鈴は館にてお留守番だった。どうして供についてきたのが美鈴ではなく咲夜なのだろうか、あぁ口惜しい。これが美鈴であるならば私たちの置かれた苦境をともに分かち合ってくれただろうに。もとい、囮役として立派に職務を全うしてくれただろうに。

「さて、そろそろ帰りましょうか」

もはや逃れられまいと心を決めたのかレミィが幕を下ろした。
霊夢が、魔理沙が、輝夜が席を立つ。
条件は対等。彼女たちと私とではまったくの同じであるはずなのにこの状況で動くとは恐ろしい人間たちだ。これが人の底力だとでも言うのか。
動かなければならない。碗の薄茶はまだ残っているが、これ以上留まっていては不審に思われてしまう。
咲夜に目線を向けた。あの瀟洒、やはり時間を止めて状況を整理したようだ。余裕の表情で動く彼女を忌々しげに睨むがそれで何か好転するわけでもない。残るは私とレミィのみ。
認めよう、私たちは敗北したのだ。
またレミィと目が合う。
レミィ、私たちは友達よね?決して私を蹴落とし笑いものにしている間に自分だけ空飛んで助かろうだなんて考えていないわよね?そんなことしたら後で覚えてなさい、アグニシャインで燃やすわよ。
ムラムラとそんなことを考えていると、そのレミィが右手を差し出してきた。
それに私は恥じる。ごめんなさいレミィ、やましいことを考えてしまった私を許してくれる?
二人で手を繋ぐ。私たち二人の場にそぐわない行動に周りの者たちが怪訝な顔を向けてくるがもはや気にしない。私たちは負けたかもしれないが互いの友情を深めることができたのだ、これは立派に勝利と言えよう。所詮1時の恥、甘んじで受けようではないか。



私たちは手を繋いだまま、動いた。



具体的には腰を上げた。



もっと言うと立った。



正座の状態から。



同時に足の違和感が増幅し、立っていられず床に崩れ落ちる。



座り込んで悶絶するそんな私たちに、霊夢は一言。



「えっと、足痺れた?」

『うん・・・・』

 
 
「なるほど、では早速」

「そこの黒いの。今私の足に触ったら消し飛ばすぞ、ってちょっとふにゃああああああああ!?」

「おいたわしやお嬢様。よよよ」

「時止めて痺れを治してたのはどこのメイドかしらね」

「おっと自分だけ助かるとは思ってないよな、パチュリー?」

「へ?魔理沙待って、ストップ、ウェイト!そ、それだけはにゃああああああああ!?」





~~~

お久しぶりです。水崎です。
作法も難しいけど、一番の敵は正座による足へのダメージ。でもあの空気は中々新鮮なので機会あるなら体験して見るのもいいかも。SS中は流派とか無視してますが既に数年前の記憶、文章中の説明とかはサイトめぐって調べただけなので間違いあるかも。知りたくなったら本場の人に聞いてね。

単に正座が苦手なだけ。それは言わないお約束。




誤字修正しました。ありがとうございます!
水崎
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
そういえば魔理沙はお嬢様だったな…
パッチェさんとレミィの悲鳴がかわいらしい
2.名前が無い程度の能力削除
日本人でもやりなれてないと足がしびれますしね、おぜうさまとぱっちぇさん乙
しかし霊夢が茶道に精通しているとは……
霊夢ちゅっちゅっ
3.喉飴削除
これは珍しいタイプの霊夢ですね。だけど、茶道をしている霊夢を想像したら、とても似合いました。
うん、良い雰囲気漂うお話でした。

>>彼女にの為に
彼女の為に、の誤字ですかね。一応報告です。
4.名前が無い程度の能力削除
途中でオチは読めたw
いやーあの痺れはきついきつい……
5.奇声を発する程度の能力削除
あれは痺れすぎて足が動かなくなったりするから大変です。
痺れない方法ってあるんですかね?