Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

小さなパーティー

2009/10/30 23:48:35
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 注意!
 このSSは作品集50の『現人神の居る道具屋 五日目』の1日前にあたるお話という設定です。
 よければそちらを読んでおくことを強くお勧めします。









 ◇











 12月。幻想郷の景色の殆どが雪に覆われ、厳しい寒さを感じる季節である。
 しかしそんな中でも、ここ香霖堂の中は違っていた。
 【ストーブ】という外の世界の道具のおかげで、冬でも店の中は暖かかった。
 その中で、店主である森近霖之助は優雅に読書タイムに勤しんでいる。
 まるでこんな寒い日には客など来ない、と決め付けているからこその行動にも見える。
 まあ、実際のところ来ないのだが・・・
 しかし、この日に限って、霖之助の予想は外れる事になる。

 カランカラン。

 香霖堂のドアが開けられる。来た者はお客・・・であってほしい、と霖之助はふと思った。
 たまに霊夢や魔理沙が、ストーブの温もりを求めて来ることがあるからだ。
 霖之助はお決まりの商売文句を言いながら、お客を横目でチラリと見る。

「いらっしゃ・・・・・・おや、君か。」
「こんにちは、霖之助さん。ここはいつも暖かそうで羨ましいですわ。」

 そう言いながら入ってきたのは、紅魔館のメイドこと十六夜咲夜だ。
 彼女の後ろにレミリアの姿は見られない。咲夜だけで香霖堂にきたらしい。

「そう思うのなら、君もストーブを購入してみたらどうだい?
 ただし、非売品だがね。」
「お断りしておきますわ。たとえ購入できたとしても、
 そんな大きい物を持って飛ぶのは難しいですから。」
「だろうね・・・それで、今日は何をお求めで?」

 霖之助のその質問に、咲夜は「うーん」とつぶやいてから答える。

「そうですね・・・お料理の本、とかってありません?
 ケーキとかクッキーとか、そういう洋菓子系な物について書かれた・・・」
「洋菓子?君ならそんなものは必要ないと思うが・・・
 どれどれ、まだ残っていたかな・・・」

 そう答えると霖之助は、近くの本棚をゴソゴソと探し始めた。
 咲夜はそんな彼をジッと見ている。

「・・・これは外の世界の生物についての図鑑、これは娯楽雑誌・・・
 これは・・・岩男、という娯楽遊具についての攻略辞典・・・」
「・・・どうやらなさそうですわね。」
「残念ながらそのようだね・・・
 先日売れてしまったもので最後だったようだ。」
「先日?」
「ああ、君は会ったことはないだろうが・・・
 少し前から、ここに来る常連客が増えてね。
 早苗というのだが、その子がつい先日に買っていったよ。」
「早苗・・・?」
 
 咲夜はその名前に聞き覚えがあるようで、口元に手をあてて思い出そうとしてた。
 確か、人里でそんな名の人間が宗教活動をしていたような・・・?
 最近はその姿をみなくなったが・・・
 
「うむ、山の上にある神社に住んでいるらしいのだが・・・
 少し前に知り合いになってね、今ではすっかりこの店の良い常連客さ。」
「山の上の神社?それはずいぶん遠い・・・
 まだ紅魔館のほうが距離的には近いですわ。」
「君も早苗も、飛んでくるのだからあまり変わらないのでは?」
「あら、飛ぶのは私達にとって普通の移動手段ですよ?霖之助さん。」
「おっと、それはそうだったね。失敬した。」
 
 そう霖之助が言うと、お互いにクスクスと小さく笑う。
 笑っている最中、咲夜は唐突に「あ、そういえば・・・」と呟いた。

「明日の夜に、紅魔館でパーティーを開く予定なのですが・・・
 霖之助さんは・・・参加なされますか?」
「ふむ、参加したいのはやまやまなのだが・・・
 生憎明日は予定が入っていてね、残念ながら行けそうに無いな。」
 
 その返答に咲夜は一瞬、残念そうな表情を浮かべる。
 だがすぐにいつもの表情に戻った。

「そうですか・・・では私はこれにて失礼しますわ。」
「ああ、気をつけて。」

 別れの挨拶を交わすと、咲夜は香霖堂をあとにした。
 




 ~~~~~~~~~~~~~~~





 紅魔館。霧の湖の畔にある紅い屋敷である。
 その地下に存在する大図書館の中で、咲夜は探し物をしていた。

「・・・ここにならあると思ったのだけど・・・
 いかんせん、本が多すぎてどれがどれなのかわかりませんわ。」

 その事実を今更ながらに思い出し、頭を悩ませていた。
 この図書館の主であるパチュリーに聞けば一番早いのだが、彼女はさっき机で魔道書を書いていたので
邪魔をするわけにもいかない。
 小悪魔は・・・さっきからずっと溜まっている本の整理をしているようで、それどころでは無さそうだ。

「これは時間を止めて一つ一つ探すしかないのかしら。」
「・・・さっきから独り言が多いようだけど、どうかしたの?咲夜?」
「おや、パチュリー様。作業の方は終わったのですか?」

 背後から声がしたので振り向くと、さっきまで魔道書を書いていたはずのパチュリーがいた。
 目元には少しクマができている。

「まあ、一応ね。といっても2日はかかっちゃったけど・・・
 それよりも、咲夜がここで本を探すなんて珍しいわね。
 何を探しているのかしら?」
「ええ、ちょっとお菓子に関する本を探しているのですが・・・
 ケーキとかそういう洋菓子系の物を。」
「ケーキ?それなら一番奥の本棚から三つ手前の棚の一番上の段にあるけど・・・
 またレミィから何か言われたの?明日のパーティーについて。」
「いえ、そうではなく私の私用ですけど・・・
 まあ、パーティーに無関係かと聞かれれば関係なくはありません。」
「ふぅん、ずいぶんと力が入ってるのね、今回は。」
「日が日ですから。」
 
 日が日、という言葉にパチュリーは少しだけ考え込むような表情をする。
 だがすぐにその答えが出たのか、フッと苦笑した。

「好きねぇ、咲夜も。
 でもレミィにはあんまり言わない方がいいかもね。」
「そうですね、お嬢様にとってはあまりよくない日みたいですし。
 妹様は妹様で楽しんでいるみたいですが。」
「妹様はそういうのを基本気にしないからね・・・
 それより、一つ聞きたいことがあるのだけどいいかしら。」
「はい?」

 聞きたいこと?と咲夜が思っていると、パチュリーは予想外の質問を口にする。

「今回のパーティー、あの道具屋の主人は来るのかしら?
 そろそろ貸した本を返してもらいたいのよね。」
「へっ?はあ、霖之助さんでしたら先程誘ってはみたんですが・・・
 予定があって来れないと言ってましたね。」
「ふーん・・・なら仕方ないけど、貸した10冊?20冊?だかの本の中に
 まだ読み終わってない本があったのを思い出したから。
 今度行った時にまとめて返してもらえるよう言っておいて頂戴。」
「わかりました。」

 そう答えると、咲夜は先程パチュリーが教えてくれた本棚の方へと向かった。
 
 



 ~~~~~~~~~~~~~~~





 翌日。月日でいえば12月24日にあたる今日。
 予定通り、夜の紅魔館ではレミリア主催による【苦痢棲魔棲】パーティーが行われていた。
 ちなみに一日ずれてるとか思ってはいけない、ここは幻想郷である。
 それはさておき、いまやパーティー会場となった紅魔館の中庭では、白黒の魔法使いや氷の妖精、
他にもパーティーの噂を聞きつけた人妖が皆思い思いに騒いでいた。
 無論、そこに勤めるメイド達は大忙しだ。小悪魔まで借り出されている。
 メイド長である咲夜にいたっては言うまでもない。
 予想はしていたものの、咲夜は内心焦っていた。

(マズイわね・・・パーティーが終わるのは0時過ぎだし、
 できれば今日中に渡さないといけないのだけど・・・)

 そんなことを考えながらふと門の方を見ると、美鈴が門に隠れながらこちらに向かって手招きをしていた。
 何だろうと思って美鈴のところへ行ってみると、そこにはいつものチャイナ服ではなく、何故か
メイド服に着替えている彼女の姿があった。
 その姿に、咲夜は思わず呆れかえる。

「・・・何をしているのかしら?美鈴?」
「え?いやー、いかにも咲夜さんが急がしそうで誰か代わってくれないかなーって
 気を醸し出してたんで、代わってあげようかなと・・・」
「・・・気持ちは嬉しいけどね、私がいなくなったら
 妖精メイド達の負担がさらに増えちゃうでしょう?だから別に・・・」
「日が変わる前に届けたいんでしょ?このケーキ。」

 そう言って笑いながら美鈴が差し出してきたのは、よくケーキを入れるのに使っている入れ物だった。
 咲夜はそれを受け取ると、中身が入っているのか重みがある。
 まさか、これは・・・

「・・・美鈴?なんで貴女がこれの存在を知っているのかしら?
 まさか食べたりなんてしてないわよね?」
「ちょ、そんなわけないじゃないですか!
 確かに美味しそうでしたけど、咲夜さんならパーティーだともっと大きいケーキを
 出すはずですし、何より・・・」
「?何より?」
「・・・わざわざ本を見ながら作っていたんでしょう?それ。
 そんな大事そうなケーキ、食べるわけないじゃないですか。」
「う・・・まあ、そうだけれど・・・」

 言われてから咲夜は思い出す。そういえば・・・図書館から借りた本をそのまま厨房に
置いてきてしまったような気がする。
 できれば秘密にしておきたかったようだが・・・

「誰に届けるのかはわかりませんけど、折角作ったんですから、
 早く届けないとケーキもその人もかわいそうですよ?
 それに咲夜さんが来る前は私がメイド長やってたぐらいですし、
 妖精メイド達の心配ならいりませんって。」
「・・・・・・そうね、なら貴女に頼むとしましょうか。
 留守の間お願いするわ、美鈴。」
「はい!咲夜さん!」

 美鈴の威勢のよい返事を聞くと、咲夜はすぐに消えてしまった。
 彼女がいたその場所には・・・トランプのカードが一枚だけ残されていた。






 ~~~~~~~~~~~~~~~






 香霖堂。既に真っ暗闇と化した魔法の森の中で唯一、光を醸し出している場所である。
 この道具屋の店主である森近霖之助は、机の上にある本に向かって何かを書いていた。
 店内には他に誰もいない。彼がペンを走らせる音とストーブの温風を吐き出す音だけが響いている。
 霖之助はただ黙々と、本に何かを書き続けているだけだった。


 ガチャ・・・


 背後でドアの開く音がした。だが霖之助は特に気にした様子も無く作業を続ける。
 ドアをちゃんと閉め忘れた程度にしか思っていないだろう。
 多少寒いが。
 そんなことを考えながら執筆を続けていると、ふと横からコトン、という何かを置くような音が聞こえた。
 見ると、そこには紅茶の入ったカップがおかれている。恐らく勝手に店内の物を使ったのだろうか。
 霖之助のする限り、こんな事をするのは・・・

「・・・やあ、咲夜。こんな夜分遅くにどうしたんだい?
 パーティーの方は?」
「パーティーならすでに終わらせてきましたわ。
 お嬢様が眠くなったとかで、早々にお開きになりました。」
「ふむ・・・そうか。」

 それが嘘だということに霖之助は気付いていた。
 レミリアは吸血鬼であり、基本的に夜行性である。
 そんな彼女が、わざわざ始まったパーティーを早々にお開きにするはずがないのだ。
 だが、その事について霖之助はあえてスルーすることにした。

「それで・・・何故わざわざこんなところまで?」
「ええ、パーティーが終わったのはいいんですが・・・
 ケーキが余ってしまいまして、不運にも来ることができなかった
 霖之助さんに届けにきたというわけです。」
「ほう?」

 咲夜はそう言って霖之助にケーキの入った箱を手渡す。
 霖之助がその箱を開けると、中には美味しそうな丸いケーキが入っていた。

「・・・ふむ、これは確か・・・チーズケーキ、というものだったかな?
 前に本で読んだ事がある。一度食してみたいと思っていたんだ。」
「そうなのですか?それはよかったですわ。
 是非食べてみてください。」
「では、いただいてみるとしよう。」

 霖之助は八つに切り分けられたケーキの一片をフォークで突き刺して持ち上げると、その一片を
一口で平らげた。
 しばらく味わうように噛み締めた後、ゴクリと飲み込んで言葉を発する。

「・・・なかなか美味だね。これほどの品は人里にもそうそうあるまい・・・
 これは君が作ったのかい?」
「はい、でも初めて作ったものなので自信はありませんが・・・
 少しだけ焦がしてしまいましたし。」
「いやいや、そんなことはない。十分美味しいと断言できるよ。
 やはり君はなかなか料理が上手なようだね。」
「あ・・・ありがとうございます、霖之助さん。」

 褒められた咲夜は嬉しそうにニッコリと笑う。
 微かに頬が紅いような気がするのは気のせいだろうか?
 ・・・と、霖之助が咲夜の手元を見ると、さっきまで机の上にあったはずの本が彼女の手の中に
知らぬ間に移動していた。

「・・・そういえば、この必死に書かれている本はなんですか?
 日記・・・のようにも見えますが。」
「ああ、それは日記だよ。
 うっかり1週間ほど前から書き忘れてしまってね、必死に思い出して
 その日の出来事を書いているのさ。」
「それって、既に日記とは言わないような気がしますけど・・・」
「それが僕流だよ。」

 霖之助がそう答えると、咲夜はプッと小さく笑う。
 そしてその日記帳を霖之助に返した。
 
「確かに、霖之助さんらしい日記の書き方ですわ。
 ・・・それで、あと1時間ほどで日付が変わってしまいますけど大丈夫ですか?」
「むむ、それは大変だ。
 まだついさっき作業に取り掛かったばかりだというのに・・・」
「頑張ってくださいませ、私はここで見ていますので。」
「ああ、好きにしてくれ。」

 そう言うと、霖之助はケーキをつまみながら再び日記を書く作業へと戻った。









 そんな彼の姿を、咲夜は微笑ましく見守っていた。
霖「そういえば、君は最近一人でよく来るが・・・何か理由でも?」
咲「気に入りましたから。このお店も、店主さんも。
  初めてお嬢様と訪れたときから。」
霖「・・・そうか、それはよかった。」




紫「なん・・・ですって・・・」


お久しぶりです。何やら前回のコメントで咲霖のリクエストがあったようですし、
私自身ちょっと書いてみたいと思ったので投降です。
咲夜さんって・・・こんな感じでしたっけ・・・!?
展開が急すぎてやっつけ感みたいなものがありますが・・・そこはどうか、
脳内補正でカバーしていただけると幸いです^^;

最後までお読み頂き有難うございました!
Crown
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
救世主(メシア)の降誕日を祝う吸血鬼(サタン)ッ!そこに痺れる憧れるゥ!!
瑣事だけど「ストーブ買うかい?非売品だけど」ってどういう事なの……
2.名前が無い程度の能力削除
次はパチュリーだな
紅魔館攻略だ
フランもよろしく
3.名前が無い程度の能力削除
ゆかりんの敵は多い
4.七人目の名無し削除
まさかの咲霖に感激な私。
それにしても、早苗ルートと咲夜ルートの分岐点はどこなんでしょう?
選択肢の前でSAVEしとかないと!!

……なにげにパチュリーフラグなんかも立ってるような気がしたのですが私の気のせいでしょうか?
5.読む程度削除
ふふふふふふふふふふふふふふふ、G・J!!!!