気持ちの良い日だった。
村紗は大きく伸びをして起き上った。薄い寝巻きが肌蹴て胸をがばっと露出させている。くしゃくしゃの髪を手の平で撫でつける様に掻きながら、布団から這い出す。
いつも通りぬえが布団の中に潜り込んでいるが、もうそれほど違和感は感じない。
村紗は丸まって寝息を立てているぬえに布団を被せて、洗面所に行く。桶の水が切れているのを見て「面倒だな」と呟きながらも全員が顔を洗って髪を整えることができるくらいの水量を、大きな水がめに汲みに出る。外は寒い。もうすっかり冬だ。村紗は井戸の底を見ないように細心の注意を払い、桶を落としては引き上げるのを繰り返す。十回行ったところでやっと水がめの八分目。人間ならまず持ち上げることのできない重さだが、村紗はそれをひょいと担いで洗面所に戻る。触ると指先が痺れるような水温の水を、村紗は景気づけに桶一杯を頭っから被って身震いする。温度は感じる。しかし冷たいのが嫌なのではなく、大昔のトラウマが鎌首をもたげるのに身震いするのだ。
村紗は「今日も絶好調」と頬っぺたを叩いて気合いを入れた。タオルで体を拭き、髪を適当に整え、さぁセーラー服に身を通そうと洗面所の向かいの部屋に入った。
壁にかかっているのは村紗のセーラー服。素肌に心地よいとは言えないが、意外と希少な逸品である。濡れた寝巻きを脱ぎ、下着を取り換え、セーラー服を着ようとして――村紗は違和感を覚えた。
首を傾げてセーラー服を広げて見る。すると、袖と首が出るところが綺麗に縫い込まれている。しかも念入りに。
村紗は溜息をついて、これをどうしようかと日に掲げて見た。
「朝から何してるの?」
声に振りかえると、眠たそうな顔をした一輪が戸に捕まって、ぼうっと突っ立っていた。地平線からやっと日が見える様な時間だ。早朝も早朝である。
「裸が趣味だっけ? ふあぁ」
「そうじゃないけど。これを見てよ」
村紗が丁寧に縫い込まれたセーラー服を見せると一輪は「またぬえね」と面倒そうに呟いた。
「あんまりしつこいようだったらあなたの方から注意しなきゃだめよ? 変に増長されても困るし」
「それが私にしか悪戯しないからさ、増長も何もないのよね。こういうの嫌いじゃないし」
「村紗は虐められたがりだったもんね。私は二度寝するわ」
一輪はふらっとそこからいなくなった。
村紗はまた一人に戻り、「どうするもこうするもないな」と呟いて自室に鋏を取りに戻った。下着だけを装着した半裸のまま、手には歪なセーラー服。奇妙な光景だった。
自室についた村紗はまだ寝息を立てているぬえの頭を撫でてから、鋏で慎重に糸を切って行った。幸いセーラー服には、縫い方が綺麗だったおかげで何の後遺症も残らなかった。
「村紗」
丁度袖と襟が機能を取り戻したころ、村紗はぬえが布団から恐る恐る自分を見つめていることに気がついた。
「おはようぬえ。寒いわね」
「何してるの?」
「あなたが縫い合わせたセーラー服を修繕しているの」
「昨日やっておいた」
「そっか。出来ればもう止めて欲しいわ」
村紗は苦笑いしながらセーラー服を掲げた。
「それで、何でさらしにパンツ一丁なの?」
ぬえはじぃっと村紗を見つめながら言った。熱っぽい視線だった。何かを期待するような、甘えるような。か弱い小動物そのものだ。
「後先考えずに水を被っちゃってね。いやぁさっぱりしたわ」
「阿呆」
ぬえはごそごそと布団の中で動き始めた。
村紗はスカートを取ってこようとセーラー服を置いて立ち上がった時だった。
ぬえが出し抜けに「寒い」と呟いた。
「え?」
村紗が聞き返すとぬえはもう一度「寒い」と呟いた。
「何かかけるもの、持ってこようか?」
毛布を重ねれば寒いということもあるまい。
しかしぬえは首を横に振った。
「村紗が一緒に入ってくれればいいよ」
「えぇ? 悪戯しちゃうかもよ?」
村紗が手を巧みに動かして「ふふふ」と笑う。ぬえが布団に口を押し付けて言った「悪戯してよ」という呟きは村紗には聞こえなかった。
「村紗は、これから何かあるの?」
「特に。朝食前に散歩に行こうかなって思ってたけど」
ぬえは「じゃあ」と呟いて布団を捲りあげた。村紗は素っ頓狂な声を上げた。
「あなた裸だったの? そりゃあ寒いはずだわ。服は?」
ぬえは今しがたこっそりと脱いだパジャマ代わりの村紗のシャツを丸めて足元に押しやった。
「ないよ」
「だから何で?」
「何でも」
それを聞いて村紗は「う~ん」と唸った。
「……ぬえが風邪引いても困るしなぁ。しょうがないか」
村紗は布団の中に潜り込むとぬえを抱き寄せた。
「ふあー素肌と素肌の感触が気持ちいいわー。二度寝しようかなぁ」
すりすりとぬえの頬を頬ずりして「すべすべでいい感じ」と幸せそうな顔をした。
「何で今日に限って裸で潜り込んでるのよ。いつもは私のシャツなり何なり着てるじゃない」
「今日は特別な日だから」
「そうなんだ。それで、何が特別なの?」
村紗が聞くと、ぬえは頬をふくらました。
「覚えてないわけ?」
「残念ながら」
それを聞いて、ぬえは村紗の腰に手を回してきた。
村紗はくすぐったいような感覚に身震いをした。
「初めて村紗に会った日、だったのに」
そう呟くぬえに、村紗は「あら?」と首を傾げた。
村紗も初めてぬえにあった日をちゃんと覚えていたのだ。でもそれは、今日から数えて約半年後の事だ。
流石に千年も立てば記憶も曖昧になるだろうと村紗は目を瞑った。しかし、実はどちらも間違ってはなかった。
ぬえは一目惚れしたその日から、こっそりと半年間村紗をストーカーして、村紗はそれに気がつかなかっただけだ。初めて二人が交わした会話は、家に忘れ物をしてすぐに帰宅した村紗の「あの、私の部屋で何をやっているの?」と村紗の布団に包まってぽおっと虚空を眺めていたぬえの「あっ、あの……間違えました」であった。ぬえの言葉はかなり無理があったが、村紗は信じた。何を信じたかさえよくわからない状況だったのだが。
「それがどうして裸で寝ているってことになるの?」
「だ、だからぁ」
ぬえは村紗の胸に顔を埋めた。さらしがぬえの細く熱い吐息を受け止める。
「今日はいいよ……って言ってるんだよ」
「いい? 何が」
「わかんないかなぁ」
ぬえが「うー」と唇を突き出してくると、村紗は「むむっそういうことか」と顔を赤くした。
「朝からっていうのはちょっとまずいわよ。夜にしよう? ね?」
「うー」
ぬえはぎゅうううと村紗を抱きしめたが、村紗の態度は変わらない。はにかみ笑顔が可愛い。
「我慢できないよ」
「我慢しなさい」
ぬえが抱きしめる力を緩めた刹那、突然二人の真上の空間がざっくり裂けた。
「エロ反応を確認したわ! こらぁ! 何やってるのよ朝っぱらから!」
そこから顔を覗かせたのは巫女であった。大きな赤色のリボンはないが、黒髪と異常に端整な顔立ちで判別できる。
「あのねぇ、そういう場合は私を呼んでスリーピギィィィィィッッ!」
霊夢は絶叫と共に隙間の奥へと引き込まれていった。
呆然とそれを見上げる二人。その隙間から、今度は金髪の大人っぽいお姉さんが姿を現した。
「ごめんなさいね。邪魔しちゃったみたいだけど、気にしないで続けて」
そう言って隙間に引っ込んだ。と、思ったらまた出てきた。
「さっきの子が何か失礼なことをしたら私に言ってちょうだい。出来る限り対処するわ」
ウィンクをして隙間に潜る。
完全に気配が無くなると、辺りの温度が急に下がったような気がした。
「……で、どうする?」
「うん、やっぱ夜まで我慢するよ」
ぬえはそう呟いて、静かに目を閉じた。
「星が起こしに来るまでは、一緒にいてね?」
「もちろん」
村紗はぬえを抱きしめ返した。負けないように、ぎゅうっと。
肌と肌が擦れ合う感触。色気起つ匂い。そう言った物が布団の中で混ざり合う。
「ねぇ村紗」
「んー?」
「いつもいつも、悪戯ばっかりで、迷惑掛けてごめんね」
「いいわよ。ぬえの愛情表現だって知ってるんだし」
ぬえは少しの間黙って、それから逡巡しつつ言った。
「昔さ、初めて会った頃に、村紗が私に言ってた言葉……自分は何のために生まれてきたのか、とかだったかな。覚えてる?」
「当たり前よ。私は聖に尽くすためにこの世に生まれました――今も口癖だもん」
「そっか、そうだよね」
ぬえは薄く口を開けると、村紗の腕に噛み付いた。村紗が「痛っ」と体を跳ねさせた。
ただし、強く噛んだのは最初の一回だけ。後は歯でなぞる様な甘噛みを繰り返した。
「妬けちゃうなぁ。もっと他に、見なきゃいけない可愛い子がいるんじゃないかなぁ」
「その可愛い子は私の腕の中で寝ています。これ以上見るって言うのは不可能だと思うわ」
村紗は愛おしそうにぬえを抱きしめた。
ぬえは頬を膨らましてそれに答えた。
「やっぱりさぁ、私だけを見て欲しいよ」
「ごめんね。それだけは無理だわ」
「……もう」
「ほんと、ごめん」
ぬえはカリッと、村紗の背中を引っかいた。白い肌に赤い線が走った。
「それでも、私は待ってるからね。私は、村紗以外見えないんだから」
それに「ん」と返事をして、村紗はぬえの髪に鼻を埋めた。
時計の針が緩やかに時を刻み、二人の呼吸が部屋に溶けていく。
村紗はふわふわと意識がほどけていく感覚に身を包まれながら、「私はね、村紗を好きになるために生れて来たんだよ」という呟きを聞いた。
村紗は大きく伸びをして起き上った。薄い寝巻きが肌蹴て胸をがばっと露出させている。くしゃくしゃの髪を手の平で撫でつける様に掻きながら、布団から這い出す。
いつも通りぬえが布団の中に潜り込んでいるが、もうそれほど違和感は感じない。
村紗は丸まって寝息を立てているぬえに布団を被せて、洗面所に行く。桶の水が切れているのを見て「面倒だな」と呟きながらも全員が顔を洗って髪を整えることができるくらいの水量を、大きな水がめに汲みに出る。外は寒い。もうすっかり冬だ。村紗は井戸の底を見ないように細心の注意を払い、桶を落としては引き上げるのを繰り返す。十回行ったところでやっと水がめの八分目。人間ならまず持ち上げることのできない重さだが、村紗はそれをひょいと担いで洗面所に戻る。触ると指先が痺れるような水温の水を、村紗は景気づけに桶一杯を頭っから被って身震いする。温度は感じる。しかし冷たいのが嫌なのではなく、大昔のトラウマが鎌首をもたげるのに身震いするのだ。
村紗は「今日も絶好調」と頬っぺたを叩いて気合いを入れた。タオルで体を拭き、髪を適当に整え、さぁセーラー服に身を通そうと洗面所の向かいの部屋に入った。
壁にかかっているのは村紗のセーラー服。素肌に心地よいとは言えないが、意外と希少な逸品である。濡れた寝巻きを脱ぎ、下着を取り換え、セーラー服を着ようとして――村紗は違和感を覚えた。
首を傾げてセーラー服を広げて見る。すると、袖と首が出るところが綺麗に縫い込まれている。しかも念入りに。
村紗は溜息をついて、これをどうしようかと日に掲げて見た。
「朝から何してるの?」
声に振りかえると、眠たそうな顔をした一輪が戸に捕まって、ぼうっと突っ立っていた。地平線からやっと日が見える様な時間だ。早朝も早朝である。
「裸が趣味だっけ? ふあぁ」
「そうじゃないけど。これを見てよ」
村紗が丁寧に縫い込まれたセーラー服を見せると一輪は「またぬえね」と面倒そうに呟いた。
「あんまりしつこいようだったらあなたの方から注意しなきゃだめよ? 変に増長されても困るし」
「それが私にしか悪戯しないからさ、増長も何もないのよね。こういうの嫌いじゃないし」
「村紗は虐められたがりだったもんね。私は二度寝するわ」
一輪はふらっとそこからいなくなった。
村紗はまた一人に戻り、「どうするもこうするもないな」と呟いて自室に鋏を取りに戻った。下着だけを装着した半裸のまま、手には歪なセーラー服。奇妙な光景だった。
自室についた村紗はまだ寝息を立てているぬえの頭を撫でてから、鋏で慎重に糸を切って行った。幸いセーラー服には、縫い方が綺麗だったおかげで何の後遺症も残らなかった。
「村紗」
丁度袖と襟が機能を取り戻したころ、村紗はぬえが布団から恐る恐る自分を見つめていることに気がついた。
「おはようぬえ。寒いわね」
「何してるの?」
「あなたが縫い合わせたセーラー服を修繕しているの」
「昨日やっておいた」
「そっか。出来ればもう止めて欲しいわ」
村紗は苦笑いしながらセーラー服を掲げた。
「それで、何でさらしにパンツ一丁なの?」
ぬえはじぃっと村紗を見つめながら言った。熱っぽい視線だった。何かを期待するような、甘えるような。か弱い小動物そのものだ。
「後先考えずに水を被っちゃってね。いやぁさっぱりしたわ」
「阿呆」
ぬえはごそごそと布団の中で動き始めた。
村紗はスカートを取ってこようとセーラー服を置いて立ち上がった時だった。
ぬえが出し抜けに「寒い」と呟いた。
「え?」
村紗が聞き返すとぬえはもう一度「寒い」と呟いた。
「何かかけるもの、持ってこようか?」
毛布を重ねれば寒いということもあるまい。
しかしぬえは首を横に振った。
「村紗が一緒に入ってくれればいいよ」
「えぇ? 悪戯しちゃうかもよ?」
村紗が手を巧みに動かして「ふふふ」と笑う。ぬえが布団に口を押し付けて言った「悪戯してよ」という呟きは村紗には聞こえなかった。
「村紗は、これから何かあるの?」
「特に。朝食前に散歩に行こうかなって思ってたけど」
ぬえは「じゃあ」と呟いて布団を捲りあげた。村紗は素っ頓狂な声を上げた。
「あなた裸だったの? そりゃあ寒いはずだわ。服は?」
ぬえは今しがたこっそりと脱いだパジャマ代わりの村紗のシャツを丸めて足元に押しやった。
「ないよ」
「だから何で?」
「何でも」
それを聞いて村紗は「う~ん」と唸った。
「……ぬえが風邪引いても困るしなぁ。しょうがないか」
村紗は布団の中に潜り込むとぬえを抱き寄せた。
「ふあー素肌と素肌の感触が気持ちいいわー。二度寝しようかなぁ」
すりすりとぬえの頬を頬ずりして「すべすべでいい感じ」と幸せそうな顔をした。
「何で今日に限って裸で潜り込んでるのよ。いつもは私のシャツなり何なり着てるじゃない」
「今日は特別な日だから」
「そうなんだ。それで、何が特別なの?」
村紗が聞くと、ぬえは頬をふくらました。
「覚えてないわけ?」
「残念ながら」
それを聞いて、ぬえは村紗の腰に手を回してきた。
村紗はくすぐったいような感覚に身震いをした。
「初めて村紗に会った日、だったのに」
そう呟くぬえに、村紗は「あら?」と首を傾げた。
村紗も初めてぬえにあった日をちゃんと覚えていたのだ。でもそれは、今日から数えて約半年後の事だ。
流石に千年も立てば記憶も曖昧になるだろうと村紗は目を瞑った。しかし、実はどちらも間違ってはなかった。
ぬえは一目惚れしたその日から、こっそりと半年間村紗をストーカーして、村紗はそれに気がつかなかっただけだ。初めて二人が交わした会話は、家に忘れ物をしてすぐに帰宅した村紗の「あの、私の部屋で何をやっているの?」と村紗の布団に包まってぽおっと虚空を眺めていたぬえの「あっ、あの……間違えました」であった。ぬえの言葉はかなり無理があったが、村紗は信じた。何を信じたかさえよくわからない状況だったのだが。
「それがどうして裸で寝ているってことになるの?」
「だ、だからぁ」
ぬえは村紗の胸に顔を埋めた。さらしがぬえの細く熱い吐息を受け止める。
「今日はいいよ……って言ってるんだよ」
「いい? 何が」
「わかんないかなぁ」
ぬえが「うー」と唇を突き出してくると、村紗は「むむっそういうことか」と顔を赤くした。
「朝からっていうのはちょっとまずいわよ。夜にしよう? ね?」
「うー」
ぬえはぎゅうううと村紗を抱きしめたが、村紗の態度は変わらない。はにかみ笑顔が可愛い。
「我慢できないよ」
「我慢しなさい」
ぬえが抱きしめる力を緩めた刹那、突然二人の真上の空間がざっくり裂けた。
「エロ反応を確認したわ! こらぁ! 何やってるのよ朝っぱらから!」
そこから顔を覗かせたのは巫女であった。大きな赤色のリボンはないが、黒髪と異常に端整な顔立ちで判別できる。
「あのねぇ、そういう場合は私を呼んでスリーピギィィィィィッッ!」
霊夢は絶叫と共に隙間の奥へと引き込まれていった。
呆然とそれを見上げる二人。その隙間から、今度は金髪の大人っぽいお姉さんが姿を現した。
「ごめんなさいね。邪魔しちゃったみたいだけど、気にしないで続けて」
そう言って隙間に引っ込んだ。と、思ったらまた出てきた。
「さっきの子が何か失礼なことをしたら私に言ってちょうだい。出来る限り対処するわ」
ウィンクをして隙間に潜る。
完全に気配が無くなると、辺りの温度が急に下がったような気がした。
「……で、どうする?」
「うん、やっぱ夜まで我慢するよ」
ぬえはそう呟いて、静かに目を閉じた。
「星が起こしに来るまでは、一緒にいてね?」
「もちろん」
村紗はぬえを抱きしめ返した。負けないように、ぎゅうっと。
肌と肌が擦れ合う感触。色気起つ匂い。そう言った物が布団の中で混ざり合う。
「ねぇ村紗」
「んー?」
「いつもいつも、悪戯ばっかりで、迷惑掛けてごめんね」
「いいわよ。ぬえの愛情表現だって知ってるんだし」
ぬえは少しの間黙って、それから逡巡しつつ言った。
「昔さ、初めて会った頃に、村紗が私に言ってた言葉……自分は何のために生まれてきたのか、とかだったかな。覚えてる?」
「当たり前よ。私は聖に尽くすためにこの世に生まれました――今も口癖だもん」
「そっか、そうだよね」
ぬえは薄く口を開けると、村紗の腕に噛み付いた。村紗が「痛っ」と体を跳ねさせた。
ただし、強く噛んだのは最初の一回だけ。後は歯でなぞる様な甘噛みを繰り返した。
「妬けちゃうなぁ。もっと他に、見なきゃいけない可愛い子がいるんじゃないかなぁ」
「その可愛い子は私の腕の中で寝ています。これ以上見るって言うのは不可能だと思うわ」
村紗は愛おしそうにぬえを抱きしめた。
ぬえは頬を膨らましてそれに答えた。
「やっぱりさぁ、私だけを見て欲しいよ」
「ごめんね。それだけは無理だわ」
「……もう」
「ほんと、ごめん」
ぬえはカリッと、村紗の背中を引っかいた。白い肌に赤い線が走った。
「それでも、私は待ってるからね。私は、村紗以外見えないんだから」
それに「ん」と返事をして、村紗はぬえの髪に鼻を埋めた。
時計の針が緩やかに時を刻み、二人の呼吸が部屋に溶けていく。
村紗はふわふわと意識がほどけていく感覚に身を包まれながら、「私はね、村紗を好きになるために生れて来たんだよ」という呟きを聞いた。
でも目を覚ましても夢と同じような展開なんですねわかります
霊夢自重www
パッチェさんも夢の中にまでは出てこれなかったか……
あの人が自重したら困りますもんねw
しかし相変わらず、氏の霊夢は創想話随一の高スペックかつ変態ですなぁ。
エピキュリ霊夢の続編を心からお待ちしております。
他の人から村紗への呼称とは関係なく、三人称なら地の文は「水蜜」が正解かと。
きっと夢じゃない!