「続いちゃったZE!」
「なんで続いたのよ!?」
「だって続きたかったんだZE!」
「言いたいだけでしょパチュリー!」
「一話完結だから別に前のは読まなくてもいいんだZE! でも本音は読んでもらってほしいZE!」
「え!? ZEって流行ってるの!?」
「流行に囚われない自分はかっこいいとか思っているのZE?」
「パチュリーは無理やり使ってるだけじゃない!」
「アリス、ノリ悪いのな」
「……はぁ、興醒めだわ」
「…………は……始まる……ZE」
「アリス、もう流行終わったぞ」
「乗りきれないとか……」
「だからやりたい放題って楽しいの!?」
湖上の紅魔館、水面を彷徨うその姿に心が揺れ動く者も多い。
しかし、地下に魔導書の眠る図書館があるという事はあまり知られていない。
故に魔法を使う者は限られているのだろう。魔法こそ、この世界のファンタシィなのかもしれない。
「と、詩的な事を言ってみる私。どう?」
「何て言ったら十点くれるんだ?」
「三十路が一番年頃だ」
「よし、三十路が一番年頃だ」
「0ポインツ」
魔理沙は舌打ちをする、図書館内には響くがパチュリーには届かなかった。
「で、なんで私は焼かれたんだ?」
「ブルーはあなたの好みじゃないでしょう?」
「寄生虫だってO-157だって生きているんだ友達なんだぞ」
「時事ネタはすぐに飽きられるわよ」
そう言うと、パチュリーは机にあるココアを飲む。そして対面して椅子に座るアフロ姿の魔理沙にそれを勧めた。
「サンキュー。で、今日はどの本をパクっていいんだ?」
「あそことあそこの本よ、引き取り手にコマッチングだったところなの」
「小町がどうした。それを読んで半透明になった私は夜な夜なパチュリーの所に来て呪詛を唱えなきゃいけないのか」
「バレた?」
「恋人の事なら」
魔理沙のその優しい微笑みに、読んでいた本で顔を隠すパチュリー。
「や、やめてよ……惚れ直しちゃうじゃない」
「なんでお前はカーマ・スートラを読んでいる」
「そしてなんで私も焼かれているのよ」
ちょうど二人の間に立つようにアリスが現れた。無論、パーマが掛かっていた。
「いらっしゃい、コーンロウも似合うわね。ホットチョコレート飲む?」
「なんだアリス、来てもお前の望む永遠はないからな」
「魔理沙専用の迎撃装置じゃなかったの? 何よあの弾幕、失血死させる気?」
「だから鼻血がいっぱい出ているのね。でもおかしいわね、上海には狙わないようにしていたのに」
「上海だけかよ」
「あの子には危なかったから後ろに下がらせていたわよ、まったく、本当に、もう、はぁ……もう一回行ってくるわ!」
ダダッ、とまた図書館の入り口へとアリスは走っていく。その最中に爆発音が響く。
と、ピョコンと上海人形が本棚から顔を出す。やっほー。
パチュリーはその姿に我を忘れ、一目散に上海人形の方へ走って行った。それをセントリーガンは見逃さない。
「自分も迎撃対象にしてどうする」
「あぁ上海! あなたに一日でも離れるだなんて、私はバカだったわわわわわわわわわ」
ぱっちぇサン、ウタレテルヨー
「天井裏から集団で来た方が良さそうだな、酸の血液を作らないと」
「ほら上海、あなたの為に夜なべしていっぱいお洋服作ったの! さぁ今から上海コレクションの開催よ! シャンコレよシャンコレ!」
マリサタスケテー
魔理沙とアリスが髪を櫛合う頃、上海人形はすでに六着目に突入していた。
「痛い痛い痛いって! どうして女の子なのに下手なのよ!」
「私批判は終身刑だぞ! それにアリス動くなって! オゾン臭いんだよお前!」
「レーザーも弾幕バカには通用しないと。次はレールガンね」
「ドールラバーに言われたくないわよ! そして次は電磁力を遂に使うのね!」
「よく言ったアリス、絶対にその言葉をひっくり返すなよ」
「で、アリスは何しに来たの?」
魔理沙の枝毛を発見したアリスは、思い出したかのように顔をハッと上げる。
「そうだったわそうよ!」
「だから髪の毛引っ張るなって!」
「どうだったわどうよ?」
「これこれ」
アリスは立ち上がり、スカートの中をまさぐる。
「ピンクだぞパチュリー、がっかりだぜ」
「白の方が良かったわね、純情で清楚で高潔なのがわからないのかしら」
「ちょ、人のパンツ見ないでよ!」
「アリスが見せたんだろ」
「まったく、弾幕フェチじゃ飽き足らず……」
「やめてよお嫁に行けなくなるじゃない!」
「弾幕フェチは幻想郷ランキングの『結婚したくない女』第三位だそうだ」
「スペルカード発動しながらのプロポーズをされればいいじゃない」
「第二位と第一位が知りたいわ! あ、見っけ」
と、アリスはひとつのディスクを取り出した。
「ててれてってれー」
「何よその効果音!」
「だってそれっぽいじゃないの、あなたのスカート」
「ちゃいにーずとかれふー」
「通称黒星拳銃じゃないわよ!」
「それにしても魔理沙。似てるわね」
「私は猫じゃないけどな」
「そうそうこれこれ、早苗が『是非見てください!』って言って渡してきたの」
アリスは魔理沙とパチュリーにそのディスクを見せる。黒い三つの丸が連なって描かれていた。
「何も見えないぜ」
「危険物まっしぐらじゃないのそれ」
「危険なのはあのレーザーよ! それでいつレールガンを取り付ける予定なの!? もう辛抱堪らないわ!」
「お前が一番危険だ」
「で、どうするつもりよそれ」
「なんでもDVDっていう物らしいのよ」
「でーぶいでー?」
「ドメスティックバイオレンス……えーっと……みちこちゃんの略よ魔理沙」
「全国のみちこちゃんに謝りなさいパチュリー」
「そのみちこちゃんは一体なんなんだアリス?」
「ほら、最近幻想郷にビデオとかいうのが紛れ込んだじゃない。あれの進化版って言ってたわ」
あぁ、と魔理沙とパチュリーは思い出すように声を上げた。
「あぁ、こーりんの店にあったあった。そしてパクった」
「何でも金で解決できないのね、あなたは」
「でもこれは普通のじゃ再生できないらしいの。それで、再生できるのが紅魔館にあるって霖之助さんが言ったのよ、そしてお金払ったわ」
「サンキューアリス。で、あるのかみちこちゃん再生機?」
「みちこちゃん気に入ったのね、ちょっと待っていなさい」
そう言ってパチュリーは呪文を唱え始める。すると後ろの壁が上へとあがり、そこから巨大なテレビとDVDレコーダーが現れる。
「ひとつ聞いていいかアリス」
「何よ魔理沙?」
「さっきの私専用迎撃装置でも思ったんだが、ここ、幻想郷だよな?」
「これが私たちの幻想なのよ、ようこそいらっしゃい」
「ごまかしたな」
「してないわ」
「うるさいわよ二人とも、早くそれ貸しなさい」
「で、なんでパチュリーがそれ持ってるのよ」
「そうだそうだ、いかがわしいえっちい物でも見てるのか?」
「ここは図書館、知識の宝庫よ?」
二人は納得いかなかった。
それを再生して数十分が経つ。
「きゃわいいー! な、え、きゃーわーいーいー! や、こっち見たー!」
「うわぁ……」
「うわぁ……」
画面に手を振るその普段見せない、あまりにも豹変した姿に絶句した。
「あ、危ないよぉー! やだもぉー! もぉアヒルしゃんちゅきー!」
「……ねぇ、パチュリー」
「……なに、アリス」
「魔理沙ってこんな子だった?」
「聞かないでちょうだい」
アリスとパチュリーは画面の前でピョンピョン飛び跳ねる魔理沙を見て互いの感想を求め合った。
新鮮で、かつ無邪気な魔理沙。その様子に心はまだ奪われない。ただただ、何とも言えない気分になっていた。
「魔理沙も……年頃の娘なのよね、そういえば」
「年頃でもあれはないんじゃないのかしら? でもまぁ……私もあんな時期があったわ」
「え、パチュリー今何歳なの?」
「ノーコメント、あなたこそいくつよ?」
「私も何とも言えないわ、だってコロコロせって」
そしてアリスは言葉を忍ばせた。
「……は?」
「アリス」
「いや、え、なんで?」
「それ以上言ってしまったらいけないわ」
「ならそう言えばいいじゃないの! なに、ニュルって入ってきたわよ!?」
「入れてないわよ! アリスの方からじゃない!」
「パチュリーからよ!」
「アリスから!」
二人がぎゃあぎゃあと騒ぐ。そして気付いた、涙目になっている魔理沙がそこに立っているのを。
「二人だけでずるいー! 私もちゅーするー!」
二人が魔理沙に懇願されたのは初めてだった。外れる音が聞こえる。
魔理沙は顔を洗う。しかし今日何回目だ、鏡の中の自分を見るのは。魔理沙はタオルで顔を拭きながらアリスとパチュリーの元へと戻った。
「おぅ、もう取れてるよな」
「えぇさっぱりと」
「首筋以外のは」
ハッと首筋を魔理沙は自分の手で隠す。しかしもう遅い、アリスとパチュリーはニヤリと口元を歪ませていた。
「な、どっちだ! どっちがしたんだ!」
「さぁ?」
「ねぇ?」
その微笑みに魔理沙は思う。これが邪悪か。
「いいか、私はどうかしてたんだ、わかるな?」
「ありしゅのちゅーだいしゅきー」
「ぱちゅ、ぱちゅ、もっとー」
「だからどうかしてたって言っているんだぞ私は!」
「ありしゅのほっぺやわらかーい」
「えへへー、ぱちゅのぷにぷにー」
魔理沙は赤面をし、帰りたくもなっていた。しかしアリスとパチュリーはやめない、これほど魔理沙を苛めるのがたまらないのかと言わんばかりに。
魔理沙が先とは違う涙を浮かべると、アリスとパチュリーは言葉を閉じ、魔理沙に近づくとその頭を撫でた。
「ごめんなさい魔理沙。でもあなたのその姿、とても可愛らしかったんだもの」
「そうよ、思わず断頭台に掛けられてけせらけらけら笑いそうなほど」
「た……とえがわけ……ひっく……わかんない……ぜ……パチュ……うぇーん……」
「泣かないで魔理沙、ね?」
「ほらチーンしてチーン」
パチュリーが魔理沙の鼻へハンカチを持っていくと、豪快に鼻を噛まれた。デローンと鼻水が糸を引く。
「うわ汚っ」
「はいよく出来ましたー、魔理沙かっこいいわよー」
「子ども扱いするなぁ!」
「しかし魔理沙をこんなに退行させるだなんて、やはり危険ね」
「そうね。『霊夢にも見せないと!』って言ってたけど……でも霊夢はこうはならないわよ、絶対、きっと」
「よし、今からお化け退治に行くぞ!」
半ばやけくそに魔理沙は叫ぶ。その声にアリスとパチュリーは呆気に取られた。
「……何言ってるのこいつ?」
「わからないわよ。やっぱりさっきの」
「だってさっき鼠さんとアヒルさんとわんわんが行ってたろ! 幸いこっちも三人だ! しかも魔法使える! 簡単に捕まえられるぞ!」
「……後遺症ね、どうするのアリス」
「わんわんって魔理沙が言っちゃいけないわ、でも魔法を思い出したのは偉いわよ」
「私だって女の子だぞ! わんわんはわんわんだ! ほら行くぞさっさと行くぞ!」
魔理沙は図書館を出ていく。その様子を見てアリスとパチュリーは呆れつつも楽しんだ。
「すごいわね、あんなに弾幕を避けるだなんて」
「これはまた改装が必要かしら」
「で、お化けっているの魔理沙?」
「え、お化けと幽霊って同じものだろ? なぁパチュリー」
「えぇ、同じよ。アリス、変な事を聞いちゃだめよ」
アリスは思いやられていた。白玉楼の門の前、二人の格好を見ると腹痛さえ起こしそうなぐらいだ。
巨大な掃除機のようなものを背負う魔理沙に白くもこもことした着ぐるみを纏うパチュリー
「なんであんたがお化けになってるのよ」
「いいかアリス、敵を欺くにはまず味方だ」
「そういえばお化けはお料理と散髪と老人介護が得意だそうよ」
「最後はヘルパーというわけじゃないわ」
「よし! うちの家政婦にしてやる!」
「メイドお化けね、流行らないわ」
と、魔理沙とパチュリーは門に近づく。と、アリスは何かを思い出したのか、大きな声を上げた。
「ちょっと二人とも!」
「なんだ弾幕母ちゃん!」
「ママはいっつも私たちの腰を折る、色んな意味で」
「一個しかないわよそんな意味! ていうかお化けって妖怪も含まれてるんじゃないの?」
「あ」
「あ」
魔理沙とパチュリーは何か目を覚ますような感覚を覚えた。
「そうだよいつもやってる事じゃないかお化け退治って!」
「これは本当に腰を折られたわ、これ重すぎるもの」
「じゃあ脱ぎなさいよパチュリー」
「という事は、お前たちもお化けだったんだなアリス、パチュリー!」
「は?」
「え?」
背負っていた掃除機のノズルを持ち、吸い込み口を魔理沙は二人に向けた。
「お前たちの種族は魔女、魔女は妖怪、妖怪はお化け。簡単な図式だ。大人しくしろ! お前達は包囲されている!」
「自分が人間だからって。逃げ場はないわよアリス」
「生装備って何よパチュリー、下着も着けてないじゃない。着替え持って来てて良かったわ」
「さぁ観念しろ! そして私の家を綺麗にして美味しいご飯を作るんだ!」
「いっつもしてるじゃないの……ちょ、アリス、それ石鹸じゃない」
「石鹸なんて隠し持たないで、ほら、チャックどこよ」
パチュリーの着ぐるみを脱がそうとするアリス、時折ビクンと反応して頬を染めるパチュリーを見て魔理沙は指に掛けたスイッチから離した。
「それもそうだったな、じゃあやっぱり中にいる奴を捕まえに行くか」
「退治なのか捕獲なのかどっちかにしてちょうだい」
「はいバンザイして、汗もかいてるじゃない」
「ばんざい」
「魔理沙はしなくていいのよ、ほら早く拭いて……あの夜のように」
「どの夜よ」
「なんだ、パチュリーはお色気路線を狙ってるのか?」
「ていうかなに人の家の前でストリップショーを始めているの、あなた達?」
パチュリーが手を上げ、持っていたタオルでその汗ばんだ体を拭くアリス、そして着ぐるみをそこの芝生にポイッと捨てる魔理沙を見て、妖夢は呆れていた。
「お、お化け参上か!」
「人を勝手にお化け扱いしないでくれる?」
「でも半分そうじゃないの」
「半分は人間だっての、人形ぶら下げてるあなたに言われたくないわ」
「それじゃあその隣のふよふよはマシュマ○マンじゃないの!?」
「あなたは早く服を着なさい! それに伏字になってないわ! こら、無理に形にならない!」
自身の半霊を叱る妖夢を見守る中、すでにパチュリーは普段見る服に着替える。
「ったく、いえごめんなさいね皆さん」
「いえいえ。ねぇアリス、このブラジャーきつい」
「ならこいつに吸い込まれてもらおうか!」
と、魔理沙は吸引口を向けると妖夢は万歳の格好を取る事になる。
「唐突よ魔理沙」
「吸い!? いやちょっと待ちなさいよ! 今から鈴仙と里に遊びに」
「行くのもいいけどカレーもね」
「そうだ! カレー作れカレー! ナンは邪道だライスだライス!」
「ごめんなさい、極度のイースト菌恐怖症なのよこの魔女っこ。あ、多分そのブラジャー魔理沙のよ」
「色々言いたいけども一個だけ! ビールにも入ってるのよイースト菌!」
その妖夢の一言に魔理沙は青ざめ、手に持っていたノズルを落とす。
「え……嘘だろ……な、嘘だよな……」
「本当よ、ビール酵母もイースト菌。じゃあ私は行かせてもらうわ」
「え、違うだろ……な、パチュリー?」
震えながら妖夢を掴み、そして魔理沙はパチュリーへ歯をガチガチと言わせながらゆっくりと振り向いた。
パチュリーは何も言わない。
「なぁ! 目を逸らすなよ! 入ってないよな! な!」
「…………」
「何か言ってくれよ! そうだ、アリスは言ってたよな! 入ってないからいっぱい飲んでもいいって! なぁ!」
逃げようとする妖夢を羽交い絞めにし、魔理沙はアリスに問う。しかし、アリスの口からは魔理沙の期待している言葉は聞けなかった。
「……ごめんなさい、魔理沙の好き嫌いがなくなるなら嘘をついても罪にはならないって閻魔様が……」
「……入ってるのか? え、私……騙されて……たのか?」
「ごめんなさい、ごめ……」
アリスはその場で号泣した。ただ泣き続けていた。パチュリーも頬に伝う流れを止める事は出来なかった。
「嘘だ……嘘だぁー!」
「こんな三文芝居を見せられている私の方が泣きたいわよ! 離してって待ち合わせにもう遅刻してるんだから!」
妖夢はしかし、逃げられなかった。
「やっぱ時代はウォッカだな」
「ストレートがお好み? ならスピリトゥスがお勧めよ」
「やめなさいパチュリー、ノンアルコールでも酔える子なのよ」
「雰囲気って最高だろ?」
「飲まれる子は最悪よ」
「ザルに言われたくはなかったわね」
静観な庭を見渡せる白玉楼の廊下を、三人は進む。
ちぇっと不満そうに口を尖らせた魔理沙の背中から、バンバンと音が聞こえてくる。
「出せって」
「やだね」
「いいじゃないのアリス、魔理沙の部屋の掃除してもらいましょう」
「ほんと、なんであんなに汚いの。客招く気あるの?」
「ていうかこれ重いから降ろしてもいいよな」
「お好きに」
パチュリーの了解を得て、背負っていたドラム缶のような掃除機をポイッと庭に魔理沙は放った。
ゴロゴロと転がり、庭は荒らされてゆく。中に入っていた半霊もひとたまりもないだろう。
「こりゃ明日はホームランだな」
「後で菓子折り持ってこないと闇打ちに会うわね、魔理沙」
「そんなこんなで着きました。ここが魔理沙ご所望のお化けの部屋よ」
と、アリスは部屋を指差す。幽々子の部屋だった。
「なんでアリスが知ってるのかしら?」
「あれだ、ほら、その、えーっと」
「思いつかないなら喋らないの。いいから開け……何か聞こえてくるわね」
「どれどれ、障子をぷすっと」
「メアリー作戦発動だな」
「誰よそれ」
パチュリーに続いて魔理沙とアリスも戸の障子を指で突き、開いた穴から中を伺った。
「はい、あーん」
「あーん……うん、とても美味しい」
「えへへ、幽々子さんの為に特別に作ったんですよこのタレ」
「あら、嬉しい。それじゃあデザートはあなた?」
「やだ……あとでゆっくり味わってください」
「もぉ、ミスちんは焦らし上手なのね」
ミスティアを膝に乗せまた一口、八目鰻の蒲焼きを食べさせてもらっている幽々子の姿はとても艶やかだった。
「……ねぇ」
「何よアリス」
「これ、邪魔しない方がいいわよね」
「帰りましょうか」
「えぇ」
しかし魔理沙は勢い良く戸を開ける。
「空気読めないのは知った事じゃない! さぁ大人しく捕まるんだ幽々子!」
「あちゃー」
「やっちゃったわね」
魔理沙が指をさし、頭を押さえるアリスにめんどくさそうに顔を歪ませたパチュリーを見て、幽々子とミスティアは固まった。
「……え?」
「だからおとなしく捕まれ! そこ、夜雀の服を緩ませない!」
「あ、幽々子さんったら……」
「ごめんなさい二人とも、でも私達には魔理沙は止められなかったの」
「止める気もなかったんだけどね」
「あー、あれね。西行妖が消えちゃったのね。きゃー!」
「その予告はなしになったんだ! さぁ捕まってご飯作れ!」
「あ、幽々子さん意外に料理上手なんですよ? この間だって……やだやだ、なに言わせるんですか!」
「鳥、一人ではしゃがないで」
「その言い方はないわパチュリー」
そして魔理沙は八卦炉を取り出した。
「捕まらないなら撃つ! そして動いて逃げる!」
「魔理沙、色々言いたいわ」
「それなら私は賢者の石を取り出し、漬物石にしてやるわ!」
「いきなりわけのわからない事を言わないでパチュリー」
しかし幽々子は動揺しない。そして膝から降ろし庇うようにミスティアを抱いた。
「さぁ、一緒に行きましょう。二人だけの世界へ」
「……他に誰に言ったんですか、その言葉」
「やきもち?」
「そんなんじゃないけど……嘘に聞こえてしまって」
「あなたにだけよ……ミスティア」
「……そんなに優しく囁かないで」
「どうして?」
「……小骨を刺しそう」
「あなたのなら、大歓迎よ。さぁ魔理沙、撃ちなさい」
「幽々子さん……」
その幽々子とミスティアの姿に、魔理沙は涙を流した。
「なんで!?」
「……私は間違っていた。この二人の絆は誰にも壊せはしない」
「そうなっちゃうの!?」
「よく気付いたわ魔理沙」
「うなぎモゴモゴさせて言う事じゃないわパチュリー!」
「私は愚かだった……自炊しないといけなかったんだ、私は!」
「変な時に私の願いを叶えさせないで!」
「そう、魔理沙は私の為にカレーを作らなければならなかったのよ。いい教訓を得られたわ」
「都合のいい事しか言ってないわよ!」
そしてパチュリーはごっくんと飲み込み、魔理沙の肩をポンと叩いた。
「さぁ、帰りましょう。カレーを作りに」
「あぁ、そうだなパチュリー。ライスは任せたぜ」
「え、私だけおいてきぼり?」
「アリスは具材調達よ」
「人参はなしな」
「いやだからおいてきぼりなの?」
そうして三人は白玉楼を後にした。
「……何しに来たのかしら、あの三人」
「あ! うなぎが全部やられた!」
「あらあら、それじゃあデザートタイムね」
「あ……だめ、人が見てる」
「大丈夫よ……妖夢はまだ帰ってこな……あら妖夢、おかえりなさい」
「…………今日は厄日だ」
ボロボロになって涙目になっている妖夢が幽々子とミスティアの前に立っていた。
湖上の紅魔館、水面を彷徨うその姿に心が揺れ動く者も多い。
しかし、地下に魔導書の眠る図書館があるという事はあまり知られていない。
故に魔法を使う者は限られているのだろう。魔法こそ、この世界のファンタシィなのかもしれない。
「いいやファンタシィはこのカレーだ」
「カレーこそこの世の魔法ね」
「本当に美味しいわね、これ」
図書館のラウンジ、そこで魔女達は咲夜特製のカレーとタンドリーチキンを堪能していた。
「いやぁ、咲夜がタンドールにハマってて良かったぜ。作らずに済んだ」
「このキレのある辛さに隠れているコク、それが深みを出して舌を灼熱の地獄に変えてゆく……」
「パチュリーには辛すぎるのね。はいお水」
「パチュリーはお子様だな、見ろ私を」
「めちゃくちゃ汗かいてるじゃない」
「ほら魔理沙もお水」
アリスが二人に水を渡す頃、上海人形はすでに百着目に突入していた。
「上海、今日はなんにもなしだったな。ていうかずっと一人でファッションショーやってたのか?」
「それでこそ私の上海よ、お気に召す物があったかしら?」
「作り過ぎよ、あの子のためにならないわ」
「さて、じゃあ咲夜をパクって帰るか」
「私に言わないで」
「自炊するって言ったじゃないの」
平然とカレーを口に運ぶアリスを見て、魔理沙はだるそうに声を上げる。
「するって言っただろー?」
「嘘つきは泥棒の始まりとはよく言ったものね」
「自分でちゃんとしないと駄目よ」
「うぇー」
「じゃないともうあれ、見せないわよ」
「えぇ、あのキャンプカー、でいいのかしら? 作ってあげようと思ったのに」
二人が少しにやついて言うと、魔理沙の顔が今度は泣きそうになる。
「ちゃんと自分でご飯作ります! 掃除もします! 洗濯だってします! だからそれだけは!」
「なら宜しい」
「さぁ、その前にこの目の前のものを平らげなさい」
「へーい……さて次は何するか」
「何もしないわよ」
「あら、珍しくパチュリーと気が合ったわね」
図書館の灯が三人の影を写す。
「かーあいい! やだかーあーいーいー!」
「ほら、そんなに暴れると髪の毛拭けないじゃないですか」
「だってかあいいんだもん! あ、りすしゃんおちりふりふり! くぁーあーいーいー!」
「持ってきた甲斐はありましたけど……ここまではしゃぐだなんて」
「ごめんねしゃなえ、れいむばかだったの。こどもだましだっていってごめんね」
「いいですよ。ちょっと止めますから、ほら、膝に座って」
「はーい……えへへー」
「こうしてる霊夢は可愛いんですけどね」
「……アンタの方がもっと可愛いわよ」
「こ、こら胸に埋まらない!」
「いつもの私は可愛くないって言った罰」
「そういう意味じゃないですって! だから髪の毛拭かせて下さいって!」
「じゃあ私も拭いてあげる。ほら手拭い貸して」
「い、いいですよ自分で…………拭きんん!…………」
「…………ん、まだ言うの?」
「……言ったらまたしてくるんですよね?」
「ならしてやる」
「ちょ、押したお…………ん……ばか霊夢」
「早苗が可愛いからいけないのよ?」
「……一時停止になっているんですけど」
「いいの…………」
「…………もぉ」
そして、今回も自重しないパッチェさん
幼児退行魔理沙が可愛すぎる。
vol3も待ってます
あと夢の国に行きたきゃカネを用意しな!ハハッ