Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

パチュリー・レッドコア

2009/09/21 22:46:20
最終更新
サイズ
17.46KB
ページ数
1

分類タグ

 書斎のドアをぶち破って、小悪魔が叫んだ。
「逃げて下さい! 爆発まであと五分です!」

 来るべき時が来た……そう感じて、私は本を閉じた。

「貴女はここにいなさい。この書斎が、一番安全な場所なのよ」
「じゃパ、パチュリー様は!?」
「私は爆弾を止めに……ごふっ」
 貧血と喘息が同時に襲ってきた。
 案外、悪くないものね。覚悟が決まるってのは……。

 小悪魔が両腕を広げ、道を塞いでいる。
「どきなさい」
 微笑みかける程度の力は残されている。
 決意とは、眼で伝えるもの。小悪魔は涙を流し、道を譲ってくれた。
「パチュリー様ぁ……えっく、えっく」
 カッ。カッッ。
 火打石っ。目の前に火花が散る。
「ご武運を!」
 燃えるわ小悪魔。
 帰ってこれたら、紅茶を飲みながらゆっくりお話しましょう。

 妖精メイド達も恐怖で震えている。
 時間は無いけれど、この子達くらいは……
「爆発するのって紅魔館?」
「うん、紅魔館」
「自爆するのが悪のロマンなんだって」
「それがロマン、紅魔館」
「ケーッタケタケタケタケタケタ」
 意味は分からない。
 無事ロイヤルフレアで吹き飛ばした。

 それにしても……走るのは苦手なのよ。
 ああ、痛い、苦しい。
 これじゃ爆発よりも先に、私が倒れるんじゃない? 大体、こんな思いして駆けつけたところで、私に何ができるっていうの?
 あと三十秒走ったら十秒休むわ。仕方ないじゃない……そう、仕方ないのよ。
「10……20……」
 速いわ。
 少し遅く数えるべきね。
「28……。29……。29.1……29.2……」
 女々しいわ!
 言い訳はもういい、死ぬか走るかよ!


 私は広間に辿り着いた。飛ぶように駆け抜けてきたわ。
 意識は朦朧とするけれど、きっとレミィはここにいる。貴女の声を聞けば、もう少しだけ勇気を出せるの。
 私の名を呼んで、レミィ!
「パチェ!」
「コヒュー、コヒュー」
 呼吸が苦しいわ。

 嗚呼、親愛なるレミィ。お願いよ……爆弾を止めて。
 私たちに言葉など必要ないわよね。この思い、言葉でなく、心で伝えるから! 受け取って!
「カヒュ、ケヒュ、ゲバッ」
「テケリリ、テケリリ?」
 吸血鬼と心なんて通じるはずがなかった。でも咲夜、貴女なら分かってくれるわよね?
 爆弾を壊すから、力を貸して!
「お嬢様、おそらくは例の解説書です」
「だと思ったわ。はい、パチェ」

~自爆のススメ~
はじめに……。
悪を極め、その果てに今滅びんとする諸君に忠告したい。終焉は、美しくなければ終焉ではない。いかなる悪事も、美しき自爆なしに締め括ることはできないのだ。真の自爆とは、周到かつ入念な準備なしに成し遂げられるものではない。昔から、ほろ美の道は一日にして成らずと云う。だが、今正に崩壊せんとする浮遊城の玉座などで初めてこの本を手にした魔王殿も多いことと思われる。そんな読者の為に、三箇条の心得だけでも急ぎ伝えておきたい。第一条、三段高笑いをせよ。最初に己を小さく笑う。己の愚かしさに耐えきれない、といった具合に忍び笑いを洩らすと効果的だ。二段目の笑いが難しい。他人から見た己の滑稽さを感じて笑うのだ。客観的な視点が求められる。敵を誉める気持ちでやると良いだろう。三段目の笑いは天の声が
 パタン。

 ありがとう咲夜。
 本を読んでいてこれほど後悔したのは初めてよ。
「あと十数秒で爆発か……日輪を覆い包む紅霧の夢など、まこと儚く散るものであったな。ふっ、ははは……あーっはっはっは」
「ご立派です、お嬢様」
 あっはっは、死んでしまえ。

 待て。いやいや。こいつら爆発くらいで死なないんじゃ?
 人間より貧弱な私だけが
「咲夜。最期にあれを見たいわ」
「はい。あと三秒で爆発するのがこちら」
 メキャアッ……今度こそ私は時を止めた。
 爪が割れた程度、紅魔館のためならば痛むはずがない。オモチャの鳩時計のような起爆装置の針を、この指先が打ち砕いたのだから。

「ふふ。さすがね、パチェ。でもそれで爆発を抑えたつもりかしら?」
「お嬢様、天井に巨大な人影が!」
「オォー、紅魔館に宿りし邪神よ! 当主たる我が命ずるままに、この館を破壊せよ!」

 天井が、床が、崩れてゆく。
 もう打つ手もつける薬もないわ。私が守ろうとした紅魔館にまで裏切られては……。

「げぇーっ、貴女たち、裏切るつもり!?」
 レミィ、何を言っているの。
 貴女から裏切り者なんて出るはずがないわ。
 私なんかとは……小悪魔と日陰でじめじめうじうじ生きてきた根暗なだけの居候とは、カリスマが違うのよ。
「裏切りではありません、お嬢様」
 美鈴っ?

「では、門番風情が何の用?」
「私の仕事はたった一つなんです。レミリア様、フラン様、咲夜さん。小悪魔や妖精メイド達を……紅魔館の大家族を、この手で守りたい」
「ふん。ならば好きにするがいい。フラン、お前もか」
「私はお姉様がムカつくだけ! メーリン、咲夜を抑えてて」
「御意!」
 私は門番風情にも忘れられた存在なのね。
 死にたい。

「あっそうだ。パチュリー様」
 思い出したように言うな。
「これ紅魔館の物件契約書です。その自慢の知識でどーにか崩壊止めて下さいよお」
 どうしろと? 無茶振りすぎる。
 血みどろの頭でB級ホラーみたいに近寄らないで。気持ち悪い。

「ほう。パチェが紅魔神の試練を受け、私を押しのけて新当主になるというの? 確かに……紅魔神に認められれば館の崩壊は止まるわ。まあ、万に一つの可能性もないけどね。ハーッハッハッハ」

 さすがね。妹様に電気あんまを仕掛けられながらも余裕、綽々として説明をしてくれる。
 私は美鈴のナイフを一本抜くと、その血で契約書にサインした。
 レミィ、これでいいの?

「まあっ、あっ、私は金で、あっ、権利買ったから、本当にそんな試練あっ、あるかどうか知らないけど。ああんっ」




 紅魔館は崩壊した。
 早いもので、あれから十年……。

「あの子達、今頃どこでどうしているかしら?」
 一流企業に就職した私は、今年ついに決心してマンションを購入した。ローンは三十年。
 紅魔館での日々は、こうして古い酒を舐めながら懐かしむだけの存在でいい。
 散り散りになった仲間のことは何も知らない。読書にのめり込んで時間を潰すことも全くしていない。
 私はもうそれでいい。
 小悪魔や妖精たちと暖炉を囲って絵本を読むような温い夢、一度破れてしまえばそれまでなのよ。

 あら……お客さんかしら?
「あけて! パチェ、お願い。私よ」
 久しぶりね。
 親愛なるレミリアさん、ずぶ濡れの狂犬のようになり果てて。
 玄関から中には入らないでね。
「パチェ、ごめんなさい。私が間違ってたわ。紅魔館を失って、皆に捨てられて、気付いたらもう何もなくて、パチェの気持ちがやっと分かったの」
 今更遅いわよ。
 さよなら。
「待って! お願い、貴女に一言だけ伝えさせて。それだけだから。それで帰るから……」
 最期よレミリア。
 私は一言も喋るつもりはないけれど。
「さよならパチェ、百年前から愛してるわ」
 私は強引に玄関のドアを閉めた。さらばレミリア。おかえりレミィ、私の胸で泣きなさい。

 ま、レミィも苦労したらしい。
 中に入れてシャワーを貸してやり、その間にコーヒーを淹れた。砂糖とミルクは自分で入れてね。
「あー、いいお湯だった」
 そういえば流水は平気なのかしら?
 世間の荒波を越えて少しは成長したようね全裸で。
「パチェ、私が着れる服とかない?」
 さすがは幼女の永久保証。まるで性徴していない……。
 こんなこともあろうかと、幼児服を買っておいて良かったわ。
「ガラガラは?」
 ねぇよ。

「ねえ。連帯保証人になってちょうだい」
 うわあ。
「まじめに聞いて。紅魔館を再建するために必要なのよ」
 どう必要なのか説明してみなさいよ。
 無駄だけど。
「詳しくは言えないの。かなり……危ない橋を渡らなきゃいけないから」
 人生は真ん中を渡りなさい。端でふらふらしてると地獄に墜ちるわよ。

「親友の私を信じて! 万一の時は必ず私一人で責任を取るわ。愛する貴女に迷惑はかけたくない……本当はこんなこと、口に出すのも辛かった。怖かった。パチェに嫌われたらどうしよう、どうしようって……そればかり。ただ、今だけは、どうしても保証人が必要なのよ!」

 レミィ、泣かないで。
 私もどうかしていたわ。冷静に考えれば、名前を書くくらいのことで危険なんてあるわけないじゃない。
「ありがとう! あと百年愛してるわ、パチェ。じゃ!」
 もう行くの?
 ゆっくりしていけば良いのに。
「こんな良い話、明日にも流れるかもしれないって言われてるの」
 それなら仕方ないわね。また今度。
 願わくは……紅魔館で皆とお茶を飲みながら、今日という日があったことを、貴女と笑い合えますように。


 あれから五年。私は段ボールに包まれて、少し気が狂っていた。
 でも、天下無敵の無一文よ。

 借金なんて怖くもない。そして至って健康のはず。
 八九丸金融の取り立てに脅えながら過ごした日々よりは、今の方がずっと人間的な暮らしだと思うもの。
 温い段ボールに囲まれながら、蝶々や蜻蛉を相手に談笑するのがマイブーム。みんな変な顔をして逃げてくけどね。

 あら、大物発見。
「パッ……げほげほ!」
 子犬が鎖を引きずって逃げていくわ。なんで鎖の先に巨大な鉄球が付いてるのかしら? ロードローラーってそういう肉体労働だっけ?
 私は段ボールの妖精のようにスキップして、子犬の後を追いかけた。
「えっ……パチェ、私が分からないの?」
 分からないわ。
 分からないわよ。貴女こそ何してんだか。
「私、騙されてたの」
 あらあら。
 子犬の騙され先は安眠施設だと思ってたわ。運が良かったのね。

「ごめんなさい……ごめんなさい……パチェ、正気なんでしょ? そうだと言って……お願い、正気に戻って」
 ……正直ではあるわよ。
 もっともっと狂ってしまえれば人生ラクなのに、人の声を聞くと狂うに狂えなくなってしまう。特に貴女の声だけは、ひどくよく通るわ。
 私は子犬の頭をなでてやった。
 自分が三人にも分裂したようで、頭の中がじりじりとする。人から見ればシュールかもしれない。


「騙されてたの」
 と何度も語るところによると、レミィは貢いでいたらしい。八九丸金融のボス、零無にとことん金をくれてやり、捨てられた。
 結局、何もかも嘘だった。
「違うわよ! 妹が病気で、どうしても金が要ったの!」
 まあ何でもいいわ。私は忙しいのよ。

 伊達に狂人してたわけじゃないんだから。自分に向けられる視線がないってのは、なにぶん快適なもんよ。
 まず一枚目……ロの組696969690……はずれ。
「なあに? 捨ててあった宝くじなんか拾って調べてるの? 馬鹿みたい」
 馬鹿の上にも百年座れば運命が微笑む日だってくるわ。
「どれどれ。一枚見てあげる」
 そうして引いたのが一等当たりくじでした。親愛なるレミィ、グレートよ。

 レミィは紅魔館の再建へ向けて旅立った。
 私たちでは借金の返済で全額消えてしまう。それよりも信頼できる人に預けて使ってもらった方が良い。
 そう言ったのはレミィだった。

「この鉄球は、貴女への罪悪感を質量で表現したものだったのよ! うっ……辛かった。でも貴女に嫌われた心の痛みは、実はこんなもんじゃなかった。こんな辛い思い、二度としたくない。私を信じて、パチェ。紅魔館と紅魔館の仲間に誓って、このお金は正しいことに使うから!」

 紅魔館のためならば仕方ない。私は鎖を外してあげた。
 今頃レミィはどこかを走っているはず。
 さて、私は優雅に散歩でもして時間を潰そうかしら。紅魔館が戻れば、また書斎に籠もりっきりの日々に戻るのだし。

 じゃらん。
 私の足には鎖がついていた。鎖の先には鉄球もついていた。鍵は見つからない。レミィは帰ってこない。
 その後……。
 鉄球を破壊してくれたのは、通りすがりの妹様だったと思う。レミィとは何年も会っていないという。
 私はやっと完全に気が狂ってしまった。


 悲しい時ほど周りがきれいに見える。嬉しい時ほど自分がきれいに見える。
 美しいわ。美しいわ。
 私の心は安息に満ちて、世界は光輝いて見える。
 まるで全てが夢のよう。
 ユニコーンを捕まえたわ。あはは。
「パチェ、痛い。痛い。ゆるして」
 私は天馬に乗って歩き出した。

 あら、茨の冠が落ちてるわ。
「パチェ、それは便座カバーよ」
 あら、お酒が湧く泉だわ。
「パチェ、それは医薬品の不法投棄よ」
 あら、立派なお屋敷が見えてきたわ。
「パチェ、それが私たちのハウスよ」
 紅マ館?

「コウマカン……」
「読めるの?」
 段ボールハウスに汚い文字が書いてある。
 漢字カナ混じりで、
「紅マ館だって。あは、は、は」
 いくらなんでも、もう少し良く書けないものかしら。

「パチェ?」
「私をそう呼ぶ貴女はレミィで良いのかしら?」
「うん」
「ここで私たちは一緒に暮らせるのかしら?」
「うん」
「ならせめて、このマヌケなマの字に屋根と壁をつけてあげましょう」
 私は紅マ館に少しだけ書き足した。
 略式でもいい。
「これでいいわ。ここが紅魔館よ。私たちが住むところ紅魔館なのよ」

 思えば、それ以外は何でも良かったのよ。
 今は辛くても、貴女といられれば、きっとそうなる。
「レミィ、笑いましょう……」
「くすっ」
 人には狂って見えるかもしれない。
 それほどに私は紅魔館を愛している。
「あはは、ははは……」
「あーっはっはっはっは」
 ふっ。
 と視界が暗くなり、全てが夢となって私は帰ってきた。




 紅魔館の崩壊がぴたりと止まった。
「パチェ、あ、あふうっ」
 変な声出さないで。妹様もストップ。これ以上変な趣味に開眼されたらたまらないから。

 ともあれ……試練は乗り越えたようね。私が紅魔館の主よ。
 紅魔神、応えなさい。
「紅美鈴。紅魔館の主として認めよう」
 え? なんで?
 妙にマッチョだった老人の影が、しおしおと痩せて消えてゆく。
 隣を見れば、美鈴がニヤニヤしていた。
「私の血でサインしたんだから、あったり前じゃないっスかー」
 それもそーすねー。私はがっくりと膝を付き、紅魔館の床を殴りつけた。
 カァン。
 天井からタライが降ってきて頭にヒットした。痛いわ。

「ちょっと美鈴」
 ふと気が付けば、レミィが美鈴の胸ぐらを掴んでいる。
「悪いようにはしないわ。権利を売りなさい」
「ありがとうございます! ごちそうさまです!」
 札束のビンタを受けて、美鈴は恍惚とした表情で崩れ堕ちた。
 やれやれ。

「パチェも、とりあえずお疲れ」
 それでレミィ、どうするつもりなの?
 ……レミィ?
「変な夢を見たの。紅魔館を失うことの大きさ……紅魔館で皆と暮らせることの重み……どれも貴女が教えてくれたわ。ほんの、夢の話だけどね」
 そう。
 レミィが差し伸べてくれた手を、私はがっしりと握りしめた。
 光だ。皆の顔に光が戻ってゆく。

 あら小悪魔、一人そんなに険しい顔をしてどうしたの?
「何が大きさだ、何が重みだーっ!」
 小悪魔?


「よくもパチュリー、私の計画を台無しにしてくれたなァー!」
 ど、どうしたというの小悪魔……。
 お腹でも空いたのかしら?
「これほどの面子を爆弾で皆殺しにしてしまえば、私の悪魔としての地位は約束されたようなものだったのに!」
「ま、まさかお嬢様に自爆を勧めたのは……!」
「クククッ。今頃気付くとは間抜けなメイドよ。誰がその本を執筆したと思っている。書斎に悪魔が棲んでいて、おかしいと思わなかったのか?」
 何ですって?
 それが本当なら、まさに悪魔の所業よ。

~自爆のススメ~
小悪魔 著

 でも名前は小悪魔なんだ。
「まだまだー! レミリア派とフラン派が対立するように仕向けたのも、爆弾を用意したのも、全てこの私の仕業だーっ!」
「なんて恐ろしい計画なの……」
 レミィと妹様が抱き合って震えている。

 ぐぬぬ……。
 私の拳に、どこからか力が湧いてくるみたい。
「咲夜さん……先に倒さねばならない敵がいるようです。援護をお願いできますか?」
 咲夜が無言で頷いている。
 ところで小悪魔、私のことはどう思っていたの?
 私は心のどこかで、貴女のことを信じている。
「くそう紅魔館の頭脳め……。お前さえ書斎から動かなければ、計画は成功していたのに……」

 私は両拳を固めて、思いっきり自分の胸を殴りつけた。
「パチェ、気でも触れたの?」
 正気よ。
 強い衝撃を与えれば、しばらくは病気を感じなくなるわ。
 ほら。喘息も貧血も、ぴたりと止んだ。でも胸の痛みによって溢れてきた感情は、意外にも、怒りより……悲しみだった。
「本当に……それだけなの?」
「ど、どういう意味だ?」
「貴女は、一番安全な書斎に私を止めておこうとした。私を助けようとしてくれた。そうでしょ? 私が邪魔なだけなら、他にも方法はあったんじゃない?」
「ぐわあーっ! 言うな、私は悪魔だ! お前なんか、憎み抜いているーっ!」
「……どの道、貴女の負けよ。大人しくなさい、小悪魔」

 こほっ。
 微笑みかけようとしたんだけれど、体力も気力も限界にきたようね。
 咳に血が混じっているわ。
「クククッ。馬鹿めーっ!」
 一瞬だった。
 隙をついた小悪魔があの爆弾を奪い、口から呑み込んでいった。
 やっぱお腹が減ってたんじゃ……。

「こうなったら、この肉体もろとも紅魔館を吹き飛ばしてくれるわ!」
「無駄ね。それはさっきパチェが破壊した」
「馬鹿めーっ! 爆弾を作ったのが誰だか忘れたか」
「そうか、爆弾なんて貴女の体の一部でしかなかったのね!」
「今や、私自身が紅より赤い魔界の爆弾、黒のコア! 威力は元の一千倍! この体が爆発すれば崩壊は幻想郷全土に及ぶだろうーっ!」
 小悪魔の高笑いが響き渡る。
 だめだ力が抜けてゆく。私たちは……遅すぎた。

「パ、パチュリーさん、何か方法は無いんですか?」
 美鈴、無理よ。

「パチュリー様、時間なら私が稼ぎます。知恵を貸して下さい」
 咲夜、無駄よ。

「パチュリー、私もうワガママ言わないから……毎日お風呂入る。歯も磨く。だから立ち上がって!」
 妹様、私はただの貧弱な魔法使いに過ぎないの。
 諦めましょうよ、レミィ……。

「パチェ! この幻想郷には、紅魔館と同じくらいに自分の家を愛する人々がいる! その人達が、何も知らぬままに全てを奪われようとしている! それを救えるとすれば、貴女だけなのよーっ! だから、立ちなさい。パチュリー、ノーレッジ!」

「パチュリーさん!」
「パチュリー様!」
「パチュリー!」
 私の名はパチュリー・ノーレッジ。動かない大図書館と呼ばれる女。
 ふらり。
 と立ち上がって、小悪魔を見つめた。

「こ、この私が怯えているだと……?」
「小悪魔、最後の忠告よ。爆発を止めて」
「馬鹿めーっ! お前に何が出来る!」
「最後の最後よ?」
「答えはノー、だ!」
 私は咲夜に合図を送った。

 次の瞬間、私たちは書斎の隠し部屋に移動していた。
 見なさい小悪魔。
「げぇーっ、宇宙船!」
 そうよ。
 まだ完成していないけれど、貴女を宇宙に運ぶ程度の力はある。
 妹様に合図した。
「ごめんね紅魔館。きゅっ」
 どがっ。
 と天井が砕け散り、もうもうと立ち込める粉塵の隙間から月明かりが差した。
 道はひらいた。でも私は限界かもしれない。
 くらり。
 と目まいがする……。
「パチュリーさん、コーヒーいかがっすか?」
 美鈴が気を使ってくれた。
 苦いなあ。よし、あと三十秒頑張ろう。
「パチュリー様、小悪魔をロケットに押し込めました。いつでも発射して下さい」
 咲夜、ちょっと待って。
 小悪魔に忘れ物よ。
 こうすれば……寂しくはないでしょ。
「あれ? パチェ?」
「さよならレミィ」
 私はロケットに乗り込み、小悪魔と共に、大気圏外へ向けて飛び立った。
 大丈夫。
 きっと私は帰ってくるわ。紅魔館へ……。




 一年が過ぎた。
 私は何事もなかったように、書斎で読書にふけっている。
 いや、少しは変化があった。
「前より、今ある時間を大切に生きるようになったわね」
 そう呟いて、紅茶を口に運んだ。
 それだけだと思う。
「パチュリー様、大変です! 永遠亭が自爆するそうです!」
 小悪魔も無事だった。

「それで、レミィ。また貴女は自爆の手助けをしに行くのね?」
「そういうパチェこそ、また私のロマンを邪魔するつもり?」

 先日、白玉楼は派手に爆発した。例によって主犯は館の主。共犯レミィ。
 私は庭師の少女と一緒になって、必死に止めようとした。
「紅魔館じゃないから、いいじゃない」
 妙にさっぱりとした冥界で、レミィはしれっと言ってのけた。
 
「今度こそ、守ってみせるわ」
「ふっ。もやし魔女に何が出来る?」

 もし……レミィが私にとって何なのか、と聞かれたら、こう答えるでしょうね。
「トモダチでしょ?」
 馬鹿ね。強敵よ。
 ざっ。
 と私たちは肩を並べ、歩き始めた。
 居場所を守る為。ロマンを貫く為。目的は違っていても、同じ場所を目指していると信じて。

‐完‐




「当家にそんな馬鹿はいません」
 八意さんはウサギ鍋を煮込みながら、凍りつくような眼をして言った。
七度目まして。少年誌的な何かの類にしたかったものです。
宇宙で何があったのかも判りませんが、少しなりと楽しんで頂けたらと思います。

前作はコメント頂きありがとうございました。
http://coolier.sytes.net:8080/sosowa/ssw_p/?mode=read&key=1252732485&log=49
毎回あれですが、特に読み難かったんじゃないかと思います。温かいコメントを本当にありがとうございます。
かっぱ巻き風味
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
共犯レミィw
癖になったのか。
2.名前が無い程度の能力削除
キン肉かよ!(げぇーっ
ヤク〇かよ!(八九丸
予知夢かよ!(これはひどい
小悪魔かよ!(なんという悪魔
飛ぶのかよ!(ロケット
いるのかよ!(一年後
いないのかよ!(永遠亭の馬鹿

ハァ、ハァ・・・なんだこの作品、実際の文章量より数倍長く感じる。
ウサギは鈴仙か、それとも・・・
3.名前が無い程度の能力削除
てゐだろ。
4.名前が無い程度の能力削除
てゐだな。
5.名前が無い程度の能力削除
てゐですね。