「にゃん」
私は自室のソファに腰をおろして毛並みのいいお燐の背中を撫でていた。さらさら、ふわふわという形容がまさにぴったりな手触り。気持ちがいい。
お燐もうつらうつらしているし、とても気持ちよさそうだ。
あぁ、これこそ癒しだろう。
ペットなんて可愛ければいい。可愛ければ。
戦闘力なんて二の次でよい。
「お燐、そろそろおやつにしましょうかね」
お燐はピンと耳を立てると、目を開いた。
そして人型にチェンジ。
薄い煙幕が私の膝元で炸裂した。煙くはないけど鬱陶しい。
「わ~い!」
「お空を呼んで来なさい」
「は~い!」
お燐は一目散に走って行った。
「おやつは……何にしましょうか」
地霊殿には料理が得意なペットもたくさんいる。
しかしたまには作ってあげるのもいいかと思う。主人として。
適当に模索した結果、ドーナツを作ることに決めた。
材料を冷蔵庫から取り出す。
「お姉ちゃん、何してるの?」
声がしたので振り向くと鼻が触れ合ってしまいそうなほど近くに、こいしがいた。
「近いですよ」
こいしはクスクスと笑うと私に抱きついてきた。
甘い匂いが鼻腔をくすぐる。
「ちょっと」
しっかりと腰を抱えられたせいで、逃げられない。
こいしは一度万遍の笑みを作ったかと思うと、そのまま唇を重ねてきた。
柔らかくて、気持ちのいい感触。
頭がポンッとポップコーンのように弾けた。
「――何をするのっ」
こいしを突き飛ばして、私は言った。
尻もちをついたこいしは腰をさすりながら「痛たた……」と唸った。
「冗談のつもりだったのに」
「冗談になってませんでしたよ。罰として今日のおやつは抜きです」
「いいよ。私のおやつはお姉ちゃんにするから」
何を言っているのやら。
こいしは悪戯っ子のように舌を出して笑うと、キッチンを走って出て行った。
私は溜息をついて調理に取りかかった。
私の側近のペット、少なくとも三十人分のおやつ。
なかなか重労働だ。
作りながらこいしの事を考える。
張り付いた笑顔の、感情の籠らない笑い。見ていて痛々しいような、そんな笑い。
地上の人間たちに会ってからこいしは変わった。本物の笑顔を見せるようになった。
この変化はよい変化なのか、悪い変化なのか。
私は嬉しい。輝くような笑顔がいいに決まっている。
でも、もし目が開いて、そして再度閉じざるを得ないような目に遭ってしまったら。今度こそこいしは立ち直れないだろう。
それを考えると、どうともいえない。
私は心配症なのか。
「っと」
気が付くと、いつの間にか大量のドーナツが大皿に敷き詰められていた。
こういう時、変な気分になる。まるで何かが自分を乗っ取って操ったかのような不快感。こいしは常時こんな状態なのだろう。私は耐えられない。とても。
私とお燐とお空とこいしの分をとって、その大皿をあるペットに渡した。
そして皆で分けて食べてと言い、それを運ばせた。
私は四人分のおやつを居間に運ぶ。
居間にはすでにお燐とお空が待機していた。
「こんにちわ、さとり様」
お空は合いも変わらず堅苦しい。手に取り付けている制御棒は外してきたようだ。綺麗な白い手が膝の上に置かれている。
「お姉ちゃんの作ったおやつは美味しそうだねぇ」
お燐がとお空の間にこいしがいた。二人とも吃驚して跳び上がった。
そりゃ驚くわ。
「こいし様、いつからそこに」
「今しがた」
お空の問いかけに答えながら、こいしはケタケタと笑った。
「人を脅かすのはやめなさい」
「そんなつもりはないんだけどなぁ」
ドーナツをテーブルの上に下ろした。
香ばしい匂いが室内を包んでいく。
「結局私の分も用意してくれたんだ」
「情けですよ。ありがたく思いなさい」
私は甘いなぁ。でも仕方ない。可愛い妹の事だもの。
「お姉ちゃん、私も飲み物を作って来たんだよ」
……飲み物?
「実はさっき、守矢神社に遊びに行ってね。早苗と一緒に作って来たの」
こいしは竹筒を取り出した。
甘い匂いが漂ってくる。
「何ですか?」
「フルーツ(笑)ジュースだよ」
何だ(笑)って。
こいしはふらりと立ち上がって、グラスを三つ台所から持ってきた。
そしておもむろに注ぎ始める。
「これがお空の分ね」
とろとろとした液体がグラスに注がれる。フルーティな香り。意外と美味しそうだった。
「ありがとう。こいし様」
「お燐の分」
とろとろ。
「ありがとうございます、こいし様」
「最後に――」
こいしは懐から小さな紙片を取り出した。
そして、その中に入れられていた粉をグラスに注いでいく。
さらさら。
そして先ほどのようにフルーツ(笑)ジュースをグラスに入れた。
とろとろ。
呆気にとられる周りを無視して、こいしはそれを私に突き出してきた。
「はい、お姉ちゃん」
まさか目の前で堂々と盛られるとはね。
「どうしたの? 飲まないの?」
「い、いえ。頂くよ。ねぇお燐」
「は、はい。頂きます」
二人のフルーツ(笑)ジュースは瑞々しい薄オレンジ色をしていて――とても美味しそうだった。
「わぁ! 凄く美味いよ! こいし様」
「ほんとだ! 美味しいです!」
「いろいろな果物を混ぜて作るんだよ。バナナとか、みかんとか、パイナップルとか」
私のフルーツ(笑)ジュースは毒々しい黒紫色をしていて――とても美味しそう、なわけあるか。
「ぅおい!」
テーブルを叩いて立ち上がると、こいしはとても吃驚していた。
「どうしたの? お姉ちゃん。早く飲まないと温くなっちゃうよ」
「飲めるか! 何を入れたのですか!? 守矢神社で何を学んだのですか!?」
「内緒。でも悪い事じゃないよ」
あの神様たちは信用できん。
「とにかくこんなあからさまに毒物を盛られてなおそれを飲むほど、私はお人よしじゃありません」
「……飲んでくれないの?」
「飲みません」
「……折角お姉ちゃんのために」
「くどい」
言うと、こいしは俯いた。
そして肩をふるわせ始める。
「……っく、うふ……」
「……こいし?」
まさか。
心を閉ざしているこいしが泣くなんて、そんな。
少し焦ると、こいしは顔を上げた。
「くくくくっ」
背筋に冷たいものが走る。こいしの目に光はなかった。
こいしは堪え切れないというように、大口を開けた。
「……っくっくっくふふふふっあははははっうあはははははははははっ!」
……泣いていたんじゃない。
笑っていたんだ。
どういう思考回路でこうなったのか、私には知るすべがない。
しかし長年姉をやって来た私にはわかる。
これはまずい。
とてもまずい。
呆然とする両サイドと愕然とする私。
「(さとり様っ。飲んでください! 飲むべきです!)」
この猫、人ごとだと思いやがって。
「(さとり様の姉としての威厳を見せる時だよっ。この人唯でさえ何しだすか分かんないのにこれ以上病んだら地霊殿が滅亡しちゃうよ!)」
この烏、いやもっともだが。
「(大丈夫! シスコンのさとり様なら死にません!)」
根拠になってねえ。
「(さとり様ラブなこいし様なら悲惨な拷問こそすれ、いきなり死に至らしめるような毒物を盛ることはない! と思うよ!)」
確証はないのか。
ダンッ!
こいしが空になった竹筒をテーブルに叩きつけた。
びくっと肩を跳ねさせる。
こいしは突然ぴたりと笑い止んで、こっちを見た。
氷の様な視線。
「ねぇ、お姉ちゃん」
こいしはとつとつと言った。
「飲ま、ない、の?」
冷めきった目。それなのに、可愛らしく傾く首。
私は冷たい汗を流して、言った。
「……の、飲みます、よ」
こいしはにやぁっと口元を歪ませた。
手に持っている砕けた竹筒が、みしりと音を立てて潰れた。
「そうだよね。せっかく私が作ったんだもん。お姉ちゃんが断るわけないよ」
せっかく作ったのは、ジュースの方か粉末の方か。
我が妹ながら病んでやがる。
「(もしさとり様が倒れたら、私が二十四時間付きっきりで看病しますから! いえむしろ倒れてください! いろいろな処理とかさせてください!)」
「(さとり様を死ぬほど拷問するのは私なんだから! だからもし死ぬような目に遭っても私が頑張って助けるよ!)」
この二人も似たようなもんか。
くそぅ。
私は意を決して、その死相色のグラスを持ちあげた。
「(今更ですけど、私、ずっとさとり様の事をお慕いしていました! 手足を引き千切って私だけのさとり様にしたいと、昔から思っていました!)」
知っとるわ。だからこうして常に身の回りにおいて危険思想に伴う行動を封じようとしとるんじゃい。
「(こいし様に取られても、絶対私が取り返すわ! さとり様の両目を焼き潰すのは私だもん! ちゃんと脳みそも抉ってあげるから心配しないで!)」
畜生、こいつらほんと危ないな。マジで目を放せん。裏で何企んでるかわからん。
私は、意を決してそれを喉の奥に流し込んだ。
「……どう?」
意外、というか。
「お、美味しい――」
こういう展開の時は。
何故か美味い!
うわぉ意外!
わーいハッピー!
そういうものだと思っていたのに。
「――わけあるかぁ!!」
私はグラスを放り投げた。窓から外に飛び出していった。
独特の苦みと臭みが口の中に広がって鼻の中の侵食する。
口に残ってる分だけでも吐き気を催すような味だった。
「大丈夫だよ。すぐに好きになるよ」
いつの間にか隣に来ていたこいしに、顎を引き上げられる。
ドクンッと心臓が波打った。
「な、にを、盛っ……」
急に周りの空間が捻じれた。
私は体を支え切れなくなって、こいしに身を預けた。
「引っかかったね。実は痺れ薬を混ぜておいたの」
見てたわ。リアルタイムで。
「早苗みたいに美味くいかなくて……調合に失敗して無味無臭にはならなかったけど。ごめんね。さ、私の部屋に行こうね。可愛がってあげるからね、お姉ちゃん」
意識を失いかけた私の耳に、声が届いた。
「ダメですよこいし様! そんなの認めません!」
「そうだそうだ! 薬を使って乱暴するなんて酷すぎるよ!」
あぁ、お燐、お空。
「(さとり様は私のワタシのわたワワワワタワタワタワタシノモノ私だけのモノ――)」
「(薬で乱暴、凄く羨ましい! そんなのさせてなるか! さとり様をぐちゃぐちゃにするのは私だもんね!)」
こいつら、全員病気だ。
私以外まともな奴いねぇよ。
私は意識を失わないように頑張る。無駄なことかもしれないけれど。
……それにしても。
霊夢、監禁したいなぁ。
私は自室のソファに腰をおろして毛並みのいいお燐の背中を撫でていた。さらさら、ふわふわという形容がまさにぴったりな手触り。気持ちがいい。
お燐もうつらうつらしているし、とても気持ちよさそうだ。
あぁ、これこそ癒しだろう。
ペットなんて可愛ければいい。可愛ければ。
戦闘力なんて二の次でよい。
「お燐、そろそろおやつにしましょうかね」
お燐はピンと耳を立てると、目を開いた。
そして人型にチェンジ。
薄い煙幕が私の膝元で炸裂した。煙くはないけど鬱陶しい。
「わ~い!」
「お空を呼んで来なさい」
「は~い!」
お燐は一目散に走って行った。
「おやつは……何にしましょうか」
地霊殿には料理が得意なペットもたくさんいる。
しかしたまには作ってあげるのもいいかと思う。主人として。
適当に模索した結果、ドーナツを作ることに決めた。
材料を冷蔵庫から取り出す。
「お姉ちゃん、何してるの?」
声がしたので振り向くと鼻が触れ合ってしまいそうなほど近くに、こいしがいた。
「近いですよ」
こいしはクスクスと笑うと私に抱きついてきた。
甘い匂いが鼻腔をくすぐる。
「ちょっと」
しっかりと腰を抱えられたせいで、逃げられない。
こいしは一度万遍の笑みを作ったかと思うと、そのまま唇を重ねてきた。
柔らかくて、気持ちのいい感触。
頭がポンッとポップコーンのように弾けた。
「――何をするのっ」
こいしを突き飛ばして、私は言った。
尻もちをついたこいしは腰をさすりながら「痛たた……」と唸った。
「冗談のつもりだったのに」
「冗談になってませんでしたよ。罰として今日のおやつは抜きです」
「いいよ。私のおやつはお姉ちゃんにするから」
何を言っているのやら。
こいしは悪戯っ子のように舌を出して笑うと、キッチンを走って出て行った。
私は溜息をついて調理に取りかかった。
私の側近のペット、少なくとも三十人分のおやつ。
なかなか重労働だ。
作りながらこいしの事を考える。
張り付いた笑顔の、感情の籠らない笑い。見ていて痛々しいような、そんな笑い。
地上の人間たちに会ってからこいしは変わった。本物の笑顔を見せるようになった。
この変化はよい変化なのか、悪い変化なのか。
私は嬉しい。輝くような笑顔がいいに決まっている。
でも、もし目が開いて、そして再度閉じざるを得ないような目に遭ってしまったら。今度こそこいしは立ち直れないだろう。
それを考えると、どうともいえない。
私は心配症なのか。
「っと」
気が付くと、いつの間にか大量のドーナツが大皿に敷き詰められていた。
こういう時、変な気分になる。まるで何かが自分を乗っ取って操ったかのような不快感。こいしは常時こんな状態なのだろう。私は耐えられない。とても。
私とお燐とお空とこいしの分をとって、その大皿をあるペットに渡した。
そして皆で分けて食べてと言い、それを運ばせた。
私は四人分のおやつを居間に運ぶ。
居間にはすでにお燐とお空が待機していた。
「こんにちわ、さとり様」
お空は合いも変わらず堅苦しい。手に取り付けている制御棒は外してきたようだ。綺麗な白い手が膝の上に置かれている。
「お姉ちゃんの作ったおやつは美味しそうだねぇ」
お燐がとお空の間にこいしがいた。二人とも吃驚して跳び上がった。
そりゃ驚くわ。
「こいし様、いつからそこに」
「今しがた」
お空の問いかけに答えながら、こいしはケタケタと笑った。
「人を脅かすのはやめなさい」
「そんなつもりはないんだけどなぁ」
ドーナツをテーブルの上に下ろした。
香ばしい匂いが室内を包んでいく。
「結局私の分も用意してくれたんだ」
「情けですよ。ありがたく思いなさい」
私は甘いなぁ。でも仕方ない。可愛い妹の事だもの。
「お姉ちゃん、私も飲み物を作って来たんだよ」
……飲み物?
「実はさっき、守矢神社に遊びに行ってね。早苗と一緒に作って来たの」
こいしは竹筒を取り出した。
甘い匂いが漂ってくる。
「何ですか?」
「フルーツ(笑)ジュースだよ」
何だ(笑)って。
こいしはふらりと立ち上がって、グラスを三つ台所から持ってきた。
そしておもむろに注ぎ始める。
「これがお空の分ね」
とろとろとした液体がグラスに注がれる。フルーティな香り。意外と美味しそうだった。
「ありがとう。こいし様」
「お燐の分」
とろとろ。
「ありがとうございます、こいし様」
「最後に――」
こいしは懐から小さな紙片を取り出した。
そして、その中に入れられていた粉をグラスに注いでいく。
さらさら。
そして先ほどのようにフルーツ(笑)ジュースをグラスに入れた。
とろとろ。
呆気にとられる周りを無視して、こいしはそれを私に突き出してきた。
「はい、お姉ちゃん」
まさか目の前で堂々と盛られるとはね。
「どうしたの? 飲まないの?」
「い、いえ。頂くよ。ねぇお燐」
「は、はい。頂きます」
二人のフルーツ(笑)ジュースは瑞々しい薄オレンジ色をしていて――とても美味しそうだった。
「わぁ! 凄く美味いよ! こいし様」
「ほんとだ! 美味しいです!」
「いろいろな果物を混ぜて作るんだよ。バナナとか、みかんとか、パイナップルとか」
私のフルーツ(笑)ジュースは毒々しい黒紫色をしていて――とても美味しそう、なわけあるか。
「ぅおい!」
テーブルを叩いて立ち上がると、こいしはとても吃驚していた。
「どうしたの? お姉ちゃん。早く飲まないと温くなっちゃうよ」
「飲めるか! 何を入れたのですか!? 守矢神社で何を学んだのですか!?」
「内緒。でも悪い事じゃないよ」
あの神様たちは信用できん。
「とにかくこんなあからさまに毒物を盛られてなおそれを飲むほど、私はお人よしじゃありません」
「……飲んでくれないの?」
「飲みません」
「……折角お姉ちゃんのために」
「くどい」
言うと、こいしは俯いた。
そして肩をふるわせ始める。
「……っく、うふ……」
「……こいし?」
まさか。
心を閉ざしているこいしが泣くなんて、そんな。
少し焦ると、こいしは顔を上げた。
「くくくくっ」
背筋に冷たいものが走る。こいしの目に光はなかった。
こいしは堪え切れないというように、大口を開けた。
「……っくっくっくふふふふっあははははっうあはははははははははっ!」
……泣いていたんじゃない。
笑っていたんだ。
どういう思考回路でこうなったのか、私には知るすべがない。
しかし長年姉をやって来た私にはわかる。
これはまずい。
とてもまずい。
呆然とする両サイドと愕然とする私。
「(さとり様っ。飲んでください! 飲むべきです!)」
この猫、人ごとだと思いやがって。
「(さとり様の姉としての威厳を見せる時だよっ。この人唯でさえ何しだすか分かんないのにこれ以上病んだら地霊殿が滅亡しちゃうよ!)」
この烏、いやもっともだが。
「(大丈夫! シスコンのさとり様なら死にません!)」
根拠になってねえ。
「(さとり様ラブなこいし様なら悲惨な拷問こそすれ、いきなり死に至らしめるような毒物を盛ることはない! と思うよ!)」
確証はないのか。
ダンッ!
こいしが空になった竹筒をテーブルに叩きつけた。
びくっと肩を跳ねさせる。
こいしは突然ぴたりと笑い止んで、こっちを見た。
氷の様な視線。
「ねぇ、お姉ちゃん」
こいしはとつとつと言った。
「飲ま、ない、の?」
冷めきった目。それなのに、可愛らしく傾く首。
私は冷たい汗を流して、言った。
「……の、飲みます、よ」
こいしはにやぁっと口元を歪ませた。
手に持っている砕けた竹筒が、みしりと音を立てて潰れた。
「そうだよね。せっかく私が作ったんだもん。お姉ちゃんが断るわけないよ」
せっかく作ったのは、ジュースの方か粉末の方か。
我が妹ながら病んでやがる。
「(もしさとり様が倒れたら、私が二十四時間付きっきりで看病しますから! いえむしろ倒れてください! いろいろな処理とかさせてください!)」
「(さとり様を死ぬほど拷問するのは私なんだから! だからもし死ぬような目に遭っても私が頑張って助けるよ!)」
この二人も似たようなもんか。
くそぅ。
私は意を決して、その死相色のグラスを持ちあげた。
「(今更ですけど、私、ずっとさとり様の事をお慕いしていました! 手足を引き千切って私だけのさとり様にしたいと、昔から思っていました!)」
知っとるわ。だからこうして常に身の回りにおいて危険思想に伴う行動を封じようとしとるんじゃい。
「(こいし様に取られても、絶対私が取り返すわ! さとり様の両目を焼き潰すのは私だもん! ちゃんと脳みそも抉ってあげるから心配しないで!)」
畜生、こいつらほんと危ないな。マジで目を放せん。裏で何企んでるかわからん。
私は、意を決してそれを喉の奥に流し込んだ。
「……どう?」
意外、というか。
「お、美味しい――」
こういう展開の時は。
何故か美味い!
うわぉ意外!
わーいハッピー!
そういうものだと思っていたのに。
「――わけあるかぁ!!」
私はグラスを放り投げた。窓から外に飛び出していった。
独特の苦みと臭みが口の中に広がって鼻の中の侵食する。
口に残ってる分だけでも吐き気を催すような味だった。
「大丈夫だよ。すぐに好きになるよ」
いつの間にか隣に来ていたこいしに、顎を引き上げられる。
ドクンッと心臓が波打った。
「な、にを、盛っ……」
急に周りの空間が捻じれた。
私は体を支え切れなくなって、こいしに身を預けた。
「引っかかったね。実は痺れ薬を混ぜておいたの」
見てたわ。リアルタイムで。
「早苗みたいに美味くいかなくて……調合に失敗して無味無臭にはならなかったけど。ごめんね。さ、私の部屋に行こうね。可愛がってあげるからね、お姉ちゃん」
意識を失いかけた私の耳に、声が届いた。
「ダメですよこいし様! そんなの認めません!」
「そうだそうだ! 薬を使って乱暴するなんて酷すぎるよ!」
あぁ、お燐、お空。
「(さとり様は私のワタシのわたワワワワタワタワタワタシノモノ私だけのモノ――)」
「(薬で乱暴、凄く羨ましい! そんなのさせてなるか! さとり様をぐちゃぐちゃにするのは私だもんね!)」
こいつら、全員病気だ。
私以外まともな奴いねぇよ。
私は意識を失わないように頑張る。無駄なことかもしれないけれど。
……それにしても。
霊夢、監禁したいなぁ。
あぁでもエピキュリアン霊夢なら全部受け入れるのかなぁ……
最高だなっ!
さとりんの危険が危ない(笑)
ダークなのに面白いwこいしちゃんlove
それはさておき霊夢監禁してぇ(ぉ
誤字
「~万遍の笑み」は「~満面の笑み」ですかね?
って感じですなw
みんな妖怪だもん、多少イカれてても無問題!
登場人物の性格がダークなのに、ギャグテイストな所がとてもイイです。
このキャラとこのテンポで続編が出ることに期待したい今日この頃。
小兎姫「霊夢を監禁と聞いて歩いてきました」
いろいろ想像して笑った。
あけるなきけん