吹く風が少し冷たくなり、山に生える木々もだんだんと緑から紅に変わっていく。
そんな秋の始まりが幻想郷中にあふれ、ここ博麗神社にも訪れていた。
「ふう。まったく、葉っぱさえ落ちてこなきゃいい季節なんだけどね」
そこには、文句を言いながら、境内に落ちたばかりの葉っぱをかき集めている霊夢の姿があった。
「落ち葉で焼く芋もないし。まったく、楽しみのない掃除なんて面倒なだけだわ。」
ザッザッっと箒で落ち葉をかき集める霊夢。そこにはやる気というものは全く感じられない。
見るからに適当に、境内の真ん中に落ち葉を集めている。
「さてと。あらかた集めたし、お茶でも飲むか」
集めた落ち葉の量に満足しながら、掃除道具を片付けようとした時だった。
ガサッ。
と、何かが動く音がした。
「ん?何かしら」
音の原因を探そうと周りを見回してみても、あるのは集めた落ち葉と人が自分しかいない境内である。
不思議に思いながらも、気のせいと結論づけて、霊夢が再び納屋へ向かおうとする。
すると今度は、
「----------っ!ーーーーーーーーーせっ!」
と、誰かの声のようなものが聞こえた。
「なんなのよ、もう」
今度は細かにまわりの様子を見る。すると、かき集めた落ち葉の山の真ん中が、震えるようにかすかに動いているのが見えた。
霊夢は恐る恐る近づき、落ち葉の山に耳を向けてみる。すると、
「出せーーーーーーーーーっ!葉っぱに、溺れるーーーーっ!」
という声が聞こえる。
嫌な予感がしながらも、今度は落ち葉の山に思い切って手を突っ込んで葉っぱをかき分けた。
「けほっけほっ。何すんだこの巫女!葉っぱに溺れるとこだったじゃないか、このやろ~!」
その結果、こっちに向いて叫ぶ秋穣子を掘り出してしまった。
しかし、その様子はいつもの穣子ではなく、霊夢は少し呆気にとられてしまった。
「あんた、どうしたの?」
「あんたが箒でここに突っ込んだんだろうが!おかげで死ぬところだったわ」
服についた葉っぱや土をを払いながらそう答える穣子。しかし、霊夢が気になったのはそこではない。
「いや、そうじゃなくて」
「なによ」
「あんた、縮んでない?すごくちっちゃいけど」
そう言われ、穣子は首元をつかまれ持ち上げられる。その姿はいつもより小さく、20センチぐらいしかなかった。
「やめろ~。はなせ~」
「うわ、本当に小さっ。一体どうしたの?」
「そういえば、あんた今日はやけにでかいわね。成長期?」
「そこまででかくなるわけないだろ。いや、縮むのもありえないけど」
そう言われて、自分の姿をマジマジと見てみる穣子。
「やべー!マジで縮んでんじゃん!」
「だからそう言ったでしょ」
「なんで?どして?」
「しらないわよ。こっちが聞きたいわ」
小さくなった穣子の首元を掴んだまま縁側までもっていき、座布団に座らせる。
ちょっと投げるように置かれた穣子は、座布団の上でころんと転がる。
「あう~」
「ちゃんと座りなさいよ」
「じゃあ、なげるな」
転がった場所からトコトコと歩いて、ポフッっと座布団の真ん中に座る。
その一連の行動は小動物を連想されるのには十分だった。
「あんた、どうして縮んだのか自分で分かんないの?」
「一切わからん。気がついたら、あんたに箒でかき集められてたから」
「ふうん」
「それより喉かわいた。茶とかないの?」
縮んだことにまったく困った様子もなく、霊夢の顔を見上げながら茶を要求する。
「あんたに出す茶はない」
「おいおい、君は実にけちだな」
「うるさい。また葉っぱに埋めるわよ」
「やれるもんならやってみな!」
「よし、そこに火をつけて焼きイモにしよう」
「あっ、それはやめて~」
急いで逃げようとする穣子。しかし小さくなっているため一歩がかなり小さく、動きも遅い。その結果、すぐに両手でつかまれてしまった。
「ああ、しまった~」
「ふふ。さて、どうしてくれようかしら」
「やめてよ。はなせよ~」
霊夢の手の中でじたばたと暴れ、逃げようとするが、がっちりと掴まれているため全く逃げ出せない。
そんな穣子に霊夢はやれやれと呆れながら、再び座布団の上に座らせた。
「冗談よ冗談。そこで待ってなさい。今、お茶入れてきてあげるから」
「おお、ホントか?やった~」
両手を上げてやったーと全身で喜ぶ穣子。その仕草はとても幼い。
(ちっちゃくなって、中身も小さくなってんじゃないでしょうね)
そう思いながら、霊夢は二つのお茶を入れるため、台所に向かった。
=============================================================
霊夢が台所から戻ってみると、穣子は赤く染まった紅葉の葉っぱを抱きしめながら、うっとりとした表情で座布団の上をごろごろ転がっていた。
「何してんの、あんた」
「ああ、巫女か。これ、秋の香りがするから気持ちよくって」
「変なことをするな」
「変なこととは失礼な。これは栄養補給だぞっ」
「はいはい。それと、これお茶」
「ああ、ありがと」
そう言って葉っぱを脇に置き、湯呑みを受け取ろうとした穣子だったが、今の穣子には湯呑みが大きすぎた。
がっしりと、両腕で抱きつくような形で受け取らなければならなかったのだ。そしてその中身は淹れたてのお茶である。熱々である。
「あちいっ!」
といって湯呑を床に置いた後、またごろごろと転がり始めた。
「あっちいよ!全身やけどするかと思ったわ!」
「注意しなさいよ、それくらい」
「茶を飲むのも命がけってか。どんなびっくり体験だいこれは」
「いや、縮むこと自体びっくり体験でしょうが」
「おお、確かにそうだな。賢いな巫女」
「霊夢よ。名前ぐらい覚えさないよ神様」
「努力はする」
置かれた湯呑みの縁に両手をかけ、ふうふうと息を熱いお茶に吹きかけ始める穣子。しかしお茶の量が量である。
今の穣子にとって、お風呂といった方がいいかもしれない大きさの湯呑みに注がれたお茶が、そう簡単に冷めるはずがなかった。
「あついよう。飲めないよう」
顔に湯気を浴びながら、穣子は冷めないお茶に涙目になる。
その様子を片目で見ていた霊夢は、はあっとため息を吐いた後、穣子の湯呑みを手に取る。
「仕方ないから私が冷ましてあげるわよ。ちょっと待ってなさい」
ふうふうと代わりに冷まし始める。その様子を下から見上げる穣子。
「意外とやさしいんだな、巫女」
「意外は余計よ。あと、霊夢だって言ってるでしょ」
「ああ、そうだった。やさしいんだな霊夢」
「それほどでもあるわ。はい、もう冷めたわよ」
「おお、あんがと~」
ことっと目の前に置かれた湯呑みに、先ほどと同じように両手をかける。
そのままゆっくりと傾け、ごくごくとお茶を飲む。
「ぷはあっ。うまい」
「当たり前でしょ。博麗特製のお茶よ」
「でも安っぽい!」
「うっさいわ!」
ぴしっ!と飛ぶ霊夢のデコピン。確実に脇腹をとらえて、真横に吹っ飛ばした。
あう~。と倒れた穣子だが、すぐに立ち上がって顔を真っ赤にして叫ぶ。
「痛いじゃないか!霊夢!」
「あんたがいけないんでしょ。人ん家のお茶を安いとかいうから」
「でも、デコピンを決めることはないじゃないか!」
「いや、それは割と普通じゃ」
「結構痛かったんだぞう。びっくりしたんだぞう」
だんだんと声が小さくなり、そして蚊が鳴くような音まで小さくなる。伏せた顔を良く見ると、目に涙をためているようだった。
「いたかったんだぞう・・・」
「はいはい、ごめんね」
「びっくりしたんだぞう」
「もう、泣かないでよ」
「泣いてない!」
ぐすぐすと言いながら強がる穣子。しかし、その言葉とは裏腹に泣いていることがばればれである。
「・・・分かったわよ。おやつ食べる?それで許してくれるかしら」
「食べる!」
「分かったわ。じゃあ今持ってくるから」
「やったね!」
涙を拭きながら「おやつだ~」と喜ぶ穣子。本当に中身も少し、小さくなってしまっているようだ。
===========================================================
太陽は傾き、まるで紅に染まりかけた山々を急かすように真っ赤に染める。所謂、夕方という時刻になっていた。
博麗神社の境内も真っ赤に染まり、その真ん中にはいまだに葉っぱの山が、片付けられることなく佇んでいる。
そこから見える縁側には、相変わらずお茶をすすっている巫女と、座布団の上で丸くなり寝てしまっている神様がいた。
「おーい。起きろ~」
「うーん。むにゃ・・・。あと二季節~」
「どれだけ待たせるのよ。ほら起きなさい。もう夕方よ」
「ほえっ。あ、ほんとだ」
むくっと起き上がる穣子。その顔にはさっきまで顔をつけて寝ていた座布団の模様がついている。
「ふわあ、よく寝た」
「寝すぎよ。おやつのどら焼きを半分食べたかと思ったら、そのまま寝るんだもん」
「ああ、どら焼きも美味しかったな」
先ほど食べたどら焼きに思いを馳せて、顔をだらしなく緩める穣子。
そんな様子を見て、霊夢はため息をはきながら尋ねる。
「で、どうするの?元に戻ってないけど」
相も変わらず縮んだままの穣子。時間は解決してくれなかった。
「へ?どうするってどういうこと?」
「これからよ。どうしてもって言うなら、泊めてあげないこともないわよ」
それを聞いて、う~んと考える。しばらく悩んだあと、うんと頷いて返事をする。
「いや、いいや。帰る。姉さんも心配してるだろうし」
「ふうん。そう」
「うん。でも、悪いねなんか。今日一日世話になっちゃった」
「まあいいわよ。私も話し相手になってもらったしね」
「そう?じゃあ良かったかな」
景色を紅く照らす太陽が、だんだんと山と山の間に沈んでいく。
「じゃあ、帰るね。今日はありがと」
「なんのなんの。神様を接待するのが巫女の仕事だからね。それより帰れるの?小さいままで」
「う~ん。まあ、何とかなるでしょ」
「ああ、あんた神様だもんね」
「うん。神様だから大丈夫!」
ふわっと浮かびちょうど霊夢と同じ視線になる。そして霊夢の顔を見てニコッと笑う。
「じゃあね霊夢。楽しかったよ」
「ええ、今度は普通の大きさになってから来なさいね、穣子」
「わかった」
手を振りながら太陽の方向に飛んでいき、やがて完全に太陽が沈むのと同時に穣子は見えなくなった。
二つある湯呑みを片付けようとすると、境内に吹いてきた風は少し寒かった。
寒くなりつつある夜に、秋が近付いているのを感じた霊夢は、今日は布団を新しく出そうと決めて、台所へ入っていった。
縁側には、残された二つの座布団が太陽の代わりに現れた月に照らされていた。
==========================================================
「ヤッホー!霊夢ー!遊びに来たよ」
「あら穣子。大きさ元に戻ってんじゃないの。どうやって治したの?」
「芋食べたら治った!」
「どんだけー」
そんな秋の始まりが幻想郷中にあふれ、ここ博麗神社にも訪れていた。
「ふう。まったく、葉っぱさえ落ちてこなきゃいい季節なんだけどね」
そこには、文句を言いながら、境内に落ちたばかりの葉っぱをかき集めている霊夢の姿があった。
「落ち葉で焼く芋もないし。まったく、楽しみのない掃除なんて面倒なだけだわ。」
ザッザッっと箒で落ち葉をかき集める霊夢。そこにはやる気というものは全く感じられない。
見るからに適当に、境内の真ん中に落ち葉を集めている。
「さてと。あらかた集めたし、お茶でも飲むか」
集めた落ち葉の量に満足しながら、掃除道具を片付けようとした時だった。
ガサッ。
と、何かが動く音がした。
「ん?何かしら」
音の原因を探そうと周りを見回してみても、あるのは集めた落ち葉と人が自分しかいない境内である。
不思議に思いながらも、気のせいと結論づけて、霊夢が再び納屋へ向かおうとする。
すると今度は、
「----------っ!ーーーーーーーーーせっ!」
と、誰かの声のようなものが聞こえた。
「なんなのよ、もう」
今度は細かにまわりの様子を見る。すると、かき集めた落ち葉の山の真ん中が、震えるようにかすかに動いているのが見えた。
霊夢は恐る恐る近づき、落ち葉の山に耳を向けてみる。すると、
「出せーーーーーーーーーっ!葉っぱに、溺れるーーーーっ!」
という声が聞こえる。
嫌な予感がしながらも、今度は落ち葉の山に思い切って手を突っ込んで葉っぱをかき分けた。
「けほっけほっ。何すんだこの巫女!葉っぱに溺れるとこだったじゃないか、このやろ~!」
その結果、こっちに向いて叫ぶ秋穣子を掘り出してしまった。
しかし、その様子はいつもの穣子ではなく、霊夢は少し呆気にとられてしまった。
「あんた、どうしたの?」
「あんたが箒でここに突っ込んだんだろうが!おかげで死ぬところだったわ」
服についた葉っぱや土をを払いながらそう答える穣子。しかし、霊夢が気になったのはそこではない。
「いや、そうじゃなくて」
「なによ」
「あんた、縮んでない?すごくちっちゃいけど」
そう言われ、穣子は首元をつかまれ持ち上げられる。その姿はいつもより小さく、20センチぐらいしかなかった。
「やめろ~。はなせ~」
「うわ、本当に小さっ。一体どうしたの?」
「そういえば、あんた今日はやけにでかいわね。成長期?」
「そこまででかくなるわけないだろ。いや、縮むのもありえないけど」
そう言われて、自分の姿をマジマジと見てみる穣子。
「やべー!マジで縮んでんじゃん!」
「だからそう言ったでしょ」
「なんで?どして?」
「しらないわよ。こっちが聞きたいわ」
小さくなった穣子の首元を掴んだまま縁側までもっていき、座布団に座らせる。
ちょっと投げるように置かれた穣子は、座布団の上でころんと転がる。
「あう~」
「ちゃんと座りなさいよ」
「じゃあ、なげるな」
転がった場所からトコトコと歩いて、ポフッっと座布団の真ん中に座る。
その一連の行動は小動物を連想されるのには十分だった。
「あんた、どうして縮んだのか自分で分かんないの?」
「一切わからん。気がついたら、あんたに箒でかき集められてたから」
「ふうん」
「それより喉かわいた。茶とかないの?」
縮んだことにまったく困った様子もなく、霊夢の顔を見上げながら茶を要求する。
「あんたに出す茶はない」
「おいおい、君は実にけちだな」
「うるさい。また葉っぱに埋めるわよ」
「やれるもんならやってみな!」
「よし、そこに火をつけて焼きイモにしよう」
「あっ、それはやめて~」
急いで逃げようとする穣子。しかし小さくなっているため一歩がかなり小さく、動きも遅い。その結果、すぐに両手でつかまれてしまった。
「ああ、しまった~」
「ふふ。さて、どうしてくれようかしら」
「やめてよ。はなせよ~」
霊夢の手の中でじたばたと暴れ、逃げようとするが、がっちりと掴まれているため全く逃げ出せない。
そんな穣子に霊夢はやれやれと呆れながら、再び座布団の上に座らせた。
「冗談よ冗談。そこで待ってなさい。今、お茶入れてきてあげるから」
「おお、ホントか?やった~」
両手を上げてやったーと全身で喜ぶ穣子。その仕草はとても幼い。
(ちっちゃくなって、中身も小さくなってんじゃないでしょうね)
そう思いながら、霊夢は二つのお茶を入れるため、台所に向かった。
=============================================================
霊夢が台所から戻ってみると、穣子は赤く染まった紅葉の葉っぱを抱きしめながら、うっとりとした表情で座布団の上をごろごろ転がっていた。
「何してんの、あんた」
「ああ、巫女か。これ、秋の香りがするから気持ちよくって」
「変なことをするな」
「変なこととは失礼な。これは栄養補給だぞっ」
「はいはい。それと、これお茶」
「ああ、ありがと」
そう言って葉っぱを脇に置き、湯呑みを受け取ろうとした穣子だったが、今の穣子には湯呑みが大きすぎた。
がっしりと、両腕で抱きつくような形で受け取らなければならなかったのだ。そしてその中身は淹れたてのお茶である。熱々である。
「あちいっ!」
といって湯呑を床に置いた後、またごろごろと転がり始めた。
「あっちいよ!全身やけどするかと思ったわ!」
「注意しなさいよ、それくらい」
「茶を飲むのも命がけってか。どんなびっくり体験だいこれは」
「いや、縮むこと自体びっくり体験でしょうが」
「おお、確かにそうだな。賢いな巫女」
「霊夢よ。名前ぐらい覚えさないよ神様」
「努力はする」
置かれた湯呑みの縁に両手をかけ、ふうふうと息を熱いお茶に吹きかけ始める穣子。しかしお茶の量が量である。
今の穣子にとって、お風呂といった方がいいかもしれない大きさの湯呑みに注がれたお茶が、そう簡単に冷めるはずがなかった。
「あついよう。飲めないよう」
顔に湯気を浴びながら、穣子は冷めないお茶に涙目になる。
その様子を片目で見ていた霊夢は、はあっとため息を吐いた後、穣子の湯呑みを手に取る。
「仕方ないから私が冷ましてあげるわよ。ちょっと待ってなさい」
ふうふうと代わりに冷まし始める。その様子を下から見上げる穣子。
「意外とやさしいんだな、巫女」
「意外は余計よ。あと、霊夢だって言ってるでしょ」
「ああ、そうだった。やさしいんだな霊夢」
「それほどでもあるわ。はい、もう冷めたわよ」
「おお、あんがと~」
ことっと目の前に置かれた湯呑みに、先ほどと同じように両手をかける。
そのままゆっくりと傾け、ごくごくとお茶を飲む。
「ぷはあっ。うまい」
「当たり前でしょ。博麗特製のお茶よ」
「でも安っぽい!」
「うっさいわ!」
ぴしっ!と飛ぶ霊夢のデコピン。確実に脇腹をとらえて、真横に吹っ飛ばした。
あう~。と倒れた穣子だが、すぐに立ち上がって顔を真っ赤にして叫ぶ。
「痛いじゃないか!霊夢!」
「あんたがいけないんでしょ。人ん家のお茶を安いとかいうから」
「でも、デコピンを決めることはないじゃないか!」
「いや、それは割と普通じゃ」
「結構痛かったんだぞう。びっくりしたんだぞう」
だんだんと声が小さくなり、そして蚊が鳴くような音まで小さくなる。伏せた顔を良く見ると、目に涙をためているようだった。
「いたかったんだぞう・・・」
「はいはい、ごめんね」
「びっくりしたんだぞう」
「もう、泣かないでよ」
「泣いてない!」
ぐすぐすと言いながら強がる穣子。しかし、その言葉とは裏腹に泣いていることがばればれである。
「・・・分かったわよ。おやつ食べる?それで許してくれるかしら」
「食べる!」
「分かったわ。じゃあ今持ってくるから」
「やったね!」
涙を拭きながら「おやつだ~」と喜ぶ穣子。本当に中身も少し、小さくなってしまっているようだ。
===========================================================
太陽は傾き、まるで紅に染まりかけた山々を急かすように真っ赤に染める。所謂、夕方という時刻になっていた。
博麗神社の境内も真っ赤に染まり、その真ん中にはいまだに葉っぱの山が、片付けられることなく佇んでいる。
そこから見える縁側には、相変わらずお茶をすすっている巫女と、座布団の上で丸くなり寝てしまっている神様がいた。
「おーい。起きろ~」
「うーん。むにゃ・・・。あと二季節~」
「どれだけ待たせるのよ。ほら起きなさい。もう夕方よ」
「ほえっ。あ、ほんとだ」
むくっと起き上がる穣子。その顔にはさっきまで顔をつけて寝ていた座布団の模様がついている。
「ふわあ、よく寝た」
「寝すぎよ。おやつのどら焼きを半分食べたかと思ったら、そのまま寝るんだもん」
「ああ、どら焼きも美味しかったな」
先ほど食べたどら焼きに思いを馳せて、顔をだらしなく緩める穣子。
そんな様子を見て、霊夢はため息をはきながら尋ねる。
「で、どうするの?元に戻ってないけど」
相も変わらず縮んだままの穣子。時間は解決してくれなかった。
「へ?どうするってどういうこと?」
「これからよ。どうしてもって言うなら、泊めてあげないこともないわよ」
それを聞いて、う~んと考える。しばらく悩んだあと、うんと頷いて返事をする。
「いや、いいや。帰る。姉さんも心配してるだろうし」
「ふうん。そう」
「うん。でも、悪いねなんか。今日一日世話になっちゃった」
「まあいいわよ。私も話し相手になってもらったしね」
「そう?じゃあ良かったかな」
景色を紅く照らす太陽が、だんだんと山と山の間に沈んでいく。
「じゃあ、帰るね。今日はありがと」
「なんのなんの。神様を接待するのが巫女の仕事だからね。それより帰れるの?小さいままで」
「う~ん。まあ、何とかなるでしょ」
「ああ、あんた神様だもんね」
「うん。神様だから大丈夫!」
ふわっと浮かびちょうど霊夢と同じ視線になる。そして霊夢の顔を見てニコッと笑う。
「じゃあね霊夢。楽しかったよ」
「ええ、今度は普通の大きさになってから来なさいね、穣子」
「わかった」
手を振りながら太陽の方向に飛んでいき、やがて完全に太陽が沈むのと同時に穣子は見えなくなった。
二つある湯呑みを片付けようとすると、境内に吹いてきた風は少し寒かった。
寒くなりつつある夜に、秋が近付いているのを感じた霊夢は、今日は布団を新しく出そうと決めて、台所へ入っていった。
縁側には、残された二つの座布団が太陽の代わりに現れた月に照らされていた。
==========================================================
「ヤッホー!霊夢ー!遊びに来たよ」
「あら穣子。大きさ元に戻ってんじゃないの。どうやって治したの?」
「芋食べたら治った!」
「どんだけー」
さぁ…次は静葉さんバージョンを作る準備に(ry