瘴気漂う魔法の森、特異な幻想郷の中でも最も異質な場所と誰かが言う。
そこに住む者も異質な存在なのだろう、と誰かが言う。
「私が言ってるんですけどね」
「パチュリーねぇ、いつもいつも何しに来てるのよ」
ぱっちぇサン、オチャハイッタヨー、ヤスイヨシャッチョサーン
「ありがとう上海、今日のご指名は貴女よ」
「魔理沙よ。こんな事言わない子だったのに……」
オカミサーン、しゃんはいハイリマシター
マーガトロイド邸、リビングのソファにパチュリーはごろっと寝転がりながら上海人形を抱く。
紅茶が入ったのに、と半ば諦めた表情でソファの脇に座り、パチュリーの頭をアリスは撫でる。
「くすぐったいわ、ママ」
「ママじゃないっての」
「今日はママの相手が出来ないの、若い子の方がいいし」
「そっちのママか、抜かったわ。上海、その顔はやめなさい」
パチュリーの人差し指で腹をくすぐられている上海人形の表情は恍惚そうだった。涎まで垂らしている。
「なんで来ているかって? 決まっているじゃない」
「私との愛を育みに」
「10ポインツ」
「誰によ」
しゃんはいニー、アトサンマンぽいんつデいえすのーマクラモラエルー
「貴女が操ってるのよね、この子」
「私の理想が叶ったわけじゃないわね。ほらもう起きなさい」
「チッ」
「舌打ちってどういう事?」
パチュリーは渋々と体を起こし、アリスの淹れた紅茶を飲む。
「今図書館改装中なのよ、対黒白用迎撃兵装を取り付け中なの。それはもう暇で暇で仕方ないの、それで貴女の所に魔術研究」
「してないじゃない。被害総額は?」
「日本円にして十桁に」
オヤマァ
「それは酷いわね、それ以上にその量を魔理沙がどこに保管しているかわからないわ」
「きっと腹の中よ腹の中」
そう言うとパチュリーは膝で抱かせていた上海人形の腹をまたもくすぐる。
アリスも少しやりたかったのか自身の人差し指も参戦させる。上海人形は至福の時に包まれた。
その時だった。
「探偵、事件だ!」
「何屋さんになったのよあんた」
「本返してよ犯人」
バン! と扉を開けて勢いよく入ってきたのは魔理沙であった。何やら興奮しているのがアリスとパチュリーは見て取れる。
その時、上海人形はパチュリーの膝から離れ、魔理沙に飛びついた。
「酷いわ! 私よりその女を取るのね!」
ゴメンナサイぱっちぇサン、モウアナタノカラダニキョウミハナイノ……
「残念だったなぁパチュリー! こいつは私が可愛がってやるから安心しなハッハァ!」
「二人ともうるさいわよ! 上海! それ以上言ったら勘当よ!」
メンチャイ、マリサイラッシャーイ
「おう、上海ぐりぐりー」
「酷いわ酷いわ……やっぱり私にはママだけよ」
「いい加減にしないと本当に叩くわよ」
顎で上海人形の頭を撫でる魔理沙、それを見てアリスのハンカチを噛みしめるパチュリーに、アリスは疲れた表情を見せた。
「で、魔理沙。何しに来たの」
「だから事件」
「は?」
「魔理沙が事件じゃないの、上海返して」
「上海に聞こう。私とパチュリー、どっちがいい?」
ドッチモー
「欲張りさんだな、母ちゃんお茶―」
「ママおかわりー」
まんもーにー、オヤツー
「こいつら本当に……」
アリスは席を立ち、代わりに魔理沙がそこに座る。
魔理沙はパチュリーの間に上海人形を置き、二人で上海人形の手をつないだ。楽しそうに上海人形はぶら下がる。
「で、事件って何よ魔理沙」
「殺人事件が起こったんだ」
「殺人? 別に珍しくもないじゃない、人も食われる幻想の世界へようこそ」
「お招きありがとう、パチュリー。食うか食われるかだもんなぁ、ここ」
「野良妖怪が協定破棄して人間を食べたのなら紅白が動くでしょ? 退治されるわ」
「だからそうじゃないんだ。殺人じゃないな、殺鬼か」
「鬼が?」
「萃香が」
ほぉ、パチュリーは興味深そうに頷いた。そこへ、魔理沙とパチュリーと上海人形のためにケーキを持ってきたアリスが口を挟む。
「萃香が死んだからって喜ぶのは天狗ぐらいじゃないの?」
「鬱陶しい元上司がいなくなって万歳三唱、妖怪の山は安泰だわ」
「でも待てよ二人とも、鬼だぜ鬼、そうそう殺られるもんじゃない。これは異変扱いにならないか?」
うーん、とテーブルにケーキを置いたアリスとそれを頂くパチュリーは頭を悩ませる。
手を離していた上海人形が腕を組みながら難しい顔をしているのに三人は気付き、三人で上海人形の頭を撫でた。えへへ。
「それであんたは介入したいと」
「三人で解決しようぜ?」
しゃんはいモー
「おう、上海もだ」
「ごめんなさい、持病のくるぶしつやつや病が」
「どれだけ持病持ってるんだよパチュリーは」
「暇で暇で仕方がなかったんでしょ?」
「えー」
明らかに面倒臭いとパチュリーは顔で訴えるが、魔理沙に期待された目をしてため息をつく。
「だから魔理沙の事が嫌いなのよ、もう大好きなぐらい」
「ありがとなパチュリー、母ちゃんはどうする?」
「母ちゃんって言わないなら考えるわ」
「ママー、ねー、一緒にいこーよー」
「ママでもないっての!」
「なぁ、アリスって今反抗期なのか?」
「思春期なのよ、今第二次性徴まっ最中」
「まっもなかって何よパチュリー。仕方がないわね、あんた達だけだと不安だし」
やれやれと言わんばかりに承諾したアリスに、イェーイと魔理沙とパチュリーはハイタッチ。
「お袋愛してる!」
「お母様はやっぱり素敵ね」
「どっちにしろ母親ってどういう事?」
バカジャネーノ
現場に到着した三人は驚いた。すでに人だかりで道が防がれている。
人々は鬼だ鬼だと見なれていないためか、恐怖と歓喜が入り混じった声を発している。
「くそぉ! 誰だここの場所を知らせた奴は! 捜査の邪魔で仕方がないじゃないかぁ!」
「うるさいわよ魔理沙」
「ていうか人間の里で何やってたのよこの鬼」
三人は人を掻き分けながら、死体現場に辿りつく。
倒れている萃香、縁取るように白いチョークで周りを書いていくてゐ、検死役として呼ばれていた永琳、現場写真と称しパシャパシャと周りと取っていく文。
それを見つつ『Keep out』の黄色いテープの先から入れなかった。
「がっつり寝てるだけじゃないの! ほらいびき掻いてるし!」
「これは難解な事件だぜ」
「酷い……こんなに無残な姿で……」
「そりゃおへそ出しながら寝てたらはしたないわよ!」
「アリスって乙女―」
「乙女さんは嫌いではないわ」
「もう突っ込むのも面倒だわあんた達!」
「あやや、お三人方」
三魔女に気づき、フラッシュを焚くのをやめた文はテープを上にあげ、三人を招き入れた。
「ようブン屋、何してるんだ?」
「うざったい元上司の弱みを握……とても尊敬していた萃香さんを殺した犯人を見つけようとメディアの方向から、と」
「本音全部言ってるじゃないのあなた」
「おーい、えりりーん」
パチュリーが手を振りながら永琳を呼ぶと、永琳がいかにも疲れた表情で向かってきた。
「パチュリー……聞いてよ、またうどんげが反抗期に入ったわ……もうパンツ一緒に洗わせてくれないの……」
「えりりんも大変ね、それで死因は?」
「えぇ。調べた所、毒殺だったわ」
「いやただの泥酔でしょ!?」
「アリスうるさいわ、毒殺?」
「三人ともいらっしゃい」
三人は永琳についていき、凶器と思われる壺を場所まで案内される。その間、てゐは花畑を描き切ったので次は萃香の額に肉と書く。
「これよ」
「萃香がいつも持っていた瓢箪じゃない!」
「この中に毒があったのねえりりん?」
「……はぁ……姫様は姫様で……なによシャンプー合わないって……」
「ちょっと失礼するぜ」
魔理沙は壺を取り、小指で少し零れる液体を掬い、ひと舐めする。
「…………これは万寿!」
「となると肴は……」
「まず毒が入ってるものを舐めるんじゃない! 肴とかどうでもいいわよパチュリー! あと万寿が無尽蔵に出るとか羨まし過ぎるじゃない!」
「アリス……今度飲みに行きましょう、貴女なら私の苦労が」
「やめて手を絡めないで!」
「ごめんな永琳、うちの母ちゃん疲れてるんだ」
「一体ママを誰がこんな目に」
「あんた達よ!」
アリスが喚く中、空から飛来してくる二つ。ふっと軽やかに降り立ち、三人を見た。
「はいこっからは巫女の管轄よ、アンタ達は出てってねー」
「ちょ、霊夢! 踏んでる踏んでますって!」
「知ってる早苗? 萃香ってドMなのよ」
霊夢と早苗だった。それを確認すると魔理沙は二人に鋭く指をさす。
「何しに来たんだ国家の腋め!」
「魔理沙、いろいろと言いたい事があるわ」
「ハッ! まさか萃香の腋をあれやこれやと図書館の三段目の奥に隠してあった本に書いてあったような事を……」
「何もしませんよ! 私は霊夢の腋ゲフンゲフン」
「何目覚めてんのよ早苗!」
「え、でも昨日は霊夢からあんなに……」
「よしパチュリー、二人を取り調べだ」
「アイサー、マムかしら?」
アリスは黒に赤に紫に緑と、ぎゃあぎゃあと騒ぐのを見て目眩を覚えた。
「ちょっと、何しに来たのよあなた達」
「あ、母さんこいつら何とかしてよ!」
「そうですよお母さん! ちょ、やめてくださいパチュリーさん私の腋からは奇跡しか出ませんよ!」
「あなた達も!?」
「やめろ! 母ちゃんは私の母ちゃんだぞ!」
「そうよ! ママは私のママげほっごほっ」
「無理しないのパチュリー! ほらシュコシュコしてあげるから!」
「母さんだ」
「お母さんですね」
「な、母ちゃんだろ」
アリスが八意印の喘息用の吸引器を取り出しパチュリーの口に咥えさせる頃、霊夢の足元から声が聞こえてきた。
「もっと……強く踏んで……」
「あ、ホトケが起きたわ。ボブ、聞き込みよ」
「ボブが私なら霊夢はジョニーですね」
「ほら起きなさい萃香、誰が一体貴女を殺したの?」
「犯人は必ず見つけ出してあげますからね!」
「え……私殺されたのか……なんて可哀想な……」
死体が起き、その周りを巫女二人が囲む。それを悔しそうに眺める魔理沙。
「くそっ、先を越されちまった! それはそうとアリス、シュコシュコのちっちゃいュの部分を取ったらエロいな」
「とろろを擦る時もその擬音を使うのよ、魔理沙」
「ふぅ、アリスに抱っこされてのシュコシュコ、最高だわ」
「パチュリー、右手を動かすのはやめなさい」
「何としても私たちが先に犯人を見つけないとな!」
「いや生きてたじゃない! ほら今にも吐きそうな顔をしているわよ!」
「これはホトケさんの知人に聞き込みね。いい加減離れてアリス、気持ち悪い」
「やりたい放題って楽しいの!?」
アリスは魔界へ帰りたくなった。
八雲邸、その静かな佇まいに魔理沙とパチュリーは息を飲む。
「何回か来た事はあるが、流石なもんだぜ……!」
「ここまで威圧感があるとは……外には出てみるものね」
二人に手を繋がれているアリスは一言も発さない。
「どうしたアリス、十歳ぐらい老けて見えるぞ?」
「コラーゲンを取りなさい、皺を無くなるわ」
「……もういい……おっかぁの所に帰る」
「おっかぁ?」
「あぁ、パチュリーは知らないのか。アリスを作った奴だ」
「へぇ、一度ご挨拶に行かないと」
「やめてよ……おばあちゃん扱いすると不機嫌になるんだから……」
「妻の魔理沙です」
「正妻の座は取られたわね、妾のパチュリーです」
途端に魔理沙とパチュリーの腕が重くなる。
「悪かったって、ほら気を取り直していくぞ」
「そうよ、元気のないアリスはアリスじゃないわ」
「……やだ……帰る」
「わかったって! これが終わったら弾幕ごっこやってやるから!」
「三人バトルロイヤルでね、色取り取りの弾があなたを襲うわ」
「さぁ行きましょう魔理沙! パチュリー!」
二人の腕を振り払い、勇み良く門へ足を運ぶアリス。それを見て二人はため息をついた。
「あの弾幕フェチがなかったらなぁ」
「面倒なのよ。アリスねちっこくつけ狙うから」
「何か言った二人とも!」
「私が先に呼ばれたからパチュリーがプンプンしてるんだよ!」
「むきゅむきゅ!」
「二人とも愛しているから早くいらっしゃい!」
早く早くと見えないぐらいに二人を手招くアリスを見て、門に近づきながらまたため息をつく。
「弾幕馬鹿」
「何か言った魔理沙」
「私の気持ちを代弁してくれただけよ」
「何よパチュリー」
「はいはい、ちょっと黙ってろよ。ノックしてもしもし」
「邪魔するなら帰りましょう」
「あなた達はいっつも私の家に邪魔しに来るじゃない」
「嬉しいくせにな」
「早く開けなさいよアリス」
「そういう事は私なのね」
門、というよりは引き戸だった。しかしそこに門と書かれているから門だ、と三人は納得した。戸が開かれる。
「ひひーん! ちぇんはおひめさまよー!」
「おばあちゃまもっとはやくー!」
「りょうかいよー! そーれそれー!」
「わーい! おばあちゃまだいすきー!」
アリスは戸を閉めた。
「邪魔したようだったな」
「帰りましょう」
「そうね、帰りましょう」
「紅茶飽きたからコーヒーな」
「違うわ魔理沙、コーシーよ」
「水出しでしてあげるわ」
「お、アリスは気が利くな」
「たまには魔理沙が淹れてあげなさいよ」
「パチュリーもね」
と、三人は戸を背に歩き出す。と、戸が内側からドンドンと勢い良く叩かれる。
「呼ばれてるぜ?」
「嫌よ、あんなの見せられて入れって」
「どういう神経してるのかしら」
「変な神経回路だろ」
「なら思考回路はショート寸前ね」
「今すぐ会いたいわ」
「じゃあ会いに行くか」
と、次は魔理沙が戸を開く。
その中には気品良く座るも裏に潜める冷酷が見える大妖、八雲紫がいた。
そしてその式の式である橙が紫にしだれるように寄り添い、三人を視線で刺す。
「ようこそいらっしゃいましたわ。ここは八雲の家、来る者は拒まない」
「行く者がどうなるかは紫様が決めてくれるわ、くすくす」
妖艶に微笑む橙の背中を紫は撫でる。そして目の前にあった赤い液体の入るグラスを持ち、一口啜った。
「さぁ、聞きなさい。答えて差しあげましょう」
「そう、紫様はお優しいの。さぁ無知なる者たちよ、言葉を紡ぎなさい」
その姿に三人の額からじわりと汗が滲む。そして魔理沙が、少し震えながら、口を開いた。
「お前ら、次のお遊戯は何をするんだ?」
「ちぇーん、つぎはなにがしたいー?」
「つぎはおばあちゃまがおひめさまー」
そしてアリスが次に口を開ける。
「そのトマトジュース、美味しい?」
「ちぇんがつくってくれたのよねー?」
「うん! おばあちゃまがこのまえのんでよろこんでくれたんだもの!」
最後に、パチュリーが口を開いた。
「株に手を出そうと思うのだけれどどう思う?」
「だってー、ちぇんー?」
「えへへー」
と、紫と橙は互いに抱きつき、ゴロゴロと寝転がった。
「よし、帰るぞ」
「お土産盗っていかないの? 魔理沙の癖に」
「やめなさいパチュリー、私もそう思ってたけど口にしなかったのよ」
「悪かったわよ! だって橙が可愛すぎるんだもの!」
「ごめんなさい! でもおばあちゃ……エヘン、紫さま暖かいんだもん!」
「あらお客様が来ていてもおばあちゃまって呼んでもいいのよ? おばあちゃま寂しいー」
「でも紫さまは紫さま! めっ!」
橙に怒られてしょんぼりする紫を見て、三人は確信した。今ならボコボコに出来る。
「なんかめんどくさくなってないかこいつ等?」
「もう面倒になってきたわ」
「本当に帰りたいわよ、なんでここに来てるのよ私たち」
「来た理由はわかっていますわ、萃香の事ね」
「え、萃香おばちゃんどうしたの?」
「橙はお客様にお茶を淹れてあげて」
「はぁーい……」
ちぇっ、と頬を膨らませて橙は台所に向かった。三人は紫に向い合うように腰を下ろした。
「橙にかかれば萃香もおばさん扱いか」
「えぇ、可愛い可愛い私の橙。目に入れても痛くはないわ」
「大妖怪も呆れたものね、今頃になって孫馬鹿炸裂だなんて」
「何か言ったかしらもやしっ子クラブ」
「クラブって何よ、それで母親はどこに行ったのかしら?」
「母親はあなたでしょう、アリス。しかも二人も作って」
不敵に笑う紫に、アリスは頭を抱えた。
「母ちゃん馬鹿にすんなよ紫」
「そうよ、あなたよりも素敵なママなんですから」
「二人とも、本当に殴るわよ」
「愛されてるわね」
「あんたも殴るわよ!」
本当に握り拳を作ったアリスに、魔理沙やパチュリーはもちろん、紫も楽しそうに頭を庇った。
「ったく。で、萃香とか別にいいじゃない、生きてるんだか」
「悲しい事件だわ」
「乗っちゃった!?」
紫の涙を流す姿に、アリスは頭が痛くなってきた。
「大切な友人だったのに……もう……会えないのね……」
「お気持ち察するぜ、紫」
「でもまだ私たちがいる、必ず犯人を見つけてあげるわ」
「えぇ……必ず見つけてください……お願いします!」
紫の震える手を取り、魔理沙とパチュリーは改めて犯人逮捕の情熱を燃やした。その決意は、手に伝わって紫の胸にも届いた。
そして、呆れていたアリスが一言。
「ていうかあんたが犯人でしょ、紫」
「そうなのか紫!?」
「謀ったわね紫!」
キョトンとする紫の顔に魔理沙はライトを当て、パチュリーはカツ丼を取り出す
「さぁ吐け! 殺っちまったんだる! さぁ吐くんだ!」
「紫……ほら、食べなさい……確か橙ちゃん……今年入学式よね?」
「どっからそんなもん出したのよあんた達」
「いや私は知らないわよ。確かに昨日誰かと飲みに行くって聞いたけど……」
衝撃の新事実、それに魔理沙とパチュリーは動揺を隠せない。
「なにぃ! そいつだ! きっとそいつが犯人だ!」
「詳しく話して、紫」
「『のみいっくぞーい、ウェーイ、ゲフゥ』って既に出来上がった状態で誘ってこられたのだけど」
「やたら萃香の真似が上手いわね、特にげっぷの所」
「アリス黙ってろ!」
「そうよ黙ってて!」
この状態になった二人は止められないのをアリスは知っていた。それほどに魔理沙とパチュリーの目は真剣だった。
「でも、橙を置いていくわけにはいかないから断ったのよ。だってあんなに可愛いのよ? この間肩叩き券をもらったけどもったいなくて使ってないの」
「えぇい孫自慢はどうでもいい!」
「で、誰よ! 他に誘われた奴って!」
「ええっと、確か……レミりんだったかしら」
「レミりん?」
アリスが独り言のように呟くと、魔理沙はある人物の顔が閃いた。
「レミリアだ! くっそぅ、あいつが犯行を犯すだなんて!」
「そんな……親友がそんな……あの未だに布団に世界地図を作るおしゃぶりを手放さない乳臭い五百歳児が……」
「親友の割には酷い言い様ね」
「紅魔館だ! 今から紅魔館に行くぞ!」
「えぇ! アリス行きましょう!」
「だから私もういい……」
「弾幕ごっこ!」
「そうよ弾幕ごっこ!」
「さぁ、紅魔館に早く行くわよ二人とも!」
一番早く外に出るアリスを見て、魔理沙とパチュリーは顔を見合せ肩を上げる。そして後を追うように出ていくのを紫は手を振って見送った。
「お茶持ってきましたー……あれ、紫さま、お客様は?」
「私と橙の仲を邪魔したものはいなくなったわ。ちぇんおいでー」
「はーい、おばあちゃまー」
とてとてと盆をひっくり返さぬように紫のそばまで近づき、テーブルに茶を置くと橙は勢い良く抱きついた。
「いたーい」
「あ、ごめんなさいおばあちゃま」
「おしおきよー、ぐりぐりー」
「きゃー! そうだおばあちゃま、藍様はいつ帰ってくるの?」
「…………藍はもう……私たちを捨てて」
「え……」
「どこかに行ってませんよ紫様! 結界の修復終わりましたから早く橙を返してください!」
「ちぇん、一緒にお風呂入りましょう」
「はいおばあちゃま! 背中流してあげますね!」
「ちょ、うぇー!?」
冷たい風が吹く。その冷たさに魔理沙とアリスは目を瞑る。
風が止み、目を開く。紅魔館。二人はその扉の前に立っていた。
「ここが……ついに私たちは犯人を追いつめたんだアリス!」
「犯人にされてレミリアも大変ね」
「アリス!!」
「はいはい、レミリアは犯人ですよ」
「違う! レミリアじゃなくてろりっ子うー☆マンだ!」
「そっち?」
アリスを無視し、魔理沙が扉を開ける瞬間であった。
不意に後ろから声が聞こえた。
「はいあんたら邪魔よ。こっからは巫女の管轄よー」
「ですよー、いや霊夢が復唱しろって言うものですからね?」
霊夢と早苗だった。それに動揺を隠せない魔理沙。
「くっそぉ! 私の足止めは無意味だったのか!」
「いつしたのよ。あと耳元で怒鳴らないで」
「そうよ魔理沙、なんでアリスにおんぶされてるのよ」
「……いいなぁ、魔理沙さん」
「母ちゃんの背中はだれにも渡さないぜ!」
「母ちゃんですよ、そうよ母ちゃんでいいですよ」
「というわけで私もちびっこがホシだと萃香から聞いたからここに来たわけよ」
「聞かれてもないのに答える姿におんぶされたいです、霊夢」
はいよ、と自然にかがみ早苗をおぶる霊夢の姿に、魔理沙とアリスは呆気に取られた。
「相も変わらず、だな」
「愛も変わらず、よ」
「というわけでお先ね、二人とも」
「行け―! 霊ストーム!」
「誰がホーミングすると……したわね」
「わーい霊夢大好きですー!」
「知ってるわよ」
「知られてましたか」
ダダダッ、と一直線に走っていく早苗オンザ霊夢を見て魔理沙は悲鳴を上げた。
「あー! 先越されたぞアリスー! 行けアリスー!」
「嫌よ、魔理沙重いもの」
「アリスよりは軽いだろ! さぁ早く行くんだ!」
「絶対魔理沙より痩せてやる」
と、魔理沙とアリスは二人の後を追う。
長い回廊だった
いつまでも続く
終わりはあるのだろうか
そして始まりはいつやってくるのだろう
わからない
それでも走る
見えない答えを探して
「うるさいわよ、魔理沙」
「だってよー、本当に長すぎるぜこの廊下」
「じゃああんたが走りなさいよ、何よ一人で楽して」
「アリスはそこでピチュるんだな、残念」
その言葉のすぐ後にアリスは急ブレーキ。その反動に魔理沙は振り落とされそうになった。
「……鼻打ったー」
「魔理沙、そういえば霊夢と早苗を館に入ってから一度も見てないわよね」
「先に行ったんだろ? もうレミリア捕まえてるぜ。よし捜査終了、帰ろう」
「私たちより移動速度遅いのに? あとろりっ子うーなんちゃらじゃなかったの? そして諦めも早いわね」
「過去はもう過ぎ去ってしまったんだ、アリス。でもそういえばそうだったな」
「たぶんこれよ」
「どれどれ」
アリスが少しかがみ、その顔の横から魔理沙は覗きこむ。
巨大な落とし穴だった。そばには霊夢のリボンと早苗の祓い棒が落ちている。
「おぉ、ミシシッピーもびっくりだな」
「多分あんた用よこれ。ナイフが飛んでこないわね、そういえば」
「おーい霊夢―、早苗―、えー、えー、えー…………自分でエコーするのもつまらないな」
「…………声が聞こえてこないわね」
「落ちたはずみで唇と唇が出会ってだんまりこくってると私は見た」
「都合いいわね」
「そういう都合だから先を急ごうぜ、アリス!」
「はいはい」
「着いたぜ」
「目の前でしたものね、なんであんな所に落とし穴があったのかしら」
「人生落とし穴だらけだからな」
「魔女に落とし穴は不似合いね、開けるわよ」
アリスは扉を開ける。謁見の間、普段レミリアがいるとされる場所だ。事実、そこにはレミリアがいた。
「いらっしゃい、お二人とも。紅魔館へようこそ、早速だけど」
「捕まえに来たぜ犯人!」
「最後まで言わせてあげなさいよ、ほら、泣きそうになってる」
急に魔理沙が怒鳴り声をあげたものだから、座っていた椅子の背中にレミリアは隠れた。
「……怖いの、やだ」
「あー……ごめんな、こっちおいで」
「ほら、飴ちゃんあるわよ」
「……いじめない?」
「あー、いじめないいじめない」
「ほら、グレープ味とブドウ味、どっちがいい?」
いつの間にか魔理沙を降ろしたアリスはポケットをまさぐる。そして魔理沙はあやすようにレミリアを呼んだ。
それにつられたのか、レミリアは天使のような笑顔で二人に駆け寄った。
「デラウェア味―!」
「品種にされたぜ?」
「巨峰味しかなかったわ」
ポケットから手を取り出すアリス。
それを見てレミリアは手を上げた。
「……スペルカードルールって言葉、貴方達は知っているのかしら?」
「例外、という言葉をレミリアは知らないのか?」
「さぁ、道中に魔理沙が言っていたわ! レミリアが弾幕ごっこに付き合ってくれるのよね!?」
アリスの手にはガトリングガンが握られていた。
「ちょ、銃とか卑怯じゃない!」
「銃じゃない、兵器だ」
「さぁ、早く弾幕を撃ってきなさいレミリア!」
「あとポッケからなんでそんなのが出てくるのよ!」
「ポッケとか言うのか、可愛いのな」
「さぁ、お値段以上の弾幕! 思い知るのよ!」
砲身が高速回転を始め、アリスはトリガーを引く頃にはレミリアは距離を取る。しかしもう遅い、アリスの顔は女神の微笑みを思わせる。
マズルから光が溢れる。それと共に低い唸りがレミリアを襲った。しかし間一髪、十字の紅光がレミリアを包んだ。
「食らいボムか、してやられたな」
「あはははは! さぁ美しく散るのよ吸血鬼!」
「ごめんな、アリス。もうわがまま言わないから」
「ははははははははははは!!!」
やがて弾が尽き、アリスはスカートから弾帯を取り出し装填する。その瞬間にレミリアは椅子に近づき床に忍ばせていた二挺の銃を取り不敵に笑う。
「お前もかよ」
「さぁ、楽しくなってきたわレミリア!」
「月がこんなにも綺麗だから……狂い咲きなさい!」
サブマシンガンであろう、レミリアはフルオートにしてアリスに二つの銃口を向けた。それをアリスは見逃すはずがない。
互いの目が光った。
「どっちも普通、女の手には持てないものなんだけどな。アリスのは特に」
「あら、いらっしゃい魔理沙」
「おう、邪魔してるぜ」
そこに茶を持つ咲夜が現れた。レミリアに出すものだったのだが、それを魔理沙に渡す。
「ありがとう、着衣が乱れてるぜ?」
「どういたしまして、先ほどまでおね……美鈴と一緒にいたから」
「だからすんなり入ってこれたのか私たち。で、おね?」
「何しに来たの」
「あぁ聞いてくれよ。レミリアが萃香殺しの犯人だったんだ」
「確かに一昨日のつまみ食いはお嬢様の仕業だったけど……いいわ、捕まえてちょうだい」
「保護者の了解が取れたわけだから神妙にお縄になるんだレミリア!」
しかし魔理沙の叫びはレミリアには届かない。そしてアリスにも。
薬莢が舞う中、二人は互いに笑い合った。狂気、それがアリスとレミリアの今の姿だった。
「アリス、急にキャラ変わってるわよね」
「一部始終見てたのかお前?」
「しかしあそこまで変わるだなんて。魔理沙、あとパチュリー様もね、アリスにストレス掛け過ぎよ」
「正直反省している」
「しかしあんなに楽しそうなお嬢様は久しぶり……はぁ、咲夜はたまりません」
「お前も鼻血出したりといしょがしいな」
「噛んだわよね」
「噛んでない」
その時、明後日の方向から一条の線がレミリアに襲う。アリスの弾幕を避けながらその弾道を見切るはさすが紅魔館の主たる所か。
「あいたー!」
「あ、ごめんレミリア、当たっちゃった? 絆創膏どこだったかしら」
「窓が割れたな」
「請求書はパチュリー様に、でいいのよね」
妖怪の山、紅魔館からは有に数キロは離れている滝の高台にパチュリーはいた。
「チッ、心臓を外したわ。しかしにとりも変なの作るわね、こんなに射程距離が長いだなんて」
モウチョットシター
「家に置いてきぼりで悪かったわ上海。でもわかってちょうだい、危険な目に会わせたくなかったの」
キニシテナイヨー、デモチョットぷんぷんー
「えぇ、後でいっぱいナデナデしてあげるわ」
ワーイぱっちぇサンノなでなでダイスキー
スコープ越しに親友を見るのはなんとも心が痛む事だろう、パチュリーは楽しそうに微笑んだ。
観測として双眼鏡で紅魔館を覗く上海人形にウインクし、パチュリーはライフルの弾を込め、トリガーに指を掛ける。
「あいたー!」
「今のはお腹に入っちゃったわね。ほーら痛いの痛いの飛んでけー」
レミリアを抱き、愛おしく腹部を擦るアリスを微笑ましく魔理沙と咲夜は見守る。
「完全に母ちゃんモードになっちゃったなアリス」
「パチュリー様、こんな事も出来たのね」
「ぱちゅりーいずしゃーぷしゅーたー、だぜ」
「恋人はスナイパーってどんな気分なの?」
「あそこで和訳したらエラい事になるから気をつけるんだ咲夜」
「正しくはエロい事ね」
魔理沙はアリスに抱かれるレミリアに近づいた。安らかに目を瞑るレミリアの胸倉を掴み、魔理沙の目が険しくなる。
「なんで萃香を殺したんだ! もう証拠は上がってるんだぞ!」
「どこで上げたのよ」
「くるしぃー、しゃくやぁー!」
「見苦しいですよお嬢様、もう証拠は上がってるんです」
「そうだそうだー、私が殺されたんだぞー、さぁ吐いちゃえー、ウェーイ、ゲフゥ」
「お前が帰って吐いてろ!」
魔理沙に一喝され、割れた窓から覗きこんでいた萃香は酒を浴びる。
「さぁ……妹、フランだったな……泣いてるぞ?」
「さっき外でチルノ達と元気に遊んでるの見たじゃない」
「まぁ、ありがとうアリス。これでフラン様の交友録が増えたわ」
「……だって……仕方なかったのよ……」
魔理沙から目を逸らし、レミリアは涙を流した。
「なんで認めてるの!?」
「言っちまおう、思いっきり」
「だって……萃香が『私のおごりだー!』って言った途端に飲み屋から逃げ出して……今月のお小遣いもう咲夜はくれないのよ!? 仕方ないじゃない! 私は悪くないわ!」
「お嬢様……もうお小遣いは出せませんからね?」
不意に魔理沙はレミリアの襟を離し、窓を見る。その表情は哀愁に満ちていた。
「悪を憎んで、吸血鬼を憎まず!」
「締めにならないわ魔理沙!」
「さぁお嬢様、お昼寝の時間ですよ」
「えー、まだねむくなーい」
萃香のげっぷが紅魔館にこだました。
瘴気漂う魔法の森、特異な幻想郷の中でも最も異質な場所と誰かが言う。
そこに住む者も異質な存在なのだろう、と誰かが言う。
「誰が言ったんだ?」
「パチュリーだそうよ」
「私はそんな事言ってないわ」
アリスがギロリと睨みつけるも、パチュリーは涼しげにコーヒーを楽しんでいた。魔理沙はそれを見るとアリスを睨みつけた。
「なんであんたが私を睨むのよ」
「空気を読んだだけだぜ」
「やれやれ、上海はこんなに上品なのにあなた達と来たら」
その上海人形はというと、パチュリーに思う存分に頭を撫でられ、幸せそうに目を瞑って寝ていた。
「寝るんだな、人形でも」
「そりゃ、私の自慢の娘ですもの」
「聞いた魔理沙、私たちは出来の悪い娘ですって」
「おう聞いた聞いた、ひどい母ちゃんだな」
「はいはい、あんた達も自慢の友人ですよ」
間に挟まれて座っていたアリスが魔理沙とパチュリーの肩を抱き、自分の身に寄せる。
「お、これはちゅーしてほしい合図か?」
「嫌よ、アリスの肌荒れ気味なんだもの」
「なんなのよもう、今回のもそうだったし」
結局、萃香の支払いという事でこの殺鬼事件の決着はついた。
「なんで萃香死んでる事になってたのよ」
「鬼殺しを飲んだからだそうだぜ」
「これはお後が宜しいようで」
「宜しくして欲しくないわねそのオチで。毒殺って死因はなんだったのよ、異変扱いにもならないだろうしなんで私たちが動いたのよ、ねぇ」
「細かい事を気にしてるから母ちゃんって言われるんだぞ」
「でもそんなママも素敵」
「え、私が変なの?」
魔理沙は豪快に笑った。それにつられる様にパチュリーもウインクを飛ばす。はぁ、とため息をつくアリスの口元も少しだけ微笑んでいた。
「で、何か忘れてないか?」
「誰も腋巫女たちなんか覚えてないわよ」
「パチュリーは覚えているじゃないの、その場にいなかったのに」
「さぁて、次はどんな事件が待ち受けているやら」
「次回『消えた西行妖~幽々子の叫び~』にレッツ魔女ッツ!」
「何その語呂の悪い掛け声! それに続かないわよこんなの!」
マーガトロイド邸の夜は更けてゆく。
「…………」
「…………」
「……何よ」
「……別に」
「……あっそ」
「……うんそうです」
「……もう一回、する?」
「……もう十回もしたじゃないですか」
「……そうよね」
「……そうですよ」
「……じゃあ近づいてこないでよ」
「……じゃあ離れればいいじゃないですか」
「…………」
「…………」
「……柔らかいのね、早苗の」
「……霊夢のだって」
「…………」
「…………」
「……誰も助けに来ないわね」
「……飛べばいいんじゃないですか?」
「……もうちょっとこのままがいい……」
「……はい……」
カオスすぎてヤバいwww国家の腋www
この三魔女はもっと続いて欲しい……素敵すぎる
ところどころに散りばめられたネタがいい味を出してますw
苦労人アリスかと思ってたら、レミリアとの弾幕ごっこで笑いが止まらなくなったw
今回はレイサナに一番萌えたよマジで
本当に有難う御座いましたwwwwwww
レッツ魔女ッツ!