「あれ?」
アリスは本棚に伸ばしかけた手を止める。
周囲の本を見渡して、場所を間違えていないことを確認する。
首を傾げる。模様替えをされた様子もなく、ただ探し物の本だけがそこから抜けていた。
「小悪魔さん、ちょっと聞きたいんだけど、いい?」
どこにいるか確認していない相手に、とりあえず呼びかけてみる。と、すぐに小悪魔はひょこっと本棚の影から姿を現した。
「は、はいっ、アリスお嬢様、あの、私、何か粗相をいたしましたでしょうかっ」
「ああ、この子は掃除もまともにできないのかしら、塵が一粒残っていてよ――って、何よこのノリは」
「いやあ、最近私もアレ読んでしまいまして」
「読んでしまったのね。そうなるともう全64巻を読破するまで止まらないわよ……頑張って」
「大丈夫です。もう半分突破しました」
「あら、この子ったらそんなコトするくらいだからよほど暇なのね。お父様に言って仕事をうんと増やしてもらわないと」
「ああっ、どうかご容赦くださいまし、お嬢様! 必ず、必ず今度はちゃんとやりますから!」
「ふふん。……いやいや。それはいいとして」
話している間に側にやってきた小悪魔の迫真の演技を見てアリスは少し赤くなって、一つ咳払いをしてみせる。
「はい」
小悪魔はすぐに平常どおりのスマイルに戻る。
「ここにあったはずの本……そうね、1ヶ月くらい前にはあったと思うんだけど、どこにいったか知らない?」
「ここ。……はい、Kの39384番が抜けているようですね。お待ちください」
小悪魔は、さっと胸ポケットからメモ帳を取り出して、ぱらぱらとめくる。
十秒ほどで、答えが出る。
「貸し出しの記録はありませんね」
「記録なしで本を持ち出せる人は?」
「パチュリー様か、私か、あと非公式で若干1名様」
「……パチュリーに聞いてみるわ。ありがとう」
「どういたしましてー」
「私じゃないわ」
「あー」
消去法で答えは簡単に絞られた。
ルールを守らない一部のメイドが勝手に持ち出したという可能性も考えられないではないのだが、本の中身を考慮すれば可能性はゼロに近い。
「魔理沙かあ」
「ちょうどいいじゃない。魔理沙から奪い取って、ついでに返しに来てくれれば助かるわ」
「それは、そうするつもりだけど」
アリスはパチュリーの隣の椅子に腰掛ける。
うーん、と呟いて、上を向く。肘をテーブルにつく。
「らしくないのよね。協調制御の理論なんて、魔理沙に必要とは思えないけど」
「ふむ」
パチュリーは本を読みながら、ちら、とアリスのほうを窺う。
「スタイルとして、貴女は分散型。魔理沙は集中型。しっかりと確立されているから、わかりやすいわね」
「そうそう。協調制御なんて、まさに私の世界よ。……パチュリーは、どっちになるのかしら」
「私も集中型になるわね。というより、分散型スタイルはかなり珍しいと思うわ」
「ま、そうかもね」
両手を頭の後ろに回す。
目を閉じて、ゆっくりと息を吸って、吐く。
「ねえ」
「ん」
「最近、魔理沙の攻撃、威力落としてると思わない? この前、地底に行ってもらったときも思ったんだけど」
「衰えてると? それとも、手を抜いているということ?」
「そうじゃない。正確な制御を重視して、あえて控えめにしてる感じ」
目の前で、または遠くから、魔理沙の戦い方を見ていて、実感できることだった。決して弱いわけではないのだが、迫力に欠ける。
魔理沙の武器といえば、火力とスピードだ。このうち後者は最大限に生かしているように見える。というより、スピードを殺さないような程度の攻撃に徹しているように、アリスには感じられた。
それは、普段の攻撃を見ていてもわかった。だが、それ以上に何より、
「マスタースパークを撃たなくなった」
魔理沙の代名詞と言える技を、長いこと見ていない。
あの、桁外れの威力と範囲と速さを全て兼ね備えた無敵の攻撃を、撃った後は笑うしかないくらい隙だらけになるあの攻撃を、使わなくなった。
「いいじゃない」
パチュリーは、こともなげに言う。
「人間はいくらでも可能性があるからね。色々なことに挑戦すればいいと思うわ。新しい発見もあるでしょう」
「そうなんだけどね。うん、わかってるんだけど」
頬杖をついて、ため息をつく。
「わかってるんだけど……寂しいのよ」
理屈ではない。勝手なことを言っている、とアリス自身も自覚はしている。
「魔理沙は、小細工なんかしなくても、純粋に魔法の力だけで勝てる力を持ってる。それは、私にはない力だから。力任せでいいから、思い切り派手に戦って魅せて欲しいのよ」
かつてのアリス自身の姿を重ね合わせて。
人間の魔法使いなど相手にもしていなかった頃、絶対の自信に溢れていた頃、魔法の力を無敵だと思い込んでいた頃のアリスを打ちのめしたのは、魔理沙の力。
「若いんだし、なおさらね。難しいことなんてまだ考えなくても、のびのびやってくれればいいのよ」
「アリス。一言いいかしら」
「何?」
「おかあさんみたい」
「!?」
「……あー。まあ、とにかく。本は魔理沙から借りるわ」
「よろしくね」
「うん。じゃ、また――」
「あああアリスさん、大変です!」
「え? え? どうしたの、小悪魔さん」
「アレの1巻と2巻がいつの間にかなくなっています……!」
「!」
ちら。アリスはパチュリーのほうを見る。
「最近なんか流行ってるアレ? 私じゃないわよ」
「魔理沙……!?」
「ついに魔理沙さんまでアレに手を出しましたかー」
「く……魔理沙にはアレはまだ刺激が強いと思うの。こう、色々と、痛々しいし。魔理沙、ああいうドロドロしたの苦手じゃないかしら」
「アリス。一言いいかしら」
「あ、ごめん聞かなくてもわかる」
アリスは本棚に伸ばしかけた手を止める。
周囲の本を見渡して、場所を間違えていないことを確認する。
首を傾げる。模様替えをされた様子もなく、ただ探し物の本だけがそこから抜けていた。
「小悪魔さん、ちょっと聞きたいんだけど、いい?」
どこにいるか確認していない相手に、とりあえず呼びかけてみる。と、すぐに小悪魔はひょこっと本棚の影から姿を現した。
「は、はいっ、アリスお嬢様、あの、私、何か粗相をいたしましたでしょうかっ」
「ああ、この子は掃除もまともにできないのかしら、塵が一粒残っていてよ――って、何よこのノリは」
「いやあ、最近私もアレ読んでしまいまして」
「読んでしまったのね。そうなるともう全64巻を読破するまで止まらないわよ……頑張って」
「大丈夫です。もう半分突破しました」
「あら、この子ったらそんなコトするくらいだからよほど暇なのね。お父様に言って仕事をうんと増やしてもらわないと」
「ああっ、どうかご容赦くださいまし、お嬢様! 必ず、必ず今度はちゃんとやりますから!」
「ふふん。……いやいや。それはいいとして」
話している間に側にやってきた小悪魔の迫真の演技を見てアリスは少し赤くなって、一つ咳払いをしてみせる。
「はい」
小悪魔はすぐに平常どおりのスマイルに戻る。
「ここにあったはずの本……そうね、1ヶ月くらい前にはあったと思うんだけど、どこにいったか知らない?」
「ここ。……はい、Kの39384番が抜けているようですね。お待ちください」
小悪魔は、さっと胸ポケットからメモ帳を取り出して、ぱらぱらとめくる。
十秒ほどで、答えが出る。
「貸し出しの記録はありませんね」
「記録なしで本を持ち出せる人は?」
「パチュリー様か、私か、あと非公式で若干1名様」
「……パチュリーに聞いてみるわ。ありがとう」
「どういたしましてー」
「私じゃないわ」
「あー」
消去法で答えは簡単に絞られた。
ルールを守らない一部のメイドが勝手に持ち出したという可能性も考えられないではないのだが、本の中身を考慮すれば可能性はゼロに近い。
「魔理沙かあ」
「ちょうどいいじゃない。魔理沙から奪い取って、ついでに返しに来てくれれば助かるわ」
「それは、そうするつもりだけど」
アリスはパチュリーの隣の椅子に腰掛ける。
うーん、と呟いて、上を向く。肘をテーブルにつく。
「らしくないのよね。協調制御の理論なんて、魔理沙に必要とは思えないけど」
「ふむ」
パチュリーは本を読みながら、ちら、とアリスのほうを窺う。
「スタイルとして、貴女は分散型。魔理沙は集中型。しっかりと確立されているから、わかりやすいわね」
「そうそう。協調制御なんて、まさに私の世界よ。……パチュリーは、どっちになるのかしら」
「私も集中型になるわね。というより、分散型スタイルはかなり珍しいと思うわ」
「ま、そうかもね」
両手を頭の後ろに回す。
目を閉じて、ゆっくりと息を吸って、吐く。
「ねえ」
「ん」
「最近、魔理沙の攻撃、威力落としてると思わない? この前、地底に行ってもらったときも思ったんだけど」
「衰えてると? それとも、手を抜いているということ?」
「そうじゃない。正確な制御を重視して、あえて控えめにしてる感じ」
目の前で、または遠くから、魔理沙の戦い方を見ていて、実感できることだった。決して弱いわけではないのだが、迫力に欠ける。
魔理沙の武器といえば、火力とスピードだ。このうち後者は最大限に生かしているように見える。というより、スピードを殺さないような程度の攻撃に徹しているように、アリスには感じられた。
それは、普段の攻撃を見ていてもわかった。だが、それ以上に何より、
「マスタースパークを撃たなくなった」
魔理沙の代名詞と言える技を、長いこと見ていない。
あの、桁外れの威力と範囲と速さを全て兼ね備えた無敵の攻撃を、撃った後は笑うしかないくらい隙だらけになるあの攻撃を、使わなくなった。
「いいじゃない」
パチュリーは、こともなげに言う。
「人間はいくらでも可能性があるからね。色々なことに挑戦すればいいと思うわ。新しい発見もあるでしょう」
「そうなんだけどね。うん、わかってるんだけど」
頬杖をついて、ため息をつく。
「わかってるんだけど……寂しいのよ」
理屈ではない。勝手なことを言っている、とアリス自身も自覚はしている。
「魔理沙は、小細工なんかしなくても、純粋に魔法の力だけで勝てる力を持ってる。それは、私にはない力だから。力任せでいいから、思い切り派手に戦って魅せて欲しいのよ」
かつてのアリス自身の姿を重ね合わせて。
人間の魔法使いなど相手にもしていなかった頃、絶対の自信に溢れていた頃、魔法の力を無敵だと思い込んでいた頃のアリスを打ちのめしたのは、魔理沙の力。
「若いんだし、なおさらね。難しいことなんてまだ考えなくても、のびのびやってくれればいいのよ」
「アリス。一言いいかしら」
「何?」
「おかあさんみたい」
「!?」
「……あー。まあ、とにかく。本は魔理沙から借りるわ」
「よろしくね」
「うん。じゃ、また――」
「あああアリスさん、大変です!」
「え? え? どうしたの、小悪魔さん」
「アレの1巻と2巻がいつの間にかなくなっています……!」
「!」
ちら。アリスはパチュリーのほうを見る。
「最近なんか流行ってるアレ? 私じゃないわよ」
「魔理沙……!?」
「ついに魔理沙さんまでアレに手を出しましたかー」
「く……魔理沙にはアレはまだ刺激が強いと思うの。こう、色々と、痛々しいし。魔理沙、ああいうドロドロしたの苦手じゃないかしら」
「アリス。一言いいかしら」
「あ、ごめん聞かなくてもわかる」
このアリスは間違いなく大人の階段を、魔理沙の手をひいて一段ずつゆっくりのぼるに違いない。
と、常に魔理沙に付き纏う子離れ(?)できないアリスさんが数年後に見られるんですね?
……それはさておき、心配性なアリスが可愛かったです。
いや、関係ないか。どうせ嫁に行く先は決まってるし。
とても和みます。
アリス可愛いw最高です!
神綺様の影響ですなwww
もうアリス駄目かもしれんねwww
そのうち口の周りを吹き始めたり朝ご飯勝手に作りに来たりするんだろうなぁ
しかし無意識に過保護な母はえてして避けられてしまうぞ?