「小悪魔、あなた少しは休んでみたら?」
「……はい?」
パチュリーの記した魔法研究書を、せっせと分類、そして保管をしていた小悪魔にそんな言葉がかけられた。
「何故ですか?」
「あなたにちゃんとした休みというものを、与えたことが無かったから」
「別にいりませんけど」
「労働基準幻想法に反するわ」
「だとしても、凄く今さらですね」
「私を訴える?」
「まさか、ありえません」
そんなことはありえない、と当たり前のように言う。
確かに小悪魔だろうと疲労は感じる。だが、やわではない。例え毎日ほぼ一日を働いたとしても、疲労困憊にはなるが、倒れたりはしない。
そして、紅魔館内でほぼ一日働くことなんて、滅多に無い。パチュリーのために紅茶を淹れたり、実験に付き合って爆発させられたり、本の整理をするくらいだ。
もっとも、本の整理は小悪魔のように慣れた者で無ければ、一日を費やすかもしれないが。
「ま、良いからたまには休んでおきなさい」
「はぁ……そこまで言うなら」
こうして、小悪魔にとって初めての休日が始まった。
小悪魔の休日:AM7時。
「ん~! 良い天気!」
大きく伸びをして、太陽の光をさんさんと浴びる。
小悪魔は今、紅魔館の裏庭に来ていた。
美鈴が手入れをしている花壇は、どれも綺麗に咲いていた。
ふと空を見上げれば、いつもの図書館とは正反対の明るさ。
「んっ! 眩しい」
眩しさに、手のひらで目を軽く覆う。
「久し振りにあれをやろう」
ラジオを持ってきて、スイッチを押す。
『ラジオ絶望第2ー!』
音声が流れる。
小悪魔がまだ幼い時、悪魔の世界で毎朝させられた健康体操だった。
『両手のひらで顔を覆いながら、頭を激しく動かし、叫び声を上げる発狂の体操~』
小悪魔は懐かしそうに、その体操を行う。
「うわぁぁぁ! ひっ!? きゃぅあああ!?」
『いっちに、さんし♪』
発狂の体操をする時は、近所迷惑にならないように気をつけることが重要だ。
『続いて、両手両足を小刻みに震わせながら、絶望に満ちた表情で相手に命乞いをする運動ー』
「ま、待ってください! あ、わ、私お金ならあるんです! だ、だから命だけは。あ、あいつがやれっていったから! お、お願いです!」
朝の清々しいラジオ絶望の時間は、まだまだ続く。
小悪魔の休日:AM11時。
「んー……暇です」
特に行きたいところがあるわけではない。
何かしようかと考えても、頭に浮かぶのはパチュリーのことだけだった。
「……心配だなぁ。ちょっと見てみるくらいなら」
パチュリーには休めと言われたが、気になってしまうものはしょうがない。
小悪魔は、こっそりと図書館へと戻る。
「いたいた」
暗い中、アルコールランプだけを頼りに本を読んでいる。
「あぁ、もう! 目が悪くなりますよ、っていつも言ってるのに……」
注意したいけど、出てくわけにはいかない小悪魔は、頭を抱えて唸っている。
「あぁ、注意したい! けど、出て行くわけには……う~う~」
「読書中に唸られると集中出来ないのだけど」
「ひゃうんっ! パチュリー様!? 何故!?」
「あれだけ背後でぶつぶつ呟かれれば気付くわよ」
呆れ顔のパチュリーが、小悪魔に言った。
小悪魔からすれば、いきなり目の前にパチュリーが現れて驚きしか無い。わたわたと両手を慌ただしく動かして、言い訳を探している。
「私は休めと言った筈」
「いや、えと、忘れ物を取りに!」
「…………そ、ならさっさと取って行きなさい」
「は、はいっ!」
明らかに疑いの目で見られたが、なんとかやり過ごすことが出来た。
小悪魔は慌てて図書館から飛び出した。
小悪魔の休日:PM3時。
「ふへぇ」
草原に寝転がり情けない声を上げて、空を見上げる。
小悪魔の頭に思い浮かぶのは、パチュリーばかりだった。
「うぅ……」
どうにも落ち着かないのだ。
最初はこの気持ち、パチュリーを心配しているからだと思っていた。だけど、パチュリーはそこまで頼りない存在では無い。本の整理以外なら、何でも自分でこなしているだろう。
それを分かっているからこそ、小悪魔は今の気持ちが分からなかった。
「心配なわけでは無い。なら、どうして……」
何故こんなにも気になるのか。
小悪魔は目を瞑って、考えてみる。
思い浮かぶのは、やはりパチュリーのことばかり。
小悪魔とパチュリーは、今までずっと一緒だった。出会ってから色々あったけれども、今は互いに信頼し、支え合うような関係だ。
必要な、存在なのである。
「いつの間にか、空気みたいになってたのかな」
側に居るのが当たり前。そして、居なければ苦しくなる。それは寂しいからか、違和感からか、小悪魔には分からない。
ただ、分かったのは、パチュリーが居てくれないと、駄目だということ。
「やっぱり戻ろう」
小悪魔は立ち上がって、紅魔館へ、図書館へと戻る。
まだ、何故こんな気持ちになるのか、完璧には理解していないけれど、それでも良かった。とにかく今は、パチュリーに会いたくて仕方無いのだ。
急いで、向かった。
小悪魔の休日:PM5時。
そっと図書館の扉を開く。
奥へと進むと、そこにはパチュリーが居た。変わらずに、黙々と本を読んでいる。
小悪魔は、そっと近付き――
「うわっ!」
「ふわぁ!?」
大声で驚かした。
普段は聞けないような、可愛らしい声を上げて身体を震わすパチュリー。小悪魔の悪戯は成功だ。
パチュリーがすぐ振り向き、睨む。
「小悪魔、私は休みを出した筈よ?」
「えぇ、いただきましたね」
「なら、早くここから……」
「意味ありません」
「は?」
「私一人の休みなんて、意味ナッシングです! 私が休むならパチュリー様も一緒。二人一緒じゃなきゃ嫌です」
「意味が分からないわ」
「……寂しいんですよ」
勢いで喋っていた小悪魔が、急に呟くような口調に変わった。
「パチュリー様が側に居ないと落ち着かないんです。離れていると、苦しいんです」
「えーと……小悪魔?」
受け取り方によっては色々と変わる言葉に、パチュリーは戸惑う。
そんなパチュリーに気付かず、小悪魔は続ける。
「それに休みをもらったからと言って、何故ここを出て行く必要があるのでしょうか。一日フリーと言うならば、私はずっとパチュリー様の側に居たいです」
「え、と……」
「ダメ、でしょうか?」
不安そうな瞳が、パチュリーを捉える。
小悪魔がここまでこんな感情を表すことは、珍しかった。
いつもは、悪戯っぽく笑ったり、明るさを帯びた雰囲気が、今はすっかり落ち込んでしまっているように見えた。
中々返事を返さないパチュリーに、小悪魔の瞳が潤む。
「あぁもう! 分かったから!」
さすがにこれには焦ったパチュリーが、そう言った。
「迷惑では……ないですか?」
「あのねぇ……」
未だに不安そうな表情を浮かべる小悪魔の額を、パチュリーは軽く小突く。
「あなたが居て迷惑だったことは、一度も無い。私だって小悪魔が居てくれて、助かっているし嬉しいのよ」
「本当ですか?」
「しつこい」
慣れないことを言ったせいか、少し頬が赤いパチュリー。
小悪魔は、その言葉を聞いて、みるみるうちに明るい表情へと変わる。
「パチュリー様ぁ!」
「ちょ!?」
勢い良く抱き付いた。
突然の行動に、パチュリーはふらついて倒れてしまう。パチュリーが倒れても、小悪魔は抱き付いたまま離れない。
パチュリーが文句を言おうと、小悪魔を見る。
「えへへ~パチュリー様」
満面の笑みだった。
叱るに叱れない。
「はぁ……随分と甘えん坊な悪魔ね」
「えへへ~」
溜め息を吐きながら、小悪魔の髪をそっと撫でる。
互いに密着した身体から伝わる心音が、心地良かった。
糖分も大事ですがお笑いへの愛は衰えませんねw 流石です。
良いこあぱちぇ(ぱちぇこあ)でしたwww
しかし、絶望第2があるということは第1も・・・www
この程度ですか
私にはまだまだ物足りませんねぇ(滝鼻血
しかし、甘えん坊な小悪魔いいなぁ
しかも何気に命乞いが死亡フラグw
パチュリーも小悪魔も可愛い。二人に幸あれ。
こんな感じの友達なり仲間なり、欲しいものです。
そして労働基準法はとっくに幻想入りしてるんですねわかりますorz
素直に体操しようよwww
なんかコーヒー飲みたくなってきた…
やはりあなた様もお笑い詳しいですねw
お笑い大好きですよw!
>>2様
甘かったですか、ありがとうございましたー!
>>3様
大丈夫ですかー!?
>>4様
あまり見ませんよね、甘えん坊小悪魔。
>>無在様
次の瞬間にはやられてるタイプですよねw
>>6様
こんな関係、信頼しあえて支えあえたら、最高ですね!
>>7様
悪魔界なら日常的にありますよ!
>>8様
素直な体操をしないのが、悪魔ですねw
全部やったらどうなるんだろう…。