Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

幻想プロレス列伝『蘇る萌える闘魂』

2009/05/31 03:17:12
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 このお話は

『幻想プロレス列伝「レスラー殺し」』

 の流れを受けております

 つまり、幻想郷にプロレスが流行っているというお話で要約すると

『霖之助が昔極悪覆面レスラーでしたよ』って事になっております

 あいも変わらず、脇役の世界のプロレスです
 
 プロレス嫌いな人、脇役が嫌いな人は…ごめんなさい


 後、香霖がかっこいいです





 では、覚悟の上でお話をどうぞ






























「祟り神でも巫女でもかかって来きなさい!私のアホ毛を掻っ切ってみろ!」

 四方をロープで囲まれた戦いのフィールド
 その中で、対戦相手にマイクを持って挑発する
 新団体を作り上げ、その後文字通りこの身一つで世界を作り上げた
 そんなレスラーが居た

 奇しくも巫女や祟り神に負けてしまったが
 魂は負けていない、その伝説のレスラーは
 一つのキャッチコピーで呼ばれる事になる

 『萌える闘魂』と…




「…と呼ばれたのも、もう随分と昔の話ね…」
 そして、その人物は今はリングから降りて
 テーブルの上で、書類に判子を押していた
「えーと…これがマイちゃんとユキちゃんのタッグの対戦相手ね」
(ポン!)
「それで、今度のビッグマッチは…と
 夢子ちゃんと紅魔館のメイド長の対決ね」

『メイドオブドリーム』と名が打たれた幻想郷公演 
 その準備等の調整に神綺は色々動いていた


 魔界神こと神綺はかつて『萌える闘魂』と呼ばれて
 幻想郷にもその名が轟くほどのトップレスラーであった
 現『グリーンカラーシスターズ』の会長である魅魔とも
 何度も激しい戦いを交えてきた 

「ふんふ~ん♪…夢子ちゃん次の報告書持ってきて~」
「かしこまりました、これが次のシリーズの予定と…」


 今ではその面影は全く見られない
 戦いの場がWINに変わった時
 神綺は自ら次の代に出番と役目を譲って引退したのだ
 

(…もう熱くなれるものなんてないもの)
 だが、その本心は諦めだった
 魅魔や幽香等が引退を宣言した時から
 自分と対等に戦える相手は居なくなった
 それと同時に、心の中に灯してあった燃える思いは無くなった


 それ以降、神綺は自分は戦う事を止めて
 自分達の娘を育てる会長になったのだ
 そして、もう二度と戦う事は無いと心に決めた

「あ~疲れた…夢子ちゃん居ないし…ちょっと休憩ね?」
 神綺が机の上でしていた作業を止めると
 疲れた目を休める為に目を閉じた 
(もう、私の魂を熱くしてくれる人なんて…)

 目を閉じた神綺の頭に思い出るのは一人の人物
『萌える闘魂』と呼ばれる前、神綺の魂を熱くしてくれたレスラーの事
 残念な事に戦う時期が少しだけずれていて戦う事が出来なかった
 憧れのレスラーの戦う姿であった
 そのレスラーが居たから、萌える闘魂があった
 そのレスラーと戦ってみたいから戦おうと思った
 全てはそのレスラーが居たから…
(ふふっ…まるで初恋の人みたい)
 その思いは初恋と言っても過言ではなかった

 今考えれば、リングを降りたのも
 その人物がリングから姿を消したからかも知れない
「…さあ、休憩終わり!仕事仕事」
 目を開けると再び神綺はテーブルの上での作業を開始し始める

(え~と…これ今度の収益と観客動員数で…あら?)
 書類の中から、珍しい者からの連絡が入っていた
「そうそう!見にいけなかったけど
 アリスちゃんも団体入ったんだっけ!」

 自分の娘は全て可愛いがその中でもアリスは特に可愛がっていた
 その娘の試合を見にいけなかったのは、心底口惜しかったが
 魔界でのタイトルマッチで司会席に行く予定が入っていたので仕方がない
(もう…私なんて居ても仕方が無いのに…夢子ちゃんの馬鹿…)
 
 神綺自身はこう思っているが、未だに魔界や幻想郷の一部では
 萌える闘魂のファンが存在している
 噂では、妖怪の山の古参天狗達の殆どがファンだという噂もある
 
「いけないいけない…アリスちゃんの試合は…っと」
 仕事を一時中断して、奥の部屋で水晶球を用意すると
 送られてきていた書類とテープの中に入っていた画像を見つめる


『まさかの開幕エベレストジャーマン!?』
「…え~と…アリスちゃんの試合は…」
 パチュリー戦の試合を一気に飛ばして
 アリス戦を見始める神綺
「…此処からね」
 早送りを止めてアリス対モミジン戦が始まった

『あ~っと!?顔面蹴りだ!物凄い切れ味!』
「そう!そこよ!アリスちゃん!もう少し体を捻って!」
 ベッドの上からまるで自分のように嬉しそうに応援する魔界神
 もっとも、他の娘達が戦うときにも応援するのだが
 その応援を見に来る人も居るそうで、見に来るファンの方曰く
『萌える!』『凄く微笑ましくって…』
『魔界神の萌え今だ衰えすらずか』
 らしく、神綺が試合会場に来る日は
 観客動員数が一割ほど増える程である 


『でた!?必殺のストレッチプラム~!返せるか?返せるか!?
 あ~っと此処でタオルが飛ぶ!ギブアップだ~!』
「やった~!流石アリスちゃん!」
 両手を挙げてばんざいをする魔界神
 誰も、その人が魔界の偉い人など思わないだろう  

(んふふっ♪…アリスちゃんも強くなったわね)
 神綺が心の中で喜びながら、水晶球を止めると
 アリスから送られてきた試合の説明等を眺め始める
 新団体の名前と、レスラーの名前等も書かれている
「ん~…できればアリスちゃん達と戦わせてあげたいな~」 
 試合をするとなると、その顔は真剣になる
 自分の娘だからと言って優遇してはいけない
 なんだかんだ言っても未だに魔界のプロレスは人気があるのだ
(ようやく夢子ちゃんと紅魔館とのビッグマッチが決まったしね…)

 大きな試合という物は、あんまり出すわけには行かない
 毎回そんな事をしていれば、レスラーの体が持たない
 その上、ファン達もそれに慣れてしまう
 その辺の意味でも、魔界神である神綺はプロだった

(…しばらくは様子を見て…)
 とりあえず保留を神綺が決めようとした時
「!?」
 書類を見ていた神綺の顔が険しくなった
 アリスから届いた書類を、最後まで文章を見つめ終えてから
 大急ぎで先ほどアリスの試合を見ていた水晶球を準備し始めて
 一番最後のタッグマッチの試合を最後まで見終えて…
「…間違いない…」
 そう一言呟くと
「夢子ちゃん!数日間留守にするから後よろしく!」
「し、神綺様!?何処に行くんですか!お待ちください!」   
 大急ぎで仕事をこなして、事務室から高速で外に飛び出して行った






 
 それからしばらくしてアリス亭の中で
「なあ…アリス…」
「なに?魔理沙」
「…次の試合まだ決まらないのか?」
「まだみたいね」
 ウィッチズ三銃士の一人である魔理沙がだれていた
 前の打ち上げ試合の時からある程度時間は経っているが
 中々、試合の日程は決まってなかった
 最も試合が無いとご飯が食べていけない訳ではないのだが
「…このままだとモチベーションが上がらないぜ」
「分からないでも無いわね」
 テンションが上がらないのも事実である
 アリス、魔理沙、パチュリーの三人はかなりの猛者であるが
 組織としてはちょっと小さすぎる、フリーとして戦ってはいるものの
『因縁の対決!』や『下克上なるか?』等のキャッチコピーの方が受けるのだ
 そういう意味では、まだまだプロレスとして彼女達の名前は売れてなかった

「まあ、もう少し待ちなさい魔理沙…紅魔館の方も
 夢子さんとメイド長との対決が終ればしばらく空くみたいですし」
「あ~…こうなったら魅魔様に頼んでみるかな?」
 魔理沙がそう言って椅子に倒れこんでいると

『こんこん』
「おい、アリスお客だぜ?」
「はいはい…上海、魔理沙見張っておいて?」
「しゃんはーい!」
 アリスの言葉に上海人形が小さな手を額に当てて答えた
 
 
 
 後ろから魔理沙の『信用無いな~』の呟きを聞きながら
 アリスは玄関に向かっていた
(でも、一体誰かしら?こんな時間に…)
 こんな時間に来る人と言えば、魔理沙以外は無いのだが
 その魔理沙が、此処に居るのだから来たのはそれ以外の人物となる
(…迷い人かしら?)
 誰が来たのかは知らないけど、アリスは優しいのだ
 どんどんと叩かれているドアを開けて誰が来たのか確認する
「はーい…どちらさ…」
「やっほ~♪アリスちゃん元気だった?」
 アリスは自分の目を疑った…目の前に居た人物は
 魔理沙でも迷い人でもない
 改めて目を擦ってからもう一度その人物を見つめる

「そうそう!この前の試合みたわよ
 もう、お母さん感動しちゃったわ~」
「し、神綺様!?」
 間違うことなく、魔界の神にして自分の母親その人であった





「アリス、ご飯はまだか?」
 後ろから人が来た気配で魔理沙がそう声をかけると
「そ、それどころじゃないわよ魔理沙!」
 アリスがため息をついて魔理沙にこたえかけたので
 魔理沙が後ろを振り向くと
「あらあら、魔理沙ちゃんこんにちわ」
「…えっ?」
 そこに居たのは、柔和な笑みを浮かべたアリスの母親の姿が
 思わぬ相手に魔理沙も思わず背を正さざる終えなかった
(あ、アリス!?な、なんでお前のお母さんが此処に来たんだよ!?)
(し、知らないわよ!何時もなら連絡を来てから来るんだから!)

「二人とも、ご飯まだでしょ?簡単な物だけど作るからちょっと待っててね」
 心底慌てている魔理沙とアリスの事など気にしないで
 神綺が鼻歌を歌いながらアリスの家の台所に向かっていった




「どうかしら?久しぶりに作ったんだけど…」

 しばらくしてから、魔理沙とアリスの目の前に
 大量の料理が並べられていて
 そのどれもが、美味しそうな匂いを立てていた
「お母さんやりすぎ…」
「…凄いぜ」
「さあ、暖かいうちに食べた方が美味しいわよ」
 思わず呟いた魔理沙とアリスに対してそう告げてきたので
 魔理沙とアリスが両手を合わせて
「「頂きます」」
 その料理を食べる事にした  



「美味しい?」
 その料理はあまりにも美味しすぎたので
 神綺の言葉に二人とも料理を食べながら頷いた

(私じゃまだ、お母さんの域までは遠いわね)
(…アリスはまだいいぜ…私じゃ絶対に無理だ)
 二人とも、無言で料理を食べていた

「食べながらでいいから聞いて貰いたいんだけど…」
 その様子を微笑みながら神綺が微笑みながら声をかけてきた
「なんだz…なんでしょうか?」
「なにかしら?おか…神綺様」
 料理を食べていた魔理沙とアリスが真剣な顔で声をかけると

「もう、今はプライベートなんだから…アリスちゃんも
 魔理沙ちゃんも、お母さんでも神綺でもかまわないわよ」
 神綺がそう言って笑いかけてから  
「実はウィッチズ三銃士にプロレスの試合を頼みに来たのよ」
『!?』
 唐突にそう声をかけてきたのだ
 思わず料理を食べていた魔理沙とアリスの手が止まった
「三人の試合を見てね、是非試合をしてみたいって思ってね」 
「ちょ、ちょっと待ってお母さん」
 驚いている魔理沙よりも先にアリスが声を出す
「試合って…夢子さんのビッグマッチがもうすぐ行なわれるじゃない!」
「ええ、確かに紅魔館のメイド長との戦いがあるわね」
 それは、最近の試合のなかでもかなりのビッグカードのはずである
「夢子さんの試合の調整とかはどうするの!?」
 ビッグマッチは本気で戦われる
 つまり、怪我をしていたりする場合が多い
 しばらくは体を休めながらの調節期間があるはずなのだ

「大丈夫、今から一ヶ月後だし…シングルマッチじゃなくて
 三対三のエキビションマッチだから」
「エキビションマッチか…」
 シングルマッチじゃないと言う言葉に魔理沙とアリスも少し納得した
 三対三なら、一人にかかる負担は少しは楽になる
「…でも、何で私達なんだ?」
 今度は魔理沙が声をかけた
「人を呼ぶのなら、もっと良い選手が沢山いるはずだぜ?」
 レティ・ザ・ジャイアント、スイカ・バーナード
 絶対門番、アンタッチャブル霊夢…
 その他にも名前が売れているレスラーが居るのだ
 魔理沙の疑問に神綺が両手を組んでこたえる
「ん~…正直に言うとね、前の試合を見て、いいな~って思ったの」  
 前の試合、つまり旗揚げ興行の妖怪の山での戦いであった

「勿論、手当ても十分出すし保険も会場もこっちが持つわ」
 それは破格の扱いだった 
 本来、違う団体と戦うときは利益を分けるのにも時間がかかるし
 会場のお金も折半する事が多いのだ
「…この条件で戦わないかしら?」

(どうする?魔理沙)
(…ちょっと待ってくれ)
 破格の条件だったが、あまりにも出来すぎている
 魔理沙もその事を考えて慎重だった

「私達が負けたら、そっちの軍団に加わるって事は無いよな?」
「ん~…出来たらそうしたいけど、今回はしないわ」
 神綺がそう言って二人の前に一枚の契約書を見せた

「…実は契約書にあぶり出しで何か書いてあるとか…」
「心配なら、契約書のコピーをそっちに渡してもいいわよ?」
 手渡された契約書におかしな所が無いか
 アリスと魔理沙が調べるが、おかしな所は無かった

(でも、何か引っかかるぜ…)
 魔理沙の頭の中に何か引っかかる物があった
 プロレスを立ち上げてすぐの団体との試合で
 此処まで破格の条件で試合をしようとしているのが
(…アリスだけならまだわかる、でも、何で三人ともなんだ?)
 娘であるアリスならまだわかる、名前も力もあるレスラーだから
(……待てよ?)

 その時、魔理沙の頭に一つだけ理由が思い浮かんだ
「さあ、契約を書いてくれる?」
「ああ、でもこっちも一つの条件を付けるぜ」
「ん?なにかしら」
 笑顔で答える神綺に対して魔理沙が一言条件を加えた
「そちらの選手と『レスラー殺し』は戦わない事だ」
「!?」
 その言葉に、神綺の顔に驚きがうかんだ

「…香…いや、『レスラー殺し』はもう表舞台に出たくないって言っていたか
らな…だから『レスラー殺し』とそっちの選手が戦わない事を条件にだすぜ」

 魔理沙の言葉で辺りが一瞬沈黙したが
「……ええ、それでかまわないわ」
「よし、それじゃあその条件で契約するぜ」
 神綺がそう言って、改めて契約書を手渡した




「それじゃあ、お母さんこれで帰るわね?」
「…今度から来るときに連絡入れてね、お母さん」
 契約が終ってから、神綺が料理のお皿を片付けてから
 外に出て行こうとして…
「あ、そうそう…二人に一つだけお願いがあるのよ」

 神綺が立ち止まって魔理沙とアリスに対して
「もし、『レスラー殺し』に会ったら…」
 人差し指を突き出して胸をトントンと叩くポーズをして
「…この格好をしていた事を伝えて欲しいの…それだけお願いね?」
 アリスの家から出て行った 




「…まさか見抜かれるなんてね…」
 幻想郷から魔界に向かう途中で神綺がそう呟いていた
 その顔は無表情だが静かに怒気を含んでいた
「でも、いいわ…その条件でも…引きずり出すから」
 そう言って笑みを浮かべると急いで魔界に向かって帰った

「ただいま…」
 魔界に帰った神綺に対して
「神綺様!何処に行っていたんですか!」
 神綺の付き人でもある夢子が怒っていた
 帰ってきた魔界神の傍に近づいて説教をしようとして
「何かあったらどうするんで…」 
 言葉が止まった…否止めざる終えなかった

「…夢子ちゃん、久しぶりに我侭を言うわね」
 そこに居るのは昨日の神綺では無い
「…明日から体を鍛え直すから準備をしてくれる?」
「~~っ!?は、はい!わかりました」
 ここまでの笑顔の威圧感は、此処最近では感じた事が無かった
 だが、夢子にはこの威圧感に覚えがあった
 大急ぎで神綺に頼まれた物を用意するためにその場を離れる 

 そして、離れてから夢子が真剣な顔になって思い出していた
(あの威圧感…まさか、神綺様に蘇ったのか?)
 かつて、魔界にその人在りといわれていた神綺の伝説
(神綺様が…でも、一体何が原因で?)
『萌える闘魂』と呼ばれていた頃の威圧感を






 それから数日後…
「はぁ…はぁ…」
 魔界神である神綺は走り込みをしていた
(どれだけ振りかしら…呼吸をし難くするマスクをつけて走ったのは)
 ただの走りこみでもかなり辛いのだ、
 神綺は体力をつける為にその上から二枚ほど、
 呼吸をしにくくする為の風邪のためのマスクをつけて走っていた
(…やっぱり、身体が鈍っているわね)
 既に、並みの選手以上に走りこみを終えているのだが
 現役の頃はこれ以上に走れていた
「…はぁ…はぁ…」
 正直言って苦しいとしか言いようが無い
(…でも、情けない姿をあの人に見せたくは無いものね)
 だが、それ以上に心は燃え滾っていた

「…よし、休憩終わり!」
 今、再び『萌える闘魂』が魔界神の身体に蘇りつつあった
(待ってて…絶対に認めて貰うんだから)
  





 その走り込みの様子を見ている人物がいた
「神綺様が…燃えておられる」
 神綺の付き人である夢子であった

 自分自身も、ビッグマッチに向けて
 体を調節しておかないといけないのだが
(…まさか、再び神綺様が表舞台に出るなんて事は…)
 伝説が蘇ろうとしている姿の前に
 もう少しだけ、その姿を見ておきたいと思っていた 
「神綺様が…」
「引退したはずなのに…」
「いったいなにがあったの?」

 その姿を見ていたのは、夢子だけじゃなかった
 マイ、ユキ、サラ…
「…本当だ…走ってる」
「ルイズ?」
 そして、色々飛び回っているはずのルイズまで集まってきていた
「…皆こんな所に来ていてもいいのか?」
 夢子が集まった皆に問いかけると
「それは夢子も同じでしょ?」
「ビッグタイトルあるのに、こんな所にいて」
「それに、神綺様が再び戦うかもって聞いたら…」
「…魔界に居る人なら噂にならないはずがないよ」

 四人ともそう伝えながら、

 走り込みをしている神綺の姿を見つめる
 
 自分達が憧れていた人物の姿を




     ・・・













「やれやれ…今日も暇だな…」
 魔法の森にある変なお店、香霖堂…
 その店主である森近霖之助はごく普通の半人半妖である  
(まあ、平和が一番だよな)
 だが、彼にはとある秘密があった
 
(がた~ん!)
 物思いに耽っていた霖之助にお店のドアを開く音が聞こえて
「こ~りん!」
 それと同時に何者かが走りこんできて
「ジャンピングニーだぜ!」
「はぁ…」
 霖之助に対して飛び膝蹴りを敢行してきた
 そして、霖之助が走りこんできた者の姿を確認してため息を着くと
「よっと…」
 自分に飛んできた者の膝を片手でガードして
 もう片方の手で飛んできた者の背中を固定した
「うわっ!?」
 飛び蹴りを仕掛けた人物も、まさか此処まで綺麗に
 技を返されそうになるとは思っていなかったので慌てる
「…これで後ろに投げたらキャプチュードの完成だ」
 そんな様子が見れて霖之助も少しだけ満足したのか
 抱え上げた人物を、自分の目の前に降ろした
「流石はこーりん…伝説のレスラーだぜ」
「さて、いきなり飛び膝蹴りをしてきた訳を聞かせてもらおうか?魔理沙」

 そう、店主は伝説のプロレスラー『レスラー殺し』だったのです




「次の試合が決まったぜ!」
「…そうか、でも無茶したらいけないよ?」
 霖之助の膝の上で魔理沙が次の試合の事を伝えた
「負けるつもりは一切無いぜ!」
 何処から来る自信かは分からないが、魔理沙が胸を張ってこたえる 
「それで、今度は何処と戦うんだい?」
「ああ、魔界の連中と三対三で戦うエキビションマッチだけどな」
 その言葉に、霖之助が眉を潜めた
「…それは随分とまた」

 霖之助も元とはいえレスラー
 ビッグマッチが近いのに
 少々試合の間隔が短すぎると言う事は良くわかっていた
「ああ、香霖の思う事は良くわかるぜ…」
「何か理由でもあるのかい?」
 霖之助の言葉に魔理沙が静かに伝える 
「多分、目的はウィッチズ三銃士の名前じゃなくて…」
「…そうか『レスラー殺し』か…」

 一昔前に暴れていた超大型ヒールレスラー
 相手の見せ場を作らせずに、凶器攻撃も
 正統派攻撃も全て使いこなし
 戦った相手を身体的、精神的に壊してきたレスラー殺し
 あくまで噂でしかなったその存在を知るものは
 殆どいなかったのだが

「…ごめん香霖…」
「何がだい?魔理沙」
「あの時、私がもっと強かったら…」
 
 今から少し前、魔理沙が立ち上げた新団体
『ウィッチズ三銃士』の旗揚げ興行の際に
 魔理沙のピンチを救う為に森近霖之助は
 封印していた仮面をかぶり再び表舞台に出てきたのだ 
「『レスラー殺し』がもう一度表に出ることは無かったんだろ?」

 霖之助の膝の上で申し訳なさそうに伝える魔理沙に対して
「…魔理沙が気にする事じゃないよ」
 霖之助は笑みをこぼしながらその頭を撫でる
「へへっ…」
 頭を撫でられて魔理沙も笑みをこぼし
「…よし、もうそろそろパチュリーとアリスと一緒に特訓をしてくるぜ」
 そう言って霖之助の膝の上から降りた

「今回は僕の出番は無いんだろう?」
 緊張をほぐすように霖之助が魔理沙にそう伝えると  
「霖之助のような優男が出る出番なんて無いぜ」
 魔理沙も冗談で返した
「それに、契約をしに来たアホ毛の魔界神にも
『レスラー殺しと魔界の選手とは戦わない』って条件もつけてきたしな」
「…そうか」
 魔理沙がそう伝えると霖之助が安堵のため息をもらす
「…香霖はもう戦いたくないんだろう?」
「僕が出て行っても君の壁になるぐらいにしかならないよ」
 心配そうに伝える魔理沙に霖之助がそう答えかけた
「…はは、そうだよな」
「ああ…さあ、特訓があるんだろう?早く行くといい」
 
 霖之助の言葉に魔理沙が頷いてお店のドアを開けようとして
「あ、そうそう…魔界神の奴が…」
 魔界神に頼まれていた事を魔理沙が思い出して
 人差し指を霖之助に突き刺してから
「『レスラー殺し』にこのポーズをしておけって言われたぜ」
 そう言って自分の胸元をトントンと突付くと
「それじゃあ、特訓に行って来るぜ」
 大急ぎで表に出て行った



 

 お店に残された霖之助は…
「……」
 先ほどとは違って、深刻な表情で腕を組んでいた
(あのポーズは…)
 人差し指を相手に向けるポーズ…
 それは古い時代のレスラーでも一部の者にしか分からない暗示であった

『シュート(真剣勝負)を仕掛ける』

 いくら身体が頑丈なレスラーとはいえ
 何時も真剣バトルをし続けていてはすぐに壊れる
 だが、そんな中でも本気で戦いたい相手が現われた際に
 相手に対して、真剣勝負でやろうと言う意志を現す証明のサイン…
 それが、人差し指を銃に見立てて『全力で貴方を殺りに行く』
 心臓に突きつける事で『自分も殺されても構わない』のポーズなのだ

 今の幻想郷ではもう、そのようなポーズは使われない
(…古いレスラー…僕にしか分からない暗示と言うわけか)
 だからこそ、そのポーズを魔理沙に送るように伝えたのだろう

「…やれやれ…筋肉痛になるから、もう二度と
 プロレスをしないと前に誓ったはずなのにな」

 霖之助はため息をつくと、玄関にある看板を
『営業中』から『しばらく臨時休業』に裏返した

(…何もないといいが…何かあってからじゃあ遅すぎる)
 ビッグマッチの前に間隔を置かないで試合を申し込むと言う事は
 何か意味があるのだろう
(…僕が戦いを止めた頃から出た『萌える闘魂』か…)
 どんな事を考えているのかは分からないが
「…魔理沙の壁になって守ってやる事は出来ないとね」 

 自分の座っている椅子の下にある
 トレーニングルームに霖之助が降りていった




     ・・・




「ジャンピングニーだぜ!」
 特設リングの上で魔理沙がアリスに走りこむと
 思いっきり飛び膝蹴りを決める
「まだ甘いわね」
 アリスがそう告げると、魔理沙の攻撃を避けて背後に回りこみ
「バッグドロップ!」
 リングの上に魔理沙を叩き付けた
「今日は此処までみたいね」
 魔理沙がマットに叩きつけられたのを確認してから
 横で見ていたパチュリーが声をかける
「はあはあ…ま、まだまだやれるぜ?」
 荒い息をしながらマットの上から起き上がる魔理沙
「そうね、これ以上は疲れるだけみたいだしね」
 そんな魔理沙を嗜めるようにアリスがリングから降りる
「…それに、これ以上しても怪我をするだけよ」
「むぅ…」
 そう言われたら仕方が無い、試合前に怪我をするわけにはいかないのだ
 魔理沙もそれを知っているからリングから降りた

「さて、我々三人の課題なんだけど…」
 練習後のストレッチも終えて、三人が椅子に座ると同時に
 この三人の中で最も試合慣れしているアリスが改善点を述べる
「パチュリーは体力をつける事」
「むきゅ~…」
 技術や知識などはこの三人の中でパチュリーがトップなのだが
 如何せん、体力が心配であった
 もっとも、喘息を持ちながらの戦いなので無理は出来ないのだが
「私はもう少し、破壊力を上げないと…」
 太るのは嫌だけどね…とアリスが告げる
 試合の経験の量ではアリスがこの中で上だが
 破壊力と言う点においては、少々心許ない物があった
「それで、魔理沙なんだけど…」
「なんだ?」
 アリスが一瞬困った顔をするが、魔理沙に告げる
「…気迫と根性はわかるけどね…」







「ん~…」
 魔理沙が二人と別れて箒に乗りながら
 アリスに言われた言葉を思い出す
(必殺技になる物が無い…か)

 アリスに言われた事は確かに事実であった
 
(アリスにはストレッチプラムと顔面蹴りが…)
 デンジャラスA(アリス)の二つ名は伊達じゃない
(パチュリーには七曜投げ技が)
 フロント、バッグ、サイド等の各種スープレックスを使いこなす事ができる
(…悔しいけど、アリスの言う通りだぜ)
 それに引き換え、魔理沙には
 一撃で相手を沈める事が出来る技という物が無かった
「…なにか良い技はないか?」
 試合までの間隔は短い…それまでに
 何か自分に合った必殺技を見つける必要があった

(スープレックス系…は無理だな)
 それを使いこなすには、魔理沙は少々軽すぎる
(ラリアット?駄目だ、私じゃ威力が足りなくて返される)
 豪腕を放つためにはある程度の重量が必要になる
(となると…トペだけど…)
 トップロープからの技は破壊力はあるが、それを放つまでが大変
「あ~…どれもこれも使えないな!」

 家に向かって飛ぶ魔理沙が少々イライラしながら
 なにか、自分に合った必殺技がないかを考える
(ジャンピング二ーが私にはあってるけど…
 正面的過ぎるから避けられやすいし…)
 自分に相性が良い技が出来てはいるがそれでは一撃になりえない
「くそー…何かないか?足技で…相手の意識を刈り取れる…」
 魔理沙がそうつぶやいた時…
「…むっ!?」
 頭の中に一つの技が思い浮かばれた
「そうだ…あれなら!」
 家に帰るのを途中で止めると、大急ぎで別の場所に向かいはじめた





     ・・・





「今日は此処までかな…」
 霖之助が今日の分のトレーニングをこなし終えてお店の中に戻ってきた
(明日は全身に重りをつけて走りこみだな…)
 かなりのオーバーワークであるが試合まで一ヶ月なら
 そのぐらいはしておかないと体力も集中力も持たない
 それが命取りになることは、霖之助はよくわかっていた
(さて…とりあえずお風呂に入る前に筋肉を痛めつけておいて…
 筋力を効率よく回復させるために良質のたんぱく質を…)
 自分の持っている知識と経験でどの位体を鍛えるか考えながら
 明日の食事の事も考えていたとき


(バタン!)
 閉店しているはずのお店のドアが盛大に開かれて 
「香霖!居るんだろう!?」
 やけに嬉しそうな顔をした魔理沙が現われる
「…こんな時間に何のようだい?」
 流石に夜も遅くなっているこんな時間にやってこられると
 霖之助も少し嫌そうな顔をする
 だが、そんな霖之助の事などおかまい無しに魔理沙が用件を伝える

「シャイニングウィザードのやり方を教えてくれ」

 その言葉に霖之助が一瞬動きを止めた
「今の私に合いそうな必殺技がそれなんだよ」
 魔理沙の言葉を聞いて、霖之助の表情が険しくなる
 だが、魔理沙はそんなことを気にせずに話を続ける
「頼むぜ…得意技なんだろう?」 
 香霖なら教えてくれるはずだと思って魔理沙が声をかける

  
「…魔理沙…」
「おお、教えてくれるのか!?」
 そんな魔理沙に対して、霖之助が取った行動は
(パン!)
 突然の痛みに魔理沙も驚きで一杯だった
 熱い感じがする頬に手を当ててようやく何があったのか悟った
「……えっ…?」
「……」
 霖之助が魔理沙に対して無言でビンタをしたのだ

「あ…」
 そこにきて、ようやく魔理沙は霖之助に怒られたのだと気がついた
「…いいかい?魔理沙…」
 魔理沙が怒られた事を悟ったのを霖之助が確認したうえで声をかける
「レスラーにとっての得意技は、そのレスラーの顔なんだ…そんな技を
 簡単に教えるわけにはいかない、何よりそんな簡単に覚える事は出来ない」
「……うん…」
 シュンとしている魔理沙に霖之助が説教を続ける
「スープレックス一つとっても、それを完全に会得する為には
 一回や二回の経験だけでは会得する事は出来ない
 それこそ、自爆や返されたりして自分なりの改良を加えて
 始めて自分の必殺技になっていくんだ」 
「……」

 当たり前の話に、魔理沙が頭を垂れ続ける
 その姿を確認した霖之助が魔理沙に背を向ける
「こ、香霖…」
「さて、一つ独り言でも呟こうか」
 魔理沙が思わず呼び止めようとした時、
 霖之助が背中を向けたまま声を上げた
「流れる川の中で500回程スクワットしても大丈夫な足腰がないと
 シャイニングウィザードを放つ事は出来ないんだよな」 
「!?」
 魔理沙がその言葉にはっと顔を上げた
 それと同時に、霖之助も魔理沙の方に振り返り
「まあ、僕のようなヒョロヒョロな優男には出来ない代物だけどね」
 口元を少しだけにやつかせてから
 
「さあ、僕はこれから体を洗ってくるから魔理沙も気をつけて帰りなさい」
 魔理沙にそう伝えて帰るように伝えた
「ああ、これから家に帰ってすぐに寝て、明日の特訓に備えるぜ」
 魔理沙もその言葉に頷いてから、箒を構えてお店から出て行った


 霖之助がその様子を見届けてから
「…さあ、スクワット2000回してからお風呂に入るか」
 筋力トレーニングを開始し始めた
(魔理沙に負けてられないな…)
 スクワットの最中に自分がそんなことを考えていた事に気がつき
(…まったく…レスラーは辞めたって言うのに何を考えているんだか)
 霖之助は思わず苦笑をしながらも、スクワットを続けた

 


     ・・・






 試合までの間に魔界では

「はぁ…はぁ…」
「ぜぇ…ぜぇ…」
 魔界のプロレスの練習場でマイとユキの二人が
 満身創痍でマットの上に倒れていた
 この二人もタッグとしての力はかなりのものであり
 マイとユキ、個人の強さもそれなりの物がある
 故に、このような姿になることは今までになかった
(ま、まさか…此処まで強いなんて…)
(…引退したのに…この強さ?)
 
「…まだまだよ…」
 この二人を此処までボロボロにした人物が目の前に立つと
 二人に起き上がるように言うと
「…ストップです」
 背後から現われた夢子の言葉に
 マイとユキの二人をボロボロにした人物… 
「え~…もう少し実践のカンを取り戻したいのに…」
 神綺が後ろを振り向いて答えた
 化け物並みの体力の神綺に対して、夢子がため息をつくと
「そのぐらいにしないと、試合前にマイとユキが倒れますよ?」
「ん~それは困るわね…」
 その言葉を聞いて神綺が少しだけ考え込む
 その隙に夢子が神綺に問いかけてみる
「…ところで神綺様…どうやって試合に出るおつもりですか?」 
「ん、それは大丈夫計画があるから…それよりも稽古相手は…あ、そうだわ」
 良い事思いついたかのように手をポンと叩くと

「マイちゃんとユキちゃんの代わりに夢子ちゃんが私の相手お願いね♪」
「えっ?」
 夢子を掴んでリングに上げる
「ちょ、ちょっとお待ちください!?し、神綺様!?ちょっと!」
(…うふふっ…待っていてねレスラー殺し…)
 萌える闘魂が燻っている火から炎になろうとしていた 
 





     ・・・





「…はぁ……はぁ…」
 霖之助も荷物を背負いながら無縁塚に走っていた
 普段から、無縁塚に外から来た物を集めていると知られているので
 誰も、その行動に違和感を持つ物は居ない
(流石に…重りをつけて走るのはキツイかな…)
 だが、人には見えない部分…服の内側に重りをつけて
 尚且つ、口にマスクをつけて走っているのだ
 その辛さは察して知るべきだろう…
「…このぐらいしないとな…」
 周りから貧弱そうな優男と思われているが
 半分妖怪の部分のおかげで、多少の無茶では倒れる事は無い
 それは筋力を強化しつつ、スタミナをつけるのには丁度よかった

(どうやら…魔理沙も僕の言ったトレーニングをしてるみたいだしな) 
 走りこみながら、途中で出会った河童から聞いた事を思い出す
『今朝早くから、しばらく此処拠点にするって言われたんだけど…』
 妖怪の山の川なら、近くに誰か居るし流れもある
(まあ…はぁ…はぁ…しばらくは…はぁ…はぁ…地獄だろうがね)
 水の流れの強い所でのスクワットは思っている以上にキツイのだ
「やれやれ…後で…怨まれるかもな…」
 今の自分を棚に上げて、水の中で特訓をしている魔理沙の事を思いながら
(さあ…ウォーミングアップはこれまでか)
 無縁塚まで全力疾走をし始めた

 これが、試合が始まる数日前まで続けられる事になる


(…できれば、萌える闘魂と戦わない事を祈るが…無理だろうな)
 そんなことも思いながらも、自分が
 かつてのレスラーに戻りそうになっていたのが分かっていた
 





     ・・・





「とうとうこの日が来たぜ…」
「ええ、そうね…」
「…え~と、開幕直後から消極的に奇襲する方法は…」
 魔理沙がそう言うと、アリスとパチュリーもそれに頷いた

 試合の会場は里の近くにある大型のドーム
 魔界でのプロレスを見る事が出来るという事で
 人や妖怪が集まってきていた
「さあ、天魔様に負けないほどの決定的な瞬間を取りますよ!」
「なんの!わしのプロレスの撮影の年季に比べたら文などひよっこじゃわい!」
「わ、わう…お二人とも落ち着いてください…」
 撮影をしようとする天狗達も極少数見受けられたが 
 会場はおおむね満員だった

「それにしても、魔理沙よく見たら痣だらけじゃない」
「へへっ…必殺技の開発でな」
 会場に向かう前の選手控え室でアリスが魔理沙の怪我を見つける
 よく見ないとわからないが、魔理沙の脚に沢山の痣がついていた
「…成果はあったの?」
 心配そうなパチュリーに魔理沙が笑顔で答える
「それは試合でのお楽しみだぜ」
 そう言って、試合前の会場に魔理沙が向かって行く
 その様子を見てパチュリーが小さな声でアリスに聞く
「…アリスはどうなの?」
「体重は増やさなかったけど、技の重さは増えたわよ…貴方は?」
「絶好調よ…今なら門番と戦っても五分までいけそうね」  
 もっとも、喘息が出なかったらと小さく付け加えたが…

「…さて、もうそろそろ試合の時間みたいね」
「そうね…魔理沙に負けないようにしないと」
 アリスとパチュリーも気合を入れて試合の会場に向かった





     ・・・





「それでは特別試合!ウィッチズ三銃士対魔界組の試合を行ないます!」
 レフェリーのかけ声に会場が暗くなり、観客達も完成を上げる
(さあ、そろそろ出番だぜ)
(一番手はパチュリーね…良い?マイ姉さんもユキ姉さんも曲者だからね?)
(…速攻でケリをつける予定よ…長期戦は不利だから)
 魔理沙とアリスとパチュリーが色々計画を練りながらも
 リングの上に上がる準備をする

「青コ~ナ…ウィッチズ!三銃士~!」
「行くぜアリス!パチュリー!」
「了解!」
「わかったわ!」
 レフェリー声と共に三人がリングに向かう
 観客達の声援と共に、リングインする三人


「赤コ~ナ~…魔界組の入場です!」
 レフェリーが魔界組の入場を促す
 それに伴って観客達も声援を送る
 だが、レフェリーの声が流れても
 入場してくる場所からなかなか選手が入場してこない
(…随分遅いな?)
(どうしたのかしら?)
(恐れをなしたって訳じゃなさそうね…)

 なかなか入場してこない魔界組に対して
 観客達もざわつき始めていた…
 そんな時、突然辺りの電気が落とされる
(!?)
(な、なに!?)
(むきゅ!?)

 こんな演出聞いていないので、魔理沙達も驚く
 ほんの数十秒程度の後に再びライトが着くと

 リングの上に魔界組のマイ、ユキ、夢子の姿があった
「えっ!?」
「ど、どういう事?」
「…本には書いてないわね」
 ボロボロの姿になってリングの上に叩きつけられた姿で…


「こ、これはどういう事なんでしょうか!?」
「むぅ…思わぬハプニングじゃな」
 いつの間にか開設席に座っていた天魔と文がカメラを取りながら
 観客達の代弁を大声で伝える

「魔理沙!パチュリー!急いで三人を!」
「わ、わかったぜ!」
「わかったわ」
 リングの上に居た魔理沙とパチュリーが
 気絶しているマイとユキの傍に、そしてアリスが夢子の傍に近寄る
「…あ…アリス…?」
「夢子さん!何があったの!?」
 
 紅魔館のメイド長である十六夜咲夜と互角に戦った猛者である
 夢子がこんな状態になるなんて考えられなかった
 アリスが、まだ意識のある夢子に何があったのか問いただすと
「…気をつけて…相手は正真正銘の化け物だから…」
「化け物?」
 アリスが夢子の言葉に眉をひそめようとした時
(…ざわ…ざわ……)
 観客達がざわめき始めた
 その様子に魔理沙とアリスとパチュリーが振り向くと 

「は~い♪魔界組三人をやっつけた身元不明の乱入者よ」
 鉄仮面のようなマスクをつけた人物が
 魔界組の選手入場口から歩いてきていた
「てめえ!」
「なんでこんな事を!」
 その人物を確認した瞬間、魔理沙とアリスがにらみつける    
「なんでって?…三人の代わりに私が戦いたかったからよ」
 謎のマスクレスラーがそう告げるとリングの上に上がる
「もとより変則な特別試合…三対一でも良いでしょ?」
 
 その言葉が切欠になる
「上等だぜ!私達相手に一人で向かう無謀さを教えてやる!」
 魔理沙の口上にアリスとパチュリーも頷き
 突如として、謎の覆面レスラーVSウィッチズ三銃士の試合が決定した

 突然のハプニングに観客達が一瞬静まり返るが
 魔界組を倒した者の実力が見れると聞いて盛り上がる

「まず一番手は…」
「私が速攻決めてくるぜ!」
 アリスが誰を先に行かせるかを決めようとした時
 魔理沙が一番手になろうとする
 だが、そんな魔理沙よりも先にリングに上がった人物が居た
「…一番手は私よ」
「「パチュリー!?」」
 驚く魔理沙とアリスに対してパチュリーが戒めるように呟く
「二人ともまず落ち着きなさい…怒ってると相手につけ込まれるわよ」
 その言葉に魔理沙とアリスがハッとする
「…それに、強さの分からない相手をはかるのが年輩の務めだしね」


「さあ!謎の鉄化面マスクVSウィッチズ三銃士の試合が急遽決定しました!」
「思わぬハプニング!これがあるからプロレスは辞められんわい!」
 解説席の文と天魔も興奮気味にそう叫ぶと
(カーン!)

 試合開始のゴングが鳴らされて試合が開始される
 それと同時にパチュリーが謎の鉄化面に突っ込んでいった




     ・・・




(極力消極的じゃなく相手に奇襲をかけるには…)
 パチュリーが考え出した答えは
「開幕ドロップキック!」
 ゴング後すぐのドロップキックだった
 パチュリーの一撃を受けて派手に吹っ飛ばされる鉄仮面
(そして、間髪居れずに大技を仕掛ける事!)

 リングの上に飛ばされた鉄仮面を掴み起すと正面から掴みかかり
「フロントスープレックス!」
 そのまま、相手をリングに投げつける
(まだ!)
 奇襲だけでは相手を倒せるとは思って居ない
 投げつけた鉄仮面が起き上がるのを見届けてから
 相手を脇から両手で固定すると
「サイドスープレックス!」
 思いっきり後方に投げ飛ばした


 あまりの速攻に会場が一気に沸きあがる
「このままパチュリーの速攻で終わりだぜ」
 魔理沙もリングの上からアリスに声をかける
 だが、アリスはこの光景に何か違和感を感じていた
「…おかしいわ…」
「あん?なにがだよ…」
 アリスの疑問の声に魔理沙が声をかける
「…いくらパチュリーの速攻が凄くても、こんなに綺麗に決まる物かしら?」
「これがパチュリーの実力だろう?私たちの出番がないけどな」
 魔理沙が楽観しているが、アリスの心に不安が募っていた
(それに…パチュリーの攻撃のペースが上がりすぎてる)
 その時、アリスの中に相手の目的が読めた
「パチュリー!攻撃をやめなさい!」



 アリスの声が聞こえてくるが
(…此処で…一気に決める!)
 パチュリーがこのまま鉄仮面を攻め落とそうとロープに振った瞬間だった
「げほっ!?」
 いきなり呼吸が苦しくなる

(そ、そんな…まだ試合開始から数分しか!?)
「出てきたみたいね…大技連発の代償が」
「!?」 
 大技を連発で喰らわせた相手が
「ふふっ、相手の見せ場も作ってあげないと…」
 何事も無かったかのようにパチュリーをロープに振り替えすと
「ねっ!?」
「おぐっ!?」
 パチュリーのストマックに対してカウンターキチンシンク
(腹部膝蹴り)を決めた

 そのまま間髪居れずに倒れこみそうになったパチュリーの背中に
 スレッジーハンマーを落とす
「ご、ごぼっ!」
 パチュリーの顔が苦痛に歪む、技の痛みよりも
 その技を受けた事によって起きた肺への攻撃が

(ゴホッ!こ、呼吸が…)
「…さあ、ギブアップしておきなさい…これ以上は危険よ」
 鉄仮面の言葉にパチュリーが取った行動は
「ゴホッゴホッ…こ、断るわ」
 鉄仮面の背後に回ってその両腕で相手を固定する
 そして、驚いている鉄化面に力が入らない両手に力を籠める
 口の中に血が詰まるのがわかる
 だが、それでもこの両手は離さない
(喰らえ…私の…) 
「エベレズドジャーゴボッ!(エベレストジャーマン)」
 口から血を吐きながらのパチュリー渾身の一撃であった

 投げられた鉄化面がリングの上で綺麗な受身を取ると
「…流石に効いたわね…」
 首に手を当てながら起き上がる







 コーナに居たアリスが魔理沙をせかす
「やられたわ!魔理沙急いでパチュリーの所に」
「な、何でだよあんな綺麗なジャーマン…」
 その時、リングの上の異変に魔理沙も気がつく
「吐血してるのか!?」
「相手の狙いはパチュリーの喘息を誘発させる為に
 パチュリーの技を受け続けたのよ!」 
「なんだって!?」
 その言葉魔理沙がリングに飛び出そうとした時だった






 鉄仮面が倒れているパチュリーの上半身を起すと
「少々荒療治よ!」
 パチュリーの背中狙ってサッカーボールキックを決める
「ゴボッ!?ゴボッ!」
 それと同時に、パチュリーの口の中に溜まっていた血が噴出される
 

 その光景に観客達もどよめきはじめる
(カーン!カーン!カーン!)
 レフェリーも急いで試合を止める

「ぱ、パチュリー!」
「すぐに行くわよ!」
 魔理沙とアリスが大急ぎでパチュリーの傍によると
「…ごめん…まけ…ゲホッ!」
「気にしないでいいから!それよりも呼吸を調えて!」
「くそっ!タンカーはまだか!?」
 
 倒れているパチュリーを揺さぶろうとする魔理沙に
「動かしちゃ駄目!余計に酷くなるから」
 鉄仮面が冷静にそう伝える
「てめぇ、あの時パチュリーが戦闘不能なのを知って蹴りを!」
 魔理沙が鉄仮面に掴みかかろうとする
「魔理沙、ストップ」
 それをアリスが片手で制する
「アリス!?なんでだよ!」
 その行動に魔理沙が驚くが
「…次は私が仇をとるから…今は落ち着いて」
「アリス…わかった」
 アリスが本気で怒っているのが魔理沙にはわかった
「任せたぜ…アリス」
 魔理沙が自分の怒りを抑えそのままコーナーに戻る



「さ、さあ…凄惨な事態になりましたけど…」
「むぅ…ワシにはどうもあの止めの蹴りに違和感が残るがのう」
 
 

(カーン!)
 解説の二人を置いて二戦目の試合が始まるゴングがなる




「っせい!」
 ゴングがなると同時に、アリスが鉄仮面に突っかかる
 エルボーを決めようとするが
「おっと?」
 鉄仮面の方がエルボーを避けると同時に
 アリスの腕を掴んでアームロックに移行しようとする
「くっ!」
 それを察知したアリスがアームロックに移行しようとした
 鉄仮面の腕を切り返してロープに振り
 返ってくる所にミドルキックを決めようとする
「ほっ!…と」
 だが、ロープに投げ飛ばされた鉄仮面がロープに掴まり
 タイミングをずらしてから無防備になったアリスを掴み

「ヘッドロック!」
 アリスの頭を腕で締め上げようとする
 だが、アリスもその腕を掴みながら脇にエルボーを決めて脱出する
 ハイレベルな攻防に観客達も沸きあがる

「…こぉんの!」
「!?」
 苛立ちを隠しきれないアリスが奇襲気味に
 真正面から浴びせ蹴りを敢行する
 それが偶然鉄仮面のマスクを直撃する
 そのために、マスクが少しだけずれる
「おっとっと…」
 急いで鉄仮面がそのずれを直そうとした時に
「顔面蹴り!」

 アリスの渾身の顔面蹴りが鉄仮面の胸元にヒットして
 コーナーに吹っ飛ばされる
(チャンス!)
 飛ばされた鉄仮面をアリスが追いかけると
 そのまま鉄仮面に対してストンピングラッシュを決めてから 

「っしゃあ!」 
 走りこんで思いっきり鉄仮面の顔面を蹴り飛ばそうと飛び上がる
 そして、その蹴りが顔面に決まると思った瞬間
「…強くなったわね」
(ガッ!)
 鉄仮面が小さく呟くと蹴りこんできたアリスの脚を手で掴み取り 
「!?」
「少し本気にならないと!」
 
 そのままアリスの体をロープに投げつける
「くっ!」
 ロープに降られたアリスが切り返すために
 顔面蹴りをするために跳んだ
(流れを変えるにはこれしか!)
 
 だが、アリスが蹴ろうとした人物は地面に居なく
「良い顔面蹴りだけど…」
 アリスと同じ空中に跳んでいた
「切れ味ならこっちの方がまだ上みたいね」

 空中で顔面蹴りと延髄蹴りが交差して二人が地面に降りる
 そして地面に膝をついたのは
「~~っ!!!」
 脛にカウンターで蹴りを決められ
 激痛のためにその場に倒れこむアリスの姿だった

「…あたた…少々無理したかな?」
 一方鉄仮面も少し脚を痛そうにしていたが
 そこまでのダメージはないようだった
「まだ続ける?」
 起き上がった鉄仮面がアリスに声をかける
「ば、馬鹿にしないで!」
 アリスが自身に発破をかけて
 痛めた足をかばいながらも起き上がる
「…貴方も足技に自信があるみたいだけどこれでお互いに足技は使えないわね」
 アリスの言葉に、鉄仮面がおかしそうに伝える
「残念ね…足技はどちらかといえば苦手な技よ?」
「な、なんですって?」
 アリスが驚愕する
 あれだけの威力を持っている延髄蹴りが苦手な技なんて
「さあ、そろそろ終らせましょうか」
「くっ!」
 踏み込んできた鉄仮面にアリスがつかまれる
「せめて必殺技の一つで仕留めてあげるわ」 
 アリスの片足に鉄仮面の片足がかかり
 後頭部に鉄仮面のもう片方の足がかかる
 そして、最後にアリスの片手が引き上げられる

「ま、卍固め!?パーフェクトに決まってます!」
「こ、これほど綺麗に決めれる者はなかなかおらんぞ!」
 解説席にいる二人が絶賛するほどの綺麗な卍固めであった



「ぐ…ぐぐっ!」
「ギブアップしなさい…これ以上耐えると本当に危険よ!」
 全身がバラバラになりそうな激痛に耐えながらも
 アリスはギブアップをしようとはしなかった
(皆の…皆の仇を…!)
 激痛にアリスの意識が薄れてかけて来た時
 
  
「アリスを離しやがれ!」
「おっと?」
 コーナーに待機していたはずの魔理沙の一撃で
 鉄仮面が完全に決めていた卍固めを外す
 それによって、技を決められていたアリスが卍固めから抜け出した 
「つっ…」
 そのまま片膝をついてリングの上に倒れこむアリス
「アリスはしばらく休んでな」
「ま、魔理沙…まだ私が戦って…」

 それでもまだ戦おうとするアリスに対して
「そんな身体で戦って勝てるのか?」
「…くっ」
 魔理沙の言うとおりだった
 アリスの攻撃の要である脚がやられている以上
 戦っても勝てる見込みはほとんど無い
「安心しな!私が仇を取るぜ」
 魔理沙の言葉に、アリスが暫し考え込んでから
「負けたら承知しないからね」
 そう発破をかけて魔理沙に戦う権利を譲り後ろにさがる
(痛めた足はそう簡単に治りそうにないわね…)
 激痛を堪えながら、アリスはリングから降りた
 





 


 脚を痛めたアリスがタンカで運ばれてから
「助かったわ技を止めに入ってくれて」
「なんだと?」
 リングの上に上がった魔理沙に対して鉄仮面が喋る
「あのままだと本当に全身へし折りかねなかったもの」
「うるさい!黙りやがれ!」
 鉄仮面の言葉に魔理沙がエルボーでつっかかる
「一発!」
 走りこんでのエルボーの一撃を鉄仮面が腕でガードする 
「喰らえ!」
「あらら?」
 避けられた勢いをそのまま殺さずに一回転してのスピンエルボー
 今度は腕で耐え切れないで、鉄仮面が姿勢を崩す
「まだまだだぜ!」
 その隙を狙って、魔理沙がロープに走りこみ
 ロープの反動を利用して
「ランニングエルボー!」 
 姿勢が崩れた鉄化面の胸元に対して走りこみの肘を決めようとする

(これは受けたら流石に痛いわね…)
 だが、鉄仮面がそう呟きながら
 魔理沙のエルボーをしゃがんで避ける
 そして、魔理沙の背後に回りこむと
「さあ!受身を取ってね…取れたらだけど」
 魔理沙の片手を固めて後方に
 ハーフネルソンスープレックスで投げ飛ばそうとする
「投げられてたまるか!」
 だが、魔理沙が投げようとする鉄化面の脚に自分の足を絡めとり
 投げられるのを拒否する
(これでは投げられないわね)
 投げる事が出来なくなった鉄化面は仕方なく技を解くと
 魔理沙の背中にエルボーを入れて距離をあける


「…思っているよりはやるのね」
「アリスやパチュリーの仇のために、お前に勝たないといけないからな」
 魔理沙が不敵に笑うと再び鉄仮面に攻撃をするために走り出す
「ジャンピングニーだぜ!」
 魔理沙がそう叫ぶと、膝を鉄仮面に決めようとする
(ふふっ、本当に真っ直ぐね)
 その膝蹴りに対して、鉄仮面はにやりと笑うと
 魔理沙の背後に回りこみその手を固める
「さあ、今度こそ投げられなさい!」
 両腕を背中で固められて、タイガースープレックスの構えに移行する

「狙っていたのは…」 
 腕を固められた魔理沙がそのまま飛びあがり
「これだぜ!」
「えっ!?」
 鉄仮面の頭に向かってオーバーヘッドキックを決める
 この状態から脚が飛んでくるとは鉄仮面も思っていなかったために
 魔理沙の手を放して、尚且つその場に倒れこんでしまう


(此処しかないぜ!)
 起き上がろうとしている鉄仮面を見て
 魔理沙が一気に走りこむと
「うぉぉぉお!」
 起き上がろうとしている鉄仮面の膝を踏み台にして 
 自分の足を思いっきり蹴り上げ飛び上がり
「!?」
「シャイニングウィザード!」 
 油断していた相手の顔目掛けて渾身の一撃が決まり
 鉄仮面が場外に吹っ飛ばされて、思いっきり鉄柵にぶつけられる


(おおぉぉぉぉおお!?)
 観客席がその一撃を見て一気に盛り上がる
「あやや!?天魔様、あれって」
「間違いない!レスラー殺しの必殺技『閃光魔術』じゃ!」
 解説席に居た天魔と文も興奮を隠しきれない様子でカメラを構えていた





(へへっ…仇は取ったぜ)
 魔理沙が勝利を確信してリングの上で座り込んでいると
「…驚いたわ…」
「なっ!?」
 倒したと思っていた鉄化面がダメージを感じさせないで
 リングに上がる為のロープに手を伸ばしてきた
「まさか…レスラー殺しの技を使うなんて…」
「お、お前!」
 場外にとんだ衝撃で鉄仮面の一部が壊れたのだろう
 仮面の側頭部の一部が欠けていて
「…良いわ、あの人が来てくれるまで隠そうと思っていた本気を見せてあげる」

 そのかけた部分からアホ毛が伸びていた
「お前…魔界神!」
「ばれちゃった?でも気にしないわ…」
 先ほどのような、余裕を持った戦い方をする鉄仮面ではない
 その場に居るのは旧世代のカリスマの持ち主
「貴方は…レスラー殺しを呼ぶ為の餌だもの」
『萌える闘魂』魔界神神綺だった

「くっ!こー…レスラー殺しをリングの上に上げさせてたまるか!」
 神綺の言葉に対して、魔理沙が再びロープの反動を使って
 リングに入ろうとしている神綺に再び走りこみ 
「もう一度!場外に吹っ飛ばしてやるぜ!」
 二度目のシャイニングウィザードを叩き込もうとする
「貴方の閃光魔術は…」
 だが、完全なタイミングで放たれた二発目の『閃光魔術』は
「本物には遠く及ばない!」
「!?」
 スピードが乗った魔理沙のシャイニングウィザード
 その脚が神綺にあたる瞬間に魔界神の手によって掴まれる




「しゃ、シャイニングウィザードが!?」
「と、止められたじゃと!?」
 解説席から思わず立ち上がった二人が
 観客の気持ちを代弁する

 
 閃光を手で止める…そして
「…行くわよ、本来ならレスラー殺しに使うはずだった取っておき…」
「くっ!」
 魔理沙の脚を掴んだままの神綺が秘密兵器を繰り出す
「魔界神の…アイアンクロー!」
(ミシッ!)
 肉が引きちぎられる音がした
「うわあああああ!?」
 その数瞬後、魔理沙がリングの上で絶叫した
「…大丈夫よ、まだ全力じゃないから」
 魔界神がそう言って握った手を開くと魔理沙がリングの上に転がる
 神綺に掴まれた脚の部分から引きちぎられたように出血をしていた
 
「ここまでしても…まだでてこないのかしら?」 
 リングの上で苦痛に苦しむ魔理沙に攻撃もしないで
 神綺があたりを見渡している
「…仕方ないわね」
 神綺がため息をつくと
 倒れている魔理沙を無理やり起こす
「…貴方が呼べばでてくるかしら?」
(パーン!) 
 魔理沙の頬を神綺が叩く
「いっ!…へへっ…どうしたこの程度かよ?」
 魔理沙が強がりを言うが、神綺がその頬をまた叩く
「…でてくるまでこうしてる方が良いかしら?」
 神綺の言葉に魔理沙が不敵な笑みをこぼして告げる
「…けっ…レスラー殺しはどうやっても来ないぜ…」

 しばらくの間、魔理沙の頬にビンタを続ける神綺
 だが、レスラー殺しが出てくる気配はない
「……本当に出て来ない…」
「…ああ、そうだぜ」
 神綺が全力でため息を着く
 面倒な手段を講じて試合を組み、体を鍛え直し
 魔界のプロレスラー達にも無茶を言って此処まで来て
「…出てこないのなら…」
 神綺の表情が無表情になり
 満身創痍な魔理沙を前屈させて両腕を構え
 そのまま高速横回転をさせる
(ぐっ!?おおぉお!?)
 ありえない光景だった、ダブルアームスープレックスの要領で
 高速で横回転をさせるなんて事ができるなんて
(な、なんて力だよ!?)
 そのまま回転していくうちに魔理沙の脚が垂直に上がっていき
「もう、貴方に用はないわね」
 そのまま魔理沙を空中に投げ飛ばす




「ま、まさか…あの技は!?」
「むむ、天魔様何か知っているんですか!?」
 解説席にいた天魔が両目を見開いてその技を見つめる
「…だ、断頭台!」
「断頭台?」
 文が不思議そうにそう告げると、天魔が頷く
「この技を使う選手…ま、まさか!?あのお方が!」
「心当たりがあるんですね!?教えてください!ネタにしますから!」
 文の言葉など聞こえないように天魔が小さく呟いた
「…『萌える闘魂』…!?」



(ああ…高いな…)
 空中に飛ばされた事を悟った魔理沙がふとそんなことを思う
(…へへっ…香霖が言ったとおりだぜ…)
 人間がプロレスをするものじゃないって事を
 下から魔界神が飛び上がってくるのが見えた
(あばよ、香霖…お前の正体は墓まで持っていくぜ)
 魔理沙が目を閉じる




「魔界の…」
 空中に飛ばされた魔理沙を追って神綺も飛び上がる
「断頭!…」
 そして、魔理沙の首に神綺の脚がつけられようとした時
「そうはさせない」
「!?」 
 何者かがリングに走りこみ、ロープの反動を使って
 神綺と魔理沙の間に入り込んできた
 突然の乱入者に神綺が気をとられている隙に
 乱入してきた人物が魔理沙を抱きかかえてリングの中に降りる

 それは、ほんの一瞬の出来事だった
 今日いろんなハプニングを見て来ている観客でさえ
 その救出劇に静まり返っていた




 乱入者の姿を見て、神綺は仮面の下で微笑んだ 
「やっと…会えた…」
 随分と昔に、戦いたいと思った人物が目の前に現われたのだ
 自分の娘達にも無理を言って、自分自身にも無茶をさせて
 そこまでしてあいたかった人物が目の前に居る
「こんにちはレスラー殺しさん…貴方のファンです」
 恭しく頭を下げる神綺に対して、虎の仮面をかぶった乱入者
 レスラー殺しこと森近霖之助が低い声で答える
「…出来ればリングに立ちたくなかったし、その名前で呼ばれるのも嫌なんだ」
「でも、貴方はこの場に来てくれた…」
「…魔理沙を渡してくれるかな?」
「構いませんよ…その代わりに…」
 神綺が嬉しそうにそう言うと、人差し指を突き出し
「…受けてくれますよね?」
「…仕方ない」
 その人差し指を自分の胸…心臓の位置につけた
 その行動に対して霖之助はそう言うと
「…しばらく時間をくれるかい?」
 魔理沙を抱きかかえたまま
 リングサイドから降りようとする
 その姿に神綺が背中から声をかける
「十分間…このリングの上で待ちます…それでどうです?」
「ありがとう…」 
 神綺の言葉に頷いて、霖之助は選手の控え室に向かうために
 思いっきりどよめいている観客達の傍にある選手入場口を歩き始めた




     ・・・





 魔理沙が目を覚ますとそこは選手控え室の中で
「…気がついたか?」
 自分が守るべき人に抱きかかえられて戻ってきた事もわかった
 そして、それが何を意味するのかもわかった
「…ごめん…私がもっと強ければ香霖が出なくてもよかったのに…」
 体の痛みよりも、リングに上がりたくないと言った霖之助を
 再びリングに上がらせてしまった事に魔理沙は涙が出た
「…魔理沙…」
 そんな魔理沙に虎の覆面をつけた霖之助が優しく伝える
「相手は伝説と呼ばれるレスラーだ…それを相手によく戦った」
「で、でも…」
 魔理沙が何かを言おうとした瞬間に霖之助が魔理沙の頭に手をのせる
「立派なシャイニングウィザードだったぞ魔理沙」
「あっ…」
 あの一撃を褒められて、魔理沙が照れる
 そんな魔理沙を見て霖之助が立ち上がる
「だが、少々見せすぎたな」
「見せすぎるって…あれ以上何かあるのか?」
 正直言って、あれほど綺麗なシャイニングウィザードはそうはない
 心配そうに伝える魔理沙に霖之助が背を向ける 
「良いかい?魔理沙…閃光魔術はね…」
 霖之助が魔理沙に対して小さく呟く
 そして、呟き終えると
「さあ、そろそろリングに向かわないといけない」
 選手控え室のドアに向かって歩きだす
 そして、魔理沙に背を向けた喋る
「魔理沙…できれば試合中の僕の姿を見ないでくれ」
「な、なんでだよ」
 魔理沙の言葉に霖之助がドアノブに手をかけて
「…魔理沙には見て欲しくないんだ…レスラー殺しの僕の姿を」
 そう寂しそうに伝えてドアの向こうに姿を消した




     ・・・





「な、なんだかとんでもない展開になって来ました!」
「レスラー殺し対萌える闘魂!ワシ…今日此処に来れて
 最高に幸せだとおもっとる!」
 
 唯のエキビションマッチのはずが
 謎の覆面レスラーと伝説のレスラー殺しの一戦に化けたのだ
 文と天魔だけでなく、観客達も異様なほどに盛り上がっていた
 この十分の間にトイレに向かう人が続出したほどである



(まだ…まだなの?)
 一方、待機している神綺は相手が来るのを静かに待っていた
 心の中は全盛期のように燃え滾っていた
(早く会いたい…)
 初めにどんな技を出そう?
 どんな技を使ってくるのだろう?
 頭の中で自問自答を繰り広げる

 それは、まるで初デートのようで…

「おーっと!?レスラー殺しが登場だ!」
 憧れの戦いたい人物が自分の居るリング(待ち合わせ場所)
 に走ってきた時、何も考えられなくなり
「~~っ!」
 思わず自分も駆け出して
「トペ・スイシーダ!」
 相手に飛び込んで行った 



 
     ・・・





(まさか、先に仕掛けられるとはね)
 本来ならリングの上に居る神綺に対して奇襲をかける予定だったが
 走ってきた自分に呼応したのか、自分の姿が確認された瞬間に
 リングの上からトペ(人間爆弾)をされるのは想定外だった
 綺麗な滞空を伴いながらも、自分に向かって突っ込んでくる相手を
 極力ダメージを受けないように受けて地面に倒れてから

(…此方も仕掛けさせてもらうか)
 場外のマットから神綺よりも先に立ち上がり
「三角飛びラ・ケブラータ!」
 リングのエプロンサイドに脚をかけて飛び上がり
 弧を描いて場外で起き上がろうとしている神綺に飛び掛る
 その一撃を神綺が笑みをこぼしながらながらも受ける

「あやややや…こ、これだけでお金取れますよ!?」
「なんとも綺麗なダイブ技じゃ…これだけでも今日来た価値があるわい」

 お互いが場外での一撃を交換してから
 二人とも何事も無かったかのようにリングの上に上がる
 まるで示し合わせたかのような一連の動作に
 観客達は総立ち状態になっていた



「開幕から場外にトペ…流石は萌える闘魂と言った所か」
「うふふ…長らく待ってたんですよ…貴方と戦えるのを」
 だが、当の本人達はそんなことを気にしないで
 お互いの出方を伺いあってから

(まずは組み合いから!)
(組み合いか!)

 リングの中央で二人が合い四つでぶつかり合う 
「片腕を貰うわ!」
 霖之助の腕を掴んだ神綺がその腕を固めるが
「開幕すぐに片腕をくれてあげるわけには行かないな!」
 完全に決まる前にそれを切り返してヘッドロック移行する
「ふふっ、そう簡単には行きませんよ?」
 ヘッドロックを決められそうになった神綺が
 その体勢からバッグドロップを仕掛けようと
 両手を巻きつけようとする
「なるほど、ならこれはどうだい?」
 その手が腰に巻きつく前に霖之助がヘッドロックを解いて
 回転する、そして神綺の左側に回りこむと
 その勢いを殺さずに両足で神綺の両足にカニ挟みの要領で倒す
 そして、倒した神綺の首を脚で挟みこみその肩をマットにつけて
 フォールを奪おうとするが、神綺が即座に起き上がり
「こんなので決着が着くと思ってるんですか?」
「そうなるのならありがたいのだがね」
 再び二人がリングの上でにらみあうと
「さあ、もっと楽しませてください!」
 神綺がロープに飛んで反動を利用した体当たりを仕掛けるが
 それに呼応するように、霖之助がローリングソバットで迎撃する
「まだ倒れないんだろう?」
「当然ですこの日を楽しみに体を鍛え直したんですから!」
 起き上がろうとする神綺に二発目のローリングソバットを決めようとするが
 神綺がその脚を脇で受け止めてから
「ドラゴンスクリュー!」
 その脚を一気に捻る、捻られたらかなわないので
 霖之助が自分から捻られた方行に回転すると
「置き土産だ!」
 掴まれてない方の脚で延髄蹴りを敢行する
 その一撃を神綺が片手でガードするが吹っ飛ばされる


「サルトモルタル!」
 コーナーに神綺を叩きつけてから、
 霖之助がセカンドロープに脚をかけて飛び
 神綺の肩を蹴り上げつつバック宙してリングに着地する

「っしゃあ!」
 リングの中央で神綺が霖之助の顎を掴んで
 手の甲の部分で額を殴りつける

「フランケンシュタナー!」
 ロープに神綺を振って、帰ってきたところに
 自らの両足を神綺の肩に乗せて捻り投げる

「延髄蹴り!」
 霖之助が放ったソバットを避けて背後に回りこみ 
 凄まじい切れ味のとび蹴りを後頭部に決める


「あやや…は、早すぎて解説が間に合いません」
「二人とも魅せる技を使いおるわ!」
 ハイスピードの攻防に解説席も解説が間に合わない状態になる 
 観客達もその終わる事の無い攻防に、始終大歓声に包み込まれる
  

 だが、リングの上で戦っている二人にはそんな事はどうでもよかった
「い、いい加減に辛くなってきたんだが…君は辛くないのか?」
 神綺に対してボディースラムからムーンサルトを決めた
 霖之助がそう呟くが
「うふふ…楽しいですよ?」
 カウントを取られる事も無く起き上がると
 霖之助をダブルアームスープレックスで放り投げる
「た、タフだな…」
 起き上がってきた霖之助がそう告げると
 神綺が肩で息をしながら起き上がるように告げる
「さあ…もっと踊りましょう?」
「やれやれ…ダンスは苦手なんだがね」

 それに呼応して霖之助と神綺が再びリングの中央でぶつかりあった
   



     ・・・





「……」
 選手の控え室の中で魔理沙は一人落ち込んでいた
 自分のせいで霖之助が戦う事になったのに
(…何もしてやれる事が無いなんて…)
 せめて、応援ぐらいはしたかったが
 試合を見ないでくれと言われたので
 一人で控え室に座りこんでいた
「…畜生…」
 悔しさで壁を殴る…だがそんな事してもどうしようもない
「…此処に居たのね」
 そんな時に、誰かが控え室の中に入ってきた
「随分としけた顔してるわね」
「アリス…」
 脚に包帯を巻いたアリスが魔理沙の前に立つ
「なにがあったの?」
「……」
 アリスに対して、魔理沙が無言でいたが
 やがて、口を開く

 戦った相手の正体が魔界神だったこと勝負で負けたこと
 そして、そのせいで…
「…戦いたくないって言っていたのに…」
「今戦ってるわけね」
 アリスの言葉に魔理沙が頷いた
「ならなんでこんな所に居るのよ!」
「…試合を見ないでくれって言われたんだ」
 大声で叫ぶアリスに魔理沙が小さい声で答える
「…だから…ここで…」
 魔理沙の言葉に、アリスがため息をつくと
「…えい」
「いひゃ!?」
 魔理沙の頬を両手で掴む
「いふぇふぇ!?な、なにを…」
「言われたから何もしないなんて貴方は本当に魔理沙かしら?」
 アリスの言葉に魔理沙がはっとする
「いい?魔理沙って人間はね…人に言われた事を聞くなんて言う
 乙女らしいもんじゃない問題児よ?」
「ら、らんだっふぇ!?」
 魔理沙が怒りをあらわにする
「こんな所でうじうじしてるぐらいなら、
 試合に乱入するぐらいの事をするのが魔理沙よ」
 アリスがそう言うと、魔理沙の頬を抓っていた手を外し
「パチュリーも私も救護部屋に居ないといけないけど
 貴方はまだ軽症なんでしょ?」
「アリス…」
 パチュリーに比べればまだ傷は浅いが
 アリスの脚も腫れあがっていて歩くのが大変なのだ
「行ってきなさいよ…私達の代わりに試合を見届けに」

 アリスの言葉に対して
「…わかったぜ!怪我人は休んでな」
「ええ、いい加減歩くのも辛いから休ませて貰うわ」
 魔理沙が試合の会場に向かっていった
「…世話が焼けるわね」
「ごほっ…ごほっ…本当ね」

 選手控え室から出て行った魔理沙の代わりに
 酸素マスクつけたパチュリーが入ってくる
「…だ、大丈夫なの?」
「口にたまっていた血が出たからそこまで酷くなくなったわ」
 パチュリーがそう伝えると
「…でも歩いたら辛くなってきた」
「あ~…肩貸してあげるから救護部屋に戻るわよ」
 アリスがため息をつきながら戻っていった





     ・・・





「はぁ…はぁ…さ、流石ですね…レスラー殺し…」
「しょ、正直言うと…もう倒れたいね」
 リングの上では神綺と霖之助が
 お互いに片膝をつきながら肩で荒い息をついていた
「でも…どうやらお互いに…」
「…使える技がなくなってきたな」
 どれだけ、えげつない攻撃をしたか分からない
 だが、二人ともリングの上で立っていた 





「まだ、お互いに切り札を使ってないでしょう?」
「…ばれてるか…」
 二人がリングの中央で動きを止める
「楽しかったですよ?今日の試合(デート)」
「そうか…だが最後までエスコート(勝利させる)するつもりは無いんでね」

  
 二人がその言葉を最後に立ち上がると

「さあ、どっちが先に切り札を決めるか…」
「最後の勝負にしましょう!」

 霖之助がドロップキック
 神綺が延髄蹴りのために空中に飛び上がり
「ぐっ!」
「くぅ…」 

 お互いが空中で激突して吹っ飛ばされる
 だが、霖之助の方が先にリングに脚をつけると
「シャイニング!」
 姿勢が整ってない神綺に向かって片足で地面を蹴り上げた
「ウィザード!」
 魔理沙の時よりも数段早い閃光魔術が神綺に向かって跳ぶ
 そして、その一撃が神綺に決まる…
「捕らえました」
「なっ!」
 だが、決まったはずの脚が神綺の片手によって掴み取られていた
「…やっと捕まえました」
 霖之助の脚を掴んだ神綺が笑顔を浮かべると
「さあ、受け取ってください…」
 霖之助の額をもう片方の手で握り
 もう片方の手も霖之助のこめかみに当てる
(ぬ、抜けれない!?)
 霖之助がその手を外そうとするが
 まるで万力に挟まれているかのようにガッチリとつかまれて外れない
「この日のために用意しておいた」
 その状態で神綺が起き上がると
「私のスペシャルホールドです!」 
 アイアンクローを決めた状態のままで
 霖之助を横回転で回し始める
 その回転力で霖之助の身体が浮き上がり始める
 そんな状態でも、指の力が衰える事は無い

「ゴッドクロー…」
 その握力と指の力はまさに『神』だった
 そして、回転の速度によって霖之助の身体がリングと水平になった時
「デストロイヤー!」
 霖之助が場外に向かって放り投げられた
 



「な、なんていう技なんでしょうか!?」
「相当な指の力と腕力がないと出来んまさに荒技じゃ…」
 アイアンクローだけでも荒技なのに
 場外にまで放り投げるとんでもない技に全体が会場が揺れた










 飛ばされた霖之助が額の激痛に悩まされながらも
 スローモーションで飛ばされた先にある物を見つめる
(鉄柵か…)
 このスピードで突っ込めば、気絶どころではすまないはず
(やれやれ…僕もやきが回ったな…)
 
 思えば今まで様々なレスラーを破壊してきた
(報いが来たかな?)
 どの道、この状態からはどうする事もできない
 霖之助が鉄柵にぶつかる覚悟を決める


 だが、何時まで経っても鉄柵にぶつかる音は聞こえてこなかった
「うりゃあ!」
 鉄柵にぶつかるよりも先に空中で霖之助にぶつかった者が居たからだ
 空中でぶつかった衝撃で
 鉄柵にはあたらずに周りに用意してあるマットの上に霖之助が落ちる
 勿論、ダメージはあるが気絶するまでには至らない
(な、何が起こった?)
 流石の霖之助も驚きを隠せない
 そして、あたりを見渡して空中でぶつかってきた人物を発見した
「痛ったああぁぁ!やっぱりやめときゃ良かったぜ」
「ま、魔理沙?」
 着地に失敗したせいで、腰を打ちつけたと思われる魔理沙の姿が傍にあった
「へへっ…でも、助かったみたいだな」
「馬鹿な…僕の試合を見てたのか!」
 怒るような口調で魔理沙に声をかけるが
「ああ!閃光魔術を失敗した情けない姿をな」
 魔理沙がニヤニヤしながら言葉を返す
「全く…情けないったらありゃしないぜ!」
「むっ…」
 事実その通りだから、霖之助も何もいえない
「だから名誉挽回のチャンスをやるぜ…」
 そんな霖之助に対して、魔理沙が座り込んだまま伝える
「選手控え室で言った言葉…忘れたとは言わさないぜ?」
「……」
 控え室で霖之助が魔理沙に伝えた言葉
「…見せてくれよ…『もう一つの』閃光魔術」
 もう一つの閃光魔術…
「僕にそれを使えと?」
 心配そうに伝える霖之助に対して
 魔理沙が自信満々に伝える    
「おう、後ろで見ててやるからな!あのアホ毛神に勝つところを」

 その言葉を聞いて、霖之助がため息を漏らす
「まったく…できれば日の目を浴びさせたくない技だったんだがな」
「おう、後で私に教えてくれ」
 そして立ち上がると
「…良いだろう、しっかりと見ておくと良い」
 背中を魔理沙に向けたまま再びリングに上がっていった





     ・・・





(…楽しかった…)
 神綺は満足していた…
 もう二度と戦う事が出来ないと思っていた相手と戦い
 出す事が出来ないと思っていた全力を出し切って
 この試合のために考え続けていた必殺技を出す事が出来たのだ
(…これでもう終わりかな?…)
 憧れの相手と戦うという
 夢が叶ってしまった後の寂しさが残っていた

「まだ、私と踊ってくれるんですか?」
「…君からのプレゼントが堪えたからね…後一曲だけだ」
 だから、憧れの相手が場外から再びリングに上がってきてくれた事は
「喜んでお付き合いさせて貰います」
 神綺にとって心の底からうれしかった
(さあ、最後のプレゼントを貰いますね)
 
 そして、その技を受けて尚且つ勝つ
 自分が憧れていた選手を完全に超える為に

「延髄蹴り!」



     ・・・




  
 神綺の延髄蹴りが自分の目の前を掠める 
 これがわざと外した事は、霖之助にもわかる
 此方の必殺技を受ける為に…そして
(それを破って完全に勝利をするために)   

 リングの中央で延髄蹴り空振りした神綺が
 わざと片膝を立てて起き上がろうとする 
「行くぞ!」
 それにあわせて、霖之助がロープの反動を利用して
 神綺に向かって跳躍した





     ・・・




(やっぱりシャイニングウィザード)
 自分に跳んでくるレスラー殺しの姿を集中して見極める
 高速のシャイニングウィザードを片手を犠牲にして受け止める
 そして、もう一度アイアンクローで地面に叩きつける
(それで…この勝負に決着が着く)
 自分の勝利で自分の憧れを超える
 それは悲しくあるが、覚悟は出来ていた

「シャイニング!」

(これが、最後のプレゼントなんですね?)  
 神綺が跳んでくるシャイニングウィザードに向けて構える 
 横から挟むように跳んでくる膝蹴りを打ち払う為に
 神綺が片手を顔の横に手を移動させる
 
「―――――っ!」
「えっ?」

 だが、跳んできたのは何時もの閃光魔術ではなかった
 閃光を打ち払う為の片手に閃光は落ちず
 想定外の真正面からの衝撃に、神綺の意識が落とされた





     ・・・





「行くぞ!」
 先ほどよりも更に加速がついた状態で霖之助が突っ込む
 シャイニングウィザードは膝で相手を挟みこみ相手を倒す事を考えている
 先ほどと同じの閃光魔術では、同じような返し方をされる

「シャイニング!」 

 だが、それをフェイントとして使い
 命中率は下がるが、破壊力は格段に上がる技があった
 神綺の膝を踏み台にしてから
 本来なら折りたたむはずの膝を伸ばし

「マフィアーっ!」

 相手の顔面を思いっきり蹴り飛ばした





     ・・・






「え、えげつない…」
「あやつ…女性(と思われる)の顔面蹴り飛ばしおった…」
 放たれた技のえぐさに会場全体が再び揺れた
 


「終ったな…」
 リングの上で霖之助が片膝をついたままそう呟いた
 いくら萌える闘魂だとしても
 この一撃を受けて立ち上がる事は出来ないだろう
(そして…再び業をつまないといけないな) 
 今後、更にレスラー殺しの悪名はあがるだろう 

(さあ…早くリングを降りよう…) 
 勝負はついたのだ…これ以上この場に居ても仕方が無い
 霖之助が決着が着いたと思われるリングから降りようと立った時
「ま…って…」
「!?」
 背中からの声に霖之助が振り返る
「まだ…戦える…」 

 そこには、シャイニングマフィアのせいで
 完全にマスクが剥がれた神綺が
 倒れながらも手を伸ばそうとしている姿があった
「ま…だ…踊れる…から…」
 脳が揺らされて意識が朦朧としてるのだろう
 顔から流血しながらも、懸命に霖之助に手を伸ばす


「あーっと!?謎の覆面レスラーの仮面が壊れてます」
 解説席の文の言葉に、観客達もその正体を見ようとする

「!?」
 リングの上に居た霖之助がその言葉に急いで反応する
 神綺の顔が回りに見えないように真正面からのスリーパーを仕掛ける


「い、意識が朦朧としている相手に更なる追撃!?」
「対戦相手を破壊するのか!」
 その光景に周り中からブーイングが飛ぶ

(なんとでも言うが良いさ)
 右の手を神綺の額に当てつつ、左手で後頭部から手を回し
 首に隙間を作りつつ、神綺の怪我をしたと思われる顔を
 回りに見せないように締め上げるように見せる
(…怪我をした萌える闘魂の顔を回りに見せるわけにはいけない!)
 神綺の顔を自分の胸元に抱きかかえるような感じで技をかけ続ける
 それが、真正面から戦った相手に対して自分にできる唯一の事だから
(幸いブーイングには慣れている)
 
 ふっと、霖之助が心の中で笑う
 選手を破壊するはずのレスラー殺しが
 対戦を相手を守るために動いている事に
(皮肉な事だな…相手を守るために技をかけるなんて) 
「…ま…だ…」
 神綺が軽く絞めているよう見えている霖之助の腕に手をそえる
「…もっと…私が…強くないと…認めて貰えない」
 そえた手で霖之助の手をどかそうとしているのだろうが
 意識がはっきりしていていないその手には力が入ってない
「認めて…貰うんだから…レスラー…殺しに」
 
 憧れの選手に認めてほしかった、ただそれだけなのだ
(…そうか…だから此処まで無茶をして…)
 霖之助が絞める力を少しだけ強くすると
「認めよう…君はレスラー殺しと対等以上のレスラーだ」
「ぁ…」
 神綺にだけ聞こえるように、そう小さく呟く
 その声が聞こえたのか、神綺の手の力が落ちる
「だから…今はゆっくりと休め…」
「…」 
 
 その言葉を聞いて、神綺が嬉しそうな顔で意識を落とした
「…決着だ」
 勝負の決着は着いた
(後は…どうやってこの場から姿を消すか…)
 霖之助一人なら、どうにでもなる
 だが、気絶した『萌える闘魂』の顔を隠している状態で
 周り中の観客からブーイングと非難の目を浴びている今
 リングの上から姿を消すのは無理であった 
(せめて…なにか一瞬でも良いから観客達の目をそらす事が出来れば…)

 何か出来ないかと霖之助が考えていると
(ぱっ!)
「うわっ!?また照明の事故ですか!?」
「むぅ…このホール一度点検したほうがいいのう」

 突然照明が落ちて会場が全体が再びざわめく
 霖之助も突然の事に驚くが
(そうか、この暗闇に乗じて…)
 今の状態を察した霖之助が、神綺を連れてその場から少しだけ移動する
  

 そして十数秒後…照明が元に戻った時
「あやや、やっと照明が戻りまし…あっ!?」
「…誰も居らんようになってしもうたな…」
 すでに、リングの上には誰も居なくなってしまっていて
 観客達も全員誰も居なくなったリングの上を見つめていた
 




     ・・・




(ひとまずはこれでよし)
 観客達がざわめく中、霖之助は神綺を抱いたままホッと一息ついた 
(さて、これからどうするかだが…)
 人目につかない場所に逃げ込んだのは良いが
 次に取るべき行動を考える
(…このまま彼女を連れて逃げる事は…無理だな)
 人を担いだまま大量の観客が居る中を逃げ去ることは難しい 
(となると、僕一人で逃げ切る事が望ましいか…)
 この場所に彼女を一人置いて逃げる事が正しい判断ではあるが
(…だが、もし気絶している彼女の素顔が誰かに見つかったら)
 それでは、霖之助がブーイングを浴びてまで守った意味がない 
 数十秒の間、霖之助が考えてから

 自分のマスクに後ろに手をかけると
(…レスラー殺しの事を憧れと言ってくれたファンに…)
 レスラー殺しの象徴である虎のマスクを外す
 そして、気絶している神綺の顔にそのマスクをかぶらせる
「プレゼントだ…」
 これで、神綺が誰かに見つかってもその素顔を見られる事はない
 霖之助が抱いていた神綺を床に降ろすと
 サポータの意味をかねて手に巻いておいた包帯で顔を覆い
 念のためにマスクの下に用意しておいたハーフマスクをかぶる
(とりあえず、これで彼女と僕の正体がばれる事はない…)
 霖之助がそう考えてから  
(人が居なくなるまでこの場で待機した方が懸命かな)
 気絶している神綺の頭を自分の膝の上に置いて
 その場で待機する事を決めた





     ・・・





(あれ?…)
 目を覚ますとそこは真っ暗だった
(えっと…確か…)
 ボーっとした意識で、気絶する前の事を思い出そうとする
(確か…アリスちゃん達と戦って…)
 三対一の試合であったが少々痛い思いをしつつも勝つ
(…そうだ、レスラー殺しと戦って)
 憧れの人物との楽しい一時であった事を思い出す
(それで…それで…)

 そう、最後の一撃を受けて自分は気絶したのだ
 神綺が痛む自分の顔に向かって両手を伸ばす
「…痛たた……」
 それほど痛烈な技を受けたのだと神綺が痛感していると



「目が覚めたみたいだね」
「へっ?」
 誰かに声をかけられて、驚いて声がした方を見ると
 薄暗くて相手の顔はよく見えないが
 その声は、リングの上で聞いた事がある
(…と…いう事は…)
 声をかけてくれている相手は
「れ、レスラー…殺し?」
「ああ、その通りだ」
 
 その言葉に神綺が今の状況を改めて確認する

 憧れの人に心配されている+膝枕=真っ赤
 
「あ、あわわわわっ!?」
「待て、少し落ち着いてくれ」
 神綺が急いでその場から立ち上がろうとするが
 その時、顔の痛みで動きが止まり顔に手を当てる
「痛いです…」
「それは此方の責任だな…すまない」
 レスラー殺しが静かに謝るのを見て
「落ち着いたようだね…」
「はい…」
 神綺が少しだけ落ち着いた
「えっと…今の状況は一体…」
「今からそれを話そう…」
 落ち着いた神綺に対して、レスラー殺しが試合が終った事を知らせる
「…私は…負けちゃったんですか?」
「いや、審判が判断する前に居なくなったからノーゲームだよ」
 実際、フォールもギブアップもなかったのだ
 神綺の負けでもレスラー殺しの勝ちでもない
「あれ?でもなんで試合が終った後、すぐに姿を消さなかったんですか?」
「…消そうと思っていたんだけどね」
 神綺が疑問に思った事を口に出すとレスラー殺しが苦笑いをしながら伝える
「…あの一撃の所為で、君のマスクが剥がれちゃったからね」
 日の目を浴びる事がないと思われていた必殺技を受けて
 神綺のマスクが剥がされたのだ
 その言葉に、神綺がハッとして顔を隠そうとして
「…あれ?」  
 自分がマスクをつけている事に気がつく
 始めに用意しておいた、鉄仮面のようなマスクではなく
(…なんだかモフモフしている……もしかしてこのマスク…)
 神綺が自分がつけているマスクの正体に気がつく
「こ、このマスクって…」
 驚愕している神綺の代わりにレスラー殺しが伝える
「僕のマスクで申し訳ないが、顔を隠す事位は出来るだろう?」 
「そ、そんな大切な物を!」 

 自分がつけているマスクの正体に神綺が驚愕する 
 覆面レスラーにとってマスクはいわば命
 それを対戦相手に渡すなんて、とても考えられる事ではない
 それも、伝説と呼ばれて正体がばれたらいけないような人なら余計に

「すまないな…代わりになる物がそれしかなかったんだ」
「す、すぐに返します!」
 そう言って、神綺がマスクを外そうとするのをレスラー殺しが止める
「待て、君は顔を怪我しているだろう?」
「うっ…で、ですけど…」
 偉大な萌える闘魂もそこは女性…
 周りに怪我している顔を見せたくはない気持ちはある
「それに、君の正体がばれたら魔界のプロレスはどうなる」
「それは…」
 萌える闘魂は魔界のプロレスの象徴
 それが覆面で勝負をして負けたとなると 
 娘達に迷惑がかかる事になる 
 神綺が無言になって黙るのを確認すると
「…ファンと言ってくれた君へのプレゼントだ…」
「…ありがとう…ございます」
 レスラー殺しがそう言って笑いかける
 その言葉に、神綺が泣きそうになって頷いた


「さあ、もうそろそろ良いだろう」
 しばらくしてから、レスラー殺しが呟いた
「…行くんですね?」
「この場から逃げないといけないからね」
 本来なら、この一瞬の邂逅もなかったはずなのだ
 戦う相手とはリングの上でのみ出会い
 戦ってから、言葉もかけずにその場から消える
 こうやって、話をする事事態がありえない事なのである
(行っちゃう…)
 憧れの人物が背を向けてその場から消えようとするのをみて 
「あ、あの…」
 自分に背を向けているレスラー殺しの服を掴んで声をかけた
「…なにかな?」
「あ…」
 声をかけられて動きを止めたレスラー殺しに
 神綺が一瞬だけ言葉につまる

 試合前に聞いてみたい事は沢山あった
 だが、実際に話をしようと目の前に伝えようとしたら
 そんな事全て忘れてしまった 
 そして考え抜いた末に口から出た言葉

「また…踊っていただけますか?」  
 今の神綺にとってそれが精一杯であった
 そんな神綺にたいしてレスラー殺しが背中を向けて
「…もう歳でね…あまり表舞台で踊れる程若くないのさ」
 そう伝えると、少しだけ神綺の方に振り向いてから
「そうだな…次に君と踊る事になる時までそのマスクを預けておこう」 
 レスラー殺しが笑みをこぼしながら
「ではさらばだ、レスラー殺しと対等以上の偉大なレスラー…萌える闘魂」
 その場から一気に駆け出すと
 帰ろうとしていた観客達が驚くよりも早く
 二人が居たリング下の空間から現われてから
 その場から脱兎の如く逃げ出していった
「あ、あやや!?ま、待て!」
 少ししてから、帰る準備をしていた文が追いかけるが
 既に、その姿は見えなくなってしまっていた





 そして、その場に残された神綺はただ一人
(私…認めて貰えたんだ…)
 憧れの人に認めて貰えた喜びをかみ締めていた





     ・・・





「で、つまりはどういうことだったんだ?」
「つまり、夢子さん達の怪我は嘘だったって事」
 試合が終ってから数日後、魔理沙がアリスの家の中で
 全ての全容をアリスから聞いていた
「いや、でもあれだけボロボロに…」
「お母さんが体を一から作り直すために練習相手になってたそうよ」
 
 魔界組みの三人がボロボロになっていたのは
 神綺の特訓のためであった
 後は、照明が暗くなった瞬間にリングの上で倒れるだけ
 そして、後ろから神綺が出て来たというわけだ

「だから、初めからお母さんが出るつもりだったのよ」
「け、契約違反だぜ!魔界の奴とレスラー殺しは戦わない約束なのに」
「ええ…私もお母さんにそう言って食って掛かったんだけど」
 魔理沙の言葉にアリスがため息をついて答える
 
「お母さん…今魔界所属じゃないのよ」
「…や、やられた!」
 
 契約に書かれていたのは、あくまで『魔界の選手』であり
 萌える闘魂である神綺は一応引退している事になっている
 つまり『フリーレスラー』なのだ

「畜生~…始めっからそのつもりだったんだな…」
 魔理沙がテーブルに突っ伏す
「頭にくるけどね…」
 アリスもため息をついてから魔理沙と同じくテーブルに突っ伏す
「パチュリーの事もあるし、本当に頭にくるぜ…」
 魔理沙が言うパチュリーの事とは試合中の止めの一撃の事
 吐血している時に、背中から蹴り飛ばした事であった
「…あのね魔理沙…その事なんだけど」
「なんだよ?」
 そのことに対して、アリスが言いづらそうに伝える
「背中からの攻撃には実は訳があったのよ」
「パチュリーを完全に打ち倒すためにか?」
 少々イライラしている魔理沙にアリスが首を振る
「あれね…実はパチュリーの口に溜まった血を吐き出させるためなのよ」

 本当は喘息が出たところでギブアップさせるつもりだったらしいが
 パチュリーがギブアップをせずに最後の力で技を仕掛けてきた
 そのために、口の中が血で詰まってしまっていたらしい
 このままでは、パチュリー自身の血で窒息してしまいかねない  
「…だから、荒療治だけど…」
「背中から蹴り飛ばしたってわけか…」

 そうやって、口から血を吐き出させる事で
 窒息から守ると同時に
 試合を止めさせる事が出来たというわけだ

「結局、全部魔界神の良いように扱われていたって事かよ…」
「でも、おかげで私達と魔界と戦うための接点が出来たわよ」
「む、確かにそうだけど…」
 前のエキビションマッチが噂を呼んで
 再び魔界とウィッチズ三銃士の戦いが決まっていた
「まあ、とりあえずはもうすぐ行なわれる夢子さんと」
「ああ、紅魔館の咲夜の試合が終ってからだな」
 
 魔理沙がそう言ってから椅子から立ち上がると
「…そろそろ帰るぜ」
「珍しく早く戻るのね」
「まあな…」
 そう言ってアリスの家から出ようとして

「あ、そうそう…魔理沙に渡しておいてくれって物があったわ」
「あん?誰からだ?」
 魔理沙がアリスから何かを手渡される
「…お母さんから…レスラー殺しに渡しておいて欲しいって」
 その言葉と共に…





     ・・・





「痛たた…全く、筋肉痛には参るよ」
 香霖堂の中で店主である霖之助が
 全身の痛みに苦しんでいた
(まあ、もうマスクも手元にないし…
 もうこれ以上プロレスをする事もないだろう)
 
 そういう意味では、ファンと言ってくれた人物に
 マスクを渡せたのはある意味本望であった

「さて…そろそろお店を閉めるとするか…」
 霖之助がそう言って、お店のドアを閉めようとした時
 お店のドアが開かれる音がして
「…香霖居るか?」
 お店の中に魔理沙が入ってくる

 そして、椅子に座っている霖之助を見つけると
「よいっしょっと…」
「…いや、膝の上に座られると困るのだが」
 霖之助の膝の上に座り込んで
「これでよし」
「…僕の両腕を強引に組ませないでくれ」
 魔理沙を後ろから抱きしめる格好にした
「…やっぱり此処が一番安心するな」
「…やれやれ」
 霖之助がやれやれと言った表情でため息をつくが
 魔理沙はそんな事一切気にしないでそう告げる
 そのまましばらくの間二人とも何言わずいたが

「なあ香霖…」
 魔理沙が口を開いた
「改めて閃光魔術を教えてくれ…」
「…訳を聞いても良いかい?」
 霖之助が静かに魔理沙に問いかけると
 魔理沙が小さく頷いて答える
「負けたくないから…」
「……」
 魔理沙の答えに霖之助が黙って聞き入る

「…香霖が前に私を守る壁になるって言ってくれたよな」
「ああ、確かにそうだ…」  
 だからこそ、封印していたマスクをかぶってまで
 魔理沙を助けに行ったのだ   
「だから、今度は霖之助に出番が来ない様に強くなりたい」
 魔理沙がそう呟きながら霖之助の手を強く握る

「私がもっと強くなって、香霖の出番が無くなれば香霖が戦わずに済むから」
 魔理沙がそう言って、霖之助に小さく頼むと告げる 
 その姿を見て、霖之助が目を瞑って嬉しそうにため息をつくと
「しょうがないな…教えよう」
 魔理沙の頭をクシャクシャと撫でながらそう告げる
「本当か?」
「大した事は教えれないがそれでいいならな」

 霖之助の膝の上で魔理沙が嬉しそうに笑う
 その様子を見て、霖之助が思う
(大きくなったな…)
 今まで守らないといけないと思ってきたが
 いつしか、こっちが守られる立場になる日が来るのかもしれない

「待ってろ!すぐに覚えてレスラー殺しを引退させてやるからな!」
「ふむ、良い覚悟だがまだまだ新参のレスラーに負けるわけには行かないな」
 今はただ、筋肉痛で痛む体を少し押しつつ
 膝の上の魔理沙の頭を撫でる事に力を注いでいた


「ん、そういえばレスラー殺しに届け物があったな」
 膝の上で頭を撫でられていた魔理沙が唐突にそう言ってから
 アリスから手渡された届け物の事を思い出した
「届け物?」
「ああ、魔界神からだってよ」
 首を傾げる霖之助に魔理沙がそう告げると
 受け取ってきた小包を霖之助に手渡す
(小包?)
 手渡された霖之助が不思議に思いながら
 小包を開けて中身を確認して
「…やれやれ…もう踊らないって言ったはずなんだが」
 盛大にため息をついた
「何が入ってたんだよ?」
 小包の中に興味があった魔理沙が霖之助の背中から
 小包の中身を覗き込んで、中に入っていた物を取り出す
「…なんでレスラー殺しのマスクが入ってるんだ?」
 そこには、霖之助が神綺にプレゼントしたはずのマスクが入っていた

 魔理沙が箱からマスクを取り出すと同時に
 なにやら手紙も落ちてきた
(手紙か?)
 その手紙に書かれたメッセージを霖之助が読む

「『次に会う時には必ず勝ちます…
 ですから勝った時にもう一度このマスクを』…か」

 萌える闘魂からのメッセージに霖之助が苦笑いを浮かべる
「全く…筋肉痛になるからプロレスはもうしたくないというのに」
 どうやら、自分の事など誰もお構いなしなようだ
「大丈夫だぜ」
「なにがだい?」
 霖之助がコメカミに手を当てていると
 魔理沙が明るい声を出す
「私が香霖の代わりに勝てば良いだけの話だろ?」
 然も当然と言わんばかりの魔理沙の口調に
 霖之助も一瞬動きが止まったが
 そのうち含み笑いが込み上げてきた
「なるほど…確かにそうだな」
「だろ?」 
 確かにそれなら霖之助がマスクをかぶって戦う必要は無くなる
 真っ直ぐな魔理沙なら、自分のような業が深いレスラーにはならないだろう
(そうだな…魔理沙なら)
 
「魔理沙…」
「なんだ?」
 声をかけられて振り向いた魔理沙に対して
「そら…」
「わっぷ!?」
 霖之助が自分の予備のマスクをかぶらせる
「魔理沙に予備のマスクをプレゼントしよう」
「どうせなら香霖が今まで使ってきた奴をくれよ」
「それは駄目だ…このマスクは汚れてるからね」
「ちぇ…」
 口ではそう言っているが、プレゼントされたマスクに
 魔理沙が嬉しそうに鏡の前でポーズをとる

(そう…このマスクは血で汚れすぎているからね)
 初代のマスクは所々、黒い染みがついている
 対戦相手の物や自分の血…
 この業は他の人に背負えるものではない
(願わくば、二代目のマスクは僕のように業を背負わないように)
 霖之助が椅子に座り込み、目を瞑ってそう願った
  
 








「香霖!」
「…なんだいいきなり大きな声を出して」
 霖之助が魔理沙の声で目を開くと
 魔理沙がなにやら紙切れを持って怒っていた
「これはどういう事だよ!」
「いや…いきなり怒られても…」
 いきなり機嫌が悪くなった魔理沙に霖之助も焦っていると
「…小包の中からこれが出てきたぜ」
 魔理沙が霖之助に手にした紙切れを見せ付ける
 
『追伸…デート楽しかったです♪今度は最後までエスコートしてくださいね』
  
「で…デート!?」
 霖之助が身に覚えがない出来事に驚くが
 リングの上での出来事を思い出す 

『楽しかったですよ?今日の試合(デート)』
『だが最後までエスコート(勝利させる)するつもりは無いんでね』

 リングの上での言葉のあや
 その時の事を神綺が語っているのだが
 魔理沙にはそんな事知る由もない 
「…こ、香霖の…」
 何も知らない魔理沙が俯きながら肩をプルプルと震わせ始める
「ま、待て魔理沙!これは…」
 霖之助が事の詳細を説明するより早く
 座っている霖之助に対して魔理沙が怒りに任せて飛び込んで来ると


「バカ野郎ーーー!」
(あ~…もう教える事は何もないかも知れないな) 
 意識が刈り取られる前に霖之助が見た光景は
 自分に勝るとも劣らない綺麗な『閃光魔術』の姿だった 
 
 
 どうも、脇役です

 気がつけば200作品目…

 何を書こうか考えて見て何個か案がありました 
 香霖堂に魔界神外伝『十年越しの新婚旅行』とか
 プロレス幻想郷『絶対門番を受け継ぎし者』とか
 わう椛の『鉄拳早苗』等も案にありましたが

 結局、前の作品のあとがきに書いた三つを全て突っ込んでみました(笑)

 今回元ネタになったレスラーや技等も色々あります 

 神綺様の元になったレスラーはキャッチコピーの通りで
『燃える闘魂』事アントニオ猪木で
 鉄仮面のマスクは…キン肉マンのあの方が元ネタ

 レスラー殺しの元ネタは
 初代タイガーマスクと『プロレスラブ』こと武藤敬司が元ネタです
 
 デンジャラスA(アリス)やパチュリーにも
 元ネタになったレスラーはいますww

 ただ、魔理沙だけは『これ』といったレスラーはありません
 だからこれから色々とやれそうな気がしますね… 

 
 さて、二百作品が終りましたが…
 まだまだ書いて行こうと思ってます
 
 これからもこの『乱雑製造機』こと
 脇役作品をよろしくお願いします
(そうそう…神綺のボディープレスなら喜んで受けてみたいですね)


 ちょっとだけおまけ

 
『昔憧れていた人の情報を耳にした!急いで、確かめないといけない』

 
『憧れの人と人を通してコンタクトを取って
 来てくれるかどうか分からないけどデートの約束をする…
 うふふ…デートの日までに頑張らないと』


『遂にデートをする日が来た!
 この日のために頑張ったもの…来てくれるよね?』

『…かなり待ったけど…来てくれる気配がない…
 やっぱり来てくれないのかな?…しょんぼり』

『憧れの人が来てくれた!思わず舞い上がっちゃう!
 と、とりあえず挨拶からをしないと…』

『…都合でもう少し遅れるみたい…でも、絶対に来てくれるから
 どれだけでも待つつもり♪…早く来てくれないかな?』

『憧れの人が遂にやってきてくれた!
 うれしかったから思わず飛び出して抱きついちゃった…反省』

『遂にデートが始まる…楽しい時間だった
 きちんとプレゼントを手渡す…
 でも、彼からのプレゼントは受け取れそうにない…』

『もう一曲踊ってくれるみたい!楽しい時間がもう少しだけ続く
 そして、憧れの人からのプレゼントを貰った…
 後、意識が朦朧としてたけど…優しく抱きしめて事はおぼろげに覚えてる』

『…社交場の下で最後の邂逅…
 憧れの人の大切な代物を貰った
 …そして、憧れの人に自分の事を認めてもらう…
 嬉しくて涙がこぼれそうになった』

『そろそろ帰ろうとしている憧れの人に
 また踊っていただけないかと聞くが、難しいみたい
 でも諦めない…何時かまた一緒に踊ってもらうんだから』


「…神綺様…なんですかこれ?」
「あら夢子ちゃん、私の試合の報告書に決まってるじゃない」
脇役
コメント



1.GUNモドキ削除
二百作品目おめでとうございます。

プロレスなのに物凄く乙女している神綺様がイイですねぇ。
格好いい霖之助は好きですので、こういう霖之助が出る作品がもっと増えたらいいです。
まあ、自分で書いたらどうなんだ、というツッコミはなしの方向でwww
2.名前が無い程度の能力削除
200作品おめでとうございます。
デンジャラスAはデンジャラスKで、パチュリーは高山善廣かな?

何はともあれ面白いねぇ。プロレスが分かるとより面白い。
そろそろWWEのレスラーを出しても面白いかも、ピープルズチャンピオンとかw
3.回転魔削除
200作品目おめでとう御座います。

自分もプロレス好きなのです。
「怖くない」の片割れはあのお方かなと勝手に創造しておりますw
4.名前が無い程度の能力削除
200作品、おめでとうございます。
昔のプロレスが大好きで霖之助と魔理沙の絡みも好きな私にとって大変楽しく読ませていただきました。
5.般若削除
まず、二百作目おめでとうございます!
記念すべき二百作目はプロレスでしたか、
しかしこの神綺様は可愛すぎる、またお願いします!
6.名前が無い程度の能力削除
200作品おめでとうございます
プロレス知識はキン○マンレベルですけど、面白かったです
7.K-999削除
二百作目おめでとうございます。これからも頑張ってください。
つーかプロレスしているはずなのに神綺様の可愛さは異常すぎやしませんか?w

>>私のアホ毛を掻っ切ってみろ!
 グレート・ムタ? それともライブのグレートエイジャか? つーかエイジャの元ネタが多分ムタ。
8.ネコん削除
200作品……もう凄いとしか。おめでとうございます!

プロレスはひいおじいちゃんが好きだったそうで、なんとなく興味有るスポーツです。
9.てるる削除
200作品おめでとうございますです~♪
まさかこう来るとは!
プロレス知識は皆無でしたが、それでも楽しませていただきました~。

200の次は300でしょうか~?