《あらすじ》
大型休暇を利用して、永遠亭の兎達を招いた白玉楼。
つぶらな瞳は幽々子を貫き、彼女は覚醒めた。
『お母さん』へと。
「妖夢、妖夢ぅ、あぁ……幽々子、お母さんになっちゃうぅぅぅ……っ」
「か、顔を赤くして変な事言わないでください!」
「……? 何かおかしかったかな、てゐ?」
「うん、まぁ。妖夢は色々考えるなぁ」
「みょん!?」
妖夢のむっつりも露見した。
《/あらすじ》
普段のおっとりとした、言葉を選ばなければ鈍い、そんな幽々子は今、いなかった。
きびきびと動き、はきはきと話しかける。
とは言え、その言動に堅苦しさはない。
むしろ、包み込むような温かさを感じさせる。
「カルピスだけじゃ喉が渇くかしら。水は駄目よね? お酒はどう?」
「いや、かあ――んぅ、水で結構です。それ、迷信」
この場の最年長者である地上の兎、てゐでさえ、ついつい呼んでしまいそうになるほどだ。
離れてゆく幽々子を頬を掻きながら眺めるてゐ。
袖が引かれ、罰の悪そうな表情を浮かべる。
引いたのは、鈴仙。
「くしし、てゐ、今、『母さん』って言いかけたでしょ?」
「お母さんお母さん連呼してる鈴仙に言われたかないよ」
「言ってた!?」
呼んでいた。
てゐや鈴仙でさえこの有様。
なのだから、幼兎の大合唱は避けようのない事だったのかもしれない。
呼ぶ度、呼ばれる度に、幼い兎は嬉しそうに楽しそうに声を弾ませていた。
「みんなー、じゃあ、お水持ってくるから。ちょっと待っててね」
「はぁーい、ゆゆこままーっ!」
「おふぅ!?」
ビクンビクン。
よろめきながら宴会場を後にする幽々子。
その後を追うように、妖夢も駆けだした。
主だけでは何往復必要か、ちょっと測り知れない。
鈴仙とてゐも追随する。招かれたからと言って何もしないのは、彼女たちの礼儀が許さなかった。
「言ってないの、妖夢位だよ」
「そっか。なんでかな、妖夢?」
「いえ、そう問われましても……」
床を滑るように進む幽々子に追いつこうとする妖夢は、振り向かず、ぽつりと答える。
「私のとって幽々子様は使えるべき主。その様に呼ぶ理由がありません」
応えに、鈴仙とてゐは顔を見合わせ、――結局、何も返さず主従の後を追った。
《遊戯》
一羽三十分まで。
制限はあったが、それでも明日帰るまでに全羽がプレイできないと判断され、却下の運びとなった。
帰らなければいいのに――思ったが、口には出さない。
代わりに、幽々子は別の遊戯を提案した。
全羽+半人半霊参加のアンプラグドゲーム。
俗に、テーブルトークRPGと言われているものである。
進行を務める『ゲームマスター』は幽々子ヒトリであり、うん、ちょっと無理。
――常人であればそう思うだろうが、彼女は白玉楼の主。全羽が楽しめるならばと頑張った。
念のため。件のゲームが幻想入りしている訳ではない。させてたまるか。
「蒲公英はどうするのかしら? あ、その道を行くのね。じゃあ、菫と合流しました。おめでとう、ゴールインよ。カランコロン
と鈴が鳴り、貴女達は仲良くヴァージンロードを進むのでした。え、判定が大成功? クリット? あら、五回も回して。ふふ、
一週間後、新婚旅行から帰ってきた菫のお腹には、なんと! 新たな生命が宿っていたのでした! ハネムーンベイビー!」
「出来ちゃった婚ならファンブルなんじゃないかなぁ……」
「や、てゐ、そもそも、蒲公英も菫も女の子なんだけど。愛って凄い」
「幽々子様! 喋り続けてるからと言って、チアノーゼ起こしたみたいに青い顔をしないでください!」
既にゴールインしている三名も、サブマスターとして奮闘中であった。
内訳。妖夢が鈴仙の妻となり、鈴仙はてゐに嫁ぎ、てゐは幽々子の義娘となっていた。完璧なトライアングル。
《/お遊戯》
《晩御飯》
鍋である。
広い広い宴会場には、けれど、甘い甘い匂いが充満していた。
発生源は無論の事、鍋。
お汁粉であった。
因みに、赤くはない。
妖夢や鈴仙、てゐと共に、たっぷりと餅を入れた椀を配りきった幽々子は、自身の分もよそい、席に着く。
「じゃあ、手を合わせて――いただきます」
「いただきまーす!」
白玉楼は揺れた。
「あ……みんな、熱いから気をつけて食べるのよ?」
「はぁーい、ゆゆこははー!」
「く、悔しい、けど……!」
幽々子が揺れた。
「波長を見てもらまでもなく、悔しさの欠片もありません。……ったく」
「まぁまぁ、そう怒りなさんな。はい、鈴仙」
「妖夢お姉ちゃんっ」
ッパァァァァァァンッッッ。
妖夢も揺れた。
彼女には鈴仙が幼兎と同じ体格をしているかのように見えている。
撃ち込まれたのは、言葉。幻爆‘近眼花火(マインドスターマイン)‘。
「ち、違う! うどんげさんはそう言うんじゃありません!」
だが、妖夢は気丈に言葉を返す。
赤くなりかけた瞳が元の色へと戻、らない。
鈴仙の両肩を掴み、叫ぶように言い放った。
「むしろ、私がお姉様と呼ぶべき! さぁ、契りを交わしましょう!」
姉妹の、である。――妖夢の目は赤かった。血走っていた。
「良かったね、鈴仙。妹ができて」
「えー……あんただけで十分なんだけど。あ、でも、可愛い妹なら……」
「いやいや鈴仙。私、こう見えて、結構な年寄――妖夢! 姉妹の契りに脱衣は要らない!」
目を見開く妖夢。知らなかったようだ。
そもそもその方法を誰に聞いたのか問い詰めたいと思うてゐであったが、碌な名前が上がらないだろうなと自重した。
「紅魔館で伝え聞き、霧の湖で確証を取り、屋台と神社で未遂を目撃し、永遠亭にて念を押されたのですが……」
「パーフェクトじゃないか……! お師匠、否、永琳め……!」
「いえ、輝夜さんに」
てゐも、揺れた。
少女たちのやり取りに、幽々子は口を開きかけ、微笑と共に閉じる。
飲み込んだ言葉は、『食事中に喧騒は宜しくない』。
偶にはいいかと、汁粉を流し込んだ。
「甘いわねぇ……」
《/晩御飯》
《入浴》
わーわーきゃーきゃーもみもみくちゃくちゃ。
《/入浴》
《就寝》
歯磨きを終えた兎達が、一羽また一羽と宴会場に所狭しと敷かれた布団へと潜り込む。
流石に数が足りないため、一つの布団に概ね五羽ほどの割合だ。
枕は横の者の耳。意外と痛くないらしい。
一羽を除いて。
「痛い痛い痛い! 潰れる!?」
「あぁ!? 申し訳ありません、うどんげさん!」
「流石に私達は別々の方が……。うん、まぁ、いいか」
鈴仙を真ん中にして、妖夢とてゐが左右につく。幽々子がそう振り分けた。
宴会場を灯していた幾つもの青白い光が、明暗を繰り返し消えていく。
段々と暗くなる室内に、歌声が響いた。
幽々子が謡う、お休みの唄。
――ねんねんころりよ おころりよ
――みんなはよいこだ
――ねんねしな
兎達が目をこする。
鈴仙とてゐは声を出すまいと欠伸を消す。
妖夢は、ただ耳を澄まし、聴き入っていた。
何度か同じフレーズを繰り返し、全員の目がとろんとしたのを確認してから、幽々子は立ち上がった。
「私は明日の準備があるから。それと、ちょっと此処じゃ寝れそうにないし」
部屋を出る前、振り向き、微笑みながら言う。
「――じゃあ、みんな。よく寝るのよ。お休みなさい」
兎達は、各々の思いを込めて、返した。
「ゆゆこまま」
「ゆゆこははっ」
「ゆゆこままん!」
「幽々子母さん」
「幽々子お母さん!」
「おやすみなさーい!」
――襖を閉じてから、幽々子はぽつりと呟いた。
「で、でたったぁ、ミルクでたったぁ……!」
カリスマブレイク。ついでに、出てない。
真っ暗の室内で、もぞもぞと動きだす者がいた。
布団から出ようか出まいか、迷っている。
出てしまえば、周りの者を起こすだろうか。
そもそも、出てどうしようと言うのだ――少女は、再び枕に沈もうとした。
ごちん。
「~~~!?」
少女の枕、そして、枕があった場所はまくられていた。
予想外の痛みに声が出そうになるが、どうにか押し殺す。
周囲の二羽を起こすのは、彼女の本意ではない。
ちょっと待て。
「……うどんげさん、てゐさん、起きているんですか?」
でなければ、不自然な布団の折れ方が説明できない。
妖夢の問いに、二羽が返す。
「ぐー、妖夢、さっき、お休み言ってなかった」
「……皆さんの声でかき消されたんでしょう」
「すぴー、少なくとも、呼んではいなかったねぇ」
「……呼びましたよ。小声でしたけど」
反射的に視線を背ける。
暗闇だから意味はない。
解っていながら、妖夢は続けた。
「仮に、お名前以外の事でしたら、当り前の事です。
あの方は私にとって主であり、守るべきお方。
朝方は皆さんに合わせましたが、そもそも」
解っていなかったのは、忘れていたのは、今、彼女が話している二羽の事。
「ぐぉぉぉ、波長がぐちゃぐちゃ」
「鈴仙、も少しお淑やかに。すやすや、嘘だね」
返す言葉は、なかった。
「うさー……いってらっしゃい、妖夢」
「……そういうのもあるのか。うさー、妖夢、いってきな」
お節介な月兎と地兎に小さく頭を下げ、妖夢は布団を抜け出て、行った。
朝食の準備を終えた幽々子は、上質の疲労感を味わいながら布団へと沈んだ。
腰と言わず肩と言わず、体全体が悲鳴をあげている。
明日は動けないかもしれない。
努めるまでもなく意識は沈んでいく――が、近づいてくる足音に、どうにか上半身を起こし、待った。
気配は襖の前で止まる。行ったり来たり。
幽々子は微苦笑し、声をかけた。
「妖夢。早くなさい」
可愛らしい悲鳴があげられ、それでも数瞬の間が空いてから、襖が開かれ、閉じる。
静かな足取り、けれど、何処か重い足取り。
そう感じるのは、妖夢の心中が透けて見えるから。
声を出す事なく、幽々子は微かに笑った。
「……幽々子様。私は貴女の庭師にして剣術指南やみょわー!?」
布団の前で正座をし、口を開く妖夢――を抱きこみ布団に招く幽々子。
「幽々子様!?」
「性欲を持て余す」
「と、伽に来たのではありませんっ!」
言葉の割に抵抗は薄い。
「冗談よ」
手を離す。
妖夢は自由の身になった。
だが、幽々子の思ったとおり、離れない。
互いの体温を感じ取れる距離で、再び、妖夢が話し出す――
――私は幽々子様の娘ではなく、幽々子様は私の母でもありません。
――ですから、皆さんの様にお呼びするのは不遜な事かと思います。
――……ですが、もしお許しを頂けるのなら、その。
――直前に、幽々子はまた抱きこんだ。
妖夢の小さな悲鳴を胸へと直に届く。
「もぅ……貴女は本当に頼りない子。
疲れているの。言ったでしょう?
早くなさい、妖夢」
矢継ぎ早に告げる辛辣な言葉。
けれど、妖夢はくみ取った。
その中にある優しさを。
――幽々子様も疲れてはいる。
――だけど、よりも疲れているのは私自身。
――……貴女の言うとおり、頼りない私は主従の関わりを忘れ、お呼びいたします。
顔をあげ幽々子を見る妖夢の表情は、少女と言うよりは、童と言うべきものであった。
「お休みなさい、ゆゆこかあさま……」
「お休みなさい、私の妖夢」
――ねんねころりよ おころりよ
――ようむはよいこだ
――ねんねしな
妖夢にとって、幽々子は主である。
幽々子にとって、妖夢は従者である。
けれど、彼女たちにとって各々は主従と一言で表せるものでも、なかった――。
《/就寝》
《朝食》
大宴会場に、膳が並び、兎たちが主の号令を座して待つ。
「じゃあ、みんな、手を合わせて――」
「――の前に、挨拶です」
主従の間に、無駄な緊張感が走った。
「……白玉楼では手を合わせて挨拶するのよ、知らないの、妖夢?」
「幽々子様にお仕えして幾星霜、初めてお聞きしました」
「本当に頼りない子。いいわ、躾け直してあげる」
「結構です。元より幽々子様より躾けられた覚えなど、とんとありません」
「『凄い』を『しゅごいぃぃぃ』って言うようにしてあげる。『駄目』は」
「らめって言ってるでしょうが、このすっとこどっこ――あぁ、臭い!? メントール臭い!?」
「ふふ、この抱擁のはてには、その匂いも芳しくなってくるわよぉ」
「――のっ、極めるとはこう言う事だ! 三重の頭突きっ!!」
「痛い痛い痛い!? 真面目に痛いわ、妖夢!?」
「はは、幽々子殿、拙者は剣士にして拳士にあらず。ただの頭突きでござるよ」
「普通に痛いに決まってるでしょー!?」
ごもっとも。
その様を見て、月兎が傍らの地兎に呟く。
「仲良き事は美しき哉、だね」
「……鈴仙って、何処かずれてるよねぇ」
「そう? だって、妖夢、楽しそうだよ?」
二羽の視線の先では、未だ主従が戯れている。
そして、鈴仙の言葉に嘘はない。
故に、てゐは肩を竦めた。
こほん――と空咳が打たれる。
「じゃあ、みんな、手を合わせて」
「貫くんですね、それ、みょわー!?」
「妖夢、昨日から何? 甘えんぼねぇ」
幽々子は妖夢を包み込む。
ようは、鈴仙の感じた通りであり、幽々子の言う通りであった。
「……全くだ。妬いちまう位楽しそう。便乗させてもらおうか」
「くしし、おっけー」
幽々子が手を合わせる。
妖夢は渋々手を合わせる。
兎達も、楽しげに手を合わせた。
「みんなー、おはようございまーす」
「おはようございまーす! ゆゆこかあさまーっ!」
「――って、なんで統一されているんですかぁ!?」
「え、『母様』が白玉楼の呼び方でしょ? なぁ、お前」
「ええ、ワタクシもそのようにお聞きしましたわ、貴女様」
にやにやと、てゐ。
にまにまと、鈴仙。
にぎにぎと拳を戦慄かせるのは、妖夢。
――きりっとした顔で何言って、って、うどんげさんもノらないでください!
――あぁ! あぁ、昨日の続きですか、そうですかそうなんですね!?
――と言うか、何時聞いて、あー! 昨晩出歯亀してましたね!
口から泡を飛ばし言う――寸前。
強く強く抱きこまれる。
抱きこんだのは、無論――。
「駄目よ、みんな。それは妖夢専用」
――白玉楼の主、そして、『お母さん』もとい『母様』、西行寺幽々子。
「ふふ、だけど、今日はいいわ。――さぁみんな、頂きましょう」
「はぁーい! ゆゆこかあさまー!」
「みょーんっ!?」
彼女たちの大型休暇は、斯様に優しく姦しく、過ぎていくのだった――。
<了>
大型休暇を利用して、永遠亭の兎達を招いた白玉楼。
つぶらな瞳は幽々子を貫き、彼女は覚醒めた。
『お母さん』へと。
「妖夢、妖夢ぅ、あぁ……幽々子、お母さんになっちゃうぅぅぅ……っ」
「か、顔を赤くして変な事言わないでください!」
「……? 何かおかしかったかな、てゐ?」
「うん、まぁ。妖夢は色々考えるなぁ」
「みょん!?」
妖夢のむっつりも露見した。
《/あらすじ》
普段のおっとりとした、言葉を選ばなければ鈍い、そんな幽々子は今、いなかった。
きびきびと動き、はきはきと話しかける。
とは言え、その言動に堅苦しさはない。
むしろ、包み込むような温かさを感じさせる。
「カルピスだけじゃ喉が渇くかしら。水は駄目よね? お酒はどう?」
「いや、かあ――んぅ、水で結構です。それ、迷信」
この場の最年長者である地上の兎、てゐでさえ、ついつい呼んでしまいそうになるほどだ。
離れてゆく幽々子を頬を掻きながら眺めるてゐ。
袖が引かれ、罰の悪そうな表情を浮かべる。
引いたのは、鈴仙。
「くしし、てゐ、今、『母さん』って言いかけたでしょ?」
「お母さんお母さん連呼してる鈴仙に言われたかないよ」
「言ってた!?」
呼んでいた。
てゐや鈴仙でさえこの有様。
なのだから、幼兎の大合唱は避けようのない事だったのかもしれない。
呼ぶ度、呼ばれる度に、幼い兎は嬉しそうに楽しそうに声を弾ませていた。
「みんなー、じゃあ、お水持ってくるから。ちょっと待っててね」
「はぁーい、ゆゆこままーっ!」
「おふぅ!?」
ビクンビクン。
よろめきながら宴会場を後にする幽々子。
その後を追うように、妖夢も駆けだした。
主だけでは何往復必要か、ちょっと測り知れない。
鈴仙とてゐも追随する。招かれたからと言って何もしないのは、彼女たちの礼儀が許さなかった。
「言ってないの、妖夢位だよ」
「そっか。なんでかな、妖夢?」
「いえ、そう問われましても……」
床を滑るように進む幽々子に追いつこうとする妖夢は、振り向かず、ぽつりと答える。
「私のとって幽々子様は使えるべき主。その様に呼ぶ理由がありません」
応えに、鈴仙とてゐは顔を見合わせ、――結局、何も返さず主従の後を追った。
《遊戯》
一羽三十分まで。
制限はあったが、それでも明日帰るまでに全羽がプレイできないと判断され、却下の運びとなった。
帰らなければいいのに――思ったが、口には出さない。
代わりに、幽々子は別の遊戯を提案した。
全羽+半人半霊参加のアンプラグドゲーム。
俗に、テーブルトークRPGと言われているものである。
進行を務める『ゲームマスター』は幽々子ヒトリであり、うん、ちょっと無理。
――常人であればそう思うだろうが、彼女は白玉楼の主。全羽が楽しめるならばと頑張った。
念のため。件のゲームが幻想入りしている訳ではない。させてたまるか。
「蒲公英はどうするのかしら? あ、その道を行くのね。じゃあ、菫と合流しました。おめでとう、ゴールインよ。カランコロン
と鈴が鳴り、貴女達は仲良くヴァージンロードを進むのでした。え、判定が大成功? クリット? あら、五回も回して。ふふ、
一週間後、新婚旅行から帰ってきた菫のお腹には、なんと! 新たな生命が宿っていたのでした! ハネムーンベイビー!」
「出来ちゃった婚ならファンブルなんじゃないかなぁ……」
「や、てゐ、そもそも、蒲公英も菫も女の子なんだけど。愛って凄い」
「幽々子様! 喋り続けてるからと言って、チアノーゼ起こしたみたいに青い顔をしないでください!」
既にゴールインしている三名も、サブマスターとして奮闘中であった。
内訳。妖夢が鈴仙の妻となり、鈴仙はてゐに嫁ぎ、てゐは幽々子の義娘となっていた。完璧なトライアングル。
《/お遊戯》
《晩御飯》
鍋である。
広い広い宴会場には、けれど、甘い甘い匂いが充満していた。
発生源は無論の事、鍋。
お汁粉であった。
因みに、赤くはない。
妖夢や鈴仙、てゐと共に、たっぷりと餅を入れた椀を配りきった幽々子は、自身の分もよそい、席に着く。
「じゃあ、手を合わせて――いただきます」
「いただきまーす!」
白玉楼は揺れた。
「あ……みんな、熱いから気をつけて食べるのよ?」
「はぁーい、ゆゆこははー!」
「く、悔しい、けど……!」
幽々子が揺れた。
「波長を見てもらまでもなく、悔しさの欠片もありません。……ったく」
「まぁまぁ、そう怒りなさんな。はい、鈴仙」
「妖夢お姉ちゃんっ」
ッパァァァァァァンッッッ。
妖夢も揺れた。
彼女には鈴仙が幼兎と同じ体格をしているかのように見えている。
撃ち込まれたのは、言葉。幻爆‘近眼花火(マインドスターマイン)‘。
「ち、違う! うどんげさんはそう言うんじゃありません!」
だが、妖夢は気丈に言葉を返す。
赤くなりかけた瞳が元の色へと戻、らない。
鈴仙の両肩を掴み、叫ぶように言い放った。
「むしろ、私がお姉様と呼ぶべき! さぁ、契りを交わしましょう!」
姉妹の、である。――妖夢の目は赤かった。血走っていた。
「良かったね、鈴仙。妹ができて」
「えー……あんただけで十分なんだけど。あ、でも、可愛い妹なら……」
「いやいや鈴仙。私、こう見えて、結構な年寄――妖夢! 姉妹の契りに脱衣は要らない!」
目を見開く妖夢。知らなかったようだ。
そもそもその方法を誰に聞いたのか問い詰めたいと思うてゐであったが、碌な名前が上がらないだろうなと自重した。
「紅魔館で伝え聞き、霧の湖で確証を取り、屋台と神社で未遂を目撃し、永遠亭にて念を押されたのですが……」
「パーフェクトじゃないか……! お師匠、否、永琳め……!」
「いえ、輝夜さんに」
てゐも、揺れた。
少女たちのやり取りに、幽々子は口を開きかけ、微笑と共に閉じる。
飲み込んだ言葉は、『食事中に喧騒は宜しくない』。
偶にはいいかと、汁粉を流し込んだ。
「甘いわねぇ……」
《/晩御飯》
《入浴》
わーわーきゃーきゃーもみもみくちゃくちゃ。
《/入浴》
《就寝》
歯磨きを終えた兎達が、一羽また一羽と宴会場に所狭しと敷かれた布団へと潜り込む。
流石に数が足りないため、一つの布団に概ね五羽ほどの割合だ。
枕は横の者の耳。意外と痛くないらしい。
一羽を除いて。
「痛い痛い痛い! 潰れる!?」
「あぁ!? 申し訳ありません、うどんげさん!」
「流石に私達は別々の方が……。うん、まぁ、いいか」
鈴仙を真ん中にして、妖夢とてゐが左右につく。幽々子がそう振り分けた。
宴会場を灯していた幾つもの青白い光が、明暗を繰り返し消えていく。
段々と暗くなる室内に、歌声が響いた。
幽々子が謡う、お休みの唄。
――ねんねんころりよ おころりよ
――みんなはよいこだ
――ねんねしな
兎達が目をこする。
鈴仙とてゐは声を出すまいと欠伸を消す。
妖夢は、ただ耳を澄まし、聴き入っていた。
何度か同じフレーズを繰り返し、全員の目がとろんとしたのを確認してから、幽々子は立ち上がった。
「私は明日の準備があるから。それと、ちょっと此処じゃ寝れそうにないし」
部屋を出る前、振り向き、微笑みながら言う。
「――じゃあ、みんな。よく寝るのよ。お休みなさい」
兎達は、各々の思いを込めて、返した。
「ゆゆこまま」
「ゆゆこははっ」
「ゆゆこままん!」
「幽々子母さん」
「幽々子お母さん!」
「おやすみなさーい!」
――襖を閉じてから、幽々子はぽつりと呟いた。
「で、でたったぁ、ミルクでたったぁ……!」
カリスマブレイク。ついでに、出てない。
真っ暗の室内で、もぞもぞと動きだす者がいた。
布団から出ようか出まいか、迷っている。
出てしまえば、周りの者を起こすだろうか。
そもそも、出てどうしようと言うのだ――少女は、再び枕に沈もうとした。
ごちん。
「~~~!?」
少女の枕、そして、枕があった場所はまくられていた。
予想外の痛みに声が出そうになるが、どうにか押し殺す。
周囲の二羽を起こすのは、彼女の本意ではない。
ちょっと待て。
「……うどんげさん、てゐさん、起きているんですか?」
でなければ、不自然な布団の折れ方が説明できない。
妖夢の問いに、二羽が返す。
「ぐー、妖夢、さっき、お休み言ってなかった」
「……皆さんの声でかき消されたんでしょう」
「すぴー、少なくとも、呼んではいなかったねぇ」
「……呼びましたよ。小声でしたけど」
反射的に視線を背ける。
暗闇だから意味はない。
解っていながら、妖夢は続けた。
「仮に、お名前以外の事でしたら、当り前の事です。
あの方は私にとって主であり、守るべきお方。
朝方は皆さんに合わせましたが、そもそも」
解っていなかったのは、忘れていたのは、今、彼女が話している二羽の事。
「ぐぉぉぉ、波長がぐちゃぐちゃ」
「鈴仙、も少しお淑やかに。すやすや、嘘だね」
返す言葉は、なかった。
「うさー……いってらっしゃい、妖夢」
「……そういうのもあるのか。うさー、妖夢、いってきな」
お節介な月兎と地兎に小さく頭を下げ、妖夢は布団を抜け出て、行った。
朝食の準備を終えた幽々子は、上質の疲労感を味わいながら布団へと沈んだ。
腰と言わず肩と言わず、体全体が悲鳴をあげている。
明日は動けないかもしれない。
努めるまでもなく意識は沈んでいく――が、近づいてくる足音に、どうにか上半身を起こし、待った。
気配は襖の前で止まる。行ったり来たり。
幽々子は微苦笑し、声をかけた。
「妖夢。早くなさい」
可愛らしい悲鳴があげられ、それでも数瞬の間が空いてから、襖が開かれ、閉じる。
静かな足取り、けれど、何処か重い足取り。
そう感じるのは、妖夢の心中が透けて見えるから。
声を出す事なく、幽々子は微かに笑った。
「……幽々子様。私は貴女の庭師にして剣術指南やみょわー!?」
布団の前で正座をし、口を開く妖夢――を抱きこみ布団に招く幽々子。
「幽々子様!?」
「性欲を持て余す」
「と、伽に来たのではありませんっ!」
言葉の割に抵抗は薄い。
「冗談よ」
手を離す。
妖夢は自由の身になった。
だが、幽々子の思ったとおり、離れない。
互いの体温を感じ取れる距離で、再び、妖夢が話し出す――
――私は幽々子様の娘ではなく、幽々子様は私の母でもありません。
――ですから、皆さんの様にお呼びするのは不遜な事かと思います。
――……ですが、もしお許しを頂けるのなら、その。
――直前に、幽々子はまた抱きこんだ。
妖夢の小さな悲鳴を胸へと直に届く。
「もぅ……貴女は本当に頼りない子。
疲れているの。言ったでしょう?
早くなさい、妖夢」
矢継ぎ早に告げる辛辣な言葉。
けれど、妖夢はくみ取った。
その中にある優しさを。
――幽々子様も疲れてはいる。
――だけど、よりも疲れているのは私自身。
――……貴女の言うとおり、頼りない私は主従の関わりを忘れ、お呼びいたします。
顔をあげ幽々子を見る妖夢の表情は、少女と言うよりは、童と言うべきものであった。
「お休みなさい、ゆゆこかあさま……」
「お休みなさい、私の妖夢」
――ねんねころりよ おころりよ
――ようむはよいこだ
――ねんねしな
妖夢にとって、幽々子は主である。
幽々子にとって、妖夢は従者である。
けれど、彼女たちにとって各々は主従と一言で表せるものでも、なかった――。
《/就寝》
《朝食》
大宴会場に、膳が並び、兎たちが主の号令を座して待つ。
「じゃあ、みんな、手を合わせて――」
「――の前に、挨拶です」
主従の間に、無駄な緊張感が走った。
「……白玉楼では手を合わせて挨拶するのよ、知らないの、妖夢?」
「幽々子様にお仕えして幾星霜、初めてお聞きしました」
「本当に頼りない子。いいわ、躾け直してあげる」
「結構です。元より幽々子様より躾けられた覚えなど、とんとありません」
「『凄い』を『しゅごいぃぃぃ』って言うようにしてあげる。『駄目』は」
「らめって言ってるでしょうが、このすっとこどっこ――あぁ、臭い!? メントール臭い!?」
「ふふ、この抱擁のはてには、その匂いも芳しくなってくるわよぉ」
「――のっ、極めるとはこう言う事だ! 三重の頭突きっ!!」
「痛い痛い痛い!? 真面目に痛いわ、妖夢!?」
「はは、幽々子殿、拙者は剣士にして拳士にあらず。ただの頭突きでござるよ」
「普通に痛いに決まってるでしょー!?」
ごもっとも。
その様を見て、月兎が傍らの地兎に呟く。
「仲良き事は美しき哉、だね」
「……鈴仙って、何処かずれてるよねぇ」
「そう? だって、妖夢、楽しそうだよ?」
二羽の視線の先では、未だ主従が戯れている。
そして、鈴仙の言葉に嘘はない。
故に、てゐは肩を竦めた。
こほん――と空咳が打たれる。
「じゃあ、みんな、手を合わせて」
「貫くんですね、それ、みょわー!?」
「妖夢、昨日から何? 甘えんぼねぇ」
幽々子は妖夢を包み込む。
ようは、鈴仙の感じた通りであり、幽々子の言う通りであった。
「……全くだ。妬いちまう位楽しそう。便乗させてもらおうか」
「くしし、おっけー」
幽々子が手を合わせる。
妖夢は渋々手を合わせる。
兎達も、楽しげに手を合わせた。
「みんなー、おはようございまーす」
「おはようございまーす! ゆゆこかあさまーっ!」
「――って、なんで統一されているんですかぁ!?」
「え、『母様』が白玉楼の呼び方でしょ? なぁ、お前」
「ええ、ワタクシもそのようにお聞きしましたわ、貴女様」
にやにやと、てゐ。
にまにまと、鈴仙。
にぎにぎと拳を戦慄かせるのは、妖夢。
――きりっとした顔で何言って、って、うどんげさんもノらないでください!
――あぁ! あぁ、昨日の続きですか、そうですかそうなんですね!?
――と言うか、何時聞いて、あー! 昨晩出歯亀してましたね!
口から泡を飛ばし言う――寸前。
強く強く抱きこまれる。
抱きこんだのは、無論――。
「駄目よ、みんな。それは妖夢専用」
――白玉楼の主、そして、『お母さん』もとい『母様』、西行寺幽々子。
「ふふ、だけど、今日はいいわ。――さぁみんな、頂きましょう」
「はぁーい! ゆゆこかあさまー!」
「みょーんっ!?」
彼女たちの大型休暇は、斯様に優しく姦しく、過ぎていくのだった――。
<了>
とてもよいテンポで前作同様スラスラニヤニヤ読めました。ご馳走様でした
行ってみたいなあ…乳玉楼
ラブコメのようなえっちいギャグは大好きです。初っ端の幽々子様の発言を深読みするみょんには笑いました。
いいよいいよゆゆ母様いいよ
あれ? うちのPCだとお風呂シーンだけで5MBはあるんだけど……
最高でした
ところで、風呂のシーンは検閲とか大丈夫なのか?