ある日、久しぶりに図書館へお邪魔して、深夜の紅茶を楽しんでいたら。
小悪魔が爆散した。
ヒトカタのモノが内側からの圧力ではじけ飛ぶ様は、客観的に見て美しくない。
それはそうだ。
もともと人の躰は(人じゃないけど)そういった事態に対応するようには出来ていない。とても不自然な事なのだ。
ああ、でもこんな至近距離で爆発されたら紅茶が台無しだし、服や躰だって洗わなくちゃいけないし、爆発の勢いから察するに本棚にだっていろいろ飛び散っちゃってるよねぇ。
本来それを率先して掃除するはずの小悪魔がこんなことになっちゃったから、きっと後片付けは咲夜がやるんだろうなぁ、大変だなぁ。手伝おうかなぁ。
突然起こった出来事について行けず、ぼんやりと思考の止まった頭で咲夜の心配などしていると、プラプラと青白い手が私の視界に入り込んでくるのに気づいた。
「妹様、大丈夫? ……無理もないけれど」
そのまま声の方に目を向けると、図書館の主が困り果てた表情でため息をついていた。
パチュリー=ノーレッジ。
そう、パチュリーだ。お姉様の親友で、百年を経た魔女で、えーと、それから……。
いつも『小悪魔』と一緒に図書館に籠もってる。
「っ!? 小悪魔は!」
ティーカップを持っていたことも忘れて、乱暴に立ち上がる。ばしゃあ、とカップの中にあった紅茶が絨毯に撒き散らされる。
そんな私とは対照的にパチュリーは、一足す一は二ですよ。とでも言わんばかりの平然とした表情で。
「いないわ。妹様も見てたでしょう? 木っ端微塵よ」
「いや! そういう話じゃないから!」
「そう。では、どういう話なのかしら?」
「だって小悪魔爆発しちゃったんだよ。死んじゃったんだよ? どうしてパチュリーはそんなに落ち着いていられるの!」
「50点」
「は?」
「貴女の質問を採点した結果よ。質問を採点っていうのも奇妙な話だけれど」
しれっとした顔で訳の分からない事を言うパチュリー。
50点。普通に考えれば100点満点での話だろうから、私のさっきの言葉が半分間違っているということなのか。
そんな思案が私の脳裏を掠めたとき、少し落ち着いて周囲の状況を見ることが出来た。
綺麗だ。
人体(?)の爆発なんてことが起こったにしては、血が飛び散ってもいなければ、かつて小悪魔だったモノが散乱しているということもない。
咲夜がいつの間にかやってきてすべてクリーニングした、とも考えられるけど、いくら時間を止めていても私が踏みしめている絨毯まで綺麗にできるはずもない。咲夜の能力は規格外ではあっても決して万能なものではないのだ。
「何かに気づいたみたいね。まぁ、もうすぐ答え合わせができるから座ってお茶の続きをしましょう」
ほどなく、図書館の奥からパタパタと誰かの足音が近づいてくる。
「いやー、ひどい目にあいましたー」
明るく笑って掛けてくる人影には見覚えがあった。小悪魔だ。さっき爆発してたのに。なんで、どうして。
驚きを隠せない私を見ながら、パチュリーは表情を変えず、呟くように言った。
「小悪魔は、爆発したけれど死んだわけじゃない。私はそれを知っているから、こんなにも落ち着いていられるのよ」
※
※
※
「いや、きっちり死にましたけどね」
パチュリーのつぶやきを真っ向から否定する従者(被害者)は苦笑い。でも、怒っている様子じゃない、かな? むしろ恥ずかしがっているような。
「こぁ。貴女も懲りないわね。今日だけで何回目かしら?」
「まだ6回目です」
え、『まだ』って言ったよ、この小悪魔。爆発しても平気な顔で戻ってくることもそうだけど、一日に6回も死んでるのにどうして平然としていられるんだろう、この主従は。
「あのさあ」
「なに? 妹様?」
「ここは、怒ってもいい場面だよね」
「出来れば我慢して欲しいところだけど、そのぶつけ先が小悪魔であるなら止めはしないわ」
しれっとのたまう七曜の魔女。本当にぶつけてみたら、この澄まし顔をちょっとは崩せるかなぁ。
そんな、どうでもいいことを考えていたら、小悪魔が慌てた様子で。
「それはひどいですよパチュリー様。だいたい、こんなことになってるのだって半分はパチュリー様のせいじゃないですか」
「いいところ1割ね、私の責任があるとしても。貴女が自制すればいいだけの話でしょう?」
「できたら苦労してませんってば」
それは、威張れるような事じゃないわね。とパチュリーが言って、のんびり紅茶を啜っている。
いまいち、よくわからない。
小悪魔が爆発する原因が、割合はともかく目の前の二人にあって、爆発するけど死んだわけじゃなくて。
なぜだかホッとした。同時に涙が溢れてきた。
「あ、あれ? フランドール様?」
「あ、うん。小悪魔が生きてるって分かったら安心しちゃって。えへへ、いい歳して情けないね、私」
「そんなことないわ」
パチュリーが慰めてくれる。
「突然妹様の目の前で爆発する小悪魔が悪いのだし、妹様が気にする必要はないわよ」
言いぐさはひどかったが、私を心配してくれているのは伝わってきたので素直に嬉しかった。
ごしごしと涙をぬぐって、ありがとう、とお礼を言う。
パチュリーは、何事かごにょごにょと呟きながら開いた本に顔を沈めてる。もしかして照れてるのかな?
※
※
※
「それにしても、さ」
再開したお茶会を楽しみながら、私は誰にともなく口を開く。あんなに感情を揺さぶられたんだから、私にも聞く権利はあるはず。
「なんで小悪魔が爆発するようになっちゃったの? 先週会ったときは、そんなことなかったよね? あと、普通は爆発したら死んじゃうと思うんだけど、どうして無事なの?」
立て続けに質問をたたみかける。さて、二人の反応は……。
「…………」
「…………」
うわぁ、露骨に目を逸らし始めた。
小悪魔なんて首を左右に振りながら慣れない口笛吹いて、まるでアーバンチャ○ピオンでパトカーが走ってきた時みたいだよ。
パチュリーも、○っきの面クリアみたいなメチャクチャ豪快な笑顔だし。お願いだから他の人の前ではやらないでね、きっとみんな引くから。
さーて、どうやら話したくない様子。
本来なら、無理矢理聞き出すなんて私の趣味じゃないんだけれど。あ、今の感じ、お姉様に似てるかも。
えへへ。
あ、違う違う。今は、きちんと小悪魔が爆発する原因を教えてもらわなきゃ。
私は、小悪魔に狙いを定める。パチュリーより精神的な防衛力無さそうだもんね。
「ねぇ、教えて?」
小首をかくん、と傾け上目遣いに頼んでみる、瞳に憂いを帯びた感じで切なげに。
この間咲夜が『この頼み方をマスターすれば、妹様に落とせない相手はいませんわ』と言っていたっけ。
その時は『本当かなぁ』なんて思っていたけど、あの特訓の成果を試すならちょうど良い機会だよね。咲夜、私頑張るよ!
「あ、いえ……その」
小悪魔は、脇目にパチュリーをちらちら見ている。
むぅ、しぶとい。まだまだ修行が足りないかな。こうなったらフェイズ2に移行しよう。
「お・ね・が・い☆」
そっと小悪魔の近くまで寄っていって、胸の前で両手を組み合わせて囁くように懇願する。咲夜の指導は厳しくて『可愛く見える羽の動き』まで指定されたもんね。
これでどうだ!
「ぱ、ぱちゅりーさまぁ……」
「むきゅ……く……くぅ……」
うーん、やっぱりこの頼み方って、そんなに効果がありそうに思えないんだよねぇ。
実際小悪魔は、うろたえるばっかりで聞き入れてくれそうもないし。
よし、フェイズ3までやってみてダメならあきらめ……。
「ま、待ってちょうだい。話す、話すからそれ以上は」
あれ? なんでパチュリーが降参するんだろ。私は抱きつこうとして両手を広げたままの姿勢で止まってしまう。
「それ以上続けられたら、私がレミィに殺されかねない事態が発生する恐れがあるわ。お互いの身の安全を確保するためにも、抑えてちょうだい妹様」
? よくわかんないけど作戦成功、なのかな。やったね!
※
※
※
「まずは、二つ目の疑問からお答えしますね」
なんで? とは思ったけど口には出さない。説明って順序が大切なんですよってめいりんも言ってたし。
小悪魔は、少し顔を赤らめたまま早口に説明を始める。
「専門的な部分をすっ飛ばして言ってしまうと、この世界での死は、私にとって本質的な死ではないんです」
「ごめん、わからない」
「ですよねー」
「日常生活でも残機制ってこと?」
「ああ、いい例えかもしれませんね。正確には、パチュリー様からの魔力供給さえあれば、私の残機はほぼ無限って事なんですが」
「すごいねぇ」
「それほどでもないです。私はパチュリー様によってこの世界に『召喚』されている者ですから。いろいろと能力的に制限が掛かっていたりしますし」
「そうなの?」
「ええ、まぁその制限が全て解除されても大した事は出来ないんですけどね、元のポテンシャルの問題で」
うわぁ、なんかかっこいいなー。
黒いローブを羽織って『くくく、私にこの縛めを外させたのは貴様で2人目だ』とか言ってる小悪魔を想像してみる。うん、似合わない。
やっぱり今の小悪魔が一番だよね。パチュリーもいいセンスしてると思う。
「そんなわけで、爆発するのが致命的ってことでもないんです、私の場合」
「でも、痛いでしょ?」
「はい、それはもう。よく『身を引き裂かれるようだ』なんて表現を本の中で見ますけど、それなら一回裂けてみろって本気で思うようになりましたね」
うへぇ。聞くだけで躰がむずむずしてきちゃうよ。
「それで、なんで爆発するようになっちゃったの?」
話を変える、というよりはこれ以上痛い話を聞きたくなかったので先を促す。
「実は先週、パチュリー様と言い争いになりまして」
ふぅん。珍しいこともあるもんだねぇ。
「最初は些細な事だったんですけど、だんだんとお互いヒートアップしてきてしまって、そこでひとつの制約が課されちゃったんですよ」
「そういうことって、できるものなの?」
「合意の上でなら。それにしたって面倒な手順は踏むことになるんですけどね」
主従の形っていろいろなんだなぁ。
すぐに生き返る(?)とはいえ、自分の従者に『爆発しなさい』って命令できるパチュリーがちょっと怖いよ。
咲夜とか、お姉様の命令ならそれくらいの事『かしこまりました』の一言でやってしまうそうだけど。
……なんだ、あんまり不思議なことでもないのか。
「私は、パチュリー様にお仕えしてるんです。こんなに愛らしくてかわいい方に仕えてるんですから、えっちぃ妄想くらい自由にさせて欲しいと思うんですよ」
うん、確かにパチュリーはかわいいよね。そりゃあえっちぃ妄想くらい……え? え!?
小悪魔、爆発のしすぎでどっかおかしくなっちゃった?
それまで黙って事の成り行きを見守っていたパチュリーが口を開く。
「却下よ。妄想の中とはいえ、汚されるこっちの身にもなってみなさい。この条件を提示したとき『それくらいなら楽勝です』とか安請け合いしたのは誰だったかしら?」
「いやぁ、まさか自分がこんなにも堪え性ないとは思いませんでした」
それってもしかして。まさか、そんな。
「こ、小悪魔。その制約って」
「はい。今の私は『パチュリー様でえっちぃ妄想をする』と爆発するんです」
目の前が真っ暗になる、そんなしょうもない。
それじゃあ、今日だけで小悪魔は6回もえっちぃ妄想してるのか、己の死と引き替えに。
それなのになんでそんなにも誇らしげなんだろう。パチュリーはあからさまに顔を顰めているし。これは話したくないよねぇ。
「一日に一度も爆発しなかったら制約を解除するって取り決めなんですが、最近ではこんなのもアリかなとか思っています」
アホだ、こいつ。はやくなんとかしないと……。よし、なんとかしちゃおう。
「小悪魔」
「はい?」
「キュッとしてドカーン」
「アーーーーーーーーーーーーーー!!!???」
BOMB!!!!!
ふぅ、すっきりした。パチュリーが驚いて目を丸くしてるけど気にしない。
歪んだ痴話喧嘩に巻き込まれた私の痛みに比べれば、6回が7回になったところで、ねぇ?
結局私から、この二人に言える事は多くないけど。
……お幸せにね。
小悪魔が爆散した。
ヒトカタのモノが内側からの圧力ではじけ飛ぶ様は、客観的に見て美しくない。
それはそうだ。
もともと人の躰は(人じゃないけど)そういった事態に対応するようには出来ていない。とても不自然な事なのだ。
ああ、でもこんな至近距離で爆発されたら紅茶が台無しだし、服や躰だって洗わなくちゃいけないし、爆発の勢いから察するに本棚にだっていろいろ飛び散っちゃってるよねぇ。
本来それを率先して掃除するはずの小悪魔がこんなことになっちゃったから、きっと後片付けは咲夜がやるんだろうなぁ、大変だなぁ。手伝おうかなぁ。
突然起こった出来事について行けず、ぼんやりと思考の止まった頭で咲夜の心配などしていると、プラプラと青白い手が私の視界に入り込んでくるのに気づいた。
「妹様、大丈夫? ……無理もないけれど」
そのまま声の方に目を向けると、図書館の主が困り果てた表情でため息をついていた。
パチュリー=ノーレッジ。
そう、パチュリーだ。お姉様の親友で、百年を経た魔女で、えーと、それから……。
いつも『小悪魔』と一緒に図書館に籠もってる。
「っ!? 小悪魔は!」
ティーカップを持っていたことも忘れて、乱暴に立ち上がる。ばしゃあ、とカップの中にあった紅茶が絨毯に撒き散らされる。
そんな私とは対照的にパチュリーは、一足す一は二ですよ。とでも言わんばかりの平然とした表情で。
「いないわ。妹様も見てたでしょう? 木っ端微塵よ」
「いや! そういう話じゃないから!」
「そう。では、どういう話なのかしら?」
「だって小悪魔爆発しちゃったんだよ。死んじゃったんだよ? どうしてパチュリーはそんなに落ち着いていられるの!」
「50点」
「は?」
「貴女の質問を採点した結果よ。質問を採点っていうのも奇妙な話だけれど」
しれっとした顔で訳の分からない事を言うパチュリー。
50点。普通に考えれば100点満点での話だろうから、私のさっきの言葉が半分間違っているということなのか。
そんな思案が私の脳裏を掠めたとき、少し落ち着いて周囲の状況を見ることが出来た。
綺麗だ。
人体(?)の爆発なんてことが起こったにしては、血が飛び散ってもいなければ、かつて小悪魔だったモノが散乱しているということもない。
咲夜がいつの間にかやってきてすべてクリーニングした、とも考えられるけど、いくら時間を止めていても私が踏みしめている絨毯まで綺麗にできるはずもない。咲夜の能力は規格外ではあっても決して万能なものではないのだ。
「何かに気づいたみたいね。まぁ、もうすぐ答え合わせができるから座ってお茶の続きをしましょう」
ほどなく、図書館の奥からパタパタと誰かの足音が近づいてくる。
「いやー、ひどい目にあいましたー」
明るく笑って掛けてくる人影には見覚えがあった。小悪魔だ。さっき爆発してたのに。なんで、どうして。
驚きを隠せない私を見ながら、パチュリーは表情を変えず、呟くように言った。
「小悪魔は、爆発したけれど死んだわけじゃない。私はそれを知っているから、こんなにも落ち着いていられるのよ」
※
※
※
「いや、きっちり死にましたけどね」
パチュリーのつぶやきを真っ向から否定する従者(被害者)は苦笑い。でも、怒っている様子じゃない、かな? むしろ恥ずかしがっているような。
「こぁ。貴女も懲りないわね。今日だけで何回目かしら?」
「まだ6回目です」
え、『まだ』って言ったよ、この小悪魔。爆発しても平気な顔で戻ってくることもそうだけど、一日に6回も死んでるのにどうして平然としていられるんだろう、この主従は。
「あのさあ」
「なに? 妹様?」
「ここは、怒ってもいい場面だよね」
「出来れば我慢して欲しいところだけど、そのぶつけ先が小悪魔であるなら止めはしないわ」
しれっとのたまう七曜の魔女。本当にぶつけてみたら、この澄まし顔をちょっとは崩せるかなぁ。
そんな、どうでもいいことを考えていたら、小悪魔が慌てた様子で。
「それはひどいですよパチュリー様。だいたい、こんなことになってるのだって半分はパチュリー様のせいじゃないですか」
「いいところ1割ね、私の責任があるとしても。貴女が自制すればいいだけの話でしょう?」
「できたら苦労してませんってば」
それは、威張れるような事じゃないわね。とパチュリーが言って、のんびり紅茶を啜っている。
いまいち、よくわからない。
小悪魔が爆発する原因が、割合はともかく目の前の二人にあって、爆発するけど死んだわけじゃなくて。
なぜだかホッとした。同時に涙が溢れてきた。
「あ、あれ? フランドール様?」
「あ、うん。小悪魔が生きてるって分かったら安心しちゃって。えへへ、いい歳して情けないね、私」
「そんなことないわ」
パチュリーが慰めてくれる。
「突然妹様の目の前で爆発する小悪魔が悪いのだし、妹様が気にする必要はないわよ」
言いぐさはひどかったが、私を心配してくれているのは伝わってきたので素直に嬉しかった。
ごしごしと涙をぬぐって、ありがとう、とお礼を言う。
パチュリーは、何事かごにょごにょと呟きながら開いた本に顔を沈めてる。もしかして照れてるのかな?
※
※
※
「それにしても、さ」
再開したお茶会を楽しみながら、私は誰にともなく口を開く。あんなに感情を揺さぶられたんだから、私にも聞く権利はあるはず。
「なんで小悪魔が爆発するようになっちゃったの? 先週会ったときは、そんなことなかったよね? あと、普通は爆発したら死んじゃうと思うんだけど、どうして無事なの?」
立て続けに質問をたたみかける。さて、二人の反応は……。
「…………」
「…………」
うわぁ、露骨に目を逸らし始めた。
小悪魔なんて首を左右に振りながら慣れない口笛吹いて、まるでアーバンチャ○ピオンでパトカーが走ってきた時みたいだよ。
パチュリーも、○っきの面クリアみたいなメチャクチャ豪快な笑顔だし。お願いだから他の人の前ではやらないでね、きっとみんな引くから。
さーて、どうやら話したくない様子。
本来なら、無理矢理聞き出すなんて私の趣味じゃないんだけれど。あ、今の感じ、お姉様に似てるかも。
えへへ。
あ、違う違う。今は、きちんと小悪魔が爆発する原因を教えてもらわなきゃ。
私は、小悪魔に狙いを定める。パチュリーより精神的な防衛力無さそうだもんね。
「ねぇ、教えて?」
小首をかくん、と傾け上目遣いに頼んでみる、瞳に憂いを帯びた感じで切なげに。
この間咲夜が『この頼み方をマスターすれば、妹様に落とせない相手はいませんわ』と言っていたっけ。
その時は『本当かなぁ』なんて思っていたけど、あの特訓の成果を試すならちょうど良い機会だよね。咲夜、私頑張るよ!
「あ、いえ……その」
小悪魔は、脇目にパチュリーをちらちら見ている。
むぅ、しぶとい。まだまだ修行が足りないかな。こうなったらフェイズ2に移行しよう。
「お・ね・が・い☆」
そっと小悪魔の近くまで寄っていって、胸の前で両手を組み合わせて囁くように懇願する。咲夜の指導は厳しくて『可愛く見える羽の動き』まで指定されたもんね。
これでどうだ!
「ぱ、ぱちゅりーさまぁ……」
「むきゅ……く……くぅ……」
うーん、やっぱりこの頼み方って、そんなに効果がありそうに思えないんだよねぇ。
実際小悪魔は、うろたえるばっかりで聞き入れてくれそうもないし。
よし、フェイズ3までやってみてダメならあきらめ……。
「ま、待ってちょうだい。話す、話すからそれ以上は」
あれ? なんでパチュリーが降参するんだろ。私は抱きつこうとして両手を広げたままの姿勢で止まってしまう。
「それ以上続けられたら、私がレミィに殺されかねない事態が発生する恐れがあるわ。お互いの身の安全を確保するためにも、抑えてちょうだい妹様」
? よくわかんないけど作戦成功、なのかな。やったね!
※
※
※
「まずは、二つ目の疑問からお答えしますね」
なんで? とは思ったけど口には出さない。説明って順序が大切なんですよってめいりんも言ってたし。
小悪魔は、少し顔を赤らめたまま早口に説明を始める。
「専門的な部分をすっ飛ばして言ってしまうと、この世界での死は、私にとって本質的な死ではないんです」
「ごめん、わからない」
「ですよねー」
「日常生活でも残機制ってこと?」
「ああ、いい例えかもしれませんね。正確には、パチュリー様からの魔力供給さえあれば、私の残機はほぼ無限って事なんですが」
「すごいねぇ」
「それほどでもないです。私はパチュリー様によってこの世界に『召喚』されている者ですから。いろいろと能力的に制限が掛かっていたりしますし」
「そうなの?」
「ええ、まぁその制限が全て解除されても大した事は出来ないんですけどね、元のポテンシャルの問題で」
うわぁ、なんかかっこいいなー。
黒いローブを羽織って『くくく、私にこの縛めを外させたのは貴様で2人目だ』とか言ってる小悪魔を想像してみる。うん、似合わない。
やっぱり今の小悪魔が一番だよね。パチュリーもいいセンスしてると思う。
「そんなわけで、爆発するのが致命的ってことでもないんです、私の場合」
「でも、痛いでしょ?」
「はい、それはもう。よく『身を引き裂かれるようだ』なんて表現を本の中で見ますけど、それなら一回裂けてみろって本気で思うようになりましたね」
うへぇ。聞くだけで躰がむずむずしてきちゃうよ。
「それで、なんで爆発するようになっちゃったの?」
話を変える、というよりはこれ以上痛い話を聞きたくなかったので先を促す。
「実は先週、パチュリー様と言い争いになりまして」
ふぅん。珍しいこともあるもんだねぇ。
「最初は些細な事だったんですけど、だんだんとお互いヒートアップしてきてしまって、そこでひとつの制約が課されちゃったんですよ」
「そういうことって、できるものなの?」
「合意の上でなら。それにしたって面倒な手順は踏むことになるんですけどね」
主従の形っていろいろなんだなぁ。
すぐに生き返る(?)とはいえ、自分の従者に『爆発しなさい』って命令できるパチュリーがちょっと怖いよ。
咲夜とか、お姉様の命令ならそれくらいの事『かしこまりました』の一言でやってしまうそうだけど。
……なんだ、あんまり不思議なことでもないのか。
「私は、パチュリー様にお仕えしてるんです。こんなに愛らしくてかわいい方に仕えてるんですから、えっちぃ妄想くらい自由にさせて欲しいと思うんですよ」
うん、確かにパチュリーはかわいいよね。そりゃあえっちぃ妄想くらい……え? え!?
小悪魔、爆発のしすぎでどっかおかしくなっちゃった?
それまで黙って事の成り行きを見守っていたパチュリーが口を開く。
「却下よ。妄想の中とはいえ、汚されるこっちの身にもなってみなさい。この条件を提示したとき『それくらいなら楽勝です』とか安請け合いしたのは誰だったかしら?」
「いやぁ、まさか自分がこんなにも堪え性ないとは思いませんでした」
それってもしかして。まさか、そんな。
「こ、小悪魔。その制約って」
「はい。今の私は『パチュリー様でえっちぃ妄想をする』と爆発するんです」
目の前が真っ暗になる、そんなしょうもない。
それじゃあ、今日だけで小悪魔は6回もえっちぃ妄想してるのか、己の死と引き替えに。
それなのになんでそんなにも誇らしげなんだろう。パチュリーはあからさまに顔を顰めているし。これは話したくないよねぇ。
「一日に一度も爆発しなかったら制約を解除するって取り決めなんですが、最近ではこんなのもアリかなとか思っています」
アホだ、こいつ。はやくなんとかしないと……。よし、なんとかしちゃおう。
「小悪魔」
「はい?」
「キュッとしてドカーン」
「アーーーーーーーーーーーーーー!!!???」
BOMB!!!!!
ふぅ、すっきりした。パチュリーが驚いて目を丸くしてるけど気にしない。
歪んだ痴話喧嘩に巻き込まれた私の痛みに比べれば、6回が7回になったところで、ねぇ?
結局私から、この二人に言える事は多くないけど。
……お幸せにね。
テンポよく読めて面白かった
こっそり妹様のフェイズ3以降があるのか気になる。
フランちゃんなら爆死余裕です。
きっと制約課せられた瞬間に爆発します。
というかフェイズ3って威力が核兵器級だと思う。
早苗さんとフランちゃんとさとりん限定だが
妹様のきゅっとしてドカーンとパチュリー様の契約魔法でドカーン
どちらも捨てがたい…どっちを選べばいいんだ俺は
俺の嫁を冒頭で爆発させるとは何事だ! くらいの言葉は覚悟してたんですが、まぁセフセフ
フランちゃんの「お願い」はフェイズ6を越えるとR500指定になります
これからも、お付き合い頂ければ幸いです