Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

長き短期決戦

2009/04/26 02:51:11
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ある日の紅魔館。
暇を持て余した主人の思いつきやら居候の魔法使いの実験暴発やらほぼ毎日やってくる泥棒こと白黒魔法使いの相手で日々騒がしいこの館。
しかし、何時もと違って本日は非常に静かな世界が築かれていた。
だが勘違いしないでいただきたい、それは決して平和ということではないのだ。

むしろ、その逆である。

本日、紅魔館当主たるレミリア・スカーレットは強大な敵を目の前に顔を険しくしていた。



「……」



お互い、沈黙したまま無言を貫く。
傍らに待機している咲夜もそれを見据えたまま動こうとしない。

レミリアは、この自分の戦いに着いてくれている従者に感謝していた。
もし彼女がこの場にいなければ、レミリアはとっくに敵に敗北していただろう。
頭に血が上った自分を、何度もその身を挺して止めてくれたのは咲夜である。

あれは危なかった。あの突撃を咲夜が止めていなければ、今頃自分は無様な姿を敵に晒し、プライドをズタズタにされていただろう。
強者を自称する吸血鬼は、こっそりと瀟洒な従者に感謝の言葉を心中で述べた。
しかし、その視線は相変わらず敵へと向いている。


まさかこのような激しい戦いになってしまうとは。
咲夜に聞いたときは大した相手ではないと思っていたが、予想外にこの戦いは厳しかった。
強者同士の戦いは、一秒が物凄く長くなると言うが……これは最早そういった次元の話ではない。
彼女の体感時間は既に五分にも十分にも感じていた。
実際は戦いが始まってから一分少々しか立っていないのだが。


お互い先程から言葉を発しない。
何か言葉を喋れば、それにより気が緩み負けてしまうかもしれないのだ。
自らの言葉で、である。自滅ほど戦いの世で愚かしいことは存在しない。
それだけは何としても避けなくてはならない。
いや、負けること自体が言語道断だ。幻想郷の強大勢力の一つの長たる自分が負けるようなことがあってはいけないのだ。
こんな小さな相手に、負けることは、許されない。


「咲夜……」

ふとレミリアが、自分の心をかき乱さぬよう細心の注意をはらいながら、自らの従者を呼んだ。
この心理戦において、言葉を発することは極度のペナルティを伴う。
実際、従者の名を呟いただけでレミリアの心は大きく乱された。
敵に飛び掛りそうになる自分を必死になだめながら、レミリアは言葉を続けた。

「あと、どれくらい?」

勿論レミリアとて何の考えも無しに自分の不利になるような事をしたわけではない。
この行為がもたらす物、すなわち質問の返答こそが彼女の心にペナルティを補ってあまりあるゆとりをもたらしてくれるのである。
ただし、これは一種の賭けでもある。従者の返答次第では、むしろ彼女は不利になってしまうのである。
すなわち、心の余裕を更に削られるという最悪な事態。
それだけは何としても避けなくてはならない。幸いにも、レミリアには咲夜が自分にとって有利な発言をしてくれるだけの確信とも言える自信があった。

さぁ、言葉を発してくれ咲夜。そしてこのこの私を安心させてくれ。
レミリアは心中で何度も呟きながら咲夜の返答を待った。
しかし、咲夜の返答は、レミリアの予想を見事なまでに悪い方向に裏切ってくれた。


「あと、一分です」

「なっ、まだそんなにかかるの……!」

懐中時計を見て呟いた答えに、レミリアは愕然とした。


まさか、彼女がこの私を裏切るなんて。あの絶対の忠誠を誓ってくれた彼女が。
いや、しかしそれは彼女の責任ではない。彼女は自分に事実を告げたまでだ。
なに、逆に言えばあと一分持ちこたえればいいのだ。
精々あがきなさい、あと一分耐えるだけで私は貴様に勝てるのよ!


無理矢理前向きに考え直し、レミリアは再び敵を見据えた。
物言わぬ敵は何を考えているのか。いや、実際は何も考えていないのだろう。
何も考えていないからと言って油断はならない。
一見レミリアの有利に見えるこの状況だが、既にレミリアの精神状態は限界に近いのだ。
先程咲夜に時間を聞いたのが何よりの証拠だ。
このままでは何時敵に襲い掛かるかわかった物ではない。
たとえそうなったとしてもまた咲夜が止めてくれるだろう。
しかし、単純な力はレミリアのほうが上。もし彼女が本気で咲夜を振り払ってしまえば、最早誰も彼女を止めることはできないだろう。


「ぐっ……」


レミリアの口から思わず呻き声が漏れる。
体が要求している。早くしろ。もういい、お前は十分頑張った。今すぐそいつに飛び掛り喰らい尽くしてしまえ、と。
だが、レミリアはそんな欲望を、自らの大きなプライドで押しとどめた。
ここまで耐えたんだ。あと少し待てばこいつに完全に勝利することができるんだ。勝利に対するその想いが彼女の欲望を押しとどめていた。


聞けば、外の世界の人間達もこの敵を相手に日々奮闘を繰り返しているのだそうだ。
外の世界の人間ごときにできて自分にできないはずがない。
その事実が、彼女のプライドという名の武器を更に強化していった。




カチ、コチと時計が動く音のみが部屋を支配している。
すっかり疲弊しきったレミリアは、ちらっと従者の顔を覗いた。
もう一度聞こうか……。いや、もしもこれ以上悪い報告を聞けば、耐えられる自信はない。
情けない話だが、もうレミリアに耐える力はほとんど残っていないのだ。
普段戦いに関しては恐ろしく強気である彼女が弱気な考えに出ているのが何よりの証拠だろう。

運命操作でもしてやろうか。レミリアはそう思ったが、すぐにその考えを否定した。
この戦いは、運命を弄った程度ではどうしようもできないのだ。
無駄な事をして更に疲弊するくらいなら何もするべきではない。
そう考えレミリアは再び敵を見据えた。



まだか。まだなのか。
レミリアの欲望と疲れは最早限界に達し、プライドという最後の砦を乗り越えようとしていた。
もう、だめなのかもしれない。まさかこんな相手に屈することになるとは……。
レミリアの心中に、敗北の二文字が浮かぶ。あのプライドの塊が、である。





彼女は諦めて敵に手を伸ばそうとした。

その時である。



「お嬢様」

「……!え、な、何かしら」

突如咲夜が声をかけてきた。
時間が来た時か、自分から話しかけた時以外は話しかけるなと言ったはずであるが……。
淡い期待を抱き、レミリアは従者の言葉を待った。

「時間です」

懐中時計に眼を向けたまま、咲夜はそう述べた。
時間。そう、レミリアの勝利が確定する時間が、きたのである。
その言葉を聞いた瞬間、レミリアは頭が真っ白になった。

勝った?自分が?耐え抜いたというのか?あの苦痛の時間を?
そう思うと、笑いがこみ上げてきた。
勝った。自分は勝ったのだ。この強大な相手に、自分は勝ったのだ。

「ふ、ふふふ、アハハハハハ!」

レミリアは勝利の笑いをあげる。
もう少しで負けるところであったが、そんな事は最早どうでもいい。
勝てば勝者なのである。当たり前の事だが、だからこそ彼女が勝利した事は紛れもない事実となる。



ひとしきり笑った所で、レミリアは敵に手を伸ばす。
勝利が確定した今、敵をどうするかは彼女の自由なのである。

「ふふ、今いただいてあげるわ。覚悟しなさい……」
「えぇ、どうぞごゆっくり……」

輝く眼で敵を見据えながら、彼女は敵に手をかけた。



だが、その時であった。





『マスタースパアアアアアク!』


館の外から、聞き覚えのある声と聞き覚えのあるスペルカード名が聞こえてきた。
どうやら、例の白黒魔法使いがまたしても本を借りにきたようである。
だが、今のレミリアにはそんな事は氷精の妖精の知能指数並みに些細なことである。

とにかく、今はこの敵である。
レミリアは今一度、離れた手を敵に手をかけようとした。

だが……。


轟音と共に、館が揺れた。
白黒魔法使いの力任せの巨大光線が、館に直撃したようだ。
これはまた河童か鬼に修理を頼まなくてはならないかもしれない。

レミリアと咲夜がそんな事を考えた、その時である。


ガタガタガタ、ビチャ。


「え……」
「あ……」


その凄まじい揺れに、敵が、倒れた。
そしてその内容物は、テーブルにぶちまけられ、半分ほどが床に落ちた。
幸いテーブルについていたレミリアの服にそれがかかることはなかった。
しかし、肝心のその中身は……。



「わ、私の『かっぷらぁめん』が……!」


それを見たレミリアは、体からへなへなと力が抜けてしまった。
最早食べることは適わなくなった食品。それを見たまま床に崩れ落ちてしまった。

咲夜が人里で見つけてきた外の世界の食品、カップラーメン。
それを懐かしみ、酔狂で買ってきた物を見て、食べてみたいと言ったレミリア。
しかし、そのカップラーメンができるまでの三分間は、とても長く辛い時間だった。
三分など吸血鬼にとっては瞬きよりも少ない時間だ、と甘く見たのが悪かった。
発狂するかと思うくらい短く長い時間を過ごしたレミリアは、遂にその手に勝利を収めた。
そして、後は食べるだけ、となった途端にこれである。



「お、お嬢様……」

崩れ落ちたまま動かないレミリアに、恐る恐る声をかける咲夜。
しかし、突如レミリアは電気でも流れたかのようにグンッと起き上がると、突然笑い始めた。

「ふふ。うふふ。アッハハハハハハ!」

その狂気とも思えるような様子に、咲夜は思わず怯えた。
以前からこのような笑いは何度も見ている。
だが、これは、何と言うか、表現できないような恐ろしい怒りが裏に見て取れる笑いであった。
何より、顔が完全に笑っていない。怒りと狂気に満ちている。


「咲夜ぁ、偶には鼠退治に興じるのも悪くないと思わない?白と黒の鼠を、ね……」


恐ろしき笑いをあげながら部屋を出て行くレミリアを見ながら、咲夜は思った。
恐らく白黒魔法使いは、本日は家に帰れないだろう。
そして……。



「食べ物の恨みは恐ろしい、ですねお嬢様……」
二分五十五秒くらい経った所で「もう食べちゃっても大して変わらないだろう」って思っちゃいますよね。
でもそこで食べたら負けだと思うんですよ。
ちゃんと三分きっちり待ってから食べるのが本当のカップラーメンだと思うんです。

そんなお話。
量産型
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
いやまて、カップ麺のふたを開けるのに5秒くらいのタイムラグがあるはずだ。
ただ、自分の体内時計で2分くらいで開けるから5秒なんて知ったことじゃあないけどねwww
2.名前が無い程度の能力削除
1分ぐらいで開けると固めで美味いのに……
3.名前が無い程度の能力削除
カップ焼きそばは1分前に湯を切ってソースの水分とカップに残った水分を吸わせるのが俺の正義(ジャスティス)

でもカップ焼きそばって、焼いてないよね。
4.名前が無い程度の能力削除
チキンラーメンは湯をかけてすぐに食べるのが俺のジャスティス。
ぶっちゃけ三分も待ってたら伸びてると思うのだ…。
5.名前が無い程度の能力削除
あと1分、のところでようやく分かった。

そうか、謎肉入りヌードルは幻想入りか……
6.奇声を発する程度の能力削除
カップラーメンのお話かwwww
ゴキの話かと思った。

でも自分はあえて4分待つ。
7.名前が無い程度の能力削除
幻想郷じゃあとは妖夢とパチュリーと慧音くらいだろうな、キチンと三分待つのなんて
魔理沙やチルノが三分もおとなしくしてるとは到底思えんw
8.名前が無い程度の能力削除
技術的には、お湯を入れてすぐできるカップラーメンも作れるとか。三分待たせることで食欲を増やすんだそうですよ
ご馳走さまでした
9.名前が無い程度の能力削除
実際カップ麺の待ち時間はまちまちだしね
1分の奴もあればお湯入れてすぐの奴もあるし、5分の奴もある
10.名前が無い程度の能力削除
最初のほうでオチが分かっちゃったけどしっかりとした描写のおかげでつまらなく感じることはありませんでした。どうも
11.名前が無い程度の能力削除
カップラーメンを開発した人は偉大だと思うんだ

しかし「本日は」じゃなくて、もう「永遠に」家に帰れないと思うんだ…