「幽々子」
「んー? にゃあに紫?」
紫が幽々子の元へと遊びに来た。
先ほど、妖夢がお茶を入れに行ったため、今は紫と幽々子だけが居間に座っている。
「幽々子は妖夢を褒めてあげている? 労ってあげている?」
「なーにー突然?」
「最近、外の世界では『褒められないから私はいらないのだろう・主人や上司の我侭に付き合ってられない』とかいう理由で退職することが多いそうよ」
「へぇ、でも妖夢は大丈夫でしょう」
「それはどうかしら」
「え?」
笑顔で返した幽々子に対して、妖しい笑みを浮かべて言う紫。
「妖夢、庭仕事もして幽々子の言いつけとかも守って修行もして、毎日疲れていると思うわよ」
「う……」
「たまに一言でもいいから、労いの言葉や行動をしてあげないと……」
「してあげないと?」
「妖夢、辞めちゃうかもよ」
数秒、沈黙。
「やー!」
幽々子、発狂。
普段、妖夢のことをからかったりしているのに、本心は大切で大切で仕方無いといった感じだ。
とぼけているようで実は全てを見抜く、流水のようなカリスマ性を持っている幽々子だが、妖夢のことになると慌てふためく。
「どうすればいいにょ!? 紫!」
「にょ? まぁ、いいわ。まずは抱き締めてあげたり頭撫でてあげたり褒めてあげたり……」
「わ、分かったわ! 幽々子頑張る!」
「頑張りなさい幽々子。私は邪魔しちゃいけないから帰るわ」
隙間を開き、手を振りながら笑顔で去った。
「あれ、紫様は?」
と、ちょうどそこに妖夢がお茶を持って戻ってきた。
丸い木製のテーブルに、お茶を乗せた盆を置く。
「あの、幽々子様」
「妖夢、ちょっと来なさい」
猫の手で手招きをする幽々子に従い、近寄る妖夢。
距離が十分に近くなった瞬間、
「ひゃぁっ!?」
妖夢は腕を引っ張られ、座っていた幽々子の膝の上に強制的に座らされた。
密着する体、交わり合う視線、伝わる鼓動、突然の状況、全てが妖夢の体温を上昇させる原因となった。
「ゆ、ゆゆゆゆ幽々子様!? 何を!?」
「妖夢、あなたは素晴らしいわ」
「へ?」
「いつも庭を綺麗にしてくれるし、あなたの入れるお茶は美味しい。そして可愛いわ」
「ふぇ!?」
普段、褒められたことがほとんど無く、慣れていない妖夢にとってその言葉は、脳をショートさせる寸前まで追い詰める。
密着した体から伝わる、どこか甘く感じるような香り。幽々子は、左手で抱き締め、右手で髪を撫でる。妖夢は、くすぐったさを感じて少し身をよじる。
「良い子良い子~」
「みぅ……」
妖夢は、子どもみたいに、ただ撫でられるだけで、全く反発はしない。
顔を赤くしながら、脱力し、幽々子の胸に顔を軽く埋める。
「妖夢、――」
幽々子の言葉は、密着している妖夢にしか聞こえない程、小さい声で発せられた。
妖夢はそれを聞いて、
「はいっ!」
笑顔で、そう言ったそうな。
◇◇◇
「こんにちは、お姫様」
「あら、貴女は確か……」
「八雲紫ですわ」
「そんな貴女がどんな御用かしら?」
表面上は穏やかに会話を交わすが、紫を警戒し、いつでも戦闘に突入出来る構えをさり気なくとっている輝夜。
そんな輝夜を見て、紫は笑う。
「何がおかしいの?」
不機嫌そうに、表情を鋭くし、睨む。
「別に戦いに来たわけじゃあないわ。ただ貴女の従者……あれは従者と言っていいのか分からないけど」
「永琳?」
「そう、七意永琳」
「一つ足らないわよ。八意永琳よ」
「そうそう。実は外の世界ではね――」
幽々子にした説明と、全く同じ説明をする。
最初は不機嫌そうに聴いていた輝夜だが、話が進むにつれ、だんだんと慌ててきた。
「や、八雲紫! わ、私はどうすればいいの!?」
「簡単なことですわ」
焦らすように、わざと間を少しだけ置いてから、紫は言葉を発する。
「褒めて、抱き付いたりして、私は貴女が必要なの! ってことをアピールしなさい!」
「わ、分かったわ! 永琳! ちょっと来なさい永琳!」
紫は隙間の中へと消える。
輝夜は、永琳の名を呼び続ける。
しばらくすると、永琳が走りながらやってきた。
「はぁ……なんですか姫? 私は忙し――」
永琳が文句を言い終える前に、輝夜が永琳を思い切り引っ張った。
バランスを崩した永琳につられて、引っ張った輝夜本人も崩れる。
強制的に二人して畳みの上に寝転ぶ。肩が触れ合う程に近い距離。
「突然何をするんですか姫!?」
「永琳! 聞きなさい!」
「は、はい?」
いつになく強い口調の輝夜に、永琳は怒ることを忘れて驚いている。
「永琳、貴女はとても優秀。大好きよ。いつもお疲れ様」
「え、あ、姫?」
「えいっ!」
「きゃっ!?」
横に寝転ぶ永琳に、抱き付く。永琳は普段こんなことをされたことが無いために、不覚にも可愛らしい声を上げてしまった。
ギュ~っと抱き付いて、
「永琳、大好き。ありがとう。良い匂い。本当にいつもありがとう、感謝してもしきれない」
そう呟き続けられる。
八意の家系は天才だから、出来て当たり前、といったように生きてきたため、こういう褒められることや直接的好意を受けることは今まで全く無かった永琳は、顔を真っ赤にし、体をカチカチに緊張やらなにやらで固めていた。
「え~い~り~ん」
「やぅ……」
そんなこんなで、こんな状況が15時間続いた。
◇◇◇
「あー面白かった」
紫は自室で、ゴロゴロしていた。主に時速82キロで部屋をゴロゴロしていた。
今日からかったこと、それを思い出して楽しそうに笑っている。一人で笑っている。ある意味怖い。
紫が幽々子と輝夜に伝えた情報は嘘だった。なんとなく、普段うろたえない二人をからかってみたかったために吐いた嘘だ。
「紫様」
「あら、藍どうしたの?」
そんな中、紫の部屋に藍が真剣な表情で入ってきた。
そして、ただ一言だけ、告げた。
「退職させていただきます」
「…………え?」
ラストは紫色の喉飴噛んじゃったからあれなんですねわかりますー
感謝は言葉にしないと伝わりにくい。紫さんにしてみれば遊びだったかも知れないけど、大切な事ですよね。
オチの紫さんが奥さんに三行半突きつけられた旦那みたいに藍さんに縋り付いている姿を幻視した。
でも確かにたまには誰かに褒めてもらいたいですね~
さすがの蓬莱スケール
ゆかりん、まずは自分が実践しなきゃね!
藍様は従者でなく操られる式神だから退職の自由が無いんだよねw
かわいそうな藍様w
最後幻視できたので、一度で二度おいしかったですw
すんごい勢いでゴロゴロしてんだろうなwwww
めちゃくちゃ悶えました!!!!!
実は妖夢さんと永琳先生は慌てふためいてる主人達のご様子を隙間経由でリアルタイム観賞していて覚悟を決めてお待ちしていたとゆーのにいざ労われるとフルあぅあぅ状態にとか妄想しました。
藍しゃまはゆかりんを褒めちぎって逆あぅあぅですね分かります。
蓬莱人だからって時間の無駄遣いじゃ・・・
このパターンだと咲夜や椛はどうするのか・・・
霖之助や、魅魔様なども見てみたいですw
「八雲藍」は式の名前だし。
いい話でした
気に入って下さった方、楽しんで下さった方、全てに感謝の気持ちを!