紅魔館地下の図書館。そこにはひとつの机につく魔女三人の姿がある。
魔女達は集い、世界の理、魔法の研究成果を語り合う。
そのひとつ、霧雨魔理沙は話を振る。
「私はそろそろ厄の最小単位を決めた方がいいと思うんだよな」
それに図書館の主パチュリー・ノーレッジは応じる。
「単位の名称はストレートに『厄』……だと困るわね。じゃあ電圧の『ボルト』に倣って『厄ルト』とかどうかしら、アリス?」
そこに人形使いアリス・マーガトロイドが見解を示す形になる。
「それだと電圧って『ボ』の単位ってことにならない?」
ないない、と他のふたりは手を振った。
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「知らないのかよ、アリス。『ボルト』は元は人名だぜ」
「知ってるわよ、それくらい。だから『厄ルト』にするのはおかしいっていってるのよ」
するとパチュリーは、ふン、鼻を鳴らす。
「でかい口を叩くじゃないか、未熟者め」
「そのフレーズたまに聞くけど自分を省みる気はない?」
ないね、とパチュリーは紅茶のカップに口を付ける。
同じようにふたりも続く。それが仕切り直しの合図だった。
そして、魔理沙が口火を切る。
「じゃあ何か『厄ルト』に代わるグッドなネーミングプランをサジェストしてくれよ」
アリスが考える。
「そうねぇ。人名、名前ってところからすると……『ヒナ』とかどうかしら?」
「成程、厄神の名ね。――1ヒナ、2ヒナ……いや、1ピナ、2ヒナかな。そして3ビナと続く」
パチュリーは数字を数えて満足そうに笑みを浮かべる。魔理沙も同意し、満場一致で厄の最小単位は『ヒナ』に決定された。音の変化は『匹』に基づく。また、漢字は『雛』を充てることが決められる。
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では、と魔理沙が切り出す。
「1雛って大体どれくらいだ?」
それには、ふたりとも首を捻った。そもそも厄を計測する方法が判らなかった。
とりあえず己の体感雛を話すことになる。
パチュリーは挙手する。
「じゃあ、『魔法書だと思って手に取ったけど開いてみたら実は小説で、しかもかなり鬱なストーリーだったでゴザル』が1雛」
「何よ、結局全部読んだんじゃない。途中で気付かなかったの?」
「いつ主人公がサクセスするのか気になって止められなかったでゴザル」
「で、最後までサクセスしなかったのか。それは厄いな」
三人はその鬱ストーリーに想いを馳せる。
主人公が幸せを掴もうとする度、災難がやってきて主人公を失意の底に落とすのだ。しかし、主人公も諦めず他の道を探そうとする。その健気な姿に読者は手を止めることができず、主人公に感情移入し、だがやはり成功しない。失意の底に落とされ、果ては何をやっても失敗してしまうような感覚に陥ってしまうのだ。
読者はことごとく希望というものを打ち砕かれて、挑戦を恐れ引き篭もってしまうだろう。マジでアーメン。
魔理沙はしみじみ呟く。
「それを1雛にすると何を比べても1割りそうだな」
「確かにね」
「むきゅー……」
パチュリーが読後感を思い出し、俯いてくる。
仕切り直しのため、三人は紅茶を一口飲んだ。
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「じゃあ、魔理沙は何が1雛だと思う?」
パチュリーは尋ねる。魔理沙は、うーん、と考え込む。
彼女の中で不運だが割りとどうでもいいようなことが記憶から思い起こされているのだ。
そして、魔理沙は思いつく。
「あれだ。――立ったままブリッジできるのは1雛くらいだと思うぜ」
「え、出来ないの?」
アリスがきょとんとした顔で他ふたりの顔を見る。対するふたりは複雑な表情だ。
それを確認して、アリスは頷く。
「……出来ないんだ」
「じゃあアリスは出来るのかよ、立ったままブリッジ」
出来るわよ、といってアリスは立ち上がる。机から二、三歩離れて肩幅ほど足を開いて立つ。
「よく見てなさい」
ほ、と短い声を上げ、そのまま背の方に身体を曲げる。
初動は速く、徐々にゆっくりとなる動き。両手を頭の後ろに伸ばし、床を探る。
そして、手が届く。
手の平全体で支える。
アリスの身体は逆U字になっていた。
そして、頭だけがふたりを向き。
「――どう?」
と問うのだ。
「うわあ厄い――!」
「何よその反応!?」
「この画は1雛くらいあるわね、なんか破壊力が」
「不運なもの見たってこと!? 何か精神的にダメージを与えるの!?」
□
「――だから雛は回転数を上げることで厄抵抗を増加させていると考えるんだが。回転数から『イン厄タンス』、それから回転厄抵抗『リ厄タンス』の値が求められる」
「回転厄抵抗『リ厄タンス』は全体の厄抵抗『イン雛ダンス』に含まれるわけね。そうやって厄神は厄に干渉しているのよ」
魔理沙とパチュリーが意見を交わす中。
「……ふうん」
アリスは詰まらなそうに相槌を打つ。
「なあ、何で怒ってるんだよ」
「別に怒ってないわよ」
「眉を立てて『別に怒ってないわよ』っていうものかしらねぇ」
ふたりはアリスの顔を見る。それに気付いたアリスはそっぽを向く。
魔理沙は手持ち無沙汰に自らの帽子をいじる。
「なあ、立ったままブリッジしたのをなじったのは悪かったからさ」
「別にそんなことどうでもいいわよ」
「図星ね」
「違う」
パチュリーは近くの本を開く。まるで関心がないとでもいうように。
雰囲気は険悪だ。
だが、その中で、魔理沙はアリスのほうを向く。
自らの声が彼女に届くように、と。
「私は――アリスのキレ顔は嫌い」
つぶやく。
「――アリスの笑顔が好き」
それにアリスは、ふん、と鼻を鳴らす。
「恥ずかしいこというわね」
パチュリーが顔を上げて一言。
「恥ずかしくない風にいえば――頭にくるからその顔やめろってことよ」
「さっきから一言多い……」
そして、場に静寂が戻る。まるで図書館の闇が彼女のたちの音を溶かしてしまったかのように。
動きが無い。魔女たちが互いに干渉する必要がないとでもいうように。
――それを拒むように、魔理沙は身体をよじる。
そして、口を開く。それが彼女の役目だからだ。
「アリスの怒った顔を見ると、不安になる。どうしようもなく、怖い。だから、嫌」
独白は続く。
「アリスが怒っていると、何でも上手くいかない。こうやって話も進まなくなってしまう。だから、嫌」
魔理沙はアリスを見つめる。
「それはまるで――」
そして、恥ずかしそうに顔を背ける。顔を少し赤くして、いいにくそうにもじもじする。
それでも、いう。言葉にしなければ伝わらない、と。
だから、口にする。
「――1雛くらい」
「ちょっと待って私の感傷返して。というか私が怒るのと立ったままブリッジするのが同じってどういう了見よ!?」
「妥当ね」
「妥当じゃないわよ!」
「アリスが怒ると厄抵抗『イン雛ダンス』がぐんぐん上がる……!」
「ぐんぐん上がる……! とかじゃないから。ねえ何この流れ?」
途端、パチュリーがすっくと立ち上がる。
「判ったよ、アリス。アリスが笑顔になれるように――」
宣言する。
「頑張って立ったままブリッジできるようになるわ」
「私も頑張るぜ」
「ねえ、貴方達が立ったままブリッジできるようになったら私は笑顔になるの? 貴方達の想像力の中で私はふたりのブリッジ見て喜んでるの?」
「お、おおよそ……」
「さっきからもじもじしながら喋るの止めて。というかおおよそって認めるなあ――!」
「でも私あんまり体柔らかくないんだよなぁ」
「私も、小悪魔から体が硬いっていわれててね」
「ちょっと落ち着いてその話を進めない。ほら、紅茶飲んで話をリセット」
アリスの言葉に、三人は紅茶のカップを取って口をつける。
ほう、と息を吐く。
そして、議題が変わる。
その切り出しはやはり魔理沙から。
「でも私あんまり体柔らかくないんだよなぁ」
「私も、小悪魔から体が硬いっていわれててね」
「どうして話題が据え置かれてるのかなあ!」
その日の図書館は、アリスの怒った顔と、残りふたりのブリッジの練習で厄度が3雛だった。
よくもまあインダクタンスやリアクタンスに厄を当てはめたものですね~w
なんか、どうでもいい単位を、勝手に決める本がありましたよね。
あれでも、最小単位の設定に、とても苦労していましたが…
ヤ●ルト見る度に思い出しそうだww
カオスな三魔女楽しかったww
ゆんゆん電波降り注ぎングで、サテラビュー来ちゃいまひゅううう!!