「第三回全国魔法使い会議、開会します」
「おー。んむ、もふもふ」
「(もぐもぐ)」
「えー。この瞬間くらいは手と口を休めてもいいと思うの、私……」
テーブルに並んだ焼き菓子たち。甘いバターの香り。
湯気を立てる紅茶のカップ。小さな砂糖の塊に、ミルクのポット。
テーブルクロスや小物、側に控えるメイド、あらゆる要素において理想的な優雅なティータイムがここにある。
優雅でない要素といえば、この状況に相応しくない魔法使いという単語と、お菓子を競うようにして食べる二人の魔法使いの姿くらいのものだった。
「ま、まあいいわ。とりあえず開会の宣言はしたけど、議題については何も聞いてないから、この先はパチュリー、よろしく」
「ん。お疲れ様。では今回の議題を発表するわ」
じゃん、と小さな声とともに、パチュリーは二つ折りにしていた紙を開く。
・今日のお菓子の紹介
・洋菓子と日本茶の組み合わせについて検討
・魔理沙から新ゲームの紹介
・図書館の延滞金制度導入について
・次回のアリスのお菓子について
「二番目のテーマは重要だぜ」
「あー……えっと、はい」
す、と手を上げるアリス。
「どうぞ、アリス」
びし、と指差して指名するパチュリー。
「えー……」
……
手を上げて、意見を言おうとするものの、アリスはそのまましばらく固まってしまう。
「どうしたの?」
「……どこから手を付けたものかと……」
頭を抱える。
「と、とりあえず全般的なところから」
「どうぞ」
「どのあたりに……魔法に関係が……?」
「ふむ」
「お、このクリーム、今までになかったもったり感だな。これは何なんだアリス?」
「え? それはクロテッドクリームね。スコーンには定石なのよ」
「さすが物知りだなー。うん、美味しい。これはいい」
「あ、ありがとう」
「さて、アリス。貴女はヘンゼルとグレーテルの話を知っているかしら?」
「え? え? えっと、童話よね。それが――」
「どんな話だったか、覚えてる?」
「確か、男の子と女の子が、森の中でお菓子の家を見つけて、入ってみると魔女の家で、魔女に食べられそうになるのよね」
「私がその魔女よ」
「え、本当!?」
「嘘」
「……」
もぐもぐ。
パチュリーは、あら本当、これもシンプルだけどいいわね、と言いながら魔理沙に続いてスコーンに手を出した。
魔理沙は、どうだ凄いだろ、と何故か自分の手柄かのように嬉しそうに言いながら、紅茶をすすって、少し顔をしかめた。やっぱり私は緑茶のほうがいいぜ、と呟く。
手を前に伸ばしかけた状態で止まっているアリスに向かって、パチュリーは声をかける。
「さて議題に移りましょうか」
「え、しかも今の、私の質問にまったく関係なし?」
「今日のお菓子の紹介だけど、さっそく一つあったわね。スコーンは私も知っているわ、イギリスの代表的な」
「え、ええ。そうなんだけど。魔法は一切関係が」
「いいのよ議題なんて何でも。アリスのお菓子を食べて一緒に遊ぶのが目的なんだから」
「思わぬぶっちゃけ!?」
「今日はイギリス風で統一してるんだな。さすがアリス、凝ってるぜ」
「うん、ありがとう。結構好きなのよ、カントリー風」
「だから今日はサンドウィッチもあるのね、珍しく」
可愛らしいバスケットに小さなサンドウィッチ。
いつもにはあまりない、軽食つきだった。
「そういえばサンドイッチはやっぱりサンドイッチ伯爵からなのか?」
「砂と魔女以外は何でも食べられるという意味だっていう説もあるわね」
「その魔女もパチュリーだって言うんじゃないでしょうね」
「まさか。サンドウィッチ伯爵は私の親戚よ」
「そうなの!?」
「嘘」
「……」
「さて緑茶派の私の出番なわけだが」
「私とアリスは紅茶派。2:1で紅茶の勝利。以上」
「いや待てちょっと待て終わるな」
二杯目以降は魔理沙にだけ、緑茶が出されている。
紅魔館で緑茶を飲む人(妖怪、妖精)は一人もいないため、完全に魔理沙のためだけに準備されている緑茶だった。
「お菓子は洋菓子を受け入れる割に、お茶はダメなのね」
「基本的には和食派だからな」
「それなら和菓子を食べていればいいのに」
「アリスのお菓子だから好きなんだぜ」
「んぶっ」
突然話を振られたアリスが、紅茶を吹きそうになっていた。
「あ、う? えっと、あ、ありがと、魔理沙?」
「あらそう。咲夜がケーキ焼いても食べないのね、魔理沙。残念だわ」
「あ、いや……食べないとは言ってない」
「呼びましたか?」
「ぬあああほっ!? だ、だだ、だから唐突に現れるな、お前はっ!! 名前を呼んだらどこでも召喚されるのかよっ」
「街中でも、ベッドの中でも、お風呂の中でも、賑やかなパーティでも、一人寂しい夜でも、おはようからおやすみまで、いつでもどこでも」
「……人間だよな?」
「定義的には、一応」
「で、最近霊夢からもらった面白そうなゲームがこれだ」
「んー……すごろく?」
「似たようなもんだが、もっと奥が深い」
魔理沙が広げた厚い紙には、多くの升目があった。多彩な絵、模様、文字が描かれている。
「お金を稼いだり、土地を買ったり、お金を借りたり、建築したりして、最終的に金持ちになったら勝ちのゲームみたいだ。プレイヤー同士の交渉もありらしい」
「資本主義を勉強するための教育用ゲームかしらね」
「お、なるほど。向こうじゃそうやって使われてるのかもな」
「……難しそう」
「ゲームはゲームだ。やってみたらなんとかなるだろう」
……
……
……
「いっちばーん!」
魔理沙がぐっと指を突き上げる。
最初は誰もが手探り状態で大した差はなかったが、終わってみれば魔理沙の圧勝だった。
パチュリーは速攻で沈んで、アリスは健闘はしたが途中から完全に力負けだった。
「わかったことが二つあるわ」
パチュリーが、落ち着いた声で言った。
「なんだなんだ?」
「一つ、負けると物凄く悔しい」
「そうかそうか。私は今とても上機嫌だ」
「二つ、資本主義は遠慮なく奪うもの勝ち」
「あ、そういうの負け犬の遠吠えって言うんだぜ?」
「そう。ついでに負けるが勝ちって言葉は知ってるかしら」
「そりゃあもちろん――って、ああっ! いつの間にかこのあたり一帯のケーキが消えているっ!?」
「オレンジ風味のスコーンにショートブレッド。ごちそうさまでした」
「全然気付かなかったなんて……不覚だ……」
「わかったこと三つ目。夢中になるゲームね」
「延滞金について」
「私とアリスは反対。2:1で否決されたぜ。おめでとう」
「――なんて勝手なことを言ってる子がいるけど、どうなの、アリス?」
「私は、ちゃんと期日通り返してるからあんまり関係ないけど……」
ちら。
魔理沙は涼しい顔をしている。
「今のお菓子の分で延滞金はチャラだ」
「もともとアリスが作ったものでしょうに」
「アリスの好意を受けているのはお互い様だ。とりあえず私の件は、アリスに免じて許してやるといいと思うぜ」
「――アリス、しつけはちゃんとしておかないとダメよ。飴ばかりじゃなくて鞭も使わないと」
「しつけって。ま、まあほら、本はできる限り返させるようにしてるし、私は私で魔理沙にはいろいろお世話になってるしね」
「そうやって甘いからダメなの。必要だったら皮製のしっかりした鞭を貸してあげるから使いなさい」
「物理的な意味で!?」
「私が言っても一切気にしないくせに、貴女から言ってもらえたら割と素直に返すんだから、この子……」
「え?」
「……いや、そんなことは」
「……」
少し気まずそうな魔理沙を見て、アリスのほうが少し恥ずかしくなるのだった。
「さて、最後は次回のお菓子について」
「よし、ここからが本番だな」
「次はイタリア風なんてどうかしら」
「いいな。イタリアって言っても色々だから地中海風ってところか?」
「素敵ね。今にも海とチーズの香りが漂ってきそう」
「あとオレンジとかな」
「急に二人の息がぴったりー!?」
あなた様の書くパチュリー、アリス、魔理沙は私にとって憧れです!
これに懲りて、次回からはお菓子無しで……とはならないだろうなぁ。
借りっ放しだと猫耳が生えて来たり、体が小さくなったりする呪いを、
全部の本にかけておけば良いと思うんだ。
いや本当にこの順番で読んだんで、タイムリーすぎて吹いたw
とりあえず今丁度「一人寂しい夜」だから来(ry
しかしチーズと海の香りのするお菓子ってどんなだろう。
二人の漫才が見てみたいw
三魔女の会話面白すぎ