スキマ妖怪が言った。
外の世界では十二月二十五日には自分にとって特別な存在の人と一緒に夜を過ごすのだ・・・と。
その話はあっという間に幻想郷中へと広まった。
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十二月二十五日。クリスマス当日。
「ジングルベール、ジングルベール、弾がー飛ぶー♪」
楽しそうに歌を口ずさみながら掃除をする鈴仙。よほどクリスマスが楽しみのようだ。
「随分楽しそうだねぇ、鈴仙ちゃん」
「そりゃそうよ、クリスマスって本で調べてみたけどすごく楽しいじゃない?いい子にしているとサンタクロースっておじいさんがプレゼントくれるんですって!」
興奮してそんな風に熱く語る鈴仙。その瞳は無邪気な子供のそれに似ている。
「よーし、掃除終わり!それじゃ早速クリスマスパーティーの準備をしなくちゃ!師匠に相談してこようっと・・・」
そう言うと、スキップしながら行ってしまった。
「(あーあ、あんなにはしゃいじゃって・・・あまり期待しすぎてると受けるショックは大きいのに・・・まぁ面白いからいいけどね)」
と、てゐはにやけた。
「クリスマスのパーティー?しないわよそんなの」
いきなり玉砕した。
「な、なな、なんでですか!?あれですか!?うちは『ぶっきょう』だからですか!?『きりすときょう』じゃないからですか!?」
すごい剣幕で迫る鈴仙に永琳も若干押され気味である。
「いや、そういう事じゃなくて、今夜は私も姫も用事があって出かけるのよ。別にダメっていうわけじゃないからやりたいならあなた達でやりなさい」
「うぅ・・・わかりました・・・」
用事があるのでは仕方がない、てゐや兎達と楽しもう。と、思って今度はてゐの所へと向かった。
「悪いけど無理」
「なんでよっ!?」
これまたすぐに玉砕した。
「あのスキマ妖怪さんのおかげで今日は儲けるチャンスなんだよ、そんなわけで私達は人里に繰り出すから無理」
と、言うわけでてゐは兎を率いてさっさと行ってしまった。
[「うぅ・・・何よぉ・・・皆揃って冷たいんだから・・・兎は寂しいと死んじゃうんだからね!」
ちなみに実際はそんなことはなく、逆に縄張り争いが激しいらしい。
「いいわ・・・だったら私が皆が羨むような素敵なパーティーを開いてやろうじゃない!」
そう意気込んで鈴仙は幸せなパーティーを開くべく、行動を開始した。
「やっぱりまずは料理よね。・・・普段は師匠や姫が作ってくれてるけど、私だってやるときはやるんだからっ!」
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さて、そんなわけで様々な料理ができたわけだが・・・
決して食べれないわけではない、ただ、全体的に焦げが目立っていたり、味付けがイマイチだったり・・・
いっそあまりにも酷い生物兵器でも生み出せばネタの一つにもなるだろうが、そこまで下手じゃないというのがこれまた中途半端で虚しい。
「で、でも私でも完璧に作れた料理があるわよ!」
・・・餅。
「餅だけこんな上手に作ったところで何ができるっ!もっとこうお洒落な料理が欲しいのよっ!!」
さっきから鈴仙の独り言だけが虚しく部屋へと響いた。
「・・・ここはやはり、人材集めから始めるべきね!」
そう言うが早いか、鈴仙は永遠亭を飛び出した。
「というわけで、やってきました」
「お引き取りください」
即答してさっさと行こうとする妖夢の腰に鈴仙がしがみついた。
「待ってぇ!」
「も、もう!帰ってください!今日は幽々子様がお出かけになっているので今のうちに自室の整理とかしたいんです!今年ももう残りわずかですし」
「そう!残りわずかだからこそ思い出を作るべきだと思うの!」
と、どちらも食い下がらない。
「このままでは埒があかないわ・・・これだけは使いたくなかったけど・・・狂気の瞳発動!!」
「なっ!?」
「鈴仙・優曇華院・イナバが命ずる、魂魄妖夢よ、お前はパーティーが開きたくてしょうがなくなるっ!!」
鈴仙の眼が紅く光る。すると妖夢は固まって動かなくなった。
「さて、妖夢。一緒にパーティーを開きましょうか」
「はいっ!喜んで!」
これで本当にいいのだろうかと疑問に思うところはあるが、何はともあれ、これでまず一人メンバーを集めた。
さて、次に向かった場所はというと。
「あら、鈴仙さんに妖夢さん?」
「こんにちわ、早苗。実はかくかくしかじかで・・・」
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「へぇ、面白そうですね、うちも神奈子様と諏訪子様がお出かけになられて退屈していたんです、ぜひ参加させてください」
「さて、積極的に協力してくれる仲間ができたことだし・・・」
鈴仙は妖夢にかけていた洗脳をといた。
「ハッ!?・・・鈴仙さん酷いじゃないですか!」
「うん、ゴメン。正直やりすぎたわ。もう無理強いさせないから帰ってもいいわ」
そう鈴仙が言うと妖夢はきょとんとした顔をした。
「え・・・?本当に帰っちゃっていいんですか?」
「えぇ、部屋の整理とかあるんでしょ?それならしょうがないわ」
そんな風に言っていると、妖夢が何やらもごもごと呟いた。
「べ、別に絶対に今日やらなくちゃいけないってわけでも・・・」
「そんなに気を使わなくてもいいよ?」
「あ、あれです!二人だけでパーティーの準備をするのは大変でしょう!私も協力してあげますよ!忙しいですけど、特別ですよ!」
と、顔を真っ赤にして言う妖夢。その様子を見て鈴仙と早苗は思わず顔がにやけた。
「これがいわゆるみょんデレってヤツですね?」
「そうね、みょんデレね」
「みょんなこと言わないでください!」
何はともあれ、妖夢と早苗という心強い仲間を味方につけ、鈴仙は永遠亭へ戻ることにした。
永遠亭に戻ってきた一行は、それぞれクリスマスの支度をすることにした。
妖夢と早苗が料理をし、鈴仙が内装を担当した。
「それでは私がケーキや七面鳥を担当しますね、妖夢さんは他の料理をお願いします」
「わかりました」
と、手際よく二人は料理を作っていった。
料理が一段落した二人は部屋の装飾をしている鈴仙の様子を見に行った。
「あ、二人とも、丁度今内装が終わったとこよ!」
楽しそうにそう言う鈴仙。部屋中とても可愛らしく装飾されている・・・が、
「・・・えーっと」
何故か部屋の中心に大きく構えた竹。可愛らしい飾りや短冊が飾ってある。
「へぇ・・・これがクリスマスツリーっていうやつですか?なんだか七夕みたいですね」
「いや!違うから!こんなのツリーじゃないから!バンブーだから!」
少し前まで外の世界で普通にクリスマスを過ごしていた早苗には許せなかったようだ。
「いやぁ、実際クリスマスツリーっていうのがよくわからなかったからとりあえず竹で作ってみたわ」
「まぁまぁ、これはこれで素敵じゃないですか」
何はともあれこうしてクリスマスパーティーが始まった。
苦労人が集まると、話の話題というのはやはりそういう話になってしまうもの。それぞれの苦労話や愚痴などを互いに話して盛り上がった。
そして、それはパーティーも佳境に入る頃に起こった。不意に鈴仙がポロポロと涙を零して泣きだしてしまったのだ。
「どうしたんですか!?」
「うぅん・・・なんでもないの・・・ただ、ちゃんとパーティーが開けて嬉しくて・・・気が緩んじゃったみたい」
「そういえば、今日の鈴仙さんは何だかいつもと違っていましたよね・・・普段はもっと冷静で大人って感じなんですが、今日はすごく感情的な気がします」
「クリスマスに何か思いいれがあるんですか?」
二人が不思議そうに尋ねてきたため、鈴仙は苦笑しながら話しはじめた。
「別にクリスマスだからってわけじゃないんだけどね、こういう行事とか、大切にしたいの。・・・思い出をね」
「思い出・・・?」
「えぇ、この幻想郷には様々な種族がお互いに共存して生きている。種族が違うということはそれぞれ生活習慣や寿命が違うということ」
鈴仙の言葉を二人は真剣に聞き入った。
「自分よりも何百年も早く死ぬ人、自分よりも何千年も長く生きる人、・・・死ぬという概念がない人。そんな人達と付き合っているとついこんな風に思うことがある・・・」
一息ついてさらに言葉を紡ぐ。
「私は、その人達と一緒にいた事を証明できるのか。私は去ってしまった人達をずっと忘れずにいられるのか、私がいなくなったとき、残された人は私のことを覚えていてくれるのか。だから私はそういう焦りや不安を皆と思い出を作ることで取り除こうとしてるのね、きっと」
「確かに、思い出を作ることはいいことだと思います。でも、その考えは少し違う気がします。未来に縋る思い出なんてつまらないじゃないですか、今を一生懸命生きればいいんですよ」
「そうですね。私達が築く関係は、そんな簡単に忘れられるものじゃないと思います。例え記憶から消えても、心のどこかで未来永劫、ずっと繋がっているはずです」
二人の言葉に鈴仙は思わず感嘆した。
「凄いのね・・・私よりも生きてきた時間が短いのに、二人とも私なんかよりしっかりとした考えを持ってるなんて」
「短いからですよ。生まれて過ごしてきた時間も、これからの時間も鈴仙さんに比べたらあっという間です。だからこそ、今を無駄にできないんです」
「そうですよ。さぁ、暗い話はここまでにしましょう。折角のクリスマスパーティーなんですから。楽しみましょう・・・今、この時間を」
「えぇ、そうね」
こうして、三人の楽しそうな声が聖夜に響いた。
~END~
うどんげなら俺と一緒にクリスマス過ごしたけど・・・
3人でパーティーというのも少し寂しい感じもしましたね、もう少し登場人物増やせばよかったかなぁと少し思いました。