この文章は
・一部オリキャラ(門番隊)
・少々の俺設定
・百合
でお送りいたします。
神社での宴会も佳境に来ていた。
鬼や天狗などは相変わらずガバガバと酒を煽っているが、それら以外は飲むペースも落ち、それぞれが小ぢんまりとしたサークルでお喋りを楽しんでいる。
ふと、彼女のことが気になった。
自らの主に席を外す旨を言い、彼女を探す。
いつもは職業柄、中々宴会などにはこられない彼女だが今回は主の勧めもあって一緒にやってきた。
最初は一緒に食事などを作る裏方へと回っていたのだが、時が経つにつれ彼女の役回りもあやふやになり見失ってしまっていたのだ。
「あ……」
見つけた。多分あの樹の幹に寄りかかっているのがそうだろう。髪が風に揺られている。彼女の紅くて長い髪は遠目からもよく映える。話し相手は……永遠亭の月兎と白玉楼のお庭番か。珍しい顔合わせだが何を話しているのだろう?
彼女の声は良く通る。鈴の音が響いているみたいに――――
『うーん……正直にいうと……私と咲夜さんの相性ってあんまり良くないと思うんだよねぇ』
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「………………」
「…………咲夜?」
「っ――」
どうしたの?と心配そうに目を覗き込んでくる主、レミリア・スカーレットに十六夜咲夜は時を止めて一歩さがって、深呼吸をした。
「はい。いかがなされましたか?」
なんとか落ち着いた声音になっていただろう。
「いや……どうかしたのかな、って」
怪訝な顔で見てくるレミリアに、咲夜はどこかに自分のミスがないかを瞬時に探し、
「あ」
自分のミスを見つけた。彼女が持つカップには何も入っていなかったのだ。
「恐れ入ります」
す、と時を止めてまだまだ熱い、けれど主の舌にあった温度の紅茶を注ぐ。
レミリアはありがとう、と気品溢れる笑みでそれを口に含んだ。相変わらず良い出来だ。
「昨日の宴会は、楽しかったわね」
「そうですね。相変わらず騒がしかったですが」
あの瞬間のことは隅っこにおいて。
「途中からパチェが変な詠唱を唱え始めてたけど」
「何かの実験だったらしいですよ」
「宴会にまで行ってやることなのかしら……」
レミリアは親友である魔女、パチュリー・ノーレッジを思い浮かべる。彼女は詠唱が終る前に飲みすぎか貧血かで倒れてしまったが。
「そういえばあのあとに美鈴は見つけたの?」
「えぇ、永遠亭の月兎と白玉楼のお庭番と話しておりましたわ」
きし、と目に見えない何かが空間を走る。それは無意識に出た何かを拒絶するような閉ざされた意思。レミリアはその気配に気付いてこの話題を打ち止める為に紅茶を一口啜る。
今の会話で、何か彼女の機嫌を損ねるものがあったのだろうか。
(あいつぐらいか)
ぽややんとした笑顔の門番を思い浮かべ、佇まいを崩さない彼女を見て小さくため息をつく。
「ん……じゃあ咲夜、仕事に戻っていいわよ。私はパチェの所にでも行くから」
「はい。紅茶の方は」
「小悪魔に入れてもらうわ。大丈夫よ」
畏まりました、と咲夜は綺麗なお辞儀をしてレミリアの部屋から退出する。
さて、運命は彼女たちをどうするのだろう?
「とりあえずパチェに相談ね」
レミリア・スカーレットは外の天気のように晴れやかな足取りで図書館へと向かった。
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(……咲夜さんが来ない……)
門の前でいつものように居眠りをしていた彼女は自然に目が覚めて違和感を覚える。
いつもなら自然に目覚めるなんてことはないのだ。居眠り中に限ってだが。
(ナイフ……刺さってないもんね……)
自分の頭部を軽くさする。何も問題はない。痛みを忘れていたということはないのだろう。というかそこまで鈍くない。
昨日の宴会を考慮してくれたのだろうか?あまり自分は酔っていないと思っているが――
「でもそうだったらシフトを休みにしてくれそうな気もするけどなぁ」
呟いて空を仰ぐ。いい天気だ。
(そういえば昨日の宴会終った後、咲夜さんちょっと様子がおかしかったな)
ほろ酔い気分で変なことでも言って怒らせてしまったのだろうか?
それとも二日酔い? 彼女に限ってそれはないだろう。
一度心配になると彼女のことから中々抜け出せなくなる。
(あ~~~~~~~……)
頭をガシガシとかきながら時間を確かめる。いい具合に一時間後は少し遅い昼食の時間だ。咲夜もメイド長という仕事柄、大体この時間に食事を取っている。そしていつからか一緒に食事を取るのが暗黙の了解となっていた。
その時に彼女に何かあったか聞いてみよう――そう心に決めて紅魔館の門番、紅美鈴は再び居眠りを始めるのだった。
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「あ!」
「あ……」
美鈴は運がいいと思った。
咲夜は運が悪いと思った。
「咲夜さん!」
「美鈴……」
パタパタと軽やかな足取りで咲夜に向かう美鈴。
「良かった……体調は良さそうですね!」
「は? 何のこと?」
「あ、いえ……今日は門に来なかったのでちょっと……」
「別に私が行かなくても……もしかして貴方また居眠りしてたの?」
「まさかまさか!」
ニコーと笑う美鈴。顔が引きつっている。彼女はこういう嘘が付けないのだ。長い間――といっても数年だが――傍にいたのでよくわかる。
「まぁいいわ。じゃあやることあるから」
これで、と最後まで言い切ることなく咲夜は美鈴の前から姿を消す。美鈴が「あっ」と思う間もなかった。
「やっぱり変な事言ったのかなぁ?」
美鈴は首を傾げつつ最近を振り返りながら食堂へと向う。
食堂に着いて、無意識に二つのコップを用意していた自分に苦笑いしつつ席につく。
今日のテーブルはいつもよりやけに広かった。
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相変わらずの笑顔を向けてくる彼女に胸が踊り、それ以上に痛む。冷たく凍った刃で胸を切り裂かれているような鋭く熱い痛み。
彼女の笑顔を見るたびに、あの時の言葉を思い出す。
『私と咲夜さんの相性ってあんまり良くないと思うんだよねぇ』
自分ではいい関係を築けていると思っていた。けれど貴女はそうではなかったのか。
独りよがりだったのか。あの時、貴女が言ってくれた暖かい言葉は嘘なのか。
『あまり良くない』
そんな曖昧な言葉、ききたくない。いっそのことはっきり言ってくれればいいのに。
『相性は悪い』
自分で勝手に考えて勝手に泣きたくなるなんて、馬鹿だと思う。
「美鈴……」
正直、こんなにも彼女が自分の心を支配しているとは思いもしなかった。
「美鈴……」
『咲夜さん――』
笑った彼女は自分より長生きしていると思えない幼く無邪気な、でもとても綺麗な笑顔で。
その笑顔に惹かれて、気付いたら彼女自身にも惹かれていた。惹かれていたことはつい今しがた気付いたのだけれども。
相性がよくないというのなら、貴女が辛いのなら、いっそのこと話しかけないで、笑いかけないで――
「…………馬鹿じゃないの……ホントに……」
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「…………………………」
「…………隊長、起きてください」
「…………………………」
「寝たふりしてもダメです」
美鈴はパチ、と目を開けて隣を見る。
「おはよ。副隊長」
「もう少しシャキッとしてください」
肩を回しながら美鈴はそれに答える。
「咲夜さん、来なかった?」
「メイド長ですか? 来てないですよ」
そっか、と返事を返し身体を思い切り伸ばす。咲夜とまともな会話をしなくなって三日が過ぎた。
「メイド長となんかあったんですか? まぁその調子だと何かあったらしいですが」
「……多分」
「多分って……」
「わからないのよねぇ……何があったのか、何をしちゃったのか」
空を仰ぐ。今日もいい天気だ。
「だからっていつもよりサボりすぎですよ」
「んー……? 押してだめなら引いてみろってね」
あの昼食の一件以来、彼女に幾度と話しかけようとしたがうまい具合に逃げられた。だから今は押してだめなら引いてみろ、とのことでこうして居眠りに励んでいたわけだが。
「しっかし……あんなにすんなり寝れたのが吃驚するほど寝れないね」
そういって笑う。いつものような笑顔だが、いつものような快活さはない。
「ってゆうか本来は寝ちゃいけないんです」
副隊長が深いため息をつく。どっちが上司なのかわからない。
「わかってるわよ……」
ふー、と美鈴も大きな息をついた。どうも最近本調子でない。
レミリアにもそれとなく相談してみたのだが貰えた言葉は『自分で考えろ』のみだった。
「最近夜ちゃんと寝てますか?」
「寝てるような、寝てないような」
「休憩時間は?」
「咲夜さん探しててあんまり」
「ご飯……」
「あんま食欲わかなくて」
お互いに深いため息を付く。そして向かい合って苦笑いをした。
「ごめんね」
「いえ。でも流石に隊長でもこれ以上は」
「う~ん……なんか最近だるいのよねぇ……」
妖怪といえども、源であるエネルギーを補給できなければそれは死活問題となる。今まで何度か睡眠も食事も取らずに門を幾日を過ごしたことはあったがここまで酷くなかったような気がする。
「……隊長の代わりに私がシフトに入ります」
「え? あ、いやいいわよ大丈夫よ」
「隊長」
スッと彼女は背筋を伸ばし、もう既に警備の体勢に入っている。こうなったら彼女は言うことを聞か
ないのを美鈴は良く知っている。
「押してだめなら引いてみろ、と言っていましたけど、どっちもダメなら辺りを回ってみるのもいいかもしれませんよ?」
「ん?」
「案外、近くに秘密の扉があるのかもしれません。そしてその扉は鍵が掛かってないかもしれませんし、もしかしたら扉を開ける鍵が近くに落ちているかもしれない」
「…………そうだといいなぁ……ありがとね」
どういたしまして、と彼女は美鈴を館の方へと案内する。
「ちゃんと仲直りしてきてくださいね? でないと私が休めません」
「あは、そうだね。ありがとう!」
美鈴は館へ向かう。大切な彼女の扉を開けるために。
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
「あ!!!」
「あ……」
美鈴は己の運の良さに感激した。
咲夜は己の運の悪さに恐怖した。
「あ!咲夜さん!ストップ!」
くるり、と背を向けてその場から離れようとした咲夜を慌てて引き止める。けれど彼女は振りむかない。
このままではまた時を止められてそのまま終ってしまうかもしれない。しかし、そんなこと――
「咲夜さん!門番隊のシフトについてご報告です!!!」
ビクリ、と咲夜の肩が動く。彼女の仕事柄、こういうことはきちんと報告しなければならない。つまり、彼女は美鈴の話を聞かなければならない。
こちらの思惑通りに動いた。
そろそろと首をこちらに向けて彼女は恨めしそうな――苦しそうな顔をする。
「なに?」
「ここじゃあれなので私の部屋か咲夜さんの部屋で」
「私まだやることが――」
「私があとで手伝います」
固まっている彼女の手をぎゅっと掴む。時を止められても離されないように。
「っつ――痛いわ……」
「話、聞いてもらえますか?」
押しても引いてもダメで、周りを探索してみる。冷たい小さな扉がそこにあったが鍵が掛かっており頑なに
閉じていた。だから鍵を探したいが鍵を探す時間もない。だったら、
「……わかったわよ。じゃあ貴女の部屋で」
中の人に、開けてもらうしかないじゃないか――
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「紅茶か何か飲みます?」
「別にいいわよ……それより用件は?」
とりあえずベッドに座らされ、紅茶を飲むか飲まないか聞いてきたのでそれを断った。なのに彼女は紅茶作りを止めようとしない。
(だったら最初から聞くなっていうのよ……)
紅茶など飲んでいたら彼女と居る時間が長くなる。それは避けたい。今同じ空間に居ることが苦痛であり、幸せだった。
(いつの間にこんな弱くなっちゃったのかしら)
美鈴の部屋へ来ると自然と落ち着く自分が居る。数年前、この館の主を狩りにやってきてから返り討ちにされて、気付いたら彼女が自分の教育係と世話役になっていて、暫くは監査と言う形で美鈴お部屋に一緒に住んで――
全てが懐かしい。思いが溢れる。
(うまくやっていけると思ったんだけど)
現実はそううまくいかないものらしい。頑なに心を閉ざした自分の心を開けてくれたのはレミリアと美鈴だ。特に美鈴がくれた愛情は暖かく、忘れ難かった。
しかしそれは全てこの館に適応できるための準備だったのだ。美鈴は嫌々ながらもおままごとのような世話に付き合ってくれたに違いない。
ぐ、っと気持ちを抑える。皺になるのがわかりながらもスカートの裾をぎゅっと握った。
「お待たせしました」
ハッと慌てて時を止めて深呼吸する。そして
「えぇ」
会話を開始する。あくまで他人のように、何も考えずに。
「適温だと思うので。咲夜さん猫舌でしたよね?」
「そんなこと……まぁありがと。それでシフトって?」
「あ、はい。私が離れるシフトなので申し出が必要かな、と思いまして」
「うん。それでそれはいつなの?」
「今です」
「は?」
今までなるべく顔を合わせないようにと俯きがちだった咲夜の顔があがる。すると自然と美鈴と目が合い、彼女は笑った。
「だから、今、です。今この時間は副隊長が門番隊隊長代理です」
相変わらず綺麗な笑い方をする彼女だが、少し明るさが足りないような気がする。
「それだけ?」
「はい。シフトに関しては」
「それだけならこんなことぐらいだったら呼び出さないで」
「そうですね。でも」
先ほどと同じようにぐっ、と咲夜の手首を掴む。
「これからは、個人的な話です」
「なに?そんなの後に――」
「後っていつですか?」
「は?」
「三日前、話しかけた時に『後にしてくれ』って、言いましたよね?」
「あ、あれは少し忙しくて」
「本当ですか?」
いつも柔和な彼女が久方ぶりに怒っているらしい。その声は少しの棘が入っていた。
「本当もなにも、仕方ないじゃないこっちは忙しいのよ」
「でも結構ボーっとしてましたよね? 私が寝ててもこっちまで見回り来ませんし」
まさか、見られていたのだろうか? 咲夜は美鈴を再び見やる。
美鈴は咲夜の心を察してか『気を使ってみました』と答えた。思わずカッとなって彼女の手を振り払う。
「なによ、私が見回りとか行かなくても――」
「咲夜さん」
咲夜の言葉を遮る。
「……なに?」
「私、貴女に何か酷いこと……しましたか?」
いつもは快活さに溢れるその顔が、今は暗く、涙を堪えているようなそんな顔だった。
「め――」
「どんなに考えても、何も思いつかないんです。自分のしたことを覚えていないのに、謝るのは失礼かもしれません。だけど、私は貴女に謝らないといけない」
「美鈴」
「だって、だって私は、咲夜さんのそんな辛そうな顔は、見たく……ありません」
頬に一筋の光が流れる。
「美鈴……」
「ごめんなさい、自分勝手ですけど……咲夜さんと会えなかった三日間、ずっと……寂しかったんです」
「……わ、私は……」
自分も同じ気持ちだ、そう言えば楽になれるだろう。けれど言えないのはあの宴会の時の言葉。胸が否応なしに締め付けられる。
不意に美鈴が口を開いた。
「だから、私は少しでも貴女の傍で、貴女の笑った顔が見たい。貴女に幸せになってもらいたい」
いつだったか、彼女が『幸せになる』おまじないを教えてくれた。それはとても単純で、でも実はとても難しいおまじない。
『笑ってればいいんですよ。私は咲夜さんに笑いかけます。だから、咲夜さんも笑ってください。私に笑いかけてください』
「いつものように私に笑いかけて……くだ、さいぃ」
ポロポロと美鈴の目から涙が零れる。思わず思考が停止した。
彼女は、自分のことを嫌っていたのではないか? 胸が締め付けられる。息を吸うのが苦しい。どうして泣くの? 泣きたいのはこっちだ。
そんな顔をさせたくないのは自分も同じなのだから――
「美鈴は……私が嫌いなんじゃないの?」
「………………は?」
「私だって、貴女に会いたかった。だけど、貴女はそれを嫌がって」
「ちょ、ちょっと待ってください!何かがおかしいですよ!」
予想外の咲夜の言葉に美鈴の涙も止まる。そもそも自分が咲夜を避けた記憶など全くない。
「貴女が宴会の時に喋っていたのを聞いたのよ。その……私とは相性が悪いって」
美鈴は一瞬呆けて目頭を擦りながら頭をフル回転させる。思い出すのは宴会、お喋り、咲夜さんと私――
「あ」
ビクリ、と美鈴の思い出した声に咲夜の肩が跳ねた。
「だ、だから私は――」
「ち、違います!あれは、その咲夜さんとの相性じゃなくて!」
慌てて取り繕うとする美鈴を見て何故か微笑みが零れた。それに今更だ。もう心の内をあけたせいか、変な覚悟は出来ていた。
曖昧な関係を続けるよりかははっきりさせた方がいいに違いない。
「あ、いや、咲夜さんとの相性なんですけど……あれは戦う場合のであって……」
彼女と良い関係を築けなかったのは自分のせいであろうし――って、
「は?」
「ですから、私の能力だと相手の気配を察して攻撃できるんですけど、咲夜さんは時を止めちゃうから、そのどうしても後手に回りやすいから……相性悪いなぁ……って」
あまり接近戦等はやらないのでわからないが、そういうものなのだろうか?
「あのぅ……咲夜さん?」
「……それってつまり?」
「……私……は咲夜さんとの相性はバッチリだと……思ってたんですけど……」
気まずさからか、視線をうろつかせていた美鈴だったが、やがて呆けている咲夜の目を見て、微笑んだ。
彼女の笑顔を見られるものはきっと幸せに違いない。
あの胸を貫いていた氷刃が彼女の笑顔の前で緩やかに溶けていく。
「あぁ……なんだ……」
氷が溶けていくのと同時に思いが溢れ出す。しかし彼女に言いたいことは山ほどあるはずなのだが、言葉が出てこない。
「そっか」
勘違い。なんて無様で身勝手な勘違いだったんだろう。彼女の気持ちを決め付けて、自分の気持ちさえも凍らせてしまった。氷の刃は、自分の心から生まれたものだった。
不意に目頭が熱くなる。思わず彼女の肩に埋もれるように寄りかかった。
「さ、咲夜さん!」
「三日間」
「ふぇ!?」
「いえ、正確には宴会の時から四日間、考えて考えて眠れなかった」
美鈴は無言で咲夜の震える肩を抱きこむ。
「どうしてあんなに取り乱したのか、私が何をしたのか……貴女のことも恨んだわ」
「……すいません……」
「どうして貴女が謝るのよ。……勝手に勘違いして勝手なことしたのは私なのに」
「あぅ……」
「貴女の文句もちゃんと聞くわ。私の勘違いで……その、貴女には辛い思いをさせちゃった……し」
咲夜は意を決したように顔を上げ美鈴を見つめるが、美鈴はうまく言葉が出てこないのか、代わりにとばかりに咲夜の身体を離さないように包み込んだ。だから素直に抱き返した。
時が緩やかに流れる。時の流れが気持ちいいと感じたのは久方ぶりな気がする。
「……ねぇ、美鈴」
「はい」
「……ごめんなさい」
「……いいえ。こちらこそ、貴女を不安にさせてしまいました」
美鈴の手が咲夜の目元を拭う。それから相変わらず俯きがちな彼女にとびきりの笑顔を見せた。
それは子どものようで――母親のような全てを包み込む幸せの笑顔。
「……後でちゃんと仕事手伝ってよ……私、今凄く眠いの……」
「はい」
ぎゅ、と抱きしめたままそのままベッドに横たわる。
「……ありがと。それから……ごめ――さ……」
「いいですよ。おやすみなさい、咲夜さん」
美鈴の声と暖かさに包まれて安心したのか、すぐに咲夜から安らかな寝息が聞こえてくる。生真面目な彼女には珍しいことだった。
美鈴も彼女が寝やすいように彼女の頭を腕に乗せる。自然と彼女の顔が目の前に現れた。
(うわ、咲夜さん可愛い)
服の裾を握り締めて縋るように寝入る咲夜の姿に自然と胸が高鳴る。相変わらず細い身体はここ数日で更に小さくなってしまったような気がする。なんだかんだで自分のせいだと思うと申し訳ない気持ちになる。
今度とびきり精のつく中華料理でも作ってやろう。そんな事を思いながら美鈴は大切な人の髪を撫でる。咲夜が喉で鳴いた。
ふと、たった今のやりとりを思い出す。彼女は切羽詰っていたのだろうが正直に『会いたかった』と言ってもらえたのは嬉しかった。
不意に、
――貴女の傍にいたい――
自分の台詞を思い出して赤面した。
(うわ!うわわ!!!)
深く呼吸をする。美鈴の息が頬にかかってくすぐったいのか、咲夜が小さく身動ぎする。
どさくさに紛れてとんでもないことを言ってしまった気がする。心臓の音が彼女に聞こえて起きはしないだろうか?
実際彼女のことは大切な人として認識している自分はいる。気付いたら目で追っているし、何よりその笑顔には確実に惹かれていた。だからある意味自分の気持ちを言えて良かった、とは思う。
と思いつつも顔あたりに集中している熱のせいで、顔が主の名に恥じぬ程赤くなっている気がして仕方がない。
もぞり、と不意に身体を動かした咲夜は相変わらず幸せそうな顔で寝ている。
相変わらず顔は赤いだろうが、それも寝れば取れるだろう。何せ寝ていないのは自分も同じ事。彼女の寝顔を見ているだけで睡魔が襲ってきた。
どさくさついでだ、このまま一緒に寝てしまえ。彼女も今回ばかりは怒らないでくれるだろう――
美鈴もそのまま目を閉じる。いつもより少し遅いが今回の昼寝はぐっすりと眠れそうだった。
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凍えた扉から顔を覗かせた小さな女の子をなんとか引きずり出して、
離さないようにぎゅっと抱きしめて。
寒いというなら暖かい気持ちをあげよう。
この温もりは私にとっても失くしたくない大切な温もりなのだから。
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空は快晴。洗濯物がよく乾きそうだ。
そして、彼女も気持ちよく寝られるだろう。
「……全く」
ため息をつきながらナイフを取り出し、門によりかかりながら気持ち良さそうに寝ている同僚の頭に投げ――ようとして思いとどまる。
本当によく寝ている。これで侵入者を退治していてくれているのかと疑問に思うほどだ。
咲夜が目の前に来ても目は開けないし、規則正しい呼吸音と小鳥の囀りが暢気で平和な幻想郷をまさに象徴していた。
「…………」
先日のすれ違いで彼女との距離は確実に縮まった筈なのに、彼女は相変わらず。
「…………ふ」
周りには誰も居ない。近くに気配もない。つまり、今は彼女と二人きり。
時を止めて彼女の唇を掠めるように奪う。外に居たせいだろうか、唇は少し乾いていた。
こうして自分の顔の色と時が元に戻った世界で、相変わらず気持ち良さそうに寝ている彼女にちょっとした気持ちも込めて今度こそ、
「………………った!」
ナイフを投げつけた。
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「また咲夜と美鈴がじゃれあってるのを見物してるの?」
「見物、じゃなくて微笑ましく見守ってるのよ」
「天狗と変わらないわ」
「あっちは不純な動機。こっちは保護者としての勤め」
「保護者……ね。そんな保護者さんは今回私に相談しといて自分で何をしたの」
「そんな大それたことしてないわ。ただなんとなーく二人を会わせたり会わせなかったり」
「十分な介入じゃないのそれ」
「こんなの介入のうちに入らないわ」
「呆れた」
「まぁでもその結果があれよ」
「いつもと変わらないけどね」
「もう二人で一緒に居るのが当たり前なのね。主を置いて」
「美鈴は咲夜と会うことで気を回復しているらしいし、咲夜は美鈴と話すことでストレスを発散してるのね」
「ふふ、いい関係だと思わない?」
「いい共生関係ね」
「どうしてそういう言い方をするかな……」
「実際にこの三日間の美鈴の気力はストレスも相まって常より下回っていたし、咲夜も数少ないストレスの捌け口が無くなり、無くなってしまったことを気にしてストレスゲージが急上昇……結果として」
「まぁ雨降って地固まるよ。雨は降ってなかったけど、物音を雨音と間違えちゃったのね」
「……素直に外に出て確認すれば勘違いに気付けたのに」
「違いないわ。まぁより強固な土台ができれば上々よ。ふふ、それにしても素直になれ……か。ねぇあとでその『他人との付き合い方』っていう本貸してね」
「…………これは人間向けよ」
「ふふふ、まぁ私が居る限りバッドエンドになんかさせないわ。……さて、フランも呼んでお茶会でも開きましょう。あの子の育てた花でも見ながら、ね」
「吸血鬼にしては随分と優しいのね」
「当たり前よ。――だって家族なんだから」
楽しませて頂きました。
でもパッチュさんにヤキモチ焼いて欲すぃパチュ美派の自分が疼くっ!
めーさくいいよめーさく!
1>楽しんで頂けたなら幸いです!そしてパチュ美ときたか。よし、僕と握手!!!ちょっと待っててください!
2>めーさく!めーさく!もっかいめーさく!!!
3>あぁそうそう脳内続きで・・・って勝手に人の脳内覗かないでください><
4>ヤンデレルートでも二人が幸せなら、と思う私は紅魔ファミリーにフルボッコされてきます。
起きやしないだろうかの変換間違いでしょうか
そんな事はともかく最高のめーさくでした
本当にもう咲夜さんはかわいいなぁ!
咲夜さんはもっと素直に甘えればいいのに。でも素直じゃないのが可愛いから困ります(ぁ