雨の勢いが衰えない梅雨の時期。今日も相変わらず雨が降っていた。つい先ほどまでは少しだけ太陽が顔を覗かせていたのだけれども。
雨音をBGMにしながら、椅子に腰掛けた少女が本のページを捲る。最近はずっとこの作業の繰り返しだ。最後に人と話したのはいつだろう。
「……寂しいのかしら?……らしくもないわね」
ぽつり、と少女はそんな言葉を口に出していた。久方ぶりに発した言葉に自身のパートナーである人形が少し行動を起こす。こちらへフラフラ飛んできて膝の上にちょこんと座り込んできた。それに少し微笑む。
外は雨、ずっと同じ世界でずっと同じことをしている自分。それはまるで自分が扱う人形のようで。
まぁいいか、と再び本に目を戻すが文字が頭に入ってこなかった。梅雨に入る前の神社での出来事がやけに脳裏を掠める。
「……ふぅ、少し早いけど昼食の準備でもしようかしらね……上海」
膝の上で上海という名前を持つ人形は彼女の命令を待っていたとばかりに動き出す。
悩んだ時は体をとにかく動かせばいい、と勝手に教えてくれた友人の魔法使いの言葉を少し借りてみよう。
……別に悩んでいるわけではないが、少しは気が晴れるかもしれない。
暫く買出しに言っていなかったのであまり豪華にはできないが、するつもりもない。
少女は作業を開始する。上海以外の人形も召喚し、いつも通り一人分の材料を――
「アリスー」
雨音の伴奏に乗りながら、聞きなれた声が外から自分の名前を呼んでいた。
結局、アリスと呼ばれたこの家の主人は、人形に用意させた材料をもう一人分増やして昼食作りに精を出す。雨に濡れたお客様には風邪を引いてもらうと困るので風呂場に追いやった。あまり風邪など引きそうにないが。
そういえば彼女は和食オンリーだと言っていたような気がするが、家にある材料では満足に作れそうにない。洋食でも大丈夫だろうか?
……まぁよく神社に持っていくお手製の洋菓子をおいしそうに食べているから大丈夫だろう、と勝手に自己完結。
そもそも急にきた彼女が悪い。それにいつも強襲してくる魔法使い――これも和食派だ――は自分の料理を「うまい」と言ってくれるから大丈夫だ……と思いたい。
ふむ、と少し考えて、当初予定していた簡単なパスタを諦めてピラフを作ることにした。彼女はこういった料理より米を使った料理の方を好むかもしれない、と思った上での選択だった。
(こういうことになるなら好みでも聞いておけばよかったわ)
いや、以前どんな料理が好きなのか、と会話の流れから聞いたことがあった気がする。その時に彼女は「和食」と答えたのだ。
手早く料理を作りながらそんな昔の出来事を思い出す。
何故か少しだけ、心が軽くなっているような気がした。
風呂場の方から暫し人の動く気配、そしてこちらへ向かってくる足音が聞こえる。
「お風呂ありがとー」
「どうしたしまして。一応貴方の分も作っておいたけど……食べる?」
勿論、と彼女は笑って席に着く。濡れた服は乾かしている間アリスの私服を借りている。
「……焼き飯?」
「違うわよ。ピラフ。まぁ似たようなもんだとは思うわ」
「へぇ……あむ……んむんむんー……」
彼女が食べ始めたのを見て自身も食べ始める。味付けは最高だと自負しているが、
「……んー!おいしい!」
けれどやはりそういってもらえると嬉しいものだった。特に彼女からは。
「それはよかったわ。ところで霊夢、どうしてこんな所にいるの?外は雨だっていうのに」
ん?とした顔でこちらを見てくる彼女――霊夢――の頬に米粒が付いていたのにくすりと笑う。そしてアリスは自身の頬を指して彼女にその存在を教えてやる。
「だから、どうして貴方が魔法の森にいるの?しかもずぶ濡れで」
「あぁ……少し魔理沙に用があったのよ。文屋の新聞に今日は晴れるって書いてあったから……晴れた隙に出かけたんだけどね……この様よ」
そういって霊夢は肩をすくめる。梅雨が明けたら文屋に文句を言いに行くのだろうか。あのあまり天気予報の成果が著しくない新聞を信じるほうもどうかと思うのだが。
「でも魔理沙居なくてねー……そしたら雨が降ってきたのよ」
「それで私の家へ?」
「ついでみたいで嫌だったかしら?」
アリスはいいえ、と薄く笑う。寧ろその逆、嬉しかった。
「……まぁ……私だって……あれよ。用が済んだらどちらにせよ寄る心算ではあったわ」
「え?」
「魔理沙は時々雨の中突っ切って神社まで来るけど……貴方はそんなことしないものね。貴方のパイ、いつも楽しみにしてるんだけど」
そういって少し笑う。頬が少し赤いのは気のせいだろうか。
「あらあら。私はお菓子係かしら?」
なんの気なしに軽い冗談を言う。
冗談の心算だった。けれど、
「……別にお菓子だけなら魔理沙に持ってこさせるわよ」
ぽつり、と呟く。彼女が少し膨れてしまった気がする。
「……霊夢?」
「ん?どうかした?……ごちそうさま!おいしかったわ」
お互いの皿はもう空になっていた。おいしかったーとニコニコしている霊夢に反しアリスは少しだけ戸惑っていた。
アリスは席を立ち、食器を片付けつつ霊夢が来た用のお茶葉と湯飲みに手を出す。彼女にお茶を、自分には紅茶を。そのお茶を用意しながら考える。
はて、自分は何か変なことでも言っただろうか?お菓子を楽しみにしてくれているのは嬉しい。持って行く甲斐があるというものだ。
……それに彼女に会えるし……
「あ――」
そうか、この雨のせいで彼女とは久しく会っていない。
「はいお茶」
「ん、ありがと」
彼女はもしかして――
「ねぇ霊夢。もしかして寂しかった?」
「ぶふっ!!!」
危なかった。霊夢は少し熱めだったお茶に感謝した。なぜなら出されてすぐお茶を口に含んでいれば思いっきりアリスに掛かっていたに違いない。跳ねた熱いお茶が口元にかかって少し火傷した。
「は!?」
「そういえば何日もあってなかったものね」
「私が!?まさか!!!」
ないない、と手をブンブン振り回して否定する。
相変わらずだなぁ、なんてアリスは思いながらその様を見ていた。
「以前も暫く研究で会わなかった時もお菓子ねだってきたものね」
そういってアリスは申し訳なさそうに笑う。その言葉に霊夢は少しばかりの疑問を感じた。
何かが違う。そうじゃなくて、そうじゃないのよアリス!!!は!?なにが!?何が違うって言うのよ私!!!
「……霊夢?」
「はぅ!?いや、寧ろ貴方の方が寂しがってるんじゃないの?魔理沙も暫く会ってないって言ってたし!!!他人との交流が全くないんじゃないの!?」
霊夢が赤い顔で慌てて話の矛先を変える。
アリスは「そうねぇ」と少し目線を空へと移す。霊夢もそれを追いかけて、空中でお互いの目が交差することなく同じところを見て少し時間がたったその時、
不意にアリスが喋った。
「うん。多分寂しかったのかもしれないわ」
ここ最近胸に突っかかっていた何か。それは――
「折角作ったパイも食べてくれる人居ないし」
霊夢の目が未だに虚空を見る彼女自身へと移る。
「……うん。貴方の笑顔が見れなくて、貴方に会えなくて、少しつまらなかったわ」
そう言って、目が降りてくる。目が合う。彼女と、私の目が、心が。
「…………そか。私も甘いもの食べられなくて……――かったわ」
いつも聞いてる「お粗末様」の声が聞こえないのが、あの嬉しそうな笑顔が見れないのが――寂しくて。
霊夢の最後の言葉は殆どかすれて聞こえなかったが、気持ちは同じだと思えた。
その会話っきりお互い無言になり、お茶を飲む音とカップとソーサーが静かにぶつかる音が少し響く。
ザーザーと振る雨音が再びBGMに戻り、時折聞こえるピチョンという雫の落ちる音が心地よい。
テーブルの上で主人の真似事か、上海人形が何かを作っているようだった。
「……これからパイを作ろうと思っているのだけど」
カタリ、と音を立てて不意にアリスが立ち上がる。
「…………一緒に作ってみる?」
「……私は食べ専よ」
「作る楽しみもあるのよ。それに何もないここでは暇を持て余すんじゃなくて?雨もまだ止みそうにないし」
「……はたして洋食のものが作れるかどうか……」
やれやれといいながら霊夢は席を立つ。アリスはそれにくすりと笑う。
「大丈夫よ。ちゃんとした先生がいるのだから」
「それならその言葉を信じるわ」
そういって二人はキッチンへと消える。
雨音に混じってカチャカチャと金属をぶつける音が響く。アリスに元気が戻ったのを察してか、自分の作業が終ったせいか、上海が嬉しそうにテーブルの上で踊る。アリスに呼ばれ、慌てて転んだのは秘密だ。
外はまだ雨模様。寂しさを紛らわす相手がいればあの空はまた笑ってくれるだろうか。
雨はまだやみそうにない――
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
博麗の巫女である霊夢は今の天気のように表情を曇らせていた。
「…………」
同じ過程を経ていた筈なのに、何故こうも――
「形が……」
「まぁ、慣れよ」
霊夢の前には一口サイズの綺麗な形のアップルパイ。
アリスの前には一口より少し大きめサイズの、少し歪な形のアップルパイ。
霊夢は自分で作ったものを自分で食べようとしたのだが彼女に取られてしまった。
「ねぇアリス、やっぱそれ私が――あ」
パクリ、と食べられた。
「――うん、おいしいわ」
そう言って笑うから、何も言えない。悔しくてこっちも食べる。相変わらず美味しい甘さだった。
「うん。おいしい」
「ふふ、お粗末様」
気持ちのいい空間。いつからこんな風に過ごすことを望んでいたのだろう。
「まぁでもやっぱり料理作ってる人は飲み込みが早いわね。これで練習を積めば貴方も美味しく焼けるようになるわよ」
「そうかしら?」
けれどそれは――
「まぁ私の家にはそういう機材もないし、今回は先生が色々アドバイスしてくれたからね。だから私は多分今後も先生のご教授がないとこういうものは作れそうにないと思うの」
だからつまり――
「そうね、だからやっぱりお菓子を持ってきてくれる人が居るととても助かるんだけれども」
そう言って二つ目のパイを口に入れる。甘酸っぱくて美味しい。笑顔になる。
「ふふ、そうね。梅雨が明けたらまた神社にお邪魔してもいいかしら?」
霊夢はいつでも、勿論。と笑った。
久しぶりのお茶会に盛り上がって彼女たちは気付かない。家の軒先にぶら下っている小さな存在を。白い形の小さな人形。上海人形が一人ぼっちの空にあげた小さな友達。
グズついていた空はいいことでもあったのか、少しずつ気分を晴らしているらしい。
雨は予報通りにあがりそうだった。
梅雨明けは、近い。
雨音をBGMにしながら、椅子に腰掛けた少女が本のページを捲る。最近はずっとこの作業の繰り返しだ。最後に人と話したのはいつだろう。
「……寂しいのかしら?……らしくもないわね」
ぽつり、と少女はそんな言葉を口に出していた。久方ぶりに発した言葉に自身のパートナーである人形が少し行動を起こす。こちらへフラフラ飛んできて膝の上にちょこんと座り込んできた。それに少し微笑む。
外は雨、ずっと同じ世界でずっと同じことをしている自分。それはまるで自分が扱う人形のようで。
まぁいいか、と再び本に目を戻すが文字が頭に入ってこなかった。梅雨に入る前の神社での出来事がやけに脳裏を掠める。
「……ふぅ、少し早いけど昼食の準備でもしようかしらね……上海」
膝の上で上海という名前を持つ人形は彼女の命令を待っていたとばかりに動き出す。
悩んだ時は体をとにかく動かせばいい、と勝手に教えてくれた友人の魔法使いの言葉を少し借りてみよう。
……別に悩んでいるわけではないが、少しは気が晴れるかもしれない。
暫く買出しに言っていなかったのであまり豪華にはできないが、するつもりもない。
少女は作業を開始する。上海以外の人形も召喚し、いつも通り一人分の材料を――
「アリスー」
雨音の伴奏に乗りながら、聞きなれた声が外から自分の名前を呼んでいた。
結局、アリスと呼ばれたこの家の主人は、人形に用意させた材料をもう一人分増やして昼食作りに精を出す。雨に濡れたお客様には風邪を引いてもらうと困るので風呂場に追いやった。あまり風邪など引きそうにないが。
そういえば彼女は和食オンリーだと言っていたような気がするが、家にある材料では満足に作れそうにない。洋食でも大丈夫だろうか?
……まぁよく神社に持っていくお手製の洋菓子をおいしそうに食べているから大丈夫だろう、と勝手に自己完結。
そもそも急にきた彼女が悪い。それにいつも強襲してくる魔法使い――これも和食派だ――は自分の料理を「うまい」と言ってくれるから大丈夫だ……と思いたい。
ふむ、と少し考えて、当初予定していた簡単なパスタを諦めてピラフを作ることにした。彼女はこういった料理より米を使った料理の方を好むかもしれない、と思った上での選択だった。
(こういうことになるなら好みでも聞いておけばよかったわ)
いや、以前どんな料理が好きなのか、と会話の流れから聞いたことがあった気がする。その時に彼女は「和食」と答えたのだ。
手早く料理を作りながらそんな昔の出来事を思い出す。
何故か少しだけ、心が軽くなっているような気がした。
風呂場の方から暫し人の動く気配、そしてこちらへ向かってくる足音が聞こえる。
「お風呂ありがとー」
「どうしたしまして。一応貴方の分も作っておいたけど……食べる?」
勿論、と彼女は笑って席に着く。濡れた服は乾かしている間アリスの私服を借りている。
「……焼き飯?」
「違うわよ。ピラフ。まぁ似たようなもんだとは思うわ」
「へぇ……あむ……んむんむんー……」
彼女が食べ始めたのを見て自身も食べ始める。味付けは最高だと自負しているが、
「……んー!おいしい!」
けれどやはりそういってもらえると嬉しいものだった。特に彼女からは。
「それはよかったわ。ところで霊夢、どうしてこんな所にいるの?外は雨だっていうのに」
ん?とした顔でこちらを見てくる彼女――霊夢――の頬に米粒が付いていたのにくすりと笑う。そしてアリスは自身の頬を指して彼女にその存在を教えてやる。
「だから、どうして貴方が魔法の森にいるの?しかもずぶ濡れで」
「あぁ……少し魔理沙に用があったのよ。文屋の新聞に今日は晴れるって書いてあったから……晴れた隙に出かけたんだけどね……この様よ」
そういって霊夢は肩をすくめる。梅雨が明けたら文屋に文句を言いに行くのだろうか。あのあまり天気予報の成果が著しくない新聞を信じるほうもどうかと思うのだが。
「でも魔理沙居なくてねー……そしたら雨が降ってきたのよ」
「それで私の家へ?」
「ついでみたいで嫌だったかしら?」
アリスはいいえ、と薄く笑う。寧ろその逆、嬉しかった。
「……まぁ……私だって……あれよ。用が済んだらどちらにせよ寄る心算ではあったわ」
「え?」
「魔理沙は時々雨の中突っ切って神社まで来るけど……貴方はそんなことしないものね。貴方のパイ、いつも楽しみにしてるんだけど」
そういって少し笑う。頬が少し赤いのは気のせいだろうか。
「あらあら。私はお菓子係かしら?」
なんの気なしに軽い冗談を言う。
冗談の心算だった。けれど、
「……別にお菓子だけなら魔理沙に持ってこさせるわよ」
ぽつり、と呟く。彼女が少し膨れてしまった気がする。
「……霊夢?」
「ん?どうかした?……ごちそうさま!おいしかったわ」
お互いの皿はもう空になっていた。おいしかったーとニコニコしている霊夢に反しアリスは少しだけ戸惑っていた。
アリスは席を立ち、食器を片付けつつ霊夢が来た用のお茶葉と湯飲みに手を出す。彼女にお茶を、自分には紅茶を。そのお茶を用意しながら考える。
はて、自分は何か変なことでも言っただろうか?お菓子を楽しみにしてくれているのは嬉しい。持って行く甲斐があるというものだ。
……それに彼女に会えるし……
「あ――」
そうか、この雨のせいで彼女とは久しく会っていない。
「はいお茶」
「ん、ありがと」
彼女はもしかして――
「ねぇ霊夢。もしかして寂しかった?」
「ぶふっ!!!」
危なかった。霊夢は少し熱めだったお茶に感謝した。なぜなら出されてすぐお茶を口に含んでいれば思いっきりアリスに掛かっていたに違いない。跳ねた熱いお茶が口元にかかって少し火傷した。
「は!?」
「そういえば何日もあってなかったものね」
「私が!?まさか!!!」
ないない、と手をブンブン振り回して否定する。
相変わらずだなぁ、なんてアリスは思いながらその様を見ていた。
「以前も暫く研究で会わなかった時もお菓子ねだってきたものね」
そういってアリスは申し訳なさそうに笑う。その言葉に霊夢は少しばかりの疑問を感じた。
何かが違う。そうじゃなくて、そうじゃないのよアリス!!!は!?なにが!?何が違うって言うのよ私!!!
「……霊夢?」
「はぅ!?いや、寧ろ貴方の方が寂しがってるんじゃないの?魔理沙も暫く会ってないって言ってたし!!!他人との交流が全くないんじゃないの!?」
霊夢が赤い顔で慌てて話の矛先を変える。
アリスは「そうねぇ」と少し目線を空へと移す。霊夢もそれを追いかけて、空中でお互いの目が交差することなく同じところを見て少し時間がたったその時、
不意にアリスが喋った。
「うん。多分寂しかったのかもしれないわ」
ここ最近胸に突っかかっていた何か。それは――
「折角作ったパイも食べてくれる人居ないし」
霊夢の目が未だに虚空を見る彼女自身へと移る。
「……うん。貴方の笑顔が見れなくて、貴方に会えなくて、少しつまらなかったわ」
そう言って、目が降りてくる。目が合う。彼女と、私の目が、心が。
「…………そか。私も甘いもの食べられなくて……――かったわ」
いつも聞いてる「お粗末様」の声が聞こえないのが、あの嬉しそうな笑顔が見れないのが――寂しくて。
霊夢の最後の言葉は殆どかすれて聞こえなかったが、気持ちは同じだと思えた。
その会話っきりお互い無言になり、お茶を飲む音とカップとソーサーが静かにぶつかる音が少し響く。
ザーザーと振る雨音が再びBGMに戻り、時折聞こえるピチョンという雫の落ちる音が心地よい。
テーブルの上で主人の真似事か、上海人形が何かを作っているようだった。
「……これからパイを作ろうと思っているのだけど」
カタリ、と音を立てて不意にアリスが立ち上がる。
「…………一緒に作ってみる?」
「……私は食べ専よ」
「作る楽しみもあるのよ。それに何もないここでは暇を持て余すんじゃなくて?雨もまだ止みそうにないし」
「……はたして洋食のものが作れるかどうか……」
やれやれといいながら霊夢は席を立つ。アリスはそれにくすりと笑う。
「大丈夫よ。ちゃんとした先生がいるのだから」
「それならその言葉を信じるわ」
そういって二人はキッチンへと消える。
雨音に混じってカチャカチャと金属をぶつける音が響く。アリスに元気が戻ったのを察してか、自分の作業が終ったせいか、上海が嬉しそうにテーブルの上で踊る。アリスに呼ばれ、慌てて転んだのは秘密だ。
外はまだ雨模様。寂しさを紛らわす相手がいればあの空はまた笑ってくれるだろうか。
雨はまだやみそうにない――
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
博麗の巫女である霊夢は今の天気のように表情を曇らせていた。
「…………」
同じ過程を経ていた筈なのに、何故こうも――
「形が……」
「まぁ、慣れよ」
霊夢の前には一口サイズの綺麗な形のアップルパイ。
アリスの前には一口より少し大きめサイズの、少し歪な形のアップルパイ。
霊夢は自分で作ったものを自分で食べようとしたのだが彼女に取られてしまった。
「ねぇアリス、やっぱそれ私が――あ」
パクリ、と食べられた。
「――うん、おいしいわ」
そう言って笑うから、何も言えない。悔しくてこっちも食べる。相変わらず美味しい甘さだった。
「うん。おいしい」
「ふふ、お粗末様」
気持ちのいい空間。いつからこんな風に過ごすことを望んでいたのだろう。
「まぁでもやっぱり料理作ってる人は飲み込みが早いわね。これで練習を積めば貴方も美味しく焼けるようになるわよ」
「そうかしら?」
けれどそれは――
「まぁ私の家にはそういう機材もないし、今回は先生が色々アドバイスしてくれたからね。だから私は多分今後も先生のご教授がないとこういうものは作れそうにないと思うの」
だからつまり――
「そうね、だからやっぱりお菓子を持ってきてくれる人が居るととても助かるんだけれども」
そう言って二つ目のパイを口に入れる。甘酸っぱくて美味しい。笑顔になる。
「ふふ、そうね。梅雨が明けたらまた神社にお邪魔してもいいかしら?」
霊夢はいつでも、勿論。と笑った。
久しぶりのお茶会に盛り上がって彼女たちは気付かない。家の軒先にぶら下っている小さな存在を。白い形の小さな人形。上海人形が一人ぼっちの空にあげた小さな友達。
グズついていた空はいいことでもあったのか、少しずつ気分を晴らしているらしい。
雨は予報通りにあがりそうだった。
梅雨明けは、近い。
さみしんぼつんでれいむと素直クールアリスにもだえました。
別にレイマリだからいい!とかではないですが、読んでて楽しい気分になれました
霊夢の名前はむしろ遅く出たから良かったかな?と個人的にはおもいました。
次作も楽しみにさせていただきますね
凄く良いレイアリ。二人とも可愛すぎるぜ!
1>アリスはお姉さんなのが俺のジャスティス。どぎまぎしちゃう。
2>楽しい気分になっていただけたなら幸いです。本当に!アドバイスまでありがとうございます!
3>アップルパイ美味しいよ!ちょっとアリスの所行って食べさせてもらってくる(ぁ
4>私自身とても気に入っている描写です。こういう目に見えないところの小さな物語って素敵です。
5>足りないですね。motto増えてくれればMOTTO私が喜ぶんですがw
あなたの様なレイアリ神がいる限りレイアリはいくらでも蘇るさ!
アップルパイが食べたくなる話でしたね
レイアリ好きはここから始まった。
これはよいものだ。